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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
100/153

ダルシア帝国の継承者

438.

 短期滞在兼災害用都市『1』における『惑星カルガリウム委員会』側の話を聞き、クルム司令官代理とディポック提督は一旦ヘイダール要塞へ戻った。彼らの要求は理解できたが、実現はかなり難しいと二人は思った。

「どうでしたか?」

と、ブレイス少佐が心配そうに聞いた。

「連中の要求は理解したが、リドス側が彼らの要求を承諾するかどうかははっきり言って、かなり難しいと思う」

と、ディポック提督は言った。

「何を要求してきたんですか?」

と、ダズ・アルグ提督が聞いた。

「例のあの『転送装置』が欲しいというのさ……」

「転送装置ですか?」

 言外にたったそれだけ、というダズ・アルグの考えを感じてディポックは付け加えた。

「もちろん、他にも理由がある。連中にとっては雇用と食料の確保が第一なんだ。そのための道具として転送装置が欲しいということだ。だが、考えて見て欲しい。転送装置はこちらのロル星団のどこにでもある装置ではない。それはジル星団の連中にとっても同じだ。おそらくリドス連邦王国にとっては国家機密並の技術ではないかと思われる。それを自分たちのために欲しいということをどうやって彼らに認めさせることが出来るのだろうか」

「なるほど、国家機密ですか。それではなかなか難しいでしょうね」

「いや、不可能というべきだ」

「でも、それでは惑星カルガリウムでは生活できないのではありませんか?」

「そうなのだ」

「なるほど、これは難題ですね」

と、他人事のようにダズ・アルグは言った。

「だが、解決の糸口がないわけではない」

と、クルム司令官代理は言った。そして、

「今は彼らの都市はリドス連邦王国の各都市と転送装置で移動できるらしい。それで、リドス連邦王国内の様々なところで働いているということだ。もちろん、買い物も可能だ」

と、続けた。

「つまり、現在雇用は確保されているということですか?」

「そうだ。従って、転送装置さえあれば惑星カルガリウムへ戻っても仕事はできる。翻って、惑星カルガリウムだけではあの五千万人は雇用も食料の確保もできない。だから、転送装置が欲しいと言うことだ」

「ただし、雇用と食料についてはリドス連邦王国まで行かなくても、このヘイダール要塞にも需要と供給は可能だろう」

「確かに、今はここは人手不足で困っていますし、連中が仕事をえり好みしなければあるでしょう。食料も要塞で増産すればいいことですし、……」

「だが、肝心の転送装置についてはリドス連邦王国と交渉しなければどうなるかわからないと言うことだ」

 惑星カルガリウムの住民の要求については、何とかリドス連邦王国と交渉をしなければならないと、クルム司令官代理とディポック提督は考えていた。他に方法はないのだ。だが、その前にバルザス提督にその点について聞いてみることにした。彼なら何かいい考えを教えてくれるのではないかと思ったのだ。


