第14話 切り離せないもの
「お姉ちゃん、今日もご本を読んでくれてありがとう」
「いえいえ。お安い御用よ、連くん」
今日も小児病棟内にあるプレイルームにて、子どもたちと一緒に遊ぶわたし。
膝の上に連を座らせ、小学生向けの本を読み聞かせている。
……ご両親のこと、連くんは知っているのかしら?
わたしの脳裏には、昨日聞いた事件の詳細が渦巻く。
膝に抱えた小さくも暖かい命が、悲しい運命に翻弄されている事が悲しくてたまらない。
「どうしたの、綾香お姉ちゃん? ぎゅーが痛いんだけど」
思わず連を抱きしめる手に力を込めてしまった事に、連は反応する。
「あ、ごめんね。ちょっと考え事をしてたの」
わたしは急ぎ連を抱きしめる力を抜くが、心のの中では「もやもや」がずっと残っている。
わたしが刀を振るって事件を解決しても、傷が世界へ残ったままであることに。
……この間の魔神みたいに、何の躊躇もなく切れる相手なら良いけど。お婆さんを切っても、もう連くんのご両親は……。
「そうなんだ。あ、明後日は夕方、この部屋でクリスマス会があるんだって。綾香お姉ちゃんも来るよね」
「ええ。次の日に退院なんだけど、その日は絶対に連くんと一緒に遊ぶわ」
少し顔を見上げて、わたしへ向けて無垢な笑顔を向けてくる連。
しかし、彼の次の言葉に絶句してしまった。
「お母さんもお父さんも、事故のお怪我で別の病院に入院してるそうなの。だから、ずっと逢っていないんだけど。僕、早く目が見えるようになって、お父さんたちの病院にお見舞いに行くんだ!」
「……。そ、そうだね。だったら、早く元気にならなきゃ」
なんとか言葉を紡いだものの、それ以上の会話に困ってしまう。
真実を知らない連に、両親のことを伝えるべきかどうか。
更に、彼をこれ以上傷つけないように上手く伝えられるのか。
「? おねえちゃん。今日は、なんか変だよ?」
「そうかなぁ。もしかして、多分もうすぐ退院で連くんたちとは、しばらくお別れになるのが悲しいからな?」
なんとか話を続けたが、わたしはまた何も出来ない無力な自分が情けなくなり、再び膝の上の連を抱きしめてしまった。
◆ ◇ ◆ ◇
「あの子が連くんじゃな。ふむ、まだ『糸』は繋がっておるのじゃ……」
「うん。例のお婆さんとのラインは繋がったままだね」
プレイルームから病室に向かう廊下で、わたしはひなと出会う。
制服姿の彼女はプレイルームを覗き込み、保育士さんと一緒にいる連をじっと眺めていた。
「どうしたの、ひなちゃん?」
わたしは、ひなの言葉と態度に少し違和感を感じる。
ひなの視線は、連から出ている黒い「糸」ではなく、連と保育士さんが仲良さそうに過ごしているところに向いていたからだ。
「いや、なんでもないのじゃ。……子どもは、守られる側。それだけの話なのじゃ」
そう言い放つひなに、わたしも心を決める。
「うん。絶対に、もう悲しい事は終わりにしよう!」
わたしは、ひなの小さくても暖かい手をぎゅっと握り、自分の病室へと向かった。
「じゃあ、当初の作戦通り。明後日の夜に『罠』を仕掛けるのね」
「そうなのじゃ。おそらく、敵は『糸』が切れた事を察知してすぐに動く……と思うのじゃ」
病室でひなと作戦会議をするのだが、今日は珍しく言いよどむ事が多い。
いつもなら自信満々に動く彼女なのに。
「どうしたの、ひなちゃん? 作戦に何か問題でもある?」
「この作戦、本家筋にも怪異の正体を問い合わせて、ほぼ間違いなく成功すると聞いたのじゃが……。綾香お姉さまが矢面に立つのが気になるのじゃ。誰かを守ると決めた人ほど、簡単に傷つく。先に居らんくなるのを、此方は何度も。何度も見てきたのじゃ」
どこか心細そうにするひな。
目の前でわたしが傷つくのが、余程イヤなのだろう。
わたしは、彼女を安心させようと、強気にふるまってみせる。
「ひなちゃんも、作戦の時は一緒に居てくれるんでしょ? なら、わたしは大丈夫。もう、体調は万全に治ったからね。その上、お爺ちゃんから貰った日本刀もあるから、この間の魔神にだって負ける気しないよ」
ベッド横に置いてある刀袋を持ち上げて見せ、ひなに笑顔を向けた。
「そ、そうじゃな。此方もお姉さまを守るのじゃ! 怪異が悲しい存在であろうとも、今を生きる子どもを守るのが一番大事なのじゃ」
エッヘンと大人ぶってみせるひな。
そんなひなが愛おしい反面、まるで自分が守られるべき子どもであることを拒んでいるようにも見えて、気になったわたしだった。
それから、作戦決行の日である退院前日のクリスマス会まで。
わたしはひなや警視正、祖父といろいろ相談をし、必勝の構えで老婆怪異を迎え撃つことにした。
……お婆さんと話し合いで解決できれば……いいけど。多分、わたしが切らなきゃ、事件は終わらない……。
「とっても悲しいなぁ。お爺ちゃんは、刃の向こうの命、刃の後ろの命を感じて、剣を振るえって簡単に言うけど」
わたしは背中にひなや連の命を感じながら、夜の病院屋上で日本刀を幾度も幾度も振り下ろした。
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