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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
72/153

ふたご銀河の物語 ダ帝(355-)

355.

 ヘイダール要塞にリドス連邦王国の辺境宙域パトロール艦から急報があった。元新世紀共和国の首都星ゼンダに三角錐の艦隊百隻程が向かっていると言うのだ。

「三角錐の艦隊?あのハイレン人の艦隊なのか?」

と、ナル・クルム司令官代理が言った。

「それはどうでしょうか?ヘイダール要塞に現れた三角錐の艦隊はハイレン人のモノでしたが、惑星ゼンダに現れた艦隊がハイレンのモノだとは断定できません」

と、銀の月――ベルンハルト・バルザス提督は言った。

 ハイレン連邦の艦の形状は元々球形で、ワープ航法はともかく通常航行ではあまり速度の出にくい形というのが特徴的な印象である。それがなぜ今までと異なった形状の、三角錐の艦隊をハイレン連邦が擁していたのかは不明だった。

「それに、その艦隊には三角錐だけではなくて、他の形状の艦もあると言う話だ」

と、ガンダルフの魔法使いレギオン――ダールマン提督は言った。その口ぶりは、何か他にも言いたいことがありそうだった。

「それはどういうことでしょうか?」

と、ヤム・ディポック提督が聞いた。

 惑星ゼンダには目下、リーリアン・ブレイス少佐が潜入しているのだ。しかもたった一人で。彼女の身に危険が迫っているかもしれなかった。ディポックはそれを思うと気が気ではない。

「帝国軍は何をしているのです?」

と、ダズ・アルグ提督が聞いた。

「あの三角錐の艦隊が相手では、帝国艦隊は役に立たないだろう。我々としては、戦闘を回避して避難してくれた方が望ましい」

「しかし、惑星ゼンダの市民たちはどうするのですか?」

「あの艦隊の目的がまだはっきりとはしない。何を目的としてやって来るのか。それは向こうにいるブレイス少佐からの報告待ちだ」

 そこに突然魔法陣が浮かび上がった。それは通信用の魔法陣で、惑星ゼンダに行ったブレイス少佐からだった。

「何かありましたか?」

と、銀の月が聞いた。

 魔法陣の中にブレイス少佐の顔が浮かんだ。

「ゼンダの市民たちの動きが変なのです。まだ暗くないのに、多くの市民たちが宇宙港へ向かっているのです」

「宇宙港?船に乗るためですか?」

「それが、よくわからないのです。彼らの表情もどこか無表情で、何かに操られているようにも思えます」

「ところで、そちらへ、三角錐の艦隊が向かっていることはご存じですか?」

「三角錐の艦隊?ハイレン連邦の艦隊ですか?」

「それが、所属はわからないのです。ただ、向かっていることは確かです」

と、銀の月が言うと、突然割って入って来た者がいた。

「それなら、総督閣下の所へも報告が来ています。所属不明の艦隊がやって来たと聞きました」

「君は誰かな?」

と、突然の事であるのに以外に冷静に銀の月は聞いた。

「私は、帝国軍のフォルガ・ドル少将です」

「え?」

 さすがに、銀の月も驚いて絶句した。まさかブレイス少佐が帝国軍の将官と一緒にいるとは想像できなかったのだ。

 魔法陣の通信は、司令室にいる者達にも聞こえていた。一瞬、司令室の中は沈黙した。向こうでは一体何が起きているのだろうか、と不安が募るばかりだった。

 フォルガ・ドル少将の顔が魔法陣に浮かんだ。そして、向こうにも銀の月の顔が見えているはずだった。だが、彼には銀の月、元帝国軍のバルザス提督の顔はわからないようだった。軍服がリドス連邦王国のモノだったからかもしれない。

