表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/47

第31話 少女の事情

「……さて、とりあえずは情報の整理かな」

 近くにあったカフェのテーブルを取り、それぞれ席に着いた後、俺はうつむき気味なヴィエの表情を伺いつつも口を開いた。議題の内容はもちろん、先ほどの荒くれ冒険者どもが口走っていた内容である。

 ……あぁ、いや、大丈夫。お話(ページ)が飛んだわけじゃなくて、これは仕様です。とりあえず、その辺の説明もかねて、口頭で情報の整理を始めるとしようか。


 俺たちに、というよりは、明確にヴィエを狙って襲い掛かってきた荒くれどもは、ヴィエに向かって「賞金首」と言っていた。最初はその言葉が気になったが、連中が襲い掛かってきたのでとりあえず迎撃。全員ノしたところで、以前も見かけたリーダーらしき男を締めあげてみると、良い具合に情報を吐いてくれた。

 その情報通りに、今度はギルドへと足を運んでみると、そこにあったのは案の定というか情報通りと言うか――「ヴィエの似顔絵が描かれた手配書」。ご丁寧に、絵の下には賞金まで掲示されていた。

 一体どういうことなのかとギルドの職員に問い詰めてみると、返ってきた返事は「公式に発布されたものではないため、現在取り下げ作業を行っているところです」という旨の言葉。言質を取って、手配の撤回を約束してもらった後、割とばたばた動いたせいで気疲れした体を休めるべく、近くにあったカフェへとすべり込んだところで、現在に至る。


「ま、今わかってるのは、ヴィエがお尋ね者扱いされてるってことか」

 一連の情報を口頭で纏めた後、嘆息しながら俺はそう言って口を閉じた。丸テーブルを囲み、俺の反対側になる形で座っているヴィエの表情は、いまだに暗いまま。

 たぶん、追われているのには何かしらの理由があるんだろう。それも、手配書が示していた犯罪者として追われているのではなく、もっと別の理由――おそらくはチルの事情と同じような、複雑で他人が干渉しづらい理由が。そう考えていると、ヴィエがうつむいたままで口を開く。

「……申し訳ございませぬ。最初に話すべきと考えていたにもかかわらず、お三方にご迷惑をかけてしまった。どうやって謝罪すればよいか」

「謝罪はいいわよ。ただ、せめて事情くらいは聞かせてほしいところね」

 ヴィエの言葉を遮ったのは、腕を組んで目を瞑りつつ、背もたれに身体を預けるユレナだった。片目を開けて「ね?」と同意を求めてくるので、俺は素直にうなずく。

「事情を知らないと、ヴィエに謝ってもらったとしても意味ないからな。全部……とはいかなくても、納得できるように説明してくれたら、俺たちはそれでいいよ」

 そうやって形だけながら説得してみると、続けてヴィエの口から漏れたのは「かたじけない」の言葉と、謝罪の意を形にしたと思しき一礼。そして、俺たちが知りたかった彼女の事情だった。



 事情が事情となったのには、彼女の生まれが関係していたらしい。

 元々ヴィエは普通に生まれた子供、というわけではなく、ニーファンのとある一族間で祀られている霊獣(れいじゅう)なる神聖な生き物の庇護下で生まれた、いわば霊獣の愛ぐし子として生まれたんだそうだ。

 そしてその中でもとりわけ、霊獣様の力を強く受けて生まれた子は「精霊の子」として、霊獣を祀る民の長として、一族を率いていく権利があるらしい。

 ヴィエ自身にはあまり人を導く力がないため、その道を辞退して旅人として生きることを選択。以来一人旅を続けていたのだが、ある時問題が起こった。ヴィエがその身に宿す強力な精霊の力を狙って、何処とも知れぬ出自の人間たちに襲われるようになったのである。


「……つい最近までは、自らの力だけで完全に振り切ろうと考えていた。しかし拙者は力及ばず、シエナリースでひと時危ういところまで追い込まれ、命からがらこのグリムウェインへと逃げてきた、という次第に」

 そこまでを話し切ったところで、ヴィエは口を閉じて手に持っていたカップへと目を落とした。直後、思い切り机に頭を叩き付けんばかりの勢いで、俺たちに向かって謝罪の意を伝えてくる。

