第20話 ライバル校
商店街の案件が終わってから二週間が過ぎた。
その日、俺たち写真同好会は、商店街にあるカフェで打ち上げとしてパフェを食べることになっていた。
そのパフェは撮影の時にも使った看板商品。
県内産の果物がふんだんに使われており、食べずとも見ているだけで圧倒されてしまうほどの柏陵がある。
ちなみに、お価格も相応に高い。
「撮影の時も食べさせていただいたのに、またいただいてしまうなんて申し訳ないです」
そう言いながらも、古谷さんのスプーンを動かす手が止まらない。
撮影の時は、一日であちこち回らなければいけないから、すべて食べている余裕はなかった。それがよほど悔しかったのか、リベンジとばかりに堪能している。
「よかったらこれお土産にどうぞ。新作のケーキの試作品ですけど」
俺たちが食べているテーブルに店長さんがやってきて、持ち帰りようのケーキの箱を置いた。
中には三種類のケーキが二個ずつ入っている。
「そんな、悪いですよ。でも、ありがとうございます!」
高梨先輩は社交辞令を言いつつも、物ほしそうな目でケーキを追う。
現在進行形でパフェを食べつつ、目は次のケーキを追う。
圧倒的カロリーの暴力。罪悪感を抱かずにはいられないが、強烈な誘惑に抗うのは難しい。
「あなたたちの写真が好評でね、あれを立て看板にしたら、地元の若い人が結構立ち寄ってくれるようになって」
もともとはSNS用だった写真だが、希望する店舗にはデータを渡し、店頭での展示をすることも認めている。
この店は、古谷さんがパフェを食べている写真を立て看板にして、入口の横に置いている。
まるで本物のモデルみたいで、彼氏として誇らしい反面、なぜかちょっと恥ずかしさも感じる。
「若い人は駅前のチェーン店に行きがちで、うちみたいな個人経営のカフェにはなかなか来てくれなかったんだけど、あの立て看板を設置してから急に増えてね。近所の高校の子たちだから、地域交流のつもりで宣伝を頼んでみたけど、まさかここまで効果が出るとは……」
「お役に立てて嬉しいです」
「そのうちまたおねがいがしたいなぁ。他の店も売上に良い影響があったらしいから、今回頼まなかった店からの依頼も来るかもよ?」
「評価していただけるのはありがたいですが、そのうち商店街のどこを見ても、私の顔が見えるようになってしまいそうですね」
「まさに看板娘だね。そのうちあなたの訪れた店を巡る聖地巡礼が始まったりして」
ずいぶんと壮大な話をしているなぁ……。
しかし、高梨先輩の目がギラッと光ったところから察するに、それがこの人の狙いなのかもしれない。
古谷さんが商店街のシンボルになれば、きっと地元のテレビ局が黙っていないだろう。
特集を組んで放送される。それは古谷さんの特集ではなく、写真同好会の特集になるはず。
そうやって話題になれば、高梨先輩の個人的な名声も、同好会から部への昇格も、どちらも成し遂げられる……かもしれない。
「おっと、お客さんが来た。いらっしゃいませ」
カランコロン――と音がして、俺たちと同じ年くらいの男女が入って来た。
奇しくも、俺たちと同じ男女比1:2。
店長さんが言っていたように、立て看板を見てふらっと入って来た人たちだろうか。
だとしたら驚くぞ。今ここに、古谷さん本人がいるのだから。
「……あ、いた。やっと見つけた」
その人たちの中の一人の女子がこっちを見て、どすどすと足音を立てながら歩いて来た。
まさか本当に看板を見てやって来たファンか?
しかし、それにしてはちょっと怖い剣幕だ。
「あんたら、西高写真同好会ね」
「そうだけど、あなたたちは?」
相手がちょっとケンカ腰なので、同好会で唯一の男子である俺が防波堤になることにした。
以前にデートで遭遇した輩に比べれば、他校の生徒なら別に怖くない。
ところで最年長の高梨先輩はというと、彼女らが現れると顔を伏せてしまった。意外とビビリか?
