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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
98/153

ダルシア帝国の継承者

432.

「ここはどこだ?」

と、ジェルス・ホプスキンが暗がりの中で言った。

 どこかの建物の中のようだった。それにかび臭い匂いもした。おそらく長いこと使われていないところなのだろう。

「うーん。帝国艦隊が来そうだったから、慌てて遠くへ来たつもりなのだけれど……」

 アルネ・ユウキはかつてのダルシア人である竜が姿を現した貴族の邸宅街の端の林の中から、出来るだけ遠い場所に瞬間移動したつもりだった。ただ慌てていたので場所を特定したわけではない。あの時は一刻も早く移動しなければ、自分たちも帝国艦の探知装置に引っかかる恐れがあったのだ。

「光を……」

と、アルネ・ユウキが言うとポッと周囲に明かりが灯った。

 そこは確かに建物の内部で、しかも物置のように様々なものが置かれている場所だった。それまでいたのが貴族の邸宅街近くだったので、どこかの貴族の館に移動してしまったのかと最初は思った。そこで部屋の外を見ようと透視を試みると、別の部屋ばかり見えて、屋外の景色が見えてこなかった。

「随分大きな建物の様だわ。貴族の館なのかしら?」

 それにしても大きい。どの方向を見ても、玄関や庭のようなものが見えてこないのだ。

「もしかして、ここは……」

 これだけ大きな建物で考えられることは、まさかとは思うが、宮殿の方へきてしまったかもしれなかった。

「宮殿?しかし、あそこから宮殿まではかなり距離があるだろう?」

「確かに、距離はあるけれど、それだけ遠い場所をイメージしたことは確かだわ。ともかくここで話をしていても埒があかないわ。この部屋を出て、確かめるしかないわ」

 そこで、三人は魔法で見えない状態にすると、部屋を出た。

 薄暗く長い廊下を行っても、妙なことに誰にも会わなかった。宮殿なら召使や衛兵などが沢山いるはずだ。だとすると、ここは宮殿ではない可能性もある。それでも、長い廊下を慎重に移動していると、ちょっとした広間に出た。そこにある大きな扉は外へ出ることができるものだった。

「やっと外へ出られるようね」

と、アルネ・ユウキは言った。

 外へ出る扉には鍵が掛かっていた。しかし、魔法で扉を抜けていくと、大きな前庭に出た。空を見上げると、頭上には君に悪い大きな黒い骸骨が浮かんでいるのが見えた。その骸骨がどこに浮かんでいるかはわかっていた。

「あれは……。ここはやはり宮殿の中の建物のようね」

 おそらく今は使われていないだけなのだ。あまりにもたくさん宮殿の建物があるため、今は使われていないのだ。今の皇帝陛下は旧王朝の宮殿をそのままにして使っているが、皇帝自身は独身のため多くの部屋など必要としていない。使われているのはほんのわずかだった。それに宮殿には皇帝が使っている建物以外にも、代々の旧王朝の皇帝が建てた建物が、そこ彼処に建っていた。また新しい皇帝は宮殿に住むに当たって、必要のない者達は辞めさせたとも言われている。従って、以前使われていたが今は使われていない建物が沢山あるのだろうと思われた。

「で、これからどうするんだ?」

 ジェルス・ホプスキンはそう言いながら、どうして自分はここに居るのだろうと思った。この帝都に来てから自分は何も役に立っていないのだ。一緒に来たのは失敗だったのではとつい考えてしまうのだった。これまではアルネ・ユウキ達の足手纏いだったも同然だった。

「そうね。できればこの宮殿を探検してみましょうか?」

「何だって?我々は物見遊山でここに来たわけではあるまい」

「そうだけれど、せっかく宮殿に来たのですもの、見て行かないと言うことはないでしょう」

 確かにそれはかなり誘惑を感じることだった。だが、そんな余裕はあるのだろうか、とジェルス・ホプスキンは思った。

「我々の当初の目的の一つはもう果たした。残るはあと一つ。バルザス提督の娘を探すことだろう」

「そうね。でも、そちらはまだ何もわかっていないわ」

「あの光る人はどうなんだ?何も言ってはこないのか」

 そちらの方は、残念ながらジェルス・ホプスキンではどうにもならない。ナルディア・バルザス、彼女はバルザス提督の妻であり、探すことになっている娘の母親なのだ。しかももう死んでいて、今回は霊人として一緒に来たのだ。そして、彼には霊を見たり話をしたりする能力などないのだ。

