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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
81/153

ダルシア帝国の継承者

382.

 要塞司令室ではエネルギーを吸収する怪物兵器への対応に頭を痛める中、

「確かにあの時の怪物だと思うけれど、昔とちょっと違うような気がする……」

と、アルネ・ユウキが言った。

 アルネ・ユウキはガンダルフの五大魔法使いの一人、『エルレーンのエリン』または火竜、サラマンダーとも呼ばれる魔法使いである。彼女はこの怪物が初めて現れた時、レギオンの城に他のガンダルフの魔法使いと共に居たのだ。

「違うというのは、どう違うのだ?」

と、クルム司令官代理は聞いた。

「そうね。昔は『ハラヘッタ』としか思っていなかったけれど、今は私達、この要塞の中にいる者、つまり人間に興味を持っているような意味のことを考えているようだわ」

と、アリュセアが言った。

「それはつまり、どういうことなのだろうか?」

 彼にはさっぱりわからないのだが、もし昔と違うというのなら、対応も変えた方がいいのではないかと思ったのである。もちろん、危険なものに違いないのだが、現在の要塞の武力では手に余るというのなら、何か方法を考える必要があるからだ。とは言え、前と同じ方法を取ることはもうできないだろうとは思った。アリュセアの言う通りなら、兵器であっても以前よりも知的レベルが上がったと言うことを意味しているからだ。

「話しかけてみてはどうかしら?」

と、アリュセアは言った。

「話しかける?兵器にか?」

「そうね。話ができるかもしれないわ。前と違うから……」

 話したとしてその怪物兵器を説得できるというのだろうかと、クルム司令官代理は思った。だが、それも一つの手かもしれない。少なくとも、こちらが対応を考える時間稼ぎにはなる。

「やってみてもいいかもしれないな……」

と、ディポック提督も言った。

「本気なのか?」

と、ノルド・ギャビが不安そうに言った。彼にはアルネ・ユウキやアリュセアの言うことが、あまりにも荒唐無稽に思えたのだ。

「やってみても、損はあるまい」

と、面白そうにヘイダール伯爵は言った。

 その言葉にバルザス提督――銀の月やダールマン提督――レギオンが頷いていた。

「信じられない、そんなことをして暴れ出したらどうするつもりだ?」

 不安を感じているのは、どうやらノルド・ギャビやグリンぐらいらしい。他の者達は恐怖よりも、知性のありそうな兵器に興味を持っているように思えた。

 ノルド・ギャビは要塞の商業地区にいる妻や子のことを考えていた。まだ巨大化した野菜に取り込まれているのだ。だから何かあってもすぐに逃げ出すわけには行かない。少しはそのことを考えて欲しいものだと思った。

「その可能性は否定できないが、ある程度の知性が認められるなら、うまく行く可能性があるのではないだろうか」

と、クルム司令官代理は言った。

「それに、ノルド、ギャビ、あなたの家族のことを考えているのなら大丈夫。暗黒星雲の種族が一緒にいるから危険になったら彼に頼んでみる手もあると思うけれど……」

「だが、あいつは怒り狂っているのではないのか?あんな所に閉じ込められて」

「そうだけれど、リュイもいるし、説得はできると思うわ」

「それにタリアもいるしね」

と、アルネ・ユウキが言った。

 それにもしかしたら、他の者もいる可能性がある。暗黒星雲の種族を動けなくした者である。おそらく、商業地区のどこかにはいるはずだった。今回の騒ぎはそいつが原因なのだ、とアルネ・ユウキやアリュセアはは考えていた。

 アリュセアは強力なTPを網の目のように広げて、ヘイダール要塞の外の宇宙空間を走査してみた。怪物の興味津々な波長が、ある点から感じられるのだ。そこに怪物の中枢部分があるに違いない。すでにジャンプ・ゲートからこちらの銀河に出てきているのだろう。だが、その時、もう一つの何かを感じた。それはかつての怪物と同じく妙に同じことを考えているものだった。

(ハラヘッタ、ハラヘッタ)

