表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
88/153

ダルシア帝国の継承者

402.

 フェリスグレイブ要塞防御指揮官は、新しく彼の部下に配属されたドラゴン・スレイヤーとか言う連中と会っていた。数は五人で、皆女性である。彼の部下は男性ばかりだったので、この今回の措置には少々困っていた。その上、中にはリドス連邦王国の士官も交じっていると聞いていた。タレスの民間人もいるという。

 これは、彼にとってはあまりうれしい事態ではなかった。兵士や士官の不足は要塞のどこでも同じだったが、要塞防御の部門には女性はこれまで配属されてはいなかったのだ。元々、フェリスグレイブの所属していた戦闘部隊には女性の隊員はいなかった。これはその任務の関係上かなり腕力や体力を必要としていたからだ。従って元からの隊員はこの事態をあまりいい状況とは考えてはいない。彼女たちの前に隊員となったナルゼンたちは表情が読み取りにくいのでわからないが、彼らにとってはどうでもいいことらしい。

 だが、彼女たちの戦績はかなりのものだった。あのナンヴァル人をあっという間にやっつけた実力の持ち主だと言うのだ。それを見ていたタレス人や元新世紀共和国の兵士や士官の証言があった。だから、信じられないが事実なのだろうと彼は思った。それでも、新しい女の隊員は古参の隊員の当惑を招いている。

「君たちは私の部下として来たのだが、それで納得しているのかな?」

 すると、お互いに顔を見合わせて五人の女性のドラゴン・スレイヤーの一人が言った。

「もちろんです。この要塞においては、あなたの指示に従うように要請されました」

「要請?命令ではなく……」

 一瞬聞き間違えかとフェリスグレイブは思って聞いた。

「ああ、いいえ失礼しました。命令ですね」

「もしかして、君は民間人か?」

「そうです。タレス人です」

「なるほど。では聞くが、ドラゴン・スレイヤーというのはどんなものなんだ?」

 フェリスグレイブはジル星団の伝説には詳しくなかった。初めて聞いた言葉なのだ。もちろん、今回の措置の所為でドラゴン・スレイヤーについてはアリュセアなどから多少聞いてはいたが、だからと言ってすぐにそれを信じることは難しかった。

「どうって言われましても、……」

と、女性たちはまた顔を見合わせた。

 そこへ、アリュセアの末の娘であるリュイ・ジーンがやって来た。彼女はまだ就学年齢にも達していないので、連れて来たのはブレイス少佐だった。

「こんにちは」

と、リュイは挨拶した。

「こんにちは、お嬢ちゃん。ブレイス少佐、この子はどうして連れて来たんだ?」

と、フェリスグレイブが聞いた。彼から見てもいくら何でも小さすぎる子供だったからだ。

「この子はリュイ・ジーン。アリュセアの末もお嬢さんよ。それで、この子たちと同じ、ドラゴン・スレイヤーなんです」

「こんなに小さい子が?一体、どう言うことなんだ」

「それは、私から話しましょう」

と、まるで大人のような話し方でリュイは言った。

 リュイ・ジーンは自分が魔法の呪文を使って、ドラゴン・スレイヤーを出現させたと話し出した。これには、フェリスグレイブは狐につままれたような表情をするしかなかった。彼にしてもジル星団の魔法については、何もわからなかったからだ。

「私が聞いたところによると、ダルシア人は魔法を使わないと聞いたのだが……」

「使わないのは、使えないのではないのです。使う必要がなかったということです」

「よくわからないが、それはどういうことだ?」

「つまり、魔法を使わなくても同じようなことが出来たということです」

「それで、なぜドラゴン・スレイヤーを生み出すには魔法の呪文が必要だったんだ?」

「いつか、どこかでドラゴン・スレイヤーが必要になった時にそれを生じさせるためには、魔法の呪文が一番便利だと考えたのです」

「便利ねえ……。そんなに魔法と言うのは便利なのか?」

「ダルシア人としての知識だけではなく、その力を復活させることは魔法の呪文が一番よかったのです。もっとも、それで失われるものも多いのですが、それが必要な場合は仕方がありません」

