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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
87/153

ダルシア帝国の継承者

399.

 ゼノン帝国は竜族が初めて作った国である。しかもかのダルシア人から分かれた種族なのだ。およそジル星団の人間族のサイズで翼も尻尾も持たないゼノン人は、大きさが小山ほどあり翼と尻尾を持ったダルシア人とは見た目はかなり違うが、竜族として彼らに造られたという言い伝えを持つ種族だった。ゼノン人はそれを非常に誇りに思って居た。どちらかと言えば二本の腕と二足歩行の足を持つ人間族に似ていたが、竜であるダルシア人から分かれた種族だということは、その容貌から見て間違いようがなかった。

 しかし、他の種族からの評判は芳しくはない。彼らに取ってゼノン人は傲慢でずる賢く、信用できない種族だった。傲慢とかずる賢いなどと言うのは他の種族にもよく使われる悪口だが、信用できないというのは非常に問題があった。

 其理由はゼノン人が自慢とする力や軍事力で協定や約束を破り、他の種族を圧迫してジル星団での彼らの特権を認めさせたからだった。その上、ダルシア人を敬愛していた彼らはダルシア人が昔やっていたように、他の種族を食べることを当然の権利として行ったのだ。これは彼らを生み出したダルシア人にとっても、かなりの衝撃だった。すでにダルシア人は他の種族を食料とすることをやめていたからだ。少なくとも知性ある生物を殺して食べることは、ダルシア人にとっては悪と考えるようになっていたのである。

 まるで先祖がえりをしたようなゼノン人の動きに、ダルシア人は失望した。けれどもその想いはゼノン人にはまるで理解できないことだった。ふたご銀河で最強の種族であるダルシア人と同じことをすることは彼らにとっては聖なる重要な儀式でもあったのだ。

 ファーダ・アルホはジル星団の種族に通じてはいなかったが、多少の知識はあった。ゼノン人が他の種族にどう思われているかということもある程度聞き知っていたのだ。だから、ゼノン人が言ったバウワフルを殺す遺伝子を無効にすることができると言う話を信じたわけではない。面白いことを言うものだと彼女は思ったのだ。そしてそんなことなどおくびにも出さずに、話の続きを催促した。

「それは、どういうことなの?」

「そのままだ。私はその遺伝子を無効にする呪文を知っている」

 呪文だと?呪文などで遺伝子が無効になるというのか、とファーダ・アルホは思った。魔法を信じないと言う訳ではない。あのガンダルフの五大魔法使いにはどれだけ煮え湯を飲まされたか知れないのだ。だが、バウワフルがロル星団にやって来た時には、アルフ族はすでに滅びていた。彼らの使った魔法やその呪文などは時折岩場や古代遺跡の壁に得体のしれない文字が残っているだけだった。それを復活しようとする試みもあったが、いずれもうまく行かなかったのだ。

「それが本当なら、ここで使ってみればいい。そうすれば、それが本当かどうかわかるでしょうよ」

「ふん。そんなに簡単に使えるものではない。準備がいるのだ」

「そんなこと、本当かどうかわからないわね。ゼノン人にどんな噂があるか、知らないとでも思って?」

「我々はジル星団でダルシア人の次に優秀で強い種族なのだ。その我々ができないことなどない」

 ため息をついてファーダ・アルホは言った。

「第一、ここでそんなことを言ったとして、誰が聞いているかわからないのにいいのかしら?銀河帝国だって元新世紀共和国だって、この牢内に監視装置を置いてないと思うの?」

「監視装置?そんなものがあるのか?」

「やだ、まさか知らないの?」

 ゼノンのような宇宙文明を持った種族が、拘束した者を入れた牢に監視装置を設置しないと考えるなど有りえないとファーダ・アルホは思ったが、ゼノンの魔術師の態度は嘘でないなら、素晴らしい演技力だと言えた。

「何と卑怯な連中だ。牢内に監視装置を置くなど……」

「卑怯ですって?そんなこと当たり前でしょうに……」

「我々は、そのような些細なことにこだわらないのだ」

「些細なって……」

 もっとも、ゼノン人にとっては機械装置に代わって、牢内に逃亡不可能な呪文を掛けていたり、動きを察知するような呪文を掛けることは日常的にあり得た。ガイゼンダ・ギイルが平然としているのは、そうしたゼノンでは当然の魔法を掛けていないだろうと考えていたからだ。