と、そいつは考えていた。何か獲物がないかとずる賢くあたりを睥睨しているような感じだった。しかもそれは興味津々の怪物と同じジャンプ・ゲートの方から来るのだった。

「変ね。もう一匹あの怪物と同じものがいるようだわ」

「何だって!」

 エネルギーを吸い尽くす怪物が一匹だけでも大変なのに、二匹いると考えただけでノルド・ギャビは眩暈がした。

「そうか、わかったぞ……」

と、ダールマン提督が言った。

 彼の言うには、昔要塞に来た怪物をやむを得ず銀河間の暗がりに置き去りにしたのだが、どうして再び動けるようになったのかわからなかったのだ。銀河間の暗い空間にはエネルギーなどは発生するはずがなかった。その暗い空間は、エネルギーを吸収するだけの場所なのだ。

 怪物が動けるようになったのは、もう一匹がやって来てそのエネルギーを貰ったか奪ったかしたのだろう。そう考えるのがわかり易い。だが、もう一匹はどうやって、どこから来たのだろうかという疑問が増えた。

 要塞の探知装置などはこの怪物には役に立たない。要塞自体のエネルギーが吸われているので、正常に探知装置が働かないのだ。ただ、エネルギーの減る割合から、怪物の居る方向は特定できそうだった。つまりジャンプ・ゲートのある方に怪物はいる。

 一匹は確かに前に来た怪物だった。だが、もう一匹はどこから来たのだろうか。アリュセアの感じでは二匹はほとんど同じ構造をしているように思えた。だが、もう一匹の新しく来た怪物の方が昔のものよりも大きな気がした。

「うーん。新しく来た怪物の方が大きな気がするわ」

「なぜだろうか?」

 怪物は五十年ほど前、ザボク族がその母なる銀河から亡命してきた際、彼らの銀河の支配種族が送って来たザボク族を壊滅させるための殺戮兵器であった。だとするなら、その連中が再び同じものを作って送って来たと考えてよいのではないか。だがなぜ同じものをもう一つ作ったのかはわからない。

「まったく、何でこんなろくでもないものを造るんだ?奴らを作った連中は、我々よりも遥かに高い文明を持っているのではないのか?」

と、ノルド・ギャビは文句を言った。

「科学技術の高度な文明が倫理的霊的に優れた文明であるとするのは早計だ。もちろん、そうである文明もあるが、違う文明もあるというだけだ」

「でも、一つならまだしも、彼らがもう一つ作ったと言うことは、何か嫌な感じがするわ」

 しかもこんな兵器を造るというのは、普通ではありえない。一度ならわかる。そして自分たちの作った兵器がどんなに異常であるのかと普通なら気づくのではないかとアリュセアは思った。もしそうでないならばと思って、思い当たることがあった。

「こんな兵器を作ったら、その人たちはどうなるかしら……」

「どうなるかしらって、二つ目だろう、だとすればどんなものかよく知っているだろうし、だとすればよく作る気になったものだ。よほど出て行ったザボク族を憎んでいたのだろう」

と、バルザス提督は言った。

「どうして憎んでいたのかしら。だって出て行ったのなら、それ以上ザボク族はその銀河で何もできないでしょう?」

「そうだな……。そうかそう言うことか……」

「何だ?何かわかったのか?」

と、クルム司令官代理は言った。

「いや、だがこれは単なる私の推測ですので、今は何の根拠もありません……」

「それでも聞きたい」

「要するに、あの二匹目によってかそれとも、理由は別にあるのかもしれませんが、ザボク族の居た銀河はおそらく滅びたのではないかと」

「滅びた?」

「そうでなければ、あのような怪物がもう一つできるはずはないと思うのです。もちろん後で調査して確かめる必要はありますが……」

「まあ、そうだとしても、あの怪物が二匹いるこの状況をどうするかは別だ」

「だから、話をしてみましょう。だって、話をするくらいの知性は有りそうだから」

「TPで話ができるというのなら、してもいいだろう。しかし、その後どうするかだ」

と、クルム司令官代理は言った。

「二匹ともお腹が空いているのは確かです。ただ、我々もそれほど多くのエネルギーを彼らにやるわけには行きません。それに、一匹は、つまり昔ここに来た方はこの要塞に興味を持っているようです。だから、餌とこの要塞について話をしてみるつもりです」

