表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
95/153

ダルシア帝国の継承者

423.

 ベルンハルト・バルザス提督――銀の月はヘイダール要塞の司令室に浮かんだ通信用の魔法陣を見つめていた。そこには現時点でのグーザ帝国艦隊とヘイダール要塞からの援軍であるダルシアやリドス、それにヘイダール要塞の駐留艦隊の戦闘が繰り広げられていた。

(これは、まずかもしれない……)

と、バルザス提督は思った。

 最初、ヘイダール要塞の側は惑星ゼンダ、つまり元新世紀共和国の首都星を落し支配しようとするグーザ帝国艦隊と遣り合うつもりだった。だが、思いがけなく惑星カルガリウムにいたグーザ帝国の艦隊が敵の援軍にやって来たので、そちらとも対応せざるを得なくなったのだった。

 つまりヘイダール要塞側は二正面作戦を取らざるを得なくなってしまったのだ。ここで、大幅に作戦を変える必要が生じていた。初めは敵より少ない艦隻を多く見せるために魔法で誤魔化そうと考えたのだが、敵の援軍に要塞の駐留艦隊を向けなければならなくなったため、魔法で誤魔化す方法は捨てざるを得なかった。例え魔法で誤魔化すにしても、ある程度の数がないと何かで誤魔化しているということがバレてしまうのだ。

 ただ、ヘイダール要塞側の艦隊が最初から足りていないことから、作戦の変更もなかなか難しいことだった。そのため急遽戦闘機を出して、艦の足りない分を補うという最後の手段に出たのだ。

 この方法はかなり有効なのだが、あまり長く続けられないという欠点がある。戦闘機に乗った魔法使いが敵の艦を爆発させる魔法を使うのには一度目はそれほどでもないが、二度目はかなり難しくなる。そもそも、戦闘機に乗ったとしても、敵の艦との距離がかなりある。ガンダルフの五大魔法使いならともかく普通の魔法使いには、魔法を使う時に距離というのがかなり重要なものなのだ。

 そもそも惑星上では魔法使いはそれほど離れた距離で魔法を使うことはない。それが、宇宙空間になると魔法を使うべき対象が遠すぎるのだ。従って、それぞれの魔法使いの魔法を使う対象への距離が長いと、力がそれに比して多く必要になる。それに戦闘機に乗って近づいたとしても、敵艦に魔法を使う必要な箇所を探り、爆発させる魔法を発動させるという二度の強力な魔法を使う必要がある。そのため魔法使いの疲弊はかなりのもので、一度これを使うと、次に使うためには魔法使い自身の力の回復を待たなければならないのだった。そのため、多くの艦船を破壊することは難しい。


 グーザ帝国艦隊のクシュドルラ提督はまさか小さな戦闘機が味方の艦を攻撃しているとは思わなかった。彼らは戦闘機には戦闘機で当たらせたのだが、彼らの世界にはいない魔法を使った攻撃までは想像できなかったのだ。

「どうも、味方の艦の方が多くがやられているようだな」

と、クシュドルラ提督は首をかしげて言った。そもそも、味方の方が多いはずなのにやられるのはこちらの艦ばかりのように思えるのだ。

「そのようですが、しかし奴らはどんな武器を使っているのでしょうか?」

 エネルギー・ビームが当たっているのでもないし、ミサイルも姿かたちもない。ただ、艦の周囲を戦闘機が飛び回っているだけだ。もちろん、その戦闘機を落すためにグーザ帝国側も戦闘機を飛ばしていた。けれども敵の戦闘機のパイロットの腕もかなりよさそうだった。

「あ、またやられました」

 同時にグーザ帝国側の戦闘機が敵のビームにやられて落ちて行くのが見えた。敵の戦闘機はまだやられてはいない。よく見ていると、敵の戦闘機のシールドがかなり強固なように思えた。