 リドス連邦王国の連中が居たとしても、まだ付き合いの浅いロル星団の連中とはそれほど信頼関係を築いているとは思えない。だからここでガンダルフの五大魔法使いと言えど、この牢に魔法の呪文を掛けるようなことはしていまいと考えたのだ。

 ロル星団では魔法が使われていないと言うことはすでにジル星団では当然のこととされていた。ただ、本当に完全に魔法が無くなってしまったのかはわからなかった。なぜなら大昔にロル星団にはアルフ族という魔法をよくする種族が居たと言うことは、伝説として伝えられていたからだ。その種族が滅んだとき、魔法文明も滅んだというのが一般人だけではなく、考古学者たちの定説であった。

 ファーダ・アルホは相手がロル星団の科学技術についてあまり知らないことを知って失望もしたが、それを逆手に取ることもできることを知って、心の中で笑みを浮かべていた。

「あんたたちはここの連中のことをあまりよく知らないようね。だとすると、この牢を破ることも難しいのではなくて?」

「ふん。そんなこと簡単なことだ。ただし、ここの連中の中に魔法使いがいるから、その連中に俺の魔法を使えなくされている。だから、今は無理だ」

「何だ。結局そうなの。使えない魔術師ね」

と言いながら、ファーダ・アルホは目で上の方と斜め横の方を示した。そこに牢内を監視する装置が設置してあるのだ。

 ガイゼンダ・ギイルは先ほどの会話とファーダ・アルホの目の位置でそれと察したようだった。


 ディポック提督は戻って来たブレイス少佐を自分の部屋に招いて、一緒にお茶を飲みながら詳しく話を聞くことにした。しばらく離れていたので、向こうでの積もる話もあるだろうと思ったのだ。もちろん彼自身も故郷の情報を知りたいと思って居たのだ。それを司令室で話をすることは、個人的にまずいと感じて自室でブレイス少佐の話を聞くことにした。

 そこにはもちろん、他にクルム司令官代理もノルド・ギャビもいた。クルム司令官代理は備え付けのキッチンで結構上手にお茶を入れていた。彼がお茶を入れるのは毎度のことなので、つい先日聞いた彼の告白があっても、それほど違和感がなかった。もっともノルド・ギャビは心の中で大丈夫かと心配もしていた。

 リーリアン・ブレイス少佐はやっと自分の場所に戻って来てホッと安堵のため息をついた。別に惑星ゼンダでのことが嫌だったわけではない。だが、何となく総督に後ろめたい気持ちを持たざるを得なかったのだ。何しろ自分はあのディポック提督の部下として惑星ゼンダから脱出した側なのだ。だから、銀河帝国の敵とは言わなくても、それに近い存在だと思って居た。だから、その総督と親しくなるのは自分にとって正しいことなのだろうか、と思ったのだ。自分にとっても相手にとってもこの関係は良くないと感じていた。

「そう言えば、得体の知れぬ宇宙人とやらはどうなったんだい?」

と、ディポック提督が聞いた。

 惑星ゼンダから脱出してきたとはいえ、元は新世紀共和国の者達だった。彼らのことを心配していたのだ。

「それが、私にもよくわからないんです。どうやら彼らの艦隊をアルフ族の武器で撃退したという事までは覚えているのですが、惑星ゼンダの宇宙港にあった彼らの艦があれからどうなったのか。私は覚えていないんです。ただ、粉々に破壊された残骸は残っていましたけれど……」

 残念ながら、ブレイス少佐にはその時の記憶がなかった。だから、後で総督やフォルガ・ドル少将に聞いた事しかわからないのだ。

「どうやったんだろう」

「それが……。一緒に居た総督やフォルガ・ドル少将は、竜巻がそれこそ数えられない程起きたと言っていました。だいたい惑星ゼンダで竜巻なんて、季節的にも起きるはずがないし、数えられない程なんて、私には信じられないのですが……」

