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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
97/153

ダルシア帝国の継承者

429.

 クルム司令官代理はほんの一瞬だが、過去の出来事を思い出していた。それは今まで忘れていたことだった。過去の事とは、銀河帝国皇帝リーダルフ・ゴドルーインがまた帝都にいた頃の事だった。もちろん、今現在の帝都に昔の彼が存在していることは知っていた。そこで起きたことも今でははっきりと思い出すことが出来る。当時の失敗を何とかしたいと思っても今はできない。そして、彼が最終的にヘイダール要塞を攻略するために帝都を発してやってくるにはまだ数カ月あるのだ。

「どうかしましたか?」

と、ディポック提督がクルム司令官代理の様子がおかしいのに気づいて聞いた。

「いや、何でもない……」

「気分が悪いのなら、もう少し後で行っても惑星カルガリウムのグーザ帝国の残存部隊との交渉は大丈夫でしょう」

「いや、そう言う訳にはいかない」

 惑星カルガリウムのグーザ帝国の残存部隊の司令官が降伏してきたので、停戦条約の締結のためにこれから向こうの旗艦へ向かうところだった。クルム司令官代理は性格的に、自分の気分でこうした大事な交渉事を遅らせることはできなかった。本当は今回の件についてダールマン提督の助言を受け入れたくはなかった。だが、そうした場合についてのデメリットが逆の場合よりも大きいような気がしたので、已む無く受け入れたに過ぎない。

「こちらの条件は大体ここに記してあります。その横に、グーザ帝国の言語で同じことを記しています」

と、バルザス提督が紙の書類を見せて言った。

「あの、四人でいくのですか?それで大丈夫なのですか?」

と、ダズ・アルグ提督が言った。四人目は副官のブレイス少佐だった。

「銀の月が居れば大抵のことは何とかなると、ダールマン提督が言っていたよ」

「しかし、……」

「それに、彼らの国には魔法使いなんていないから、彼がどんな力を持っているかわからないだろう」

 バルザス提督は、見た目は普通の軍服を着た軍人にしか見えないはずだとディポック提督は思って居た。もちろん、向こうに魔法使いが居た場合は別だが。これに関しては、グーザ帝国の文明には魔法などがないことはわかっていた。

「しかし、それだけでは心配です」

「そうだ、忘れていた。あと一人、フェリスグレイブの例の部下が警護に付くはずだ」

「例の部下というと?」

「ドラゴン・スレイヤーのことだ。見た目には普通の人間に見えるので、ダルシア人と同じとかいう、そんな大それた力があるとはとても思えないだろうからね」

 ヘイダール要塞に現れたドラゴン・スレイヤーは皆女性だった。それも若い女性だ。従ってちょっと見ただけでは、どんな力があるかはわからない。もっとも護衛として連れて行くのだから、向こうもそれなりに多少とも腕が立つと思うだろう。


 グーザ帝国のカルガリウム残存艦隊はすでに一万にも満たなかった。シャトルに乗って彼らの旗艦に近付くと、先の尖った円錐形の艦影が見えてきた。グーザ帝国の艦と言っても、基本的に流線型であることは銀河帝国の艦と似ていたが、その先頭に当たる部分が先の尖った円錐形であることが違っていた。

 シャトルでグーザ帝国の残存艦隊の旗艦に着くと、交渉団を迎えにグーザ人特有の顔に比べて耳が大きい士官たちが、普段は小型戦闘機の格納庫である場所に無表情に整列していた。

「私はヘイダール要塞のクルム司令官代理だ。今回の交渉役に来た」

 ヘイダール要塞は惑星カルガリウムの星系でも一応ステルス状態を保っていたので、グーザ帝国の者達はヘイダール要塞の艦隊から来たと考えていた。つまりクルム司令官代理はヘイダール要塞の駐留艦隊の提督ということになる。彼はその誤解を知っていて、尚且つそのままにしておくことにした。その方が都合よいからである。また、ヘイダール要塞から来た者達の胸には例の言語フィールド発生装置が付けられていた。

