第42話(累計 第115話) エピローグ:比翼の乙女たちは永遠に
「警視正! 橘 綾香、捜査官補。本日より現場復帰致します」
「此方も、一緒に今日から復帰なのじゃ!」
千代田区にある中央合同庁舎第2号館ビル。
その十九階、超常犯罪特殊対策室。
わたしとひなは、久方ぶりに一緒に登庁した。
……夏休みも終わっちゃって、学校も臨時校舎での授業も再開したの。あと、当庁する時は地下鉄でも、ひなちゃんと一緒に手を繋いで来たわ。
「二人とも。学業優先で良いから、無理はしないでね。綾香ちゃん、退院おめでとう。先にひなが退院しちゃったから、寂しかったかしら?」
「いえ。ひなちゃんがいない間に、宿題を全部片づけられたので問題無かったです」
「お姉さまぁ! 此方が居ったら宿題が進まないのかやぁぁ!?」
警視正が気を使ってくだされたので、わたしも宿題が片付いて問題無かったというが、先に退院となり病院から追い出されたひなは少々不機嫌。
自分がいない方が良かったのではないかと、わたしに文句を言ってきた。
「そんなことは……。ひなちゃんが可愛くて、構いたくなって宿題が進まなかったのは確かね」
「むむぅ。此方、お姉さまのお役に立ちたいのじゃぁ」
「はいはい。ひなちゃんは側にいてくれるだけで十分役に立っているよ」
「また、頭を撫でたのじゃ! 此方、子ども扱いは嫌なのじゃぁぁ!」
つい、ひなが可愛くてかわいがってしまう。
こんな事が毎日続く日常、それをわたしは守っていきたい。
「ひな。あまりうるさくしないでね。一応、今も職務時間だから」
「はいなのじゃぁぁ」
警視正に窘められるひな。
その様子が本当に面白くて、微笑んでしまう。
「綾香ちゃん。すっかり元通りの様子ね。良かったわ、わたくしも随分と心配していたの。あれだけの修羅場を沢山潜らせ、望まぬ殺人まで未成年の貴女にさせてしまったわたくしが、言って良いかは今も悩むのだけれど」
悲し気な微笑をする警視正。
まだ、わたしを血なまぐさい世界に巻き込んでしまった事を悔やんでいる様だ。
「お気になさらずに、警視正。わたし、全く後悔していません。ひなちゃんと一緒なら大丈夫ですし、目の前の悲劇を失くす事が出来るなら、いつでも刃を振るいます!」
「此方も、お姉さまと一緒に、大事な皆の幸せを守るのじゃ!」
ひなと顔を見合わせ、笑顔で警視正に返答するわたし。
自分が持つ力が、多くの人々の笑顔を守れるのなら、それはわたしの喜びでもあるから。
「大人のわたくし達の方が、覚悟足らないかもね。実は、今回の事件を受けて警察庁や国家公安委員会、更には内閣府辺りまで、貴女がたの取扱いについて、論争が起きたの。国会でも野党のみならず与党から追及されているの」
どうも政治の世界では、わたしやひなの存在は何かと問題になっている様だ。
「少年兵問題になるのではってね。幸い、更に上の『高貴な方々』が世界を救ってくれた存在として、非公式ながらお褒め頂いたので、しばし棚上げにはなったわ」
「そ、そうなんですか……」
「此方、ひいお婆さまも褒めてもらったのじゃ。『宮』から家の者がお褒め頂いたのは、百数十年ぶりじゃと」
……今の日本にも、権威ってのは存在するのね。
わたしは、『雅』な方々については何も言えないので、口を濁した。
「さて、雑談はここまで。本題に入るけど、逮捕した松戸という男から、違法薬物の線は全部把握する事が出来たわ。今はマトリが各地で売人らを逮捕している状況ね。それと、奈良原はあれ以降、完全に姿を消したわ」
「わたしやひなちゃんが最後に見たのは、邪神が封印された世界にとじ込まれる彼でした。完全に滅ぼせる存在では無いでしょうが」
「また別の顕現が現れたら、ぶっ飛ばすのじゃ!」
事件は、完全に解決の方向に行っているらしい。
その様子に、わたしはひと安心した。