「宇宙港にあったその得体の知れない宇宙人の船は竜巻で破壊されたんだね」

「そう聞きました。でも、竜巻で船が破壊されることがあるのでしょうか?」

 宇宙船と言うのは結構頑丈に出来ているものだ。だから、そう簡単に破壊できるとは思えないのだ。それが宇宙港には元は宇宙船だったであろうものの残骸が散乱しているだけだった。それほどに破壊が凄まじかったのだ。

「そうだな。竜巻が一つや二つなら、大丈夫かもしれない。けれどもいくつも襲ってきてそれぞれの影響を受けたなら、実際そこで何が起きるかわからないと思うよ」

「私、自分がそんな恐ろしいことが出来るなんて考えたこともありませんでした」

「まあ、あのダールマンじゃない、ガンダルフの魔法使いレギオン殿の言うことには、君はかつて、どのくらい古くかはわからないけれど、アルフ族という連中の国では『風の王』と呼ばれる白魔法使いだったそうだ。『風の王』なんて実に強そうな名前だね。きっと、風を操ることに非常に秀でた白魔法使いだったのだろう。アルフ族と言うのは気象関係の荒事も呪文で操ることが出来たそうだから」

 気象関係の魔法と言うのはガンダルフの魔法使いにとっては、扱いにくい領域だった。まず、余程の力の強い魔法使いがやらねば動かないものだった。それに、悪しき動機で使おうものならその反動も凄まじかった。白魔法使い本人に戻って来るならともかく、魔法で起こした気象の影響を受けた全域に起こるのだ。

「魔法と言うのは案外使い方が難しいものなんだね」

と、ディポック提督は他人事のように感想を述べた。

 彼はまだ、自分が何者なのか思い出してはいない。もし、思い出したらどうなるのだろうか、とついクルム司令官代理は思ってしまった。彼はガンダルフの魔法使い達から、ディポック提督が何者であるかを聞いていたのだ。それによると、ディポックはかつてアルフ族がこのふたご銀河へ移住してきた時の、指導者だったと言うのだ。その指導者はアルフ族随一の白魔法の遣い手で、気象を操ることなど簡単にできたと言う。だが、その魔法を一度たりとも間違ったことに使ったことはないと言うのだった。

 これは重要なことだった。アルフ族であってもその魔法を間違ったことに使ったら、白魔法使いではなく闇の魔法使いに落ちるというのが彼らの主張だった。闇の魔法使い、ジル星団では魔術師や魔導士の事を指すが、その元はアルフ族の闇の魔法使いにあるのだった。

 ただし、ディポック提督がアルフ族随一の白魔法使いであったのは数百万年も昔のことで、その後何度か生まれ変わったが、白魔法の遣い手になることはなかったという。だが、その力は必要な時に今でも使えると、ガンダルフの五大魔法使い達は言うのだ。

 普通は死んで再び生き返っても、それ以前の人生の記憶は思い出せないことになっている。記憶が無くなったのではなく、思い出せないようになっているのだ。そうしないと再び前と同じような人生を歩みがちだからだ。何も覚えていなければ、新しく人生を出発できる。それがこの宇宙のルールなのだ。これはかつてガンダルフにいた最初のガンダルフの去って行った人々やダルシア人がたどり着いた答えだった。

 ガンダルフの五大魔法使いは魔法の呪文によってそのルールを破っているように見える。だが、それは正確ではない。彼らが過去世の記憶を思い出すには一度は死ななければならないのだ。死んだ後にすぐに過去世を思い出すようにあらかじめ魔法を掛けているのである。そして、そのことを思い出し、特別な蘇りの呪文で生き返るのである。生き返った時には、過去世のすべての記憶を保持したままと言うことになる。

 それはガンダルフの五大魔法使いがある使命を帯びて生まれてくるからだった。それはその時の事情による。今回は『死の呪い』の復活と他銀河からの侵攻が予見されたからである。何とかそれを最小限の犠牲で止めるためだった。

 もちろん、魔法でなくても過去世の記憶が戻る者もいる。それはそのような使命を帯びて生まれてくる者がいると言うことでもある。また、ある一定の心の段階を踏んで、過去世を思い出すことができるという方法もある。そのことについては、ガンダルフの五大魔法使いやダルシア人は様々な他銀河を訪問することでそうした方法があると知ったのだった。