「あなた方は、我々の言語を解するというのは、本当なのですね」

と、迎えに来た士官の筆頭が言った。

「そうだ。もっとも、翻訳装置が優れているということになるが……」

と、正直にクルム司令官代理は言った。その程度なら言ってもかまわないとダールマン提督が言ったのである。

「翻訳装置ですか?」

と、驚いたようにその士官は言った。彼は、ちらっとシャトルに視線を向けたが、ため息をついてクルム司令官代理の方に向き直った。彼には翻訳装置が小さなものとは思えなかったのだ。おそらくシャトルの中に積んであり、ここの会話をシャトルへと送りそこで翻訳されて戻ってきているのではないかと思ったのだ。

 この時、バルザス提督は魔法使い特有の感が、この旗艦の中に妙な気配があることを知らせて来ていた。それは不思議なことにグーザ帝国の者たちが持っているはずのない、魔法の気配だった。魔法というと現代においてふたご銀河でそれが盛んなのはナンヴァル連邦やゼノン帝国と他数か国ある。だがここの魔法の気配は彼の知っているそのどれとも違っていた。それに、バルザス提督――つまり銀の月やレギオンのような白魔法使いの気配ではない。どちらかというと、魔術師や魔導士のたぐいであった。

 ヘイダール要塞から来た一行はグーザ帝国艦隊の司令官であるヒュードルラ提督の元へ案内された。そこは旗艦の司令室のようだった。司令官の座す席が中央にあり、目の前に大スクリーンが広がっている。今はその間に、ヒュードルラ提督とその副官、そしてクルム司令官代理一行が立っていた。その中間に交渉の書類にサインをするテーブルと椅子が置いてあった。困ったことに、この部屋に得体の知れぬ魔法の匂いが更に強くなっていることをバルザス提督は感じていた。

 だが、一緒に来たクルム司令官を始めディポック提督や副官のブレイス少佐、それに相手側のグーザ帝国の者達もその妙な気配を少しも感じていないようだった。

「ようこそ、我が艦隊旗艦へ。私が、この艦隊提督のヒュードルラです。ヘイダール要塞の皆さんでしたかな……」

「我々は、今回のあなた方グーザ帝国の我々の領土への侵攻における敗北と、特に惑星カルガリウムの返還について後々のためにきちんと書面で交わして置く必要があると考えてやって来たものだ」

と、クルム司令官代理は言った。

「了解しています。それで、我々はこのまま本国へ戻ることを許可していただけるとのこと、本当に約束していただけるのですね」

と、念を押すようにヒュードルラ提督は言った。この連中とは何度か遣り合ったが、まだそこに信頼関係があるわけではない。だからこそ、念を押す必要があると彼は思ったのだ。それに、本国が他銀河の侵略にさらされているなどと言うことを知られてはならないので、できるだけ交渉を焦っているようなところを見せたくなかった。

「もちろんだ。我々もまたこれ以上の戦闘を望んではいない」

「それでは、停戦の協定書に署名することにしましょう」

 ヒュードルラ提督はできるだけ丁寧な言葉遣いをしていた。別に卑屈になったわけではないが、引き上げなければならないのなら、円滑に早く引き上げて総司令部に報告したいと考えていた。それがたとえ、今回の敗北の責任を取らされるにしても、次の手を早く打つことが本国には必要なのだ。

「ところで、ここの鉱山のことだが、……」

と、クルム司令官代理は言った。

 グーザ帝国側に、一瞬緊張が走った。おそらく廃坑にされるのではないかと、思ったのだ。ふたご銀河の側はエネルギー結晶の鉱山を必要とはしていない。従って、ここを去る自分たちがそれを破壊していくように要求されるのだと思ったのだ。

「ここの鉱山はあなた方のものだ。我々にはもうどうにもなりません」

「いや、そう言うことではない。もしこの鉱山の産する資源をあなた方が欲するなら、それをあなた方と貿易をしても構わないのだが……」

「貿易?我々と、貿易をすると言われるのか?」

「我々としては、別にこの鉱山から出る資源を欲しいと思ってはいない。せっかくここまで採掘が出来るようになっているのなら、これを潰すのは勿体ないと考えている。もし、ここのエネルギー結晶鉱石というのか、あなた方がそれを欲しいと言うのなら貿易をしてもいいと考えている」

