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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
83/153

ダルシア帝国の継承者

388.

 ヘイダール要塞に響き渡った警報は、これまで聞いたのとは異なっていた。要塞内の空気を振動させて音を作ったので、妙にくぐもっていてはっきりしない音だった。だが、それがかえって聞いた人に警戒心を起させた。

 ジュネシス・ギャビははっとして、霧状のリード・マンドを見た。だが、それはまだ人間型を取ってはいなかった。

「あの音は何かしら?」

と、イズルカ・ギャビが言った。

「何だか怖いわ!」

と、傍に一緒にいたアリュセアの娘たちが言った。

 その場所にいた人々も同じ思いを抱いたようだった。何となく不安そうにあたりを見回している。ジェルス・ホプスキン刑事は、習慣でそっと懐にある光線銃に手を忍び込ませた。

 その時だった、彼の目の前に見たことのない種族が忽然と現れた。それは、剣と光線銃を携えた竜族の兵士だった。

「こ、こいつらは何者だ?」

と、ジェルス・ホプスキン刑事が言うのと、相手が剣を取って奮うのが同時だった。

 素早く体を引いてイズルカ・ギャビを庇って動きながら、ジェルス・ホプスキンは光線銃を身構えていた。

「手を挙げろ!聞こえたか、理解したか?」

 相手が人間型種族でないので、言葉を理解したかどうかわからなかった。彼は言語フィールド発生装置の事は知らないのだ。

「人間、抵抗は止めろ!」

「言葉が分かるのか?」

「そいつはナンヴァル人だわ」

と、リュイ・ジーンが言った。

「ほう、人間の子供か。私が分かるのか?」

「ナンヴァル人はダルシアと友好関係にあって、正義を求める種族だったはず。それなのに、これは何なの?」

 すでに、リュイには母親のアリュセアから緊急のTP連絡を受けていた。上の二人の姉はまだそれを受ける能力がなかった。

「子供は黙っていろ!」

「いいえ、黙らないわ。人間しかいないヘイダール要塞を突然攻撃して、しかも侵入部隊を送り、罪のない人間を傷つけようなんて、ナンヴァルの歴史の中で最大の汚点だわ。ナンヴァルの指導者はこんな恥知らずなことはしたことがなかったはず」

「黙れ!ここには我がナンヴァルの反逆者、マグ・デレン・シャとタ・ドルーン・シャがいるはずだ。我々はお前たち人間に用があるのではない」

「同じことだわ。あなたが剣を向けているのは人間よ。しかも人間の中の子供に向けているの。恥を知りなさい!」

 リュイは激しく叫んだ。

「ええと、君はあのアリュセアの娘さんだったね。あまりこの危険な奴を煽るようなことは言わない方がいいと思うのだが……」

と、ジェルス・ホプスキン刑事はナンヴァル人に銃を向けながら諭すように言った。

「構わないわ。私は正しいことを言っているのだもの」

「正しいとしてもだ。君はまだ小さな女の子なんだ。だから、危険も考えなければならないだろう?」

「危険ですって?どこが危険なの。危険なのはナンヴァル人の方よ」

「その口を閉ざせ。言ってわからないなら、これからわからせてやる」

と言うと、ナンヴァル人は躊躇わずにリュイに向かって行き、剣を一閃した。ジェルス・ホプスキン刑事がそれを遮る暇もない速さだった。無残な光景が予想された。だが、倒れたのはナンヴァル人の方だった。

「な、何が起きた……」

 周囲の者達には、リュイがただ、手を前の方にやって、ナンヴァル人を押したように見えた。その小さな手をナンヴァル人の剣が襲ったのだが、まるで何かに遮られたように鈍い音がして剣が跳ね返ったのだ。そして、更に体を前に出してナンヴァル人を押した。そうしたら、ナンヴァル人の方が倒れてしまったのだ。

 ナンヴァル人は何が起きたかわからないという表情をしていた。こんな小さな人間の子供に手もなくやられると考えたこともないのだ。しかも相手は武器も持っていない。

「お前は、何者だ!」

「私はタレス人よ。あなたも知っている人間に過ぎないわ。でもね、昔は人間でも、あのダルシア人を倒すことができる者がいたのよ」

「あんな話は伝説だ」

「いいえ、伝説ではないわ。あなたも一応知っているのね。ドラゴン・スレイヤーの伝説を。あれは本当のことなのよ。人間には稀に、ドラゴンを倒すほどの能力を持つ者が現れるのよ。ま、今では倒すドラゴンもいなくなってしまったから、その伝説もほとんど忘れられてしまったけれど」