「敵の動力源はよくわかりませんが、我々のものよりも強力なのではありませんか?」

「そうかもしれないが、……」

 元新世紀共和国の艦の動力源は核融合炉を使用していた。それは調査済みだった。だが、おそらくジル星団の艦隊と思われるあの艦は何を動力源にしているのだろうか、とクシュドルラ提督は思った。少なくとも、核融合炉ではない。それではこれほどの攻撃エネルギーは出せないだろう。それにこのふたご銀河には彼らの使うエネルギー結晶石を動力源として使う文明はまだないと聞いていた。

 戦闘が続いている中よく観察してみると、艦隊全体として、いつの間にか味方がかなり数を減らしているのがわかる。戦闘機も艦もどちらも減っているのだ。

「惑星カルガリウムから来た連中はどうしたか?」

「これまでのところ、敵と互角だと言ってきています」

「あまりよい状況ではないな……」

 自分たちの艦隊の方が速度や武器の強さにおいて、敵を上回っているという情報だったので、この惑星ゼンダまでやって来たのだ。ところが、敵の艦も改造されているのか、かなりの戦力になっている。これでは勝ち目がないかもしれない、とクシュドルラ提督は口には出さないが、一瞬弱気になった。


「どうだ、敵は数を減らしているようだが……」

と、クルム司令官代理は言った。それでも、油断なく戦闘状況を見守っていた。

「あまり長く続けていると、こちらが持たないでしょう。そろそろ、あの兵器を使う時期なのでは?」

と、バルザス提督が言った。

「そうだな」

「あの兵器というと?」

「この恒星系にある古代アルフ族の兵器のことです」

「アルフ族の兵器とは、どのようなものなのだ?」

 ブレイス少佐の例の報告書にあったアルフ族の兵器は、かなり強力だった。その時の敵はグーザ帝国艦隊ほどの規模ではなかったが、一撃で壊滅させたのだ。

「ブレイス少佐、その時のことを覚えているね?」

と、バルザス提督――銀の月が聞いた。

「覚えています。ですが、あの時はダルシアのヴォルガスが一緒にいて、補助をしてくれたので、私一人でできるかどうか自信はありません」

「ヴォルガスのことか?それなら、まだ君の傍にいるはずだよ」

「え?」

と、驚いてブレイス少佐は周りを見回した。

 ブレイス少佐がヘイダール要塞に戻ってからは、ヴォルガスの姿を見かけることはなかったのだ。そこで目を閉じて、深呼吸をして気を落ち着かせて、心の中でヴォルガスの名を呼んでみた。

(私を呼んだかい?)

(ヴォルガス!いたの?気づかなかった……)

(私が傍にいると思えば、窮屈に感じるのではないかと思ったのだ)

(そんなことはないわ)

(いや、そうだ。人間とはそういうものだ)

 その話を聞いていたように、バルザス提督は言った。

「では、いいかな?ヴォルガスに、例のアルフ族の兵器を使えるかどうか、聞いて欲しいのだが……」

「わかりました」

(ヴォルガス、例の古代アルフ族の兵器は私にまだ使えるのかしら?)

(あれか?もちろんだよ。君はあの兵器を使用することを許可された者だ。だから、今でも使用可能なはずだ)

(それでは、あの時のようにアルフ族の兵器を見せてくれる?)

 ブレイス少佐の目の前に、あの時と同じくアルフ族の兵器が浮かんだ。

(どれを使えばいいかしら?)

(あのグーザ帝国艦隊に使うのか?あれは前と比べて、随分数が多いようだ。余程強力なものを使わないと、一撃で壊滅することはできないだろう。だとしたら、あれがいいのではないかな?)

と、ヴォルガスは巨大なレンズを並べた兵器を見せた。

(これは、なに?)