 この展開はヒュードルラ提督も考えてはいなかった。彼らヘイダール要塞の連中はこのような鉱山は不要ということで、鉱山そのものを破壊するぐらいはやりかねないと考えていたのである。少なくとも自分が彼らであるなら、そうするだろう。それなのに貿易によってグーザ帝国へやってもいいと言うのだ。

「本当か?」

と、つい副官も口にした。そしてまさかとは思うが、自分たちの状況が相手に知られているのではないかと一瞬思った。それでなければ、このようなことを言ってくることは考えられないからだ。それとも、それだけ人がいいと言うことなのだろうか。

「私は戯言を言うつもりはない。もし、あなた方が必要と言うのなら、貿易をしてもいいと考えている」

「つまり、ヘイダール要塞と貿易をすると言うことか?」

と、ヒュードルラ提督は唾を飲み込んだのちに言った。もう丁寧な言葉を使うような余裕はなかった。それだけ、この星の鉱山が彼らには必要だったのだ。

「正確に言うと、これから惑星カルガリウムにできるこの星の政府と貿易をすると言うことになるのだが……」

「この星の政府?だが、この星には住民はいない。断っておくが、我々が虐殺したわけではない。いなくなってしまったのだ。それなのに政府があると言うのか?」

「この星の住民は、我々が避難させたのだ。だから、あなた方が去れば、住民はここへ戻って来ることになる。その政府と貿易をすると言うことだ」

「それは、我々にとっては願ってもないことだ」

「閣下!」

と、傍にいたヒュードルラ提督の副官が小声で言った。

「言うな。今更、建前でものを言っても何の益もないことだ。我々にとっては、ここの鉱山は我が国の死命を制するほどの価値があるのだ」

「ですが……」

 それをこの敵将たちの前で言うことはどうなのだ、と副官は思ったのだ。自分たちの窮状が知られてしまうことにならないだろうか。

「我々はあなた方の国のことについて、多少とも情報を持っています。もし、エネルギー結晶鉱石が必要だと言うのなら、ここの恒星系の他の惑星で、その鉱山があるかどうか調査することを許可してもいいのですが……」

と、バルザス提督も付け加えた。停戦交渉に口添えをしているようだったが、彼は油断なくあたりに気を配っていた。この司令室の中にあるきな臭い感じが、だんだん強くなってきているのだ。それがグーザ帝国の連中が仕掛けているのか、それとも彼らとは違う第三者が仕掛けているのかを見極めようとしていた。

 だが、ヒュードルラ提督もその副官もそのきな臭さを感じていないようだった。

「本当か?しかし、それでは……」

「我々は貿易をすればいいだけのこと。もし、他に鉱山があれば、そこを採掘してあなた方と貿易をすることはかまいません」

 これはヒュードルラ提督には、願ってもないことだった。しかし、そこに不安が生じた。こんなことを言うということは、彼らヘイダール要塞側はこちらの窮状をどこまで知っているのだろうか。本国の情報も知っていると言っていた彼らは、まさかあの未知の侵略者の事まで知っているのだろうか。そうだとしたら、なぜこんな敵に有利なことを言ってくるのだろうか。


430.

 その時、部屋の隅から黒い煙のようなものが立ちあがった。それはあっという間に司令室全体に広がった。その中にわずかに黒い人影のようなものが見えた。

「何だ?何事か……」

 その場に居た者達は口と鼻を抑えて、何が起きたのかを見ようとした。この黒い煙には匂いはなかった。単に視界を遮るために生じたもののようだった。また黒い人影はグーザ帝国の軍服を身に付けてはいなかった。軍服とは違って、長いローブのようなものと繋がった頭巾のような頭まで隠れるものを被っているのは見えた。

「警護の者はどうしたのだ?」

と、ヒュードルラ提督が言うのが聞こえた。

「これは一体どこから来た者達なのだ?グーザ帝国のものなのか……」

と、クルム司令官代理が聞いた。

「いえ、誓って、この者達は我々グーザ帝国の者ではありません」

「では、どこのモノなのだ?」

「まさかとは思いますが、現在我々の銀河に侵入してきている連中だと……」

と、言ってしまった後、慌てて口を押えたのは副官だった。

「グーザ帝国に侵攻してきている敵がいるのか?」

と、クルム司令官代理がわざとさも驚いているように言った。

「そ、それは、まだそうだと言えるような段階ではないのだが……」

 ヒュードルラ提督はまだグーザ帝国に侵攻してきている敵について、詳しくは知らなかった。だが、その不可思議で高度な技術だと思われるもので、本国が翻弄されていることは知っていた。だからと言ってそれが今ここに現れた連中だとはまだ断定できない。


