第19話 聖夜、切れない距離
「此方、楽しいのじゃ。こんな楽しいクリスマスは、初めてなのじゃ! こんな店も来たことは無いのじゃ!!」
「良かったね、ひなちゃん」
降り注ぐ雪が強くなってきたので、一旦ファーストフード店に避難したわたし達。
店舗の大きなショーウインドウから雪がしんしんと降りしきる街並みを、ひなは嬉々として眺めている。
「ふぅ。しばらくは、このままかな。雪の街って、音が静かだよね」
「あやっち、最近無理していない? 迷惑かけたアタシがいうのも何なんだけど」
「ですわね。ひなさんもご無理なさってますが、綾香さんも随分とご無理なさってますわよ?」
わたしがコーヒーを飲みながら、ため息をつくと二人が反応してくる。
「そうなのかや? 綾香お姉さま、此方が迷惑かけたのかや?」
ココアを飲み、わたしの横に座るひな。
慌ててわたしへと、飛びつくように顔を近づけてきた。
「ひなちゃん、わたしは全然迷惑だなんて思っていないよ! 葵ちゃんも結衣ちゃんも心配すぎだって。わたし、もう元気だと思うよ、多分?」
急に悲しそうな顔をするひなを見て、わたしは急ぎ否定する。
確かに、ひなの為にと頑張っている自覚はあるが、わたし自身がひなの相棒でありたいと願ったからこそ、努力もしている。
今は、逃げたくないから。
「カラ元気も元気のうちっていうけど、無茶はしないでよね、あやっち。そりゃ、部活の子たちを助けてくれたのには感謝してるんだけど」
「ひなさん、綾香さんは確かに強くてとても優しい方です。でも、その分、自分の事は後回しにしがち。そういう意味ではお二人は似た者同士、まるで本当の姉妹みたいですわね。うふふ」
「姉妹って! ちょ、結衣ちゃん。突然何を言い出すのぉ」
「此方、嬉しいのじゃ。大好きなお姉さまと、ずっと一緒なら何も怖くないのじゃ!」
つい声が弾み、騒々しくしてしまうわたし達。
幸いな事に、店舗内は多くの幸せそうな客でにぎわっており、わたし達の騒ぎくらいでは問題にならなかった。
「そういえばさー、ひなっち。学校は楽しい? アタシらにでも気を使っていたんなら、事情を知らない子たちとはもっと距離置いちゃうんじゃない? だって、学校も俗にいうお嬢様学校でしょ?」
「よくわかるのじゃな、葵お姉さま。此方、中々学校では『素』になれんのじゃ。学友も居るのじゃが、此方の『仕事』については話す事は出来ぬ。ましてや、学友の大半は俗にいうセレブの子息じゃ。学校では病弱なお嬢様という『仮面』をかぶっておるのじゃ」
「ひなさんの通われていらっしゃる学校、確か『鳳凰女学院付属小学校』でしたわよね。同じ制服を着た子らを幾度も見かけたことがありますし、父の務める銀行の顧客の御子息も通われていらっしゃいますね」
「みんな、結構詳しいのね。わたし、セレブな社会は全く知らないよ」
結衣が説明するには、ひなの学校は昔からセレブ御用達な女子大学の付属小学校らしい。
「結衣お姉さま、随分とお詳しいのじゃな。此方、学業ではなんとか付いては行けておるのじゃが、セレブとやらの会話には付いて行けぬのじゃ。それに最新のドラマやアニメなど、分からぬのじゃ。此方、授業よりも休み時間の方が正直疲れるのじゃ」
「話題が合わないってのも、友達になるのは困るよねー。アタシは弟もいるから、子供向けアニメとかは分かるけど」
「わたしは、メディア関係はダメ。毎日、お爺ちゃんのところで剣の修行して、家に帰ったら勉強。あっという間に夜中だもん」
「わたくし、ドラマとかは国内、海外共に見ますの。一時期は韓国ドラマも見ていましたわ」
机の上に置かれた暖かい飲み物を囲み、それぞれ、たわいもない話を長々とする。