「あ、あの、彼は私たちに協力してくれているのです。それに、彼にはヴォルガスや父の霊が見えるようなのです」

「ほう、帝国軍に他にもそんな特殊能力者がいるとは、気が付きませんでした」

「その、ハイレン連邦と言うのはどこの国ですか?」

「ハイレン連邦はジル星団にある」

「ゼンダに近付いてきている艦隊は、そこの艦隊なのですか?」

「いや、我々の推測ではおそらく違うと考えている。彼らはあちこちの銀河で住民を拉致している常習犯だと思われるフシがある」

「あちこちの銀河?他所の銀河に、そんなに簡単に行けるのですか?」

「彼らは行けるのだよ。銀河間の航行は普通のワープ航法では時間が掛かり過ぎるから別の方法で行くのだ」

 それがジル星団でよく使われるジャンプ・ゲートを使ったものであることは、銀の月は話さなかった。

 けれども三角錐の艦隊について、銀の月はこれまでに分かったことや、推測できることを一頻り話した。向こうでは何が起きているのかわからなかったから、できるだけ情報を与えて判断材料を増やしてやりたかったのである。

 そして、その話が済んだ後、

「済みません話がそれてしまって、父については確かにリューゲル・ブブロフ総督に憑いていました。ですが、今は私たちとここに居ます」

と、ブレイス少佐が言った。

「そこはゼンダの政庁のビルの中ですか?」

「そうです」

「つまり、ブレイス大将が亡くなった場所と言う訳ですね」

「それは何か意味があるのですか?」

「自殺した場合、普通は自分の死んだ場所から離れられなくなるのです。所謂地縛霊になるのです。ただ、その人物に非常に縁のある人が来た場合、つまりあなたですが、あなたに付いて移動することが可能になります」

「と言うことは、このまま私がそちらへ帰れば父を連れて帰れるということですね?」

「そうです」

「でも、その前に市民たちの行動が何を意味しているのか心配です」

 ブレイス少佐は市民たちの事を心配していた。元新世紀共和国が突然なくなってから、惑星ゼンダの状況は混とんとしていたのだ。力ずくで遭ったとしても、総督がそれを何とかしようとしていたわけである。それに元新世紀共和国の艦隊はない。あるのは銀河帝国の惑星ゼンダの駐留艦隊だけである。それでも三万近くの艦隊になる。それがどれだけあの三角錐の艦隊に効果があるのかはわからないが。

「確かに、まあ迎えに行く船もすぐにそちらへ着くわけではありませんから、状況を見定めて見たらどうですか?それに三角錐の艦隊がそちらへ着けばどうするつもりかわかるでしょうし……」