 無言で現れた者達はまだ黒い煙が生じている間に、揃って低い音調の言葉を唱えた。

「***********、************」

 ヘイダール要塞から来た者たちが身に付けて来た言語フィールド発生装置では翻訳できない言葉を、突然現れた者達は唱えていた。

「まさか、こんなところまで……」

と、ヒュードルラ提督の副官が言った。頭巾を被った者達の使う言葉で相手が誰だかわかったようだった。

 すでにバルザス提督はその連中を敵認定し、グーザ帝国の者でないことも見抜いていた。

 突然、熱を発する凄まじい光球が司令室の中に生じた。

「こ、これは?」

「熱い!」

「我がガンダルフのよき同盟者である、古きアルフの神々よ、その主を傷つけることなく、この光と熱を、とく去らせたもうことを願う。そして、その者らを地へ這わせよ!」

 バルザス提督の呪文は祈りの言葉のようにも聞こえた。短いが、その効果は絶大だった。とは言え、その熱光球は本物だった。その場に居たものはその熱さと光にやられるところだった。だが、彼の呪文で光球は消滅し、司令室に潜入してきた者達はその場に倒れ伏した。しかし、そのうちの一人が倒れてもすぐに起き上がり、バルザス提督と睨み合うように立った。その起き上がった者はバルザス提督が言った言葉に魔法の力を感じたのだろう。

「今のは、何だったのだ?」

と、ヒュードルラ提督はバルザス提督の呪文で、熱と光球が消滅したことでやっと言葉を出すことができた。

「あれは、魔法で生じた熱と光の塊でした。あのままでしたら我々はおそらく焼死してしまったでしょう。つまり魔法の呪文で生じた攻撃でした」

「それで、あなたが言った言葉は何だったのだ。強い光と熱が生じたようだったが、あの言葉で消えてしまったように思えるのだが……」

「それも呪文です。普通は使わないのですが、ここでは他に力を供給する人がいるので、何とかなりました」

 これは本音だった。あの熱光球を消滅させるのは、かなりの力を必要としたのだ。相手側も一人ではなかった。複数の魔法使いが同時に同じ呪文を唱えて攻撃してきたのだ。もしバルザス提督一人だったら、危うかったほどだった。

「呪文だと?お前たちは呪文を使うのか?」

と、ヒュードルラ提督の副官が言った。

「ジルラ、よさないか!」

と、ヒュードルラ提督が言った。

「それにしても、一体これは何事なのか?この連中はグーザ帝国の者なのか?」

と、クルム司令官代理がわざと怒っているように尋ねた。

「いえ、違います。このような不思議な力を使う者など、我が国にはおりません」

「では、この連中は卿の言い掛けたグーザ帝国に侵攻してきている敵だと言うのか!」

「そ、それは……」

 その時、残った一人の頭巾の襲撃者が言った。

「*************」

「何だ?奴は何と言っているのだ?」

「私を何者かと聞いているのです」

 バルザス提督――銀の月は、魔法を使えるだけではなかった。彼には霊視や透視、それにTPの能力もあったので、今回はTPで相手の意図を知ったのだ。

「あなた方は、この連中の言葉がわかるのですか?」

と、ヒュードルラ提督は驚いて言った。グーザ帝国ではまだこの侵略者の言葉を完全に解析できないでいるからだ。

「いや、分かるのではありません。大体の意味が分かる程度です」

 言葉はわからなくともTPを使えば相手の話している意味は分かる。そして、こちらの話を分からせるには、TPで相手の心に直接話しかけるしかない。

(お前たちはどこから来た?)

と、バルザス提督はTPで話しかけた。

(こ、これは、魔法か?)

(これは魔法ではない。TPと言う能力だ)

(お前は魔法使いなのか?)

(そうだ。私はガンダルフの魔法使いだ)

(我々は、ケルバブロスの世界から来た、お前と同じ魔法使いだ)

(世界?銀河ではないのか?)