「そう言えば、リドス連邦王国の方であのかつての『死の呪い』の結果起きたこのふたご銀河の大災厄について当時の調査をしているという話をダールマン提督が言っていたが、そろそろ戻って来てもいい頃ではないのか?」

と、クルム司令官代理は言った。

「そう言えば、そんなことを言っていた…。どうしたのかな、あれから何も聞いていないが……」

「遅れているのではないでしょうか?」

と、ブレイス少佐が言った。彼女はまだクルム司令官代理の正体を知らなかった。

「心配なら、直接ダールマン提督を呼んで話を聞いたらどうだ?司令室で話すのはどうかと思うので……」

と、ノルド・ギャビが言った。

 彼もそのことを不安に思って居たのだ。だいたいたかが『呪い』如きで宇宙的災厄が起きるなどと言うことが信じられるだろうか。もし起きたとしても、偶然同時期に起きたと言うことではないだろうかと考えていた。

 そこへ壁面についている内線用のスクリーンが点いた。

「ディポック提督、話がある」

と、ダールマン提督が言った。

「いいですよ。私の部屋でいいのなら」

「その方がいいと思う」

 スクリーンが暗くなると、その前にダールマン提督の姿があった。余程急ぎの用事のようで、魔法でやって来たのだった。

「ダ、ダールマン提督。いくら何でも早すぎるのでは……」

と、ノルド・ギャビが言った。せめて扉から部屋に入ってきて欲しいのだ。

「別に構わないだろう。急いでいるのだし、あまり他の連中に知られたくない」

「それで、何の話ですか?」

「『死の呪い』について調査に送った連中が戻って来た。彼らの状態がかなり危なかったのですぐにこちらに知らせることはできなかったのだ……」

と、ダールマン提督――ガンダルフの五大魔法使いの一人、『大賢者』レギオンは言った。


400.

 テーブルに置いてあるお茶を一口飲んで、ダールマン提督――レギオンは話し始めた。

「調査団が戻って来たのは、昨日だったそうだ。彼らの状態はかなり悪い。乗っていたタイムマシンの胴体に亀裂が入り、エネルギーも消耗が激しく、乗員はかなり疲弊しているだけではなく負傷もかなりひどかったのだ」

「何があったかわかりましたか?」

「だいたいわかった。やはり、『死の呪い』が起こした災厄は、宇宙的な災厄となったのは事実だった。元はロル星団の一惑星で起きたことだが、それが引き金になって、ふたご銀河内の安定した秩序が破壊されたのだ」

 『死の呪い』と言うのはアルフ族の闇の魔法使いが生み出した呪いだった。最初は単に一人の人間の復讐を遂げるために造られたのだが、それを使うと周囲の者達に呪いが伝播し、悪想念が社会全域に広がり始める。ついには一惑星が悪想念で満たされ、内部紛争で惑星文明が滅びるのだ。もちろんそれだけでは済まない。

 文明の滅びた惑星は暗く沈み、恒星の光を受けてもその熱やエネルギーが入らなくなる。文明が滅びるとそこに住んでいた者達も滅びて行く。そして、黒い光を吸い込むだけの惑星になる。まるで小さなブラック・ホールのようにも思える惑星だ。本物のブラック・ホールであったなら大変なことになるが、単に恒星の光を吸収するだけなので周囲の惑星や恒星に対する影響はそれほどではない。ただ、一瞬、恒星が爆発的なエネルギーを発することがあった。黒い惑星を再び蘇らせるために強いエネルギーを出すのだ。その恒星の爆発は超新星爆発のような大きなものではなかったが、かなりの被害を惑星に与える。惑星の表面そのものが焼け焦げてしまうのだ。だが、それが終わると、不思議に惑星に光が戻り、時間を掛けて以前と同じような普通の惑星に戻るのだ。恒星もいつも通りの光を投げかけるようになる。

 これが『死の呪い』で滅んだ惑星に起きたことである。ロル星団ではいくつかの惑星を持った恒星があり、それぞれにアルフ族が暮らしていた。その多くが、同じような目に会っている。

