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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
94/153

ダルシア帝国の継承者

420.

 フォルガ・ドル少将は不安だった。ヘイダール要塞自身がグーザ帝国艦隊が襲来している時に、救援に来てくれたのは確かに嬉しかったのだが、果たして本当に良かったのだろうかと、まだ迷っていたのだ。

 総督府としては、通信妨害があまりにも激しいので、本国に救援を求めることもできないし、惑星ゼンダの周回軌道上に居る総督府の艦隊にも連絡が取れないのだ。

 その時、通信用の魔法陣から声がした。

「おい、総督府の艦隊が動いたぞ」

「何ですって?敵が来たのが分かったのですか?」

「いや、こちらで暗示を与えたのだ」

と言ったのは、ダールマン提督――ガンダルフの魔法使いレギオンだった。

「暗示で動かした?魔法でですか、それともTPですか?」

「どちらでも同じことだ。それで、総督閣下はどうしている?」

「いえ、まだ自室におられるようです。それに副官や側近の方々もまだ議論の最中です」

「そうか。ともかく、グーザ帝国の艦隊は第五惑星と第四惑星の間にまで来ている。これからそれを何とかするから、余計なことをしないようにしてくれ……」

「余計な事?」

「そうだ。グーザ帝国の艦隊を追い払うことができたら、また報告する。だが、うまく行かなかったときは、覚悟してくれ……」

「え?ちょっ、ちょっと待ってください……」

と、フォルガ・ドル少将が言った時にはすでに魔法陣は消えていた。

 これは困った。前に話した時はもう少し詳しく状況を説明してくれるようなことを言っていたように思っていたのに、これだけなのか、と彼は失望した。これでは何もわからない。そこで、彼の方から魔法陣で通信をしてみた。

「何だ?」

と、不機嫌そうなダールマン提督――レギオンの声がした。

「あの、現状がよくわからないのですが……」

「今、詳しく説明しているような暇はない」

 だが、魔法陣の向こうで何か他の人が話している声がした。

「あの、それだけでは彼も困ると思います。もう少し何とかできませんか?」

 それはあのリーリアン・ブレイス少佐の声だった。

「仕方がないな、銀の月、いやバルザス提督、替わってくれるか?」

 銀の月、バルザス提督とは誰の事だろう、とドル少将は思った。すると、魔法陣から銀の月の顔が覗き、声がした。

「やあ、すまないね。こちらはすでに作戦を開始しているんだ」

「ええと、バルザス提督と言うと、もしかしてダールマン提督の部下だった方ですよね」

 確か、自分と同じ少将だったはずだ、とフォルガ・ドル少将は思い出した。歳は違うが、階級が同じだと思うと話しがし易い。

「作戦と言うと、あのグーザ帝国艦隊に対する作戦ですか?」

「そうだよ」

「で、あの勝算はあるのですか?」

「勝算がないなら、援軍としては来ないよ。で、そちらの司令部ではどうなっているのかな?」

 フォルガ・ドルは部屋のほぼ中心で議論している総督の副官や側近連中を見た。まだ議論の最中で結論は出ていないようだ。だが、議論をしても果たして結論が出せるのだろうか?新しい情報なんて、どこからも入っては来ないのだ。

「議論はしていますが、いつ結論が出るかどうかはわかりません」

「そうだろうね。まあ、議論をしている風でも装わなければやっていけないだろうからね……」

「それって、あの連中は議論のまねごとをしているということですか?」

「そこまでは言わないが、他にすることもないだろう。この状況では、そういう時は何かしていないと、おかしくなってしまうだろう。だから、やっているのさ……」

 それまで自分一人がのけ者にされているように感じていたフォルガ・ドルは、そう言うものなのかなと少し安心した。そして、

「あの、それでどうやるつもりなのですか?」

と、彼が聞くと、バルザス提督は言った。

「ふむ。興味があるのかい?それなら、口で説明するよりも、見た方がいいだろうね」

 すると、通信用の魔法陣が急に拡大した。司令室の部屋いっぱいに広がった。だが、それが見えるのはフォルガ・ドルだけだったから心配はない。次に、黒に近い灰色がかった宇宙空間が見え、他の天体も多少光が薄かったが見えてきた。宇宙船はその中で白っぽい灰色に見えた。中には赤や黄色や紫など妙な色の宇宙船もある。だが、少々薄い色に見えていた。

