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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
99/153

ダルシア帝国の継承者

435.

 それは『惑星カルガリウム委員会』と言った。

 数日前までは『惑星カルガリウム』と『委員会』の間に『帰還』という文字が入っていたのだが、いつの間にかその文字が抜けて、ただの『惑星カルガリウム委員会』になっていた。と言うのも、彼ら惑星カルガリウムの住民たちは元の惑星に戻れると聞いたのだが、そうすると今住んでいる都市を出なければならないと言う事実に、遅ればせながら気が付いたためだった。

 リドス連邦王国の短期滞在兼災害用都市担当の者が、住民たちに惑星カルガリウムへ戻れると告げた時、今住んでいる都市を離れて戻らなければならないことも伝えたのだ。

「ちょっと待ってくれ。このまま戻れるのではないのか?」

と、住民は言った。

「この都市はリドス連邦王国の所有の短期滞在兼災害用都市です。それをあなた方にお貸ししたのです。いつまでもここに住めるわけではありません。初めにそのことはお伝えしたと思いますが……」

「確かに、そう聞いたが、こんなに早く戻れるとは思って居なかったのだ……」

 それにしては、ここの便利な生活にあまりにも慣れ親しみ過ぎたと言うのが本音だった。

 この都市では大人も子供も、仕事をするにしても勉学に励むにしても、それが誰にでも可能なようになっていた。もちろん、仕事にはある程度の知識や資格が必要だった。だが、そのための学校や専門学校などが誰にでも通えるようになっており、特に彼らは難民と言うことで格安で、働きながら通うことができたのだ。そのため、元惑星カルガリウムのホームレスであったとしても、ここでは他の大人たち混じって新たな人生を始めることが出来たのだ。もちろん住む場所についても、この都市の標準住宅に無料で住むことが出来たから可能になったのだ。それは孤児であっても同じで、リドス連邦王国の孤児養育システムを取り入れてかなりうまく行き始めていた。

 それなのにこの都市を離れなければならないとすると、また元の劣悪な生活環境に戻らなければならない者たちが大勢出来てしまうのだ。それを憂えて居る者もいた。

「何とか、このままこの都市に住むという方法はないのだろうか?」

「それは……」

 そんな厚かましい要求をされたことは、これまでその担当者にはなかった。しかし、ほとんどすべての住民がそれを望むとするならば、それを拒んだ時どんなことが起きるか予想できなくはなかった。そのため、ヘイダール要塞へ緊急事態として連絡されたのである。


「惑星カルガリウム委員会?何だそれは……」

と、ヘイダール要塞の司令室の大スクリーンでその話を聞いたクルム司令官代理が言った。

「つまり元惑星カルガリウムの住民たちで作っている政治的な代表ということです」

と、リドス連邦王国からパトロール任務で来た艦隊のハル・バルベリー提督が言った。

「その政治代表が惑星カルガリウムへの帰還を拒んでいるというのですね」

と、ディポック提督が困ったように言った。

 彼としてみれば、元新世紀共和国の惑星カルガリウムの市民がそのような厚かましいことを、彼らを好意で引き受けてくれた国に要求することは恥ずかしく思えるのだった。もちろん、その気持ちはわかるが、だからと言って我儘を通すことはできないと考えていた。

「我が政府はあまり手荒なことはしたくないと言うことで、ヘイダール要塞の方々に彼らの説得をお願いしたいと言ってきているのです」

「説得は無理ではないかな」

と、ダズ・アルグが言った。このようなことを行って来る連中では、とても説得などしようがないと彼は思ったのだ。

「それでは身も蓋もない。ともかく、話をするだけはしてみないと……」

と、ディポック提督は言った。

 惑星カルガリウムの住民たちが始めの転送で来たのがこのヘイダール要塞であるし、ディポック提督は彼らを迎えるために一々転送装置の傍に行っていたのを覚えていたのだ。そのため多少の責任を感じていた。クルム司令官代理も同じで、惑星カルガリウムの住民の転送に付いては彼もその救出作戦に参加したので、知らぬふりはできなかった。


 ヘイダール要塞から転送装置を使って、ディポック提督とクルム司令官代理は惑星カルガリウムの住民の住む、リドス連邦王国の短期滞在兼災害用都市へと向かった。

 その都市は強力なエネルギー・シールドで守られた半球型の宇宙都市だった。転送装置を使うので、ほとんど時間は掛からなかった。およそ一時間で着いた。この一時間の内、転送装置まで行くのにかかった時間の方が長かったものだ。