(銀河?銀河とはなんだ?)

 バルザス提督は銀河についてその概要をTPで伝えた。

(銀河、そうか星々の集まりのことか……)

(ケルバブロスというのは、どこの銀河にあるのだ?)

(銀河、我々の銀河の名はわからない。場所もわからない。ただ我々の世界は、衰えているのだ。だから、新しい世界が必要なのだ)

(要するに移住したいと言うのか?)

(そうだ。我々の国ごと別の世界へ移動しなければ、我々は滅びるしかない)

(その理由は何なのだ?)

(お前に言う必要はない)

(その理由を言えば、我々がお前たちの移動する場所を見つけてやれるかもしれないのだが……)

(ばかな、そのようなこと、有りうるはずがない)

 その魔法使いは黒い頭巾を捲ると、両手を前に突き出して、

「**************************……」

と、呪文を唱えた。

「危ない、シールド!」

と、バルザス提督は叫んだ。

 ケルバブロスの魔法使いは前に突き出した両手から青い炎のようなビームをバルザス提督めがけて出したのだった。ここにいる敵側の魔法使いはバルザス提督一人だと考えたからだ。だが、シールドの呪文でその青い炎は寸での所で退けられた。そして、シールドで跳ね返された青い炎を、ケルバブロスの魔法使いが慌てて消し去った。

(お前はどこの魔法使いか?ガンダルフと言う世界はどこのことだ……)

(ガンダルフは世界ではない。惑星の名だ。ケルバブロスというのは、どこぞの星の名ではないのか?)

(ケルバブロスは我が世界の名だ。私の呪文が効かぬとは、お前はかなり強い魔法使いなのだな)

 見ると、今の動作で黒い頭巾の取れたその魔法使いの姿は毛深く、猫が直立したような容貌と姿だった。耳は猫のように尖がっていて、頭の上にあった。頭巾はその耳を覆い隠していたのだ。

(その姿は我々の惑星にいる猫のようだな……)

(猫だと?我々はお前たちの世界にいる猫というペットではない)

と、怒ったようにケルバブロスの魔法使いは言った。TPは映像も送れるので、バルザス提督は猫と言うものの説明をするために猫の映像を送ったのだ。

(まあ、姿形は別の銀河なのだから、我々と違っていてもおかしくはない。だが、他の銀河を侵略することは間違っている)

(我々の世界は滅びそうなのだ。だから、仲間をこやつらの世界へ移動させたいのだ。だと言うのに、この奴らは我々を攻撃してくる)

(別の世界から突然断りもなくやって来る者に対して、攻撃をするのは不思議なことではないし、当然のことだ。第一、お前たちは自分たちの窮状を彼らに説明したのか?)

(なぜ、その必要があるのだ。我々の方が強いのだ。だから、こいつらの住処を奪うのは当然のことだ)

(それでは、いずれどこにも住めなくなるぞ!)

(ふん、そのようなことどうでもよいことだ。つまりは強ければいいのだ。強ければ、どこにでも行ける)

(だが、このふたご銀河ではそのようなことは通用しないぞ)

 バルザス提督はこのケルバブロスの魔法使いが白魔法使いではないこと、おそらく魔術師か魔導士であることがわかった。もちろん、魔術師であっても魔導士であっても危険なのは同じだった。

「何を話していたのだ?」

と、クルム司令官代理が聞いた。

「彼らがなぜ、蛇使い銀河のグーザ帝国へ侵攻してきたのか理由を聞いていたのです」

「それで何かわかったのか?」

「彼らは、つまり彼らの世界は滅びつつあるので、移住先を探していると言うことでした」

「移住先を探している?だから、グーザ帝国のある銀河を侵略しているということか?」

「そのようです」

 ヒュードルラ提督は二人の話を聞いて、同じくなるほどと思った。だが、どうやって相手と話したと言うのかと疑問に思った。と言うのもあの敵と言葉を交わしていたようには思えなかったからだ。