(これは、惑星ゼンダの恒星自身のエネルギーを利用する兵器だ。この兵器自体は恒星のまじかに設置されているし、恒星エネルギーをレンズで集めて敵に集中して照射する。これを使われると、普通は防ぐことはできないし、よけることもできないだろう)

(そうね。それにしましょう)

「使う兵器が決まりました」

「ほう、どんなものか知りたいのだが……」

と、クルム司令官代理が興味を持って聞いた。

 そこで、ブレイス少佐はヴォルガスが言ったことを話した。

「すると、何百万年もの間、あの恒星の近くにその兵器が設置されていたということか?」

「そうです。でも、異なった時空間にあるので、その兵器は時間による摩耗や恒星による被害はないそうです」

「わかった。それを使うとしよう」

 とは言え、グーザ帝国艦隊はまだ第三惑星には接近中で、戦闘中に第四惑星にかなり近づいて来ていたに過ぎない。

 グーザ帝国艦隊はこれまで戦闘を行っていた敵の艦隊が突然潮が引くように退却して、どこかに消えたのに気づいた。

「これは、一体どういうことでしょうか?あれほどいた敵がいなくなってしまいました……」

と、こんなことがあるのだろうかと思い、クシュドルラ提督の副官リュードルラ少将は言った。

「うーむ……」

 これにはクシュドルラも唸るしかなかった。だが、何が起きるかわからない。それは推測に過ぎないが、もしかしたら敵の総攻撃の予兆なのではないかと、クシュドルラ提督は思った。

「見て下さい。惑星カルガリウムから来た援軍と戦闘していた敵艦も見えなくなりました」

 ヘイダール要塞から出た艦は古代アルフ族の兵器を使う前に、要塞内に転送していた。ただ、ダルシアの艦隊は敵の艦が残った場合を考えて、第四惑星の影に入っただけだった。グーザ帝国側に今回古代アルフ族の兵器を使ったことを知られないためにも、一隻の艦も帰すことはできなかった。

 惑星ゼンダから来た総督府の艦隊は、グーザ帝国艦隊からはかなり遠い位置におり、艦隊のパイロットに暗示を与えて被害を受けない位置に移動させていた。

 それは一瞬だった。惑星ゼンダの恒星の光と熱を集め、まばゆい光が何度か明滅したかと思うと、光の帯のようなものがグーザ帝国艦隊に流れ込んだ。ほとんどの艦がその光の帯の道筋に連なっていた。残った艦はわずかだった。そして、その艦も第四惑星の影から出てきたダルシアの艦隊にやられてしまったのだ。


 惑星ゼンダでは、突然通信が回復していた。

「本国より、通信です。敵の規模はどのくらいか、と」

 本国への救援要請にやっと返事が来たのだった。

「何だ、やっときたのか?」

「た、大変です。敵の艦隊がありません」

「何を言っているんだ。敵の数は十万はくだらないと言っていたではないか?それが突然消えるわけはなかろう」

「それが、レーダーに映らないのです」

「そんなことはありえん。そうだ、味方の艦隊はどうしている?」

「それが、惑星ゼンダの周回軌道上には、味方の艦はありません」

「何だと!敵にやられてしまったのか?」

「いえ、待ってください。バルム少将からの通信が入りました。『敵艦は全滅した模様』、だそうです」

「それは、どういうことだ?我々が何かしたのか?いいや、そんなはずはない。何もできなかったのに、どうして敵の艦隊が全滅するのか?」

「それが、恒星から恐ろしい程の光の帯が来たのだそうです。その後、敵の艦は見えなくなったと……」

「その光の帯というのは、何のことだ?」

「バルム少将にもわからないそうです」


424.

 フォルガ・ドル少将はヘイダール要塞からの魔法陣の通信で、バルザス提督の説明を聞きながら敵が殲滅されるのを見ていた。俄かに司令室の中が慌ただしくなったが、それに気づく余裕もなかった。

「……」

 古代アルフ族の兵器を使った攻撃に、彼は言葉もでなかったのだ。ほんのわずかの間だった。恒星から光の帯のようなものが流れて来て、その中に敵艦隊が入った。そして、敵の艦隊は消えて行ったのだ。敵の艦隊が消えるまで通信妨害が残っていたので、総督府の司令室の連中はその有様を見る機会はなかった。

