第13話 切り分けるもの
「いつまで、見入っているんだい、綾香?」
「あ! ごめん、お爺ちゃん」
わたしは、祖父に貰った刀から、なかなか目を離せずにいた。
「もう、困った子ね。倉橋さん、バカ娘の事をくれぐれも宜しくお願い致します」
「はい。こちらこそ、大事な娘さんをお預かりします。詳しい事は必要書類を後日、ご自宅にお持ちした際にご説明しますね」
母は、警視正であるひなの母に、立ち上がって挨拶をしている。
互いに丁寧に頭を下げ合うその様子が、横から見ていて少し可笑しかった。
「じゃあ、今日はそろそろ帰るわ。あ、綾香。最後に一言言わせて頂戴。ひなちゃんも、こっちに」
母は、ひなを自分のところに呼び寄せ、膝の上に座らせた。
「綾香、ひなちゃん。貴女たちが、まだ子どもなのに人々のために働いているのは、立派なことよ。大人でも出来ない事を頑張っているのは凄いわ。でもね、貴女たちは本当なら、大人たちに守られるべき子ども」
母は、膝に座らせたひなの頭を優しく撫でながら、ゆっくり語る。
その目元には涙がうっすら見えた。
「だから、言わせてね。わたしは、貴女たちが帰ってくる『日常』を守る。だから、必ずわたしたちの元に帰ってきてね。それが、最低限の約束。これを守れなきゃ、ダメよ」
「はい、お母さん」
「はいなのじゃ!」
母の言葉に、わたしやひな、そしてひなの母も、こらえきれずに涙をこぼした。
◆ ◇ ◆ ◇
「では、今回の事件についてお話しますわ。まだ綾香さんは正式にウチの職員ではありませんが、仮採用ということで。もちろん守秘義務があるのは覚えておいて」
母と祖父が帰った後、倉橋警視正が事件の概要について語りだした。
「今回の被害者、山口 連くん。八歳、都内小学校二年生。三週間ほど前にあった交通事故で負傷して、今は当病院に入院中。両眼の角膜に重い損傷を負っており、近日中に角膜移植の手術が予定されています」
連の身の上について、警視正から説明される。
だから、あの包帯。
わたしが最初に感じた違和感の正体が、ようやく腑に落ちた。
「交通事故? それと、病院に現れたお婆さんの怪異に何か関連あるの?」
「同時期に、とあるバカ者たちがやらかした事が、事故の原因らしいのじゃ」
わたしの疑問に、ひなが答えてくれる。
「連くんが事故に遭ったのが、夜の山中の国道なのじゃが、その近く。無人になった集落を、Vチューバーどもが荒らしたのじゃ」
昨今、動画を撮影し、それをネットで配信して収入を得たり、人気者になったりする人たちがいる。
「それって、最近。迷惑行為で話題になっている人たちだよね、ひなちゃん」
「過去には、軽装備で雪山に昇り遭難した者もおったのじゃ。で、今回は廃墟巡りをしておる奴らなのじゃ」
「廃墟といっても、もちろん所有者がいる建物だから不法侵入。真似しちゃダメよ」
廃墟探索を中心に動画を撮影・配信するグループがあり、彼らは山中にある無人の寂れた集落を訪れたそうだ。
「動画は、これなんだけど。問題なのは、この場面ね」
警視正がカバンからタブレットを取り出し、動画サイトを開く。
そしてあらかじめブックマークしていた映像を写し、時間を先に進めた。
「あ、この祠はダメ!」
「綾香さんの『眼』でも、そう見えますのね。ひなも同意見だったの」
「怖いのじゃ、ここは」
タブレットに映し出された動画、そこには夜の闇の中に浮かぶ何の変哲もない祠。
石作りで何かを祭っていたものが映し出されている。
だが、何を祀っているのかは、どこにも記されていなかった。
そして祠の扉は、貼り付けた御札で封印されている。
「よりにもよって、面白がって祠の封印を壊した彼ら。次の場面で、画面が大きく乱れます」
それまで祠に張られていた封印の紙、御札を破って中を見ようとしていたVチューバー。
石の扉が開かれた瞬間、何かが飛び出すところが映し出され、画像が大きく乱れた
「ん? ここに映っているの、あのお婆さんじゃない?」
「此方もびっくりしたのじゃ!」
撮影者が怯えて激しく揺れる動画。
そこには、数日前に連を覗き込んでいた老婆が映っていた。
「後は映像も無く、撮影者は這う這うの体で逃げたらしいわ」
「あれ? ということは、祠を解放した人は無事なの?」
警視正の言葉に違和感を感じ、わたしはVチューバーの安否を聞いてみた。
「ええ。連くんが襲われた後に関連情報を纏めていて、彼らの存在が分かって、昨日尋問してきたの」
「怖い者しらずのバカが、仕出かす事には困ったのじゃ!」
動画配信サイトに記録されていた情報から、配信者の素性も分かったのだとか。
「彼らが話すには、封印を解いた祠から煙のように出てきた怪異。実体化して彼らを一瞥した後、『ここには居らぬのか』と呟いて、その場を去ったそうよ」
「わたしと戦ったとき、連くんの事をご自分の子どもと勘違いなさってました。あのお婆さん、誰彼構わず襲う悪霊じゃなくて、御子さんを探すのが目的なのでしょうか?」
「おそらくはなのじゃ。じゃが、それが原因で連くんとやらの家族は悲しい事になってしまったのじゃ……」
ひなは、うつむいて、悲しそうな声を出す。
そういえば、連は夜の山中で交通事故に遭ったと聞く。
小学低学年の男の子が一人で夜の山間部国道にいるとは思えない。
「まさか、連くんのご両親は……」
誰もが無言で、空調音だけが妙に大きく聞こえる歓談室。
わたしの中で、連の両親が見舞いに来ないという事実と、夜の交通事故という単語、更にひなや警視正の憂い顔が結びついてしまった。
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