第12話 切り拓く一歩
「ふははは! 陽子、俺の言った通りになっただろ?」
「……パパも、同じ意見だったのよ。綾香なら、きっとこう言い出すだろうって。わたしとお兄ちゃんは、ずいぶん反対したんだけどね。本当に……頑固で、言い出したら聞かないバカ娘よ」
わたしがその言葉を口にした瞬間、祖父は腹を抱えて高笑いし、母は呆れたように息を吐いた。
「え、お爺ちゃん、お母さん……どうしたの?」
「綾香さん。わたくしは、数日前から貴女のご家族とお話をしていたの。ご迷惑をお掛けしたことへの謝罪と、今後のことについて、ね」
家族が次々と妙なことを言い出したので、わたしは思わず首をかしげた。
「今回の治療費や入院費は、公費で負担させてもらうことにしたの。形式上は、犯罪被害者給付制度を利用しているわ」
倉橋警視正は、淡々と説明してくれた。
「国がお金を出す以上、ちゃんとした理由が要るのよ。感情論だけでは、人は守れても制度は動かない」
今回は、わたしを「犯罪被害者」と位置づけ、加害者からの賠償が見込めないため、国が肩代わりする形にしたという。
「でもね、綾香ちゃんのことだから。昨日みたいな事件に出会ったら、きっとまた突っ込んでいくと思うの。そうなれば、怪我もするし、所轄警察からも良い顔はされなくなるわ」
木刀を持って暴れるオカルト女子高生。
ニュースになったら最悪だ。
顔までSNSで拡散されたら、目も当てられない。
「だから……国として、綾香さんを守れる立場に置けないかと考えたの。臨時国家公務員。警察庁の非常勤職員として採用する、という形をね。それを、お母さまたちに提案したのよ」
「ちょっと待って!? みんな、話を進めすぎじゃないの? わたし、覚悟を決めたのは『今』なんだけど!」
どうやら、既に外堀は埋められていて、残るのはわたしの決意だけだったらしい。
「綾香お姉さま。此方も非常勤職員として働いておるのじゃ。学校が終わってからのお仕事なのじゃ!」
「そうなの。貴女もひなも、まだ未成年で学生。学業を蔑ろには出来ないわ。幸い、ひなが国の機関で働くことになった時点で、関連法規はすでに整えられていたの」
お膳立て自体は、ひなが特対室で働くようになった時点で出来ていたらしい。
国際条約では、未成年を「戦わせる存在」として扱うこと、少年兵自体が禁じられている。
なので、兵士や警官じゃなく職員という事にしたそうだ。
「とまあ、難しい話は大人に任せてね。決心したのなら、綾香さんやひなが存分かつ安全に戦えて、その上に支援体制もできる環境にするのが、わたしの役目ね」
「今は出張中じゃが、他にもメンバーが沢山おるのじゃ。会ったらびっくりするのじゃ! 今から楽しみにしておくのじゃぞ」
すっかりご機嫌なひな。
わたしと一緒に仕事ができるのがうれしいのだろう。
「楽しみにしておくね、ひなちゃん。お母さま、いえ、倉橋警視正。これからも、宜しくお願いいたします」
「となれば、俺からも綾香に贈り物がある。いいよな、陽子」
「ええ、お父さん。バカ娘が無事に帰ってこられる様になるなら良いわ」
わたしが警視正に頭を下げると、祖父と母が顔を見合わせながら、何かをわたしに贈るという。
「何をくれるの、お爺ちゃん?」
「此方も気になるのじゃ!」
ひなも興味があるのか、わたしに顔をくっついて覗き込んできた。
「これだが、結構重いぞ」
「綺麗な袋ね。あ、これって!?」
祖父から渡されたのは、細長くて見た目よりも重いものが入った絹製の錦な袋。
「綾香に渡すからって、ばあさんが気合い入れて着物の端切れから作ったのさ。後で直接、礼を言いな」
「うん。……やっぱり刀なのね」
袋から出てきたのは、黒い漆塗りの鞘、糸巻柄や鉄製の鍔もついている日本刀。
「日本刀なのじゃ! 白鞘ではないのじゃな?」
「ほう、ひな嬢ちゃん。少しは刀の事を知っているんだねぇ。白鞘、無垢な朴の木の鞘は『休め鞘』と言って保存用。強度もないから、間違っても闘いでは使わん。これは拵え。実用装備をした形だね」
ひなに対し、わたしと同じく孫娘のように対する祖父。
刀について問われたので、うれしそうに説明していた。
「綾香、柄を握ってごらん」
「うん。え! これ、握りがしっくりくる。どうしてなの、お爺ちゃん?」
柄を握ると、そう大きい方ではないはずのわたしの手にぴったりとくる感触だ。
……確か、拵えって使う人に合わせた調整をするはずだったよね?
「柄回りは、お前の手に合わせて最近作ったもんだ。だが、他の拵えは、江戸時代初期。刀身は室町初期。元は太刀として作られたものを磨上げ、短くして打刀に仕立て直した逸品だ。俺の手持ちじゃ、一番いい品さ」
「じゃあ、これって五百年は昔の刀なの!?」
祖父の説明、半分くらいしか専門用語は分からない。
それでも、この刀が「軽い冗談や見栄」で渡されたものじゃないことだけは、はっきり伝わってくる。
また、ずっしりと歴史の重さが手にかかった気がした。
「さて、抜いて刀身を見てみるんだな。錆びるから息は掛けるなよ。あ、ひなちゃんは危ないから下がってな」
「はいなのじゃ。お爺さま」
祖父がひなを自分の近くに呼び寄せたので、わたしは鯉口を切り刀身を鞘からゆっくり抜いた。
「うん。よいしょ……。うわぁ、刃紋がきれい!」
案外すらりと抜けた刀身。
そこには波立つ海原のような紋様。
刃紋がきれいに浮かび上がっていた。
「これは古備前、長船村の刀鍛冶のもんだ。刃紋は互の目乱れっていう奴。残念ながら、磨上げで茎が短くなってるから銘文が消えてる。製作者は、俺も詳しくは知らねえ」
見ているだけで吸い込まれそうな刀身。
でも、嫌な感じは一切せず、何かすがすがしい物を感じる。
「刀身の長さは二尺二寸、六十七センチで普通より少し短めってとこだな。バランスが気に食わねえなら、鍔をもっと重いもんに替えられるから、身体が治ったら練習しな」
「うん。ありがとう、お爺ちゃん。後で手入れ方法も教えてね」
わたしは、しばらく無言のまま刀身を見ていた。
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