第22話 コラボ動画撮影
数日後、俺たちは城東商店街へ向かった。
俺たちが城東駅に着いた時には、東高動画研究会は全員集合していて、そのまま六人で商店街に向かった。
途中、すれ違う東高の制服を着た人たちの視線に晒されているような気がした。
別に絡まれるようなことはないが、「なぜここに西高の連中が?」という異物感を持たれているのは伝わって来た。
こういうのを肌で感じることができるようになると、俺もまた東西の緊張の中に組み込まれて行く……これが戦前から続くライバル意識というものの根っこなのかもしれない。
「連絡してある通り、今日は“焼肉チャンピオン”さんで撮影します」
東高動画研究会のリーダー、堀尾さんが道中で説明を始めた。
今日の企画内容はPDFでもらっていたので理解しているつもりだが、それでも対面での最終チェックは大事だ。
「焼肉チャンピオンは、城東商店街で古くからやってるお店で、庶民的な価格が売り……というか、食べ放題専門店。気取った感じはいらない。みんなには、ここでわいわい食事をしてもらい、おいしく楽しい店であることをアピールしてほしい」
「台本は前にもらったやつだけですか?」
俺は挙手してそう訊いた。
「うん。値段と簡単な特徴以外は特になし。まぁ美男美女がおいしく食べてるシーンだけで需要はあるだろうから、それ以外は適当に」
城東商店街は城西商店街と同じくらいの規模で、平日の賑わい方にも大差なし。もしかしたら、こっちもライバル関係なのかもしれない。
焼肉チャンピオンに入ると同時に、甘辛いたれのにおいが鼻腔をくすぐる。
撮影があるので昼は少な目にしたこともあり、猛烈に腹が減ってきた。
「こんにちはー、撮影の件で来ました~。今日はよろしくおねがいしまーす」
堀尾さんがにこやかな笑みで店員さんにあいさつする。
まだ四時過ぎだからか、営業中ではあるが、客席はガラガラ。
俺たちは奥の席に通され、そこで店長と少し話をしてから撮影を始めた。
布陣はこんな感じ。
まず出演者だが、俺と古谷さん、動画研究会のイケメン森田くんと、普通の女子の菊池さんの四名。
俺と古谷さんが並んで座り、同じテーブルの反対側には動画研究会の二人が座る。
動画撮影は、堀尾さんがメインカメラを担当し、高梨先輩がサブ。高梨先輩はその他に、自前の一眼レフを使って写真の撮影も担当する。
――という感じで、撮影が始まった。
★★★
「焼肉チャンピオンさんでは、豚肉と鶏肉が食べ放題。制限時間内ならどれだけ食べても同じだから、部活帰りとか最高ですね」
「なんとご飯もおかわり自由。今の時代でこんなことしてるお店はなかなかないですよ」
という感じで古谷さんと森田くんがカンペを読みながら説明をして、それが終わったら食事を始める。
食事に関しては、別にこれと言った指示はない。
観た人がこの店に来たいと思うように、楽しそうに食べればいいだけだ。
どうすればそういう食事になるのか、イマイチわからないけど……おじさんが一人で食事するだけのドラマが大人気だし、割となんでもいいのかもしれない。
まぁ古谷さんだけでなく、俺も一緒に起用されたってことは、カップルでの食事シーンを望まれてるってことだろう。部活終わりの汗臭い運動部だけでなく、客層を広げたいのかもしれない。
「こうして焼肉に来ると、出会った当日を思い出しますね」
「あの日、いきなりうちの家族と古谷さんの家族で焼肉屋に行ったんだよな。だいぶ前のことみたいに感じられるけど、まだ二ヶ月くらいしか経ってないのかぁ」
「まだという気もしますし、もうという来ますし。では、初心に帰って、同じことをしてみましょうか。小野寺さんのお肉は私が焼いてあげます」
「じゃあ俺も古谷さんの肉を焼いてあげる」
それぞれ自分の手元で肉を焼き、ちょうどいい頃合いで相手の皿に乗せる。
その様子を撮影していた堀尾さんと高梨先輩が、ほぼ同時に親指を立てる。こういう画がほしかったんだ――ってことでいいのかな?
