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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
91/153

ダルシア帝国の継承者

411.

 グーザ帝国のある蛇使い銀河は、それまでは単に彼らの主なエネルギー源である結晶石を取りつくしてしまったため、その鉱山を探して他銀河、つまりふたご銀河までやって来ていたのだ。ところが、そのうちにどこの宇宙のものとも知れぬ異星人の侵攻に苛まれるようになった。その侵攻を退けるために、急遽エネルギー結晶石が大量に必要になったのだ。そのため、できうる限りの艦を集めてふたご銀河へ大艦隊を送ることになった。

 ふたご銀河のロル星団にある惑星カルガリウムでのエネルギー結晶石の鉱山は、とても質のいい結晶石を産出し、しかも埋蔵量も豊富だった。だが、それだけではとても足りないのだった。グーザ帝国艦隊の調査によれば、エネルギー結晶石はふたご銀河にはかなり豊富に存在すると言う結果を得ていたのである。

 グーザ帝国の宇宙艦隊司令部では、帝国政府の命により、よりたくさんのエネルギー結晶石を手に入れるために、今回の遠征に出ることにしたのだ。これまでの情報から、ふたご銀河のジル星団にはグーザ帝国と同等かそれ以上の文明の存在を確認していた。しかし、ロル星団の方は確かに宇宙文明に達してはいるが、グーザ帝国の兵器と戦力をもってすれば、何とか支配を拡げられる可能性が十分あるという結論に達したのである。

 まず現在ロル星団の銀河帝国統治下にある旧新世紀共和国の星々を支配下に置き、そこを拠点にすれば、銀河帝国本国を攻略することも可能になるという考えだった。その上で、早急にエネルギー結晶石の鉱山を開発し、結晶石を蛇使い銀河へ輸送する計画だった。そうすれば敵の侵略が中枢部に迫って危険になった場合、政府高官などの上層部や一般市民を避難させる場所にもなる。


「グーザ帝国の目的はエネルギー結晶石だと言っていませんでしたか?」

と、批難するようにダズ・アルグ提督が言った。

 領土獲得を目的としていると知っていたならば、以前にヘイダール要塞を攻撃してきたグーザ帝国の艦隊など全滅させてこちらの実力を知らしめるべきだったと彼は思ったのだ。あの時それが不可能だったわけではない。もちろん、ヘイダール要塞にいる元新世紀共和国の駐留艦隊では難しいだろうが、ダルシアの艦隊を使えば可能だった。

「連中の目的は、最初はエネルギー結晶石の不足を補うべく、その鉱山を探していたのだ。だが、どうやらその目的が変わったと考えるべきだ」

と、ダールマン提督は言った。

「どう変わったのです。やはりこちらの惑星を取得し植民して移住したくなったということでしょうか?」

「移住まで考えているとは思わない。いずれ、そうなる可能性はあるが、今はとにかくできるだけ多くのエネルギー結晶鉱石を産出する鉱山を取得しようと考えているのだろう」

「その原因は何です?」

「実は、グーザ帝国のある蛇使い銀河は現在未知の銀河の異星人に侵略されているのだ」

「その未知の異星人については、何かわかっているのだろうか?」

と、クルム司令官代理が聞いた。

「我々の調査では、ケルベルラスと言う名が挙がっている」

「何ですそれは?種族の名ですか?国名ですか?」

「おそらく国名だと思う。こちらもまだ、その連中の言語を解読中なので、どんな政治形態なのかもわからない。だが、おそらくその行動から見て、かなり強い中央集権の政治が行われていると考えられる」

「帝国のようなものですか?」

「彼らにそのような概念があればのことだ」

「ではまだ、リドス連邦王国であっても、グーザ帝国を侵略している連中については調査中なのですね」

「そうだ。我々であっても、全てを知っているわけではない」

「しかし、こう他銀河からの侵攻の話を聞いては、他所の銀河と言うのはどこでも碌でもないということですかね……」

 だとすると、これからどんなところから侵攻があるかわからない。非常に物騒なことだと、ダズ・アルグは思った。

「そんなことはない。だいたい、おまえさんは銀河の数を知っているのか?この宇宙にどれだけの銀河があると思って居るのだ。分かる範囲でも二百億くらいあると言われているだろう。その中で、他所の銀河を侵略するなどと言うことをする連中は、実はそれほど多くはないのだ」