「そ、そのこれで敵はいなくなったのですね?」

と、やっとフォルガ・ドル少将は言葉を出すことが出来た。

「この恒星系にはいなくなっただけだ。まだ惑星カルガリウムにはグーザ帝国の残存部隊がいる」

「その連中はどうするのですか?」

「まだ、そこまでは考えていない……」

 バルザス提督も惑星カルガリウムから敵の援軍がやって来るなど、思いも掛けなかったのだ。だが、こうなったら、今が惑星カルガリウムを取り戻す好機なのではないかと思うのだった。惑星カルガリウムのグーザ帝国の艦隊は、もうほとんど残っていないはずだからだ。


「フォルガ・ドル少将!」

と、アルマイト・フォル中将のイライラした声がした。

「は?」

「先ほどから卿を呼んでいるのだが、もしかして耳が遠くなったのか?」

「いえ、そうではありません。申し訳ありません。それで、何かご用でしょうか?」

「すぐに総督閣下を呼んできてくれ!」

「総督閣下を、ですか?」

「そうだ。通信妨害が止んで、通信が回復した。本国からも通信が入っている」

「それでしたら、内線で呼んだ方が早いのでは?」

「それが、先ほどから通じないのだ」

「何かあったのでしょうか?」

「だから、卿に見てきてほしいと言っているのだ。もし居られたなら、司令室の方へお連れして欲しい」

「わかりました」

 拡大した魔法陣に映じた艦隊は、もうヘイダール要塞の艦隊しかいなかった。少々それを見られなくなるのが名残惜しいが、仕方なくフォルガ・ドル少将は総督閣下を呼びに行くことにした。


 ヘイダール要塞のクルム司令官代理は、古代アルフ族の兵器の絶大な効果を興味深々に眺めていた。グーザ帝国艦隊の消滅に対しては露ほどの後ろめたさも感じなかった。彼らがロル星団に侵略してきたのが悪いのだ。それをこちらが撃退しただけなのだ。そして、彼は惑星カルガリウムの事を思い出した。

「そうだ。今がチャンスではないか!」

「何ですって?どうしたんです」

と、ディポック提督が驚いて言った。

「惑星カルガリウムだ。あそこには、もうほとんど敵の艦隊はいないはずだ」

「なるほど」

「このヘイダール要塞を惑星カルガリウムまで移動できるか?」

「もちろん、可能だが……」

「それなら、これから惑星カルガリウムに行って、敵の残存艦隊を蹴散らしてやる!そして、我々の星を取り戻すのだ」

「それは悪くない考えですな」

と、珍しくグリンが言った。

 確かに今なら、敵は油断してもいるだろうし、まず敵の艦隊がほとんどいないということがこちらに有利なのだ。敵が今回の惑星ゼンダ攻略の失敗を知って、本国から増援を受けた後ではもう遅い。だからこそ、今がチャンスなのだ。

 だが、ダールマン提督は沈黙していた。クルム司令官代理と同じようにすぐそのことに気づいたはずなのに。ディポック提督は、彼には何か考えがあるのかもしれないと思った。

「ダルシアの艦隊を要塞に収容したら、すぐに出発する」

 すでにクルム司令官代理の脳裏には惑星カルガリウム奪還作戦が出来ているようだった。

「司令官代理、ちょっと話がある……」

と、ダールマン提督が言った。

「何だ?」

「惑星カルガリウムから連中を追い出した後、どうするつもりだ?」

「敵を追い出せば、惑星カルガリウムの市民たちを戻せるだろう。前に、卿は住民たちを戻すのは速い方がいいと言ってはいなかったか?」

「確かにそう言った。だが、あのグーザ帝国の連中はどうなる?」

「何だと?」

 突然思ってもいないことを聞かれて、クルム司令官代理は言葉に詰まった。

「それは、どう言うことでしょうか?」

と、グリンが聞いた。彼にしてみても、グーザ帝国の惑星ゼンダへの遠征軍を全滅させた今、惑星カルガリウムを侵略した敵に対して、彼らが追い出された後を心配するのは何事かと思ったのだ。

