第24話 作戦会議
勢いが大事、というのが俺たちの共通する認識なので、そのまま高梨先輩と堀尾さんに連絡を取り、合流することにした。
先輩ともこのあたりのパワースポットの下見に行っていて、すぐに合流できた。
「……と、こういう状況でして、俺たちでなにかしてあげたいんです」
俺が事情を話すと、堀尾さんは、
「あいつらやっと動くつもりになったか」
と感慨深そうに言った。
「気付いてたんですか?」
「一年も一緒にやってきて気付かないわけないでしょ」
まぁそりゃそうか。
何回も会っていない俺でさえ、なんとなくそれっぽい雰囲気を察していたほどだから。
「で、協力していただけますか?」
「いいわよ」
堀尾さんは驚くほどあっさり同意してくれた。
「いつ付き合い始めるのかな? と見守っていたけど、まさかあたしより先にあなたたちを頼るとはね。一歩進んで……進んでないか。せいぜい半歩。たった半歩踏み出すための勇気を出すまで一年。どんだけ歩みの遅い子たちなんだか」
「お互いに半歩踏み出せたなら、それは一歩だと思います」
「へぇ……言うじゃん」
俺の一言に堀尾さんはにやりと笑った。
俺をからかうような言い方だが、森田くんたちを意地悪く笑う堀尾さんに少しカチンときたのだから、口を挟まないわけにはいかなかった。
俺たちだって最初の一歩以外は進展が遅い。でも、それぞれのペースがあって、第三者には笑う権利なんてないはずだ。
「二人で一歩ね。まぁそれはいいでしょ。それで、これからあなたたちは二歩目の手助けをしたいって? 大変よ、どっちも奥手だからさ」
「森田くんはとてもモテるそうですが、それでも奥手なんですか?」
「森田は放っておいてもモテるからね。完全受け身でも女の方から寄って来るもんだから、自分から動くって発想があんまりないんじゃない? 古谷さんならその気持ちわかるんじゃない?」
「……わからないでもないですね。私は自分から動きましたけど、パニックと衝動に突き動かされて、気が付いたらしていた感じなので。しっかり考えてしまったら、逆にできなかったかもしれません」
「菊池は菊池で、自分に自信がないから自分からは動けない。ってことで、あの二人は硬直状態。どっちも相手から動いてくれるの待ち。ったく、恋愛関係のパワースポット巡りの動画を何本も撮ってるんだから、身内からカップルが誕生してくれないと困るってのに。煮え切らないあいつらのために、この題材を選んだところもあるってのにさ」
やれやれ……と堀尾さんは肩をすくめる。
「まぁ森田はうちの学校じゃ一番の大物だからね。狙ってる女、玉砕済みの女は大勢いる。それが誰かと付き合ったら……しかも、自分と同じか、もしかしたら下かもしれないルックスの女と……面白くないと思うやつは少なからずいるでしょうね。それで起きる不協和音がイヤで、二人ともこの話を避けてたところがあるのかもしれない。でも、ようやく動くつもりになったのなら、そんなこと気にしていられないわよね。覚悟を決めたお祝いに、徹底的にやってあげましょう」
そしてそれを撮影する――と、堀尾さんはカメラを構える。
「動画にするんですか?」
「当然。恋愛関係のパワースポット巡りをしてきて、チャンネルからカップルが誕生する。こんなわかりやすいハイライト逃せないわ」
「ちょっと野次馬が過ぎませんか?」
「かもね。でも、マイペースでさせてたら、この期に及んでも何も起きないかもよ。動画にするって言って発破かけるくらいした方が勢いも出るってもんよ」
「高梨先輩はどう思いますか?」
「いいと思うよ。撮影って言っておけば、どんなシチュエーションでも作れるだろうしね」
「たしかに……そういうメリットはあるか。古谷さんは?」
「私も弓月先輩と同意見です」
ということは、多数決で撮影決定か。
「じゃあ撮影するってことで、具体的になにをします?」
「今後の撮影予定の店の中で使えそうなのがあるから、そこに絡ませたいんだけど……」
それから俺たちは計画を練って行った。
★★★
作戦決行の日が近づいてきたある日の撮影後、菊池さんが半分くらい絶望してそうな表情で話しかけてきた。
「森田くんたちのチームはすごくうまくいってるわよね」
「……ええ。再生数すごいですよね」
コラボ動画は、すでにいくつかアップされている。
その中で古谷さんと森田くんの動画は、びっくりするほど伸びている。
俺が見た時点での再生数は五千を超えていた。
一方で俺たちの動画の再生数は、三百にも達していない。
同じチャンネルなので、同じ数の登録者に通知が行くはずなのに、この差……一体何なんだ?
顔か?
結局、サムネに表示されている顔の差がすべてなのだろうか?
「でも、内容では負けてないと思いますよ。きっかけがあれば、俺たちにも伸びる要素は――」
「ううん、再生数は別にいいの。それよりコメント欄見た? 【すごいお似合いのカップル】みたいなのがいくつかあって」
「ああ、ありましたね」
「あれを見てショックで……でも、たしかにお似合いだなと思う。森田くんには、きっと古谷さんみたいな人がピッタリで、私なんかダメなんだなって思い知らされた気分で……」
「いや、古谷さんは俺の彼女ですからね。森田くんとはなにもないですよ?」
「…………でも、うちの学校だと、あの二人が付き合ってるってことで共通認識ができてるの。東高と西高は仲が悪いけど、あの二人ならそういう伝統を超えて付き合っててもおかしくない。いや、むしろ自然……みたいな感じになってて。西高だとそういうのはない?」
「全然ないですよ」
まぁたまにからかってくるやつはいる。「そろそろイケメンに彼女を奪われそうか?」みたいな感じで。
とはいえ、本気で言っているやつはいない。学校にいる間、俺たちがほとんどずっと一緒にいることは、クラスメイトなら誰でも知っているから。
「こうやって噂が広まっていくうちに、二人もその気になるんじゃないかと私は心配で……」
「いや、いらない心配ですよ。古谷さんは俺のことが大好きですから」
「その自信が羨ましい……。でも、古谷さんがそうでも、森田くんは違うかも。森田くんが古谷さんのことを好きになったら、私には万が一にもチャンスはなくなるなぁ。そういえば、森田くんって、なんで動画研究会にいるのかな? なんとなく? だったら、古谷さんを追いかけて西高の写真同好会の外部会員になるって言い出すかも。そんなことになったら、どうする?」
そんなことはありえない。
なぜなら、森田くんは菊池さんのことが好きなのだから。
しかし、それを今俺の口から言うことはできない。
第三者から気持ちを伝言しても、拗れてしまったこの二人の助けにはならないはずだ。むしろ、さらに拗れるかもしれない。
やはりこういうのは、本人同士、顔を見て話すべきだ。
なので、俺は話題を変えることにした。
「そういえば、今度また四人で撮影しようって企画が出たの聞きました?」
「え、聞いてないけど」
「人数ほしい企画なんで、フルメンバーでやるそうです。東西に分かれて対抗戦するとか」
「東西ってことは、私と森田くんで組むの? ……いや、私と小野寺くんで組んでかませ犬になった方が喜ばれるよ」
「ネガティブに俺を巻き込まないでください。大丈夫、きっと良い結果が出ますよ」
この東西対抗戦が、俺たち四人で考えた作戦だ。
これを通して、二人の距離を縮めようってわけだが、さてどうなるか……。




