第26話 ピアス
そして迎えた第三戦。
東高コンビが勝つことになっている決戦の舞台だ。
最後の勝負は、雑貨屋でのオリジナルアクセサリー作り。
その店で取り扱っているパーツを使って作り、店の人に完成度を判定してもらう。
もちろん店の人もグルなので、判定は間違ってもひっくり返らない。
勝敗は決まっているが、なにを作るかは自由。
パーツと作り方が書かれた説明書まで入っている初心者キットを使うもよし。
自分ですべてのパーツを選んでオリジナルを作るもよし。
できあがったものは自分の物になるので、負けが決まっているからといって手を抜くことはできない。
俺は完全に初心者なので、店員さんからおすすめのキットを教えてもらい、それをもとに作り始める。
古谷さんと菊池さんは経験があるらしく、パーツを選んでゼロから組むつもりのようだ。
店内には様々な種類のビーズやらチェーンやらがあり、女子二人は目を輝かせてそれらを物色している。
ちょっとした宝探しのような感覚なのかもしれない。
ちょっと意外だったのは、森田くんもパーツ選びから始めたことだ。
オリジナルアクセサリー作りというのは女子の趣味という気がしていたが……イケメンはそんな分野まで押さえているのか。
四人中三人がパーツ選びから始めるとなると、俺だけキットというのはどうなんだろう。
俺もそこに加わるべきだろうか?
いや、初心者なのだから冒険はしない方がいい。
負けるのはいいが、完成したアクセサリーは古谷さんへのプレゼントにするつもりなので、失敗はしたくない。
古谷さんのことだから、俺が作ったアクセサリーがどんなにひどい物でも絶対に身に着ける。
だからこそ、面白味に欠けたとしても、無難に作らなければ。
三人がパーツ選びをしている間に、俺は製作を開始した。
作るのはブレスレットだ。ゴムにビーズを通し、端と端を結んで輪っかにすれば完成。説明書に書かれている通りにするだけの簡単な作業だ。
製作は十分ほどで終わった。
他の人たちはまだパーツ選びの最中。
う~ん、早く終わり過ぎたか。
これはキープしておいて、別のやつも作ってみようかな。
ということで、今度は自分でビーズを選び、もう一個ブレスレットを作ることにした。
そうして俺がパーツを選び出すと、入れ違いで古谷さんたちは製作を始めた。
キットは赤がベースだったから、今度は青とか水色にしようかな? なんて思いながらビーズを選び、席に戻る。
作業はさっきやったのと同じなので、今度は十分かからず終わった。
一方、俺以外は結構もうちょっと本格的な物を作っているらしく、まだ終わっていない。
さすがにこれ以上作るのもなんなので、みんながどんなのを作っているか見学して過ごすとしよう。
まず菊池さん。ネックレスを作っているようだ。
今はチェーンに天然石ビーズをつけている最中。今は専門の道具を使ってチェーンとチャームを繋ぐ細かい作業をしている。
森田くんはピアスを作っているようだ。
耳に着けるものだけあって、ネックレスよりさらに細かい作業らしく、森田くんはかなり集中してやっている。
顔がいいだけでなく、手先も器用なのか……ちくしょう、カッコイイなぁ。
そして古谷さんだが……。
こちらもネックレスを作っているようだ。
大きなビーズにワイヤーを通し、さらにビーズの表面をワイヤーで彩ってからチェーンと繋げるデザインのようだ。
小さなペンチを器用に使い、ワイヤーを何度も曲げ、ビーズの上に蝶を描こうとしている。
そして、それがものすごく上手なのだ。
古谷さんにこんな特技があったとは……そういえば、中学は美術部って言ってたな。
もともとこういうのが好きなのかもしれない。
しかし、今はそれを発揮するのはまずい。
このままだと、森田くんや菊池さんよりはるかに上のアクセサリーになってしまう。
出来レースで東高コンビが勝つようになっているが、ワンランクどころかツーランクも違う物を作られては、八百長であることが見ている人にバレてしまう。
「古谷さん、少し抑えて」
マイクが声を拾わないように気を付けながら指摘したが、集中している古谷さんの耳には届いていない。
どうしたものかと高梨先輩を見ると、やれやれと首を横に振っていた。
「この子は集中して制作に取り組むと、周囲の声が聞こえなくなっちゃう癖があるからね。」
と、小さな声で教えてくれた。
そんなところもかわいいが、今はそれどころじゃない。
予定では、今回の勝負は東高コンビが勝って、最後にお互いが作ったアクセサリーを交換して身に着けるという段取りだ。
最初の間接キス、あ~ん、そして手作りアクセサリーの交換と進め、二人の距離を物理的に縮めてやろう――というのが作戦だ。
力を合わせて勝利を掴み、記念品を交換をするというドラマティックな演出。
それを見た東高の生徒たちは、二人が付き合っているんじゃないかと思うだろう。
そういう雰囲気が醸成され、恋人みたいな扱いを受けるようになれば、そのうちどちらかが本当に告白をするはず……という目論見だったのだ。
だが、八百長がバレたらドラマティックも何もない。
三回戦の結果を怪しまれたら、疑惑は当然そこだけに収まらない。ここまでの間接キスやあ~んも八百長だと思われ、二人が付き合っているという雰囲気に繋がらない。
そうなったら作戦失敗だ。
だから、三回戦で俺たちは、疑いようもなく負けなくてはいけない。
なのに……。
古谷さんが楽しそうに作業しているのを邪魔したくはないが、それでも何とかしないと。
「古谷さん……! 古谷さん……!」
小さな声で何度も呼びかけるが、耳に届かない。
森田くんか菊池さんが大逆転できるようなデザインを変更してくれたらいいんだが、どうもそこまでの技術は二人にはないようだ。
こうなったらしかたない。
少しリスクを伴うが……俺は古谷さんに体を寄せて座り、タイミングを見て耳元で囁いた。
「恋湖愛」
「ひゃっ!」
初めて古谷さんの下の名前を呼んだ。
今まで何度かしようと思ったけれど、恥ずかしすぎてできなかったことだ。
思いっきり周りに人がいて、見られているどころか撮影されている中で言うのは、さすがにキツかった。
だが、効果は抜群。
古谷さんは動揺し、持っていたビーズをテーブルに落とした。
拾おうとするが、手が震えてうまく掴めない。
そんな状態でペンチをうまく扱えるはずがなく、そこからの古谷さんの作業はグダグダだった。
結局、彼女は制限時間内に作業を終わらせることができず、勝利は台本通り東高コンビのものとなった。
★★★
対決が終わり、予定通りに勝者二人でアクセサリーの交換。
菊池さんの作ったネックレスは、森田くんによく似合った。
まぁこの男ほどのイケメンなら、だいたい何でも似合うだろうが。
一方、菊池さんはピアスを開けていない。
これはちょっと想定外だぞ……という空気が流れる。
しかし、そこへ森田くんがこう言って流れをまた変えた。
「前にピアスを開けたいけど、なんか怖いって言ってたでしょ? だから、君のために作ってみた。もしよかったら、俺の作ったピアスをファーストピアスにしてほしい」
そう言って手渡されたピアスを、菊池さんは大切そうに握りしめ、
「はい」
と、今にも泣き出しそうな声で言い、微笑んだ。