「考えても見ろ!連中がこのふたご銀河にやって来た理由を……」

「それは、奴らのエネルギー源であるエネルギー結晶鉱石が必要だったからだ。向こうの銀河では取りつくしたと聞いたが……」

「そうだ。それに加えて、連中の銀河には今、他所から侵略者が入り込んでいる」

「もちろん、それも聞いた。だが、そんなことは我々には関係ないことではないか?」

「もし、こちらの銀河でエネルギー結晶鉱石が手に入らなくなったら、連中はどうなるだろうか?」

「おそらく、奴らの銀河はその侵略者の手に落ちるやもしれぬが……」

「そうなったとき、連中の銀河を侵略した者達は、向こうの銀河だけで満足するだろうか?」

「と言うと、敵の敵が勝った場合、こちらの銀河への侵攻があるかもしれないと言うことですか?」

「まだ、情報が足りないが、そう言うことも考えられるだろう。そうなったとき、我々だけで勝てるだろうか?」

「しかし、まだそれが決まったわけではあるまい」

「だが、グーザ帝国とやらではエネルギー結晶鉱石がなければ、自分たちを守ることができないだろう。だとすれば、いずれ勝敗は決まったようなものだ」

「だからと言って、どうすればいいのだ?奴らに代わって、我々がその他所の銀河からの侵略者と戦うことはできまい」

「だからこそ、惑星カルガリウムを取り戻したとしても、グーザ帝国との関係を一切反故にすることはないと言っているのだ。連中がその敵に敗れた時、我々の情報がその敵に漏れることは十分ありうる。そうなったとき、我々は単独でその強力な敵と遣り合わなければならなくなる」

「つまり、惑星カルガリウムのエネルギー結晶鉱石を、グーザ帝国に例えば貿易か何かの方法で与えてやると言うことですか?」

と、ディポック提督は言った。

「そうだ。そうすれば、グーザ帝国は彼らの敵と充分に戦うことができるし、我々の方にもその敵の情報が自然と入って来るようになるはずだ」

と、ダールマン提督は言った。

「要するに、惑星カルガリウムからグーザ帝国の連中を追い出すが、エネルギー結晶鉱石を彼等と交渉して、分けてやることも考えるということか?」

「そうだ。そうすれば、お互いに利益になるはずだ」

「だが、連中がそれで納得するだろうか?」

「今回の遠征が失敗したのだ。彼らには他に敵がいるのだから、もう一度同じような艦隊を送ることは難しいだろう」

「そうですね。それは十分考えられることです」

「なるほど。わかった。卿の言う通りにしてもいい……。だが、連中とどんな交渉をするかは私の考えていいだろうか?」

「もちろんだ。ただでくれてやることはない」

「いいだろう……」

と、クルム司令官代理は言った。

 そうなると話は速い、急ぎダルシアの艦隊をヘイダール要塞に収容し、惑星カルガリウムに向かうことになった。

 総督府の艦隊についてはリドスの魔法使い達が暗示を掛けて、再び惑星ゼンダの周回軌道上に戻るようにした。彼らはリドスの艦隊の背後に居たので、グーザ帝国艦隊と直接遣り合うことはなかったので、一隻も減ってはいなかった。


 惑星カルガリウムのグーザ帝国の残存艦隊では、突然の通信妨害が止んだことに悪い予感がしていた。

「クシュドルラ提督の遠征軍から連絡はないか?」

と、ヒュードルラ提督は聞いた。

「いえ、ありません」

 まさかとは思うが、あの十万もの艦隊が惑星ゼンダの総督府の艦隊にやられたのだろうか。数の上でも艦や武器の性能でも、こちらの方が遥かに上だと考えていたのだが、とヒュードルラ提督は思った。もし、遠征軍が失敗したとしたら、敵は必ず惑星カルガリウムへやって来るだろう。おそらく、ここから遠征軍への援軍を送ったことなど、すでに知られているだろうからだ。

 だとすると、残った艦でこちらの防備を固めるしかない。今更本国へ援軍を要請しても、こちらによこすような余裕はないだろうし、間に合うような時間もない。あの遠征軍は返ってこちらの墓穴を掘ることになったのかもしれない。ただこのカルガリウムのエネルギー結晶鉱石の鉱山を失ったら、グーザ帝国があの侵略軍に勝てる見込みはないのだ。