 アリュセアは目を閉じると、TPの触手のようなものを要塞の外へ伸ばした。そして怪物に接触してみた。最初は驚いたが、二匹は昔要塞に来た方はアリュセアのTPに興味を持った。その怪物はこれまで誰とも話などしたことはなかったのだ。

 実際この怪物は宇宙空間ではほとんど目立たない。透明とは言えないが、非常に見えにくいのだった。だから、エネルギーを吸いに行く場合以外はその存在はほとんどわからない。探知装置にも引っかからない。エネルギーを吸われて、初めて相手は怪物を認識するのである。だから、怪物は他の生物や種族と会話などしたことはなかった。

 自分と同じようなもう一匹の怪物は話をするというよりは、エネルギーを分けてくれたが、それは自分と同じものだという認識があったからなのだ。同じ造りのモノを探したのは、同じモノがいるということを知っていた、要するにプログラムされていたからだった。

 この古い方の怪物は兵器であるにもかかわらず、生物の感情のようなものを持っていた。兵器とはいえ、非常に高度な制御脳を持っていたからと考えられる。それはエネルギーを求めるのに、『ハラヘッタ』という意味の生物のような波長を外へ出すことからも窺えた。


383.

(あなたはどこから来たの?)

と、アリュセア・ジーンは聞いた。

(ワレワレハ、トオイトコロカラキタ)

(自分の名前を知っていて?)

(ナマエトハナンダ?ソンナモノハ、ナイ)

(名前というのは、個体を識別するための音声記号よ。もちろん、目に見える形の文字にする場合もあるけれど…)

(ワレワレニハ、ナマエハナイ)

(それはやりにくいわね。あなたのことは何と呼べばいいのかしら?)

(ワレワレハ、ワレワレダ)

(もう一つの『我々』もいるでしょう?)

(アレハ、ワレワレデハナイ)

(でも、あちらはそう思ってはいないようだけれど。まあいいでしょう。それよりも、あなた方は、ここで何をしたいの、何が欲しいの?)

(ワレワレハ、タベモノガホシイ。タベモノトハ、エネルギーノコトダ)

(私達にもエネルギーが必要だということはわかる?)

(ソレハリカイデキル。ダガ、ソレガナケレバ、ワレワレハウゴケナイ。シンデシマウ)

(『死』がわかるの?)

 アリュセアは驚いた。この怪物には知性はあってもそんなことを考えているとは思えなかったからだ。

(シハ、ウゴケナクナルコト。カンガエラレナクナルコト)

(それはちょっと違うと思うけど……)

(ドコガチガウノダ?)

(『死』と言うのは、別の次元に移行することよ。そうすると、この宇宙に肉体を持っている生物は姿が見えなくなってしまうから、『死』は親しいものからの別れと言うことも意味するの。でも個性を持ったもの、要するに自分を認識する部分、魂ともいうけれど、それは消滅することはないのよ。肉体は無くなっても、それは残るの。そしてそれは永遠不滅のものだというのが真理なのよ)

 アリュセアの話している真理は、ダルシア人のライアガルプスがダルシアの文明として認識しているものである。残念ながらタレス人はまだそこまでの知識はない。

(ベツノジゲン?シンリ?ワカラナイ。ショウメツシテシマウノデハナイノカ?)

(消滅するなんて、あり得ない。もっとも、それを証明することは難しいことだけれど)

(ダガ、ベツノジゲンニイコウシテ、ドウナルノダ?)

(そうね、すぐにと言う訳ではないけれど、次に生まれる場所を探したりするのよ。しばらく、そこに留まる場合もあるし……。人それぞれだわね)

(ワレワレモ、ソウナルノダロウカ?)