 その日、宿舎に戻った二人は、バルザス提督を呼んだ。

「何かご用ですか?」

と、バルザス提督はすぐにやって来た。彼には何の話かわかっているようだった。

「惑星カルガリウムの住民のことなのだが、彼らはその、『転送装置』を要求しているのだ」

と、クルム司令官代理は言った。

「そのようですね。話は聞いています」

「で、どうなんだ。転送装置について、リドス連邦王国は彼らの要求を聞いてやるということはできるのだろうか?」

「惑星カルガリウムに転送装置を置くということですか?ただ、向こうにはすでに一機置いてあると思いますが……」

 そこで、クルム司令官代理とディポック提督は惑星カルガリウムにある、転送装置を思い出した。彼らが初めて見た転送装置だ。

「あの、惑星カルガリウムから住民を少しずつ送ったやつか?」

「そうです。あれは、あの惑星に昔からあるものです。あれに付いては、誰のものでもありません。強いて言うなら、惑星カルガリウムに属しているものです」

「あれは、どこで作られたものだと言っていたか……。確か、アンダインとか言う遠くの銀河の種族だと言っていたような……」

「そうです。あれは、ヘイダール要塞にある同じ型の装置に接続するものです」

「と言うことは、惑星カルガリウムからヘイダール要塞へは転送装置が使えると言うことか」

「そう言うことになります」

「あれなら、リドス連邦王国の物ではないので、あそこに置いて使っても構わないと言うことか?」

「そう言うことになりますね。ただ、もし転送装置があるとバレて、あの装置を他の者に取られるか、盗まれるかしたら困ることになりますね」

「例えば、どんな時だ?」

「例えば、銀河帝国軍があの装置の存在に気づいた場合、惑星カルガリウムの住民は使えなくなるでしょう。どうしたって、あの装置を我が物にして研究したくなるでしょうし、そうなった時、あのままにしておくでしょうか」

「おそらく、そのままにしては置かないだろう。だが、そう言えばあれと同じものが他の惑星にもあるといってはいなかったか?」

「多分、今でもあるでしょう。ただし、惑星上のどこにあるかは簡単にはわからないでしょうけれど……」

 その転送装置は今から数万年ほど前、遠くの銀河にいたアンダイン種族が他の銀河に行くために送り出したものだった。アンダイン種族そのものはすでにその肉体は滅びていたが、転送装置の方は、古代の遺跡のように残っていた。ただ、その転送装置を悪用する種族がいたので、ふたご銀河においてはダルシア人がそれぞれの惑星の地中に埋めてしまったと言うことだった。

「その転送装置は、帝都ロギノスにもあるのだろうか?」

「おそらくあると思います」

「それなら、その秘密を教えてやればいいのではないか?その時に……」

「ですが、軍事機密として転送装置を軍に集めると言い出すことも考えられます」

「もちろん、あちこちに転送装置があるとして、それが見つかるまでは惑星カルガリウムの転送装置は秘密にするのは当然だ」

「でもそれでは、帝国軍に対しては背信行為にあたるのではありませんか?もし、見つかった時、どの惑星にもあると言ういいわけでは通じないでしょう」

「それは、他で同じものが見つかっていない時のことだ。もし見つかっていれば、それほど欲張ることはないだろう」

「だと良いのですが……」

と、バルザス提督は不安そうに言った。だが、そううまく行くかどうかはわからない。

「少なくとも私が銀河帝国の皇帝であるならば、そう欲張ることはしない」

と、クルム司令官代理は請け合った。

 惑星カルガリウムにある転送装置を使うならば、リドス連邦王国の装置は必要ない。従って、交渉の必要もない。後は、住民の帰還を早くすることとヘイダール要塞での雇用を確保すること、食料を増産することがなすべきことだった。

 早速、転送装置の確保ができたことをかの『惑星カルガリウム委員会』に連絡をして、了承された。彼らにとっても、雇用と食料が確保できれば、あとは何とかなると考えているようだった。そのために転送装置が必要だったのだから。

 ただそこでもう一つ問題が生じた。転送装置が一機だけでは、足りないと言うことだ。人口が約五千万人の惑星カルガリウムでは、ヘイダール要塞へ通勤するにしても、転送装置一機だけでは足りないのだった。一度に何十人も送れるが、それが何百人や何千人、何万人もとなると時間がかかる。そのためせめて百機ほど必要だと言うことになった。

「あの型の転送装置ならこのヘイダール要塞で同型のものが造れるようになっていますが……」

と、バルザス提督が言った。

「本当か?しかし、どうしてそんなことができるようになっているのだ?」

「このヘイダール要塞を最初に設計し作ったヘイダール伯爵が、アンダイン種族の出だからです。ですからこの要塞で同型の転送装置を造ることができるのです」

 しかも、今現在はヘイダール要塞とレギオンの城が合体している。そのため、ヘイダール要塞のエネルギー源や中央制御脳が以前よりもかなり性能が良くなっているので転送装置の製造工場も稼働が可能だと思うとバルザス提督は言った。