「まるでほとんどの銀河を知っているとでも言うような言い方ですね」

「ほとんどの銀河は非常に賢明な種族が支配しているものだ。他を害したりするような連中は、本当は数少ない」

「それが事実だとしても、現在グーザ帝国だけではなく、我々の銀河もそのグーザ帝国の侵攻をうけている。これではほとんどの銀河が侵略などしない賢明な種族が支配していると言っても、あまり役には立たないではないか……」

「ともかく、今は惑星ゼンダに接近中のグーザ帝国艦隊をどうするかを考えるべきではありませんか?」

と、議論が別の方向に行くのを憂えてブレイス少佐が言った。

「そうだな。それについては、早くしなければ危ないだろう」

「で、先ほどは一時間あれば惑星ゼンダのある場所へ行けると言っていたようですが、本当に行けるのですか?」

と、フェリスグレイブが聞いた。いくら何でも信じられない話だった。

「もちろんだ。ヘイダール要塞は重力を制御することで、移動が可能になっている。もちろん重力制御で長期の宇宙航行をするわけには行かないが、近くにジャンプ・ゲートを作れば、その中への移動はできる」

 ジャンプ・ゲートへ移動できれば、ゲート内の移動はワープ航法よりも速い。おそらく、惑星ゼンダのある宙域まで、数時間あるいはジャンプ・ゲートの作れる次元をもっと高次元にすれば、数秒で済むはずだった。従って一時間と言う時間は、作ったジャンプ・ゲートまでの移動にかかる時間のことだ。

「ジャンプ・ゲートを造るのですか?元々あったものを使うのではなくて……」

 ジャンプ・ゲートについては、ダルシア人やリドスの人々の話によると、遥かな昔、どこかの高度な文明を持った種族が造ったと思われるのだが、誰が造ったのかはわからないと聞いていた。

「そうだ。元々あったものは、近くにあってもサイズが合わない。大抵宇宙船がいっぺんに数隻程通り抜けられるサイズが普通なのだ。だから、ヘイダール要塞程の大きさでは使えないのだ」

 大艦隊が通る時はジャンプ・ゲート自体を拡げることは普通できないので、各小艦隊ごとに何度も使うことによって通過することになる。距離の移動よりも、艦隊の移動に時間がかかるのだ。

「それは、準備にどれくらいかかるのですか?」

と、ブレイス少佐が聞いた。

「準備にそれほど時間は掛からないだろう。駐留艦隊を乗せたまま移動できるのだから。今すぐ行くとしても、ジャンプ・ゲートを形成するのに数分で済むはずだ」

「ジャンプ・ゲートは目に見えるのですか?」

「いや、だが、有る場所は探査装置で分かる。レーダーのようなものを使えば簡単にわかるものだ」

「で、向こうに着いたらどうするのですか?」

「向こうの状況にもよるだろう。もし、グーザ帝国艦隊がすでに惑星ゼンダのある恒星系に入っていたら、こちらもすぐに対応できるように駐留艦隊やリドスやダルシアの艦隊を準備しておく必要がある」

「艦隊戦をやるにしても、向こうは十万と言うではありませんか。こちらはその四分の一にも満たない数です」

「そうだな。だが、惑星ゼンダにいる帝国艦隊と連携が取れれば、また別だろう」

「そんなことができるのでしょうか?」

 惑星ゼンダの帝国艦隊はヘイダール要塞の艦隊を見たら、敵が来たと思うのではないかと思われた。

「別の未知の艦隊が攻撃しに来たととるのではありませんか?」

「連携と言っても、ゼンダの総督府と同盟を組むと言うわけではない。直接交渉は止めておいた方がいいだろう。こちらの駐留艦隊はほとんどまだ元新世紀共和国の艦船だ。だから、グーザ帝国の者とは違うということはわかるだろう。だが、味方が来たとは思わないだろう。ただ、それをグーザ帝国の連中に知られないようにすることが肝要だ」

