第29話(累計 第102話) 邪神の切り札
「奈良原、覚悟!」
やっと、奈良原を追い詰めることに成功した捕り物の場。
廃工場内の倉庫で、わたしは奈良原に向かって愛刀の切っ先を突き付ける。
「ひぃ。な、奈良原どの! こんな小娘、早くひねり殺してくださいな!」
「松戸どの。それはあまりにも勿体ない。私が幾度も干渉して、ようやく『鍵』になりうるところまで、彼女の異能力を高めたのです。簡単に殺してしまっては、『鍵』になりません」
「また訳の分からないことを言う! わたしは『鍵』なんかじゃない! 一人の人間だぁ!」
切っ先を突きつけられているのに、わたしに対し興味深い眼で見る奈良原。
わたしを何かを開ける『鍵』。
人を人として見ず、道具にしたいというのが、とても嫌だ。
「その小憎らしい感じが、実に良いですね。早く壊して『鍵』にしたいものです。さて、レッサー共。しばらく時間を稼い……」
「遅い!」
奈良原がデーモンらに指示を飛ばす前に、わたしは更に踏み込む。
加速呪術の助けを借りて、瞬時にほぼゼロ距離まで間合いを詰めた。
「ひとつ!」
まず、棒立ちだったレッサーデーモンの首を斬り飛ばす。
……ごめんなさい。次は暖かいところに生まれ変わってきて……。
「ふたつ!」
殴りかかってくるのをヒラリと回避。
後ろに回り込みつつ、背中からレッサーデーモンの延髄と脊髄を切り裂く。
「みっつ!」
頭上にあげた手に火球を作っていたレッサーデーモン。
工場の機械を足場にして、そいつの頭上までジャンプ。
火球ごと、魔神を左右に両断した。
「ふぅぅぅ……。奈良原さん、チェックメイト。もう手駒はいませんですよね?」
背後でレッサーデーモンたちが塵となって崩れるのを感じながら、奈良原に視線を向ける。
「綾香どの、強くなりましたね。もうレッサーデーモンでは足止めにもならないとは……」
「な、奈良原どの。敵を褒めている暇などないです。早く警察に囲まれる前に逃げないと!」
わたしが魔神たちを片付けている間に、倉庫の入口から警官隊や自衛隊が自動小銃を構えて突入。
完全に奈良原を追い詰めた……はず。
しかし、わたしの中では、何か嫌な感じが残る。
……奈良原が、このくらいで終わるとは思えないんだけど? キヨさまらが空間転移を封じているけど、これも時間制限あるし。
「奈良原! 貴方には逮捕状及び殺害許可が出ています。大人しくしないと、容赦なく撃ちます」
「俺もいるぜ、奈良原。悪魔の力を得た正義のヒーロー、和也さまだー!」
警官隊の一番前。
銃口を奈良原に向けた警視正がいる。
また、かっこつけながら登場する和也。
この間、ひなと一緒に「デビル〇ン」とかいう昔のアニメを見ていて、そのフレーズが気に入ったらしい。
「ほう、あの時のグレーターデーモンですか? 自我を失わなかっただけでなく、人の姿も取り戻すとは、想定外です。綾香どのの周囲には、面白い人材も多いですね」
沢山の銃を構えたフル装備の警官、応援の自衛隊員らが四方から奈良原と松戸を取り囲む。
他の警官らは床に倒れている若者たちを引きずって、どけていた。
「早く投降しなさい、奈良原! 狙撃兵も貴方を狙ってます」
警視正は、警官隊に視線で指示を飛ばしながら奈良原を脅すが、彼は一向に気にしていない。
「ふふふ。神たる私が、鉛弾程度で制圧できるとでもお思いですか、警視正どの?」
「そうね。わたし達は、貴方を舐めてはいない。神殺しの準備くらいしているわ」
……アレ、すごいところから借りてきたっていってたけどね。でも、奈良原は余裕あり過ぎじゃない?
追い詰められたはずの奈良原。
彼にすがりよる松戸と違い、空間転移も封じられているのに余裕のある嘲笑じみた表情。
彼には何か、まだ「隠し玉」があるのではないか?
そう、わたしは感じた。
「しょうがありませんですね。では、魔神とは別の異界からの神話生物に働いて頂きましょうか。出なさい、<|黒い仔山羊《The Dark Young>よ!!」
パチンと奈良原が指を鳴らす。
それと同時に工場内が地揺れに襲われた。
「何!?」
「お姉さま! 凄い邪気が下から来るのじゃ!」
誰もが周囲を見回す中、ほくそ笑む奈良原。
松戸が震えあがる中、彼らの背後の床が割れ、何かが下から這い上がってきた。
「ひぃぃぃ!」
振り返り、這い出てきたものを見た松戸。
凄まじい悲鳴をあげ、そのまま気絶する。
「うわぁぁ!」
「か、怪物!」
警官隊や自衛隊の屈強なお兄さん方ですら、悲鳴をあげ狂乱状態になる。
「い、一体何ぃ!?」
「これぞ、神話生物。黒き豊穣なる聖母、<シュブ=ニグラス>さまが一子。<黒い仔山羊>です。震えあがり、正気を失うがいいです」
そこに居たのは、ロープのような触手がより合わさった、巨木という姿。
更には蹄のある太い四つ足。
小枝のような触手をウヨウヨとさせ、幹のあいた大きな口へと周囲にあるものを捕まえて放り込む。
凄まじい臭気を放つ漆黒の巨木。
「こ、怖い……」
わたしも、その奇異な姿に恐怖を覚え、震えあがって脚が硬直してしまう。
「なーんじゃ、こりゃ? 〇ルトラマンの怪獣や仮面〇イダーの怪人の方が、ぐちょぐちょヌタヌタなのじゃ」
しかし、ひなはあっけらかんという。
「ひ、ひなちゃん。怖くないの?」
「別に怖くなんて無いのじゃ。特撮怪獣やアニメの怪物と大きく変わらないのじゃ。触手もタコの脚と思えば、美味しそうなのじゃ」
フィクションの怪物の方が怖いと言い張るひな。
警官隊が逃げ惑う中、そうかなと思いもう一度<黒い仔山羊>を見てみる。
「ん? 確かに黒いけど、何処が子ヤギ? 蹄と脚はあるけど、それでヤギというのは無理やりすぎない?」
「そうなのじゃ。設定が甘いのじゃ」
わたしがその姿と名前の不一致さに突っ込んでしまうと、ひなも同意してくれる。
「えっとぉ。<シュブ=ニグラス>さまの一部。足回りがヤギなので、その子どもは子ヤギ……って見えません? それに正気度、減らないんですか??」
すると、今まで余裕のあった奈良原の表情が変わり、怪訝そうな顔になる。
「見えないのじゃ。それに怖くないから、正気を失わないのじゃ」
「見えないですねぇ。わたしも、ひなちゃんに聞いて怖くなくなったの」
「俺も怖くねぇなぁ?」
「綾香ちゃんたち。気にするのは、そこじゃないでしょう!」
奈良原の呟きに、わたし達の仲間全員で突っ込む。
周囲を見れば警官隊らは全員逃げうせ、わたしたちと奈良原。
そしてウネウネしているも、怖がられない上に命令が無いので途方に暮れている感じの<黒い仔山羊>。
「……あ! 和んでいる暇は無かったです。<黒い仔山羊>よ。そこの感受性の無いバカどもを食い散らせぇ!」
想定外だったのだろうか。
ツッコミをうけてボケっとしていた奈良原。
はっとして、<黒い仔山羊>に命令を出す。
「ええ。かかってこい、邪神!」
仕切り直しの戦いが、始まった。
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