 リドス連邦王国の調査団が巻き込まれたのは、その小規模な恒星爆発だった。突然起きたので避けようがなかったのだと言う。

「調査の結果がはっきりするのはもう少し時間が掛かるだろう。しかし、だいたいのことは分かったと思う」

と、ダールマン提督が言った。

「それで、『死の呪い』が発動し、その結果惑星の文明が滅びるまでにどのくらいかかるのだろうか?」

と、クルム司令官代理が聞いた。

「おそらく、数カ月か数年だろう」

「それではあまりにも幅が有り過ぎる。今、帝都ロギノスではどのくらい、『死の呪い』の影響が蔓延しているのだ?」

「プロキシオン号からの通信では、帝都の状況はよくない。新王朝が設立されてからはしばらく帝国の社会が落ち着いて来ていたのだが、ここにきて悪化する傾向があると言うことだ。ただこれは、帝都ロギノスのみの状況であり、他の惑星ではまだ大丈夫なようだ」

「あの、惑星ゼンダの混乱はどうなのでしょうか?」

 ブレイス少佐はやはり惑星ゼンダの事が気になるのだった。

「ゼンダの方か?あれはまだ『死の呪い』による影響は受けてはいない。単に、元新世紀共和国の不満分子が騒いでいるだけだ。それも、今回少佐の活躍で総督がかなり落ち着いたので状況は良くなったと言える」

「活躍だなんて、飛んでもありません。何もできなくて……」

「だが、おかげで少佐の父親の霊が落ち着いたようだ。まだ総督に憑いたままであるのは致し方ない。総督が霊に煽られるのを止められただけで、今は良しとしよう」

「でも、それでいいのでしょうか。それに、帝国とゼンダでは航路も開かれています。帝国からその影響が来ると言うのはありませんか?」

「もちろん、有るだろう。いつになるかわからないが。だが少なくとも、帝国の一般人なら荒れていたとしてもゼンダでそれほど影響を与えることはない。警戒すべきは『死の呪い』を発動した連中が来ることだ」

「それが誰か、分かっているのでしょうか?」

「いや、まだだ。それを今鋭意調査中だ」

「しかし、すでに皇帝はその『死の呪い』に影響下にあるはずだ」

と、クルム司令官代理が言った。

 かつての自分を顧みて、そう思うのが妥当だろうと彼は思った。思い出しても恥ずかしいことを数々したのだ。普通ならとてもやらないようなことを、何を血迷ったか当たり前だと思ってしまったのだ。その結果が、一つにはダールマン提督対する大逆人認定、大公妃失踪事件の犯人をダールマン提督だと認定、そしてジェグドラント伯爵への反逆認定だ。どちらも皇帝自身の意志が強く働いている。政府の高官や他の誰かがそれを使嗾したのではないのだ。

「まさか、どうしてそんなことを?銀河帝国の皇帝陛下がすでに『死の呪い』に掛かっているというのですか?どうして、司令官代理にわかるのですか?」

と、驚いてブレイス少佐は言った。まだ彼女はクルム司令官代理が誰であるか知らないのである。

「それについては、予定通りだとしか言えない。我々はヘイダール要塞の強化をして、帝国軍を迎える準備をするしかない」

「やはり、来るのか。その時に、何が起きるのだ?」

「まだ、はっきりとはわからない。かつての時もそうだった。アルフ族が滅んだ時、その最後に大きな宇宙的災害が起きたのだ。今回それを調査したかったのだが、その前に調査船がやられてしまったのだ」

「ダルシア人が何か記録を残してはいないのか?」

「連中は、記録は残しているが大したことはない。何故なら、アルフ族が滅んだ時に起きたその災害は人間族の住む惑星では非常に大きな災厄をもたらしたが、ダルシア人の本国ではそれほどの災厄は起きなかったのだ」

「つまり、ダルシア人の本国は防御シールドか何かで守られていたと言うことか?」

「そうだ。もちろん、ジル星団の人間族の星にも宇宙文明に達した連中はいたが、ダルシア人程の科学文明には達していなかった。それでその時動いたのが、我々魔法使いだったと言う訳だ」

 当時、その災害を防ぐために魔法使い達の多くが命を落としたのだ。だからこそ、今回そのようなことにならぬようにできるだけ準備をしているのだ。それでなくても、昔よりも白魔法使いの数は驚くほど減っている。魔術師などはゼノン帝国やナンヴァル連邦では多少増えているようだが、彼等ではこの災厄を防ぐ力とはならない。まして魔導士や闇の魔法使いなどを名乗る連中ではとても役に立たないだろう、とダールマン提督――レギオンは考えていた。