「つまり、連中を騙すのですか?」

「そうだ。総督府の艦隊は我々が攻撃に来たと考えるだろう。そこをうまく使ってグーザ帝国の連中を騙すのだ」

 ヘイダール要塞の艦隊が惑星ゼンダを攻撃に来たと思えば、帝国艦隊は動いて戦おうとするだろう。それをうまく利用しようというのだ。

「具体的にはどうするのですか?」

 元新世紀共和国の首都星ゼンダは、現在銀河帝国の新領土として皇帝から任命された総督が統治している。彼らに独立した外交交渉をする権限があるのかどうかはわからない。しかしあったとしても、元新世紀共和国の元帥、今は惑星ゼンダから逃亡してヘイダール要塞を占拠し、帝国軍を追い払ったディポック提督と交渉しようと考えることはないだろうと思われた。例え、自分たちが助かるためであっても、かつての敵と手を組むようなことはしないだろうと思われた。何故なら、その結果何を要求されるかわからないからである。そう考えるのが普通だ。もちろん、総督ではなくてあの若い皇帝ならどうするかはわからない。

 だから、今回は総督府には何も知らせずに、動かなければならない。

「でも、フォルガ・ドル少将はこちらに情報を伝えてくれると思います。それにもしかしたら、総督にも密かに何かを伝えるかもしれません」

「そのドル少将は信用できると思うか?ブレイス少佐」

と、ダールマン提督が聞いた。

「信用できると思います」

「だが、あまり使うと、そのドル少将は味方に疑われるかもしれない。だから、総督府の動きをこちらに伝えることを中心にやってもらおう」

「総督には何も言わないのですか?」

「そうだな。総督には黙って置いてもらおう。その方がいいだろう。もちろん、この作戦が上手く終わってからすぐにではなく、しばらくしてから話すと言うことは構わないが……」

「わかりました。そのように伝えます」

と、ブレイス少佐は言った。

「では、駐留艦隊とダルシアの艦隊は出撃準備を整えていてもらおう。リドスのフィアナ提督の艦隊とナンヴァルの亡命艦隊は留守番に残ってもらう」

「クルム司令官代理とディポック提督には作戦を練ってもらいたい」

と、ダールマン提督は言った。

「しかし、我々は魔法というのはどう使われるのかわからないが……」

と、クルム司令官代理が言った。

「ドル少将に言ったのだが、大艦隊と戦う魔法などはない。まず作戦を練って、それをうまく遂行できるように魔法を使うことならできるのだ」

「なるほど、そういうことなら、考えてみよう」

 ディポック提督も頷いた。


412.

 帝都ロギノスの広大な宮殿の周囲に更に広がる貴族の邸宅街を離れると、そこは帝都の繁華街だと言うのに、昼なお暗いまるでスラム街のような印象を与える場所だった。

 本来、きらびやかな店が立ち並び、行き交う人々も着飾っているのだが、現在の繁華街は違っていた。

 空を覆う暗い雲は貴族の邸宅街よりも厚く、陽の光を遮っていた。そして、地上車の行き交う広い道路の両側にはきらびやかなショーウィンドウを飾った店が並んでいるのだが、どこか薄暗く汚い感じがした。というのも、街のあちこちには外にはみ出す程のゴミが捨てられている。そして、道路の端には、事故車両のような残骸があちこちに置いてあるのだ。その中にはまさか死体はないと思いたいが、その数は尋常ではない。道路の通行に差し支えないように、端の方に置いてあるだけで、それが街を廃墟のように感じさせていた。

 この街に何が起きているのだろうか、とアルネ・ユウキは思った。貴族の邸宅街の方がましだと聞いていたが、確かにそうだった。


「ねえ、どこまで行くの?」

と、ダキ・フォルスは聞いた。

「あなたこそ、もう行くべきところへ行ったらどうかしら?」

と、アルネ・ユウキは言った。

 ボルトレッド伯爵邸からずっと、ダキ・フォルスはアルネ・ユウキの後を付いて来ていたのだ。

「だって、私、どこへ行ったらいいのかわからないのだもの……」

 アルネ・ユウキは周囲を見回した。貴族の邸宅街よりは多くの人が歩いているが、アルネ・ユウキ達はまだ他の人には見えない様になっていた。それなのに、数人、いや数十人か、人ごみの中に、アルネ・ユウキ達を見る視線が感じられるのだ。それはこのダキ・フォルスと同じ者達だった。

 魔法で他の人の目に見えない状態になっているのだが、誰にでも見えないわけではない。ダキ・フォルスのような死んでまだ成仏していない霊なら、アルネ・ユウキ達を見ることが出来るのだ。そうした者たちは、憲兵とは違うが、気をつけなければならない連中だった。