(多分、そうなると思うわ。ただ、今のように宇宙をあちこち動き回っているのでは、なかなかそうならないでしょうね。それに、他の生物に嫌われるようなことをすると、それは難しいかもしれないわ)

(ナゼダ?)

(だって、あなた方は生物ではないし、子供を産むような構造を持っていないでしょう?と言うよりは、子孫ができるようには作られていないと言うべきかしら?)

(ワレワレヲツクッタ、ゾウブツシュガ、マチガッテイタノカ?)

(そもそも、あなたは造物主によって作られたわけではないと思うわ)

 造物主というのは、ダルシアにおいてはこの宇宙を創った『神』を意味するのだ。もっとも他の多くのの文明でも同じである。

(ワレワレハ、ダマサレタノカ?)

(そうではなくて、あなた方を作った者達が造物主ではないということ。騙されたわけではないと思うわ。だって自分を作った存在だと言われれば、大抵同じことを思ってしまうから。おそらくあなたは非常に高度な知性を持った種族に造られたのだと思う。それで、あなたは自分の事をどう思っているの?)

(ワレワレハ、ウチュウサイキョウノヘイキダ。ゾウブツシュハ、ワレワレヲソウヨンデイタ)

(要するに、兵器というのは生物ではないから子供を産むようにはできていないのよ。子供を産むのは生物でしょう?あなたは兵器だから、種が違うのよ)

(ダガ、モウヒトツ、ワレワレトオナジモノガイル)

(そうね。でもあなたが生んだのではないでしょう?あなたを作った人達はもう一つ同じものを作ったということだわ)

(モウヒトツモ、ゾウブツシュガツクッタノカ?)

(造物主ではないけれど、もう一つ同じものを作ったのは確かね。でも生物ではないから、死んで別の次元に移行した後、生まれ変わると言うことはできないわ)

(ドウスレバイイノダ?)

(それはね、できるだけ、他の存在の役に立って、感謝されるほどね、そうしたら感謝してくれた種族があなたを受け入れてくれるかもしれないわ)

(ヤクニタツ、ソレハデキソウダ。カンシャシテクレルヨウナコトヲ、スルノダナ)

(そう。だから、ハラヘッタと言って、他所の――つまりあなたのものではないエネルギーをみだりに貪ってはいけないわ)

(ソレハ、カンシャサレナイカラカ?)

(そうよ。逆に、恨まれてしまう。それでは受け入れてもらえないし、生まれ変われないでしょう?)

(ワカッタ。エネルギーハホシイガ、ムサボラナイヨウニスル)

(そうね。で、もう一つの方はどうなのかしら?あなたの言うことを聞くのかしら?)

(アレハ、ワレワレヲナカマダト、オモッテイル。ハナセバワカルダロウ)

(そう。やってみて。もしあなた方が大人しくできるならば、この要塞の近くに居てもいいでしょう。ただし、私たちの言うことをちゃんと聞くことが条件よ。そうすれば、おなかの方も――つまりあなたの欲しがっているエネルギーも分けてあげることが出来ると思うわ)

(ホントウカ。ワカッタ、ハナシテミル)

 アリュセアには考えがあった。この怪物たちを懐柔して危険を回避するだけではなく、何とか両方の役にも立つような解決方法が必要だと思ったのだ。


 アリュセアは目を開けた。

「話をしてみたわ。古い方とね。そうしたら、餌をちゃんとあげれば、大人しくしているといっていたわ」

「本当か?信用できるか?だが、餌はどうするのだ?そこらへんに有るモノではだめだろう」

と、ノルド・ギャビが疑わしそうに言った。

「ええ。確か、リドスの艦隊には充電用のエネルギー・パックがあると思うのだけど、それをいくつかやれば多少お腹は満たされると思う」

「エネルギー・パックでいいのなら、要塞の艦隊用にもあるだろう。連中の餌用に確保しておくようにすればいい」

と、クルム司令官代理が言った。

「こんなことで本当に大丈夫なのか?奴らが嘘を付いていないと言う保証はあるのか?」

と、しつこくノルド・ギャビが言った。

「TPで話していたから、おそらく嘘を付いてはいないはず。それに彼らはとても素直だわ。私達のような知的生物とあまり変わらないみたいだった。彼らは『死』を怖がっていた。死は自分がこの世界から消滅してしまうことだと考え違いをしていたのよ」