「それにしても、ご飯おかわり自由とかすごいね。どういうからくりなんだろ?」
「さぁ?」
俺たちがその話題を出すと、待ってましたとばかりに堀尾さんから追加のカンペが出てきた。
俺がそれを読み上げる。
「えっと……この店のオーナーが市外に広い田んぼを持ってて、別の人に貸しています。賃料は、お金ではなく米でもらっているため、今でもおかわり自由を維持できている――らしいです」
「つまり年貢ですね」
古谷さんから突然出てきた時代がかった単語に思わず笑ってしまった。
古谷さんは「え、なにか変なこと言いましたか?」と首を傾げているが、そういうところも含めてかわいい。
さて、こういうやり取りが撮れ高になっているかはともかく、一応俺たちは仕事をしていると言えるだろう。
問題は、本来の主役である森田くんと菊池さん。
さっきから全然しゃべっていない。黙々と肉を焼いて、淡々と食べている。
なにか話題を振らないと……。
「お二人とも、っていうかカメラマン含めて、東高の二年生なんですよね? どういう経緯で動画研究会を立ち上げたんですか?」
答えてくれたのは、森田くん。
「会の立ち上げを企画したのは、カメラマンをしてくれてる堀尾さん。菊池さんは堀尾さんの幼馴染みで、俺は堀尾さんにスカウトされたんだ」
続いて菊池さんも答えてくれた。
「市内に多い恋愛関係のパワースポット巡りってコンセプトだから、男女コンビの方がいいだろうってことで、うちの学校で一番のイケメンの堀尾さんに声をかけたんそうです」
質問すればちゃんと答えてくれるんだよな、この二人。
もっと自主的に話してくれると、普段の動画ももう少し盛り上がると思うんだけど。
さて、ここで話が途切れたら元も子もない。このまま俺がMCとなって話を盛り上げないと。
「森田くんくらいイケメンだと、他の女子が多い部から誘われたりしませんでした?」
「まぁ………………あったかな。それなりに」
「その中でどうして動画研究会を?」
「まぁ、それは……」
森田くんは一瞬だけ菊池さんを見たが、その後なにを言うでもなく黙ってしまった。
その視線になにかしらの意味がありそうなのは見て取れたが、肝心の菊池さんは肉をいじっていたので気付いていないようだった。
動画を観ていても思ったが、この二人はこういう感じで噛み合わないことが多い。
視線が合わないというか、一方が相手を見ている時、もう一方は必ず別の場所を見ている。
息が合わなさ過ぎて、逆に合っているような気がする――そんな感じだ。
その後、苦戦しながらもなんとか会話を繋げ、尺を稼いだ。
そして、店が混む前に終了となった。
手応えは……あるようなないような。
まぁ編集次第だ。
「次の収録は明後日の予定なんだけど、今日の収録を終えて思ったことがあるから、明日も集まって作戦会議しましょう。というわけで、今日は解散」
という堀尾さんの声で、この日は終わった。
★★★
翌日、俺たちは再集合した。
その時堀尾さんは、焼肉屋での映像を見せてくれた。まだ仮編集の段階で、ネットに投稿するには長すぎる尺になっていた。それでも、完成形の雰囲気はだいたい掴める。
で、肝心の内容はというと……ちょっと厳しいかな、という感想。
あまりおもしろくないのだ。
自分が出ているから客観的に観られない、という点を差し引いても、些か以上にキツイ。
特にキツイのが、場の空気の重さだ。
俺と古谷さんは会話をしているのだが、森田くんと菊池さんの間での会話がとても少ない。これが重い感じを出している。
わかっていたことだが、映像として第三者の視点から見ると、思っていた以上に二人が噛み合っていない。
そして、こちらも問題だが、俺と古谷さんの会話は、二人で完結してしまっているケースが多い。
動画研究会の結成秘話を訊くなどのシーンはあるが、それも全体から見ればごく一部。
基本的には、四人で食事をしたはずなのに、2:1:1でテーブルを囲んでいたような印象……。
この動画を観て「焼肉チャンピオンに行ってみよう」という同年代が現れるか……ちょっと自信がない。
「一応言っておくけど、悪意を持った編集じゃないから。他のシーンは使い物にならないっていうか、小野寺くんたちが延々と同じようなイチャイチャを繰り返してるだけだからカットするしかなかった」
と、堀尾さんは少しお怒り気味。
「同じようなって……そんなバリエーションあるイチャイチャなんてできませんよ。なにを期待してたんですか」
