25 剣対盾
「マスター、パルテノスの識別情報を友軍機から変更することを提案いたします」
「……中立だ」
少し考えたうえで、セツトは答えた。味方ではないにしても敵とはしたくなかった。
「了解しました」
言葉通りパルテノスの情報が書き換わった。
パルテノスは円盤ユニットを周囲に浮かばせ、手には棒状の武器を持っている。
待っているのだと思った。
これまでエルザとセツトで戦ったシミュレーション模擬戦の結果はセツトの全勝である。
機体が騎士鎧から|機神≪レガリア≫に変わったところで、兄弟機であるなら性能は同等だろう。気になるとすれば武装の違いだけ。
エリュテリオスの主武装は「剣」である。
本体から離れ、臨機応変に飛翔し、慣性など全くないかのような急転回が可能で、その刀身が纏うエネルギーで対象を斬る。
それ以外の武装はないかミツキに聞いてみると、
「本機に“剣”以外の武装は必要ありません」
という冷たい返事が返ってきたのだった。
それでもビームライフルといった基本的な武装はあったほうがいいのではと提案してみたが、逆にビームライフルと剣の性能比較表を見せつけられ、断固たる抵抗にあってしまった。これについてだけはマスター権限が効かないようだった。
ではパルテノスの武装はどのようなものだろうか。
「ミツキ、パルテノスの武装についての情報は?」
「分かりません。機体名称以外のデータを保有しておりません」
「友軍機なのに?」
「はい。我々は自機に関するもの以外の情報をほとんど持たせられておりません」
セツトは愚痴が出そうになって飲み込んだ。ミツキには十分に助けられている。
棒は攻撃用だろう。もしかするとエネルギーの発振で槍や長刀のようになるかもしれない。
円盤はわからない。
(まずはそこから試してみようか)
セツトはそう決めて、周囲に浮かべた4本の剣のうち3本をパルテノスに向けて飛ばした。
3本の剣が一直線にパルテノスへ向かった。
パルテノスの円盤がひとつ、パルテノスの正面に回り、エネルギーシールドを展開した。
盾だ。
盾が3本の剣を受け止め、切っ先を止めた。突き刺せない。押し込めない。
セツトは剣をいったん退かせ、今度は散開させて3方向から攻撃を加えようと試みた。
パルテノスの円盤盾がそれぞれの軌道に対応して盾を展開し防いだ。
(これは、相性最悪かもしれない)
あの盾をどうにかしなければセツトに勝ち目はない。集中攻撃で破るか、手数でかいくぐるか。どちらかでなんとかなるだろうか。
思いついたことを片っ端から試してみようか。
そう思っていると、パルテノスが動いた。円盤ユニットが二つ、エリュテリオスを挟み込もうとして飛んできた。
セツトはとっさに機体をその場から飛びのかせた。
一瞬遅れて、二つの円盤が球形のシールドを作り、つい先ほどまでエリュテリオスがいたあたりを囲い込んでいた。
囲われていたら脱出できなくなっていただろう。
(防御と拘束。いやもしかして拘束の後範囲を小さく変形させていって押しつぶすことまでできるか?)