 街の中をあちこち見て歩いていると、ひょろりとした男がアルネ・ユウキ達を認めて近づいて来た。

「おまえたちどこから来たんだ?」

 汚れた軍服に警棒のようなものを身に付けているが、その口調は横柄だった。

「あなたは?」

と、アルネ・ユウキが聞いた。

「俺は、憲兵だ。少尉様だぞ!」

「だったでしょう?」

と、胡散臭そうにダキ・フォルスが言った。

「何だ、お前は?」

「私はボルトレッド伯爵家の召使よ」

「ふん。だっただろうに……」

と、男はダキ・フォルスをジロジロ見て言った。

「で、何の用なの?」

「お前たちは皆貴族の召使か?どこへ行く?」

「あなたに関係ないでしょう」

「ほお、そこにいるのはどこかのお嬢さんか?それとも侍女か?ここは帝都ロギノスだ。憲兵隊が治安を守っている」

と、その憲兵だと名乗る男はゼフィア・シノンが大人しそうなのを見て言った。

「守っていたでしょうに……」

と、ダキ・フォルスが言った。

「何だと!」

「この街の有様では、そうとしか思えないわ。事故があってもそのままじゃないの」

「そ、それは、近頃は人手不足で忙しいからだ」

「そんなに事件が多いの?」

「多い。平民の事故処理などしている暇はない」

「そうかしら、最近は貴族の邸宅街の方も事故処理をしていないのではなくて?」

「そんなことはない。向こうには宮殿もある。皇帝陛下もお出でになるのに、事故をそのままにしておくことなどない」

「ふーん。で、私たちに何の用なの?」

「だから、どこへ行くのかと聞いている」

「あなた、もう死んだのだから、私たちがどこへ行こうと関係ないでしょう?」

「何を言うか、俺は死んではいない。確かに、俺の軍服は多少汚れているが、これは忙しくて着替える暇がないからだ」

「もう、着替えることもないのでしょう」

 困ったことにこの少尉だという男は自分がまだ生きていると思って居るのだった。

「私たちは、人を探しているのよ」

とアルネ・ユウキは仕方なく言った。

「どんな奴だ?」

「子供よ。小さな女の子」

「子供を誘拐されたのか?」

「まあ、そんなところね。でもその子は平民だから、憲兵さんたちには探すような仕事ではないのでしょう?」

「そんなことはない。名は、何と言うのだ?」

「それは母親に聞いてくれる?」

と言うと、アルネ・ユウキは空を仰ぐように見た。

 そう言えば、この帝都行きにはあと一人、見えない人物が案内に付いてくると言っていたが、とジェルス・ホプスキンは思った。だが、その人物はこれまで姿を現していない。自分たちが魔法で他の人の目に見えなくなったから、もしかしたらその人物を見ることが出来るかもしれないと思ったのだが、肝心のその人物はどこにいるのかわからなかった。

