第32話(累計 第105話) 人智の刃、神を穿つ
「やぁぁ!」
「キジャァァ!!」
わたしが駆る守護鬼神<無銘>。
不動明王の炎を纏った野太刀を異界の巨木、<黒い仔山羊>へと振り下ろす。
「一撃離脱を繰り返すのじゃ、お姉さま! 触手に巻き込まれぬように、注意するのじゃ」
「了解!」
縄が集まったような幹に傷が入り、そこから燃えあがる。
苦痛から暴れる<黒い仔山羊>は激しく触手を振り回すが、既にそこに<無銘>は居ない。
「むむぅ。ここまで<黒い仔山羊>があてにならんとは想定外です。誰が無敵と言ってたのですか?」
「それは貴方だったじゃないかしら? ふん!」
自分の配下がアテにならないと不平をいう<這いよる混沌>奈良原。
わたしは彼を煽るべく、更に挑発する。
次の策まで時間を稼ぐために。
……確か、『コレ』を準備しているって言ってたよね。倉庫の外の駐車場までおびき寄せ。
「ならば! <仔山羊>よ、倉庫を破壊しろ。邪魔なものを全部薙ぎ払え!」
「グェェェ!!」
奈良原の命令で、四方に太い触手を伸ばす<仔山羊>。
倉庫の柱に撒きついたかと思うと、一気に引き倒した。
「一旦、駐車場に逃げるよ、ひな!」
「了解なのじゃ」
バラバラとトタンらしき屋根材が落ちてくる中。
避けながら、わたしは<仔山羊>から距離を取った。
「ふははは。だが、この程度の斬撃では、再生の方が早い。時期にこの地を覆う結界も壊れよう。なれば、逃げる事も、このまま周囲を襲う事も可能。さて、綾香どの。貴女なら、どうするかな?」
「グェェ!」
倉庫の残骸をすべて吹き飛ばした中に、そびえたつ異界の巨木。
奈良原の命令を受け、大きな咆哮を上げる。
「そうねぇ。今は……。こうするわ!」
コクピットのモニター端にサムアップをしている道明が見える。
それを確認して、わたしは駐車場の端に止まっている自衛隊の大型トラックまで<無銘>を走らせた。
「逃げるか!? 大きな口を叩いていたのに……。む!?」
「これが、わたし達の秘策だぁぁぁ!!」
野太刀を一旦放り投げ、空いた鬼神の手でトラックの荷台から荷物を覆っていた幌布を引きちぎる。
そして布の下にあった積み荷。
武器を、ぐいっと持ち上げた。
「射線上に問題、障害物無し。お姉さま、使い方は分かるかや? レーザーポインターを合わせて、このまま撃つのじゃ」
「いっけぇぇぇ!」
取っ手を鬼神の両腕でしっかりと保持。
砲口を<仔山羊>に向け、レーザーポインターの赤い点がターゲットに映るのを確認して、ぎゅっとトリガーを引いた。
「きゃぁぁぁ!」
保持した武器、いくつもの銃身が束ねられた機関砲。
ガトリング砲が火を噴き、轟音と凄まじい振動、反動が<無銘>を襲った。
「ま、まさかぁぁぁ!」
驚愕の声を上げる奈良原。
<黒き仔山羊>に向かって撃ち出された弾丸は、その幹にいくつもの弾痕を穿つ。
「こ、これ。振動と反動が凄いし、うるさいぃぃ!」
「<無銘>で分間1000発の二十ミリバルカン砲を抑え込むのは、しんどいのじゃぁぁ!」
両腕で押さえ込んでもなお、ガタガタと激しく暴れまわる銃口。
そこから飛び出す曳光弾の放つ光とレーザーポインターの光を全部、<仔山羊>へと必死に向ける。
「グ、グェェェェェェ!!」
曳光弾が一直線の光の束を描き、どんどんと突き刺さる。
着弾するとそこで炸裂、小さくとも確実に爆炎をあげる。
さしもの<仔山羊>も、小型砲弾の豪雨の前には無力。
奇声を上げながら暴れるも、幹がどんどんボロボロ、グズグズにされていき……。
最後にはドスンと大きな音を立て、地面に倒れた。
「はぁはぁはぁ。や、やったわよね?」
「今回はフラグ関係ないのじゃ。戦車も倒す現代兵器の前には、神話生物も怖くないのじゃぁぁ!」
原形を失うほど撃ち砕かれ、地面に倒れ伏す<黒い仔山羊>。
もはやピクリとも動かない。
先程までは、バルカン砲のブーンと連続した砲撃音と、<仔山羊>の悲鳴が大きく響き渡っていた廃工場跡。
今は、熱を放つ大きな薬莢が地面に転がる音だけしかしない。
「そ、そんなバカな!? <黒い仔山羊>が人ごときの武器で倒せるなど!??」
静寂の中、上空に浮いている奈良原。
自らの配下が、想定外の攻撃で倒されたのが信じられない様だ。
「ふふふ。これ、自衛隊から借りてくるの大変だったのよ。神様に驚いてもらって嬉しいわ」
「運ぶの、大変だったんだけどな」
「ロボが大砲撃つの、カッコイイ!」
トラックの影から警視正と道明、和也が顔を出す。
そして<無銘>の戦った結果を見て、それぞれの意見を話す。
「……」
「奈良原さん。そろそろ観念しないかしら。流石の貴方も、これに撃たれたら死にますよね。もう二度と悪さしないのなら、封印で許してあげます」
挑発されても無言のままな奈良原。
空に浮かぶ彼に向かって、わたしはバルカン砲の銃口を向けた。
「ふ……。ふははは。ハハッハハハ!」
「な、何かおかしいのじゃ。神の道化ともあろうものが恐怖で狂ったのかや?」
突然大声で笑いだした奈良原。
その様子に、ひなは挑発的な言葉をぶつけた。
「ハハハハハ! あ! いや、失敬。あまりに想定外の事ばかり起きるので、笑ってしまいました。人間とは! ホモ・サピエンスとは、どうしてこうも愚かで賢いのでしょう……。絶対に勝てない神に抗い、そして勝ってしまう」
笑うのを辞めた奈良原。
彼は嘲笑ぎみではあるも、関心するような声を上げる。
そして人類の愚かさと賢さに対し語る。
「そうですね。人とは相反する存在でもあります。同族同士、些細な違いで争い、殺し合う。しかし、互いに手を結び、協力し助け合う。そんな存在。だから、わたしは今ここに立って、神を名乗る道化な貴方に立ち向かっているんです!」
なので、わたしも言い返す。
愚かで賢いからこそ、今。
邪神と立ち向かっていると。
「では、そんな賢い綾香どのに敬意を示し、私自ら戦ってあげます。そうですねぇ、今の貴方に近い姿。近い力で戦い、倒してあげます。そうすれば、自分の小ささに負け、私の望む『鍵』になるでしょうから」
すると、奈良原。
いや、<這い寄る混沌>の顕現は、表情を固くし、自ら戦うと言い放った。