「彼女は、別に構わないと言っているわ」

「本当か?」

「時間はそれほどあるわけではないけれど、ある程度ここの事も知って置いた方がいいかもしれないという意見だわ」

「しかし、ここは宮殿だろう。ここに一体何の用があるんだ?」

「この宮殿は、惑星ロギノスが帝都となってから、五百年ずっといくつも建物が建てられ続けて来たところ。多くの宮殿の召使でもすべてを知っているわけではないそうよ。それに何かあった時にここに逃げ込めることを考えてみて。宮殿なら、安全でしょう?」

「そうだろうか……」

「それに多分、ここには何かあると言う予感がするのよ」

「多分ね……」

 ジェルス・ホプスキンは元新世紀共和国の市民だったので、銀河帝国の広大な宮殿の事については多少聞いたことが有った。何でも惑星の中の最大の大陸を一つ宮殿にしたと言うのだ。もちろん、大陸の端の方には多少帝都らしき繁華街があるとは聞いていた。それでも、宮殿には大きな船――この船は宇宙船ではなく、海に浮かべる船のこと――を置く港湾スペースもあると言うことだった。ただ、国防上というか、皇帝の安全のために宇宙船の発着場だけはないと聞いていた。従って、他の惑星都市からこの宮殿に来るには宮殿のある大陸からかなり離れた場所にある、宇宙港から地下の高速鉄道を使って、宮殿へと行かなければならないと聞いていた。もちろん、帝都ロギノスでは空を飛ぶシャトルも禁じられている。道路でさえ、地上車は禁じられてはいなかったが、馬車が一般的であったから、かなり交通の便では苦労させられる帝都だと聞いていた。

 旧王朝では、高度な文化文明が発達した場所で、敢えてその文化文明の技術によってできた文明の利器を使わずに暮らすことが一番贅沢なことだと考えられていたのだ。だから、どんなことでも人間がその手によって様々なことをやっていた。要するに,屋外では地上車は使わずに馬車を、屋内では食事を作ったり洗濯するなどの家事は機械ではなく人間の手でやり、通信などの手段も一番古いものだとされているアナログ式の物を使っていた。もちろん、召使もすべて人間が使われていた。わずかに明かりだけは電気が使われていたに過ぎない。これが貴族や皇族たちの贅沢なのだった。

 しかし、新王朝を創立した皇帝はこうした不便さを嫌い、宮殿内を効率化するためにあらゆるものの機械化自動化を率先し、地上車を使うことを奨励し、宮殿の敷地内に宇宙港を造ることにしたと聞いている。現在その工事がどこまで進んでいるかわからないが、充分注意が必要だとジェルス・ホプスキンは言った。

「なるほど。もう老人の住む場所ではなくなったということね……」

「この宮殿の地図があるといいのですけれど……」

と、ゼフィア・シノンが言った。

 ここは観光地ではない。それに現在まだ使われているのだ。だから、そのような地図が一般に出回っていることは、安全上有りようもないとはわかっていた。

 とは言え、ここが宮殿の中だとすると、ここを根城にするのが一番安全なのかもしれない、とアルネ・ユウキは思った。と言うのも、ここにきてどうも『死の呪い』の復活は単なる偶然だと言うよりは、何か陰謀めいたもの達による計画的なものなのではないかと感じたからだ。だとすると、思ったよりも彼女の目的は時間が掛かりそうだった。もちろん帝都にはリドス連邦王国の大使館があるとは聞いていたが、そこはおそらく帝国政府の監視が日常的にあると考えるのが普通だろう。それでなくても、帝国政府、いや皇帝自身がリドス連邦王国に大して好感は持っていないように聞いている。彼らにとっては大逆事件の張本人であるダールマン提督がリドス連邦王国の艦隊に居るということだけで、非常に警戒心を掻き立てられるはずだからだ。