「ちょっと待て、それが『死』についての常識ではないのか?」

「あら、違うわ。死と言うのはね、消滅ではないわ。例えば本国のダルシアでその肉体を持った者たちが居なくなったとして、つまり死んだとしても、ちゃんと魂は残って存在しているのよ。そして再び生まれ変わるのを待っている。本国のダルシア人はね、本当はジル星団の人間族の星に生まれ変わることになっていたのだけれど、どうもその星があまりにも特殊能力者に対して差別が蔓延してきているので、今は生まれ変わりを踏みとどまっているのよ。そして、別の候補地を探しているのよ」

 ディポック提督はアリュセアの話に、以前ライアガルプスに連れられてダルシア人の母星に行った時のことを思い出していた。

「私はダルシア人の母星に行った時、確かに多くのダルシア人に会った。すでに地上には竜の姿のダルシア人はいなかったが、次元の違う世界には確かにいた」

「しかし、……」

「それに、私に考えがあるの。あの怪物の処遇については、私に任せてくれない?」

「それは構わないが、あの怪物をどうするのだ?」

「要するに、皆に危険のないようなものにしたいのよ。今のままでは、つまり要塞の近くにエネルギーを吸収する怪物が二体もいたのでは、危険で他所の船も近づけないでしょう。だから、何か考えてみるつもり。でもその前に、あの野菜のこと、それに死体のない暗殺事件の事を何とかしなければと思っているのよ」

「大丈夫なのか、このままで」

「大丈夫。彼らにこの件についても協力してもらうつもりだから……」

と言うと、アリュセアの姿は消えた。おそらくジェルス・ホプスキン刑事のいる巨大化した野菜のある商業地区に戻ったのだろう。

「ちょっと、待て……」

 慌てたノルド・ギャビが言っても、すでにアリュセアはいなかった。

「本当に大丈夫なのだろうな!」

と、彼はダールマン提督に言った。

「大丈夫だろう。何か考えがあると言っていただろう」

「しかし、……」

「そうですね。今回の件ではライアガルプスもサンシゼラもかなり協力的に感じます」

と、バルザス提督――銀の月が言った。アリュセアと彼女の魂の姉妹たちとようやく協定を結んだのだろうかと、彼は考えていた。

 ダルシア人はガンダルフの五大魔法使いのように、生まれ変わって以前の自分の記憶を取り戻すということを常にやっていたわけではない。彼らは、生まれ変わりを信じていても以前の記憶を取り戻したいと思ったことはなかったのだ。だから、アリュセア・ジーンやタリア・トンブンが生まれる以前の記憶を思い出すことはこれが初めてだった。

 もっともダルシア人として初めてなのではない。ダルシア人として初めて生まれ変わりの記憶を取り戻したのは、今はガンダルフの五大魔法使いの一人となっている、エルレーンのエリン――火竜、サラマンダーとも言われる魔女だった。彼女は初めて人間に生まれて来たダルシア人なのだ。

 彼女が勇気を出して人間に生まれて来たのは、億年の昔になる。その時初めてダルシア人は異星人に生まれ変わることが出来ると言うことが分かったのだ。その最初の時、彼女は銀の月と兄妹になることを約束して生まれて来たのだ。

 竜が人間として生まれてくる場合、難しい問題がいくつかある。人間としての習慣や常識が全くない状態なので、それを教え導くものが必要だった。そのため、ダルシア人だった彼女は銀の月と兄妹としての約束をしたのだ。銀の月が妹として生まれた彼女に人間の習慣や常識を教えるためだった。それだけではない。人間としての姿かたちもどうなるかわからないので、銀の月を見本として同じような形にしたのだった。だから、銀の月とエルレーンのエリンは双子のような兄妹となった。