「それが、今回の件だったわけか」

「そうです。ナンヴァル人は竜族です。およそ人間の倍の体力を持った種族なのです。それに彼らが魔術師としての呪文を持っていたら、何の呪文も持たないあなた方は抵抗などできますまい。あっという間に要塞を乗っ取られていたかもしれません」

「だが、他にもリドス連邦王国の魔法使いや特殊能力を持ったタレス人が居ただろう」

「リドスの魔法使いは要塞とレギオンの城との結合工事で手一杯でしたし、特殊能力者であっても訓練されていない者は、こうした戦闘には不向きなのです。司令室の方はガンダルフの魔法使いが居ましたが、他はほとんど魔術師やナンヴァル人の兵士には抵抗できなかったでしょう。その場合かなりの被害が出る恐れがありました。特に、ナンヴァルのマグ・デレン・シャはどうしても守らねばならない方であったのです」

と、リュイ・シーンは説明した。

 その説明に納得したわけではなかったが、今の所はこれで良しとしようとフェリスグレイブは思った。

「それで、そのドラゴン・スレイヤーの能力と言うのは、どんなものだ?」

 これは一番知りたかったことだ。他の部下たちのこともある。この女性たちがどんな力を持っているのかを知っておかなければならない、と彼は考えていた。

「ドラゴン・スレイヤーはダルシア人としての知識と力を持つ者です。ダルシア人の大きさはあなた方の宇宙戦闘用の戦闘機よりも大きく、そうですね、小さな駆逐艦ほどでしょうか」

「それが、ダルシア人の一人の大きさなのか。知的生物としてはかなり大型の部類のようだ」

「そうです。最盛期のダルシア人はその大きさでした。ダルシア人には二本の腕と二本の足、そして大きな尻尾と翼がありました。その皮膚は鉄よりも硬く、腕と言うよりは指で鉄の剣をへし折ることは簡単にできました」

「それはまた、強い。いや、強すぎないか。その力をこのお嬢さんたちが持っているというのか?」

「そうです。ですから、まずその力を極力抑制し、加減して使うことを覚えなければなりません。彼ら、いえ彼女たちはまだドラゴン・スレイヤーとして目覚めたばかりなので、その力をうまく使うことが難しいのです」

「で、腕力が強いだけなのか?」

「基本的にダルシア人は皆、特殊能力者です。だから、彼女たちはTPを使ったり、念力で物を動かしたり、瞬間移動をしたりすることが可能です。中には予知能力を持つ者もいます。それに熱を発したり、熱を奪って凍らせたり、また生物の細胞を変化させることもできます」

「それは魔法の呪文を使ってか?」

「いいえ、基本的に魔法の呪文は使いません。これらの能力は特殊能力であるとともに、ダルシア文明の知識を持っていなければうまく使えないものなのです。もちろん、中にはガンダルフに生まれて、魔法使いとなったことのある者もいるでしょうから、そうした者は魔法の呪文を使うことができます」

「ふうん。つまり、ダルシア人でガンダルフに人間として生まれた者もあるということか?」

「そうです。もちろん、他の惑星に生まれた者もいます。ですが、ここに居る五人の内二人はガンダルフに生まれたことがあるようです」

「あとは?」

「人間に生まれたことのない者もいますし、アルフ族に生まれた者もいます」

 フェリスグレイブはそう言われても、ジル星団やアルフ族の歴史に詳しくないのでよくわからなかった。ただ、充分戦力の増強にはなるとは思えた。

「まあ、細かいことはともかく、ここで他の連中とやっていれば慣れるだろう」

「ええ、それがいいと思います」

と、リュイは言った。

 ブレイス少佐はそんなリュイやドラゴン・スレイヤー達を見て、自分の話をするまでいかなかった。フェリスグレイブはここでの幹部の一人ではあるが、あの話を聞いたらどうするかはわからなかった。クルム司令官代理の正体のことである。銀河帝国の皇帝陛下に対して個人的な恨みはないだろうが、やはり躊躇わざるを得ない。

