第41話(累計 第114話) 刃と鞘、離れぬ二人
「やめろぉぉぉ!」
邪神<這い寄る混沌>の顕現、奈良原の叫び声を聞きながら、わたしは振り上げた神剣を振り下ろす。
「ぐぎゃぁぁぁ!」
わたしの背後から迫っていた邪神たち。
彼らは、神剣から放たれた金色の光に弾き飛ばされる。
空間を満たしていた虹色の「闇」が金色の光によって覆いつくされていく。
遠くに開いていた地球への「扉」。
その青いステキな星にも金色の光が迫り、扉ごと消えていく。
……眩しい! でも、どこか優しい光。
そして、その光はわたしたちにも迫ってくる。
「ひなちゃん!」
「お姉さまぁぁ!」
わたしが最後に覚えているのは、神剣を手放してひなを抱きしめた事だった。
◆ ◇ ◆ ◇
「……綾香ちゃん、綾香ちゃん! しっかりして!」
「は!」
わたしは、誰かに強く肩を上から叩かれ、意識を取り戻した。
「わたし、何をしていたの……」
「大丈夫? 急に守護鬼神が崩れ出して、心配したわ」
朝焼けの空から舞い落ちる呪符が積もるコンクリート舗装地面の上。
寝ていたわたしは被せられていた毛布をめくり、ゆっくりと身体を起こす。
そして頭を振り、自分が何をしていたかを思い出そうとした。
……警視正が手当してくれたのね。さっきまで何だったっけ?
「確か、奈良原。<這い寄る混沌>と戦っていて、彼を倒した時……。あ!? ひな、ひなちゃんは何処ぉぉぉ!」
わたしは、さっきまで横にいたはずのひなが見える範囲内にいないので、驚き慌てる。
「ひな、ひなちゃん! 嘘ぉ、わたしだけ閉鎖空間から追い出されちゃったのぉ! ひなぁぁ!」
ひなを一人異空間に取り残したのかも知れない。
あれだけ、ずっと一緒にいると約束したのに。
わたしは、自分の身体を抱きしめ、怒りと後悔。
悲しみに心が押しつぶされ、叫ぶ。
……どうして、手を放しちゃったの!? 最後に抱きしめていたはずだったのにぃ?
ひなを失った事で狂乱状態。
心が壊れそうになった時。
「お、落ち着いて、綾香ちゃん。ひななら、あそこよ」
警視正は、わたしをゆすり落ち着かせようとする。
そして、視線と指をわたしの背中の方向へ示した。
「え!? あ! ……よ、良かったぁ」
視線の先。
そこには女性警官らに囲まれ、毛布にくるまって地面に座り込み、心配そうな顔でわたしを見ていたひなが居た。
「良かったは、こっちの台詞なのじゃぁぁぁ! さっきから、いくら揺り動かしても起きぬから心配しておったのじゃぁぁ」
昇る朝日をバックにした栗毛の美少女。
大きくてきれいな榛色の瞳に、キラキラと宝石のように光る大粒の涙を沢山貯めたひな。
彼女は怒っているように、わたしへと叫んだ。
「ごめん、ごめんねぇぇぇ!」
わたしは毛布を振り払い、ひなの元へと向かう。
疲れ切った足は、前に進むたびに痙攣をおこして、思った様に走れない。
案界も転げそうになりながらも、やっとひなの元へとたどり着き。
「ひとりにしてごめんなさい! もう、ずっと離さない」
「此方も、お姉さまをぜーったいに手放さないのじゃぁぁ!」
ふたり、ギュッと抱きしめ合う。
もう二度と離れないと……。
「まったく困ったお嬢たちですね、姐さん。一体、どんな事があったのか、俺たちには全く分からんです。騎士っぽいのを倒したところまでは、見えてましたけど」
「和也くん。まあ、今はゆっくり二人の世界にしてあげましょう。後で、ゆっくりと事情を聴かなきゃ。これで奈良原が完全に消滅していたのなら、安心なんだけど」
「美穂ちゃん。とりあえず、今は娘たちに命があった事を感謝しましょうや。俺たち大人は、大して役にも立たんかったし」
集まってきた仲間たちが色々話しているのが聞こえるが、今は腕の中のひなを抱きしめるのに忙しい。