 アリュセア・ジーンは野菜の巨大化した商業地区に瞬間移動で戻ると、

「どう、変化はあった?」

と、タリア・トンブンに聞いた。

「いえ、まだ変化はないわ。それよりも、例の怪物の方は大丈夫なの?」

 要塞には亡命してきたタレス人が多数いるので、何かあったら彼らに危害が及ぶことをタリアは心配しているのだ。

「そちらは大丈夫。うまく話をしたから……」

「で、あの野菜をどうするつもりだ?」

と、ジェルス・ホプスキン刑事は言った。

 彼は野菜の中の暗黒星雲の種族に用があるのだった。だが、このままではとてもたどり着きそうもない。

「タリア、野菜を巨大化している電磁波がどれかわかる?」

と、アリュセアは聞いた。

「ええと、多分これかしら?」

 タリア・トンブンは透視能力で、電磁波を見分けることができるのだった。普通は可視光線しか見えないが、タリアには波長の違いは微妙な色違いで識別する。野菜からでている電磁波は非常に高い波長を出していた。普通の探知装置では探知できない範囲だった。その色の違いは波長を一つの線として捕え、その線を透視で輪切りにして見た時、その波長の特徴の色が中にあるのだった。それは一色ではなく、幾つかの色が混じらず大小の年輪の形で見えるのだった。

 もちろん、そう見えるのはタリアだけであり、他の透視能力者には別の見え方がある。それは人それぞれなのだ。

「その電磁波の波長を無害なものに変えたいのだけれど、できる?」

と、アリュセアは聞いた。

 電磁波の波長を変えるとすれば、大小の年輪の中の一つでも別の色に変えればいいのではないかとタリアは思った。それなら強力な念でできる。ただ、暗黒星雲の種族とタリアのどちらの念が強いかによる。念の強さは残念ながら普通のダルシア人では及ばない。だが、ライアガルプスやアプシンクスは別だった。ダルシア人で更に指導者となるような者は、頑強な肉体と強力な念を持っている。そうでなければ他のダルシア人が納得しないからだ。ただ、ここで念力合戦をやる気はタリアにはなかった。

 まず、タリアはTPで暗黒星雲の種族リード・マンドに向けて言った。

(このままでは、野菜が巨大化するだけで、あなたは元に戻らないわよ。だから、この電磁波を止めてくれないかしら)

 できるだけ命令口調を避けて、下出に出て頼むように言った。だが、そんなことなど無視してリード・マンドは電磁波を出し続けた。

 しかし、忍耐強くタリアは再び言った。

(この波長ではあなたは助からないわよ。私なら何とかできるかもしれないわ)

(お前はダルシア人か?)

(元は、ダルシア人だったわ。今はタレス人よ。タリア・トンブンというの)

(タリア・トンブンだと?)

 リード・マンドはタリア・トンブンを思い出したようだった。彼の目の前でその圧倒的な力に震えていたのだ。

(ふん!あの時の小娘か。お前に何ができる)

(あの時は、私は何も思い出してはいなかったから、何もできなかった。でも、今は違うわ)

 惑星連盟のダルシア帝国の継承問題の時、タリアは自分が何者であるかまだ何も知らなかった。だが、今は違う。前世はダルシア人であったことを思い出し、その能力を引き出すこともできるようになったのだ。その力は暗黒星雲の種族に勝るとは思っていないが、決して引けを取ることはない。

(可能だとは思えんが、やってみるがいい。できたら、奇跡に近いがな……)

(やってみるわ)

 タリアは早速、弱くなった電磁波の波長を変化させた。無害の波長にすると、野菜は徐々に小さくなって行った。

 それを見ていた観衆が拍手をした。誰がやったのかはわからなかったが、野菜を小さくすることは不可能に思えたからだ。

 野菜が小さくなると、中にいたイズルカ・ギャビとその子供達、それにアリュセアの三人の娘たちが見えた。

「リュイ!」

と、アリュセアが叫んだ。

 声のする方を三人の娘たちが見て行こうとすると、まるで見えない壁のようなものにぶつかった。

(まだだ)

(何を言っているの?)