「その、ドラゴン・スレイヤーというのは何のことだね?」

と、ジェルス・ホプスキン刑事がナンヴァル人から目を離さずに聞いた。

「昔の伝説なの。『ドラゴンを倒す者』という意味なの」

「ドラゴンというと、あの童話とか伝説に出てくる怪物のことか?」

「そうよ。昔はジル星団に悪いドラゴンがいっぱいいたのよ。それを退治していたのが、ドラゴン・スレイヤー、『ドラゴンを倒す者』だわ」

「し、しかしドラゴン・スレイヤーは魔法使いの一派ではないのか?」

「魔法使い?そう言う者もいたかも知れないわね。でも、魔法使いである必要はないわ。特殊能力者の場合もあったのよ。だから、私もその一人なの」

「特殊能力者?つまり、君はTPか何かか?」

「そうよ。ちなみに、私の母であるアリュセアもその一人だわ。でも、今回はそれだけでは数が足りないわね」

「足りない?どうしてだい?」

「このナンヴァル人のような連中が、今たくさん侵入してきているからよ。ナンヴァル人、つまり竜族は人間よりも約二倍の腕力を持っているし、動きも早い。だから、この要塞の軍人だけではどうにもならないわ」

「どうすればいいんだ?」

「そうね。方法はあるわ。私のようなドラゴン・スレイヤーを目覚めさせること」

「ドラゴン・スレイヤーを目覚めさせる?どういうことだ?」

「この要塞にはドラゴン・スレイヤーに成れる者が他にもいるということ……」

 リュイ・ジーンはその過去世に置いて、ダルシア人だった。その能力は王族に次ぐ力を持っていたのだ。ダルシアでは宰相マルガルナスと言えば、その智謀と力を知らぬ者はなかった。それを彼女はすでに思い出していた。ドラゴン・スレイヤーというのは、人間として生まれたダルシア人が再びその生まれる前の記憶と能力を取り戻したことをも意味している。だからこそ、他のダルシア人を倒すことが可能だったのだ。ダルシア人はやはりダルシア人にしか倒せないのだ。

 ダルシア人の宰相マルガルナスは、人間に生まれたダルシア人をその過去世を思い出させる力を持っていた。いや、正確には力ではない。呪文を持っていたのだ。かつて、彼女がガンダルフの五大魔法使いの一人『大賢者』レギオンに頼んで一緒に作ったドラゴン・スレイヤーとして目覚めさせる呪文だ。これを持っているのは彼女だけだった。それを今回使うことにしたのだ。

 もちろん、ダルシア人は魔法使いではない。だが、魔法を使えないということではない。魔法と言うのは念力という霊的な能力の一つを使うことであり、ダルシア人は霊能力に置いては他の種族の追随を許さない程強力だった。従って念力を使うことなど、修行する必要はない。ただ、呪文を綴ることはさすがにまだできなかっただけである。

 ダルシア人には魔法使いというのは、とてもわかりにくいものだった。なぜなら、ダルシア人には呪文など必要なかったからである。呪文が無くても、まるで魔法使いのように様々なことができたのだ。それはあの暗黒星雲の種族と似たようなものだった。彼らに遭遇するのは、ダルシアの歴史に置いてはかなり後になってからだったが、ダルシア人は肉体を持っていると言うことが彼らと違うだけなのだ。

 問題はガンダルフの五大魔法使いの一人『大賢者』と呼ばれるレギオンはジル星団の様々な種族に生まれかわったことが有るのだが、ダルシア人にはついぞ生まれ変わることはなかったことだ。それは、ダルシア人の姿かたちや社会、そして心情などが、人間族とはあまりにもかけ離れていたからである。やはり肉体的に違いがあり過ぎると、不可能ではないのだが、生まれ変わりもなかなか難しいものらしかった。だから、呪文を綴る魔法使いが生まれなかったからダルシアに魔法の呪文がなかったのだ。そのため、マルガルナスが呪文を綴ることを依頼した時も最初レギオンは断ったのだ。

 ダルシア人に生まれ変わったことがないと言うことは、ダルシア人の言葉を母語として使えないということだった。これは呪文を綴る際にはかなり難点になる。レギオンはそれぞれの種族に生まれ変わって、その種族の言葉で呪文を綴ったからである。