 もっともそうなってからでは、もう遅いのだが。少なくとも、ヴォルガスがいるのでブレイス少佐の身の安全を測ることはできるはずだった。

「わかりました。私も宇宙港へ行ってみます」

 魔法陣が次第に消えて行った。通信が終了したということだ。

「たった一人で、ブレイス少佐は大丈夫かな?」

と、ダズ・アルグ提督が言った。

「一人ではない。ちゃんと警護にヴォルガスを付けている」

と、ダールマン提督が言った。

「しかし、一緒にいたフォルガ・ドル少将というのはどんな人物なのでしょうか?」

と、グリンが珍しく心配そうに言った。

「さあ、私も同じ軍にいたが、帝国では少将など数が多くて全部覚えているわけではない。ただ、僅かな会話だったが、あまり軍で有能とされていないと思う」

「なぜですか?」

「彼はヴォルガスやブレイス大将が見えるということだった。そうした力は軍ではあまり役に立たないからだ。返ってそのような力があることを知られることは危険だと思う」

「すると、あのフォルガ・ドル少将は自分の力を今まで隠していたと言うことでしょうか?」

「おそらく、他の者に話したことはないだろう」

「私はそれよりも、三角錐の艦隊が気になる」

と、クルム司令官代理が言った。

「そうですね、それに三角錐の艦隊があなたの推測通り、市民たちの拉致を目的としているとしたら、ブレイス少佐だけで事態を収拾できるとは到底思えません」

と、グリンが言った。

「だが、リドス連邦王国の艦隊を惑星ゼンダに派遣することはできまい。あそこは銀河帝国の領土なのだから……」

「ヘイダール要塞の駐留艦隊を送っては?」

「あの三角錐の艦隊が惑星ゼンダに着くのはあと一、二時間後だ。とても間に合うまい。それにこちらの艦隊が現れたとなると、他の危険が増す」

 リドス連邦王国は銀河帝国の皇帝がいずれヘイダール要塞に、帝国艦隊を率いてやって来ることを望んでいたが、それにはまだ時期が早すぎるのだ。

「では、どうすればいいのです?」

「だから、ヴォルガスが一緒にいると言っているではないか。彼女に任せるしかない」

「ですが、ダルシア人とは言え、現在は幽霊のようなものではありませんか?彼、いえ彼女に何ができるのです?」

「まあ、方法がないわけではない。それに、あそこはかつてアルフ族がいた頃、中心惑星の一つだった。あそこにはおそらく太古のアルフ族の息吹がまだ残っているはずだ」

「アルフ族?あの大昔に滅びた種族ではないですか。一体彼らの事が何か役に立つとでも?」

「何を言っているか!お前たちはそのアルフ族の末裔に当たるのだぞ。その魂はかつてのアルフ族でもあった。もしそれをあの惑星で思い出す者が居れば、それは強力な力となるのだ」

と、ダールマン提督――レギオンは言った。今彼は、その遠い昔のアルフ族の事を思い出しているのだ。

「アルフ族というのは、かのダルシア人をもしのぐ力を持っていたのです。人間族だというのに。彼らを呼んだのはダルシア人なのですよ」

と、バルザス提督――銀の月は静かに言った。

 ガンダルフの魔法使いレギオンと銀の月がそう言ったものの、残念ながら元新世紀共和国から来た者達にはアルフ族などと言う古代種族の記憶はないのだった。伝説でさえ残っていないのだ。だから彼らの言わんとするところが理解できなかったし、想像することもできなかった。

 実際古代のアルフ族は人間族でありながら、竜であったダルシア人をもしのぐ力を持っていたのだ。だからこそ、ダルシア人はふたご銀河のロル星団に彼らを迎えたのである。だが、現在の彼らの末裔たちはそのようなことは知らないのだった。

「今に分かるだろう。リーリアン・ブレイス少佐は、おそらくあの惑星ゼンダでアルフ族の息吹を感じ、その残滓を再び蘇らせることができるかもしれないのだ!」

と、ダールマン提督は言った。


356.

 惑星ゼンダの市民たちは、今やその宇宙港へ向かって移動していた。誰も何も言わなかった。黙って行進しているその姿は異様だった。何かに憑かれていると言ってもいいような感じだった。

 クローブ・ガイン少佐は宇宙港の管制塔にいつの間にか陣取っていた。これでやっと任務が完了し、彼の母なる銀河へ帰れるのだ。三角錐の艦隊が来ることを、彼は待っていた。

 ただ、宇宙港にはまだ銀河帝国の艦隊が少々残っていた。その大多数は総督の命で正体不明の艦隊を迎撃するために離陸して行ったが、惑星ゼンダを空にするわけには行かず、数百隻程が万一の時のために待機していた。何かあったら、総督を乗せて逃げる必要があるかも知れないからだ。

 その残った艦隊も、今や宇宙港へゼンダの市民たちが集結しつつあることが報じられていた。

「総督閣下、それでは如何いたしましょう?」

と、数百隻の小艦隊を指揮するハルバロイ・バルム少将は、通信回線を開き政庁ビルの総督執務室と直接交信していた。

「待機しているように。まだ何が起きるかわからぬ」

「了解しました」

「だが、いつでも離陸できるように準備だけはしておけ。万が一の時は提督の判断で即座に離陸させるように。わかったな!」

「はっ」

 リューゲル・ブブロフ提督は何が起きているのか未だわからない状態だった。すでに、正体不明の艦隊へ派遣したゼンダの駐留艦隊はどうやらその矛先を交わされて、後追いしていると報告が入ったのだ。

 正体不明の艦隊は三角錐の艦の艦隊で、その速度や武器の強さに置いて帝国軍を凌いでいると言うことだった。これは大変なことだ。彼らが本気になったら、こちらは全滅する可能性もあるということだ。だが一体、どこから彼らはやって来たのか、それさえ不明なのだった。

 もし、その艦隊が惑星ゼンダを目指しているとしたら、ゼンダを守ることは不可能だった。宇宙港にいる小艦隊などではどうにもならない。だから、艦隊をできるだけ温存したかった。それにゼンダだけが目的ならいいが、もし銀河帝国をも目的としていたら、本国はどうなるのだ。一体あの三角錐の艦隊はどこからやって来たのか。どこに属している連中なのか。