 転送装置はこの宇宙都市の中央にあった。まるでモニュメントのようにそびえていた。そこに着くと、エネルギー・シールドの外にある暗い宇宙空間に星々が光っているのが見えた。

「ほう、ここからは宇宙の星々がすぐ近くに見えるのだな……」

と、クルム司令官代理は言った。

 その時、

「ヘイダール要塞の方々ですか?」

と、見知らぬ人物が話しかけて来た。

「私は、ヤム・ディポックです。こちらはクルム司令官代理です」

「私は案内役のルーブ・グドルフと言います」

「そうですか。どうも、お世話になります」

と、ディポック提督は言った。

「ここは、今ではとてもいいところだと思って居ます。最初はちょっと馴染みにくかったのですが……。惑星に住んでいたので空が青くないというのも、結構気になるものでしたが……」

「でも今は、ここがいいと言うのですね」

「そうです。皆そう思って居ます。暮らしやすいのです。何と言うか、新天地とても言ったらいいのでしょうか」

「だが、惑星カルガリウムも移住してきた者達にとっては、そこも新天地だったのではないのか?」

「ただ、あちらは何もなかったのです。最初は住む家も食べ物もなかったのです。ですが、ここは全て整えられていて、そこに対応すればいいだけです。それに政治でも自治が許されているのです。これがもし、惑星カルガリウムに戻ったら、いずれ帝国軍がやって来て自治も許されないでしょう。それも不安の一つなのです」

「だが、いつまでもここに居るわけにも行くまい。ここはリドス連邦王国の物なのであって、元新世紀共和国ではないのだ」

「それでも元新世紀共和国の市民は帝国に支配されるのは望んでいません。自治を望んでいるのです。ここでは彼らの望みは叶えられるのですから……」

「自治か、しかしこのままここに居るということはリドス連邦王国の国民になるということではないのか?」

「そうです。ですが、新世紀共和国はすでに亡く、辺境の惑星カルガリウムはあのままではどうやって生活を立てて行けばいいのかわからないのです。特別な産物や資源があるわけではありませんし……」

 当時惑星カルガリウムでの市民生活が成り立っていたのは、元新世紀共和国が銀河帝国と戦争をしていることで、様々な軍事用の武器の部品を造る工場があり、その工場の従業員を食べさせるために政府が食料を他の惑星から回していたからなのだ。その戦争が終わり、元新世紀共和国の政府もないので工場も閉鎖されている。惑星カルガリウムでは軍事用の部品工場を作っても、食糧のための農場は作られていなかったため食料そのものを生産することができない。それが一番の問題点だった。

「まあ、それも含めて、話をするために我々はここに来たのです」

と、ディポック提督は言った。

 案内された場所は、この宇宙都市の政庁舎とても言うべき建物にあった。転送装置の近くにある高い塔で、最上階にある球形の部屋の中だった。会議室としてはあまり広くないが、この都市の政治的代表が集まって合議をするために使われているという説明があった。すでに『惑星カルガリウム委員会』のメンバーが席についていた。

「ディポック提督、ようこそわが宇宙都市『1』へ」

と、白い口髭を生やした人物が言った。

 リドス連邦王国の短期滞在兼災害用都市は決まった都市の名はなく、使っている数だけ『1』から『5』まで数字で呼ばれていた。

「どうも、思ったより早く惑星カルガリウムへ戻ることが出来るようになったので、それをお知らせしに来ました」

と、ディポック提督が話し出した。

「提督、その話は聞いています。しかし我々は戻りたくないのです」

「それは全員の意見ですか?」

「もちろん、そうです。元惑星カルガリウムの市民は約五千万人です。その市民の総意なのです」

「ですが、この宇宙都市はそもそもリドス連邦王国の所有です。こちらの都合でこの都市を自分たちの物にすることはできるのでしょうか?」

 『惑星カルガリウム委員会』のメンバーは、様々な年齢の者達がいるようだった。その中で二十代に見える人物が言った。

「この都市を欲しいというのではなく、我々はここの技術に言わばほれ込んでいるのです。惑星カルガリウムは元新世紀共和国においても、単なる辺境の一惑星でした。形だけの建物のある都市はありましたが、そこには買い物をする店もなく娯楽もありません。それに都市の外には自然そのままの山野や砂漠があるだけで何もありません。そのような場所には帰りたくないのです」

