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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
74/153

ダルシア帝国の継承者

361.

 大昔にふたご銀河のロル星団にやって来たアルフ族は魔法に通じていただけではなく、科学技術が高度に発達していた。

 彼らの科学技術は現代の兵器としても十分使えるものだった。これは古代の兵器が残されているからわかることである。だが、魔法の方は同じようには行かなかった。魔法を使う者が途絶えた時点で、その魔法を受け継ぐことはできなくなるのだ。もちろん、書物や他のデータのような形でその知識や呪文を残すことはできた。だが、本来の使い方――発動の仕方についてはわからなくなってしまうのだ。

 ふたご銀河のジル星団のガンダルフの魔法使いは、その点を特殊な方法で解決していた。

 それは、前世の記憶を思い出させるということだ。そのための呪文もあった。だから、ガンダルフの魔法は魔法使いが死んでも、次に生まれ変わった者が魔法を思い出した時点で再び継続が可能なのだった。これは記憶と言うものが、人間の脳にあるのではなく、別の場所にあることを意味していた。なぜならすでに遺体は焼かれていても次に生まれ変わって来た時に、前の時の記憶が残っているからだ。

 もっとも、このことが可能であるのは原則としてガンダルフの五大魔法使いと呼ばれる者達だけである。前世の記憶を呼び覚ます特殊な呪文が必要だからだ。その呪文があれば誰でも記憶は呼び覚ますことは可能だった。従ってその呪文はガンダルフの魔法使いの秘中の秘であり、普通の魔法使いではその呪文を知る者はいなかった。

 アルフ族がガンダルフの魔法使いのような方法を取らなかったのは、一つには彼らの寿命がかのダルシア人のように長かったからでもある。人によっては数千年を超えて一万年を超える者もあったという。一方ガンダルフの魔法使いは長くて百五十年ほどだった。だからこそ、生まれ変わっても記憶を思い出すという方法を編み出したのだ。


 ヴォルガスは惑星ゼンダの商業用宇宙港を見ていた。その光景を総督の部屋の窓に映してもいた。

「そう言えば、先ほどまで宇宙港のあたりには雷が鳴っていたようですね」

と、フォルガ・ドル少将が何気なく言った。

「あら、そうだった?」

と、ブレイス少佐が言った。

 ゼンダに近付いてくると言う三角錐の艦隊の方に気を取られていたブレイス少佐は、そのことに気づいていなかった。そちらの方は、アルフ族の古代兵器によって、何とか撃退することが出来た。だが、宇宙港の方はそう簡単にはいきそうになかった。

 艦の数は少ないが、宇宙港には市民たちが大勢詰めかけているのだ。彼らの事も考えなければならない。

 ヴォルガスは何か考えるようにブレイス少佐を振り返ってみた。

 ロル星団のアルフ族はすでに何百万年も前に滅んでいた。彼らの一部はジル星団へ逃げてアルフ族の魔法を多少なりともガンダルフの魔法使いに伝えていた。だが、ロル星団のアルフ族の文明は完全になくなったのだ。大地が鳴動し、恒星が不穏な光を放った時、彼らは最後の時を迎えた、とダルシアの古い記録に残っていた。

 その後、生き残った人々が何度か文明を立ち上げたが、宇宙文明までは至らなかった。まして、魔法の文明など現れなかった。魔法と言うものを、まるで禁忌のように本能的に彼らアルフ族の末裔たちは感じていたのだ。だから、これまで魔法という香りのする特殊能力さえ、忌み嫌うようなことがあったのだ。だからそうした者達は社会の端の端に追いやられていた。その存在さえ、否定するのが当然なのだった。

 宇宙文明に達した銀河帝国でさえも、それはあった。ほんの五百年ほど前であるが、その創世期には特殊能力者がかなりの迫害を受けたと記録にある。

 そして、政治主義の違いを嫌う銀河帝国から逃れた人々がやってきた惑星ゼンダには、少なからず特殊能力者も交じっていたのだ。彼らは公には自分の能力のことは隠していたのであからさまには記録に残ってはいない。ただ記録の端々に、妙な事象が起きたと言うことだけが記されていた。