 だが、マルガルナスは忍耐強く『大賢者』レギオンに頼み続けた。いずれ、何かの時に必ず必要になると思ったのだ。それは彼女にもライアガルプス程ではないものの、予知能力があったからだった。はるかに遠い未来に必要になる時が来ると説き伏せたのだった。そして、とうとうその時がやって来た。

 基本的に、元ダルシア人であればドラゴン・スレイヤーに成れる可能性がある。ただ、元ダルシア人であれば、誰にでもなれるということではない。ドラゴン・スレイヤーになるには、それだけの力を持っていなければならないし、その心情も正しくあらねばならないという条件があった。それにかなう者しか、成れなかったのである。

 多くの元ダルシア人がタレス連邦に生まれ、特殊能力者として暮していた。もちろん、元ダルシア人ではない特殊能力者もいる。特殊能力者というのは、人種や種族の違いではないからだ。ただ、呪文自体は元ダルシア人を対象としていた。

 今、ヘイダール要塞にいるタレス人の特殊能力者がマルガルナスの呪文でどれだけドラゴン・スレイヤーとして目覚めるかは未知数だった。だが、この要塞を守るためにはそれが必要だと、リュイ・ジーンすなわちマルガルナスは判断した。

「ドラゴン・スレイヤーはドラゴンを倒したものに与えられる名だと聞く。それをお前は作れるというのか?そんなことあり得ない」

と、ナンヴァル人は言った。

「それは、お前を制したこの私に言う言葉ではないわね。今どれだけ、お前たち竜族がこの要塞に入って来ているのか知らないが、我々に対抗できるとは思わないことだわ」

 次の瞬間、リュイの口からシューシューというようなドラゴンの息吹きのような音がし始めた。言語フィールド発生装置はダルシア人の言葉を対象としてはいない。だから、妙な音にしか聞こえないのだった。

 リュイにとってもこれは危険な掛けだった。今要塞にいるドラゴン・スレイヤーの力を持つ者は、アリュセア・ジーンとタリア・トンブン、それにリュイ・ジーンだった。それに加えて、ガンダルフの五大魔法使いの内、ダルシア人だったことのあるアルネ・ユウキもその力を出そうとすれば出せるのだった。

 この危機的状況の中で、もし、新たなドラゴン・スレイヤーが誕生すれば、必ず仲間にTPで連絡してくるとリュイは知っていた。


389.

 元新世紀共和国要塞防御戦闘機中隊隊長ダヤン・ガル中佐は、ゼノンとナンヴァルの艦隊がヘイダール要塞に攻撃してきているのに、自分たちは何もできないことにイライラしていた。

「中佐、仕方がありません、今回は我慢してください。我々も同じですから……」

「仕方がないだと、まったくリドスの連中のやることは……」

「今回は駐留艦隊も出られないと聞いています」

 ここの所、訓練ばかりで敵と遣り合うことが少なくなったので、どうにも腕が鳴るのだった。それを我慢しろというのは残酷だとダヤン・ガル中佐は思った。

 そこへ、突然見たことのない奴が現れた。彼は知らなかったが、それはナンヴァル人だった。

「誰だ!」

と、誰何すると腰に手をやり、中佐は光線銃を抜いた。

「お前たち、ここはどこだ?」

と、竜族がしゃべった。

「その前に、お前が名乗る方が先だ」

「俺は、ナンヴァル人だ。ここはヘイダール要塞の中だな?それは戦闘機か?」

「名乗れと言っているんだ」

「お前たちに名乗ったところでわかるわけはない。無駄だ」

「何だと!」

 ナンヴァル人は腰の剣を抜くと、ダヤン・ガル中佐に襲い掛かった。ナンヴァル人の見るところ、彼がここでは一番階級が上らしいという判断だったからだ。

 危ういところで剣先から逃れると、戦闘機の格納庫の隅から鉄のパイプを拾って、ダヤン・ガルは応戦した。

「やるじゃないか。俺だって、剣技くらいはできる」

 だが、相手のナンヴァル人の方の力の違いが明らかだった。明らかにナンヴァル人の方が強いのだ。その剣はパイプを両断し、ダヤン・ガルに迫って来た。

「ち、中佐!」

と、部下が叫んだ。だが、部下が叫んだのはダヤン・ガル中佐が危険に陥ったからではなかった。

 見ると、部下の一人、それはまだ新人のパイロットだった。突然目をかっと開き、不思議な風圧で長い髪の毛がふわっと宙を舞うと、目にもとまらぬ速さでナンヴァル人に迫った。