「どうかしたか?」

と、フェリスグレイブはブレイス少佐の方を向いて言った。

「いいえ、何でもありません。ここでは女性がいるのは珍しいことですけど、何とかなりそうですね」

と、辺り触りのない事を彼女は言った。

 リュイはブレイス少佐の悩みに気づいていたが、何も言わなかった。気づいた事を何でも話すのは、混乱させる元だと言うことを知っていたからだ。他の者達にも、目で合図をした。


 その頃、バルザス提督はジェグドラント元伯爵の宿舎へ呼ばれていた。

 元伯爵一家の宿舎はかなり広い区画で、寝室が五部屋、客間が二部屋、書斎や広い居間と応接室があり、他にキッチンや食堂も付いていた。ただし、元伯爵一家には料理を作れるような者はいないので、バルザス提督が特別に士官用の食堂に一家の食事を頼んでいた。だから、一日に三食、士官食堂から食事が運ばれていた。従って、ジェグドラント伯爵家の者達は買い物以外にはあまり不自由はしていなかった。だから、バルザス提督は呼ばれた時、その理由についてすぐに思いつかなかったものだ。

 応接室に通されて、元伯爵夫妻と対したバルザス提督は聞いた。

「何か問題がありましたか?」

「実は、私の実家のことが不安で……」

と、ジェグドラント元伯爵夫人は言った。

 アマンダン・オル・ジェグドラントは銀河帝国の貴族、ボルトレッド伯爵家の長女だった。今回のヘイダール要塞への脱出劇は、当然ボルトレッド伯爵家には関知しないことだった。すでにジェグドラント伯爵家が男爵家に降格されたときに、向こうから交際を断つことを通告してきていた。だからこそ、これまで実家の話はしなかったのだ。ただ、要塞で日々時を過ごしながら、少しずつ銀河帝国の現時点での様相が漏れてきたことで、実家の事がどうなったか不安になったのだった。

「ボルトレッド伯爵家のことですか。そうですね。誰か人をやって、見て来てもらいましょうか?」

と、迂闊だったと思いながらバルザス提督は言った。

 例え、交際を断ったとしてもよほどうまくやらなければ、帝国の貴族社会では家を守ることは難しいかもしれない、とバルザス提督は思った。

「え?でも、今帝都は非常に危険な場所になっていると聞きました」

「そうですが、まだ人の往来まで危険なわけではありません。ある程度の人物をやれば、大丈夫でしょう」

「そうしてもらえると、私も安心です」

と、アマンダンは嬉しそうに言った。


 バルザス提督はダールマン提督や要塞司令室の者達と話をして、ようやく帝都へ派遣する者を選んだ。例のドラゴン・スレイヤーの一人、リドス連邦王国艦隊の士官であるゼフィア・シノン中尉である。

「中尉、君に頼みがある」

と、バルザス提督は言った。

「命令ではないのでしょうか?」

「これは、非常に危険な任務なので、君にこれをやるかどうかの判断を任せたい。つまり、断ることが可能だということだ」

「わかりました。どんなことでしょうか?」

「銀河帝国の帝都ロギノスに行って、ボルトレッド伯爵家について調査してきてほしいのだ」

「帝都ロギノスですか?今あの『死の呪い』で混乱の極みに在ると言われている……」

「そうだ。だから、この任務は非常な危険を伴う。だが、ボルトレッド伯爵家は私の実家であるジェグドラント元伯爵の妻の実家にあたる。今回ジェグドラントの者たちが突然帝都から消えたことで、彼らに何か危険がないかどうかと調査してきてほしいのだ。これは私の個人的な頼みでもある。だから、受けるかどうか君の判断に任せたい」

「少々、お聞きしたいことが有ります。これは、魔法使いが行っては危険だからと言うことでもあるのでしょうか?」

「それもある。だが、すでに、『死の呪い』の封印が解かれている現在、魔法使いだけが特に危険だと言う訳ではない。ただ、あまり魔法を使うことは好ましくない、と言うことは同じだ」

「そうですか……。わかりました。私でよければ行きます」

と、ゼフィア・シノン中尉は言った。


403.