「これはかのヘイダール要塞からやって来た艦隊ではないでしょうか?」

と、副官のアルマイト・フォル中将が言った。

「そうだろうか……」

 だが、やって来た方角が違う。その艦隊は、真逆の方向から来たのだ。もちろん、方向をわからないように回り込んでくることは可能だ。だが、そこまでする必要があるだろうか。それに、あそこにいるのは元新世紀共和国の残存艦隊とリドス連邦王国とか言うジル星団の国の艦隊だ。そのどちらも三角錐などという、妙な形の艦ではなかったはずだ。

 それとも、ジル星団には他にも国があるということだから、その名を聞いた事もない国の艦隊かもしれない。ふたご銀河にこれほど多くの銀河帝国以外の国があろうとは、新世紀共和国との戦争が終結するまで気づかなかったのだ。

 その時、総督の部屋の内線用のスクリーンが光った。それは総督専用のもので、先ほど宇宙港に残留している小艦隊への通信に使ったものだ。総督の部屋へ直接連絡をしてくるのは、よほどのことがない限り許可してはいない。もちろん、銀河帝国の艦隊司令部からの通信が優先されるから、他の通信はできるだけ排除していた。

 だから、スクリーンが光った時、帝都ロギノスから彼の上司である元帥からの通信かと思ったものである。だが、それは違っていた。

 スクリーンに映ったのは、フォルガ・ドル少将だった。

「フォルガ・ドル少将、君はどこで何をしているのだ?」

と、驚いてリューゲル・ブブロフ総督が聞いた。

「私は、先ほど閣下と昼食を取った部屋におります」

「それで、私に何の用だ?」

「実は、総督に会いたいと言う者がいるのですが……」

「私に会いたいだと?誰だ?」

 そこでブレイス少佐がスクリーンに映った。

「私です。総督閣下にはご存じとは思われますが、元新世紀共和国のブレイス少佐と言います」

 一瞬の沈黙の後、リューゲル・ブブロフ総督は言った。

「フォルガ・ドル少将、君は何か、その少佐に捕まったのか?」

「いえ、そうではありませんが、少佐が閣下に聞きたいことがあると言うのです」

「少将、君はどちら側の人間なのだ?私にはそんな暇はない。忙しいのだ」

「そうとは思いますが、閣下、大事なことなのです。今政庁ビルの外を宇宙港へと向かっている市民たちについての話なのです」

「つまり、ブレイス少佐があの市民たちをコントロールしているというのか?」

「いえ、違います。あれは、どうも得体の知れぬ未知の銀河から来た連中が起こしているようです」

「何だと?」

 総督にしてみれば、いつも何の用足しもできない、無能な少将の言うことに付き合うのはバカバカしいことだった。それでも、少将の傍らにいる元新世紀共和国の少佐が何か知っているかもしれないということに一抹の望みを託したい気分だったのは確かだ。

 何しろ、宇宙港へと向かう市民たちの動きはあまりにも不気味で、地上にいる帝国軍だけではどうにもそれを阻止できなかったからだ。

「ともかく、そこからでは話もしにくいだろう。こちらに来て話してはどうだ?」

と言いながら、総督は副官のアルマイト・フォル中将に目で合図を送った。彼らが来たら、すぐに逮捕拘束せよと言う無言の合図だった。

「しかし、総督が少佐を逮捕拘束したりすると困るのですが……」

と、日頃には似合わぬ疑ぐり深い所をフォルガ・ドル少将は見せた。

「そのようなことはせぬ。約束しよう。話を聞くだけだ」

「本当ですか?信じてもよいのですね?」

「もちろんだ」

 もちろん、話を聞くし、その間は逮捕拘束するようなことはしない。だが、話が終われば別だった。

「わかりました。それほどまで仰って下さるならば、すぐにでもそちらへ行きます」

「そうするがよい」

 すると、その言葉も乾かぬうちに、いやスクリーンが暗くならぬうちに、リューゲル・ブブロフ総督の目の前にフォルガ・ドル少将とブレイス少佐が現れた。それはどこからともなく、空中から現れたように見えた。

「そ、総督!」

と、アルマイト・フォル中将が危険を感じて警告した。外から警備の兵士を呼ぶ暇もなかった。

「!」

 リューゲル・ブブロフ総督は二人の出現に、ただ驚愕した。一体これはどうなっているのだ?