「危ない!」

と、ダヤン・ガル中佐が叫んだ。その長い髪の女性の新人パイロットは素手で剣を持った敵に向かって行ったからである。しかも、相手の剣が新人パイロットの腕に当たったのだ。

「ああ……」

と、中佐は血生臭い惨状を想像して声を上げたが、血は吹き出なかった。

「?」

 気が付くと新人パイロットは素手で剣を払い、ナンヴァル人に襲い掛かっていた。

「お、おい……」

 確か先ほど自分の持っていた鋼鉄のパイプをあの剣は真っ二つにしたはずなのに、新人パイロットの腕は何ともなかった。気が付くと、ナンヴァル人は新人パイロットにボコボコにされていた。

「信じられない、……」

と、中佐は部下と顔を見合わせた。

「大丈夫ですか、中佐」

と、新人パイロットは言った。

「いや、私は大丈夫だが、お前さんは大丈夫なのか?」

「はい。何ともありません。それよりも、中佐、注意してください。要塞にこのナンヴァル人のような竜族がたくさん侵入してきた模様です」

「何だって?しかし、何の連絡もなかったが……」

「さきほど、妙な警報が鳴りませんでしたか・」

「そう言えば、鳴ったな。だが、敵が来たと言う警報ではなかった。あれは初めて聞く警報だった」

「あれは、ええと、ヘイダール伯爵がとりあえず出した警報だそうです。ナンヴァル人、つまりこの竜族たちが侵入したので注意を促すためだと……」

 これは何か変だと、ダヤン・ガル中佐は思った。この新人パイロット、いや確か名前はエウリーゼ・ルモイ軍曹と言っていた。この子はどうしたのだろうか。これまでは、こんな力を見せたことはなかったのだ。

「ちょっと聞くが、お前さんは確か惑星ゼンダの出身だったな」

「そうです。私の両親は惑星ゼンダにいます」

「しかし、その今のナンヴァル人をボコボコにした力は、人間のものとは思えないのだが……」

「それは、私がドラゴン・スレイヤー、つまりドラゴンを倒す者だからです」

「ドラゴン・スレイヤー?何だいそれは」

 ロル星団ではその名はほとんど知られていない。だからダヤン・ガル中佐も他の部下たちも知らなかった。ダルシア帝国が隆盛だった時代でも、食糧になるものがないか時たま調査に来るくらいで、ダルシア人がロル星団に移住するようなことはなかったし、こちらに犯罪者を島流しにするようなこともなかったのだ。

 ロル星団の一惑星にいた巨人族であるタゴン族は、ダルシア帝国の初期の頃にすでにダルシア人によって食い尽くされていた。その後はアルフ族がやってくるまで、ダルシア人の食料になる様な種族は育たなかった。それがダルシア人を島流しにしなかった理由でもある。またアルフ族がやって来た時には、ダルシア人は人間族を食料にすることは止めていたのだ。

「ジル星団ではすでに伝説になっていますが、ドラゴンを倒した者に与えられる称号のようなものです。そのドラゴンというのは、ダルシア人の事です」

「そんなことをどうして、君が知っているんだ?」

「それは、私がかつてダルシア人だったからです」

「ダルシア人だったから?今は人間だよな。かつてと言うのは、いつのことだ?」

「生まれる前の事です。私はジル星団で人間として生まれ、ドラゴン・スレイヤーとしてドラゴン狩りをしたことが有るのです」

「ドラゴン狩りって、そんなにジル星団にはドラゴンがいたのか?」

「人間族の世界にも昔は遠い惑星に犯罪者を送ると言うことが有ったではないですか、それと同じことです」

「つまり、ダルシア人の犯罪者を遠くの人間の住む惑星に送ったということか?」

「そうです。ただ、ダルシア人、つまりドラゴンの方が力が強くて、原住民が虐げられることがあって、それを何とかするために、ダルシア人が人間として生まれ変わると言うことが有ったのです」