「あの色の付いた宇宙船がダルシアの艦隊だ。あの白っぽい灰色の艦がグーザ帝国の艦隊だ」

 ドル少将の目にはどちらもあまり感じの良い形には見えなかった。

「ダルシアの艦隊が味方なのですね」

「そうだね。もしかして、君はダルシアと聞くのは初めてかい?」

「そうです。ジル星団にある国なのですか?」

「そうだよ。もっとも、本国のダルシア人は皆滅びてしまったのだがね……」

「え?じゃ、あの艦には誰が乗っているのです?」

「あれは、完全自動の艦なんだ。それぞれの艦の中枢のコントロールがすべてを操っている」

「それで、勝てるのですか?」

と、フォルガ・ドルは完全に機械だけでコントロールしていると言うと、何だか不安になって言った。前に人間の乗っていない機械操縦の艦は戦う場合、非常に効率が悪いものだと聞いたことがあるのだ。

「機械と言っても、何と言ったらいいかな、あの機械の中には本物のダルシア人の霊が宿っているんだ。それが艦の中枢、頭脳の部分になっている。だから、単なる機械のコントロールで動いているのではないんだ」

「霊ですって?」

「ダルシア人と言うのは、かいつまんで言うと非常に大きな種族なんだ。まるで小山のように大きな体を持っていた。そう、伝説の竜がその本当の姿なんだ」

「竜?」

「まあ、そこは今はどうでもいいのだが、だから、人が操縦するのと変わらない動きをすることが可能だと考えてもらいたい」

 フォルガ・ドルがダルシアの艦隊を見ていると、急にその艦隊が動き出した。

「ダルシアの艦は我々の艦やあのグーザ帝国の艦よりも高速が出せる。その特徴を生かして今回はグーザ帝国艦隊を高速で突っ切って敵を混乱させるのが目的なんだ」

 その言葉通りにダルシアの艦隊はフォルガ・ドルの見ている中、グーザ帝国の艦隊の中央を突っ切った。するとこちらの目論見通りに敵の艦隊は大混乱を見せた。高速で突っ切る時に周囲の敵艦に主砲で攻撃をした所為でもある。

 すると、ダルシアの艦隊が先ほどまで待機していたところに、別の艦隊が現れた。

「あれ?どこから艦隊が来たのですか?」

「あれはね、ヘイダール要塞から転送したんだ」

「転送ですって?それよりもあの艦隊はどこの艦隊ですか?」

 フォルガ・ドルには見たことのない艦隊だったのだ。

「あれは、リドス連邦王国の艦隊だ」

「あれが、リドス連邦王国の艦隊……。でも、あんな所に出して、何をするんですか?」

「君は艦隊戦は初めてかい?」

「ええ、まあ。これまでは帝都の軍務省内で事務仕事をしていましたから……」

「なるほどね……」

「それに、私は士官学校も出ていないので……。つまり親のコネでここまで昇進したんで……」

 フォルガ・ドルは自分で言いながら、内心忸怩たる思いだった。バルザス提督はあのダールマン提督の部下として、ある程度の名が通っているのを思い出したのだ。幾多の戦功を挙げて少将になったのだと聞いたことがある。

「ふうん。つまり君はどこぞの貴族の御曹司と言う訳かい?」

「御曹司と言う訳ではないのですが、親がコネと金を持っているので、それで……」

「なるほどね。帝国ではそう言うのも別に君一人ではないだろう。気にすることはない」

と、バルザス提督は思ったよりも寛容に言った。

 バルザス提督――銀の月の目には、フォルガ・ドルは現在軍人ではあるが、その過去世でどうやら魔法使いだったと言うことを見抜いていたのである。彼が通信用の魔法陣を簡単に覚えていたと言うことがきっかけだった。この通信用魔法陣は、魔法としては難しいものではないが、何の素養もない素人が簡単にできると言うものでもないのだ。それができるということは、昔、つまり過去世で魔法使いだったことがあるからなのだ。もっとも本人はそんなことは露知らず、コネで出世したと言うコンプレックスに悩んでいるのだ。それでも、自らの出自やコネや金を自慢にするよりはましな方だった。