「お言葉に甘えて、参上致しました。総督!」

と、ブレイス少佐が言った。

「う、そ、そうだったな」

 正直、ブレイス少佐は総督の驚きぶりがあまりにも大仰だったので、押さえても笑いが出るのを抑えきれなかった。

「クスッ。あ、あのごめんなさい。笑ってしまって、失礼しました」

「総督、御下がりください。お前たちは、どこから来たのだ!」

と、アルマイト・フォル中将は怒鳴った。

「どこからって、先ほどの部屋からですが……」

と、フォルガ・ドル少将が言った。

「なぜ、こんなことをしたのだ!」

「それは、のんびり廊下を歩いていたら、警備兵に捕まってしまうからです。だって、本当はそのおつもりだったのでしょう?」

と、ブレイス少佐が言った。

「そんなことはない」

「いえ、話が終われば別だと考えていましたよね!」

 総督は黙っていた。フォルガ・ドルの言うことが本当だと知っていたからだ。だが、どうやって先ほどの部屋からここまで来たのかは謎だった。そう、まるで魔法でも使ったように思えた。

「そんなことはどうでもいいでしょう。それよりも、あの市民たちの動きを何とかしなければ、彼らはどこかに拉致されてしまうのです!」

「それは、どういうことかな?」

と、総督は初めて二人の話を少し真面目に聞こうと言う気になった。今回の件について何か知っているのなら、聞いておきたいと思ったのだ。それほど、情報が不足していた。

「三角錐の艦隊が来たことはご存じですね」

「それは聞いた。なぜ、少佐がそれを知っているのか知りたいものだ」

「まさか、あの艦隊はヘイダール要塞から来たと言うのか?」

と、アルマイト・フォル中将は言った。

「いいえ、違います。あれは、リドス連邦王国の人々の話では、あちこちで拉致を繰り返している者達だと言うことです」

「拉致をしている?海賊なのか?」

「海賊ではありません。ですが、彼らにはそれが必要だと言うことです。我々にとっては非常に迷惑であり犯罪行為そのものですが。問題なのはあの艦隊が我々の艦隊よりも武器も速度も上だと言うことです」