 空が少し明るくなった。何かが空から降りて来たのだ。

「何だか、急に眩しくなったが、何なのだ?」

と、少尉は言った。

「もう少し光を落してくれませんか」

と、アルネ・ユウキが言った。

 輝きが薄れてくると、一人の女性が現れた。

「お前は誰だ!」

「驚かせてごめんなさい。私はナルディア・バルザスと言う者です」

 ナルディア・バルザスはひいき目に見ても、かなりの美人だった。貴族風ではなく、平民のよく着る服を身に付けている。だが、どこか育ちの良さを感じさせた。

「ナルディア・バルザス?」

「娘を探しているのです」

「その娘は、歳はいくつだ?顔立ちはあんたと似ているのか?それで、いつ頃誘拐されたのだ?」

「歳は五歳ちょっとです。顔は私によく似ています。ただ、居なくなったのは今から三年前になります」

「三年前?それでは、探すことは難しい。何か他に情報はないのか?」

「そうですね、後はあの子は病気でした」

「病気だと?病院を探した方がいいのではないか?」

「そうですね。そうします」

と、ナルディア・バルザスは逆らわなかった。

「ふん。まあいいだろう。気をつけて行くがいい……」

と、少尉は言った。


 その場から足早に離れると、街中のホテルに着いた。

「入りましょう」

と、ナルディア・バルザスは言った。

「でも、いいのかしら?」

「大丈夫。だって誰にも見えないでしょうから」

「それはそうだけれど……」

 生きている人間には見えないが、死んだ者たちには見えるのだ。だから、あちこちの物陰から視線を感じて気分が悪い。その中にはどうも悪意を感じる視線もあった。

「外では他の連中がこちらを窺っていて、危険です」

「それなら、……」

 そのホテルは街中で一番大きなホテルだった。そのホテルに逃げるように、ナルディア・バルザスとアルネ・ユウキの一行は入って行った。

 入ると、ロビーがとても広く、外よりも明るく感じた。

「さあ、そこに座って……」

 ホテルの中はあまり人がいなかった。手持無沙汰のように従業員が立っている。彼らにはナルディア・バルザスの一行は見えないのだった。

「帝都は随分荒れてしまったわ」

と、ナルディア・バルザスは悲しそうに言った。

「あの、プロキシオン号からずっと私たちと一緒だったのですか?」

と、ゼフィア・シノンが聞いた。

「ええ。でも、私が近寄ると目立つので、避けていたのよ」

「目立つ?さっきのように光るからなのか?」

「ええ。これでも随分光を落しているのだけれど、……」

「それで、我々の目的はどうなんだ?ボルトレッド伯爵のことはもういいのか?」

「元々ボルトレッド伯爵のことはここに来る口実に使っただけなのです。でも、こちらのダキ・フォルス嬢が伯爵家の家族のことをよく知っていて、話してもらえたから助かりました」

 もうボルトレッド伯爵のことは済んだと言いたげだった。

「では、竜の置物も見つかったようだし、当初の目的は果たしたというわけかね……」

「ただ、気になるのはデオド男爵と言う人の事です」

 ナルディア・バルザスはデオド男爵については知らなかった。初めて聞く名である。銀河帝国では男爵は爵位の中でも最下位に位置し、軍であっても多少の功がありそれが貴族の子弟であった場合、男爵号を贈られることはよくあった。だから、男爵と言うのはたくさんいる。

 デオド男爵が気になるのは、どこかボルトレッド伯爵家に妙に近づいているように感じることだ。それにジェグドラント伯爵家のことも何か知っているように思えることだ。

「ダキ・フォルス、あなたは以前はデオド男爵については聞いた事がなかったの?」

と、ナルディア・バルザスは尋ねた。

「全然、ないです。旦那様は交友関係が広いですが、デオド男爵というのは最近知り合った間柄です」

「どこか気になるわね」

 ダキ・フォルスはナディア・バルザスのことを不思議そうに見ていた。最初に見た時、眩しく見えたのは何だったのか、興味もあった。

「あの、あなたは何者なんですか?」

「何者?そうね、私は銀河帝国で有名な大逆人のダールマン提督の部下の一人、ベルンハルト・バルザスの妻だったわ」

「ああ、だからバルザスと言うのですね。そこだけは聞いたことがあります」

「そう、バルザスというと今は誰でもベルンハルト・バルザス、大逆人の部下の一人と言われて、知っている人が多いわね」

「確か、ダールマン提督は辺境の宇宙で帝国の征討軍と戦って亡くなったのですよね。そのとき、部下だった方々も多く亡くなったと聞いています」

「ええ、ベルンハルトもその時亡くなった一人よ」

 もっとも、ベルンハルト・バルザスはその後ガンダルフの魔法で蘇って、今はヘイダール要塞にいるとは口が裂けても言えなかった。少なくとも帝国では死んだと聞いている人の方が多いはずだった。

「あの、ベルンハルト・バルザス提督は死んでいるのですか?」

と、ジェルス・ホプスキン刑事は聞いた。彼はヘイダール要塞で銀の月と呼ばれる、生きているバルザス提督に会ったことが有るからだ。

「ええ、帝国ではそう言われているはずよ」

「なるほど、帝国ではね……」

「でも、最近噂で聞きます。大逆人のダールマン提督は生きているのだと、だからその部下たちも生きているのではないかと……」

と、ダキ・フォルスが言った。

「帝国ではそんな噂があるのね」

と、ナルディア・バルザスは他人事のように言った。

 そんな話をしていると、ホテルのロビーでその話に耳を傾けていた一人が、近づいて来た。その人物は貴族らしい身なりをしていた。もっともその服装はどこか薄汚れているのだが。