 その時、二人の前に突然現れた者がいた。

 司令室の中で、眩しい光が爆発した。その光が無くなった後にアルネ・ユウキが立っていた。

「ちょっと、待った!」

と、アルネ・ユウキは慌ててやって来たように言った。

「アルネ・ユウキ少佐、どうしたんだ?」

 一体どこで話を聞きつけて来たんだ、とバルザス提督は言いたそうだった。彼に取って今一番行って欲しくないのがアルネ・ユウキ少佐だった。しかしあまり強く反対すると余計に自分の意見を通そうとすると思われたので、黙っていた。

「私も行かせてちょうだい!」

「彼女一人では危険すぎるわ。例え、ドラゴン・スレイヤーであってもね。帝都ロギノスでは何があるかわからないわ。だから、ドラゴン・スレイヤー二人にして欲しいの」

「だが、それでは帝国について右も左もわからない者が二人も行くことになる。それでは決して安全にはならないが……」

「それよ!だから、私も案内人を探したの」

「案内人?そんな人がいるのか?」

「ええ。ほら、兄さんも知っているナルディア・バルザスよ」

「ちょっと待て!ナルディアはやっと向こうに帰ったばかりではないか」

「そうらしいわね。でも、彼女も帝都に用事があると言っていたわ」

「アルネ、いやエリン、君は向こうへ行って来たのか?」

 そうでなければ、バルザス提督の亡き妻であるナルディアに会うことはできないだろうことはわかっていた。それにしても、どこで帝国にゼフィア・シノン中尉を派遣する話を聞きつけて、ナルディアをどうやって探したのだろうか、とバルザス提督は思った。

「原則的に、今帝都に近付くことが危険なのは、帝都に恐怖心を感じる者でしょう。だから、私やこのゼフィア・シノン中尉なら、そうした帝国に恐怖をいだかないから大丈夫なはず。それにナルディアだって、彼女は帝都に用事があるのよ」

「それはわかっている。だが、……」

 ナルディア・バルザスはすでに死んでいるのだが、バルザス提督との間に生まれた娘が死んだ後、魂の行方がわからないと生きている夫を要塞まで探しにきたのである。ただ、これまで忙しさにかまけて、帝国まで捜索人を派遣するところまで行かなかったのは事実だった。

「少なくとも案内人が居れば、かなりリスクが減るわ。彼女は生きてる人間ではないし、かなり光の量があるから、大丈夫だと思う」

 そうだろうか、とバルザス提督は思った。生きている人間よりも、返って危険なのではないだろうか。

「まさか、君が彼女を連れて来るなんて、考えてもみなかった」

「あら、私の考えていることが分からなかったとでもいうの?」

 バルザス提督はアルネ・ユウキを見て、確かにうっかりしていたと思った。どうも近頃うっかりし過ぎているようだ、と改めて気を引き締めることにした。

「で、どうやって行くつもりだ?」

「あら、プロキシオン号がいるのでしょう。要塞の転送装置を使って、行けばいいのよ。もうそろそろ、要塞の工事も終わるでしょうし……」

「なるほど、それなら、要塞の工事が終わってからと言うことになるわけだ」

 それなら大丈夫かもしれないと、バルザス提督は思った。考えてみれば、ドラゴン・スレイヤーである二人を派遣するのはいい考えかもしれない。帝国ではリドス連邦王国についての悪い噂を振りまいているゼノン帝国の連中の影響をかなり受けており、このままでは大使の安全も不安になってきつつあるのだ。それはこちらの予定通りだとしても、大使の安全をもっと考える必要がある。