 銀の月はその自らの長い転生の過程の記憶を保持しているので、フォルガ・ドルの経歴を軽蔑したり、軽んじたりするつもりはなかった。銀の月の転生の記憶には同じような経歴を持ったこともあるからだ。だから、ある程度はフォルガ・ドルの気持ちを想像することができるのだ。それに、彼の本当の実力はまた別の所にあるからだ。通信用の魔法陣を何の練習もなしに造れたということは、かつて魔法使いだった時にかなりの力を持っていたということがわかる。人間の素質というのは、過去世においてどんな努力をしたかで決まるのだ。彼は軍人、つまり昔なら戦士というよりは魔法使いだったのだろう、と考えていた。

「それで、そのヘイダール要塞の駐留艦隊はどこにいるのですか?」

「それは、リドス連邦王国の艦隊の反対側、つまりグーザ帝国艦隊が来た方面にいる」

「すると、リドスの艦隊と駐留艦隊とで挟み撃ちにするということですか?」

「そうだね。うまく行けばだが、こちらはグーザ帝国艦隊の四分の一しかいないのだよ」

「そんな、それで勝てるのですか?」

「そのつもりなんだがね……」

「それで、我が帝国艦隊はどのような役割なのですか?」

「もちろん、我々の数の劣勢を補うためにも必要なのさ」

「あの、関係ないことだと思うのですが、バルザス提督はいつもそんな話し方をする方だったのですか?」

と、フォルガ・ドル少将は聞いた。

 帝国軍人としてはあまりにも口調が軽く思えた。悪く言えば軍人らしくないとも言える。

「それは失敬。だが、これが私の素なんだ。元々私は軍人ではなく、魔法使いなんだからね」

「要するにそれが銀の月という魔法使いだということですか?」

「そうさ。それが私本来の姿ということだ」

 帝国軍人であった時のバルザス提督はかなり謹厳な人物だった。帝国軍人らしい口調態度、それに出世願望もかなりのものだった。だが、今は、ガンダルフの五大魔法使い銀の月という意識の方が強い。その所為で、段々口調や態度が昔の魔法使いとしてのものに近付いているのだ。

 それはダールマン提督――レギオンに付いても言えることだ。ヘイダール要塞の面々は元新世紀共和国から来た連中であり、同じ帝国軍人ではないのでそれほど感じてはいないのだが、以前のダールマン提督とはかなり違う面が出て来ていた。

「君とは特に親しくしてはいなかったのだから、それほど違和感は無かろうと思うのだがね……」

「それはそうですが、あなたのような人は私の周りにはいなかったので、何だか妙な気がします」

「君ならすぐに慣れるさ……」

と、バルザス提督――銀の月は言った。


421.

 グーザ帝国艦隊は高速のダルシア艦隊にかなり混乱させられていた。

「あの艦隊はどこの艦隊なのだ!」

と、クシュドルラ提督は言った。

「銀河帝国の艦隊でないことは確かです。それに元新世紀共和国の艦隊でもないようです」

 その未知の艦隊は驚くほどの高速でグーザ帝国艦隊の中央を突っ切り、艦隊編成を乱し、かつ周囲の艦に攻撃も仕掛けて、あっという間に去って行った。

「もしかしたら、ヘイダール要塞にいるジル星団の艦隊ではないでしょうか?」

と、副官のリュードルラ少将が言った。

「すると、ヘイダール要塞に我々の動きが知られているということか?だが、知ったとしても、援軍を送る時間はなかったはずだ」

 その時、あの突然出来て消えたと言うジャンプ・ゲートの報告の件を思い出した。まさかとは思うが、ジル星団の連中のなかに、ジャンプ・ゲートを作れる種族がいるのだろうか。そうでなければ、こんなことは起きないだろう。根拠はない。だが、あの高速艦は惑星ゼンダ方面から来たのだ。向こうには銀河帝国の艦隊しかいないはずなのに。ジャンプ・ゲートを使えば、ヘイダール要塞からあの高速艦隊を惑星ゼンダに近い宙域に送るのは簡単なことだ。だとすれば、別の艦隊もどこかに来ていて、こちらを攻撃する機会を窺っているのかもしれない。