 実はヴォルガスはある秘密を教えられていた。これはリドス連邦王国の女王陛下やダルシア帝国のライアガルプス皇帝陛下しかわからない秘密だった。それは、リーリアン・ブレイス少佐の秘密だった。彼女の過去世である。最近のことではない。何百万年も前の古代のアルフ族の時代のブレイス少佐のことだ。

 アルフ族は高度な科学技術を持っていただけではなく、魔法にも長けていた。その魔法はガンダルフの魔法とは多少異なっていた。彼らは念力が魔法の力の基本であることを知っていたが、他の力も魔法に取り入れていたのだ。自然のエネルギーや次元の違う空間のエネルギーをも、呪文を使って引き出し、使うことができたのだ。

 ブレイス少佐はその昔、アルフ族であった時にそうした力を使うことに長けていたのだ。だが、今の彼女は普通の人間として、生まれ生きて来た。魔法使いでもない、特殊能力者でもない、何の力もない普通の人間として、何世代もの間生まれ変わって来たのだ。

 だが、ヘイダール要塞で彼女は霊を見る力を蘇らせていた。これまでそうした力はなかったのに。突然その力が出て来たのだ。それは単に、かつての力が蘇りつつあるということであった。何もない所に、力は出てこない。元々あった力が、隠されていて忘れられていた力があるからこそ、ついに出て来たのである。それは必要だからこそ出て来たものでもある。

 ヴォルガスはそのことについて、彼女の長であるサラマンダーやガンダルフの魔法使いから話を聞いていた。

 アルフ族がロル星団で滅びて数百万年の月日が流れた。その間、魔法を使う文明は育たなかった。とはいえ、そうした力があると言うことは極秘に伝えられてはいたのだ。つまり、文明の片隅でまるで非合法なことのように、魔法や特殊能力は扱われていた。それが公に当然のものとして、ましてや学問や研究の対象になるなど、あり得なかっただけである。

 この忘れられた力を思い出させるということは、難しいことだった。自分でも何百万年も前の記憶を辿ることは容易ではないのだ。それを他の者にさせるのは、甚だ困難なことなのだ。その上、時間がない。できれば、今すぐにでも必要なのだ。従って万一の時は、この呪文を使うと良いとガンダルフの魔法使いレギオンは言って、一つの呪文をヴォルガスに与えた。

 ダルシア人は魔法の呪文を普段は使わないが、それは使えないと言うことではない。普段は使う必要がないから使わないのだが、この場合は別だった。ただ、これを使ったからと言って、成功するとは言えない、と注意したのは銀の月だった。あまりにも、ブレイス少佐の魂が、魔法を使うことを嫌がった場合、魔法の呪文は効かないというのだ。ただ、かつての自分の姿を思い出す可能性はあるということだった。

 今が、その時なのだろうか、とヴォルガスは思った。かつての力を思い出すことがブレイス少佐を変えてしまう可能性もある。それが、どう変わるかもわからないのだ。

 彼女にとっては珍しく、決断に迷いが生じた。

 その時、

(急いで!)

と、心の中に声が聞こえた。

(誰だ?)

(私だよ!私だ!)

 ヴォルガスは周囲に神経を研ぎ澄ませた。何かが近くにいるのだ。見えない何かが。そして、ブレイス少佐を見た時、そこに在りし日の彼女の姿を見た、とヴォルガスは思った。

 銀色の長い髪が風になびいていた。今のブレイス少佐とは似ても似つかない、あのかつてのアルフ族の姿があった。確かに人間族の姿形を取っていたが、ふたご銀河に最初にやってきたアルフ族は背丈は今の倍で、耳が長くとがっていた。頭には触手のようなものが二本付いており、その目はまるでダルシア人のように、鋭く光っていた。

(おまえは……)

 それが何者であるか、ヴォルガスは覚えていた。

(あのクローブ・ガイン少佐なるものが、最後の賭けに出た。力を振り絞って、市民たちに三角錐の艦に乗るように呼びかけている)

(何だと!)