「なるほど、ではどうするつもりなのか?」

と、クルム司令官代理は聞いた。

「もう少し聞いてください。実はこの都市は惑星カルガリウムの都市とそれほど変わりません。もちろん、この都市は宇宙に浮かんでいますし、様々な先進的な技術の集積した都市です。我々はここに住んでいます。そうした先進的な技術の恩恵を受けて、前よりも良い生活をしていると感じています。そして、我々の多くは毎朝この都市から働くために転送装置を使って、リドス連邦王国の様々な場所に通勤しているのです」

「それでは、ここで働いているのではないのか?」

「ここで働いて居る者もいます。この都市を住みやすくするために色々な仕事もありますし、ですが、その多くは都市外に出て働いているのです」

「つまり、この都市は住民が住んでいる、ベッドタウンということか?」

「そうです。もちろんここには必要最小限の仕事だけではなく、食糧を生産する工場もあります。何か起きて他所の場所へ移動できなくなった場合を考えて、そうしたものもあるのです。ですが、本来ここは人の居住を中心にした都市、ベッドタウンなのです」

「で、帰りたくないと言う理由はどんなことなのだ?」

「ここは住む都市としてはとても理想的な場所です。ですが、働くための場所ではありません。それは他の場所で働くようにできているからです。ですがここを出て行ったら、働くこと、つまり仕事自体が無くなってしまいます。ここでは他の惑星に働きに出るのに便利なのです。あの惑星カルガリウムではそれでなくても、人手は余っていました。特に戦争が終わった後は、働く場所そのものがなかったのです。その上、ここでは買い物をするにも娯楽や観光をするにも、便利なのです」

「転送装置を使えば、時間は掛からないということか」

「そうです。それに、どこにでも行けます。リドス連邦王国の首都星にも、観光用の惑星にも。いつでも、どこへでも行けます」

「要するに、何が欲しいのだ?」

「リドス連邦王国の先進的な技術、せめてその一つである転送装置を惑星カルガリウムへ持って行きたいのです」

「転送装置を?だが、そんなこと彼らは許可するのだろうか」

「その点について、我々は交渉をしたいのです。お二人とも、我々の話を聞いて共鳴していただけませんでしょうか?」

 ディポック提督とクルム司令官代理は顔を見合わせた。

 転送装置については、元新世紀共和国にも銀河帝国にもない技術だ。それを簡単に銀河帝国の新領土内にある惑星カルガリウムへの技術移転に許可を与えるとは思えなかった。それでなくても他国にない技術というのは国家機密ともいうべきものなのだ。

「最初は、この都市をそのまま惑星カルガリウムの衛星軌道に乗せたいと考えていました。ですが、この都市がどのくらいの値がするのかわからなかったので、断念せざるを得ませんでした。この都市一つならともかく、元の住民はこの都市五個分に住んでいるのですから。それで、何が一番必要かを考えた末にたどり着いた結論なのです。『転送装置』さえあれば、惑星カルガリウムへ戻っても大丈夫だと」

「しかし、リドス連邦王国にしてみれば、惑星カルガリウムは他国の領土ではないか」

「そうです。しかし、外国人ということで現在も働いています。そこは同じなのです。ただ、問題はその許可を得られるかだけではなく、その『転送装置』とこの労働形態を銀河帝国にどうやって秘密にするかなのです」

「秘密か。秘密というのはいずれバレるものだ。その時はどうするのだ?」

「その場合は、転送装置を使って、リドス連邦王国に移民してしまうということも考えられます」

「そんなことを、彼らは許すだろうか」

「まだわかりません。ですからその交渉を助けてほしいのです」

と、『惑星カルガリウム委員会』の一人が言った。


436.