「ともかく、急ぎ艦隊編成を整えるのだ。今ここで、我々が失敗したら、祖国の存亡にかかわるのだぞ!」

 何としてでも惑星ゼンダを攻略し、こちらの銀河に一大拠点を作らねばならない。そうしなければ、これから必要とされる多くのエネルギー結晶鉱石の採掘に支障を来すだろう。今グーザ帝国は未知の敵の侵略に遭っているのだ。しかもそれを撃退するのに必要なエネルギー結晶鉱石が瞬く間に無くなっている。グーザ帝国の銀河ではもうほとんど取りつくされてしまっているのだ。


「閣下、惑星カルガリウム方面から通信です」

 グーザ帝国の艦は特殊な波長を使って通信をしていた。自分たちが敵を攻撃するために通信妨害をした時にでも使用できるものだ。

「何だ?」

「惑星カルガリウムのヒュードルラ提督からです」

と言って、副官のリュードルラ少将は平たく磨かれた水晶をクシュドルラ提督に渡した。

 その水晶は特殊な波長を取り込むことができた。それをグーザ人の特徴の大きな耳に当てると、機械の補助なしに取り込んだ波長の通信を大きな耳を通じて音声にして聞くことが出来た。

「……」

 クシュドルラ提督は黙って聞いていた。その表情からは内容は読み取れない。

「リュードルラ、艦隊の現在位置は?」

「は、確か第四惑星に近付きつつありました。ですが、あの未知の高速艦隊に邪魔をされたので、動きが止まっております。ちなみに多少艦がやられましたが、数はそれほどでもありません」

「そうか。ヒュードルラ提督からの通信はこちらに援軍を向かわせるというものだった」

「しかし、惑星カルガリウムの防備が足りなくなるのではありませんか?」

 副官のリュードルラが言うことも最もだった。それでも今のクシュドルラ提督にはその援軍が必要に思えた。突然現れた敵にグーザ帝国の艦隊は混乱させられていたからだ。

 ヒュードルラ提督は元新世紀共和国の惑星カルガリウムのグーザ帝国の駐留艦隊を指揮していた。現在はその他に、惑星カルガリウムの鉱山から採掘するエネルギー結晶鉱石を本国に送る任にも当たっていた。

 最初、このふたご銀河のエネルギー結晶石を求めてやってきたキンドルラ提督が率いて来た艦隊はおよそ十万だった。そのうち彼がヘイダール要塞攻略のために率いて行ったのはその半分であった。それが失敗した時、ヒュードルラ提督に残ったのは五万である。もっともキンドルラ提督が率いて言った艦隊はその後、司令官なしに突然元の銀河に戻ったのだった。事実はヘイダール要塞のレギオンらガンダルフの魔法使いによってジャンプ・ゲートを使って帰されたのだった。だから、本国においては艦の数はほとんど減っていない。

 ヒュードルラ提督の駐留艦隊はファルドルラ提督率いる本国からの輸送艦隊がその仕事を終えた後、キンドルラ提督を救出しにヘイダール要塞を攻撃すると言うことを聞いて、彼の持つ艦隊から少し艦を分け与えた。そのファルドルラも、どうやらヘイダール要塞でのキンドルラ提督救出に失敗し、今度はかなりのダメージを与えられて艦隻を減らし、本国へ戻ったと聞いていた。すなわちキンドルラ提督の艦隊と同じくガンダルフの魔法使いによって、ジャンプ・ゲートを使って本国のある銀河へ帰されたのだ。

 ここに至って、ヘイダール要塞の攻略を後回しにして、まず元新世紀共和国の首都星ゼンダを攻略することにしたのだ。なぜなら、彼らの銀河には未知の敵が侵入してきていたからである。戦力の増強のためにエネルギー結晶鉱石が多量に必要なのだった。