「あの、ちょっとお話ししていいでしょうか?」

「あなたは?」

「私は、プログテン男爵と申します」

「私はナルディア・バルザスと言います」

 相手が、あまりにジロジロと見るので、ナルディアは居心地悪そうに言った。

「そのバルザスと言う名に聞き覚えがあります。もしかして、ベルンハルト・バルザスの奥方でしょうか?」

「そうですけれど、プログテン男爵あなたはどうしてその名を、いえ、帝国では大逆人の部下として知られているのでしたね……」

「私は彼とは昔、友人でした。亡くなったと聞いて、お悔やみを申し上げたいと思ったのです」

「そうですか……。それはどうも。でもあなたも同じではありませんか?」

「私は、生きていますよ。このホテルに宿泊しているのです」

「どのくらい?」

「そう、もう二カ月になりますか……」

「随分長いのですね」

「人を待っているのです。実は、私は帝国軍にコネのある人物に私の就職を頼んだのですよ」

「つまり、帝国軍に入りたいと?」

「そうです。今の帝国軍は破竹の勢いであの新世紀共和国まで征服したではありませんか?」

「でも、それはもう終わったことだと思いますわ」

 すでに征服は終わったのだ。敗北した元新世紀共和国は新領土として帝国に編入されたのだ。だからこれから帝国軍に入ったとしても、昇進などあまり期待できない。それに今は兵士や士官の募集もしていないだろうと思われた。

「それでも、何の金にもならない爵位だけの男爵よりもましだと思ったのですよ」

「それではバルザス提督の知り合いだと知られるのは困るのではありませんか?」

「そうなんです。だから……」

とプログテン男爵が言うと、突然ホテルのロビーを黒い旋風が駆け抜けその旋風によって、ナルディア・バルザスとアルネ・ユウキの一行はバラバラにどこかへ飛ばされてしまった。目を閉じた瞬間、アッと言う間のことだった。


413.

 ゼフィア・シノンは、何が起きたかわからなかった。何か突風のようなものが起きたのは分かった。だが、あまりにも事態の急変が激しかったので、一時的に記憶喪失になったようだった。

 目を開けると、自分が暗い場所にいるのがわかった。人間の目では見えないが、その目をダルシア人の目に切り替えると、周囲が見えて来た。ダルシア人の目は赤外線やほかの電磁波を感知して視覚として認識できるのだ。ドラゴン・スレイヤーとしての能力である。

「大丈夫?暗くて、見えないでしょう?」

と、ダキ・フォルスの声がした。

「ええ、まあ……」

と、曖昧にゼフィア・シノンは答えた。

 彼女に見えるのは、何か鉄格子の中に自分がいるということだ。その外は同じように暗く、家具や調度の類もない通路があるようだった。

「ここはどこなのかしら?」

と、ダキ・フォルスが言った。

「あなたは知っているのではなくて?」

と、ゼフィア・シノンが言った。

「私が?私はボルトレッド伯爵家の召使よ。こんなところは初めてだわ」

「そうかしら?」

 そのあまりにも落ち着いた声に、少々いらだちを覚えてダキ・フォルスが言った。

「本当よ!こんなところ知らないわ」

「別にそれはどちらでもいいわ。それよりも、他の人達はどうしたかしら?」

「他の人の心配をしている場合なの?」

「どうして?」

「あなたは、こんな暗いどこともわからないところに、どうやって来たのかと思わないの?」

「もちろん、そう思うわ」

「それにしては、落ち着いているのね」

と、不満そうにダキ・フォルスは言った。

 おそらくこれは魔法だとゼフィア・シノンは思った。その昔、この帝都ロギノスはアルフ族の首都星でもあった。当時は多くの様々な力を持った魔法使いが居たと聞いている。その中には瞬間移動のできる魔法も有ったはずだった。だが、その魔法の時代はすでに数百万年前のことだ。現在帝都ロギノスにいる魔法使いはジル星団から来た者達のはずだった。彼らの中に瞬間移動をするほどの力の者はいても、他の者、それも一人ではなく数人を一時に別の場所に移動させるような力を持った魔法使いがいるだろうか、とゼフィア・シノンは思った。現在のジル星団の魔法使いはかつての魔法の全盛期の魔法使い程の力はないということは聞いている。