(俺はまだ、霧状態のままだ)

(でも、それがあなたのいつもの状態ではないの?)

 タリアは暗黒星雲の種族は人間の姿ではなく、霧状であるのが本来の姿であると聞いていた。

(まだ人間の姿に固まらないのだ)

(人間の姿になりたいということなの?でも、それはあなたの本来の姿ではないでしょう?)

(今は人間の姿になりたいのだ。なぜ、俺は自分の望みの姿を取れないのだ?)

(そんなことを言っても、私がやっているわけではないわ。何が原因かあなたはわからないのかしら?)

(何かが、それを阻んでいるのだ。一体誰がこんなことを……)

 そのTPの声はアリュセアにも聞こえていた。彼女にはタリアほどの透視能力はないが、予知や過去知能力は強かった。そこでリード・マンドの最近の様子を見てみると、ノルド・ギャビがアルネ・ユウキとヘイダール要塞の記憶保管所に行く時にこっそりと後を付けているのを見つけた。そこで彼が誰に会ったのか、わかった。

(なるほど、彼に会ったのね……)

(彼?誰のことだ)

(あなたが、あそこで会った人物よ。誰だか知らないの?)

(俺は知らん。あんな奴にこれまで会ったこともない)

(でも、変ね。どうして彼が居たのかしら?)

 彼とは、リード・マンドがあの時あった男のことだった。アリュセアはそれが誰だか知っているのだった。


384.

 野菜が元に戻って中に閉じ込められていた者たちが出ようとして、何か壁にぶつかったのをジェルス・ホプスキン刑事も多くの観衆と共に見ていた。ただ、そこに彼の探している人物が見えなかった。

「奴はどこにいるのだ?」

「いるわよ、あそこに、薄い霧状のもの、あれが暗黒星雲の種族の本来の姿だわ」

と、アリュセアが言った。

「それでは人間ではないというのか?」

「知的生物であることは確かね。それもここら辺の文明よりも高度だわ。ただ、彼らは肉体を持つことを止めてしまったのよ」

「何故だ?」

「それは、不老不死でありたいからでしょうね」

「不老不死だって?そんなものが本当にあるのか?」

「不老不死自体はそんなに珍しくないと思うわ。ただ、この宇宙空間で肉体を持っていると、時の流れがあるので不老不死でいるのは難しい。けれども、肉体が無ければ不老不死なのはどこでも普通の事だわ」

「肉体がなければ、存在していないのと同じではないか」

「そんなことはないわ。肉体が無くても存在は可能なの。それでなくても、三次元を超えた宇宙では、肉体などはないのよ」

「三次元を超えた宇宙?そんなものがあるのか?」

「そうね、例えばこの要塞で聞いた事があると思うけれど、ここには『レギオンの城』というのがあって、それは三次元ではなくて、四次元と三次元の中間くらいの次元にあるのよ。だから、この要塞と同じ場所でも存在できるわけ。ただし、存在しているけれど、目には見えないし、要塞の探知装置にも引っかからないから、これまでこの要塞にいた銀河帝国軍の人達は『レギオンの城』の存在は知らなかったはず」

「私にはそんな難しいことはわからない。だが、例えば宇宙船で言えばワープ航行がそれに当たるのだろうか?」

「そうね。ワープは異次元の宇宙を通って移動するものだから、そうよ」

「例の奴がいるとすると、野菜の中にいた連中が動けないのは、そいつが何かしていると言うことか?」

「だと思う。でも、いつまでもそうはいかないけれどね」

 アリュセアは要塞の近くにいるあのエネルギーを吸収する怪物にだけわかるように、TPで連絡を取った。そうしないと暗黒星雲の種族に気づかれてしまうからである。

(力を貸してくれない?)