「そういう意味じゃない! でもバリエーションがあったらもう少し面白かったかも!」
堀尾さんがため息を吐いて黙ると、今度は高梨先輩が口を開いた。
「四人になって変化はあったけど、期待していたような相乗効果は得られていない。森田・菊池コンビが機能していないから、違う店で収録しても同じことの繰り返しになると思う。で、あたしらで少し相談したんだけど、いっそのことチームを二つに分割したらどうかなって」
「分割? 東西で分けますか?」
「それだとコラボにならないでしょ」
あ、そうか。
「そもそも東コンビじゃダメだからのコラボだし。ってことで、シャッフルします。小野寺・菊池、森田・古谷の二チームでそれぞれ別の店に行ってもらう。明日撮影予定の店にはすでに連絡済み」
と、高梨先輩が新しい予定表を見せてきた。
手際がいい。
っていうか、企画パクリの被害者と加害者なのに、この二人は連係取れてるな……根っこの部分が似ているのかもしれない。そういえば、収益化がどうとかって話を、堀尾さんはしていたっけ。
「なにか意見は?」
「あの……シャッフルするのはわかったんですが、俺と森田くん、古谷さんと菊池さんの組み合わせにしませんか?」
「なんで?」
「なんでって……」
誰が好んで、自分の彼女と超イケメンの組み合わせを望むものか。
「この商店街にも、恋愛成就的な意味合いの商品を売りにしてるところは少なからずある。そういうのを動画にする以上、男女の組み合わせで行った方がいい。まぁ、小野寺くんが森田くんに近い顔面偏差値なら、二人で恋愛関係のグッズ見て回れば女子人気が得られそうだけど――」
「いや、たとえ人気が出ても、そういう目で見られるのはイヤなんですけど……」
「だから、画面の見栄え的に美男美女コンビをメインに据えたい。でも、庶民顔コンビにも需要はある。ほら、森田・古谷コンビって、華やかだけどドラマとか映画みたいなウソくささあるでしょ? オフィスものとか、『こんな顔面偏差値高い会社が日本のどこにあるんだよ~』って言いたくなるじゃん? その点、あんたたちだとリアリティ抜群」
「そんなツッコミしながらドラマ見る人います?」
俺は軽く文句を言ってみたが、どうやら通りそうもないのですぐにあきらめた。
写真部に入ってから、お世辞にも活躍しているとは言えない身の上。あまり強気に出られない。
それに、どういう理由にせよ、需要があると言ってもらえたことは、それはそれで嬉しかった……というのもある。
「他に、意見がある人は?」
なかったので、それで決定し、この日は解散になった。
高梨先輩は細かい打ち合わせでまだ残るというので、古谷さんと二人で帰ることになった。
その途中、
「古谷さんを信じてはいるけど、森田くんがイケメン過ぎて、取られてしまうんじゃないか少し心配なんだ……」
本当なら堂々としていればいいんだろうけど、小心者な俺は、わざわざそんなことを言ってしまった。
すると、古谷さんは小さく笑った。
「私のあだ名をお忘れですか?」
「難攻不落の要塞姫……いらない心配みたいだね」
「ええ、必要ありません。森田さんはたしかにカッコイイですが、私は小野寺さん以外と恋をするつもりなんてありませんよ。それに、たぶんあの人は私には興味ありませんよ」
「そうかな?」
「気付きませんでしたか? 昨日一緒に食事をした時、森田さんは私には一切話しかけてきませんでした。彼が話しかけるのは、主に小野寺さんに対して。たま~に菊池さんに話しかけることもありましたが、私にはありません」
「………………そうだったかな?」
さすがにそこまでは覚えていない。
「私は彼のタイプではないのかもしれませんね。私のことより、小野寺さんと菊池さんが仲良くならないかの方が心配ですが……そちらのカメラマンは弓月先輩が担当するそうなので、必要以上に仲良くしないように目を光らせてもらわないと」
「それこそいらない心配だよ。俺の目には古谷さんしか映ってないから」
「なら、なにも問題はないと言うことです。男性がやや苦手な私としては、森田さんと二人で会話を成立させられるか心配ではありますが……小野寺さんとお付き合いするようになって、少しは人として成長したんだ、というところを見せるチャンスだと思うことにします。明日はお互いにがんばりましょう」
「うん、そうだね」
そして翌日、撮影が行われたのだが……。
心配していたような問題は起きなかったが、まったく別の問題に俺たちは巻き込まれた。
いや、巻き込まれに行った――というべきか。