「生まれる前ね……」

 元新世紀共和国の有るロル星団では生まれ変わりということは、単なる伝説や昔話に出てくるものでしかなかった。だから、ダヤン・ガル中佐も同じ認識だった。だが、目の前にいる新人パイロットは自らの力を示したのだ。しかもその力は、これまで彼女が持っていなかったと思われる力だった。

「そうだとしても、これまで君はそのドラゴン・スレイヤーとしての力を出したことはなかっただろう?それが突然あのナンヴァル人を倒したのはなぜなんだ?これまで隠していただけなのか?」

「いいえ、隠していたわけではありません。私も自分がドラゴン・スレイヤーであるとは、知りませんでした。ですが、今私は知ったのです」

「それは、どうやって知ったのだい?」

「呼びかけがあったのです。ダルシア人の仲間の呼びかけが。そして、ドラゴン・スレイヤーを目覚めさせる呪文が唱えられたのです」

 元新世紀共和国の新人パイロットエウリーゼ・ルモイ軍曹がドラゴン・スレイヤーとして目覚めたのは、ダルシア人のマルガルナス、つまりアリュセアの娘であるリュイ・ジーンが彼らを目覚めさせる呪文を唱えたからだった。

「呪文だと、これには魔法使いも関わっているのか?」

「噂で聞いたことがありましたが、本当にドラゴン・スレイヤーを目覚めさせる呪文があるとは、私も初めて知りました」

「と言うことは、これまでそんな呪文があることは知らなかったということか?」

「そうです。それよりも、中佐気をつけてください。ナンヴァル人は人間族よりも筋力は二倍ほどあるのです。それに彼らのなかには魔術師のような者も交じっているようです」

「しかし、なぜ、連中がやって来たんだ?」

「どうやら、ヘイダール要塞にゼノン帝国とナンヴァル連邦の艦隊が攻撃を仕掛けて来たようです」

「理由は?」

「それは、現在ヘイダール要塞近辺のジャンプ・ゲートが閉鎖されているからです。例の呪いの惑星への渡航を制限するためです。その制限を止めさせるために彼らは攻撃してきたのです」

 中佐は司令室の連中との会議に参加できたので、多少の事は聞いていた。その例の呪いの惑星が銀河帝国の帝都ロギノスであるということ。また、帝都ロギノスで『死の呪い』を封印してきたジェグドラント伯爵家の人々が要塞へ逃げて来たことも聞いていた。

 ところが、ゼノン帝国の皇帝陛下が死の床にあるか、亡くなったかして、帝都ロギノスにいるゼノン帝国の大使を召還することが必要になったらしい。つまり詳しいことは不明だが、ゼノン帝国の次の皇帝の存立について、何か重要な人物であるらしいのだ。

「しかし、ここにナンヴァル連邦が加わるのはなぜだ?」

 元々、ゼノン帝国とナンヴァル連邦はあまり仲がよくないと中佐は聞いていたのだ。

「どうも、ナンヴァル連邦では指導者の交替があったようです。その新しい指導者、大調整官というのですが、クラウ・トホス・トルがゼノン帝国と友好関係を結んだようです。これは私の私見ですが、ナンヴァル連邦は要塞にいるかつての大調整官の候補者であるマグ・デレン・シャを葬りたいのではないでしょうか。他に彼らが要塞を攻撃する理由は考えられません。ただ、こんなことはこれまでのナンヴァルの大調整官は決してしなかったことです。前任者の候補者を殺すなどということは、前代未聞です」

「ナンヴァル連邦の新しい指導者というのは碌でもない奴らしいな。だが、そうすると、マグ・デレン・シャを警護する必要があるだろうな。君は色々なことを知っているようだが、もしかして、TPで誰かと話をしているのか?」

「そうです。今ダルシア人のTPチャンネルで、アリュセアとタリアが色々な情報を流しているようです」

「アリュセア・ジーンとタリア・トンブンか、彼女たちはタレス人だったな」

 だが、エウリーゼ・ルモイは元新世紀共和国の出身だった。これは、ダルシア人の生まれ変わりがジル星団だけではなく、ロル星団にまで存在すると言うことを意味する。と言うことは他にもいるのではないかとダヤン・ガルは思った。

「そうです。ですが、かつてはダルシア人でした。それもダルシアの指導者なのです」

「で、今は君のようなドラゴン・スレイヤーが生まれて来ていると言う訳か」

「でも、数はどのくらいかまだ分かりません。何処に誰がいるのかもわからないのです。それに、元ダルシア人だったからと言って、誰でも今回ドラゴン・スレイヤーになれるとは限らないのです」