 別室に戻ったディポック提督とクルム司令官代理は、腕を組んで黙り込んだ。『惑星カルガリウム委員会』の要求は聞いたが、いったいどうすればいいのか思いつかなかったのだ。

「こんな労働形態は我々にはまだ経験したことがない。転送装置を使って他の惑星、いや外国へ働きに行くというのか?」

と、クルム司令官代理は独り言のように言った。

「それは惑星規模だから経験がないだけであって、例えば都市から離れた場所で労働するなど、地上車や公共交通システムを使うのと大差はないと思います。問題は、リドス連邦王国が転送装置を持って行くことを許可するかどかどうかにあります。普通は考えられません。少なくとも、ロル星団にはない技術です。彼らにとっては国家機密に属するのではないでしょうか」

「私もそう思う。だが、ヘイダール要塞にある転送装置はどうなのだ?もし転送装置が国家機密だと言うのなら、ヘイダール要塞にあのように誰でも見られるように置くと言うのは変ではないか?」

「ですが、これからリドス連邦王国と銀河帝国がどうなっていくか。ダールマン提督やバルザス提督の話からすると、おそらくうまく行かなくなって、紛争か戦争に発展するかもしれないではないですか。そうなると、ヘイダール要塞の転送装置はまさに国家の重要機密に属すると思いますが……」

「確かに、それも十分考えられることだ」

「もし、皇帝陛下なら、どう考えるでしょうか?」

と、ディポック提督は言った。

「それは……」

 本来なら銀河帝国の皇帝であるクルム司令官代理は聞かれて、黙ってしまった。国防上、他国とあまりにも接点のある都市は歓迎できない。それが当然だ。だが、相手はリドス連邦王国だ。あの高度な科学技術は捨てがたいものがある。もし、帝国内の一都市がリドス連邦王国の都市といつでも行き来できるとしたら、どうだろうか。リドス連邦王国が友好国であったとしても、それは多分皇帝自身が構わないと言っても、軍の高官、軍務卿辺りが反対するだろう。スパイや工作員が簡単に入って来られるようなものは容認できないだろう。例え、リドス連邦王国側にその気がないとしても、そんなことを信じられるだろうか。

「あの転送装置については、確か同じようなものをダルシア人は持っていると言うことだった」

「そうですね。しかし、ナンヴァル連邦やゼノン帝国などはまだその技術はないと聞いています。現在両国はリドス連邦王国と友好関係は途絶えていると聞いています」

 ナンヴァル連邦はこれまでリドス連邦王国の友好国であったが、現在は大調整官が代替わりした時にリドス連邦王国との友好条約を破棄したと聞いている。ゼノン帝国に至っては、元々友好関係にない。この二大国はダルシア人の亡きあと、ジル星団の大国としてその存在を高めているのだ。

 ただ、リドス連邦王国とこの二国とを比べると、科学技術や魔法や特殊能力者などで比べるなら前者に軍配が上がると思えた。あのリドス連邦王国の第十一王女、アルネ・ユウキのゼノン帝国の艦隊に対する態度を思い出すと、そう思うしかない。一艦隊を簡単に遠くへと移動させてしまい、バルザス提督――銀の月の言うところによれば、おそらくあのゼノンの艦隊は母国へ戻るのに四、五年はかかるだろうとのことだった。その間ゼノン艦隊の戦力はその分減ったことになる。

 リドスの王女の力が敵の一艦隊を無力化させることが可能だどいうのなら、十一人いるとしてその全員が同じような力を持っているとして、十一もの艦隊が正規の艦隊の他にあるのと同じなのだ。とすると、このリドスの戦力は少なくともふたご銀河では最大となるのではないだろうか、と思える。

「リドス連邦王国で労働するのは、やはり好ましくない。私が皇帝ならそう思う。かと言って、このまま惑星カルガリウムへ戻ってもすぐ仕事にありつけるわけでも、食糧を得られるわけでもない。五千万人もの失業者に雇用と食料を与えるのは不可能だ。とすると、リドス連邦王国の代わりになるところがいるのではないか?」

「そうですね。例え、転送装置を持って行く許可が得られても、リドス連邦王国の他に行くところがないのでは、どうしようもないでしょう。だとすると、彼らが戻ることそのものが無理になるのではありませんか?」

 一般の市民には働いて金を稼ぎ、それで食料を買う。それが普通の生活なのだ。それができないのでは戻っても意味がないし、不可能に近い。

「いや、どこにもないこともない。第一、あのヘイダール要塞は人手不足ではないか?」

「ヘイダール要塞ですか?しかし、……」

「ヘイダール要塞はリドス連邦王国の領土と言う扱いではない。もっとも銀河帝国でも元新世紀共和国の領土でもない。ヘイダール要塞で働ける者はそこで働き、残った者は惑星カルガリウムの都市の再生をすると言うのはどうだ?」