「だから、現在では転送装置を作ろうと言うのなら、それほど難しくはありません。作り始めますか?」

「いや待て、どこでそれをするのか、どんな風に作られるのかを予め見ておきたい」

と、クルム司令官代理は言った。

「そうですね。そう言えば、ヘイダール要塞の能力がかなり上がったと聞いていますが、個別にその内容をまだ聞いていませんでした」

と、ディポック提督も同意して言った。

 元々ヘイダール要塞は銀河帝国が約百年前にヘイダール伯爵に設計をさせ建設したものだ。その要塞についてはこれまで使って来たのでどんなものかはわかるが、ヘイダール要塞とレギオンの城が結合した後で、その機能や能力がかなり向上したとは言うものの、個別の内容についてはまだ詳しく聞く暇もなかったのだ。

「それならば、ヘイダール伯爵もいることですし、彼にその件について詳しく説明してもらいましょう」

「ほう、設計者自らにか。しかし、ヘイダール伯爵は最初からレギオンの城と結合するようなことまで考えてこの要塞を設計したのか?」

「それも含めて、聞いてみたらどうでしょう」

と、バルザス提督は言った。


439.

 ヘイダール伯爵は白髭の老人に見える。それにヘイダール要塞は作られて百年経つので、普通の人間の寿命をすでに超えているはずだった。少なくとも、ロル星団の人間の寿命は長くて百年が普通である。従って、彼が生きていると言うことが信じられないくらいだ。

「転送装置がもっと欲しいだと?」

 ヘイダール伯爵は、白いひげに触れながら相手の表情をじっと見ていた。厚かましい要求だと思って居るのか、それとも喜んでいるのかわからなかった。

「この要塞に転送装置を造る場所があると聞いているのだが……」

と、クルム司令官代理が聞いた。

「確かにある。で、それを教えてやったらお前さんは私に何をくれるのかな?」

「対価が欲しいというのか?」

「当たり前だ。転送装置なんて銀河帝国にも元新世紀共和国にもなかったではないか。つまり転送装置は私が権利を持っているものだ。何の対価も得ずに、ただで手に入れるつもりだったのか?」

「いや、そうではないが。対価としてどんなものが相応しいのか簡単には思いつかないのだ」

「転送装置の価値はかなりのものだ。それに代わるものと言うのはなかなかないだろうな」

 クルム司令官代理は言葉に詰まって黙ってしまった。

「まあ、その対価はおいおい考えてみるというのはどうですか?」

と、ディポック提督が言った。

 惑星カルガリウムの住民の移動は急がなければならない事案だった。転送装置が造れるのならすぐにでも取り掛からないと、間に合わない。従って、対価が思いつかないのなら後でもいいのではないかと思ったのだ。

「ふうむ。まあ、それでもいいだろう。だが、高くつくぞ。それだけは覚悟して欲しいものだ」

と、ヘイダール伯爵は言った。

「それと、現在ヘイダール要塞がどうなっているのか、以前とどう変わったのか、何ができるようになったのか。それを我々は知りたいのだが……」

「つまりヘイダール要塞に付いての事を知りたいと言うのか?」

「そうだ。これまでヘイダール要塞についてはある程度知っているとは思って居たが、いったいここはどんな考えで作られた物なのかを知りたいのだ。もちろん、その能力についても知りたい。いや、どうか教えてほしい」

 話の途中でこのような気難しい老人には、要求するよりもお願いをした方がいのではないかと気づいて、クルム司令官代理はできるだけ慎重に終わりの言葉を選んだ。

 クルム司令官代理の話に最初は迷惑顔をしていたヘイダール伯爵は、多少相手を見直したように対価の話をやめて、昔のことを思い出すように言った。

「ふん。ここを作った時、そうしたことを話して置きたいと思ったのだが、わしの実績に嫉妬するものがおってな、話をする前にわしを亡き者にしたものだ。もちろん、わしも失望したので、その計画に乗ってやったのだがな……」