 まずい、とヴォルガスは思った。もう迷っている暇はない。

(ジード・フォルディガ、ノルヴォルド・ルグフォロウ……)

と、ヴォルガスは心の中で呪文を唱えた。

 すると、ブレイス少佐は急にヴォルガスを見て、

「何をしたの?」

と、驚いたように言った。

 ヴォルガスはまだ呪文を唱えていた。これはブレイス少佐が変化を終えるまで唱える必要があるとガンダルフの魔法使いレギオンが言ったからだ。

 ブレイス少佐はウッと唸って、胸を押さえた。

「どうしたんです?」

と、驚いてフォルガ・ドル少将は言った。

 更にヴォルガスが呪文を続けると、彼女は苦し気に喘いだ。

 さすがにリューゲル・ブブロフ総督も異変に気づいて、ブレイス少佐を見た。

「どうしたのだ?具合が悪いのか?」

 突然苦しみだしたブレイス少佐に総督もフォルガ・ドルも為す術もなかった。いったい何があったのだろう、と顔を見合わせるだけしかできない。しかしそれは長くは続かなかった。やがて落ち着いてきたブレイス少佐は、窓に映っている宇宙港の様子を食い入るように見た。

 ヴォルガスはブレイス少佐がかつての自分を思い出したのか自信はなかった。だが、その目に宿った力にいち早く気づいた。そして、かつてのアルフ族の魔法の遣い手に彼の名で呼びかけた。

(どうするのだ?ジードよ、アルフの風の王よ)

「この星はわが故郷と定めし地。ここから我が同胞を連れ去ることは許されぬ。あの者達に目にモノを見せてくれよう!」

と、ブレイス少佐は怒りを込めた低い声で言い放った。

 他の二人、リューゲル・ブブロフ総督とフォルガ・ドル少将は何が起きているのかわからなかった。ただ、ブレイス少佐の変わりように驚いて見ているだけである。

 風が吹き始めた。政庁のビルの中でもわかるほど強い風だった。その風が上空に雲を運んできた。辺りが暗くなると、暗い空のあちこちで稲妻が走り始めた。

「どうしたんでしょう。先ほどは宇宙港の方で雷が鳴っていたようでしたが、今度はこちらに来たようですね」

と、フォルガ・ドルがのんびりとして口調で言った。

「雷?」

と言うと、ブレイス少佐が笑顔を見せた。

 先ほど宇宙港で鳴った雷は、惑星ゼンダを守る古代のアルフ族の霊たちが警告として出したものだった。宇宙港に操られて集められた市民たちに、我を取り戻させるために起こしたものだった。だが、今度の雷は違う。

 吹いている風が、次第に更に強くなった。

「ワアッ、総督、あれを見て下さい!」

と、フォルガ・ドルが指さして叫んだ。

 見ると、遠くから黒い竜巻が近づいてくるのが見えた。

「竜巻か?しかし、なぜ今、今朝の気象予報にはなかったはずだ」

と、リューゲル・ブブロフ総督が言った。

 不思議なことに竜巻は都市の高層ビルを避けて、器用に道路上を移動してきた。しかもその数が尋常ではない。そして、その行く先には宇宙港があると思われた。

「あの竜巻は、宇宙港に向かっているとしか思えません」

 まるで意志を持っているかのように、竜巻は動いていた。その数も両手では効かない程だ。


「何、竜巻が近づいているだと!」

 クローブ・ガイン少佐は、過度の集中を邪魔されて不機嫌に言った。だが、すぐにそれどころではないことに気が付いた。これでは三角錐の艦に市民を乗せる暇がない。あの竜巻が過ぎてしまうまでは待つしかないのだ。いかに三角錐の艦が優れているとはいえ、自然の猛威に抗することは不可能だった。できれば、離陸させて竜巻から避難させたいが、宇宙港の上空には銀河帝国の艦隊がいると思われた。それに三角錐の艦隊の方も安否が不明だった。ともかく、この宇宙港で竜巻をやり過ごすほかはない。

 市民たちも竜巻が近づいていることに気づいていた。多少騒ぎもあったが、次第に静かになって行った。例え宇宙文明であったとしても、竜巻を甘くみることはできなかった。宇宙港の建造物は竜巻に遭って果たして無事であろうかと不安を感じたていた。この竜巻の脅威によってクローブ・ガインによって操られた者達は、完全にそのコントロール下から脱したと言える。

 惑星ゼンダでは、竜巻が起きるのは年に一度か二度のことだった。それに竜巻が起きやすい季節もある。今は夏の終わりであり、確かに竜巻の起きやすい季節であったが、情報によると、十を超える竜巻が宇宙港に迫って来ているという。それほどの数の竜巻がこれまで一度に起きたことなどはない。

 クローブ・ガイン少佐は窓から近づいてくる竜巻を見ていた。今はどうにも動けない。あの竜巻が通り過ぎてしまうまでは。三角錐の艦に竜巻が近づくことのないように願うしかない。もっとも竜巻を見た市民たちが最初は狼狽えて騒いでいたが、今はその騒ぎも落ち着いており、竜巻が去るのを待っていることに多少安堵していた。


362.