「いいだろう。ヘイダール要塞の工事が終われば、転送装置も使える。それで、帝都ロギノスにいけるだろうからな……」

 それを聞いて、ダールマン提督は不安そうな表情を一瞬だけ見せた。

 バルザス提督はダールマン提督の不安を同じく感じていた。『死の呪い』というのは、まだ全貌がわかっているわけではない。それに、案内人がいるとは言え帝国の事情に不慣れな二人が上手くやって行けるだろうかと思っているのだ。

「本当にあの二人を帝都に派遣するのですか?」

と、ディポック提督が珍しく聞いた。

 いつもならこれはリドス連邦王国のことだと、あまり関心をみせないのだが、彼も何かを感じているようだった。

「どちらにせよ、エリンがこうすると思ったら、誰の話も聞かない。昔からそうだった。自分のやりたいようにやらせるしかない」

「それは随分、甘いのではないか?」

と、クルム司令官代理も珍しく言った。

「もっとも、大抵のことなら自分で何とかできるからだが……」

「例の『呪い』の影響は大丈夫なのだろうか?」

「さあ、本来はダルシア人なのだから、あまり影響はないと思うが、エリンはアルフ族の魔法も知っている。つまり使うことが可能だということだ。その場合、どんなことが起きるかはわからない」

「危険が大きくなるということか?」

「少なくとも、いい影響はないだろうが、何とかするだろう。こちらも、工事が終われば、色々とやることがある。そんなに関わってはいられないのだ」

 だが、突然のエリン――アルネ・ユウキの申し出にガンダルフの魔法使いの二人は唐突感だけではなく、何か別のモノを感じていた。一体何で、帝都に行くと言い出したのか。危険もあるが、エリンが行くと言うことは、調査が上手く行けば分かることも多くなるかもしれない利点はある。

 帝都のことについてはわからない部分があまりにも多い。特に『死の呪い』を誰が復活させたのか。ライアガルプスがダルシア人の姿で、肉体ではなく精神だけで帝都へ行った時には、皆目わからなかったのだ。ただ大きな髑髏状の印が宮殿の上空を覆っているのを見ただけである。それが今では、惑星全体を覆っているとあのナンヴァルの魔法使いは言っていた。

 考えてみれば、ナンヴァル連邦やほかのジル星団の大使たちはどうなっただろうか。無事でいるだろうかと心配することもある。あのナンヴァルの魔法使いが帝都にいる魔法使い達に『死の呪い』についての廻状を回したのなら、中には対処できたものもいるだろう。それをバルザ提督やダールマン提督はヘイダール要塞からでは祈るしかないのだ。それではあまりにも無責任ではないのか。


 ヘイダール伯爵はジェルス・ホプスキン刑事に会いに来ていた。

「何か私にご用でも?」

と、彼は聞いた。

 ジェルス・ホプスキンが任された事件の捜査に協力してくれているのだが、このヘイダール伯爵はいつもどこにいるかわからない人物なのだ。何でも遠くの銀河のアンダインとか言う種族の出だと聞いた事がある。

「事件の捜査で忙しいだろうが、ちょっと頼みがあるのだ」

「どんなことです?」

「実は、私の知り合いが、ちょっと帝都へ行くことになったのだが、君に同行してもらいたいのだ」

「私が、ですか?」

 帝都というと、銀河帝国の帝都ロギノスだろうと彼は思ったが、なぜそこへ行く伯爵の知り合いに同行する必要があるのかわからない。

「帝都ロギノスでは今、『死の呪い』に覆われて混乱している。混乱程度はどうにでもなるが、人を探すということはそう簡単にはいくまいと思うのだ」

「人を探す?誰を探しているのです?」

「大公妃殿下だ」

「大公妃殿下?というと、皇帝のあの失踪した姉君のことですか?」

「そうだ。実は私の知り合いは、大公妃殿下とはかなり縁の有るモノなので、今回リドス連邦王国の士官がボルトレッド伯爵を調査しに行くというので、それに便乗して一緒に行くことになったのだ」