 ヘイダール伯爵はため息をついて、再び白いひげに触れて話し始めた。

 この要塞は反乱軍に対する本国を守る砦として表向きは作られたのだが、本来は異次元に存在する『レギオンの城』の三次元宇宙に存在させることを補助するために造られた。その『レギオンの城』は太古の昔に他銀河からの侵略者を防ぐために造られた城だった。

「このヘイダール要塞と『レギオンの城』のある場所は、ジャンプ・ゲートが集中して存在している場所なのだ。このジャンプ・ゲートと言うものがいつで来たのか、誰が造ったのかわからないのだが。これは自然にできたものではない。どこかの誰かが造ったものなのだ。そうとしか思えない。だが、その連中がどこの誰だが、未だに皆目わからない。それでも大昔から存在していることはわかっている。まあ、ジャンプ・ゲートについての話はまた後にして、今はここの話をしようかの……」

 何度も白いひげに触れながら、ヘイダール伯爵は話を続けた。

「ともかく、この場所、『レギオンの城』とヘイダール要塞があるこの場所は、ジャンプ・ゲートが集中して存在している。そのため、ジャンプ・ゲートを知っている高度な文明種族はこの場所によく現れたのだそうだ。探検者や貿易商人、侵略者などもやって来た。そのためこの場所を管理することが必要になったのだ。そこでガンダルフの五大魔法使いの一人『大賢者』レギオンはここに城を作った。それが『レギオンの城』と呼ばれたものだ。当時はロル星団もジル星団も宇宙航行技術を持った種族がいたので、ここに宇宙都市を作り、貿易拠点として繁栄をしていた。もちろん、ここには平和な目的で来る者だけではなく侵略者もやって来た。そのためこの場所を守るための要塞が必要になったのだ。だが、折からこの場所の繁栄が衰えて来た時代にあたり、『レギオンの城』がその任に当たったのだ」

「あの、ヘイダール伯爵、あなたはいつ頃からこちらへ来られたのですか?」

と、ディポック提督は聞いた。

「わしか?わしがこのあたりへやって来たのは、それほど古くはない。今から二千年前になるだろうか……」

「とすると、今の話は誰に聞いたのですか?」

「ああ、これはもちろんガンダルフの魔法使いに聞いたのだよ」

「それで、レギオンの城があるにも関わらず、どうしてヘイダール要塞が必要になったのだ?」

「それは、これから話そう」

 ヘイダール伯爵はしばらく遠くを見るように目を瞬かせた。そして、白いひげを引っ張るように掴んだ。

「わしがこの銀河に来た頃、『レギオンの城』は異次元に引っ込んでいたのだ。以前のようにな……」

「つまり、異次元に場所を移していたということですか?」

「そうだ。何でも、宇宙的な大災害が起きて、避難したそうだった。その際に、城に直撃が当たって当初の性能が減殺してしまったのだそうだ。そのため、元の場所に戻せなくなったと聞いたことがある。それに、その大災害の後、ふたご銀河の宇宙文明もかなり衰退して、ジャンプ・ゲートの場所を知らない種族が増えて、使わなくなったそうだ」

 宇宙的な大災害、これはロル星団のアルフ族の王国がもたらした『死の呪い』の結果であると、ダルシア人やガンダルフの魔法使い達は考えていた。ヘイダール伯爵はそうしたことを、彼らから聞いたのである。

「近年、再びふたご銀河でも宇宙文明が隆盛になり、ここにかつてのような城が必要になったわけだ。だが、かつての『レギオンの城』は存在するものの、形は残っていたのだがその力は大災害によりかなり失われていた。そこでまず何とかこの場所に要塞を築き、いずれは異次元に残されている本来の『レギオンの城』と合体させてその力を取り戻すことを考えたのだ。そしてわしが、このヘイダール要塞を設計し、建設したのだ。最初から『レギオンの城』との合体はその計画のうちにあったものだ」