 こんなにすぐ間近に竜巻を見るなんてもうないだろう、とフォルガ・ドル少将は思った。窓ガラスには周囲から宇宙港目指して移動している竜巻が映じていた。政庁ビルの上空から宇宙港一帯を映しているような映像だった。

 その時、竜巻が一つ彼の目の前、つまり総督の部屋の窓の前をゴォーッと風の音を轟かせて過ぎて行った。一瞬窓が壊れて竜巻に巻き込まれるのではないかと思ったが、そんなことは起きなかった。まるで何かに操られているように、竜巻は一定の方向に向かっている。その先にあるのは宇宙港なのだ。

「いったい、こんなに多くの竜巻が起きるなんてありうるのでしょうか?」

と、フォルガ・ドル少将は言った。

「さあ、惑星ゼンダに来てもう二年は経つが、こんなことは初めてだ。一つや二つの竜巻はよく見るが、これほどの数は見たことがない。しかし、竜巻は宇宙港の方へ向かっているように思えるが、大丈夫だろうか」

 リューゲル・ブブロフ総督が心配しているのは、宇宙港へ集結している市民たちとその管理棟である。いくら今のご時世とは言え、竜巻の直撃を受けたらただでは済むまい。もっとも宇宙港に着陸しているあの妙な三角錐の艦を直撃するなら願ったりかなったりだが、そうこちらの思う通りには行かないものだ。

 ふと、フォルガ・ドルはブレイス少佐を見た。彼女は先ほど具合が悪そうなそぶりを見せたが、今は落ち着いていた。その目には同じく竜巻が映っている。その時、彼はヴォルガスが言ったことを思い出した。

「あの、ジード、と言うのは何のことですか?」

(ジードか?それは古代アルフ族にいた風の王と呼ばれる強力な風の力の使い手だ)

「まさか、ここにその人がいるのですか?」

(いるとも、だから私がその名を口にしたのだ。もうここでは誰もその名を知る者はいないのでな……)

「それは、もしかして私のことではないですよね。そんな力がないことはわかります。もしかして、総督ですか?」

(いいや、どちらも違う)

「では、どこにいるのです?」

(そこにいるではないか。リーリアン・ブレイス少佐だ!)

「え?でも、ブレイス少佐は女性ですよ」

 王というのは、銀河帝国や元新世紀共和国でも男性名詞だ。だから、女王と言うべきだと思って彼は言った。

「それなら風の女王ではないですか?」

(何を言っているか。風の王は風の王。女王ではない。つまりだ、古代アルフ族の風の王とは男性、男だったのだ)

「ブレイス少佐が男だった?」

 フォルガ・ドル少将はまじまじとブレイス少佐を見た。

(何を見ている。今のブレイス少佐は女性だ。失礼だろう)

「でも、急に男だったなどと言われると、びっくりしてしまいます」

(なぜ驚く。今は女性でも昔は男だったのだ。そんなに驚くことだろうか?それは、お前もそこの総督も同じなのだぞ……)

「まさか……」

(ここで、生まれ変わりの話をしている暇などない。一つだけ言っておくが、お前だって女に生まれたことはあるのだ。常に男に生まれると言うことはないのだ)

「しかし……」

(つまり、霊というのは生まれる時に一つの性に生まれるのであって、その記憶があるから死んだ後も自分は男性や女性だと思っているに過ぎない。本来はそうしたものはないのだと考えればよいのだ)

 そんな話をしている間に、竜巻は次第に宇宙港に集まりつつあった。

「あの、もしかしてそのジードは竜巻を起して、宇宙港に集めているのですか?」

(そうだ。お前の想像通りだ。そして、狙っているのはあの三角錐の艦だ)