「つまり、彼らの科学技術は我々よりも勝っているということか?」

「そうです。ですから、まともに当たったら、こちらの負けです」

「なるほど、そうだろうな」

 バルホルド提督の艦隊からの報告にも同じようなことを言って来たのだ。

「ですから、総督の艦隊はあの宇宙港から離陸して、あの艦隊を避けることをお勧めします」

「ほう、我々の艦隊がいなくなったら、君たちの艦隊が来るのではないかね?」

「そのようなことは有りません。第一、我々の艦隊が来たなら、すでにこちらに探知されているはずではありませんか?」

「しかし、君はどうやってヘイダール要塞からゼンダへやって来たのだ?」

「それについてはお話しできません。ですが、私は総督を困らせにやって来たのではありません。もちろん、ゼンダを取り返しに来たのでもありません」

「では、何しに来たのだね?」

「私は、その、……」

と言いにくそうに、ブレイス少佐は言いよどんだ。そして、思い切って、

「私は、父を迎えに来たのです」

と、言った。

「やはり、ブレイス大将は生きていたのか!」

と、アルマイト・フォル中将は言った。

「違います。父は、この政庁のビルの会議室で自殺しました。その時、私はその遺体を確認し、埋葬したのです」

「つまり、その遺体をヘイダール要塞に持って行くというのかね?」

「いいえ、遺体は墓地に有るモノです。私は父の霊を連れて行くために来たのです」

「それは、どういうことなのだ?」

 妙なことを言う者だ、と総督は思った。だが、ふと夢を思い出した。

「そう言えば、ブレイス少佐、君の母上は亡くなったのだね」

「はい。よくご存じですね」

「私の妻や子は、二十年前に新世紀共和国との戦闘に巻き込まれて死んだのだ。君の母上は病気で亡くなったのかな?」

「はい。身体の弱い人でした」

「総督、そのようなことは今はどうでもいいではありませんか?」

「いや、気になることがあるのだ」

「つまり、私が本物のブレイス少佐かどうかと言うことですか?」

「それもある。だが、君は父親の霊を連れて行きたいと言うので、聞いてみたかったのだ。私が見た夢が本物かどうか……」

「夢、ですか?」

「そうだ。いつ頃からだろうか、夢を見るようになった。特に昨夜は非常にはっきりとした夢を見たのだ。今でも思い出せるくらいだ。それは君と君の父上の昔の事の様だった」

「それは、その、おそらく父があなたに見せたのではないでしょうか?父の霊はこの政庁のビルにずっといたようなので……」

「この政庁ビルに幽霊がいたというのか?」

と、アルマイト・フォル中将があまりにも馬鹿げていると言う口調で言った。彼は銀河帝国の軍人の例に倣って、幽霊や霊など人知の及ばぬことは信じないという心情を持っていたのだ。

 リューゲル・ブブロフ総督も同じだった。これまでは。だが、今はそれが揺らいでいる。

「このゼンダでのデモや暴動は確かに、市民たちの不満の動きでもありますが、それだけではないということを聞いたのです。おそらく、父の霊がそれを扇動しているのではないか、と……」

「幽霊が、そんなことをすると言うのか?」

「父は自分の思いを遂げずに亡くなったのです。しかも自殺でした。そうした場合は、死んだ場所にその人物の寿命が来るまでいるのだそうです。そして、そうした霊というのは死んだことを忘れてしまう場合もあって、そうなると生きている人を巻き込んで色々な問題を起こすのだと言うのです」

「それは、誰が言っているのだね?」

「リドス連邦王国の人々です。彼らは、私たちの知らないことをたくさん知っています。それは私達には始めはとても変でおかしなことでしたが、大抵真実であることが多いのです」

「例えば?」

「それは……。彼らは魔法を使います。それに霊と話ができます。今ここに居るのは私だけではなく、私の護衛としてダルシア人も来てくれています」

 バルザス提督によると、銀河帝国における魔法というのは新世紀共和国と同じくお伽話扱いだった。ただ、帝国内では特殊能力については、かなり神経質に反応するところがある。それはかつて帝国の初代皇帝陛下が特殊能力を使う者による暗殺未遂事件にあった所為であった。だから、霊とかそうした類のものは暗黙の裡に存在はあると思われているものの、表立って話をすることはないということだった。

「ダルシア人?ジル星団にダルシア帝国という国があると聞いた事があるが、そこの人なのかね?」

「ええと、ダルシア人は人間型生物ではありません。ですが、人間よりもかなり知的な生物です。形状は私たちの絵本の中で見る竜、つまり羽の生えたドラゴンのような感じです」

「本当の事かね?」

「本当の事です」

「で、そいつはどこにいるんだ?」

と、アルマイト・フォル中将は言った。そして、

「総督閣下、こんな嘘つきと話をしても無駄です。この二人を拘束して、我々は市民どもの居る宇宙港へ行くべきです」

と、続けた。

「あ、それには私も賛成です」

「何だと!」

「私は、総督を宇宙港へ連れて行くためにここへ来たのです」

「宇宙港へ行って、どうするつもりだ?あそこにはお前たちの艦隊でもいると言うのか?」

「いいえ、でもそうしなければゼンダの市民たちが三角錐の艦隊に連れ去られてしまいます。ここでは遠くて何もできません。私だけ行っても何もできないのです」

「宇宙港へ行って、何をするのだ?」

「まず、宇宙港にある宇宙船を全て、もちろん帝国の艦も離陸させます。そして、三角錐の艦隊から避難させます」

「それでは、市民たちはやつらの好き放題に連れ去られるのではないか?」

「いえ、そんなことはさせません。こちらの宇宙船が居なければ思い切りやりたいことができるのですもの」

「何をすると言うのだ?」

「まだ、具体的には言えません。ただ、私たちが宇宙港へ行くことが必要なのです」

 リューゲル・ブブロフ総督はおかしなことを言う者だと思った。彼にはブレイス少佐が嘘をついているともついていないとも判断が付きかねた。ただ、宇宙港へ行く必要があると言うことについては同じ意見だった。