「で、あなたは銀河帝国にやって来たのは呼ばれて来たのですか、それともあなたからやってきたのでしょうか?」

と、ディポック提督は尋ねた。

「わしは、どこかよい所はないかと住処を探して、この広大な宇宙を放浪していたのだ。そして偶然この銀河へやって来たのだ」

「とすると、宇宙船で来たのですね」

「いや、本来わしは姿のない、あの暗黒星雲の種族のような目に見えないもの、形のない種族なのだ」

「それは、あなた方アンダイン種族の本当の姿がそうだと言うのでしょうか?」

「もちろん、かつては肉体を持った存在だった。だが、それでは寿命と言うものがどうしても生じる。だから、その存在を目に見えない、そうだなエネルギー体のようなもの、異次元の存在に移行させたのだ。そうすると肉体を持っているよりも便利なのだ。この宇宙を移動するにも船などはいらなくなるからだ。あの暗黒星雲の種族と同じことだ」

「で、あなたの種族はもうあなた一人しかいないのだろうか?」

と、クルム司令官代理は聞いた。

「いや、故郷の銀河にはまだわしの仲間、つまり同じ種族がいる。存在しているはずだ」

「存在していると言うことは、あなたの同族は皆、あの暗黒星雲の種族のように目に見えない、エネルギー体のような存在だということか?」

「そうだ」

「すると、別の種類、暗黒星雲の種族がいるということか……」

 暗黒星雲のような種族が他にもいると考えることは、あまり楽しくはなかった。彼らは肉体を持った種族よりも知識や技術が高く、力がある所為で傲慢で独りよがりになっている。そのせいで他の種族を弄ぶようなことをするので、嫌われ恐れられているのだ。

「だが、我々アンダイン種族は暗黒星雲の種族とは違う。われわれは確かに他の肉体を持った種族よりも、多くの知識や技術や力を持っている。だがそれを使って、気に入らないからと言って他の種族を弄んだり滅ぼしたりはしない」

「では何をしているのだ?」

「そうだな、もっと高みに到達するべく、思索をしているということだ。あまり他の種族とは関わらないようにしている」

「高み?つまり、自分たちは特別だから他の種族とは関わらないということか?」

「それもある。だが、高い技術や知識を軽々しく与えると、途端に争いを起して滅ぶようなことも起きるのだ。実際に過去にそうしたことが起きたのだ。だからこそ、それこそある種族が滅亡する危機が迫るようなことでもない限り、知識や技術を分け与えたりはしない」

 だとしても、どこかクルム司令官代理はすっきりとはしなかった。ヘイダール伯爵の言い分には何だか、自分たちが高度な文明を持っているという驕りがどこかに感じられるのだ。

「まあ、驕り高ぶっているという意見もあるだろうが、それも已むを得まい。すべての同族が同じ段階にいるわけでもないのだからな。中にはそう言う者もいるし、わしのような外れ者もいる」

「外れ者?卿は、アンダイン種族の外れ者なのか?」

「わしのような、他の種族に興味を持って近づくようなものの事をいうのだ。もっとも、ここは故郷の銀河から遠く離れた銀河だ。うるさい連中もここまではちょっかいを出したりはしないが……」

「ちょっかいを出すというのは、どういうことです?」

と、ディポック提督が気になって聞いた。

「つまり、種族としての決まりを守らないとして、数を頼んでやって来て押し込めるのだ。何もできないように」

「それでは、あの暗黒星雲の種族と同じことではありませんか?」

「いや、同じではない。少し、いや大きな違いがある」

 ディポック提督には同じとしか思えなかった。ただヘイダール伯爵が多少違うと思って居るだけとしか思えない。

「ところで、肉体を持たないということはすでに母星はないということですか?」

「母星は故郷の銀河に今でも残っている。あの暗黒星雲の種族はすでに無くなったそうだがな……」

 ふたご銀河で悪名高き暗黒星雲の種族の母星は、ここから遥かに遠い銀河にあったと言われている。その母星はあることが原因で住めなくなり、宇宙に出て来ざるを得なくなったのだと言われている。最初は宇宙船で移動していたが、肉体を持っていると食料だの呼吸する空気やある程度の熱が必要であった。ところが宇宙を放浪しているとしだいにその入手が困難になってきたのだ。そのため肉体を持たない存在へと移行したのだと言う。そして今は目には見えないが、ある種のエネルギー体として宇宙に存在し、気ままに生きていると他の種族には思われていた。