 それでもダヤン・ガル中佐の思った通り、要塞のあちこちで、ドラゴン・スレイヤーが生まれていた。それはタレス人だけではなく、元新世紀共和国の者、またはリドス連邦王国の艦隊の中にも現れつつあった。


 要塞司令室でアリュセアはTPに集中していた。要塞の中の仲間に情報を提供しつつ、何が起きているかを知るためである。

「司令官代理、それにレギオン、マルガルナスがあの呪文を使ったようだわ」

と、アリュセアは言った。

「マルガルナス?誰ですかそれは……」

「私の娘、リュイのことだわ」

「マルガルナスと言うのは、かつてのダルシア帝国の大宰相と詠われたダルシア人で、政治家兼科学者兼軍人のようなものだ」

「それが、あなたの娘であるリュイなのですか?」

と、ノルド・ギャビが理解できないと頭を振りながら言った。

「それは、生まれる前の話だ。詳しくは今は説明する暇はないのだが、マルガルナスはある秘中の秘と言われる呪文を持っていた。ダルシア人をドラゴン・スレイヤーとして目覚めさせる呪文だ。ふむ。ゼノンやナンヴァルの連中が侵入してきている今が、その呪文を使う時だと考えたのだろう」

と、ダールマン提督――レギオンは言った。

「すでに、あちこちでゼノンとナンヴァルの兵士とドラゴン・スレイヤーが戦っているようですね」

「確かに、竜族と戦うには連中しか相手にはなるまい。だが、どれだけの数のドラゴン・スレイヤーが目覚めたのだろうか……」

「数は、定かにはわからないわ。だが、かなりの数目覚めている。タレス人だけではない。元新世紀共和国やリドス連邦王国の者の中にもいるようね」

「で、状況はどちらに有利だというのだ?」

と、クルム司令官代理が聞いた。

「ドラゴン・スレイヤーに勝てる竜族はいない。だが、敵が現れたところ全てにドラゴン・スレイヤーがいるわけではない」

「今、それを確かめているから、ちょっと待って……」

 ゼノン帝国艦隊やナンヴァル連邦艦隊から転送されてきた竜族の兵士たちは、自分たちよりも強い人間がいることに驚愕していた。ドラゴン・スレイヤーの伝説は人間族の惑星にあったものであり、竜族の惑星にはなかったのだ。もちろん、それを耳にしたことがなかったわけではない。だが、そんなものは大昔のドラゴンが、すなわちダルシア人が人間族の惑星にいた時代の話だと彼らは思っていた。


390.

 ヘイダール要塞を襲撃したゼノン帝国とナンヴァル連邦の艦隊は、全滅したわけではなかった。ガンダルフの五大魔法使いの一人、エルレーンのエリンことアルネ・ユウキが放った炎系の攻撃は、彼らの艦隊にかなりのダメージを与えたが、全滅させるほどではなかった。

「閣下、大事ありませんか?」

と、副官のタ・フォールン・シャ少将が言った。

「心配無用だ!」

と、思いっきり見栄を張ったがウル・ヴァトラス・ナン提督は言葉を切ると喘いだ。

 旗艦の温度はかなり上昇していた。普通の人間族ではとても耐えられない温度だ。だが、竜族は違った。しかし、その温度は現在まだ上昇しつつある。司令室がこれほど熱いなら、機関室などはどれほど熱いことかとウル・ヴァトラス・ナン提督は一瞬思った。しかし、ここで攻撃を断念することはできない。

「ヘイダール要塞に転送した兵士はどうなった?」

「多分、向こうは人間族ですから、うまく行けば例の連中の所まで行くことも可能だと思われます」

「だが、リドス連邦王国の魔法使いが来ているだろう」

「ですが、今は例の件で忙しいはずです」

 今現在要塞が『レギオンの城』と結合工事中であることは百も承知だった。だからこそ、この時を狙ってやって来たのだ。

「だが、ガンダルフの五大魔法使いの内、三人もいると言うではないか」

 初めはガンダルフの五大魔法使いと言っても古い昔の話だと、ウル・ヴァトラス・ナン提督は彼らを軽んじていたのだ。実際にやられてみるとこれは思ったよりも状況が不利だと気づいたらしく、掌を返したように態度を変えたものだ。