「やはり、あれは惑星カルガリウムから来た援軍だったらしいな……」

と、クルム司令官代理は言った。

 ヘイダール要塞が惑星ゼンダの第四惑星付近から、新たにジャンプ・ゲートを構築して惑星カルガリウムにやって来るのに大して時間は掛からなかった。ヘイダール要塞のすぐ近くにジャンプ・ゲートを構築することができたからである。すでに二度目になるので、ゲートの構築もうまくできるようになったのだ。

 惑星カルガリウムにいるグーザ帝国艦隊はもう一万もないように見えた。

「ですが、地上には彼らの機動兵器が多数いるはずです。それには注意する必要があるでしょう」

と、バルザス提督が言った。

「確かに、あの機動兵器が鉱山の基地に立て籠ったとしたら、厄介だ」

「まず、降伏勧告をしてはどうでしょうか?」

と、ディポック提督が言った。

「そうだな。もし拒否されても、こちらの方が有利なのだから、いいだろう」

 その前に、ヘイダール要塞からダルシアの艦隊やリドスの艦隊を出して、グーザ帝国の残存艦隊と惑星カルガリウムにある彼らの基地周辺を包囲させた。

「よし、これで奴らも、今はどういうことになっているかわかるだろう。通信回線を開け!」


 ヒュードルラ提督は惑星カルガリウムにどこのモノとも知れぬ艦隊が突然やって来て、あっという間に包囲されるのを見ているしかなかった。それほど敵の動きが早かったのである。

「あれは、どこの艦隊だ?」

「わかりません。ですが、向こうから通信が入って来ました」

「何と言ってきている?」

「降伏せよ、と言っています」

「何だと?どこのモノか、誰何してみるのだ!」

 グーザ帝国の残存艦隊の旗艦の誰何に、相手は答えた。

「我々は、ヘイダール要塞の艦隊だ。惑星ゼンダへ向かった、お前たちの遠征軍は援軍ともどもすでに壊滅している。できるだけ速やかに、降伏せよ!そうすれば、お前たちの命までは取らぬ」

「ヘイダール要塞だと、そんなはずはない。そちらの方面は通信妨害で何もわからなかったはずだ」

「それは、お前たちの技術であれば、わからないということだ。我々はそのようなまやかしには惑わされぬ」

「それなら、我々の艦隊が壊滅した証拠を見せろ!そうすれば、我々も納得する」


 クルム司令官代理は司令室の者達に振り返った。

「何か証拠になるようなものはあるか?」

「それなら、仕方ありません。地上の機動兵器を一機位、破壊してはどうでしょうか?」

「いや、その程度では却ってこちらが、馬鹿にされる。もっと効果的なものはないだろうか?」

 先ほどの戦闘の映像がないわけではないが、そんなものを見せるとこちらの手の内が分かってしまうだろう。できれば、あの古代アルフ族の兵器の存在は知られたくなかった。これからもグーザ帝国とは色々とあるだろうからだ。

「それなら、地上の機動兵器を一機残らず宇宙空間へ転送してはどうでしょうか?確か、あの機動兵器は宇宙空間でも戦闘できるはずです」

 つまり、機動兵器のパイロットが載っていても大丈夫だということだ。ただ、そうなると、こちらの技術水準が敵に知られることになる。それが問題だった。

「だが、転送装置があることを知られてもよいのか?」

「転送装置は、もうそれほど秘密にしなくてもいいでしょう。もっとも、あの鉱山の地下深くに立て籠られては転送も効かなくなりますので……」

 転送装置は、宇宙船と宇宙船の間や宇宙空間から地上までは転送は無理なくできるのだが、硬く厚い岩盤の下から宇宙空間までとなると少々厄介なことになる。下手をすると転送できなくなることもある。だから、地上にまだ機動兵器が置いてある今が、デモンストレーションの好機なのだ。