「地図はともかく、ここが宮殿のどのあたりかを覚えておく必要があるわね。ここがあまり使われていないか、忘れられている場所だと良いのだけれど……」

「そうですね。そちらは私がやりましょう。この宮殿の上空から見ればわかるでしょうから」

「そうしてくれる。私は、一応リドスの大使と連絡を取ってみるわ」

と、アルネ・ユウキは言った。

 また、私には役に立つことはないのだな、とジェルス・ホプスキンは思った。

 すると、アルネ・ユウキが彼の方を向いて言った。

「大丈夫よ。あなたにはこれからやってもらうことが沢山あるから……」

 な、何だ今のは?とジェルス・ホプスキンが戸惑っていると、

「ごめんなさいね。あなたの心の声が聞こえてしまったから……」

と、彼女は言った。

「あなたは、TPなのか?」

「ええ。シノンと同じでね」

「つまり、あなたもドラゴン・スレイヤーとか言うのと同じということか?」

「ええ」

 これは迂闊だった、と彼は思った。だが、それが分かったとしても、こちらから心の声を閉ざすようなことはできない。元新世紀共和国にはそのようなものはなかったのだ。もちろん、銀河帝国にもないだろう。

「でも、いつでもあなたの心の中を読んでいるわけではないわ。そんなことをしていたら、他のことが何もできなくなってしまうから……」

「すると、どんな時に、その心の声は聞こえるのですか?」

「そうね。あることを強く思ったり、何度も同じことを思ったりするとそれが分かると言うことかしら」

「なるほど。そう言えば、先ほどから何度か同じことを考えていた。何しろ、私がここへ来た意味が分からないのです。魔法使いでもないし、特殊能力者でもない。霊能者でもない。私はただの刑事でしかない……」

「確かにそうだわ。でも、あなたが私たちと一緒にここへ来た理由は、いずれ分かると思うわ」

と、アルネ・ユウキは言った。


433.

 帝都ロギノスにあるリドス連邦王国の大使館は、ジル星団の他の国の大使館が立ち並ぶ一角にあった。その大使館は古い建物で、旧王朝時代の没落貴族の屋敷を使っているようだった。そこにアルネ・ユウキ少佐――リドス連邦王国の第十一王女――とジェルス・ホプスキン――元新世紀共和国の刑事――は現れた。

「いつ来るのかと、これまで待っていたのですよ」

と、リドス連邦王国大使リルケ・ユウキは言った。

 ジェルス・ホプスキンは、リドスの大使が思って居たよりもかなり若いことに驚きを禁じ得なかった。どう見ても十代に見える。アルネ・ユウキによると、その大使はリドスで唯一の貴族ユウキ公爵家の末子だと言うことだった。

「ごめんなさい。ちょっとトラブルがあって……」

「古代のダルシア人が現れたことですか?」

「あら、気が付いていたの?」

「ええ。帝国軍の方は、そこまで気が付いたがどうかわかりませんが、しばらくあの場所を駆逐艦が一隻浮遊していましたから。何でも、宮殿近くの貴族の邸宅街に帝国軍艦が現れるなど珍しいという噂が立っているようです」

「これまで単に『死の呪い』だけが蘇ったのだと考えていたのだけれど、どうもこのことに関わっている他の連中がいるように思えるの」

「なるほど。しかし、今はそれを探索しているような時間はないのではありませんか?」

「それでも、できるだけ情報が欲しいわ。ましてゼノンの魔術師が現れたとなると、何か嫌な予感がするし……」

「確かに、その連中がどれだけダルシア人の知識を持っているのかは知りたいところです。ただ、銀河帝国の皇帝陛下がヘイダール要塞の討伐に出征するまでに、あと数カ月しかありませんよ」

 それはリドス連邦王国が密かに得ている予知の情報であった。ただ、まだ帝国政府内でそのようなことを考えている者はいないはずだった。

 リドスの情報当局はスパイなどによって得られる情報だけではなく、予知などの情報も重要なものとして扱っている。この国では特殊能力者だけではなく、予知能力のある者もいて、彼らは国の将来に関することまで予知することもあった。その中でもっとも強力な予知能力者はリドスの女王陛下だった。