 彼らは銀河帝国とヘイダール要塞が敵対関係にあるとして、それならヘイダール要塞を手始めに攻略した方が都合がいいと考えたのだ。本来なら銀河帝国に敗北した元新世紀共和国の残存勢力が勢いで占拠したヘイダール要塞には、他に味方する勢力はいないはずだった。従って、戦力の少ないヘイダール要塞を攻略して、そこを拠点としてロル星団の征服を進める方がやりやすいだろうと考えたのだ。

 ところが、これが案外難しいことだった。というのも、ジル星団の種族が要塞の勢力に加勢していたからである。これは彼らの考えの及ばないところだった。実際に攻略に失敗して、その原因を分析する中にその可能性が浮かんできたのである。

 それで、惑星ゼンダを始めとする元新世紀共和国の諸惑星の方を攻略することにしたのだ。こちらは銀河帝国の艦隊が守って居るものの、銀河帝国から少々離れているため、援軍が来にくいと考えたのである。

 彼らは惑星ゼンダの恒星系に近付くより早く、強力な通信妨害を始めていた。そうすれば、援軍は呼べないと考えたのである。その目論見は当たっていた。ただ、彼らには与り知らぬ、魔法による通信が可能だとまではわからなかった。そのため、ヘイダール要塞に救援要請が入り、彼らは元新世紀共和国の諸惑星を守るためにやって来たのだ。

 だが、クシュドルラ提督は惑星ゼンダにやって来た敵が銀河帝国の援軍だと誤解したものの、まさかヘイダール要塞自身が来て居ようとは思わなかった。

「おそらく、この敵の援軍の先に、つまりあの高速艦隊の去った先に我らの援軍が来るはずだ」

「では、うまく行けばこちらの勝利は間違いなく得られると……」

「いや、まだわからぬ。敵の援軍はあの高速艦隊だけなのか?第一、あの高速艦隊が来たのが惑星ゼンダ方面からということが気になる」

 本来なら援軍だとすれば、銀河帝国の位置からなら高速艦隊の来たのとは反対方向から来るはずだった。それがなぜ惑星ゼンダ方面から来たのだろうか。

「敵の艦隊はやつらだけなのか。それとも、他にもっといるのか。奴らの他の艦隊は探知できないのか……」

 例え強力な通信妨害をしていても、グーザ帝国艦隊のレーダーは特殊な波長を拾うことで、その役目を果たすことができる。だが、あの高速艦隊はそのレーダーには引っかからなかった。かなり近寄った段階で初めて接近していることがわかったのだ。もしかしたら、敵はこちらのレーダーにもかからない技術を持っているのかもしれなかった。

「敵の艦隊が接近中です!」

と、新たな報告が来た。

「どこからだ!」

「あの、先ほどの艦隊が来た方向からは反対方向になります」

「何だと!」

「この艦隊は先ほどの高速艦隊とは艦の形状が異なっています。元新世紀共和国の艦隊かと思われます」

「とすると、その艦隊はヘイダール要塞から来たのか?」

「しかし、それでは来るのが早すぎないか?」

 クシュドルラ提督の艦隊はジャンプ・ゲートを使って来たのだ。惑星ゼンダのある恒星系のほんの少し外側にあるジャンプ・ゲートを使ったのだ。だがら、クシュドルラの艦隊が接近してきているのを惑星ゼンダの銀河帝国の総督府が知って、すぐに救援要請を発しても、もちろんそれがヘイダール要塞に届いたとしても来るのが早すぎる。それに銀河帝国とヘイダール要塞は敵対関係にあるはずだった。直接ヘイダール要塞に救援要請が行くはずがない。それに救援要請を聞いたとしても、ヘイダール要塞が救援にくる謂れがない。

「通信妨害を一時期解け、奴らに誰何してみるのだ」

 返事があれば、どこから来たのかわかるだろう。返事がなくても、少なくとも敵対者であることははっきりする。

「了解しました」

「接近中の艦隊に告げる。お前たちはどこの所属か?」


「閣下、敵の旗艦より誰何されていますが……」

と、ヘイダール要塞の駐留艦隊旗艦の通信員が艦隊司令官リブロフ・アロウ元准将に報告した。それが何を意味するのか、誰にもわかっていた。おそらく敵の通信妨害が止んだのだ。