 ただ、肉体を捨ててエネルギー体となった時、自分で使えるエネルギーを宇宙そのものから吸収することが出来るようにしたため、自分たちがまるで神のような存在のように錯覚してしまったのだ。確かに、宇宙空間で宇宙船もなく存在でき、移動ができ、必要ならば肉体を纏うことも可能だったので、そう思ってしまうのも仕方がなかったかもしれない。まして、文明の遅れた惑星では彼らはまるで神の如く思われていた。

「わしらは、あの連中ほど厚かましくはない。それに、この大宇宙を作った存在があると言うことを、それが神そのものであると信じているのだ。だから、よほどのことがない限り、神を僭称したりはせぬ」

 だからこそ、アンダイン種族は他の種族に関わることを禁じているのだ。すべての生きとし生けるものはすべて神のなせる技であり、その計画のうちにあるのだ。だから神ではない存在が関わることはいけないことなのだ。関わると神の計画を損壊するかもしれないからだ。

「ほう、卿は神と言うものを信じているのか?」

「もちろんだ。この宇宙のことを知れば知るほど、その存在を感じるものだ」

 これは面白い、とディポック提督は思った。考えてみれば、新世紀共和国では神と言うものは古い時代の遺物だと考えられていたのだ。銀河帝国では昔から伝えられている神を信仰している者が多いということから、それに対する反発から起きたものである。だからこそ、自分たちより高度な文明を持つ種族がそんな風に考えているとは思わなかったのである。

「まあそれは今は置いておくとして、転送装置のことだが、わしはこのふたご銀河のロル星団で転送装置がないことを不思議に思ったのだ。転送装置はそれほど難しい技術ではない。つまり宇宙航行技術を持った文明において、いつかはたどり着く技術なのだ。その基本原理はワープと同じだからだ。それなのに、ワープ航法のあるここでは未だに転送装置がないというのは妙に思えたものだ」

「しかし、私には転送装置とワープ航法の基本原理は同じだとは思えませんが」

「ワープは離れた二か所の空間を繋げるものだ。移動する物体は異次元を通ることになる。その時物体は一時的に物質ではなくなって異次元の存在になるのだ。それを自覚しているかどうかはわからないが、それが基本だ。転送装置は送り先からワームホールを通じて、到着地の転送装置から出る。ワームホールにいる間はやはり一時的に物体は物質ではなくなって異次元存在になっているのだ」

 ヘイダール伯爵の言うには、リドス連邦王国の方ではそれほど転送装置を機密扱いにはしていないということだった。いずれは、ふたご銀河でこの技術を公開して広めるつもりだったのだと言う。それで、ヘイダール要塞に転送装置の工場を作ったのだ。もっともこれはリドス連邦王国の技術ではなく、アンダイン種族の古い技術だった。そもそも、ふたご銀河のそれぞれの惑星にアンダイン種族の転送装置が少なくとも一機はあるはずで、だからこそなじみ深いのではないかと考えたのだ。

「わしは転送装置が簡単に見つけられるところにあるものと思って居た。だが、聞いたところによるとあのダルシア人がなかなか見つからないように、それぞれの惑星の地中深く埋めたと言うではないか」

「そのようですね。その場所は一応わかるようにしてあるようですが、……」

「ともかく、一つは見つかったのだ。それだけで、ヘイダール要塞の工場を稼働させる理由にはなるだろうて」

「と言うことは、転送装置の発見がなかったら、工場は隠したままにしておくつもりだったのか」

「仕方あるまい。何せ実物が無ければ説得はできまいが。まあ、あの惑星カルガリウムの住民たちが必要とする数はすぐにできるはずだ」

「それは、助かる」

「ただ、これはアンダインの技術で作られているので、お前さんたちの技術とは少し違うところがあるのだ。そこを気をつけて欲しいものだ」

「何か、あるのですか?」

「まあ、作り始めれば分かることだ」

と、ヘイダール伯爵は言った。


440.