 ヘイダール要塞の人手不足は深刻だった。要塞だと言うのに、警護や警備の兵士も足りてないのだ。それに、要塞内部の店舗も空きが多い。そこを活用したらどうかと言うのだ。それに最初から全員すぐにヘイダール要塞に仕事を移れるわけではない。リドス連邦王国内で仕事をしている者もすぐに辞めるということはできないだろう。それぞれ期限内に仕事を止めてヘイダール要塞や惑星カルガリウムでの仕事を見つけることができればいいのだ。

「しかし、食料はどうします?」

「食料ならヘイダール要塞で用意できるだろう。今だって、ヘイダール要塞の人工は百万ちょっとだ。あそこは最大五百万人までの食料供給能力があるはずだ。それに元々軍事要塞なのだから兵站のために食料自体は、かなりの増産ができるはずだ。最初はリドス連邦王国から食料を輸入してもよいではないか。そのうちに惑星カルガリウム自身の食料生産も間に合うようになるはず。それにあのグーザ帝国との交渉をしてエネルギー結晶鉱石の貿易代金で決済すればいいのだ」

「それそれ、そのこともあります。もし帝国軍が惑星カルガリウムへやってきた時、そのグーザ帝国との交易に付いてどう納得してもらえばいいのでしょうか?」

「それは……」

 そちらの方が難しい問題だった。銀河帝国はまだグーザ帝国の事を知らない。彼らが何をしにやってきたのかも知らないのだ。

 惑星カルガリウムの政治代表が、正規の政府の替わりに貿易をすることはできるだろう。だが、銀河帝国の者達をどうやって説得するかは、いやできるかどうかはわからない。もし自分がそれを聞いたら、どうするだろうか、とクルム司令官代理は思った。

「その件については、すぐに答えは出せない。だが、すでに私はそのことを知っている。あとは他の連中をどうやって説得するかだ」

「まあ、最初はグーザ帝国と言わず、ジル星団の貿易商人とでも言っておけばいいのではありませんか?」

「連中に偽装させると言う手もあるか。だが、嘘はいずれバレるだろう。その時にどうする?」

「それでも皇帝陛下自身がそのことを知っているということは、惑星カルガリウムにとっても有利なのではありませんか?」

「だが、あまり常識はずれなことは好きではないのだ」

「この場合は、ある程度已むをえないのではありませんか?惑星カルガリウムがグーザ帝国軍に占領された時に、帝国軍は何もしなかったのですから……」

 惑星カルガリウムがグーザ帝国軍の侵略を受けたことに、そのことに気づかなかったことに、帝国軍の不作為の責任があると言うことだ。すでに元新世紀共和国の軍は解体されていたので、彼らに責任を求めることはできない。

「それはそうだが、それだけであの……を納得させることができるか、わからない」

「皇帝陛下が自分の好きなようにできないこともあるのですか?」

と、ディポック提督は驚いて言った。皇帝と言うのは独裁者であるので、何でも自分の好きなようにできると考えていたのだ。

「私は、あの旧王朝の好き勝手をする連中と一緒にされては迷惑だ。私の望みは公明正大であること。自分勝手に物事を進めることではない」

「しかし、この件では他にどうすればいいと言うのです?」

 確かにそうだった。少なくとも五千万人もの市民を飢えさせたりはできないと、クルム司令官代理は思った。

「この件については、ガンダルフの魔法使い達の助力も得られるでしょうし、……」

「銀河帝国軍をうまくごまかすというのか?」

「最初はそうせざるを得ないかもしれません。あのリューゲル・ブブロフ総督は話をすれば分かる人でしょうが、責任問題は発生するでしょう。その時、彼が失脚することになりかねません。そうなったら、最初からやり直しです」

 惑星カルガリウムは銀河帝国と新世紀共和国との戦争中に、軍が扱う様々な兵器やその部品を生産するために開発された植民星だった。その戦争が終結したために、すでに工場の稼働は止まっている。実はグーザ帝国が惑星カルガリウムに侵攻してきた時に、食料不足はかなり深刻な問題になっていたのだ。カルガリウム自体は農業生産ができないわけではないのだが、これまでその開拓にはあまり取り組まれていなかったのだ。そのため、他の惑星から食料を輸入していたのだ。今ではその輸入さえ、途絶えている。