「放って置け!」

と、アロウ准将が命じた。

 グーザ帝国艦隊からの通信には一切返答無用と、ヘイダール要塞の司令官代理から厳命されていたのだ。まだどこの所属ともわからぬ艦隊でいる方が有利という考えだった。それに万が一にもヘイダール要塞その物が動いて来ているとはまだ知られたくない。

「これよりグーザ帝国艦隊を攻撃する。いいか、よく相手を見ろよ。無駄な弾を使うな!」

 ヘイダール要塞の駐留艦隊旗艦は通信が来ても返事は出さなかった。それにどこの艦も通常の通信機器は使わないことにしていた。その代りに、リドス連邦王国の魔法使いやTP能力者が乗艦していて、彼らが通信機器の代わりになっていた。


「通信妨害がなくなりました……」

と、惑星ゼンダの総督府の司令室の通信士が報告した。

「何だと!」

 司令室で議論を繰り返していた連中が押し黙った。

「すぐに本国へ救援要請を!」

と、アルマイト・フォル中将が叫んだ。

「総督閣下にも連絡を……」

 急に司令室が慌ただしくなった。

 何が起きたのかフォルガ・ドル少将にはわからなかった。

「一時的に通信妨害が止んだようだね……」

と、魔法陣の通信でバルザス提督が言った。

「一時的ですか?」

「ふん。どうやら、我々が何者であるかを知りたかったのだろう」

「つまり援軍が来たということを知ったのですね」

「そうだな。だが、こちらは通常の通信は使わないことにしている」

「で、敵はこのままヘイダール要塞の駐留艦隊の方へ動くのでしょうか?」

「一部を回すかもしれない。だが、返って惑星ゼンダへの航行速度を速めるかもしれないな。現在保持している戦力で惑星ゼンダを急襲した方が有利だからな。惑星ゼンダを落されたら、こちらもどうしようもない」

「そ、そんな……」


「閣下、敵からの返信はありません」

「そうか。だとすると、連中が私の考え通りの所から来たとすると、……。よし、艦隊編成が整った順に惑星ゼンダへの速度を速めるようにするのだ。あの敵の援軍が間に合わない速度で惑星ゼンダを落せば、こちらの勝ちになる」

「しかし、背後から襲われては危険なのでは?」

「いや、あの敵の背後から惑星カルガリウムから来た駐留艦隊が迫っているはずだ。おそらく、数は敵の艦隊と同数程度のはず。そちらはやつらに任せて、こちらは惑星ゼンダに集中するのだ」


 ヘイダール要塞の司令室で、ガンダルフの魔法使いレギオンの作った大スクリーンに匹敵する通信用の魔法陣は、すでに惑星カルガリウム方面からきた艦隊の姿を映じていた。

「アロウ准将に連絡、惑星ゼンダへ向かう艦隊ではなく、惑星カルガリウムから来た艦隊へ向かえと、……」

 クルム司令官代理はすぐに状況に対応して言った。

「では、あの大艦隊はどうするのです?」

と、グリンが聞いた。

「ダルシアの艦隊を戻せ!逆に奴らの背後から襲わせるのだ」

 ダルシアの艦隊はグーザ帝国艦隊を混乱させた後、そのままヘイダール要塞の駐留艦隊と落ち合う予定だった。だが、惑星カルガリウムからの敵の援軍が来たのを見て、クルム司令官代理は考えを変えた。

「リドスの艦隊はどうした?」

「所定の位置にあります」

「すぐに攻撃を開始せよ!」

 ダルシアの艦隊もリドスの艦隊も反応が早かった。


422.