「竜巻を起して、それをコントロールできるというのか?」

と、驚いて総督は言った。

(あの艦を破壊しなければ、市民たちが拉致されてしまうではないか……)

 総督とフォルガ・ドルは信じられないと顔を見合わせた。竜巻を起すことすら想像しがたいのに、それをあれほどの数コントロールできると言うのは、驚くべきことだった。

(かつてのアルフ族なら、あれぐらいは大したことではあるまい。もちろん、風の王にとってはだが。それぐらいの力の持ち主は他にもいたからな)


 宇宙港にやって来た竜巻は、続々とそこに着陸していた三角錐の艦の方へ来た。風の轟くような音が重なって行く。そして、二つの竜巻が近寄るとそこにあった三角錐の艦が鈍い音を出して真っ二つに裂けた。そうした光景が宇宙港のあちこちで起き、三角錐の艦は二つに避けた後、別の竜巻に巻き上げられ粉々に吹っ飛んだ。

「艦が……、こんなバカな……」

 クローブ・ガイン少佐はその光景を見て、この世の終わりのような気分を味わった。宇宙港に着陸していた三角錐の艦は全て粉微塵になっていた。作戦は失敗に終わったのだ。

 このあまりにも恐ろしい光景に宇宙港にいた人々は立ち尽くしていた。


 窓に映じた宇宙港に光景に、総督とフォルガ・ドル少将はそこの人々と同じ気持ちを味わっていた。

「これでいいだろう。私は戻ることにする」

と、ブレイス少佐は言うと、その場に頽れた。

「ブレイス少佐、……」

 急いで助け起こしたフォルガ・ドルは、

「あ、あのブレイス少佐ですよね」

と、念を押した。

「え?ええ、そうよ。私、どうしたのかしら。急に力が抜けてしまったみたい」

 彼女は、いつもの少佐に戻っていた。

「まあ、見て!宇宙港にいたあの三角錐の艦が破壊されている。どうしたのかしら?」

「あの、本当にブレイス少佐ですよね」

と、三度フォルガ・ドルは言った。

「そうよ。それよりも、あれはどうしたのかしら?それに、竜巻は?あんなにたくさんの数の竜巻は?」

 宇宙港に集まっていた竜巻は、三角錐の艦を破壊した後、自然に消滅したようだった。まるで、ブレイス少佐が元に戻ったので消えたようにも思えた。

「ええと、見てなかったのですか?ずっとそこに立っていたのに……」

「それが、覚えていないの。どうしたのかしら。竜巻がたくさんやって来たのは覚えているのだけれど……」

(さて、宇宙港の方では艦は無くなったが、クローブ・ガイン少佐がいるだろう。そやつがまた何かをしでかすかもしれない)

 ヴォルガスの指摘に総督もクローブ・ガインの危険性に気づいて言った。

「フォルガ・ドル少将。誰か宇宙港へやって、クローブ・ガイン少佐を拘束するよう命じたまえ」

「は、はい」

 急な命令に狼狽えて、フォルガ・ドルは倒れているアルマイト・フォル中将に毛躓いて倒れた。

 アルマイト・フォルはその衝撃に目を開けた。

「私は、どうしたんだ?ここは?」

「アルマイト・フォル中将。目が覚めたか?」

と、リューゲル・ブブロフ総督は言った。

 慌てて起き上がると、アルマイト・フォルはあたりを見回した。だが、残念なことに後ろにいるダルシア人のヴォルガスは目に入らなかったようだ。ヴォルガスは大きすぎるので、まるで壁の続きのようにしか思わなかったのだ。