「それなら、地上の機動兵器をすべて宇宙区間へ放り出すということでいいかな?」

「いいでしょう」

「よし、通信回線を……。グーザ帝国軍に次ぐ!私はクルム司令官代理だ。こちらの降伏要請に応じなければ、相応の力を示すとしよう」

「ほう?どんな力を示すというのか?」

と、ヒュードルラ提督は返信した。

「では、いいな……」

 すると、地上で待機していた機動兵器が次々と消えて行った。

「閣下、大変です。地上の機動兵器が消えていきます」

「何だと?何が起きたのだ……」

 旗艦のスクリーンで地上を見下ろすと、確かに地上に待機させていた機動兵器が無くなっていた。

「鉱山の地下へ移動したのではないのか?」

「そのような命令は出してはおりません」

 それなら、機動兵器の指揮官が勝手に判断して移動したのであろうか、とヒュードルラが考えていると、

「機動兵器がありました」

と、スクリーンに映じているものを指さして言う者がいた。

「どこにだ?」

「閣下、あの機動兵器は宇宙空間に浮かんでいます」

「何?」

 機動兵器自体は本来地上専用であり、空中あるいは宇宙空間へ移動するための装置は付いていない。だが、ヒュードルラ提督は指さされたスクリーンに、グーザ帝国の機動兵器が浮かんでいるのが見えた。

「あれは……。だが、どうやって移動したのだ?移動させられたのか……。まさか、あれが奴らの言っている力なのか……」

 ヒュードルラ提督は一瞬で地上にあった機動兵器を宇宙空間へと移動させる技術については、心当たりがあった。だが、その技術はまだ彼らの国では現実になってはいない。ただその理論だけは彼でも知っていた。

「物質の転送か……」

「閣下は、あれが何かご存じですか?」

「確か、聞いたことはある。理論上は可能だが、まだ我々は実現してはいない技術だ」

 やはり、あの連中は我々よりも科学技術が進んでいるのだ。今現在の戦力では到底対抗することは不可能だろう、とヒュードルラ提督は思った。

「仕方がない、降伏に応じよう」

「閣下、そんなことをしたら本国に何と言われるか……」

と、副官のリュードルラが言った。

「本国には、もう我々を助ける戦力はない。例のあの侵略者の来た銀河もわからないのだ。今ここで、貴重な戦力を浪費することこそ、無駄だし、してはならぬことだ」

「ですが、艦隊司令部はこのことを評価しないのではありませんか?」

「そうかもしれない。だが、今、ここで多くの兵士を無駄死にさせるわけにはいかぬ。この降伏の責めは私一人が受ければいいことだ」

「閣下……」


425.

 ヘイダール要塞では惑星カルガリウムのグーザ帝国残存艦隊が降伏勧告を受け入れの通信を聞いていた。

「我々は卿らに、降伏する。従ってこれ以上の攻撃はする必要はない。また、あの機動兵器を地上に戻してやって欲しい」

と、ヒュードルラ提督は言った。

「了解した」

 すぐに機動兵器は地上の基地に戻された。

「これは……。この速さといい、数の多さといい、奴らの物質転送装置はかなり大掛かりなのではないか……」

 地上に戻った機動兵器の指揮官から、通信が入った。

「申し訳ありません、閣下。我々にはどうにもなりませんでした」

「それはわかっている。奴らは我々よりも科学技術に置いて、かなり進んでいるようだ」

「ですが、このままではあまりにも我々は無様です。何とか奴らに一泡吹かせてやりたいものです」

「熱くなるな。今は自重するのだ。いずれ、その好機はやって来よう」

「閣下、この基地を無傷で敵に渡すのですか?少しでも、嫌がらせ程度でも、何かしてはどうでしょうか?」

「馬鹿なことをするな。我々にとっても、この戦力は貴重なのだ。敵はあのヘイダール要塞とかだけではないのだぞ!」

「ですが、……」

「今は自重するのだ……」


 惑星カルガリウムのグーザ帝国機動兵器部隊のフルドルラ大尉は、じっと自分の指揮官と旗艦のヒュードルラ提督との通信を聞いていた。

 彼にとってもこのまま敵に機動兵器を渡すのは気に入らなかった。少なくとも、敵には、と言うかこのふたご銀河にはグーザ帝国の機動兵器のような兵器はなかったのだ。もしこれが、敵に渡ったら、研究し尽されて、いずれ同じかそれ以上のものが造られてしまうことになるのだ。それを考えると、このまま何もしないでいることはあまりにも悔しかった。