「大公妃殿下というと、確か数年前に行方不明になったと帝国で大騒ぎになった方ですね」

「そのようだ。帝国では大公妃殿下の行方を捜したようだが、皆目わからなかったと聞いている。それがいつの間にか、ダールマン提督の所為にされてしまったようだが……」

「とすると、この話はダールマン提督からなのですか?」

 それは十分ありうる話だった。彼がヘイダール要塞で聞いた噂では、ダールマン提督は皇帝暗殺未遂だけではなく、大公妃殿下の行方不明事件にも関わっているという疑惑が取りざたされていたというのだ。だから、余計に皇帝陛下の怒りを買ったのだと聞いている。

「いや、違う。別の人物だ」

「その人物が誰か、教えてくれませんか?それでなければ、私も困ります」

「そうだな。それも当然かもしれんな。それは、アルネ・ユウキ少佐からの頼みなのだ」

「アルネ・ユウキ少佐?」

 ジェルス・ホプスキン刑事には初めて聞く名だった。

「あの死体のない殺人事件の方は、私が捜査を進めて居よう。何しろ、あの暗黒星雲の種族が霧状の儘では尋問も出来んだろう。お前さんが戻ってくるまでには、そちらを何とかしておこう」

「それは、そうしていただけるなら、私も助かりますが……」

 死体のない殺人事件は暗黒星雲の種族であるリード・マンドの尋問が鍵だとジェルス・ホプスキン刑事は考えていた。ただ、本人が尋問できない状態なので、捜査の進展が難しくなっていた。ただ、このままではどちらも中途半端になりそうなのが、不安だった。

「その帝都の方はどうやって行くのですか?」

「それなら大丈夫。帝都ロギノスの衛星周回軌道上にこちらの味方の艦がいる。そこへ要塞から転送装置を使って行けばいいのだ。その艦から地上へ転送装置で降りればいい」

「転送装置ですか?」

と、聞きなれない言葉に反応してジェルス・ホプスキン刑事は言った。元新世紀共和国にはそんなものはなかったのだ。

「心配せんでもいい。一人ではないし、転送装置は簡単だ」

「それはそうでしょうが……」

 一抹の心配を捨てきれない彼は、ため息をついた。


404.

 ヘイダール要塞と『レギオンの城』の結合工事が終了した。

「で、どこがどう変わったのだ?」

と、クルム司令官代理が聞いた。

 工事が終了したと聞いても、特に工事の竣工や終了の儀式があったわけではない。工事そのものが一応密かに行われたので、そのようなことをやるのは良くないと言う判断なのだ。華々しいセレモニーのようなものは無駄のように見えるが、気持ちを切り替える点で有用だった。それがないとなると、何だか肩透かしを食らったような感じがする。

「まあ、今回は仕方がない。あまり騒ぐと要塞が変わったことがバレてしまうではないか」

と、ダールマン提督は集まった要塞司令室の連中に対して言った。

「仕方がない、ま今回はそうでしょうが。で、どう変わったのです?」

と、ダズ・アルグが聞いた。大っぴらに騒がないとしても、多少何かをやるべきだと彼は考えていたのだ。それでなければ、この要塞での日常はあまりにも退屈過ぎる。

「確かに、それを聞かないとこちらも困る」

と、ノルド・ギャビが言った。

「もちろん、これからそれをわかるようにする」

 ダールマン提督はまるで魔法使いが大きな魔法を使うように、両手を掲げて、

「ダルシアとアルフとリドスの名において、ここにその結晶を顕現する。その姿を現せ!」

と言うと、その手を振り下ろした。

 その瞬間司令室は新たな姿を現した。

「おお……」

 これまでの司令室とはかなり変化していた。大スクリーンの位置は変わらないが、これまで隠れるように階段の中ほどにあった階段室のような転送室が大きくせり出して来て、二台の大きな転送装置が設置してあるのが見えた。