「それでも、今後の事を考えると必要だと思うわ」

「確かにそうですが、これからは危険が増すようになります。それに我々の方でもあまり協力はできないでしょうし……」

「ここはかなり監視が強いようね」

 アルネ・ユウキの透視能力で大使館の外を見ると、あちこちに監視の機械だけではなく人もいるのが見えるのだ。

「何しろ、わがリドス連邦王国は帝国の大逆人がいる国なので、かなり警戒しているようです」

「それだけではないのでしょう?」

「まあ、ゼノン帝国大使なども我々の事を悪しざまに告げ口しているようですが、それだけではないようです。おそらくすでに皇帝陛下にはあの『死の呪い』が掛かって来ているのではないかと考えられます」

「だから、あと数カ月なのね」

「それはおそらく、もう確定事項になっていると思います。まだ彼らの方では何もしていないようですが……」

「あの、それはどうやって分かるのです?」

と、話の腰を折るようで無礼な感じもしたが、思い切ってジェルス・ホプスキンは聞いた。

「あなたは?」

「私は元新世紀共和国の者で、最近ヘイダール要塞に来たのです。それで、ヘイダール伯爵が今回ここへ来る者の中に私を推薦したのです」

「ヘイダール伯爵が?彼にしては珍しいですね。で、あなたは何ができるのですか?」

「いや、私は何の役にも立っていないのですが……。その、ヘイダール要塞を帝国軍が攻撃すると言うのは本当に決まったことなのですか?」

「ええと、それはまだ誰も知らないことですよ。おそらく帝国軍さえ知らないでしょう。でも、そうなるでしょうと言うことです」

 ジェルス・ホプスキンは戸惑って言った。

「そうなるでしょう?決まっていないのに、そうなると大使は言われるのですか?」

「これは予知なのです。予知というのは、未来に起こることを予め知ると言う能力のことです。わが国の予知能力者がそう言っているのです。一人ではなく、複数ですが……」

 リドス連邦王国では、予知能力者は他の国よりも多かった。ある事柄に関する予知は一人だけがするのではなく、何人かが同じ予知をすることもあった。そのようなときは、予知は当たることが多いのだ。近々あるとされている銀河帝国軍のヘイダール要塞への攻撃は多くの予知能力者が予知していたのだ。

「ですが、予知というのはあまり確証のないことだと思われるのですが……」

 ジェルス・ホプスキンにとってはかつて刑事事件で特殊能力者を何度も活用したことがあったが、その際にその能力が肝心のところで曖昧になることもあり、非常に苦労したことを思い出していた。特に予知と言うのは当てにならないことが多かった。

「ええと、それはあなたのお国の考え方ではありませんか?我々はそのような考えをしてないのです」

「しかし、……」

「ジェルス・ホプスキン刑事、リドスではあなたの国よりももっと特殊能力についての研究が詳細に行われていて、その活用方法も非常に具体的なの。予知に関しても、一人が曖昧な予知をしただけでは確かにあなたの言う通りでしょう。でも、複数の者が同じ予知をして、さらに他の情報も足して見た時に同じ見解になったならば、その予知が当たると言う確率が高いと判断するのです」

