第34話(累計 第107話) 絶望を越える刃
「まだ神たる私に勝てるとでも思っていらっしゃるんですか、綾香どの? 人なぞ我ら偉大なる神の前では、ちり芥も同じ。神に道具や手駒として使われてこそ、存在価値があるのですよ? 貴女は、まだ価値がありますが、他の人なぞ何の意味も価値も無いです。ですので、早く諦めて降参してください。そして私の『鍵』になって……」
なんとか立ち上がった守護鬼神<無銘>。
<這い寄る混沌>の顕現体である黒騎士の攻撃を受け、不具合が出た箇所を治すために魔力がどんどんと消費されていく。
……モニター上の魔力ゲージがヤバい。長期戦は無理だわ。大技も後一発くらいしか撃てない……。
「うっさい! わたしは、そんな傲慢な神さまなんて認めない!」
「此方も認めないのじゃ! この似非神モドキめぇ」
だが、わたしもひなも、人々を弄んで喜ぶ邪神を認める気は無い。
お互い気力と魔力を練り上げ、一部が割れたモニター越しに邪神を睨む。
「……私の善意が通じないとは、実に残念です。では、もう少しイジメましょうか」
そう語り、両腕を天に向かってゆっくりと振り上げる黒騎士。
まだ間合いは遠いが、先程と同様に衝撃波を放たれ、それをまともに受ければ大ダメージは必至。
中途半端に避ければ、こんどは脚を浮かして動きが硬直したところを狙われ、接近戦で追撃を受ける。
……脚が地面から浮くと、ジャンプジェットくらいしか移動方法がなくなるから、動きが遅くなって攻撃を避けられなくなる。凌ぐには……。
「ひなちゃん。<無銘>でも黒騎士みたいに衝撃波を撃ち出せる?」
「風の呪術を併用すれば撃てるのじゃが……。まさか?」
「うん、この場で撃ち合うわ。敵の衝撃波を対消滅させて、その隙を狙う!」
スピーカーオフで、後部座席のひなの方に振り返って話し合う。
今、わたしが出来る策は多くは無い。
接近戦でも遠距離戦でも、敵の方が圧倒的に強い。
……だったら、敵がこっちを舐めているうちに、やり返してやる!
「了解なのじゃ。お! 来るのじゃ」
ひなの声でモニターに視線を向け返す。
するとゆっくりと上げた黒騎士の手が振り下ろされる瞬間だった。
「では、綾香どの。遠距離から徐々に削りましょうか。はい!」
振り下ろされた黒騎士の両腕。
そこから薄い円盤状の衝撃波が二枚発生、<無銘>に向かって射出された。
「ふぅぅぅ。はー!」
「<風天・旋風斬!>」
わたしが袈裟懸けに凪いだ一閃。
不動明王の炎を纏う<無銘>の野太刀へ、ひなの風の呪術が重なる。
その斬撃は、衝撃波を伴い空中を疾走。
そして地面を切り裂きながら疾走する黒騎士の放ったリング状の衝撃波と激突。
しばし拮抗したのち、爆音とともに対消滅した。
「ほほう。術の助けを借りてですが、衝撃波斬撃を貴女も撃てるのですね。実に面白い!」
「負けてなんてあげない! 今度はコッチから」
お返しにと、壁状の衝撃波を野太刀から放つ。
それは地面から激しい土煙と小石を巻き上げながら、黒騎士。
奈良原へと迫る。
「では、こちらも!」
目隠しにもなっている衝撃波の隙間から黒騎士の手が振り上げられるのを見、わたしは次の手に移る。
「ひなちゃん、『コレ』使うわ!」
「了解なのじゃ」
爆発を起こす様に奈良原の放った衝撃波とわたしの放ったものが激突消滅するが……。
「このまま撃ちあっても、綾香どのに勝ち目は……! う!」
「いっけぇぇぇ!」
目隠しになった爆発の間に急ぎ移動。
<無銘>に再び握らせたバルカン砲。
それを今度は、奈良原が変化した黒騎士へと向け、引き金を引いた。
「く! バリアが効かない!!」
激しく回転する銃口。
そこから分間1000発の勢いで吐き出される銃弾の豪雨。
いくらかはバリアに弾かれるが、大半は黒騎士に刺さる。
さしもの邪神の化身たる黒騎士も、必死に剣を振り回して銃弾を弾くしかないが、弾丸は弾く先で炸裂し爆炎を上げる。
「このまま、削り倒す!」
「残り残弾、三十秒と続かないのじゃ!」
暴れまわる銃口を抑え込み、容赦なく叩き込む。
今、黒騎士相手に効果がある攻撃手段は少ない。
この間に、次の手を考えなければならない。
……これで隙を作れれば、『アレ』を使えるの。
「ぐ! ぐ! こ、この、わ、煩わしい。ヒト如きが、私を倒す!? な、舐めるなぁぁ!」
剣で全ては捌ききれず、機関砲弾の攻撃で装甲にヒビと弾痕が次々と穿かれる奈良原。
だが、彼も神。
叫びながら空間歪曲バリアを無理やり拡張し、バルカン砲の攻撃を弾きだした。
「死ねよぉぉ、ニンゲン!」
そして、剣を前に激しく幾度も突き出して、弾丸状の衝撃波を複数撃ち出した。
「くぅ!」
「きゃぁぁ!」
重いバルカン砲を投げ捨て急いで回避するが、断熱圧縮でプラズマ化した衝撃波弾を受けて残弾わずかだったバルカン砲が砕け散った。
更に衝撃波の一撃が肩装甲を吹き飛ばし、コクピット内でも小爆発が起きる。
そして攻撃を受けすぎた機体は、擱座してしまった。
「ふふふ! 随分と手こずらせてくれましたが、これでお終い。たかがニンゲンごときが、神たる私に歯向かうのが間違っているんです。さあ、その不細工な木偶人形から綾香どのを引きずりだしましょうか」
立膝で座り込んでしまった<無銘>。
無理をさせ過ぎて各部から悲鳴のような音を上げているが、まだこんなところで終わる訳にはいかない。
……後、一手。もっと隙を見せてくれれば……。
警報がなりっぱなりのコクピット。
更に各部が破損、もう再生すら追いつかない。
その上、魔力の余力は少なく、背後のひなの息は荒い。
ここで決着をつけないと、わたし達に勝ちはない。
絶対に負けられない戦い。
「絶望しなさい。そして、私に命乞いをするのです。そうすれば、貴女は憎らしき旧神らによる封印の扉を開く『鍵』となるのです!」
徐々に間合いを詰めてくる<這い寄る混沌>黒騎士。
その歩みを、大きくひび割れたモニター越し。
わたしは一足一刀見逃さない。
いつか訪れるはずのチャンスを待って。
「ひなちゃん。『アレ』使うわ」
「了解なのじゃ。タイミングは、お姉さまにお任せするのじゃ」
……次の一太刀に全てを賭ける!
操縦桿を握る手に、わたしは力を込めた。
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