第28話(累計 第101話) 混沌へ迫る刃
「お姉さま、こういう時は派手にするのが、特撮でのお約束じゃ!」
「だからって、目立ちすぎてどーするのぉ。そりゃ、アイツらを引き付けるのが、わたし達の役目だけど!?」
奈良原らが暗躍する廃棄されていた化学工場。
そこに突入したわたしとひなだが、ひなの仕掛けですっかり注目の的だ。
「な、何物だぁ!?」
「松戸どの。これが噂の小娘ども。綾香どのとひなどのです。私のところまで、こんなに早く到達するとは思いませんでしたよ。しかし、知人を斬ったにしては、案外とお元気そうですね?」
松戸と呼ばれた白衣のオジサンは、わたし達を指さして慌てる。
しかし、奈良原は落ち着いたもの。
追い詰められたという感じも無く、嫌味の一言すら返してくる。
「ごめんなさい、綾香ちゃん、ひな。突入班の一部がミスちゃってバレたみたい。そのまま、奈良原らを引き付けてくれない? くれぐれも無理はしない範囲で良いわ」
「了解」
ヘルメット内から警視正の謝る声が小さく聞こえる。
工場を包囲していた部隊の一部が発見され、それが奈良原にも伝わったようだ。
「あら、逃げられないから嫌味で隙をつくるおつもりですか、奈良原さん。いえ、下衆な神さま? 残念ですが、貴方の作戦は失敗しました。小林さんを操って、わたしが彼を殺すのを狙っていた様ですけど」
「お姉さまは凄いのじゃ! オマエなんぞの企みを、此方と一緒に全部潰して、小林の命も救ったのじゃ。悔しがるが良いのじゃ!」
ということで、時間稼ぎに舌戦開始。
幸い、周囲には銃火器を持っているであろう敵は視界内には居ない。
工場で働く若者たちは、片づけをしているようだが、一切こちらに視線を向けようともしない。
……悲しいけど、もう魂の無いロボット。魔神兵よりも中身が残っていない。魔神召喚の苗床でしかないのね。あれ? 全員、同じペンダントをしてるの。もしかして、あれって……。
「ほう……。綾香どのは、いつも私の予想を超えてくれます。貴女には絶望して頂き、私が望む姿。自由に使える道具、異界の扉を開く『鍵』になっていただきたいのに、中々そうはなりません」
奈良原は、以前からわたしの「力」。
「切断」の異能力に執着していた。
そこに何かの意味があったのだろうと思っていたが、まさか「鍵」だったとは、想定外だった。
……どこかの結界でも壊させる気だったのかしら? あ、今はもっと挑発しなきゃ。そうしたら、もっと話してくれるかも。
「何、分からない事をいっているんですか? あ、神さまも年を取るとボケるんですね。どこにでもいる女子高生を自由に扱いたいだなんて、幼女趣味。変態ですか?」
「きゃー。奈良原はロリコンなのかや? 日本の神さまは少女が好みというが、邪神も幼女趣味とは……。此方も危ないかもなのじゃ」
ひなも、わたしに合わせて冗談交じりに挑発する。
そんな様子に、奈良原も声を上げ笑い出した。
「ふははは。私、『這いよる混沌』はロリコンですか!? はははは、面白い。実に面白い。この期に及んで、そこまで言える貴女がた。実に興味深い存在です。やはり、貴女たちに眼を付けたのは正解でした」
「奈良原さま、何笑われているんですか? あんな小娘らは無視して逃げましょう。また、貴方さまのお力なら逃亡も可能でしょう?」
何がウケたのか、腹を抱えて大笑いする奈良原。
横に立つ松戸の方が慌てて、苛立っていた。
「はぁ、笑い過ぎてお腹が痛いです。さて、松戸どの。もう慌てても無駄です。既に包囲網は完成。その上に、空間転移も結界術で封じ込まれています。綾香どの、ひなどの。実にお見事です」
「褒めてもらっても何も出ませんよ、奈良原さん。出来れば、このまま抵抗なさらないでください。そうすれば、貴方を斬る事は無いので……」
「優しいお姉さまのお言葉に従うのが良いのじゃ。さもないと、神さまであろうと、痛い目を見るのじゃ!」
……出来れば戦いはしたくない。けど、そんなに甘くは無いよね。
ヘルメット内のサブモニターには、包囲完了。
そしてキヨらによる術式結界が発動したと表示されている。
「おお、怖い怖い。ですが、私もこんなところで終わっては邪神の名折れ。松戸どの、彼らを『孵化』させて、時間稼ぎをこちら『も』しましょう。貴方が居れば、また薬物製造は可能ですし」
「は、はい。者共よ、ペンダントを解放し、魔神となれ!」
松戸の掛け声で虚ろな若者どもが全員、胸元のペンダントを握る。
そしてチェーンを引きちぎり、地面へと叩きつけた。
……あれ! 先輩に聞いたのと同じ奴。魔神の卵ね。早くなんとかしなきゃ。
「ひなちゃん!」
「また、ちゃん付けかや? 後で、存分に怒るのじゃ。奈良原、オマエの思う通りにはさせないのじゃ。ノウマク・サマンダ・ボタナン! 清き水よ、全てを洗いが無し、清めるのじゃ! <水天激流波>!!」
わたしの掛け声に反応し、呪術を高速で発動するひな。
彼女が生み出した津波のような激流が工場内を暴れ狂い、邪気、瘴気を一気に洗い流した。
「くぅぅ。そうきましたか? まったく、小憎らしい娘たちですね」
「どうしますかぁ!? 魔神が孵化したのが、たった数名なんですよぉ」
防御結界で濡れるのを防いだ奈良原と彼にしがみつく松戸。
彼らの周囲にだけ、レッサーデーモンが数体立っており、その他の者たちは、床に転がっている。
……他の人たち、全員気絶しているみたいね。
「ひなちゃん、ありがと。後は、わたしが対処するわ。加速呪もお願いね」
「もー、子ども扱いするでないのじゃ。後で、アイスおごってもらうのじゃ。じゃから死ぬでないぞ、お姉さま」
ひなから、加速系の呪術を掛けてもらいながら、倉庫の二階よりひらりと飛び降りる。
「はぁぁ!」
着地後、一気に前に踏み込み。
レッサーデーモン、バフォメット種を居合の一撃で斬り倒した。
「奈良原、覚悟!」
塵になって滅びていく魔神を確認。
わたしは奈良原へ愛刀の切っ先を向け、大声を放った。
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