第36話(累計 第109話) 無銘の刃、神へと届く
「親切にしてやれば、とんでもない事を言いやがる。さては、『鍵』として大事だから殺されぬとでも、思って居るのか。このクソガキどもめ。どうして、我ら神がヒト如きに気を遣わねばならぬ!」
ひなの一言で、すっかりお怒りの邪神<這い寄る混沌>。
無貌。
顔無しの神らしく能面のような無表情な兜を被り黒曜石じみた黒い騎士が、感情を大きく乱し、乱暴に叫ぶ。
それは、神という偉大なる存在。
間違っても人類より上位に立つ存在には、とても見えなかった。
「ひなちゃん。アレって駄々っ子。というか、只のワガママっ子だよね」
「そうなのじゃ。神を名乗り偉そうにしておっても、本質はガキ。数千、数万年生きようが、力だけあっても心までは育たなかった愚か者じゃ」
これまでは余裕を見せ、わたしたちを追い詰め心まで折り倒そうとしてきた奈良原。
しかし、ひなに言われた一言。
「第一、そんなに強い存在が封印されてしまったのは、どうしてじゃ? 大方、今みたいに傲慢と愚かさゆえに敗れ去ったのじゃな」
その一言が禁句だったようで、冷静さをすっかり失っている。
駄々っ子のように叫びまわる。
「クソォ。殺されぬと安心しているのも、今のうちよ。殺さぬでも、いくらでも痛めつける、苦しめる方法なぞいくらでもある。神を甘く見たことを後悔するがいい!」
ぐちぐちと文句を言う<這い寄る混沌>。
殺さぬまでも、ただでは済まさないというが、それこそわたしにとっては狙いどころ。
冷静にならないうちに、一発逆転をするのだ。
「つまり、神さまはわたしが絶対に必要なのね。なら、まだ戦えるわ」
わたしは、キシキシと異音を上げる守護鬼神<無銘>を、ゆっくりと立ち上がらせる。
そして、まだ呪術による火炎と風を纏っている野太刀を構え、黒騎士に、ビシっと切っ先を突き付けた。
「ひなちゃん。いつでも、『アレ』使えるように準備しておいて」
「分かったのじゃ!」
「まだ勝てるとでもお思いですか? その秘策、当たらなければ無駄と言ったのに通じないとは。じ、実に愚か! もう立ち上がるのがやっとのポンコツでとは、笑止千万」
すると、大きく後方へ跳躍。
再び、わたしの間合いから遠ざかる黒騎士。
……笑止っていうくせに、やっぱり『アレ』は怖いんだ。間合いを取るなんて、戦うより逃げる気満々。なんとかして隙を作れば。
「さ、さあ、そこからでは絶対に当たりませんですよ。貴女が動けば、私は更に下がる。衝撃波だけでは私は倒せませんのは、先程までに味わっていますよね。もう無駄な抵抗はもう辞めましょう」
立ち上がったわたしを見て、一見落ち着きを取り戻したように見える奈良原。
声に混乱は少々見えるものの、わたしの間合いを見抜いてくる。
……さっきみたいな衝撃波の撃ちあいは、もう出来ない。この機体なら、大きなアクションは一回が限界。どうしたら……。あ!
視界の端。
被り直したヘルメット内に表示されたメッセージが、わたしに勇気を授けてくれた。
「おお、また絶望しましたね。それがイイぃ。さあ、もっと絶望し、己の弱さと愚かさを悔やみながら投降するのです、綾香どの。我らの願望、旧神による結界より父なる神々を解放する『鍵』とならん!」
天を仰ぎながら叫ぶ黒騎士。
その時、彼はわたし達。
<無銘>しか見ていなかった。
わたしを弄ぶことしか考えていなかった。
……だからこそ!
「今です!」
わたしの合図。
「ん? ぐはぁ!」
黒騎士が、何か。
わたしの狙いに気が付いたが、既に時遅し。
彼の胸へ深く弾痕が抉られる。
弾着の衝撃でゆらぐ黒騎士。
重い銃声が着弾後から廃工場跡に響く。
「ま、まさか。ここで狙撃!? ぎゃはぁ!」
黒騎士が銃声が聞こえた方角を見るが、更に発射された銃弾が黒騎士の兜を大きく歪めた。
「行くよ!」
「のじゃ! 装甲パージ!」
<無銘>の身体を覆う装甲が、ひなの命令で吹き飛ぶ。
重量と魔力消費が軽くなった<無銘>。
軽さを武器に一気に前に踏み込む。
「はぁぁぁ!」
極限の集中、視界から色が消える。
加速呪文の力も借り、各部ジェットも全開。
……空気が重い! でも。
装甲を飛ばしたコクピット。
そこには直接、外の風が吹き込む。
だが、加速状態のわたしには、その風は粘りつくように重い。
視界には、パージした装甲板が呪符に変わりつつ、地面に落ちようとしているのも見える。
……ここで倒さなきゃ!
一歩一歩、前に踏み込む。
脚がコンクリート舗装された地面に、ずぶりと沈み込むのも感じる。
地面からの反動を生かし、更に前へ一歩。
「このぉ。邪魔モノがぁ!」
まだ視線が狙撃者、警視正のいるであろう方角を向いたままの奈良原。
わたしたちが迫るのに、まだ気が付いていない。
……ひなちゃん!
「今こそ、封印を解くのじゃ!」
わたしの思いを読み、警視正から貰った荷物の封を解くひな。
背後の副操縦席から、暖かくも強い力が溢れるのを感じる。
後ろから金色の光が、溢れだす。
「力を貸してぇ! 神さま」
「む! も、もしや!?」
力の発動で、わたしの接近にようやく気が付いた奈良原。
しかし、ここはわたしの間合い。
もう一歩踏み込めば、勝ち。
「ち、ちきしょぉぉ!」
「はぁぁぁぁ!」
「お姉さま、行くのじゃぁぁあ!」
奈良原の悔しみの叫び。
わたしの気合の叫び。
ひなの信頼の叫び。
全てが重なる。
守護騎士の持つ野太刀に、神の力。
金色の力が重なり、その姿を大きく変貌させる。
片刃の刀が、両刃の剣。
古墳から出てくるような古の剣の姿を取る。
「グハァァァァぁ!」
わたしが前に突き出した金色の剣の切っ先は、何の抵抗も無く黒騎士の腹を貫いた。
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