「ここは、総督の執務室でした。私はどうして倒れたのでしょうか?」

 ヴォルガスの前に立っているので、彼は自分が竜に驚いて気絶したのを忘れていた。

「何を言っているのだ?後ろを見て見ろ!」

 言われて今度はよく見て、彼はそこにとんでもないものがいることに気づいた。

「り、竜?」

と驚きの声を上げたアルマイト・フォルは、今度は気絶せずに済んだ。

「その竜を見て、卿は気絶したのだ。だが、今回は大丈夫なようだな……」

「わ、私が気絶、ですか?しかし、この竜はどうしてこんなところに。いえ、竜なんてどうしているのですか。しかもここは総督の部屋なのに……」

「アルマイト・フォル中将。竜のことは秘密だ。いいか、これは極秘事項だ。誰にも言うな!」

「は、了解しました」

 その時ブレイス少佐は見つからないようにヴォルガスの大きな身体の影に隠れていた。

「では、君は宇宙港にいるクローブ・ガイン少佐を拘束するために行ってきてほしい」

「私が、ですか?」

と、フォルガ・ドル少将を不満そうに見ながらアルマイト・フォル中将は言った。このような任務は中将の地位に有る者がする仕事ではないと考えたのだ。実際はそうなのだが、総督はこの場からアルマイト・フォルを追い出したかったのだ。だから、

「そうだ。奴はどうもどこかのスパイらしいのだ。今までそれをうまく隠していたのだ。だから、奴に騙されないしっかりとした人物に行ってもらいたいのだ」

と、総督は付け加えた。

「は、それなら私が適任です」

と、チラリとフォルガ・ドル少将を見て言った。

「らしいな。では、すぐに行きたまえ!」

「了解しました」

 アルマイト・フォルが出て行ってしまうと、

「彼だけで大丈夫でしょうか?」

と、隠れている場所から出て来て、ブレイス少佐が心配そうに言った。

「だが、他に人がいない」

(ここで宇宙港の奴を見ていれば何かあっても対処できるのではないか?)

「あら、向こうのクローブ・ガイン少佐のことも映せるの?」

(できないことはない)

 クローブ・ガイン少佐が人の心を操る力を持っているようなので、彼女は心配なのだ。その力を使えば、簡単に逃げることが可能だろう。

(それについては、この地の精霊に頼むと良いと思う)

「精霊?童話に出てくるようなものかしら?」

(少し違う。彼らは古代のアルフ族の息吹とも言える。つまり古代のアルフ族の霊でもある。長いことこの世に生まれてこないで、向こうの次元の世界で生活している。彼らはこの惑星が自分たちが生きやすい環境になった時に生まれてくるつもりなのだ。それまでこの惑星を彼らなりに守っているのだ)

 彼ら『精霊』の生き易い環境というのは、単に科学が高度に発達しているだけではなく、魔法など神秘な力を扱う術を持った文明のことだった。

「その精霊というのは、本当にいるのか?」

と、リューゲル・ブブロフ総督は聞いた。

 確かにいるはずのない竜がここに居て、竜巻をいくつも生じさせる力を持つ者もいる。だから、精霊などと言うものが居てもおかしくはない。だが、これまで彼はそんなものがいると聞いた事がないのだ。小さな子供の見る童話や絵本の世界の話だと思っていたのだ。

 現実にヘイダール要塞にいるはずの、指名手配になっているリーリアン・ブレイス少佐が目の前にいるのだが、総督は彼女を逮捕し拘束するという当然の義務を果たすことを躊躇っている自分に気づいた。もとより、あの竜巻を発生させ、コントロールするような人物を簡単に逮捕拘束することなどできるはずもない。それに、この竜がいる。竜はどうやらブレイス少佐の警護の任に当たっているようなのだ。

 ダルシア人のヴォルガスは総督の心の内を読んでいた。ダルシア人は強力なTPなのだ。余程強力なTPブロックの能力がなければ、その心の思いを隠すことはできない。

 窓にアルマイト・フォル中将の居る情景を映じさせながら、ヴォルガスは総督の心の内に気をつけていた。なぜなら、先ほどブレイス少佐に古代の風の王ジードが出てきた時、彼女の中にいた死んだ父親のブレイス大将の霊が追い出されたはずだからである。風の王ジードの光によって追い出されたのだ。あの時、ブレイス少佐が苦しそうに呻いたのはその所為だったのだ。彼は娘から追い出されて、おそらくこのリューゲル・ブブロフ総督の方へ移ったのではないかと考えていた。

(ところで、ブレイス大将のことだが、……)

と、ヴォルガスが言いかけると、総督が突然言った。


363.

