第37話(累計 第110話) 届いた刃、その先の罠
「グゥゥぅ。ど、どうして神たる私がヒト如きに……」
多くの人々の助けを借り、運と力を最大限に生かし、ようやくわたしとひなの繰り出した刃が、邪神<這い寄る混沌>に届いた。
「それはね……。アンタが人間の繋がりを甘く見ていたからよ!」
……キヨさんらが時空結界の維持、道明さんがバルカン砲を準備し、警視正が最後の狙撃。多くの警察官さんや自衛隊員さんの助けがあって、やっとわたしとひなちゃんの刃が邪神に届いたの!
黒曜石の様に見える黒騎士の腹部装甲。
そこに深く突き刺さった金色の両刃剣は、煙を上げながら突き刺さった部分を焼いていく。
「ぬ、抜けぬ!? ど、どうして神たる私が、こんなレプリカごときの刃を抜けぬのだ!?」
「奈良原。いや<這い寄る混沌>の切れ端よ。これぞ、今なお一億人以上の民の想いを受け継ぐ、『生きた』神の真なる力なのじゃ!」
バタバタと暴れる奈良原。
しかし、しっかりと腹に突き刺さった金色の刃は更に深く潜り込み、体内から邪神を焼いていく。
「あ、綾香どの。い、今なら許してあげます。だ、だから、この剣を抜きましょう。そうすれば、私はもう貴女がたに、人間には手だししませんから……」
「嘘よね」
「ま、間違いなく嘘なのじゃ。こやつが本当のことなぞ、い……いうはずないのじゃ」
わたしは、しっかりと操縦桿を握り、刃を固定する。
背後に座るひなも、神の力を機体に流す為か、少々苦しそうな声を出すが、決して力を緩めない。
「ここで逃がしたら、もう二度と貴方を。<這い寄る混沌>を倒す機会なんて無くなる! 絶対に逃さない!」
「そうなのじゃ! お姉さま、此方の事は気にせず、このまま突き刺して、こやつを滅ぼすのじゃ」
二人一緒に戦う。
今、この時を逃せないから。
……背中から凄い力を感じるけど、ひなちゃん。頑張ってくれているわ。
「ち、ちきしょぉぉ! 神たる私がこんなところで、人間の小娘に殺されるなど、あってはならぬぅぅ。なれば、この地ごと消し飛ぶがよい! 天空よ裂けよ。我が前に時空の門を開け。この矮小なる世界ごと飲み込むが……」
「させない!」
なんと、この期に及んで悪あがきをしだした<這い寄る混沌>。
彼の頭上に漆黒の「穴」ともいうべきモノが発生しだす。
わたしは急ぎ、彼の腹に突き刺した刃を大きく捻る。
「ぐはぁぁ! 邪魔をする……」
「黙れ!」
尚もあがく邪神に対し、腹でぐるりと回した剣。
刃が上下に向いたのを見、そのまま上に斬り上げる。
「ぐへぇぇぇ!」
「消えてしまえぇぇ!」
やや斜め上、左鎖骨の上まで左逆袈裟に斬り上げた刃を、今度は捻って右鎖骨部分へ撃ちおろす。
そして袈裟斬りで、黒騎士の身体をVの字に切り裂いた。
「わ、私の……。神の命が消えるぅ……」
そう、最後に呟いて崩れ落ちる<這い寄る混沌>奈良原。
彼が頭上に作っていた時空の穴らしきものは消滅。
黒曜石のような装甲は大きくひびが入り、バラバラと砂のように崩れ去る。
そして、最後に残ったのは……。
「か、神の命が消えてしまぅ……」
ぼそぼそと呟く上半身だけの男の裸体。
切断部からは一滴の血も流さず、虚ろな眼で自らが滅びる事だけを悔やむ邪神の成れの果てがいた。
「奈良原。これで貴方もお終い。最後に言い残す事はありますか?」
まだ金色に光っている剣を上半身だけになった奈良原に突き付け、問いかける。
もう終わりだと。
「かみの……、かみの……」
しかし、彼は自分が消えるとしか言わない。
もう、視線も定まらず、うわごとのように自分の消滅だけを悔やむ。
「ひなちゃん。もう終わらせよう」
「……そうじゃな。愚かで哀れな神じゃったな」
わたしは、<無銘>の持つ金色の剣を振り上げる。
「さよなら」
そして、奈良原に振り下ろした。
「お、お姉さま! 止めるのじゃ、これは罠じゃ!!」
「え!?」
突然、ひなが叫ぶ。
振り下ろした刃が奈良原に当たる直前。
それまで虚ろだった彼の表情が、その瞬間!
……あ!?
邪悪で何もかもを見下すような笑みを浮かべた。
◆ ◇ ◆ ◇
「あれ? ここは何処?」
奈良原を、神の力を借りた剣で叩き潰した瞬間。
世界は闇。
それも虹色の「闇」に覆われ、わたしは何処かに吹き飛ばされた。
「あ! ひなちゃん!? ひなちゃん、何処?」
わたしは、パイロット姿のまま虹色の闇の中に一人浮かぶ。
周囲を見渡しても闇しか見えず、呼びかけた声も何処にも届かない。
「ひなちゃーん!! 一体、わたしはどうなったの? これは夢? それとも、わたし死んじゃったの?? あ、痛い! ってことは夢じゃないし、わたしはまだ生きているんだ。じゃあ、少なくとも、ここは空気があるんだ」
混乱しそうになり、頬をつねってしまうわたし。
痛みを感じたので、これがおそらく現実であり、自分はまだ生きているのだと思った。
「ふはははあ! 綾香どの。ご苦労でした。貴女は、無事『鍵』として、旧神の作った閉鎖空間の扉を開きました」
虹の闇の中、虚空に小憎らしい声。
<這い寄る混沌>の顕現、奈良原の声が響く。
「じゃあ、ここはその閉鎖空間?」
「はい。ここは外なる神々や旧支配者が閉じ込まれし世界です」
声の向こうに呼びかける。
すると、虹色の闇の奥から嘲笑をする奈良原が黒執事の姿で現れた。
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