表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/27

3.氷の騎士の探し物

 なぜここにリエーヴェル副隊長が!?


 私が上げた驚きの声が届いていたのか、本に集中をしていたリエーヴェル副隊長の指先がピクリと跳ねた。

 同時に私の心臓も跳ねる。またあの金色の瞳に睨まれたらと思うと冷や汗が背中を伝い、足が竦んだ。


 元々静かな図書館に、ぱら、ぱら、とリエーヴェル副隊長が本をめくる音だけが静かに響いて聞こえてくる。



 ……な、なにも言われない。



 私がここに居ることには気が付いていると思う。だけど気にすることなく、リエーヴェル副隊長は本を読み続けていた。

 そもそもなんでここにリエーヴェル隊長がいるの?

 ここの列は殆どが物語関連の書籍だ。私が自分の本を追加していることを偽装するため、元々王宮図書館に存在していた物語関連の本をここに集めた結果、3つの本棚が物語で埋め尽くされている。

 だからここには戦術書等の物騒な書籍はない。氷の騎士と呼ばれるリエーヴェル副隊長が読むようなものなんて存在していないはずな、の……に?


 私は自分の目に映ったものが信じられなくてゴシゴシと目を擦った。




……………白雪姫ッ!?



 リエーヴェル副隊長の手には、紐で綴られただけの簡素な本が収まっている。その表紙には私の字で『白雪姫』とかかれており、私の作った記憶の中の物語の内の一つだと直ぐに分かった。

 え、なんで白雪姫?あれは恋物語、氷の騎士が読むような代物じゃない。

 もしかしてリエーヴェル騎士はその見た目や性格からは想像つかないけど、こういうおとぎ話が好きなの?

 驚きで開いた口が閉まらないでいると、視界に映るリエーヴェル副隊長の眉間に皺が寄った。


「……用があるなら早くしろ」


 初めて聞いたリエーヴェル副隊長の声は、不機嫌を滲ませた声をしていた。本から視線を外さないまま鋭くなっていく目頭に、さっさとしろと言われているような気がする。


「い、いえ!お邪魔になりますので後ほどにします」


 こんな威圧的な空気、耐えられない!私の本棚はリエーヴェル副隊長の目の前にある。あそこに近づくことができるほど私の心臓は強くない。

 私は極力、焦りなどは悟られないように優雅に元来た道を戻ろうと振り返る。

 リエーヴェル副隊長が居なくなるまでどこかで時間を潰すか。……いや、今日は駄目だ。また別の日に来よう。私は両手で胸元に押し付けるようにして『三匹の子ブタ』を抱きしめて歩き出した。





「待て」


 しかし、進めようとした足は冷たい声によりビシリと凍り付く。

 な、なぜ呼び止められたのでしょう?

 背中に感じるのは強い視線。


「……その黒髪、式典の時に2階にいた女官か?」


 すぅっと血の気が引いた。やっぱりリエーヴェル副隊長はあの時私を見ていた…?

 黒髪は珍しい色ではない。ハールック家の収める領地があるルノワール王国の東側では黒髪の方が多く、そちらではリエーヴェル副隊長のような透き通る水色の方が珍しい。しかし王都は、黒髪を持つ人が少なく、王城にも私以外に黒髪を持つものは居ない。

 リエーヴェル副隊長の口からでた「黒髪」という一言が、私を表していることは明白だった。


 カツ、カツ、カツと靴の鳴る音が近づいてくる。

 そんなに離れた距離ではないのに、とても長い時間のように感じた。

 カツン、と足が止まった音がした。私は勇気を振り絞ってぐぐぐっ、とゆっくり振り返った。視界に映ったのは、白い騎士隊服。

 予想していたよりも近い位置まで来ていたリエーヴェル副隊長は、困惑の表情で私を見下ろし、その金色の瞳は何かに迷うように揺れていた。



 ……私、どこかでこの瞳を見たことがある気がする。



 いつだろう、こんな綺麗な金色の瞳を私はどこで見たの?

 まるで吸い込まれるかのように金色の瞳に目を奪われていれば、それを遮るように冷たい何かに目を覆われた。


「え?」


 思わず目元へ手を伸ばせば、冷たくてごつごつとした、だけど少し柔らかくて滑らかなものが指先を滑る。

 これは、手?

 誰の?




………リエーヴェル副隊長のッ!!?



 慌てて後ろに下がろうとすれば、それを阻止するように腕を取られた。


「逃げるな。私はお前に聞きたいことがあるだけだ」


 私もどうしてこんな状況になっているのか聞きたいです!

 驚きと困惑であたふたするも、目元の手はがっちりとくっついていて離れない。

 掴まれていた腕をぐっと強く握られた。


「お前は、ロジーナ・ハールックで間違いないな?」

「へ?」

「ハールック子爵家の末娘、ロジーナかと聞いているんだ」


 リエーヴェル副隊長の涼やかで冷静な声が思っていたよりも近く聞こえた。

 ……なんで私のことを知っているの?