 現在の喫緊の課題はこの食糧問題と雇用の確保であると言っていい。そのどちらもが惑星カルガリウムだけではすぐに解決できない問題だった。

 リドス連邦王国がもし、転送装置を惑星カルガリウムに使わせてくれるならば、少なくともこの食糧問題と雇用の問題は解決する。

「まあ、見つからなければ今は何とかなるだろう。そのうち、新しい産業を興すことも可能だ」

「と言うことは、やはり転送装置がネックになりますね」

「と言うことだ」

と、クルム司令官代理は言った。


437.

 帝都ロギノスのリドス連邦王国大使館では、ジェルス・ホプスキンが決断した。少なからず不安はあったが、このまま何もできないでいるよりはましだと思ったのだ。

「わかりました。あなたの言う通りにしてください」

「本当にいいのですね」

と、リドス連邦王国リルケ・ユウキ大使は念を押した。

 ジェルス・ホプスキンが頷くと、ユウキ大使は目を閉じて深く深呼吸をして言った。

「では、目を閉じて、そのまま力を抜いて椅子に座っていてください」

 呪文でも唱えるかとジェルス・ホプスキンは思ったが、ユウキ大使はただ黙って目を閉じているだけだった。彼は知らなかったが、リドス連邦王国の王族と貴族である公爵家の者は、魔法の呪文は使わないのだ。

 しばらくして、大使が言った。

「私の言うことを心の中でイメージしてください。まず、小さな頃のあなたの姿を思い浮かべて見てください」

 小さい頃の私か、とジェルス・ホプスキンは思った。心の中に小さな頃の自分がポンと出て来た。

「その小さなあなたは何をしていますか?」

と、ユウキ大使は言った。

「遊んでいる。あの頃流行った遊び、ええとカード遊びかな……」

「なるほど。そのカードをよく見て下さい。何があります?」

「うーん。字と数字が、それと絵も描いてある」

「まず、その絵をよく見てください。どんな絵ですか?」

「絵は、そうだな……。あれは、色々な星を描いてあるカードだ」

「一つのカードをよく見てください。そのカードの絵は?」

「絵?あれは、多分、昔の神話や伝説に出てくる竜が描かれている」

「竜、ですか?どんな竜です?」

「青い竜だ。鋭い爪や牙、長い顎、獰猛な目、そして背中にある翼。尻尾も太い……」

「竜の名は?」

「さあ、どこにも竜の名はない。あのカードには数字の5とそれに対応する字が書いてある」

「なるほど。青い竜と5の数字……」

「では、他に見えるモノは?」

「他には、年老いた魔法使いのカードがもうひとつある」

「年老いた魔法使いですか?白いひげを長く生やした魔法使い?」

「そうだ。よくある魔法使いの帽子を被り、杖を持っている。なんだか、意地悪そうな魔法使いだ」

「ふんふん。その魔法使いはどこを見ているかわかりますか?」

「え?カードの魔法使いの事か?」

「そうです」

「さあ、どこを見ているのだろうか?」

 ユウキ大使の言葉に意識を集中すると、その魔法使いはカードの絵であるのに、急に小さなジェルス・ホプスキンの方を向いたのだ。

「あ、あれ?私を見た。絵なのに」

「では、その魔法使いに言ってください。私はあなたを知りたい、と……」

「何だって?そのカードの魔法使いに言うのか?」

「ええ、そうです」

 意味はわからないが、ジェルス・ホプスキンは言う通りにした。心の中でユウキ大使の言葉を繰り返した。すると、魔法使いはニヤリと笑ってカードの中から出てきて言った。

(お前は、魔法使いか?)

「え?あ、あの『お前は魔法使いか?』と聞かれましたけど、どう答えればいいのです?」

「そうぞ、正直に言ってください」

(私は、魔法使いではない)

(ほう。正直だな。ここで何をしているのだ?)

(さ、さあわからない……)

(お前は、自分の能力を知らないのか?)