 クシュドルラ提督の艦隊はリドスの艦隊とその逆方向から来るダルシアの艦隊の攻撃を受けることになった。先ほど高速でクシュドルラ提督の艦隊を突き抜けて行ったダルシアの艦隊は艦の間を拡げてグーザ帝国艦隊を攻撃していた。その砲撃は強力で捕まったらグーザ帝国の艦は間をおかずにその熱で爆発するか、消滅するほどだった。リドスの艦隊もその火力はダルシアの艦隊に劣らなかった。ただ、彼らは艦に乗っている魔法使い達の力でその火力を強め、同時に広範囲に効果が及ぶようにしていた。

 惑星カルガリウム方面からのグーザ帝国艦隊の援軍はヘイダール要塞の駐留艦隊が担当した。本来、艦の性能から言うと、元新世紀共和国の艦はグーザ帝国の艦と比べると速度も火力も弱かった。クルム司令官代理はヘイダール要塞の駐留艦隊に通信用に魔法使いやTP使いを配置した。ただ通信だけではなく、防御や攻撃にも力のある魔法使いや特殊能力者を特に配置したものだ。だから、今回の戦闘に置いては駐留艦隊の攻撃能力と防御についてはかなり向上していた。

 グーザ帝国艦隊の援軍に来た艦隊の攻撃は、彼らの防御シールドによって阻まれていた。

「よし、うまくできているようだ」

と、アロウ准将が言った。

 逆に自分たちの攻撃が通じないことに驚愕し、敵の援軍は動揺していた。そこを付いてアロウ准将は攻撃を重ねた。

「こ、これはどうしたことだ?」

 彼らグーザ帝国の艦隊が聞いていたのと、敵の艦の性能が随分違うのだ。それは、クシュドルラ提督も同じ思いだった。彼はダルシアやリドスの艦隊と遣り合うのは初めてだった。ふたご銀河でのこれまでの艦隊戦は本気でやったとは言い難いものだった。いつもその途中でジャンプ・ゲートに入り、いや敵にそこまで追い込まれてしまったと言うことなのか正確にはわからないのだが、少なくとも全力での戦闘を最後まで続けたことはなかった。それでも、クシュドルラ提督は彼の長年の経験から敵を侮るようなことはなかったと言うのに、敵の艦の性能は彼の想像を超えていたのだ。

「あれが、ふたご銀河の艦隊なのですか?」

と、副官のリュードルラが聞いた。

「おそらく、あれが本気の力なのだろう。これまで本気を出していなかったのだ。だが、どうやら我々よりも艦が少ないようだな」

 レーダーに映じている敵の艦隊は味方よりもかなり少なく見えた。ただ敵の艦隊はロル星団の艦隊ではなく、ジル星団のどこかの艦隊なのだと考えられた。ロル星団の艦隊なら、彼らグーザ帝国艦隊の敵ではないと、充分研究されていたからだ。

 苦戦をしつつ、クシュドルラ提督は通信妨害を再開した。総督府が本国に救援要請をしたとしても、少なくとも、ここで行われている戦闘を銀河帝国の連中に知られてはならないと、考えたのだ。


