表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/47

第30話 巡る策謀


「あっつつつ……ったく、相変わらずチルの魔法は羨ましいくらいの威力だなぁ」

 全身に降りそそぐ熱風が通り過ぎ、俺達以外に動くものが居なくなった大広間にて、俺は手うちわで周囲の熱を逃がしつつそんなことをぼやく。目の前には、黒こげになった岩の塊だけが鎮座していた。言うまでもなく、先ほどまで俺たちを散々苦しめてくれていた、障壁付きゴーレムの残骸である。

 結局のところ、障壁さえ取り除いてしまうことができれば、あとは普通のゴーレム――普通の状態のものに遭遇したことがないのでなんとも言えないが――だったらしい。倒せたからよかったものの、ここからは純粋な打撃武器の入手も視野に入れた方が良いかもしれないな。今回のように硬い敵が出てきたら、切り裂くことに特化した剣では太刀打ちできないのは自明の理だろう。もっとも、現状そんなものを使えるメンバーが居ないのが痛いところだが。

「ん……でも、エイジの攻撃とかが無かったら、貫通しきれてなかったと思う。私ひとりじゃ無理だった」

 自分の渾身の攻撃が通用し、見事にとどめの一撃となってくれたことが嬉しかったのか、心なし綻んだ表情でそう言ってくる。

「まぁ、そうかもな。でも、あいつに有効打を与えてくれたり、とどめを刺してくれてたってのを考えたら、今回の功労者は間違いなくチルだよ」

 チルの物言いに対して、俺は本心からそう返すとともに、彼女のさらさらでつやつやな銀髪を軽く撫でてやった。

 実際のところ、チルが持つ強大な魔力とその攻撃によって、コイツとの戦いに突破口ができたと言っても過言ではないのだ。作戦参謀もどきとして俺が弱点を見つけることができたのも、チルの魔法があってこそ。

 それに、もしこの場にいるのがチルを除いた三人だけだったら、それこそ突破することはかなわず、そのままなすすべなく敗北していたはずだ。だからこそ俺は、彼女が功労者だと考えている。

 そんなことを考えつつ、チルの頭を撫でていると、不意になぜかチルの身長が低くなっていることに気付いた。何事かとチルの方を向いてみると、撫でられていることに抵抗があるのか、赤くなって首を縮こめている。おっと、仮にも女の子に無遠慮だったな。

「……ありがと」

 慌てて手を引っ込めると、縮まったままのチルから蚊の鳴くような謝礼が聞こえてくる。はたして聞こえなかったことにするかどうか迷っていたが、俺に聞かせるような音量ではなかったため、とりあえず聞かなかったことにしておいた。あんまり踏み込んで地雷を踏むのは避けたいからな。

「……んで、こいつの魔晶石は?」

 チルの方は自然鎮火するだろうと考えて放っておき、ひとまず俺はゴーレムの残骸へと向き直る。気配からして、すでに二人が動いていたのは分かっていたので、とりあえず投げかけたのは確認の言葉だ。

「探してはいるけど、たぶんないわよ、コイツ」

 しかし、ユレナの口から帰ってきた言葉は、俺の予想を覆すもの。聞き間違いかとも思ったが、ユレナの言葉は明瞭で、よく通る声をもって俺の聴覚へと届いている。それゆえに、彼女の発言がどうしても不可解に思えてしまった。

「……ないって、どういうことだ?」

「そんなの私が聞きたいわよ。でも、かち割って探してみてもなかったんだから、しょうがないじゃない」

 ユレナの言う通り、彼女とヴィエの足元にはばらばらに砕かれた、元ゴーレムの素材である岩だった石炭が転がっている。かなり細かい部分まで砕かれているその中からは、魔晶石の特徴である紫色の輝きは見えなかった。

 かなり小さい状態で紛れ込んでいる、という線も考えたが、そもそも巨大毒イモムシの時点で剣が突き刺さるほどの大きさだったのだ。多少小さくはなっているだろうが、それでも指だけでつまめるほどの大きさになるとは考えづらい。

 となると、もしかすると俺が割ってしまったのが魔晶石だったという線もある。のだが、魔物と言うのは基本的に、魔晶石が効力を失えば自己崩壊を起こすものだ。俺が障壁を展開する結晶を砕いた後も、痙攣こそしていたが崩れ落ちるようなことは無かったし、思いっきりもがいて脱出を図っていた点からして、俺が砕いてしまったということは無いだろう。

「……ってなると、コイツが原生生物?」

 いや、ないない。こんなどっからどう見ても人工物100%な素材からどうやって野生の生き物ができるんだよ。そもそも「野に」「生きる」「生き物」ですらないし。メンバー各々の反応から見ても、コイツが魔物であるということは疑いようもない事実のはずだ。だったら、必然的にコイツの中に魔晶石がなければおかしいのだが――


「んふふふ……まさか私のサモンゴーレムが、こんなどこの馬の骨とも知れないガキンチョに壊されるとは想定外でしたねぇ」

 なんてことを考えようとした矢先、俺たちの目の前――ちょうどゴーレムが出てきた通路の手前付近から、不気味な甲高い笑い声が聞こえてきた。あまりに唐突に聞こえてきた笑い声に硬直しつつも、俺は石炭の山の向こう、ゴーレムが出てきた通路手前にあった人影へと視線を移す。