できそうなことを推測してみた。
反則じゃないだろうか。こっちは斬るか突き刺すしかできないのに。
ひとまず捕まってはならないことが最重要課題に躍り出た。セツトはエリュテリオスを高速で移動させ回避機動を取らせた。エリュテリオス自身もまた、剣と同様に360度慣性無視の急転回が可能だ。本気で回避機動を取れば捉えるのは難しいだろう。
「ミツキ、どう!?」
期待せず聞いてみる。
「私の剣が通じなくて悔しいです。これが涙? これがココロ??」
「意見じゃなくてアイデアを出してほしいな!」
「はっ! 失礼しました。対応策を検討いたします」
「頼むよ!」
ミツキと話しながらも、セツトは自分で思いついた手を次々と試していく。
3本でダメなら4本での集中攻撃。
苦労する様子もなく止められた。
鋭角的な急転回を繰り返しての不規則攻撃。
しっかりと軌道上に盾が来た。
時間差で攻撃すると見せかけて急転回しまだ盾を発生させていない円盤の破壊を試みる。
きっちり守られた。
「トンデモ盾じゃないか!」
「提案いたします。パルテノスの盾は常に円盤ユニットの同じ面で展開されています。展開された盾の反対側から攻撃を加えれば円盤を破壊できる可能性があります」
「採用!」
セツトは、ミツキの提案をすぐに容れた。
一本の剣で盾を展開させ、残りの剣でその背後を狙う。その円盤が回転し面をそちらに向けようとする。しかし面が向くより先に剣が届きそうだ。
キィン。
音が聞こえてきそうなほど鮮やかに、円盤が発生させた半球形の盾に剣が受け流された。受け止めるだけでなく受け流しもできることがこれで分かった。
「まだまだぁ!」
セツトは思いついた方法をすべて試していく。
パルテノスはたびたびエリュテリオスを球形盾で捕獲しようとしてくるが、一度見た方法である。捕らえようとしてくる円盤を剣で攻撃することにより防御を強制してしまえば恐れるに足りなかった。
戦いは互いに決定打を欠いたまま、時間だけが過ぎていった。
最強の剣と最強の盾が千日手を繰り広げる。
このままどちらかがミスをするまで続くのだろうか。
「マスター、ドロップアウト反応です」
世界は二人だけの世界に居続けることを許さなかった。
「フリゲート級2隻。1隻は極めて近いです」
セツトの目前といってもいい至近距離の空間に穴が開いた。
そこから帝国軍のフリゲート艦が通常空間へと抜け出すように戻ってくる。
全長およそ1 キロメートル。巨大な船だ。
フリゲート艦はすぐに艦尾から噴射炎を吐き出し始めた。〈黒銀の栄光〉を追うつもりだ。
(隠れる時間はあるか?)
〈黒銀の栄光〉は、多少は速度と距離を稼いだとはいえまだ近いところにいる。
「対象が〈黒銀の栄光〉を失探する確率、ゼロパーセントです」
セツトの言葉を待たずにミツキが計算をしていた。
超空間の嵐が通り過ぎるまで約2日かかると予想されている。
その時間を通常宇宙空間で稼がなければならないことを考えると、失探させられないのはかなりの痛手だ。
「目の前の船を行動不能にさせた場合は?」
「隠密は成功するでしょう。また、脱出の際の戦闘も容易になります」
「できるか?」
「さきほどから本機の攻撃性能に疑念を抱かせる事態が発生しておりますが、対象が<黒銀の栄光>と比較して3倍以上の強度を有していない限り、マスターが現在考えている作戦は実現可能です」
「わかった」
悩んでいるような暇はない。
やるんだ。
セツトは剣を戻すと、エリュテリオスを加速させ、共にパルテノスに背を向けた。一直線にフリゲートへ向かう。
パルテノスは追ってくる。
しかしもともとエリュテリオスの方がフリゲート艦に近かったのだ。パルテノスがエリュテリオスを止めることはできない。
剣が発射された。
4本の剣が光の矢となって平行に飛び、フリゲートの上方から艦体に突き刺さった。
狙いは4つあるフリゲートの動力炉だ。
装甲は紙ほどの抵抗もなく、船体構造も全く勢いを削ぐことができず、狙い違えず動力炉が貫かれた。
フリゲートの船体内部で爆発が起こった。
それは巨大な船体を揺るがすほどのものではないが、すべての動力を失ったフリゲートはもはや棺桶に等しい。
噴射の燃料制御ができず加速が途切れた。発振していたレーダー波も消えた。
フリゲートはただの巨大な置物となり慣性に従って最後の移動方向と速度のまま宇宙を漂い始めていた。
「フリゲート艦、惑星への突入コースに入りました」
2つの機体のAIが、同時にそれぞれの操縦者に同じ事実を告げた。