「ともかく要塞に侵入した者達の報告を待つしかありますまい」

 転送装置はナンヴァルの旗艦に据え付けられていた。かなり古いもので、おそらく今から一万年も前のモノだろうと思われた。それはこれまでナンヴァルの首都星の博物館に展示されていた、外宇宙からもたらされた遺物だと説明版が付けられていた。当時はおそらくどんなものかよく知られていたのだろうと思われた。と言うのは、遠い場所からモノを移動させることが可能な装置だという言い伝えがあったからだ。それがなぜ今になって突然研究が進められ、使えるようになったのかはよくわからない。

 その研究は新大調整官の前の時代から行われており、その研究者の中心であるハル・ボウルトル・シャ博士は半年前に亡くなったからである。だが、その弟子たちによって研究は続けられ、今回の作戦に間に合ったと言う訳なのだ。

「しかし、リドス連邦王国ではあの装置と同じようなものがあると聞くが……」

 リドス連邦王国が物質転送装置を持っているというのは、ジル星団では周知のことだった。この装置についてはおそらくダルシア帝国も似たようなものを持っていたと言われているが、他のジル星団の文明は持ってはいない。

 ただ、昔、つまり一万年前にナンヴァルの博物館に展示されていたのと同じような装置が他の多くの惑星に突然現れたと記録にある。それが一体どこからきたのか、誰がもたらしたのかはわからなかった。最初はその装置から何かが来たらしいという伝説は残っている。だが、それ以降その装置はダルシア人によって停止させられ、どこかへ埋められたと言う話だった。それにその装置からやって来たものについても、何が来たのかもわからない。

 ただその話にダルシア人が介在しているのは確かなので、嘘ではないということしかわからなかった。

「ダルシアの連中も、きっとその見たこともない科学技術に驚いて、他の種族がそれを見つけることを怖れたのではないか。やつらも、我々ナンヴァルなどを人間のような竜族と見下していたからな……」

と、ウル・ヴァトラス・ナンは言った。

 その意見については同意できないが、副官のタ・フォールン・シャ少将はダルシア人がこの驚くべき装置を埋めてしまったと言うことに興味を持っていた。そこには危険な香りがしたからである。

 ナンヴァル連邦では新大調整官を迎え、その大調整官により軍や政治、経済まで様々な改革が進められていた。と言うことになっていたが、タ・フォールン・シャ少将の見るところ、それは単に新大調整官に組する者達を高位高官に付けただけなのだ。残念ながら実力ではないため、地位と能力の差が歴然と現れる職種もあった。その所為でナンヴァル連邦では混乱も起き始めていたのだ。

 だがそれは、大調整官の力で抑えられ、まだ多くの人々に広く知れ渡ってはいない。もし、この混乱が続き、ナンヴァル連邦の一般人に広く知れ渡ったなら、大変なことになるのではないかと、タ・フォールン・シャは感じていた。だから、今のうちに何の力も持っていない前大調整官が大調整官の候補者として推薦していたマグ・デレン・シャを葬ろうとしているのだ。大調整官は彼女さえいなくなれば、後はどうにでもなると考えているのではないか。

 タ・フォールン・シャ少将自身は、この作戦については心の中では恥じていた。ナンヴァル連邦の軍人がなすようなことではない。しかし、彼は表立って反対することはできなかった。何故なら大調整官自身が作成し命令した作戦だからである。従って、今もこの旗艦の温度の上昇による苦境の最中、部下が艦の中で苦しんでいるというのに、何もすることはできなかった。

 艦隊の提督は確かに大調整官クラウ・トホス・トル閣下の腹心だが、副官以下は違っていた。特に軍の階級が下の者ほど、今回の作戦については陰で反対していることは提督以外の者は誰でも知っていた。そうであっても、誰もそのことをウル・ヴァトラス・ナン提督に進言する者はなかった。実力はどうあれ、提督が新大調整官のお気に入りであり、作戦が大調整官直々のものであることを知っているからだった。