 アルネ・ユウキとジェルス・ホプスキンは帝都ロギノスのリドス連邦王国大使館から、帝都の宮殿の人の住んでいない領域に戻って来ていた。

「おかえりなさい。どうでしたか?」

と、ゼフィア・シノン中尉が聞いた。

「うまく行ったと思うけれど……」

と、自信なさそうにアルネ・ユウキは言った。

 ジェルス・ホプスキンは何が何やら、うまく行ったのか行かないのかわからなかった。ただ、以前とは何かが違うのはわかった。彼がゼフィア・シノンを見た時、その背後に今まで見たことのないものが見えたのだ。どこかの街のように見えるその背景は、リドス連邦王国の都市のようには思えなかった。どちらかというと、そこに見えるのは城壁に囲まれた古い、まだ文明的には未熟な時代のものだった。動物に乗って人が移動するような昔の時代だ。

「どうかしましたか?」

「いや、何だか妙なものが見えるので……。ええとゼフィア・シノン中尉、君は、いや君の育った町はリドスの都市ではないのかな?」

「そのことですか。私は、一応リドス連邦王国出身ですが、まだ宇宙文明には到達していない惑星の出身なのです。首都星はガンダルフですが、同じ恒星系の隣の惑星にトリテアがあります。その中央大陸の都市国家出身です」

「リドス連邦王国はその所属する惑星がすべて宇宙文明ではないということなのか?」

と、驚いてジェルス・ホプスキンは聞いた。

「ええ、そうです。首都星ガンダルフでさえも、すべての国々が宇宙文明にあるわけではありません。もともとガンダルフにリドスの王族が来た時、機械文明の黎明期にあったようです。ですから、今でも多少の差はあるのですが、ワープ航法のような宇宙航行技術を持った文明にはまだ至ってはいません。何とか衛星である月まで宇宙船を飛ばすことができるようになったようですが……。まして、私の生まれた惑星はどの国にもまだ機械文明さえ興っていません。ただ、その惑星はリドス連邦王国が防衛のために都市国家をいくつか作っているのです。わたしはその都市へ偶然難民として来た者の一人なのです」

「と言うと、リドス連邦王国と言うのはかなり人口の少ない。飛び地の集まったような国なのか?」

「いいえ、ですから惑星自体にはあまりリドスの本来の民は住んでいなくて、宇宙空間にある宇宙都市に多くは住んでいます。惑星でもガンダルフのような宇宙文明にかなり近づいている所には、リドスの都市が地上にもたくさんあります。ですから総人口はかなり多いと思います」

 想像はし難いのだが、リドス連邦王国の人口の多くは惑星上よりも宇宙空間にある都市に住んでいるということらしかった。彼らは元々他の銀河から移住してきた人々なので、その方が住みやすいのだとも言う。それでなくとも、惑星上には原住民が住んでいるので、彼らを刺激しないようにしているのだ。

「ですから、そうした都市国家はあの惑星カルガリウムの住民たちが仮に住んでいるような宇宙都市のように、いつでも宇宙空間に戻れるように造ってあるのです。惑星上にある都市は、他の国からの侵攻を受けた時にそれに反撃するよりも地上から去って、移動することになっています」

「それはつまり、原住民の事を考えてということか?」

「ある意味ではそうです。リドス連邦王国では、その高度な科学技術を教えるよりも、その地の住民がやがて宇宙文明に到達するまで待っていると言うことです」

「それは悪い方法とは思わないが、かなり時間が掛かるのではないか?」

「そうですね。でも私のような、同じ惑星の住民でも国を離れざるを得ない人々をその都市国家に受け入れて、教育を施し、市民として扱ってくれます。その市民がやがて自分の国に帰り、多少でもその知識を拡散して行けば、やがては全体の科学技術が上がっていくという考えだと思います」