「あ、また通信妨害が始まりました」

「救援要請はできたのか?」

「それはできました。ですが、返信までは聞けませんでした……」

 通信妨害が消えたのはほんのわずかの間だったので、それは仕方がなかった。それでも本国へ救援要請が出来たことで、多少の心の余裕が生まれた。

「あの、それでですが、……」

「何だ?」

「敵の艦隊が来ているのは確かなのですが、敵の艦隊と戦闘をしている艦隊がいるようでした……」

 わずかの間だったが、通信以外にもレーダーが使えたのだ。それに表示されたのは、敵艦の数よりは少ないものの、確かに敵の艦隊と戦闘状態にある艦隊の存在だった。

「どこの艦隊だ?」

「わかりません。それに、敵の艦隊が誰何しているのもわかりました」

「と言うことは、その艦隊は我々の味方だと言うことか?」

「さあ、どうでしょうか?」


 フォルガ・ドル少将は司令室の話を聞きながらも、魔法陣で表示されているグーザ帝国艦隊とヘイダール要塞から来た援軍との戦闘を見ていた。

「あの、大丈夫なんですか?」

と、不安そうにフォルガ・ドルは言った。

 どう数えても、敵の援軍が来たのでヘイダール要塞の艦隊の数がかなり少ないのだ。これで本当に勝てるのだろうか。

「大丈夫。まあ、見ていてごらん……」

と、バルザス提督――銀の月は自信ありげに言った。

 確かに敵の援軍が来たのを数えれば、こちらはかなり数が少ない。だが、リドス連邦王国の艦隊には魔法だけではなく、艦隊の数を増やす方策があった。

 リドス連邦王国の艦隊は主に戦闘機を乗せた空母があるが、空母でなくてもほとんどの艦に五機ほどの戦闘機が載せてある。一機につきパイロットと攻撃と防御を司る魔法使いを乗せる仕組みである。この戦闘機は相手が戦闘機の場合は戦闘機を攻撃するが、もし敵の戦闘機が少ない場合は艦を攻撃することが可能なのだった。今、リドスの艦は一隻に付き五機の戦闘機を全て吐き出していた。つまり大きさは小さいが、駆逐艦や戦艦ほどの大きさの艦を攻撃可能な戦力が五倍になる計算だった。しかも、機動性が高い。あちこち動き回って、味方の艦の護衛も可能だ。ただ戦闘機なので戦闘時間は限られているのが難点だった。それでも、燃料が尽きたら、魔法で自分の艦へ戻ることも可能だった。

「じゃ、艦の数なら、敵に負けないということですね」

「そうだね。これでうまく行けばだけれど……」

と、バルザス提督は慎重に言った。

 何と言っても戦闘中は何が起きるかわからない。敵に援軍が来ることも事前にはわからなかったのだ。これからも完全に敵を制圧するまでは用心深くならねばならない。

「ところで、総督府の艦隊はどうなっています?」

と、フォルガ・ドル少将が聞いた。

「そちらは、多分リドスの艦隊に見えるように動いてもらうつもりだ」

「でも、形が違うのが分かってしまうのでは?」

「向こうは、こちらのことはまだよくわからないはずだから、おそらく大丈夫だと思う。彼らにはリドスの艦隊の一番後ろに居てもらって、数の足りないのを誤魔化すのに役に立ってもらうつもりなんだ」

 そうすれば、敵の攻撃を受けにくく、艦隊が温存できるだろうと思ったのだ。ただ、見た目の味方の数の少なさを補うことができればいいのだった。

 リドス連邦王国の艦隊とグーザ帝国艦隊は戦闘状態に入っていた。

 フォルガ・ドル少将が魔法陣の中を目を凝らして見ていると、リドスの艦から小さな戦闘機がパラパラと出てくるのが見えた。


 敵の艦が少ないことにクシュドルラ提督は安堵していた。軽く見積もっても味方の三分の一にもならない。何処から来たかわからないが、例え敵の艦の性能が味方を多少上回っていたとしても、このくらいの数なら撃破することが可能だと思ったのだ。

 ところが、味方の艦が続々と敵にやられる格好になった。

「どうしたのだ?こちらの方が、数が多いはずだが……」

「それが、敵の戦闘機にやられているようなのです?」

「戦闘機だと?」

 戦闘機の動きが小さく素早いので、すぐにはわからなかったのだ。

「こちらの戦闘機も出せ!」

「すでに出ています」

 グーザ帝国艦隊にも主に戦闘機を乗せた空母があった。だが、こちらの戦闘機は敵の艦の主砲でやられてしまい、かなり数を減らしていた。

「何をしているのだ!」

と、苛立ってクシュドルラ提督は言った。

 しかも、味方の艦の主砲を敵の戦闘機は楽々と躱している。シールドが強固なのか、それとも戦闘機のスピードが速すぎてあたらないのか、と見ていると味方の艦がやられていた。

「あれは、エネルギー砲でやられたのか、それともミサイルか?」

「それが、よくわかりません」

 リドスの戦闘機に乗っている魔法使いが魔法による攻撃を仕掛けているとは、残念ながらクシュドルラ提督にはわからなかった。彼らは戦闘機のエネルギー・ビームやミサイルを使うよりも、魔法使いが魔力で敵の艦の動力系統に熱を籠らせて自爆すると言う方法をとるのだった。これを防ぐには魔法使いが魔法でシールドを艦に掛けるしかない。

 さすがに数で優勢だったグーザ帝国艦隊は、為す術もなくしだいに数を減らして行ったのだった。



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