(ナニヲスレバイイノダ?ソレハ、ヒトノヤクニタツコトカ)

(もちろんよ。今映像をあなたに送るわね)

 アリュセアはTPで目の前にある光景を、怪物に送った。

(あそこに何がいるのかわかる?)

(ニンゲント、ナニカニンゲンデハナイモノガイル)

(その人間ではないモノというのは、ここら辺の銀河宇宙では悪名高い『暗黒星雲の種族』の一人なの。彼はとても多くのエネルギーを持っていて、しかもそれを困ったことに使うので私たちは迷惑しているの。それで、あなたに彼のエネルギーを少々減らして欲しいのだけど、できるかしら?)

(ソイツノエネルギーヲトッテモイイノカ?)

(ただし、存在が消えない程度にしてね。彼を弱くしてもらいたいだけなの。そうしなければ、彼はとても危険なのよ)

(ワカッタ、ヤッテミル)

 その言葉が終わると同時に、見えない壁のようなものがあった場所に歪みが生じた。まるで陽炎が生じたようにゆらゆらとエネルギーが揺れているのだ。

「こ、これは!誰だ、こんなことをするのは!」

 タリア・トンブンも驚いていた。リード・マンドの声が苦しそうに聞こえたのだ。

「どうしたの?何が起きているの?」

「タリア、壁がなくなったかどうかやってみて!」

と、アリュセアが叫んだ。

 しばらく陽炎のようなものが生じていたが、それがぱたりと止んだ。タリアにはあの見えない壁が消えたのはわかったが、用心して近付いて行って、そっと手を伸ばすと壁は無くなっていて手が突き抜けた。こうしないと、イズルカ・ギャビとその子供達やアリュセアの娘たちにわからないからだ。

「もう大丈夫だわ」

と、タリアは彼らに言った。

 イズルカ・ギャビはホッとして、その場に座り込んでしまった。

「ママ、大丈夫?」

と、シターラが心配そうに見て言った。

「ええ。ちょっと疲れただけよ」

 アリュセアの三人の娘たちは、タリアに駆け寄って行った。

「どうなるかと思ったわ」

と、長女のリゼラが言った。

 次女のアリンも野菜から出られたのにホッとしていたが、ただリュイは何かを見ているようだった。

「ママ、あれは何なの?」

「え、何って何のこと?」

「ええと、要塞の近くに浮かんでいる妙な金属製の物の事。何だか、生きているような変なもの」

「ああ、それは最近要塞にやって来たエネルギーを吸収する兵器よ」

「兵器?まるで生物のような感じがするのだけれど」

「そうね、生物とは言えなくもないけれど、生物とは言えないわ」

「ママったら、それじゃ何のことだかわからないわ」

と、リゼラが言った。

 リュイには何かが存在しているのがわかるのだが、リゼラやアリンには怪物のことはわからなかった。

「ママ、リュイの言ったように本当に何かいるわ」

と、シターラが言った。

「あら、分かるの?」

と、アリュセアが驚いて言った。

 その時ジュネシスが言った。

「私の箱がない!」

「ああ、そのことは、後にしましょう」

と、母親のイズルカ・ギャビが言った。彼女には箱のことなどどうでもよかった。ただ子供達とともに無事だったことに感謝していたのだ。

「でも、あれは大切なもの……」

 あくまでジュネシスは箱に拘っていた。その拘りがどこか妙にアリュセアには感じられた。

「ジュネシス、あの箱はあなたのものなの?」

と、アリュセアは聞いた。

「起きた時に枕の傍にあったの……」

「そう言えば、あれは誰が持ってきたのかしら。私は夫がジュネシスにプレゼントしたのかと思ったけれど、この子だけにやるのは変だわ。いつもシターラにも一緒に贈るのに……」

 そんな時、一旦は薄くなっていた霧がだんだんと濃くなってきた。

「気をつけて、アリュセア。あいつが力を盛り返しているようだわ」

と、タリアが警戒を促した。

 一旦は弱ったリード・マンドだったが、すぐに自分のエネルギーを回復していた。だが、まだ霧状の儘だった。



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