「ねえ、怖くないの?」

と、ダキ・フォルスが聞いた。

「怖い?何が?」

「この暗闇のことよ」

「暗いのは、単に可視領域の電磁波がないということだわ」

「何?可視なんですって?」

「可視領域の電磁波よ。それが無いと、人間族の目に反応がないから、見えない状態になるということ」

「そんな難しい言葉を使わないでちょうだい。あんたは何者なの?」

「私が何者かなんて、何で聞くの?ずっと私の事を見ていたでしょう?」

「それはそうだけれど、暗闇を怖がらないなんて変だわ。普通は怖がるものだわ」

「そうなの?でもあなたも変わっているのね」

 ダキ・フォルスも特に暗闇を怖がっているようには見えなかった。

「変わっているのはあんたの方だわ。こんな変な女だとわかっていたなら、話を聞くのではなかった」

「それは、どういうこと?」

「ふん。あんたたちは、この帝都ロギノスに来てから、ずっと見張られていたのよ」

「誰に?」

「さあ、私にはわからないけれど、向こうはあんたたちの事を知っているようだったわ」

「そう」

「そ、それだけなの?」

「何を言えばいいの?」

「だから、怖くないのかと聞いているでしょう!あんたたちを見張っている連中がいることを……」

「そんなことを言われても、どんな連中かわからないから、どう考えればいいのかわからないのよ」

「変わっているのね。大抵の女の子なら、怖くて泣いているわ」

「つまり、私が無力な女の子に見えたから、ここに連れて来られたと言う訳なの?」

「そう。あの四人の中で、あんたが一番弱そうに見えたから……」

「そうなの」

 ゼフィア・シノンは、その言葉に特に興味は感じなかった。彼女は恐怖よりも、現在の状況に興味を持っていた。これから何が起きるのかと興味深々なのだ。ドラゴン・スレイヤーとしての彼女には、恐怖はほとんどない。なぜなら、この世界にドラゴン・スレイヤーに対抗できる者などないからだ。

 もっとも、まだドラゴン・スレイヤーとして目覚めてそれほど時間が経っていないため、その力は全部目覚めているとは言えない。だが、それはこれからおいおい出てくるものだった。何かこれまでにない状況になれば、それなりの能力が目覚めるということだ。何しろダルシア人の能力というのは、人間の考え及ぶようなものではない。

「まあ、いいわ。私の役目はここまでなのだから……」

と、ダキ・フォルスは言うと、その姿を消した。

 視覚の領域にダキ・フォルスが居なくなったのを確かめると、ゼフィア・シノンはまるでレーダーの探知領域を広げるように自分のセンサーを拡大した。すると、ここがさきほどのホテルの中ではなく、どこか別の大きな建物だと言うことがわかった。ここは先ほどのホテルから数ブロック先の所にある建物の地下だった。近くにアルネ・ユウキ達仲間の姿はない。彼女は一人だけ、どこか別の場所に移動させられたのだ。

「アルネ・ユウキ少佐は私を探しているでしょうね……」

と、独り言漏らすと、

「そうかな?」

と、どこからか声がした。それは、男の声だった。急にその存在感が現れたのだ。おそらく、ダキ・フォルスが居なくなったのと入れ替わりにやって来たのだと思われた。

「あなたは、誰?」

と言いつつ、ゼフィア・シノンは相手を見た。暗いが、彼女の目には見えるのだった。貴族というよりは、あのボルトレッド伯爵家の執事のような服装をしている。

「お嬢さん。あなたは今、大変危険なところにいるのですよ」

と、男は言った。その声からして、かなり高齢のように思えた。

「そんなに危険とは思えないけれど、ここはどこなのかしら?」

「随分、勇気のあるお嬢さんだ。帝都ロギノスは『死の呪い』に覆われた星だと聞かなかったのかね?」

「それは知っているわ。でも、それがどうしたと言うの?」

 おそらくダルシア人だったら、そう言うだろうことをゼフィア・シノンは言った。

「おお、『死の呪い』を怖がらないものを見るとは。私も年を取ったものだ」

「ガンダルフの魔法使いは恐れていると聞いた事があるわ」

「お嬢さんは魔法使いではないのかね?」

「ええ。私は魔法使いではないわ」

「なるほど、だから恐れないのか」

 それは誤解だったが、ゼフィア・シノンは間違いを正そうとは思わなかった。あまり相手に情報を与えるものではない。特に自分が囚われている時には。

「私をどうするつもりなの?」

「この『死の呪い』に覆われた星から出て行けると思って居るのかね?」

「別に出て行きたいわけではないわ」

 ゼフィア・シノンにはやることが有った。この帝都ロギノスに来た目的は単に、ジェグドラント伯爵家にあった封印の置物を探すためだけではない。もちろんナルディア・バルザスの娘を探すためだけでもない。

「お嬢さんは何をしに来たのかな?」

「あなたはそれを知っているのではないの?」

と、ゼフィア・シノンは言った。



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