「リリー、早くヘイダール要塞へ帰るんだ!」

「総督、どうされました?」

と、フォルガ・ドル少将が言った。

 先ほどまで、リューゲル・ブブロフ総督はブレイス少佐と呼んでいたのに、急に『リリー』と呼んだのだ。

「総督ではなくて、まさかお父様なの?」

「そうだ。私だ」

「お父様は私の方にいたはずでは?」

「あの時、あの光がまるで洪水のようにお前に入って来た時に、追い出されてしまったのだ。仕方なく、この男に入ったのだ。以前居たのでな……」

「光の洪水?何のことだかわかりませんが、それなら、また私の方に来てください」

「いや、私はこの総督の方がいい」

「それは困ります。総督をヘイダール要塞へ連れて行くわけには行きません。だから、お父様が私の方へ戻ってきてください」

「いや、私はこのままでいる」

「でも、またデモや暴動を起こすように市民たちを扇動するようなことをされては困ります。やっと、ここも静かになりそうなのに……」

 ブレイス大将の霊をヘイダール要塞に連れて帰るというのが、ブレイス少佐の本来の任務なのだ。

「もう、市民たちをデモや暴動を起こすように扇動するようなことはしない。それは約束する」

「では、どうしてですか?何か他にやり残したことがあるのですか?」

「この銀河帝国の連中では惑星ゼンダを守ることに不安だからだ」

「でも、我々以外の種族が入り込んでいたことは、誰も知らなかったことではありませんか?」

 銀河帝国や旧新世紀共和国の人々も、聞いた事もない連中が惑星ゼンダを狙っているなどと言うことは知らないのだ。

「そうかもしれない。だが、私にも何かできるのではないかと思ったのだ」

「それは悪いことではないけれど、でも……」

 困ってブレイス少佐はヴォルガスを見た。

(ふむ。君の父親の言うことも一理ある)

と言うのは事実だが、ヴォルガスは一旦他の者に憑いてしまった霊をそう簡単に追い出すことが出来ないことを知っていた。おそらくガンダルフの魔法使いにも出来ないだろう。もっとも一時的にはできるかも知れないが、長く引き離すことはできない。

「でも、この総督は悪い人ではないみたいだし、彼にとっては迷惑です」

「どうでしょうか?」

と、フォルガ・ドル少将は言った。

「あなたが、そんなことを言うなんて……」

「それなら、本人に聞いてみてはどうですか?」

「そんなことができるの?」

(できないことはない。リューゲル・ブブロフ総督とか言ったな、彼を呼び出してみよう…)

 ヴォルガスは強くリューゲル・ブブロフの名をTPの力を使って呼んだ。

(リューゲル・ブブロフ、リューゲル・ブブロフ総督、出てきてほしい。この今の状態をあなたはどう思っているのだろうか?)

「私は、すぐにブレイス大将に私から出て行ってほしいとは思ってはいない」

と、今度はリューゲル・ブブロフ総督自身が言った。

「どうしてですか?」

と、ブレイス少佐は驚いて聞いた。

「知りたいことがあるのだ」

と言うと、総督は黙ってしまった。

「でも、銀の月が死んだ霊がいつまでも生きている人間に憑いているのは良くないと言っていたわ」

「私はこのままここに居たいのだ」

 何か、ブレイス大将とリューゲル・ブブロフ総督の二人にはお互いに引きあうモノがあるのかもしれない、とヴォルガスは思った。何が似ているのかわからないが、今二人を引き離すことは難しそうだった。

(まあ、悪さをするわけではないようだから、もう少し時間を掛けたらどうだろうか?こちらもすぐに帰るわけではないし……)

 ブレイス少佐を乗せて来たホランド・アルガイの商船が惑星ゼンダに来るのは、あと五日後だった。

「わかったわ。もう少し帰るまで時間があるから、待ってみましょう」

(それよりも、宇宙港の様子をどうだろうか?)