 原則として、『死の呪い』が発動するのを防ぐことが重要だった。それが失敗したとなると、次は呪いの発動原因を特定し、再び封印することだ。だが、ジェグドラント伯爵家が廃され、帝国から逃亡を余儀なくされた今回に置いてはそれはなかなか難しかった。もちろん全てが終わった後に『死の呪い』封印をすることが可能になるが、それでは遅すぎるのだ。多くの犠牲者が出た後では、何にもならない。

 残るのは、『死の呪い』が発動し、それが原因で起きることをできるだけ防ぐことだった。すでに、『死の呪い』による混乱が始まっていたとしても、それをできるだけ緩和し、災厄のエネルギーを別の方向へ流してやることができれば、最小限のダメージで済む可能性がある。それに掛けるしかないと、ガンダルフの魔法使いやリドス連邦王国、それにダルシア人達は考えていた。

 そこで、銀河帝国の現皇帝陛下のヘイダール要塞への親征がなされれば、ダメージを最小限にする秘策がガンダルフの五大魔法使いとリドス連邦王国にはあるのだった。

「それなら今回も魔法使いたちが中心になるのではないか?」

と、クルム司令官代理が言った。

 ロル星団やジル星団の多くの国が宇宙文明に到達していたとしても、その時代のダルシア帝国の科学技術まで達していないということは彼にもわかったのだ。だとすると、今回の災厄を自分たちの科学技術で防ぐのは困難だと考えられる。

「それは難しい」

「どうしてです?」

と、ディポック提督が聞いた。

「かつて魔法使いはジル星団の文明の担い手でもあったのだ。だから数が多かった。今は、魔法と言うものが無くなってはいないが、文明の片隅に追いやられてしまっている。これではとてもあの災厄は防ぎきれない。あの時もギリギリのところで何とか文明を残すことが出来たのだ。今はとてもそのような力は我々にはない」

「リドス連邦王国の王族たちがいてもだろうか?」

「確かに、彼らが居れば魔法使いの足りない人数の代わりにはなる。だが、それも災厄のすべてを防ぐことが出来るかはわからない」

「では、どうすればいいのだ?」

「我々に加わることができる魔法使いを増やすこと。そして、何としても銀河帝国の皇帝陛下のヘイダール要塞への親征を可能にすること」

「それで、大丈夫なのか?」

と、ノルド・ギャビが言った。

「他に方法がない」

「で、それに向かってリドス連邦王国は動いていると言うことか?」

「少なくとも、銀河帝国の政府や皇帝はリドス連邦王国に対して好意はもっていない。現在彼らが友好を深めようとしているのはゼノン帝国やナンヴァル連邦だ。特にゼノン帝国については、政治制度など銀河帝国と似ているのではないかと考えているらしい」

 実際にどれだけ似ているか、それにゼノン帝国の方がどう思って居るかはまだ銀河帝国にとってはわからない部分があるのだった。それでも友好を深めようとしているのは、ゼノン帝国が新しい宇宙航法であるジャンプ・ゲートを利用する方法を提供すると言って来ているからだった。

「だが、どうしてリドス連邦王国に好意をもっていないのだ?」

「それはもちろん、私、つまりダールマン提督とその部下がリドス連邦王国の艦隊に属しているからだ。帝国の大逆人がいるとすれば、警戒するのは当然だ。それに、ゼノン帝国もそれを煽っている。連中は自分たちの側に銀河帝国を付けたいのだろう」

「しかし、ナンヴァル連邦はどうなのだ?」

「ナンヴァルはクーデターでトップが変わった。新しい大調整官は親ゼノン派の人物だった。これから今までとは違って、ナンヴァル連邦はゼノン帝国と同盟を結ぶ可能性がある」

と、ダールマン提督――レギオンは言った。

 もしゼノン帝国とナンヴァル連邦が同盟を結んだら、一時的とはいえ、ジル星団ではかなり強力な政治軍事勢力となるのだ。


401.