 心臓がうるさく鳴り響く。

 やっぱりリエーヴェル副隊長は私の事を知っていた。でも、何故私の事を?

 疑問が頭を占めていく中で、とりあえず私は小さく頷いて肯定した。


 やはりそうか、と独り言のように呟いたリエーヴェル副隊長は、腕を掴んでいた方の手を離してくれた。

 よかった、と息を吐き出せば、するりと髪に何かが触れる。


「この真っ直ぐな黒髪、間違いなかったな」




………………かッ、髪の毛触られている?!



「ああああああのっ!」

「騒ぐな、うるさい」


 驚きから思わず大声を出せば、ここは図書室だ、静かにしろ。と冷静な声で注意をされた。

 どうして私が怒られるの。

 そもそもリエーヴェル副隊長が私の髪の毛を触るなんて、予想外の事をしなければ私だって驚かなかった。

 理不尽だと胸に不満が沸き起こるが、冷静になろうと小さな深呼吸をして心を落ち着かせる、…………が。


 ………目を隠す手が気になって全然落ち着けない。


 私は目を覆うリエーヴェル副隊長の手を退かすように少し身じろいだが離れなかった。


「あ、あの」

「なんだ」

「何故私は目を隠されているのですか?」

「………私は見られることが嫌いなんだ、このままでも問題ないだろ」


 問題有りすぎ!


「それよりもハールック、お前に聞きたいことがある」

「え!?本当にこのままですか!?そちらを見ないようにしますので離してください」

「……………」


 なんで無言なんですか。

 しばらく沈黙に耐えていると、はぁ、と耳に溜息が届き、す、と目を覆っていた手が退けられた。視界に数分ぶりに光が届く。思わず目を瞬かせて視界を慣らしていると、不機嫌そうな顔をしたリエーヴェル副隊長が向かいの本棚に背を預け、腕を組んでこちらを睨み付けていた。


「……………」

「……………」


 目があったまま沈黙が流れる。リエーヴェル副隊長の目は鋭く尖ったまはまだ。

 そんなに目隠ししておきたかったの?

 黙るままのリエーヴェル副隊長に私から何か話しかけた方が良いのか迷っていれば、リエーヴェル副隊長は、ふい、と私から視線を外した。


「こっちを見ないようにするんじゃなかったか?」

「すみません!!」


 そうでした!私が見ないようにするって言ったのでした!

 慌てて私もリエーヴェル副隊長から視線を外すためにぐりん、と横を向いた。

 会話をする時でも見られるのが嫌だなんて、リエーヴェル副隊長は本当に女嫌いなんだな。


「ハールック、先ほども言ったお前に聞きたいことだが」

「は、はい。なんでしょうか?」


 そう言えばさっき私に聞きたいことがあるって言ってたっけ。私のことを知っているのはそれが関係しているのかな?


「私には探している物語がある。お前がその物語を知らないか聞きたいんだ」

「探している物語、ですか?」


 視界の端でリエーヴェル副隊長が小さく頷いたのが見えた。


「まだ子供だった頃に聞いた物語だ。その物語が何という題名なのか、どのような内容だったのかは覚えていないんだが、その物語を聞いたときの事だけは鮮明に覚えている。私は、その物語を思い出したい……」


 耳に届くリエーヴェル副隊長の声は、昔を懐かしむように、だけどなんだか寂しそうな、そんな声だった。

 物語なら詳しい自信があるけど、情報が無さ過ぎる。


「題名も内容も思い出せないとなると、私にも物語の見当がつかないかと……」

「あぁ、そうだろうな。だが中身について一つだけ覚えてることがある。それがこれだ」


 すっと、目の前に『白雪姫』が差し出され、表紙を捲ったリエーヴェル副隊長がある箇所を指差した。

 昔々、あるところに……?


「私が探している物語も、この白雪姫の物語と同じく『昔々、あるところに』という始まり方だった。だがこの白雪姫は私の探している物語ではなかった」

「え?」


 私の記憶の中の物語は全て書き始めが『昔々、あるところに』だ。それに私が調べてきた中で、この始まり方をしている物語はない。

 つまり、リエーヴェル副隊長が探している物語というのは、《私の記憶の中の物語》ってことじゃ………。

 でも、どこでリエーヴェル副隊長は私の物語を聞いたの?私はリエーヴェル副隊長と話すのはこれが初めてだ。記憶をひっくり返しても透き通る水色の髪をしている人は思い出せない。

 私が困惑する中、差し出されていた白雪姫が閉じられ、変わりに今度は『シンデレラ』を渡された。


「この物語も私が探しているものではなかったが、これも『昔々、あるところに』という始まり方をしている。……そして、偶然だが私はこのシンデレラを知っていたんだ」

「知っていた?」


 どうして……?

 私はゆっくりとリエーヴェル副隊長の方へと振り返った。金色の瞳が真っ直ぐに私を見つめていた。




「ロジーナ・ハールック、お前がこの本を作ったんだろう?」

  


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