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パルマが相談に来てから数日後の朝。
チロがいつものように身支度を終えて一階に下りると、何やら厨房が賑やかな事に気が付いた。
「お、チロちゃん!」
「あれ? パルマさん、おはようございます」
厨房に行けば、いつも通り一番早く起きていたファズと共にパルマがいた。
こんな早い時間にどうして、と質問しかけるも、その前にファズが口を開いた。
「チロさん、例の件ですが出発日程が決まりました」
例の件と言われて、そこでチロはパルマがいる理由を察する。例の問題の仕入れ先との連絡結果を伝えに来てくれたのだろう。
「いつですか?」
「今日の昼です」
「へえ、今日の……、……今日!?」
早いどころじゃない予定を聞いて、チロは思わず大きな声を上げる。
が、よく見れば厨房の隅には、明らかに数日分の荷物が詰まっている肩掛け式のバッグが置いてあった。
「……冗談じゃないんですね」
「ええ、チロさんは荷物纏まってますか?」
「えっと、まあ大体は。この間ファズさんが言っていたので……」
念の為にと荷物を纏めておいたリュックサックが自室のベッド横にあるはず。
思い出しながらチロが答えれば、ファズはよしよしと言うように頷いた。
「流石ですね、では荷物の最終確認をしておいて下さい。私はシェイムさんを叩き起こしてきますから」
「あ、私行きますよ? どうせ荷物は自分の部屋にあるので二階に行きますし」
チロが過ごす部屋の斜め前にある部屋、其処にシェイムは住んでいる。因みにその隣がファズの部屋である。
あれだけ険悪な仲なのに、と疑問に思ったチロがファズに以前問い掛けたところ、「監視下に置かないと絶対に借金を踏み倒すと思うので」と、真っ直ぐな眼差しで答えられた事は忘れられない。
「いえ、寝惚けた彼奴が貴女に何をするか分かりませんから。それに私が起こした方が、彼奴も目が覚めるでしょう」
そう言うとファズは調理台を漁り、目当ての物を持つと、さっさと二階へと行ってしまった。
見送ったパルマは階段が軋む音を聞きながら首を傾げる。
「アイツ今、何でフライパンと麺棒持ってったんだ?」
「あー……気にしないで下さい」
すぐ分かりますから、とチロが言った途端、二階からガンガンガンと大きな音が響いてきた。次いで悲鳴、何かが盛大に落ちたような物音。
「「…………」」
数秒してそれらの音は消え、静けさを取り戻した厨房でチロは乾いた笑みを浮かべた。
「……ね?」
「……大変だなぁ、チロちゃん」
それから暫くすると、何処か満足気な雰囲気を漂わせているファズと、顰め面で片耳を押さえたシェイムが厨房へとやって来た。
「あー……まだ聞こえが悪い気がする」
「アホ羊」
「黙れバカ蜥蜴、聞こえてるよ。あんな起こし方、今時お母さんでもやらないだろうってのに……」
「悪いな、シェイム。向こうさんが『なるべく早くが良い』って返してきたもんだから、俺が急かしちまったんだ」
申し訳ないとパルマが眉を下げて謝ると、シェイムはへらっと笑って片手を振った。
「いーのいーの、パルマさんの所為じゃないって」
「そうですよ、気にしないで下さい」
「お前は少しは気にしろよ……」
フライパンを片付けながらしれっと口を挟んだファズを、シェイムは口角を引きつらせながら睨み付ける。
このままでは話が進まない危険性を察したチロは空気を変える為にパンッと手を叩いた。
「ほら、あんまり喧嘩しないで下さい! それよりも出掛ける支度を済ませちゃいましょう?」
「ですね、パルマさんが行きの馬車を手配して下さるようですし」
「おう、魔物に関しちゃ力になれない分、それくらいはさせてくれ!」
「有難うございます、パルマさん。しっかり原因を調べてきますから──」
──ぐう、きゅるる。
「「…………」」
愛らしく訴えるように鳴いたのは、誰しもが馴染みのある腹の虫。故に普通は、誰の虫が鳴いたのかと疑問に思うところだが、視線は揃って一点へと向けられた。
「……まずは、朝ご飯にしましょうか」
ファズがぽつりとそう言えば、耳まで真っ赤にしたチロは両手で顔を覆いながらも、こくんと首を縦に振ったのだった。