「なるほど、それならある程度理解できます」

「それで、アルネ王女殿下、私にご用というのは、どんなことです?」

「それは、実は彼のことなの。ジェルス・ホプスキンについて……」

 その言葉に驚いて、

「私の事ですか?」

と、ジェルス・ホプスキンは言った。

「彼を見ていて、何かわからない?」

「そうですね……」

 リルケ・ユウキ大使はジェルス・ホプスキンをじっと見る代りに、しばらく目を閉じた。その間、何も言わず、身体も動かさなかった。

「一体、何のことです。アルネ・ユウキ少佐」

「これは、残念ながら私ではわからないことなの。ヘイダール伯爵にはわかったようだけれども」

「そのリドスの大使閣下には何がわかるのですか?」

「あなたの能力について。つまりあなたがかつて持っていた能力について、彼は見ているのよ」

「私の能力?そんな、特別なものなんてあるわけないでしょう。私は普通の人間です」

「そうかしら。彼はこの方面に関してはかなり分かる人なの」

「失礼ながら、こんなに若いのにですか?」

「若く見られるのは、そう見せている所為なのよ。本当はもっと歳が行っているわ」

「そんなこと、言わなくてもいいですよ」

と、リルケ・ユウキ大使は目を開けて言った。

「あの、何かわかりましたか?」

「こんな事言うのはどうかと思うのだけれど、あなたは元の仕事は刑事でしたね」

「そうです。それが何か……」

「刑事としてはなかなか優秀だったでしょう?」

「まあ、私が自画自賛するのはどうかと思うのですが、私自身刑事としてはまあまあだったと思います」

「そうでしょうね。あなたはかつて、何度も同じような職業に就いていたようですから」

「はあ……」

「アルネ王女殿下。彼は確かにあなたの望む能力があるようです。ただ、それを無理やり目覚めさせるというのは、やはりあまりお勧めできませんね」

「それはわかるわ。目覚めさせても、それを忘れさせるなんてできないことだし……。ただ、今はそれが必要だというだけ」

「それは、彼女も同じ意見ですか?」

「ええ。今回の件に関しては、仕方がないと言っているわ。後は本人の意志に任せるということだけ」

「そうですか。では、ジェルス・ホプスキン刑事、あなたに聞きますが、あなたには特殊な能力があります。それを今回の件では必要だというのです。それを目覚めさせることを望みますか?」

「ちょっと待ってくれ。第一、その特殊能力とやらがどんなものか、私にはわからないのだが……」

 突然のことにジェルス・ホプスキンは面食らっていた。彼自身、特別な能力などがあると考えたことはなかったのだ。生まれてこの四十年余の人生において、そんな可能性を感じたことはない。

「まあ、あなたの特殊な能力と言うのは、様々な事件解決に役立つ能力です。例え、目覚めてしまってもあなたが要らないとは思わないでしょう」

「具体的には、どんなものなのですか?」

「そうですね。あなたが以前仕事で使った特殊能力者が持っていたような、例えばある事件を追って行く時に、何の証拠もなしに犯人を見つけることが出来たこととか、事件の現場で何が起きたか見てもいないのにわかるとか、それからある人を見た時に何をしたのか見えてしまうとか……」

「待ってくれ、確かにそんな能力者を使ったことがあるが、その能力は一人に一つしかなかったと思う。今の話では三つもの能力があると言っているようだが……」

「そうですね。あなたの能力は一つではないと言うことです。詳しくは、目覚めて見なければわかりませんが、少なくとも三つくらいはありますよ」

と、事もなげにリルケ・ユウキ大使は言った。

 ジェルス・ホプスキンは突然の事に、どう返事をしていいのかわからなかった。そんな能力があったら便利だと考えたことはある。だが、本当にそれがあるとしたら、どうなのだろうか。

「しかし、そのような特殊な能力だったら、アルネ・ユウキ少佐、あなたの方があるのではないですか」

「それが、事件を解決するような能力はちょっとないのよね。TPとか透視能力とかは多少はあるけれども、あなたほどではないのよ」

「そうですね。この能力は、あなたが過去世においても何度も警察関係の仕事をして来たことと関係しているのです。特に古代アルフ王国の時代にあなたのその能力は磨きを掛けられたと言えます」

 古代アルフ王国だと?とジェルス・ホプスキンは思った。そのような国のことは聞いた事がない。元新世紀共和国の歴史書にも銀河帝国の歴史書にもあるとは思えない。

「その、古代アルフ王国と言うのは、いつの時代に在ったのですか?」

「古代アルフ王国と言うのは、我々リドス連邦王国と言うよりはダルシア帝国やガンダルフの古い歴史書にある国のことです。今から数百万年も前のことです。このロル星団に存在した宇宙文明を持った王国のことです」