「ということで、二人ともお疲れさまでした。しばらくは臨時勤務として、週一くらいでこちらに来てくれたらいいわ。まずは学業優先。綾香ちゃんは来年、大学受験だものね」
「此方は、そのまま中学へエスカレーター進学するのじゃ!」
ようやく学校でも自分の居場所を見つけたらしいひな。
今日の通勤時にも、学校であった事を色々と話してくれた。
「はい。今後ともよろしくお願いします!」
◆ ◇ ◆ ◇
「ひなちゃん、もう鳥肉にも火が入ったよ!」
「そうなのかや? 此方、家族で鍋を囲むのは初めてなのじゃ!」
まだ秋口には早い頃。
ひなが家庭的な食卓が見たいと言い出したので、当家に招待。
今日は、水炊き鍋を家族全員で味わっている。
「ああ、可愛い娘が増えたのは嬉しいなぁ」
「お父さん。ひなちゃんは、絶対にあげないからね」
ひなが来るとあって急ぎ帰宅してきた父。
「綾香。俺、霊的治療ってのにも興味あるから、術士の紹介してくれないかい?」
「淳史お兄さま。それなら此方でも出来るし、ひいお婆さまも紹介できるのじゃ!」
そろそろ医師免許の試験が近いだろう兄。
何故か、わたしが治癒呪術のお世話になっているのを聞き、その方面からの医学アプローチも検討しているのだとか。
「淳史、ひなちゃんに無理は言わないでよね。この子も大変なんだから。綾香が怪我しても傷跡すら残らなのは、ひなちゃんのおかげなんだし。ああ、嫁入り前の乙女が生傷なんか残してほしくないわ」
母、わたしが毎度危険な事に首を突っ込んでは負傷入院するので、もう怒る気も失せていて、無事に生きて帰ってくることだけを祈ってくれている。
……ごめんね、母さん。でも、見て見ぬふり。わたし、出来ないから。
「陽子。子どもは親の所有物じゃねぇ。親は、巣立つ子らを後ろから見守るくらい。放任主義で良いんだよ」
「あなた。綾香ちゃんを怪我しないくらいにしたいって修行つけていたのは、話が違うんじゃないですか?」
「そ、それはなぁ。子どもと孫では可愛さが……」
向こうでは祖父母が、孫の教育方針で言い合い。
実に平和な家庭だ。
「あー。わたし、幸せだー」
「綾香、いきなり何を言い出すの? そんなの当たり前でしょ?」
わたしの突然の発言に驚く母。
「でもね、わたしがこれまで守ってきたのは、皆の笑顔のため。わたしみたいに皆、笑って暮らせたらと思って居るんだ」
わたしの言葉に、家族は皆微笑み返してくれる。
こんな家族に育ててもらえたから、私は戦える。
そう思い、目じりに浮かんだ涙を拭った。
「お姉さま、お肉無くなるのじゃ?」
「あ、しまったぁぁ!」
わたしが話し込んでいた間に、鍋の具がどんどん減っていく。
急ぎ、獲物を鍋から狙っていた時。
「え!? こんな時に非常招集!?」
「此方もなのじゃ!」
わたしとひなのスマホが同時に警報を鳴らす。
画面上には、都内某所の研究所から捕獲されていた魔神らが逃走したとあった。
「ひなちゃん!」
「お姉さま、行くのじゃ。急ぎ、迎えの車を呼ぶのじゃ!」
二人とも、戦闘モードに気持ちを切り替える。
「二人とも。無事に帰ってきてね。また、一緒にご飯食べましょう」
「武運を祈るわ」
玄関口で、母と祖母は、暖かい言葉をかけてくれる。
「綾香、刃の向こうを見てこい」
「二人とも、気を付けるんだよ」
「また話聞きたいから、絶対に帰って来いよ」
祖父、父、兄も同じくわたしたちを心配してくれる。
その思いがとても暖かい。
「さあ、行こう。ひなちゃん!」
「うむなのじゃ、お姉さま!」
今日も誰かが助けを求めている。
だから、わたしたちは戦う。
この小さくて、大切な日常を守るために。
二人、手を固くつなぎ玄関を飛び出した。
「橘 綾香、参る!」
「神代院 ひな、参上なのじゃ!」
(完結)
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