「しかし、どうやって相手と話しているのか?私には話している言葉が聞こえなかったのだが……」

と、ヒュードルラ提督は聞いた。

「これはテレパシーと言う能力です。相手の心の中を読んだり、相手に自分の意志を伝えることに使う力なのです」

「そんな能力があるのか?私は聞いたことがない」

「そうですか、ともかく彼は危険です。他の仲間は今は気絶していますが、気が付くと同じく厄介です」

「要するに、この者達は魔法使いなのだな?」

と、クルム司令官代理が言った。

「そうです。ですが、白魔法使いではありません。おそらく魔術師か魔導士でしょう」

「白魔法使いと魔術師や魔導士の違いが、私にはいま少し判らぬが、ともかくこやつらは危険なのだな」

「そうです。このまま、ここに置いておくのは危険でしょう」

「どうすればいいのだ?」

「できれば、我々の艦隊の方へ連れて行った方がいいかもしれません」

(そんなことできるものか!)

と、これまで黙って様子を窺っていたケルバブロスの魔法使いは心の中で言うと、両手を広げて呪文を唱えた。

「****************、***************、************」

「何をしているのだ?」

「これは……」

 ケルバブロスの魔法使いの呪文が終わると、ゆっくりとではあるが、彼らの姿が消え始めた。

「ほう、これは珍しい」

 バルザス提督は、興味深く彼らケルバブロスの魔法使い達が消えていくのを見ていた。これは身体を見えなくするのではなく、消滅させるのでもない。おそらく彼らは自分たちの世界に戻って行くのだ。宇宙空間や次元を超えて、彼らの世界へと戻るのだろう。だが、このような魔法はかなり高度な魔法であり、かなりのパワーも必要とするものだ。誰でもそう簡単に使えるようなものではない。従って、魔術師や魔導士の使える魔法ではないはずだった。


「このまま、行かせるのか?」

「他に仕様がありません。少なくとも、彼らの攻撃を撃退はしたのですから、それでよしとするほかありません」

 ケルバブロスの魔法使いの呪文はバルザス提督――ガンダルフの五大魔法使いの一人、銀の月であっても簡単に妨害できるものではなかった。それに、変に邪魔をすると彼らが元の世界に帰れなくなる可能性もあるのだ。だから、黙って見ていたのだ。

 そこへヒュードルラ提督の副官ジルラがこれまでの経緯から妙な誤解をして言った。

「この連中は、お前たちの仲間か?」

「何を言っているのだ、これはお前たちの敵、グーザ帝国に侵攻してきている連中だろう」

「何だと、こんなところまであの連中が来るわけがない。お前たちは我々を騙そうとしているのではないのか?」

「ジルラ、少し黙っていたまえ。この連中が我々の銀河を侵略している者達であることは、私にはわかる。あの妙な言葉、それに妙な力、その姿形、それは本国からの情報と同じだ」

「ですが、それはこのふたご銀河の連中も同じではないですか」

「それは違う。彼らは我々と停戦交渉をしに来たのだ。それに、ここの鉱山もその産出するエネルギー結晶鉱石を我々に貿易で渡すと言ってくれているではないか」

「しかし、……」

「それに、このふたご銀河であの侵略者と同じ力を使う者がいるなら、それが何かを知ることも可能ではないか」

 ヒュードルラ提督自身も事の成り行きに驚いていたのだ。あの未知の敵と同じ力を使える者がいるということは、その敵と同じ仲間ではないかと思うのも最もだった。しかしそう考えてしまってはこの停戦交渉自体も信用できなくなる。彼にはまず、この停戦交渉を終わらせることが重要なのだった。それが無ければ次の事が始まらない。

「しかし、私はこの連中の不思議な力が不安です」

と、副官のジルラが言った。


431.

「おそらく彼らが、グーザ帝国のある銀河へ侵攻してきている者達なのでしょう。違いますか、ヒュードルラ提督?」

と、バルザス提督は言った。

「確たる証拠はないが、本国からの情報によると、おそらく彼らが我が銀河への侵略者であるのだろうと私も思う」

「閣下。それよりも、あなた方ヘイダール要塞から来られた方々は、今のを見た限りあの連中と同じく魔法が使えると言うことではないですか」

「そのようだ」

 これは重大な発見だ、とヒュードルラ提督は思った。もしこのふたご銀河の連中があの侵略者と同じ魔法を使うことができるとしたら、彼らに反撃することができるかもしれない。本国は現在彼らに追われて、いくつもの恒星系や惑星を失っているところなのだ。彼らの不思議な力には対抗する手段がないため、有効な反撃が出来た例がない。もし、ふたご銀河のこの勢力と友好関係を結ぶことが出来たなら、有益な情報が得られるかもしれない。