「ひなちゃん、ひなちゃん」
「お姉さまぁぁぁ!」
その後、朝になって廃工場跡に警察の鑑識やら厚労省の薬物捜査班らが来た。
その頃まで、ずっとハグ状態だったわたしとひな。
捜査の邪魔だし、子どもは早く寝ろと応急手当の後。
二人セットで近郊のホテルに放り込まれ、そのままダブルベッドの上で抱き合って眠った。
……ひなちゃんが可愛すぎて、もう少しで頬にキスしちゃいそうだったのは、ナイショ。
◆ ◇ ◆ ◇
「あやっち。いい加減、無理しすぎるのは辞めた方が良いよ。後遺症とか残ったら、人生長いんだから困るし。それ以上に命を大事にだよ!」
「そうですわね、葵さん。今回は、ひなちゃんも同罪。確かに邪神相手では、無理なされるのは仕方がないと思いますが、無茶の上に無謀までしては残された方々が悲しむのですよ?」
「は、はい」
「反省するのじゃぁぁ」
都内某所の小児病院。
もう、幾度も通ったり入院したりしたが、今回も入院。
ひなと同じ病室で、残り少ない夏休みを過ごしている。
……事情を知っている葵ちゃんと結衣ちゃんは、毎日お見舞いにきてくれているの。母さんやお父さん、お兄ちゃんには酷く悲しまれたわ。お爺ちゃんは、よくやったとだけ言ってくれたけど。
「せっかく夏休みだから、プールイベントとかも考えていたんだけど、無理になっちゃったよぉ」
「ごめんね、葵ちゃん。予想よりも神剣の負荷が大きくて、手を酷く火傷しちゃったの」
「此方も同様じゃ。その分、邪神どもを結界の奥。重力井戸の奥底に落とし込めたから、ひと安心なのじゃ!」
わたしとひな。
共に力を借りた神剣からの「力」のフィードバックで、両手の魔力回路、気脈がズタズタになっている。
更には掌の皮膚に2度程度の火傷を負っており、今は包帯でぐるぐる巻き。
3度以上の火傷をしていたら、皮膚移植をしても肌の強張りや神経の損傷で運動面で後遺障害が残っていたとも言われ、医者には酷く脅された。
……魔力回路とやらは、時間経過で治るだろうってのは、ひなちゃんの曾祖母、キヨさまの見立て。事件直後に治癒呪術もしてくれたから、多分障害は残らぬだろうと言ってくれたの。
「じゃあ、あの奈良原って奴は当分現れないのかな、ひなっち?」
「此方が知る限り、同じ顕現体。奈良原自身は現れぬであろうや、葵お姉さま。じゃが、アヤツは<這い寄る混沌>の端末が一片。別の顕現が現れるかもじゃが、まあ当分は大丈夫だろうて」
「わたしが剣を振り切った時、邪神さまたちは怖がっていたし、しばらくは大人しいんじゃないかな?」
わたしが意識を失う直前。
女性らしい優しい声が最後に聞こえた。
「わたくしの娘たち、ありがとう。穢れは、わたくしたち、八百万神が封印しておきます。安心して、人の一生をおくるのですよ」
……鏡とか勾玉のイメージも感じたから、日本の神さまたちが助けてくれたのかな?
「あ、ひなちゃん。すっかり聞くのを忘れてたんだけど、神剣を元の『持ち主』にお返ししたの?」
「うむ。母さまがひいお婆さまと一緒に、『宮中』関係者にお返ししたと聞いておるのじゃ。母さま、『尊いお方』から感謝されて困ってしもうたと言ってたのじゃ」
「え、それって、て……」
「葵さん! それ以上は、語らぬのが良いですわ。わたくし共、庶民には知らなくてもいいお話ですの、おほほ」
その後も、夏休みの宿題をどう片付けるかで、四人賑やかに話したのだった。
お読み頂き、ありがとうございます。
面白い、続きが読みたいと思って頂けたなら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけたら、とっても嬉しいです^^
皆様の声援が、作品を書き続ける原動力となります。
なにとぞ、今後とも応援を宜しくお願い致します。