「銀河帝国よりも数百万年も前の事だと言うのですか?そんなことあり得るのだろうか。私の生まれ育った文明には生まれ変わりという言い伝えはありましたが、それが事実であるという確証はありません」

「まあ、それはそれとして、今そうしたことを議論している暇はありません。あなたにそのような特殊能力があるとすれば、生まれ変わりというのも事実だとわかりますよ」

「でも、能力が目覚めるというのは、その数百万年も前の記憶が蘇ると言うことなのでは?」

「いえ、そんなことはありませんよ。ガンダルフの魔法使いでもない限り、そんなことはありません。もっとも彼らは一度死んだ後に魔法で蘇り、その時に自らの過去世の記憶を蘇らせると聞いています。あなたの場合は、単に昔使っていた能力を使えるようにすると言うことです」

「あなたにはそれができるというのですね、大使閣下」

「そうです。私には大した力はないのですが、このような方面には詳しいのです。それで、どうします?」

「もう少し、考える時間を下さい。ここに来てから色んな事が起きて、そのことでも理解できないことばかりでしたので……」

「そうですね。ゆっくりとは言えませんが、お茶を飲んでいる間、考える時間はあります」

 ジェルス・ホプスキンは困ったことになったと、出されたお茶を飲みながら思った。まさかこんなことになるとは思わなかったのだ。確かに、大使の言うような能力があったら、便利には違いない。だが、実際にはどんな能力なのかはそれを目覚めさせなければわからないようだった。

「そう言えば、この銀河帝国や新世紀共和国があったところに、古代アルフ王国があったのですね」

「そうです。非常に高度な宇宙文明を持った国だったと聞いています。かのダルシア帝国に比べても遜色がないと、ダルシア人も言っていたそうです」

「ダルシア人か……」

 ここへ来る少し前に見た、あの小山のような竜が最盛期のダルシア人の姿だと言うことをジェルス・ホプスキンはアルネ・ユウキに聞いていた。ただロル星団の新世紀共和国生まれの彼には、ダルシア人と言うのは初めて聞いたことだった。大昔はどうだったがわからないが、現代においてもジル星団では有名なようだが、ロル星団では全く知られていない。

「ダルシア人はもういないのですよね」

「本国にはもう生きているダルシア人はいないそうです。ですが、このふたご銀河のどこかに今日現れたようなダルシア人がいるかもしれません。もっとも、居たとしてもその竜が元のダルシア人としての力を持っているかどうかわかりませんが……」

と、リドス連邦王国のリルケ・ユウキ大使は言った。


434.