 ヒュードルラ提督は諦めたようにため息をついた。

「つまり、あなた方は我々の窮状をご存じだということですね。隠すつもりはありませんでしたが、我々としては、このことを知られることはできれば避けたかったのです」

「交渉がやりにくくなるからか?」

「それもあります。ですが、このカルカリウムの鉱山のエネルギー結晶鉱石を貿易で分けてくれるということであるなら、私の知っていることをお話ししましょう」

「閣下、そのようなことお話になっては、総司令部に何と言い訳をするつもりですか?」

「もう、そのようなことを言っている場合ではない。こんなところまであの敵に入り込まれているのだ。話さざるを得まい」

 ヒュードルラ提督はグーザ帝国のある蛇つかい座銀河に侵入して来た敵について、現在知っていることを話した。

「なるほど、するとあなた方には初めて出会う者達なのですね」

「そうです。我々には理解できない力を操る者達です。そのため我々はエネルギーだけではなく、かなりの苦戦を強いられています。ですが、先ほどの敵の攻撃を回避した時使われたものは、その敵と同じような力のようでした。それは、新世紀共和国の持っているものなのですか?」

 クルム司令官代理はディポック提督とバルザス提督を見た。その話は自分ではできないからだ。

「いえ、あれは新世紀共和国由来のものではありません」

と、ディポック提督ははっきりと言った。

「ですが、まるで関係ないものでもないのですがね……」

と、バルザス提督は言外の含みを持たせて言った。

 倒れている者達は、皆消えてしまっていた。彼らは呪文を使って異次元に穴を開けて、自分たちの銀河に帰って行ったのだ。ガンダルフの魔法ではこうしたことは魔術師や魔導士の扱えるような魔法ではない。だが、バルザス提督は、あの襲撃者たちは白魔法使いではないと感じていた。

「何か亜奴らについて、ご存じなのですか?」

と、胡散臭そうにヒュードルラ提督の副官ジルラが言った。

「いや、別に。ちょっと興味が有ったので……」

 それでもバルザス提督はその後何か考えているようだった。

 ヒュードルラ提督はバルザス提督が呪文のようなものを使ったことを気にしていた。

「新世紀共和国ではないにしても、このふたご銀河では、あの敵と同じような妙な力を扱うことができる者がいるのですね」

「妙な力が魔法だというのなら、ふたご銀河にはそれを扱う種族もある」

と、クルム司令官代理が言った。

「どこにいる者達でしょうか?」

「古い種族に多いと聞いている」

「古い種族。すると、あなた方新世紀共和国の人々は扱えないと言うことですか?」

「いえ、そんなことはありませんよ」

と、バルザス提督は言った。

「しかし、新世紀共和国というのはかの銀河帝国よりも新しい国だと聞いています。そこには古い種族など住んではいないのではないですか?」

 銀河帝国は今から五百年前に建国したのだ。そして、新世紀共和国はその銀河帝国から出た者たちが造った国なので、建国して約二百年ほどになる。

「あなた方の言う古い種族がどんな種族を意味するか私には正確にはわからないが、銀河帝国や新世紀共和国の人々は新しい種族とは言えないでしょう。元はかなり古い時代に、このふたご銀河に移住してきた種族だからです」

「移住してきた?それはどういうことです。もう一つの星団であるジル星団から来たと言うことですか?」

「いえ、彼らは遠い別の銀河からふたご銀河に移住してきた種族なのです」

「そんなばかな。それは一体いつのことです?銀河帝国は建国から五百年経つと聞いていますが……」

「それは、今は言う必要はないでしょう。ともかく、襲撃者は去ったのですから、今回の交渉を終わらせることが肝要です」

「確かに、まずそこからですな」

 とは言え、あのような連中が潜伏していたとすれば、その仲間がこの艦隊のとこかに居ると考えるのが当然だった。だからこそ、早く停戦交渉を終わらせることが重要なのだ。

 ヒュードルラ提督とクルム司令官代理は停戦交渉に署名したのだった。



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