 アルマイト・フォル中将に総督が命じたクローブ・ガイン少佐の拘束はうまく行ったのだろうか。


 宇宙港では我に返った市民たちは恐ろしい光景を見ることになった。彼らにとっては三角錐の艦は初めて見る形だったが、その艦がいくつもの竜巻に巻き込まれて破壊され、粉砕されて行く様を見ることになったのだ。

 クローブ・ガイン少佐はその有様を見て、これまでにない恐怖を感じていた。

 これは偶然ではない。偶然であれほどの数の竜巻が自然に発生すると考えることはできない。しかも艦を破壊するようにコントロールもしているのだ。だとすると、この種族にはあのようなことをする能力のある者がどこかにいることになる。これまで巧妙に銀河帝国軍の中に潜入していたが、そうした能力を持つ者がいると言う噂は聞かなかった。逆に特殊能力者はここでは迫害されると言うことを聞いた。それなのに、目の前で起きたことは確実にそうした能力者がいるという事実だった。

 これは大変なことだった。すぐさま彼の仲間に知らせねばなるまいとクローブ・ガインは考えた。しかし彼の仲間の艦隊は依然として連絡を絶ったままである。竜巻が着陸していた艦を破壊したことを考えると、もしかしたら艦隊はすでに全滅したかもしれなかった。あの竜巻をいくつも生じさせた能力者は数百隻の艦隊を全滅させるのも可能なのではないかと思った。

 そこへ突然やって来たのが、アルマイト・フォル中将だった。本来なら中将が自らこのようなところへ来ることはないはずだったのに、彼は特別に総督閣下から直接下命を受けて来たのだと言った。そして、

「クローブ・ガイン少佐を逮捕拘束せよ!」

と、士官や兵士たちに命じた。

「閣下、理由は?」

「そのようなことはお前たちに関係ないことだ。私は、総督閣下の命令を伝えに来ただけだ」

「しかし……」

 クローブ・ガイン少佐は案外兵士達には信頼のある士官だった。もちろん、それだけではない。アルマイト・フォル中将が命令を伝えると同時に、クローブ・ガインは自分の身を守るためにその力を使ったのだ。

 数人の兵士や士官がその力に操られて、ガイン少佐を守る居に出た。熱線銃を構えるとアルマイト・フォル中将を狙って撃つ者がいた。クローブ・ガインは他の者達に守られながら建物の外へ出ようと走った。

 かろうじて熱線銃で撃たれるのを免れると、

「何をしている。クローブ・ガインを捕まえるのだ!」

と、アルマイト・フォル中将は部下たちを叱咤した。

 直接総督閣下から下命のあったこの任務を失敗などしたら、目も当てられないと考え、彼は焦っていた。

 クローブ・ガインは建物の外へ出ると、傍にあった地上車に飛び乗った。

「何、逃げられただと!」

 報告を聞いたアルマイト・フォルは地団太を踏んだ。


「あれ?逃げられてしまいました」

と、フォルガ・ドル少将がいつもののんびりとした口調で言った。

「でも地上車よ。都市交通システムにアクセスして、地上車を政庁ビルに来させればいいのではないかしら?」

「なるほど、そう言う手がありましたね」

 フォルガ・ドルは都市交通システムセンターに連絡して、クローブ・ガインの乗った地上車を特定し、その車が政庁ビルへ向かうようにさせた。


「うん?どうしたんだ。どうして政庁ビルの方へ行く……」

と、クローブ・ガインは不審に思った。そして、都市交通システムセンターに誘導されていると知って、自ら地上車を運転することにした。


「しまった。気づかれてしまいました」

と、フォルガ・ドルは言った。

 クローブ・ガインの乗った地上車が都市交通システムセンターの誘導を切って、勝手な方向へ向かったと連絡が来たのだ。

「仕方あるまい」

と、総督が言った。

 クローブ・ガイン一人では大したことはできまい、と彼は思ったのだ。

(いや、危険になりうる。奴の能力を考えると、このゼンダでまたデモや暴動を引き起す可能性がある)

と、ヴォルガスが警鐘を鳴らした。

「その時は、草の根をかき分けても奴を捕まえる。今は宇宙港の市民たちが安全に元の自分の居場所に戻れるようにすることが肝要だ」

 宇宙港にいる市民たちは少しずつ、宇宙港から出て行きつつあった。彼らはなぜ、こんなところに来たのか不思議がっていた。後日彼らに聞いてみると、いつの間にか竜巻に追われて多くの市民たちが宇宙港に集まり、そこで竜巻が収まるのを待っていたことになっていた。それは宇宙港の職員も兵士や士官たちも同じように答えた。そして、あの竜巻で破壊され粉砕された、どこのモノとも知れぬ三角錐の艦の事を覚えている者はいなかった。



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