第20話 聖夜、切り裂かれる日常
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「結衣ちゃん、本当にありがとう」
「いえいえ。命の恩人をお助けできるのですから、このくらいは当り前ですわ」
結衣や葵のおかげで、わたしとひなはステキなクリスマスイヴを迎えることが出来た。
二人の大事な親友に感謝である。
「このまま、降り続けたらホワイトクリスマスになるけど、交通は大変になっちゃうよね」
「そうですわね。もう少しすれば夕刻の帰宅時間。ラッシュになる前に帰りましょうか?」
トイレに行った結衣と葵を待つ間、わたしはファーストフード店の大型ウインドウから、街を眺める。
まだ日が陰るには早い時間であるが、吹き降りからしんしんと積もる降り方になった雪。
各所で灯るロウソクを模したクリスマスツリーのLED照明が、人が多く往来する街並みを温かく照らしていた。
「じゃあ、ひなちゃん達が帰ってきたら、お店を出ようかな? 雪も降り方がおとなしくなったし」
そう呟いた瞬間。
ガラスがガチャンと割れる嫌な音。
そして、これまでの幸せな店内の雰囲気を壊す悲鳴が、わたしの耳に飛び込んできた。
「きゃぁぁ」
「うるさい! このメスブタがぁぁ!」
女性の絹を裂くような悲鳴が店内に響き渡り、それを制する様な男の声も聞こえる。
「え! なんてことをするの!?」
音の方へ首を向けたわたし。
その視線の先には、わたしよりも少し年上に見える若い女性店員を羽交い絞めにし、柳葉包丁らしき刃物を女性の首筋に突き付けている男がいた。
「……今、警察に通報しましたわ。通話は、繋げたままにしています」
警察へと連絡済みと、結衣の小声が聞こえる。
彼女の方へ視線を向けると、その手は小刻みに震えてはいるものの、無理にでも笑顔を作っているように見えた。
「ありがと」
わたしは、勇気づける様に由衣の手をぎゅっと握り、視線を犯人へと向ける。
「お、俺は、なぁぁ! だ、誰よりも強い! 神の力を得たんだぞぉぉ」
「お、落ち着きましょう。ね、その子を解放しましょう」
「くそぉ。オマエも死にたいのかぁ!」
意味不明のことを叫び、女性店員をきつく抑え込む男。
店長らしき人が、落ち着かせようと声をかけるが聞く耳を持たない。
男の虚ろな瞳は、店長どころか抱え込んだ女性すら見ていない。
もちろん、店内の客たちすら、彼の眼に映っていない。
「オマエら、俺をバカにするのかぁ!」
犯人の手に持つ包丁の刃先は彼が叫ぶたびに大きく揺れ、女性の首元から血のしずくが床へぽたりと垂れる。
「いやだぁぁぁ。誰か、助けてぇぇ!」
店内では、更に多くの悲鳴が上がる。
誰もが、頭を抱え込んで震えあがる。
「……ゆるせないわ」
クリスマスイブの幸せな日を壊し、無辜な女性を傷つける男。
足の運びは大きく乱れ、視線すら定まっていない。
包丁の握りも甘い。
……武術の心得は無いようね。だったら!
怒りで頭がいっぱいになったわたしが飛び出そうとし、由衣の手を握っていた手を離したとき。
「綾香さん、慌てずタイミングを待ちましょう」
由衣は、離そうとした手をぎゅっと握り返してくれた。
「でも、あのままじゃ……」
恐怖と痛みで泣き苦しむ女性店員を前に、わたしは憤る。
早く助けたい思いが胸の奥で暴れ、このまま見ている事は出来ない。
「あちらを見てくださいませ。ひなさんが、動き出してますわ」
由衣の視線を追うと、トイレの出口で姿勢を低くし真剣な表情のひながいる。
葵もひなの後ろで、心配そうな顔をしていた。
「……分かった。ふう。でも、結衣ちゃん。随分と落ち着いているのね」
一旦、深呼吸をして心を落ち着かせる。
祖父がいつも言っている教え。
戦場において冷静さを失うことは、死への早道。
それを、すっかり忘れているとは、我ながら情けない。
「わたくしも、とっても怖いですわ。でも、綾香さんもひなさんも、葵さんもいらっしゃいます。皆さん、犯罪を黙ってみてはいられないでしょう?」
握り返してくれた手は、先程よりも大きく震えている。
それでも、勇気を振り絞ってくれた結衣に感謝しかない。
「それじゃあ、ひなちゃんの行動に合わせていくわ」
心がすっかり落ち着いたわたしは、ひなに視線を向ける。
すると気が付いてくれたのか、わたしを一瞥してウインクしてくれた。
「くそぉぉ。俺は最強なんだぞぉ。なのに彼女も金もない! 何故、お前らは幸せそうに笑っているんだぁ!!」
男は、逆恨みとしか聞こえない叫びを放つ。
その言葉は大した意味を持たず、ただ音として吐き出されているだけ。
男が叫ぶたびに握っている包丁の刃先が揺れ、捕まっている女性店員の悲鳴が上がった。
「大の男が、何情けない事を言っておるのじゃ!?」
そんな中、ひなの可愛くもはっきりとした物言いの声が店内に響いた。
「だ、誰だぁ。何処にいるぅ。クソガキがぁぁ!」
犯人は、虚ろな視線を周囲に振り回す。
目の前にいるひながまるで見えないかの様に。
「まったく、目まで節穴とは残念すぎるのぉ!」
ドヤ顔で小さな胸を張り、犯人を挑発するひな。
そんな様子に周囲から悲鳴は消え、全ての視線は全てひなに向いた。
「そこにいたかぁ、メスガキがぁぁ。大人に何を言うかぁ!?」
抱え込んだ人質の女性から、包丁の切っ先をひなに向ける犯人。
その隙を見て、わたしも動き出した。
「結衣ちゃん、行ってくるね」
「ご武運を」
姿勢を低くして客の隙間を縫い、わたしは脚を進めた。