でも、この会話が出来るというのは、身近が平和だから。
……非日常を知っちゃうと、日常が大事だって良くわかるわ。
わたしは、三人と色々話しながらも、心のどこかでは不安も感じる。
店舗据え置きのテレビでは、今日も悲しいニュースが流れている。
何処かで戦争が行われているだとか、行方不明の若者が増えているだとか。
「……こんな幸せ。ずっと続いたらいいよね」
「何、いきなり言い出すのかなぁ、このボケ娘は? ゆいっち、無理して頑張ってると思ってたのに、今度はボケかますんだから」
わたしが、胸の奥のざわつきから、ついこぼした呟き。
それに葵が突っ込んでくる。
「良いではないですか、葵さん。綾香さんは、日頃こういう感じですし。わたくし、いつも綾香さんを見て安心しますの」
「えー! 綾香お姉さまは、日頃はボケているのかや? 此方の前では、いつもしっかり見えるのじゃが?」
そして結衣が褒めているのだか、弄んでいるのか分からない事を話すので、ひなは更に驚いてわたしの顔を覗き込んできた。
「もー、わたしだって考えごとくらいしますって。だって、今は幸せ過ぎて怖いくらいだもん」
視線を外に向ければ、駐輪場の自転車に雪が積もっている。
このままなら、今晩はホワイトクリスマス。
「此方も楽しすぎて、このままずっとお姉さまたちと一緒に居たいと思うのじゃ! ……じゃが、今はお花摘みに行くのじゃ」
ぶるっと振るえたひな。
上品にトイレに行くと伝えて立ち上がる。
「なら、ひなっち。アタシも一緒に行くね」
葵も立ち上がり、わたしと結衣にウインクして、ひなと手を繋いでトイレに向かっていった。
「綾香さん。ひなさんの事が、本当に気になるのですね? ずっと今日は、ひなさんの事ばかり見ていらっしゃるのですもの」
「あ、うん。そうかもしれない、結衣ちゃん。あの小さな背中にいっぱい背負っているのを知っちゃったからね」
わたしの視線が、ひなにずっと向いている事を結衣が指摘してくる。
「うふふ。確かにあの可愛い子が苦労するのは見ていられないですわ。ずっと大人の顔色を見て、完璧であろうとする。わたくしにも、覚えがありますものね」
ひなを優しく見守ってくれている結衣。
彼女も、わたしが出会った頃は、どこかひなに似ていた気がする。
「父や母は優しい方ではありますが、銀行頭取の家ともなれば、清く正しく、そして優秀であれと周囲の眼はありましたから」
「普通の家で育ったわたしは、ひなちゃんの苦労も結衣ちゃんの事も、分からない事ばかり」
まだ熱を持つコーヒーカップをぎゅっと握り、自分がまだまだ子どもであることを思い知らされる。
「でも、わたくしも。そして、おそらくはひなさんも。綾香さんのおかげで救われていますのよ? 心も、そして身体も守っていただきましたわ」
「でも、あの時は……。何もできなかったんだよ。アイツには手も足も出なかったし……」
小学五年生の頃、結衣が「神隠し」に合ったときのことが、脳裏に浮かぶ。
無力で何もできなかった私が。
「でも、ですわ。綾香さんが両親に訴えてくれましたから、わたくしは山神から助け出されました。ひなさんも、おっしゃってましたわ。綾香さんに魔神を倒してもらえたから、助かったって」
結衣は、上品にカプチーノに口を付ける。
そして、ほんわかとした笑みをわたしにくれた。
「だから、もっと自信をもちなさいませ、サムライガールさん」
「うん、ありがとう」
わたしの心は、冬の風など関係ないくらいに、とても暖かくなった。
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