「閣下、要塞に潜入した者からの通信が来ました」

と、トル・ドラウル・ダン中佐が報告に来た。

「待っていたぞ。で、作戦の進捗具合はどうなのだ?」

「それが、ドラゴン・スレイヤーが現れて、作戦が上手く行かなくなっているそうです」

「ドラゴン・スレイヤーだと、それは何だ?」

「わかりません。私には初めて聞くものなので……」

 タ・フォールン・シャは、どこかで聞いた事がある名だと思った。だが、思い出せなかった。ナンヴァルの非常に古い本の中に載っていたような気がする。

「どのように邪魔されているのだ?」

「それが、人間なのに、我々竜族よりもはるかに強力な戦士だと言うのです」

「馬鹿なことを言うな。人間が、我々よりも強いなどと言うことはあり得まい。報告者がおかしくなったのではないのか?」

「そのドラゴン・スレイヤーは、どのくらいの数いるのだ?」

と、タ・フォールン・シャ少将は聞いた。

「それが、報告では一人や二人ではないそうです。あちこちに現れているようです」

 これは想定外の状況だった。本来、人間は竜族よりも弱い。だから、この作戦で困難はないということになっているのだ。

「では、あの反逆者のマグ・デレン・シャの居場所は分かったのか?」

「それも、まだわからないようです。送られた兵士たちは、自分たちの身を守るのも難しいと言ってきています」

「それでは、この作戦は失敗だというのか?」

「この状況では、失敗したと言うしかありません」

「だが、大調整官閣下はそのようなことは望むまい」

「では、どうしろと……」

 作戦の失敗は即失脚だと言うことは、ウル・ヴァトラス・ナン提督は良く分かっていた。特に新大調整官閣下は作戦の成功以外の報告は聞きたくもないだろう。

「閣下、潜入させた者達を引き上げさせますか?」

と、トル・ドラウル・ダン中佐が進言した。

 その言葉に相手をじろりと睨み付け、怯んだところで、ウル・ヴァトラス・ナン提督は言った。

「まだ、それほど時間が経ってはいまい。だが、可能性はある。もう少し様子を見るのだ」

 タ・フォールン・シャ少将も珍しく同じ考えだった。中佐の意見はあまりにも拙速だ。まだナンヴァルの兵士たちが潜入を開始してそれほど時間が経ったわけではない。例え、ドラゴン・スレイヤーなる敵が現れても、何とかそれを凌いで目標に到達するものがいるかも知れないではないか。

 そう考える中にも、艦の気温が上昇しているのを感じていた。


 アルネ・ユウキは目を開けると、言った。

「ナンヴァル連邦はマグ・デレン・シャを狙っているようだわ」

「何だと?」

「ナンヴァル連邦の新大調整官クラウ・トホス・トル閣下が、直々に今回の作戦を命じたようね」

 ナンヴァル連邦の艦を這うように広がっている炎は、アルネ・ユウキとも繋がっているのだ。艦の温度を上げるとともに、離れていてもその中にいる連中の思考を読み取ることも可能だった。

「ナンヴァル連邦がそんなことをするとは、連中も以前とは違ってしまったようだ」

と、銀の月が言った。

「どうも変だな。いくら何でも、あまりにも変化が早すぎる」

「と言うと?」

「さあ、それについてはまだ推測しか浮かばないな……」

「マグ・デレン・シャに警護の者を送らなくて大丈夫でしょうか?」

と、ディポック提督が心配そうに言った。

「いや、向こうにはタ・ドルーン・シャもいる。ほかにウル・ガルやナッシュガルもいる。何とかなるだろう。それよりも、警護の者を送って後を付けられても困る」

「で、どうするの?あの艦隊を全滅させてもいいのなら……」

「いや、待て。艦隊の司令官は何と言った?」

「ウル・ヴァトラス・ナン提督のこと?」

「奴は大調整官の仲間だと言うことは確かだろう。しかし奴以外の連中は、おそらくまだ大調整官とやらには内心面白くないと感じているのではないか?」

「すると?」

「まあ、連中に反逆を勧めるのはどうかと思うが、だが、このままあの艦隊を返すのは、面白くない」

「他の連中は、大調整官にマグ・デレン・シャがなって欲しいと考えているということか?」

「おそらくな……」

「そうね。その推測は当たっていると思うわ。提督の副官も、そう思って居そうだわ。提督の息のかかった連中はいたとしても、数は少ないでしょうね。艦隊のほとんどの士官や兵士はマグ・デレン・シャを望んでいそうだわ」

 ダ―ルマン提督――レギオンとしてはナンヴァルの多くの兵士を死なせることはしたくなかった。ゼノン帝国の方は追い返せばいいのだが、ナンヴァル連邦の艦隊はできればこちらの味方に引き入れたいと考えていた。



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