 その人影は、一言で言えば「魔導士」といっても差支えなさそうな風貌をしていた。白地に赤を差したローブを身にまとい、ローブについたフードを目深にかぶっているせいで、体格はおろか目元さえはっきりしない。見えるのは、鋭く割けたように三日月を形作る、爬虫類じみた口元だけ。

「……コイツをけしかけたのは、お前か。誰を狙ったんだ?」

 何者か、という考えよりも先に、俺は直感とその口ぶりでコイツの正体を悟った。無意識に口に出してしまったのは失態かと思ったが、とうのローブ男は再び、あの不気味な笑い声をもらす。

「んふふ……知る必要はありません。どのみち、私の目的はあなたの近くを付いて回るでしょうからね」

 返ってきた答えは予想通り、要領を得ないあいまいなものだった。まぁ、簡単に正体を現してくれるとは思っていなかったので、この辺は想定済み。だからこそ、俺は問いを重ねる代わりに所在なく持ち続けていた剣を振り上げ、その切っ先をローブ男に向けて突きつけた。脅しもかねて、魔纏刃を発動させつつ。

「ちゃんと答えろ。自警団に突き出されたいのか?」

 周囲には、俺の行動に合わせてくれたらしい三人が展開している。一対四という、圧倒的に不利な状況だというのにも関わらず、ローブ男はなおも変わらない笑いをもらしていた。

「んっふふふふふ、未知の相手にも臆しないその胆力、嫌いじゃありませんよ。ですが失礼ながら、あなた方と交えるのはまだもう少し早い。今回は、ここでおさらばといたしましょう」

 そこまで言い切ったローブ男は、大仰な動作で両手を上に振り上げたかと思うと、次の一瞬には俺たちの目の前で、まるで幽霊が音もなく消えるときの如く、忽然とその姿を消してしまった。予想だにしなかった現象を目の当たりにして、俺を含めたメンバー全員が動揺を顔に浮かべる。

「何っ――」

「次、遠くない日に会いまみえるときには、必ずやあなたを頂戴します。それまでしばし、かりそめの友情を謳歌して頂きたい。んっふふふふふふふふ……」

 どこからか響き渡るその声を最後に、それきり俺達以外の気配は消えてしまった。しばらくその場で身構えていた俺たちだったが、やがて本当に襲撃が止んだことを確認すると、皆一様に安堵の息を吐く。

「……何だったのかしら、アイツ」

「さあな。でもまぁ、俺たちを狙っているって輩な以上、これ以上ここに長居するわけにもいかないか」

「ん。もう一回あの岩とは戦いたくない」

 三三五五に意見を言い合いながら、踵を返して歩き始めようとしたところで、俺はふと沈痛な表情で突っ立っていたヴィエに気付く。

「……ヴィエ?」

 俺の呼びかけに、はっと我に返ったように顔を弾きあげたヴィエは、どうやら考え事をしていたらしい。会話自体は耳に止めていたらしく、すぐに俺たちの方へと合流し、脱出を図ることとなった。


***


 どうやら、俺たちがゴーレムと戦っていた場所は、ずいぶんと深いフロアの一角だったらしい。脱出にはなかなかの時間を要してしまったが、どうにか俺たちは無事に太陽の下へと帰還することができた。連戦や前後の出来事もあったせいか、みんなしてヘロヘロになっていたりするのは致し方ないだろう。

 各々の小休止を終えて、俺たちは再び一か所に集まった。目的は、意見交換と明日からの方針の決定に絞られる。

「……お三方。勝手で申し訳ないが、先んじてお話したいことが」

 そう考えて口を開こうとしたその矢先、脱出してからも沈んだ表情を戻さなかったヴィエが、意を決したような顔で口を挟んできた。行動の意図をつかみかねて首をかしげたが、もしかすると、事情ができて離脱することになるかもしれないとかいう切実な理由かもしれない。となれば、彼女の話を聞いてから方針を固めるのが得策だろう。そう考えて、俺は頷こうとした、その矢先。

「おい、てめぇら」

 突然、俺たちの方向へ向けて上がった声に、そこにいた四人全員が硬直する。次いで素早くそちらを向くと、そこにいたのは数日前にヴィエへと襲い掛かっていた、小規模な冒険者団体の連中だった。

「……何だよ?」

 こいつらが自分勝手な理由でヴィエに因縁をつけていたのは、彼らの問答を見ていた俺が知っている。だからこそ、俺は隠すことのない敵意をそいつらに向けていた。

「用があるのはおめえじゃねえよ。俺たちの目的は、そこの紫アマさ」

紫色の(アマ)となれば、この場で該当するのはヴィエただ一人。……どうにも、ただ因縁吹っかけてきただけではないらしい。


「おめえには仲間を突き出されたこともあるんだがなぁ……何よりお前は賞金首だからな。丁重に、お縄にかかってもらうぜ?」

 そいつらの乱入は、この街で――あるいはこの街で出会った友人がらみで、もう一波乱が待ち受けているのだということを、嫌と言うほど思い知らされた。

前回更新からひと月も空いてしまい、本当に申し訳ありませんでした!

釈明に関しては活動報告でいたしましたので、この場では皆様にただ謝罪させていただきます。

本当に、お待たせして申し訳ありませんでした!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