 ナンヴァル連邦とゼノン帝国はこれまで非常に仲が悪かった。ゼノン帝国は最初の竜族の国であるという自負があった。一方のナンヴァル連邦は同じ竜族の国で、あのダルシア人から分かれた種族であることは同じだったが、政治制度が異なっていた。

 もっともゼノン帝国もナンヴァル連邦もダルシア帝国とは政治制度は異なっている。同じ言い方をしても、ダルシア帝国とゼノン帝国では違うのだった。それをゼノン人は知らない。言葉が同じなので、あまり変わらないと思って居るのだ。それを考えると同じ帝国と名の付く、銀河帝国の方がゼノン帝国に近い政治制度を持っていた。

 なぜなら、ダルシア帝国には確かに皇帝と名の付く独裁者がいたが、それは世襲制ではなかった。ダルシアには家族と言うものがないので、世襲制と言う考えそのものがない。ダルシア人は全て個人として、独立しており『、何々家』というような慣習もなかった。だから、姓もない。名前だけで個人を判別している。だから貴族もいなかった。その時々、力のある個人が名を成すことはあったが、その個人がその功で家を建てると言う考えはなかったのだ。功績は全てその個人のものであって、それをその子が継ぐと言うことはない。何しろ子供と言っても卵が孵るもので、その卵は個人のものではなく社会全体の物という意味合いが強かった。

 所変わってゼノン帝国では皇帝という世襲制の統治者がいた。その周囲には貴族と言う名の家臣団がいる。そのすべてが世襲制になっているのだった。これはダルシア人がジル星団の他の種族を見て、家族と言うものが社会の重要な要素になっている所から考えたものだった。

 一方のナンヴァル連邦は、ダルシア人が理想とした国の政治制度に近いモノに成っていた。それにはダルシア人がそうなるようにナンヴァル人を仕向けたからである。世襲制や家族と言うものも取り入れたが、それがあまりにも社会を支配しないように、貴族などと言う特権を持ったものを作らないように指導したのである。結果、ナンヴァル連邦は四つの区別された仕事を為す者達の集団、階級を作った。最初その階級相互には上下はなく、同じく扱われていた。だが、時代が下るにつれて、それぞれの階級は上下感を持つようになった。一番上は司祭階級、次が軍人階級、次が商人階級、そして一番下に来るのが労働者階級となった。そして、一般に下に来る階級程、ゼノン帝国を嫌っていた。

 現在のナンヴァル連邦の大調整官は労働者階級から出たものだと聞いている。本来ならゼノン帝国を嫌っている労働者階級の者であるのに、どうやら違うらしい。クラウ・トホス・トル大調整官はナンヴァル連邦をゼノン帝国のようにしたいと考えているようだ、とリドス連邦王国の大使が報告してきていた。

「ナンヴァル連邦は今、変わりつつある。国として衰えて来ているのだ。このままダルシア帝国のように滅びていくのか、それとももう一皮剥けて、新しくやり直すかを考えているようだ」

と、ダールマン提督――ガンダルフの五大魔法使いの一人、レギオンは言った。

「とすると、マグ・デレン・シャは今のナンヴァルの大調整官とは反対の側に立つと言うことか?」

と、ノルド・ギャビが聞いた。

「そうだ。ナンヴァルの今の支配者にとっては、旧勢力の代表と言うことになる」

「だが、ナンヴァルの国内事情と『死の呪い』には何か関係があるのか?」

と、クルム司令官代理は聞いた。

「今の所はない。ゼノン帝国もナンヴァル連邦も長い歴史があるが、どちらも今や限界に来ているのだ。今改革できなければ、どちらも衰退していくだろうと、我々、つまりダルシアとリドス連邦王国は考えている」

「あの、帝都ロギノスのことですが、現在は混乱しているとのことですが、リドス連邦王国の大使は無事なのでしょうか?」

と、ブレイス少佐は聞いた。

「今の所は無事だと聞いている。だが、この情勢下ではいつ何が起きるかわからないとも聞いている」

「プロキシオン号は最終的にはリドスの大使を救助して、戻って来ると言うことになるのでしょうか?」

「うまく行けばだ」

 クルム司令官代理は、まだ自分が帝都ロギノスにいた頃のことを思い出していた。

 あの頃は自分が『死の呪い』に掛かっているなど、思いもしなかった。だが、いつもとは違った行動をとったことがあることを思い出した。あまりはっきりとは記憶にないのだが、ダールマン提督が反逆したと言われる件――大逆事件について、最初はそのようなことは信じなかった。だが、時間が経つにつれて、頭の中でダールマン提督がやはりやったのだと考えるに至った事を思い出した。