「東高動画研究会……と言えばわかるかしら?」
向こうのリーダー格らしき女子が、鋭く睨みながらそう言った。
「いや、全然」
「なんで知らないのよ! 東高と西高の仲でしょ!」
「そんなこと言われても……仲良いの?」
「めちゃくちゃ悪いわよ。旧制中学時代からのライバル校でしょうが」
旧制中学って……戦前?
それはまたずいぶんと長い因縁だな……。
「地元では有名な話ですよ。偏差値も部活の成績も同じくらいなんです。生徒数も同じなので、地元の国立大にどちらがより多く合格するかを毎年競っているんです。ちなみに、今はうちが二連勝中です」
古谷さんが解説してくれた。
自分が入学する前の卒業生の合格者数を知ってるって……古谷さんもかなり意識しているようだ。
「通算では東が勝ち越してるけどね」
「ですが、通算の合格者数では西が若干上回っています」
向こうのリーダー格の女子と古谷さんが視線で火花を散らす。
なるほど、宿敵なのは十分理解できた。
「えっと、それでその東高の動画研究会さんがどのような御用で?」
「いけしゃあしゃあと。わかってるでしょうに」
「本当にわかりません。まずはちゃんと説明してください」
「あくまでもシラを切るつもり? でも、そっちのはわかっていそうだけど」
と、向こうのリーダーは、俯いたまま無言を貫く高梨先輩を指差した。
う~ん……なんかこっちの分が悪そうな空気がしてきたぞ?
「まぁ落ち着いてください。あまり騒ぐのも良くないですから、座って話しましょう」
それまで俺たちは四人掛けのテーブルを三人で使っていたが、この店で一番大きな六人掛けに移動した。
写真同好会側と、相手の動画研究会側に分かれて座る。
彼女たちは場所代としてコーヒーを注文し、それが届いてから、本題を切り出した。
「あたしたちは抗議しに来たのよ。あんたたち、うちの企画をパクったでしょ?」
「パクった? なんのことやら……」
「これを見なさい」
動画研究会のリーダーはタブレット端末を取り出し、動画サイトを開いた。
それは彼女たちのアカウントで、リーダーの横にいる男女二名が映った動画が何本も投稿されている。
気になるのはその内容。
「市内の恋愛関係のパワースポット巡り……」
俺たちと同じテーマだ。
「なるほど。でも、これだけでパクリと言われるのは心外です。恋愛もパワースポットも鉄板ネタですから、多少のネタかぶりは自然なことではないですか?」
「多少ならね。でも、あなたたちが投稿した写真のうち、西高前の公園やこの商店街以外は、うちとモロかぶりしてるのよ。市内にどれだけパワースポットがあると思う? それがほぼ一致するなんて、偶然じゃ片付けられない」
「言いたいことはわかりますが、それだけじゃパクリの証拠にはならないですよね?」
「あっそ、まだ粘るんだ。じゃあ、これはどう? 日付。全部うちが先なのよ」
相手のリーダーは、一番古い投稿動画を指差した。
日付は一年前。どうやら向こうは去年から活動しているようだ。
俺たちが活動を開始してから投稿された動画を含め、どの場所も俺たちより先に訪れている。
………………。
「高梨先輩、なにか言ってください。俺たちが行ったパワースポットはどうやって調べたんですか?」
「………………ネットで」
「どこのサイトですか?」
「……………………その動画サイト」
「つまりそれって………………」
「東高の人たちのを参考にしました」
パクリじゃねぇか。
俺の顔が青ざめたのを見て、勝利を確信したのだろう。
相手のリーダーが勝ち誇った声で言った。
「さて、事情が呑み込めたようなので、落とし前の付け方について話をしましょうか?」