「本当に、もうしわけない。しかし誠に勝手ながら、我が身の上を話してしまえば万人より敬遠され、自ら見つかりに行くのと同義。ゆえに拙者は」

「隠れ蓑に、使った」

 頤に指を当てたチルに続きを横取りされて、ヴィエがまたしぼむようにうつむいてしまう。アメジスト色の前髪から垣間見える真紅の瞳は、後悔と自責の念に濡れていた。

 ともあれ、一応の事情は把握したので、俺は改めて考える。内容は、彼女の助けになるか否かだ。

 実のところ、ヴィエから引き出せる情報の代表格たる魔纏刃をすでに教えて貰っている以上、彼女を助けて得られるものは少ない。仮に助けなかったとしても、最悪自分たちに降りかかる火の粉だけ掃っておけば俺たちにも損はないので、利益の面で考えるならばさっさと彼女との縁を断ち切って、距離を取るのが妥当だろう。

 しかしまぁ、俺自身がそんなことできない人間だって言うことは、ほかでもない俺が一番知っている。確かに利益面で考えれば道を分かつのが一番なのだが、あいにくと俺は、非常に徹しきれるほどの器を持つ人間じゃないんだ。

 ある意味では、俺がかかわった人間くらい俺の手で守りたいという、子供じみた願望を押し付けているだけ。だけどそれでも――


「……このままではいずれ、エイジ殿たちにも少なくない実害が及ぶ。その前に」

「その必要は、ない」

 再びヴィエの発言を遮って、今度は俺が口を開いた。いきなりのことでキョトンとするヴィエを視界に収めつつ、俺は続きを言葉にする。

「……俺たちが今日相手にしたゴーレムも、誰かから依頼を受けたあの冒険者連中も。確実に、ってわけではないけど、そのヴィエを追ってるやつの回し者だ。ってことは、俺たちはもう巻き込まれてる」

「それは、そうだ。だからこそ拙者は、これ以上の大きな被害をお三方に――」

「気持ちは嬉しいけど、多分それって今更な話だと思うぞ。……俺たちは間接的にでもあいつらと関わっちゃったし、何よりヴィエの事情を聴いてしまった。だったら、俺たちのことを信頼してくれて話してくれたヴィエの為に、俺たちができる範囲だけでも、最後まで付き合うのが義理ってやつだろ。な、二人とも?」

 ちょっぴり格好つけてそんなことを宣ってから、俺は冗談めかして二人にバトンを渡す。問われた二人は、どちらも同じように頷いてくれた。

「ま、エイジの言う通りね。事情を知ったからには、できる限り協力するのが筋ってものよ」

「私は、魔纏刃のお礼もある。だから、せめてひと段落着くまでは、力になりたい」

「皆さま……」

 呆けたように俺たちのことを見まわすヴィエに向かって、俺は小さく親指を立てて、ウィンクを見せてやった。……うん、自分でやって鳥肌が立つから、ウィンクは要らなかったな。

「向かう場所は違うだろうから、俺たちの付き合いはこの街限りだ。でもそれでも、今のヴィエは一人じゃなくて、俺たちがついてる。……話してもらった事情を無碍にするほど冷たくないし、魔纏刃のお礼だってあるんだ。だからせめて、できることくらいはやらせてほしい」

 立てた親指をどん、と自分の胸に突きつけて、俺は明瞭な声でそう宣言する。

 元を正せば、彼女と俺たちが関わることになったのは、俺がいらんおせっかいを焼いてヴィエに助太刀したからなのだ。つまり今こうして彼女の事情に巻き込まれているのも、俺の責任。だったらば、ちゃんと責任をもって付き合いきるのが道理なはずだ。

 自らの考えを胸中で纏めて、俺は眼前で俺を見上げているヴィエを見やる。ぽかんとした表情を見せていたヴィエだったが、やがてその顔は申し訳なさと嬉しさを織り交ぜた、複雑な困り笑いを浮かべていた。


「……かたじけない。そうまで言われたからには、拙者にもそなたたちを頼らせてもらいたい」

 そうして返ってきた答えは、眉根を寄せて恐縮したようなそぶりを見せつつも、真っ黒い雲間に差す光を見つけたときのような、ほんのりと明るい声音だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