「指揮官、ゼフドルラ少佐殿……」

と、フルドルラ大尉は呼びかけた。

「何だ?何かあったか……」

「このまま連中に我らの機動兵器を渡すことはどうしても是認できません」

「何を言っているのだ。提督閣下の命令を聞かなかったのか?」

「何か、私にできることはないのでしょうか?」

「フルドルラ大尉、今は提督閣下の言う通り自重するのだ」

「ですが、やつらには我々の持っているこの機動兵器のようなものはないと聞いております。もし、これを渡してしまったら、技術を盗まれてしまうでしょう」

「その件については、提督閣下も考えがあるはずだ。それに、機動兵器だけが我々の重要技術ではない。それに、あの連中と交渉が始まれば、我々がやつらの技術を盗む機会もあるのではないか?」

「奴らの技術?今の物質を移動させる技術ですか?」

「それもあるだろう。他にも何かあるやもしれん。それを調査することもできるだろう。だが、もしお前がここでその機動兵器を使って暴発すればその機会はなくなるだろう」

「わかりました。少佐殿の言うような機会が会った時、どうか私の名を覚えていてください」

「わかっている」


 クルム司令官代理は駐留艦隊の旗艦上で、ヒュードルラ提督と今回の停戦の会見をすることになった。

「敵は何をするかわかりません。我々の旗艦でと言っても、それだけで大丈夫でしょうか?」

と、ダズ・アルグ提督は言った。

「それなら、ディポック提督が一緒に行くことが望ましい」

と、ダールマン提督が言った。

「何ですって?」

 ダズ・アルグ提督には今回の交渉について、ディポック提督の出る幕はないと考えていた。もちろん本人もそうだった。

「あの、申し訳ないのですが、私では戦力にならないと思うのですが?」

「戦力になるのではなく、ディポック提督の持っている力が役に立つのだ」

「私の力?」

「そうだ。提督にはリドスの女王陛下が来られた際に、陛下が強力な防御の呪文を掛けておられる。その防御は非常に強力なのだが、一つ欠点がある。呪文を掛けてある本人にかなりの力がないと使えないのだ。普通の魔法使い程度では役に立たない程の力が必要になる。だからこそ、その防御は非常に強力なのだ」

「いや、私はその、魔法使いでもないのですが……」

「本人が使おうとしないから使えないだけだ。かつては古代アルフ族で最大の力の持ち主だった。ただ、守りだけは別だ。自分だけではなく、他の人を守る場合は自動的に反応するはずだ」

 ダズ・アルグ提督は、以前アルフ族という種族がロル星団に他の銀河からやって来たと言う話をダールマン提督から聞いたことがある。その時に、ディポック提督は当時のアルフ族の指導者だったと言うことも聞いていた。これは司令室の者達皆が聞いていたことだ。もっとも、それが本当かどうかは確かめるすべはないのだ。

「ですが、それはどれだけの効果があるのでしょうか?」

と、グリンが聞いた。

「大抵の攻撃から身を守ることができるはずだ。それに、ディポック提督の半径五頭身ほどの間は非常に強力なものとなる。例え、身近に核爆弾が置かれていても無傷でいられるほどだ」

「そんなことが有りうるのですか?」

「信じられないというのなら、それは仕様がない。だが、これは本当のことだ」

「ですが、だとしてもそれだけでは不安です」

「もちろんだ。だからバルザス提督にも行ってもらうと良い。彼なら大抵のことは処理できるだろう」

「あなたは行かないのですか?」

「私は、ここで見ていることにする」

と、平然とダールマン提督は言った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