「転送装置が二台ある。そんなにたくさん使うのですか?」

と、ディポックが言った。

「できれば、リドス連邦王国との行き来は船ではなく、転送装置でやりたいのだ」

「リドス連邦王国のどこに転送装置があるのですか?」

「リドスでは首都星ガンダルフに転送装置が設置してある。そことこの転送装置が繋がると言う訳だ。もちろん、他とも可能だ」

「しかし、そんなにリドスと行き来するのですか?」

「ヘイダール要塞は確かに自給自足できるようになっているが、それは食料や衣料など軍用品に特化している。民間人が必要とするものはなかなか手に入らない。だから、これが二台あれば、リドスの惑星の都市に行って買い物ができるようになるはずだ」

「リドス連邦王国では転送装置による移動が一般的なのですか?」

「そうだ。首都星や主な惑星においてはそれが一般的だ」

「ですが他国と直に繋がるというのは、安全保障上、如何なものでしょうか」

と、グリンが言った。

「ただ、あの転送装置ではあまり大人数を一度に送るわけには行かないだろうから、それほど心配はいらないのではないかな……」

 司令室の者達は顔を見合わせた。転送装置がリドス連邦王国と直に繋がることに不安を感じないと言えばうそになる。少なくとも、リドス連邦王国は敵ではないが信用できる味方と言えるのかは自信がない。これまで色々と協力し助力してくれたが、どうしても一抹の不安は残る。

 他に代わった点はというと、転送装置を動かす装置類は最上段の司令室の奥の方に移動していた。だから、転送装置が二台ある場所は他に装置はない。それに、司令室の方に、これまでなかった装置や計器がいくつかあった。それに、司令室の中央には大きな背もたれの有る椅子が一つ置かれていた。何だか司令室には似合わない、何に使われるのかわからない椅子だった。

「あの椅子は何ですか?」

と、ディポック提督が聞いた。

「あれはヘイダール要塞を移動させるためにある」

と、ダールマン提督が言った。

「要塞を移動させる?でも、要塞には移動用の推進装置はなかったのではありませんか?それに新しく作られたような形跡もなかったのでは?」

「移動するのに推進装置がいるとは限らない。あれは、要塞の動力に繋がっているわけではない。あの椅子に座ると、本人の思考回路と繋がり、要塞が移動できる状態になる」

「へえ。で、どうやって要塞を移動させるのです?」

と、ダズ・アルグが興味を持って聞いた。

 推進装置がないのに移動させると言うのは、どういうことなのか、そんなことができるのか、わからなかった。もっともこんな大きな要塞を移動させるのに推進装置を使うとなると、その装置の設置や使用するエネルギーなどが大変なことになる。

「簡単に言えば、重力を使って移動するということだ」

「重力?」

「宇宙空間には重力が作用している。宇宙そのものも重力があるから成り立っている。この銀河にしても中心にある大ブラックホールからの重力で渦を巻くように回転すると同時に、銀河としてのまとまりを作っている。その銀河もより大きなブラックホールを持つ銀河団に吸い寄せられて一つになっている。その重力を遮ることにより、移動を可能にするのだ。もちろん、重力だけでは移動範囲はあまり大きくない。だが、移動する先にジャンプ・ゲートが有れば、一瞬で別の場所へ移動できる」