「君はそれでいいと考えているのだろうか?」

「私にはそこまでの見識はありません。ですが、方法は悪くないと考えています」

「どちらがいいのか、正直私にもわからないがね。それで、例の魔法とか特殊能力というのはどうなのだろうか。つまりどんな扱われ方をしているのか、ということだ」

「私の出身の惑星では、魔法使い達は確かにいました。ただ、ガンダルフではいることはいるのですが、かなり魔法使いの数は減っているのではないかと思います。ガンダルフ自体の科学技術が発達するにつれて、魔法や特殊能力に対する関心が減り、その使用法が分からなくなってきていると言う感じですね」

「つまり、科学技術と魔法や特殊能力というのは、両方同じように発達しているというわけではないのだね」

「ええ。でも大抵の他の惑星や国でも、同じだと思います。どちらかに偏重していることが多いですね」

 これはゼフィア・シノンがリドス連邦王国の宇宙艦隊に入って、様々な惑星や惑星国家を見て来た感想である。

「そのリドス連邦王国自体ではどうなんだ?」

「そうですね。偏重というほどではないですね。科学技術も魔法や特殊能力は、どちらも同じくらいの比重で扱われていると思います。これはかなり珍しいことだと思います」

 リドス連邦王国が元々そのように発達してきたのか、それとも計画的にそうしたのかはゼフィア・シノンにはわからなかったが、それは確かに珍しいことだった。このふたご銀河のダルシア人も最初は科学技術の方に比重があったのだ。

「それでだ……」

と、ジェルス・ホプスキンはやっと自分の聞きたいと思って居た方へ話をもっていった。

「私の、この君の出身惑星が見えるようなこの能力はどんなものなのだろうか?」

「さあ、私にはわかりません。私は、そうしたものは見えませんし、見えるのは私の過去世のことですから」

「ジェルス・ホプスキン、それは多分あなたが長年磨いて来た能力なのではないかしら?」

と、アルネ・ユウキが言った。

「それは、どういうことです?」

「あなたは刑事だったそうだけれど、おそらく、これまで何度も同じような職業に就いていたのではないかしら。その職業柄、人を見抜くという能力が発達して、それがゼフィア・シノン中尉の出身地が見えるような能力になっているのだと思う」

「なるほど。そうかもしれない。だが、それが何の役にたつのだろうか?」

「それはあなたの使い方次第だと思う。今度は私を見てはどうかしら?」

 ジェルス・ホプスキンはアルネ・ユウキの言うように彼女を見た。すると、同じようにどこかの都市の風景が見えた。その都市はゼフィア・シノンに見えた都市よりも、科学技術が発達していた。公共交通機関が動いているし、地上車も見える。

「あなたの出身の都市は、かなり公共交通機関が発達していたようですね。地上車も見えるし、街並みの建物もかなり高い」

「では、もっとその周りを見たらどうかな。例えば、上を見て空に何か見えるだろうか?」

「空?ええと、空を飛ぶシャトルのようなものが見える。もっと上を見ると、何だあれは。周回軌道にある人工衛星か何かだろうか……」

「多分それは、衛星都市だろう。惑星ガンダルフには宇宙都市ならぬ、衛星都市が周回軌道上にあるから……」

「かなり広い範囲がわかるのですね。後は、時間的にその人の動きがわかるともっと使いやすいのではないですか?」

「時間的な動き?」

「つまり、現在を起点として、一日前、二日前、三日前、と言う風に時間をずらせて見られるかどうかを見てみたらどうでしょう」

と、ゼフィア・シノンは言った。

 ジェルス・ホプスキンはアルネ・ユウキを見て、一日前というよりは数時間前と言う風に心の中で思って見た。すると、リドス連邦王国の大使の姿が見えて来た。数時間前は確かにリドス連邦王国の大使館に居て、大使と話していたのだ。

「なるほど、時間の経過も意識すればわかるようだ……」

「それは重畳。では、それを使って本来のバルザス提督の娘の捜索をしましょうか」

と、アルネ・ユウキ少佐は言った。



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