「あの頃は、何か別の誰かが自分の頭の中にいるような気がした……」

と、クルム司令官代理が言った。

「頭の中に別の誰かが?」

「それが、おそらく『死の呪い』に掛かった者の症状だろう。何者かに事実ではないが、自分が疑っていることを本当だと囁かれたのだろう」

「そう、そうだった。事件は前後するが、ダールマン提督の事件の前に起きた姉上の、大公妃の失踪事件、それもダールマン提督がやったことだと、何者かわからないが頭の中で囁いたのだ」

「それを信じたのですか?」

と、ディポック提督が言った。

「そうだ。私には、それを信じてしまった。ジェグドラント伯爵の時もそうだ。最初は違うのではないかと思いながら、最後には頭の中のささやきを信じてしまったのだ」

「で、今はその頭の中の囁きはどうなんです?何て言っているのです?」

「いや、不思議なことに今はない。聞こえない。そう、あの時からだ。突然、自分が大きな力によって遠くへ飛ばされた時から、聞こえなくなった。もっとも、あの時はそれどころではなかったからだが……。だが、あの頃はしきりに、誰かを疑うように声がしたものだ」

「それが『死の呪い』に掛かった者の、典型例だろう。聞こえなくなったのは、確かにそれどころではなくなったからだ。自分の生命の現実の危機に対応するために、それに集中したためだろう」

 その時、首をかしげて話を聞いていたブレイス少佐が言った。

「ちょっと、待ってください。今、いえ、先ほど、クルム司令官代理は姉上、大公妃を姉上と呼びませんでしたか?」

「ああ、そうだ。大公妃は私の姉だ」

「ええっ、ではあなたは誰なんです。まさか……」

 あまりの驚愕に、ブレイス少佐はあんぐりと口を開けてしばらく声も出なかった。

「まさかの本当だ」

と、ダールマン提督――レギオンも肯定した。

「そんなばかな。だって、今だって銀河帝国の帝都には皇帝陛下がいるのはないですか?いなかったら、大騒ぎをして帝国艦隊が探しているはずです。そうでしょう?」

 そう言っておきながら、ブレイス少佐は皇帝陛下が失踪した場合、帝国軍がそんな大仰に騒ぐかどうかはわからなかった。皇帝の不在を秘して、捜索することもあるからだ。でも少なくともその兆候がどこかに現れるはずだと思った。

「まあ、だから今はその皇帝陛下が二人いることになるね」

「ディポック提督、あなたもご存じだったのですか?」

「最近知ったんだ」

「そう、私も最近ね」

と、ノルド・ギャビが言った。

「どうして、どうしてこんなところに。いえ、それだったら私、大変なことを言ってしまいました」

「何をだ?」

「ゼンダの総督のことです。あれではまるで総督が帝国軍を裏切っているように聞こえるように言ってしまいました」

「そんなことはない。私はリューゲル・ブブロフ総督を信じている」

「本当ですか?」

「奴には帝国や皇帝陛下を裏切る気はないだろう。ただ、娘としてブレイス少佐が気になっているだけだ」

「それも、父の霊の影響でです。総督の所為ではありません」

と、なぜか必死でブレイス少佐は言った。

「それはどうかな?ま、そんなに気にする必要はないと思うが……」

 それでも不安そうにブレイス少佐はクルム司令官代理を見た。

「で、でもあの、お顔が以前スクリーンで見たのと違うのですが……」

 ブレイス少佐は、以前に銀河帝国皇帝リーダルフ陛下の顔を何度か帝国側からの中継で見た覚えがあった。その顔とはだいぶ違うのだ。

「これは、魔法で偽装しているのだ」

「ブレイス少佐、このことを知っているのは、我々元新世紀共和国の者では、ここに居る私とノルド・ギャビの二人だけなんだ。他の連中にはまだ黙っていてほしい」

と、ディポック提督は言った。

 それでも不審そうにブレイス少佐はクルム司令官代理を見つめていた。



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