 惑星カルガリウムでグーザ帝国の残存艦隊との停戦交渉を終え、彼らが去ったのを確認すると、すぐにクルム司令官代理一行はヘイダール要塞へ戻った。

「うまく行ったようですね」

と、ダズ・アルグ提督は言った。

「大体はうまくいったが、妙な連中にも出くわした」

と、クルム司令官代理が言った。

「妙な連中と言うのは?」

「ダールマン提督が言っていた、現在グーザ帝国へ侵攻している連中だ」

「何ですって!その連中の艦隊が来ているのですか?」

「いや、艦隊ではない。その敵の奇襲部隊が来ていたと言うことだ」

 そこで、バルザス提督があわや大惨事になるところだった件を話した。

「そんな危険なことがあったとは……」

「こちらも、まさか敵の敵が現れるとは思わなかったのだが……」

「それで、敵はどうやって逃げたのです?」

「どうも連中は魔法のようなものを操っていた。言葉はわからないが呪文を使っていたし、逃げる時もジャンプ・ゲートの小さなものを艦の中で作って去ったのだ」

「小さなジャンプ・ゲートを作ったですと!」

「そうだ。あれは、小さいがジャンプ・ゲートのようなものだった。でなければ、転送のワーム・ホールを呪文で作ったようなものだ」

「そんなことができるのですか?」

「できないことはない」

と、ダールマン提督が言った。

「そう、かなり昔のことになるが、そうしたことのできる種族と会ったことが有ると言う記録がある」

「そんな話がダルシア人の記録にあるのですか?」

「いや、ガンダルフの最初の人々の記録にある」

「ガンダルフの最初の人々?ガンダルフの種族と言うのではなくて、最初の人々と言うのですか?」

「我々は彼らについてはあまりわからないのだ。ダルシア人でさえ、知らないことを色々と知っていたことはわかるのだが、私はその記録を読んだことがあるのだ」

 ガンダルフの最初の人々は呪文を操る魔法使いではなく、ダルシア人のように様々な特殊能力を駆使することが出来た種族だと言うことだった。彼らの残した記録はダルシアの歴史よりも古く膨大で、その一部にそうした他の銀河の種族についての記録があるのだった。

「ガンダルフの文明そのものは、ダルシアの文明よりも古いのだ。それに、ガンダルフはダルシアのように宇宙船を造るような技術はなかった。つまり、呪文ではないが、ジャンプ・ゲートを思念で作るようなことも出来たのだ。それを使って、時折他の銀河に出かけていたと言う記録がある」

「宇宙船ではなく、念という特殊能力でジャンプ・ゲートを作ったというのですか?それこそ、魔法のようなものではないですか」

「もちろん、魔法というのは念の一形態に過ぎない。従って、ガンダルフの最初の人々は呪文など無くても魔法を使えたということだ。後世のダルシア人のように」

「で、そのジャンプ・ゲートを作れたと言う種族はどこのモノなのか?」

「ケルローンと彼らは呼んでいたようだ」

「ケルローン?確かバルザス提督は連中の言葉で、『ケルバブロス』と聞いてはいなかったか……」

「連中は彼ら自身のことをケルバブロスと呼んでいました。しかし、ケルローンと言うのはいつ頃の話ですか」

「おそらく億年の昔だ。だいたい二億年かそれ以上になるだろう」

「億年だって?そんな昔のことなのか。本当にそんな昔からガンダルフでは記録が残っていると言うのか」

「確かに彼らには宇宙船を造る様な技術はなかった。今ある情報を記録する媒体もなかった。だが、もっと正確に記録を残すことのできる方法を知っていたということだ」

「どんな方法で、その記録を残したのですか?」

と、興味を持ってディポック提督が聞いた。

「それは異次元に記録を残していたのだ」

「異次元?例えば、どんな次元に?」

「簡単に言えば、高次元のことだ。ここが三次元だとすると、少なくとも五次元とか六次元とかそう言った次元だ」

「しかし、あまり年月が経てばその記録は褪せたり破損したりするのではありませんか?」

「高次元に記録を残した場合にはそのようなことはない。そこには時間が経つことによって消耗するようなことがないのだ」

 ただし、その記録を読むのは簡単ではない。少なくとも、多少は魔法の心得が必要だった。あるいは異次元を見ることが出来るとか言うような特殊能力がないと読むことは難しい。魔法を使うならダールマン提督――すなわちガンダルフの魔法使いレギオンなら、それを読むための呪文を持っていた。

「では、それを読めば連中のことが少しはわかるのではないですか?」

「いや、その記録は言ったようにここでは億年も昔のものだ。それから向こうの銀河では何年経っているかわからない。だから、似たような名を聞いたからと言って、そこに関係があるとは言えないだろう」

「ちょっと待ってください。あなたは、ここの銀河と向こうの銀河では時間の流れが違うとでもいうのですか?」

「時間の流れと言うのは、かなり個性がある。同じ銀河でも惑星同士で同じ時間が流れているとは言えないことがある。まして、他の銀河では過去や未来がどう繋がっているかわからない。このケルバブロスという連中がかつてのケルローンという連中と同じかもしれないし、違うかもしれない。調べてみないことにはわからないのだ」

「でも、もしかしたら同じ連中かもしれないのですね」

「かもしれない。だが、調べるためには時間がかかる。それでなくても、こちらでは別の問題が解決してはいないのだ」

 グーザ帝国の艦隊が帰還したとしても、こちらには例の『死の呪い』の問題があるのだった。それに、差し迫った問題として、惑星カルガリウムの住民の帰還ということも考える必要があった。