(私の能力?もし特殊能力のことだったら、私にはそんなものはありはしない)

(そうかな?わしにはお前の持っている特殊能力とやらが見えるのだが……)

(はあ?どんなものなのか、その特殊能力とやらは?)

(わからないか?わしが見えるではないか。それだけでも、特別だ。普通はわしのことを見ることもできないのだ)

(はあ、そうなのか……)

 ジェルス・ホプスキンはその年老いた魔法使いの言っていることはわからなかった。魔法使いが見えるなんてどんな能力なんだ?

(で、わしに何か用なのか?)

(いえ、その。私の能力を知りたいのと思って居るが……)

(お前の能力か?それはとうの昔にお前が知っているはずだが……)

(知らないから聞いているのだが……)

(ふむ。知っているのに知らないと?それは困ったことだな)

 と言うと、魔法使いは再びカードに戻り、動かなくなった。

(あ、あの……)

「どうしました?」

と、ユウキ大使が言った。

「いや、話をしていた魔法使いがカードに戻ってしまいました」

「あなたが手にしている、それですか?」

「え?」

と、驚いてジェルス・ホプスキンは、自分がいつの間にか心の中にあった魔法使いのカードを手にしているのに気づいた。

「そのカードはあなたの物です。その年老いた魔法使いはあなた自身のことでしょう。おそらく、その魔法使いの持っている力があなたの持っているものなのです」

「と言うと、私に魔法が使えるというのですか?」

「そうですね。限定されているようですが、そのカードを使えば魔法が使えるでしょう」

「どんな魔法が使えるのですか?」

「それは、そのカードの魔法使いに聞くのが早いでしょう」

 ジェルス・ホプスキンは戸惑いながら、自分の手にしているカードを見た。魔法使いの杖というのはファンタジーのアイテムだが、カードとは聞いたことがない。

「さあ、これでこの会見はおしまいです。仕事を早めた方がいいでしょう。彼らはおそらくすでに動いていますよ」

と、ユウキ大使は謎めいたことを言った。

「そうですね」

と、アルネ・ユウキは同意した。


 その昔、遠くのある銀河にいたアルフ族は魔法と科学技術を発達させた高度な文明を起した。ところが有る時、その魔法を悪しきことに使うことを思いついた者がいたのだ。そのため、彼らの母星は滅びてしまった。困ったことに生き残った者たちが住むこともできないほど、母星は荒れ果てていた。そこで彼らの指導者は他の星に移住することを考えた。ただし、近くの文明のある星ではアルフ族の悪い噂を聞いていて、彼らの移住を拒んだのだ。そこで彼らは遠くへとその移住先を探して行った。

 やっと見つかった移住先は彼らの知らない遠くの銀河だった。そこの高度に文明の発達した種族はアルフ族の噂を知らなかったのだ。いや、知っていても恐れなかっただろう。その高度に文明の発達した種族とはダルシア人のことであった。

 ダルシア人は自分たちが食べつくして、滅ぼしてしまったロル星団の星々に移住する者達を探していたのだ。もちろん、その頃には彼らは他の知的種族を食料として考えるような野蛮なことはしなくなっていた。アルフ族はそこがどのような歴史を持った星であるかよりも、自分たちの移住先を必要としていたので、喜んで移住してきたのだった。

 アルフ族とダルシア人の交渉は最初だけで、後はダルシア人はあまりアルフ族との交渉を持とうとは思わなかったようだった。それはあまりにも外見が違い過ぎるので、アルフ族の力のある者達以外では話もできない状態になるからだった。アルフ族は多少異なるものの、ジル星団のガンダルフ人に近い大きさと外見をしていた。当時、ジル星団では古い文明の諸国やナンヴァル連邦やゼノン帝国などが宇宙文明を謳歌していた時代であった。ダルシア人はその中でも特出して文明の高い種族だった。ガンダルフはその頃魔法では有名だったが、残念ながら宇宙船を造るような文明にはまだ到達してはいなかった。

 ふたご銀河のロル星団に移住してきたアルフ族は、そこの星々で再び元のような文明を興隆させた。また彼らを故郷の銀河から出てくる元になった災禍については伝説となっていた。もとよりその災禍について警戒はしていたが、完全にその災禍の芽を排除することはできなかった。

 再びその伝説が蘇ったのは、アルフ族がふたご銀河に移住してより、数万年という歳月を経た頃だった。



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