「つまりよそからの重力を遮ったり使ったりして、移動に使うと言うことですか?」

「まあ、そんなところだ」

「そんなにうまく行くのですか?重力を制御することはわかりますが、一つの銀河の重力を制御するとなると、惑星下の重力を制御するのとはわけが違うと思いますが……」

「いずれわかるだろうが、そんなに難しいことではない。それに推進装置が要らないから、新しく要塞に装置を付け加える必要もない」

 外見が変わらないと言う利点もあるのだった。もちろん、司令室にはそれなりに制御装置が増えることになる。

「ですが、そのためのエネルギーは?一つの銀河の重力を制御するとなると、莫大なエネルギーが必要になるのではないですか?」

「確かに、これまでのヘイダール要塞の核融合炉ではエネルギーとしては不足する。それで、『レギオンの城』のエネルギーを使用している」

「『レギオンの城』はどんなものを使用しているのですか?」

「そうだな。一つではない。色々なものを使用している。ただし、核融合炉はない。一番大きなものは宇宙線を使ったものだ」

「宇宙線ですか、我々とは違うのですね」

「他にはエネルギー結晶石を使ったものもある」

「では、武器の方はどうなんです?それも『レギオンの城』のものを使えるのですか」

「もちろんだ。他に要塞にもともとある主砲も使えるエネルギーが増えたので、威力も倍増しているはずだ」

「しかし、威力を倍増したとしても、主砲の方が持たないのでは?」

「何を言っているのだ。すでに要塞の外壁や内壁などはすべてダルシアン鋼になっているだろう。要塞にある主砲の材質もダルシアン鋼になっているはずだ。だから、問題はないはずだ」

 以前、妙な宇宙船が要塞を襲撃してきた時に、タリア・トンブンがやったことだった。それを忘れていたのだ。

「それで、どのくらいの費用が掛かったのでしょうか」

と、ブレイス少佐が聞いた。

 費用の算出の仕方がよくわからないのは困ったことだと、彼女は考えていた。今回の工事では何か金属などの材料を使ったということでもないらしい。使ったものは主に、リドス連邦王国の魔法使いと工事人である。どちらもリドス連邦王国の艦隊に所属する軍人でもあった。

「費用は別に考えなくでもいい。つまり払う必要がないと言うことだ」

「なぜですか?」

「費用の算出の仕様がないからだ。それに、使ったものは主に魔法だ。魔力だ。それは金に換算できない。第一、タリア・トンブンが要塞の材質をダルシアン鋼に変えたときも、別に金を払ったわけではあるまい」

「それは、そうですが……」

 タリアのやったことをお金に換算することは可能かもしれないが、本人が要求しているわけではないので、これまで話題にもならなかったのだ。

「ま、借りが出来たと考えてくれてもいい」

「その借りが、大変なモノに成らなければいいのですがね……」

と、ダズ・アルグが言った。

 ほんの少し眉を挙げて、ダールマン提督は黙った。

 詳しくは語らなかったが、他にもヘイダール要塞を変えた部分があった。

「今回の工事は、エネルギーや武器、それに要塞の移動装置を加えたと言うことだろうか」

と、クルム司令官代理は聞いた。

「もちろん、他にもある」

「まだあるのですか?」

 最初にこの話があった時に、もっと詳しく話を詰めておく必要があったのではないかとクルム司令官代理は思った。こんなに大規模な変更がなされるとは、工事をしている最中にもわからなかったのだ。最初に話があった時は、このままでは要塞の防御に不足があるので、それを何とか向上させる必要があると言うことだった。だが、ふたを開けてみると、かなりの変更がなされていることが明らかだった。これはだまし討ちと言われても仕方がないだろう。

「これだけの変更がなされたのだから、要塞の頭脳に当たる中枢制御装置の方にも変更が加えられている」

「それは、ちょっとやり過ぎではありませんか?」

 例え、良いことであっても、あまりにも無断でやり過ぎたという感じがするのは当然だった。

「何を言うか。要塞を移動させるだけでもかなりの記憶容量がいるのだ。とてもこれまで使っていたモノでは足りない」

「とすると、それは『レギオンの城』の中枢制御装置と繋がったと言うことでもあるのですね」

「そうだ。それに記憶装置の増量はかなりのものになるので、銀河帝国の使っていたものではどうにもならない。それで、新たにそれは作った」

「どこにですか?」

「『レギオンの城』と言いたいところだが、記憶装置は重要なので、その置き場所はその性質上、できるだけ敵がアクセス不可能な場所を選んだ。簡単に言えば異次元空間にあると言うことだ」

「異次元ですって?どこですか」

「元々『レギオンの城』の記憶装置があったところだ。そこなら、簡単にアクセスはできない。そして、記憶された情報を消すこともできないだろう」

と、ダールマン提督は言った。

 元新世紀共和国の者達は、これはどうだろうかとダールマン提督にだけではなく、リドス連邦王国に対する不信感が出ざるを得ない。

 クルム司令官代理は、司令室の中の不穏な空気に不安を感じていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