「確かに、まず惑星カルガリウムの住民の帰還をさせなければならない。そうしなければ、グーザ帝国の連中とエネルギー結晶鉱石の交易もできないだろうし……」

「では、まずカルガリウムの住民たちに元の惑星の都市に変えることが出来ると伝えなければなりませんね」

「惑星カルガリウムへの帰還にはまた転送装置を使うのですか?」

「その方が銀河帝国軍に気づかれ難いと言う点で、使うべきだと思う」

「確かにその方がいいでしょう」

と、グリンが言った。

 ヘイダール要塞は駐留艦隊を引き上げると、ダルシアの数十隻程の小艦隊を警護のために置いて、急いで元の場所に戻ることにした。


 惑星カルガリウムの住民は一度ヘイダール要塞へ転送されてから、リドス連邦王国の用意した宇宙都市に転送されて行った。その宇宙都市はリドスの本国から離れた宇宙空間に造られた都市で、一つの都市に付き一千万人ほどが暮らせるように造られていた。従って惑星カルガリウムの住民は五千万人ほどだったから、五基の宇宙都市が当てられていた。

 ところが元の星に戻れるという知らせに住民たちは、今いる都市から離れたくないと惑星カルガリウムへの帰還に反対した。それは他の宇宙都市へもあっという間に伝わり、住民運動となってリドス連邦王国の担当者を慌てさせた。

「大変です。元惑星カルガリウムの住民たちが戻りたくないと大騒ぎをしているそうです」

と、リドス連邦王国から交替に来た要塞警護の艦隊の提督がヘイダール要塞へ着くなり、バルザス提督を呼びだして言った。

「どういうことだ?」

「詳しくは聞いていませんが、要するに惑星カルガリウムへは帰りたくないと言っているそうです」

「帰りたくない?しかし、その宇宙都市は期限付きで彼らに貸し出しだのではないのか?その説明はしてあるのだろう?」

「そうなのですが、今いる都市が気に入ったと言うのです。要するに、今住んでいる都市が便利で居心地がいいので、他への移住は、元へ戻ることだとしても嫌だと言うことらしいのです」

「しかし、なぜそんなに今いる都市が便利で居心地がいいのか?」

「それが、転送装置を使って移動してきたと言うので、担当の者が転送装置のある文明用の都市へ住まわせてしまったと言うのです」

 リドス連邦王国では万一のために、幾つかの大量住民移動のための短期滞在や災害時の移住用の都市があった。その都市は住民の持っている文明に合わせて作られており、宇宙文明に達した住民用でもワープ航法が使える文明や転送装置のある文明など分けられていた。今回住民が転送されて来たというので、転送装置のある文明用の都市を使ったというのだ。

 転送装置のある文明用の都市は、都市内の交通でも離れた場所へ行くのに転送装置を使うだけではなく、都市の外への移動にも、宇宙船ではなく転送装置を使うのが常だった。従って、その短期滞在用の都市からリドス連邦王国の首都や繁華街、そして観光などのための移動などにも転送装置が使えるため、非常に便利だった。それに慣れてしまうと、例え移動に宇宙船が使えるとはいえ面倒に感じるようになるのだ。

「だが、敵の艦隊は去ったのだ。住民が戻って来ても何の心配もないのだが……」

「それをどうやって納得させるのですか?」

 もちろん、理由はそれだけではない。リドス連邦王国内に居るのとは違って惑星カルガリウムは元新世紀共和国であり、現在は一応銀河帝国の新領土になっている。これまで銀河帝国の艦隊は常駐してはいなかったが、これからはわからない。グーザ帝国の艦隊は去ってもいずれは銀河帝国の艦隊がやってくるだろう。その時にどんな要求をされるかわからないと言うことも、住民たちは恐れていると考えられた。だからと言って、リドス連邦王国の艦隊を警備に置くことはできないのだ。

「ともかく、何とか彼らを説得することを考えなければなりません」

 便利な場所から不便な場所への移動を納得させることは、非常に難しいことだ。それに、自分たちの危険が増すのではないかと言う可能性もあるのだ。彼らを説得するには時間が掛かりそうだった。



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