「まあ、いいだろう。宇宙港へ行くとしよう」

「閣下!」

「私は宇宙港へ行くと言うのは正しい判断だと思う。ともかくそこへ行って、何とか市民たちを助けなければなるまい」

 総督としては、デモをしたり暴動を起こしたりするゼンダの市民に好意を持っているわけではない。ただ、総督としてはそうすることが責務であると思ったのだ。少なくとも、惑星ゼンダにおける領土や領民についての責任は総督自身にあるのだ。

「いいでしょう。ですが、どうやって行くのですか?」

と、アルマイト・フォル中将が言った。


357.

 外を見ると、あれだけ大勢が移動していたのに人影が見えなくなっている。ほとんど宇宙港近くまで行ってしまったのだ。

「急ぎましょう」

「確か、政庁ビルの屋上に移動用の飛行艇があったはずだ」

と、リューゲル・ブブロフ総督は言った。

「では、それで行きましょう。だが、お前たちはここに居るんだ!」

と、アルマイト・フォル中将が言った。

 その手が熱線銃を向けていた。

「フォル中将、止めて下さい。今我々皆が、宇宙港へ行く必要があります」

と、フォルガ・ドル少将が言った。

「何を言うか、裏切り者め!」

「私は裏切ってはおりません。」

 だが次の瞬間、アルマイト・フォル中将は引き金を引いていた。眩しい閃光が瞬いた。その中に、見たこともない大きな生物が現れた。広い総督の部屋でさえ、狭く感じるほどだった。元々この部屋は新世紀共和国の最高評議会議長の部屋だった。だから、他の部屋に比べて天井も高く、広々としている。だから、今は総督の机と椅子、そしてわずかの私物しかない部屋の中はかなり広かった。だが、その広ささえそのドラゴンには窮屈そうだった。総督と副官の二人には、その獰猛そうな顔がはっきりと見えた。熱線銃はその竜の鱗に当たって眩しく輝いたが、傷つけることはできなかった。

「な、何だこれは……」

 現れたのはダルシア人のヴォルガスだった。ブレイス少佐の身の危険を感じて、自分の姿を三次元宇宙に投影し実体化したのである。

「これは、ダルシア人です。ドラゴンの事です」

と、ブレイス少佐が言ったが、アルマイト・フォル中将は鈍い音を立てて、倒れてしまった。

「どうしたんです?」

「まさか、こんなことになるとは……」

と、リューゲル・ブブロフ総督は慨嘆した。

 あの頭の切れる有能な副官のアルマイト・フォルが気絶し、無能だと陰口を叩かれていたフォルガ・ドルがピンピンしているのだ。


 宇宙港には多くの市民たちが詰めかけていた。彼らは何かに憑かれたように宇宙港に集まって来たのだ。そこへ行けば、銀河帝国軍の居るこの惑星ゼンダから離れて、どこか別の星に行けるのだ、という声が彼らの心の中に聞こえたのだ。その声は、始めは無視できた。だが、次第に時間が経つにつれて、段々無視できないモノになって来ていた。

 これはクローブ・ガイン少佐による集団催眠暗示だった。最初は数人の市民の心を操っていたのだが、それを大規模にしたのは集団催眠暗示である。その方が最小の力で最大の効果を得ることが出来るからだ。

 惑星ゼンダの市民たちは、帝国軍に占領されたこの星からどこかへ逃げたいという欲求があった。それを利用したのだった。だから、それほど苦労はせずに済んだ。

 新世紀共和国の人々は、本来は銀河帝国から逃れて来た人々が造った国である。その建国は今から二百年ほど前に遡る。その頃最初の逃亡者が惑星ゼンダにやって来たのだ。彼らは様々な理由で帝国では迫害されていた。思想信条や政治思想の違いや人種や生まれの違いがその理由である。だからこそ、銀河帝国を嫌い怖れていた。

 新世紀共和国の星々と銀河帝国の星々の間には、ロル星団とジル星団にあるのと同じような目に見えない結界が張られていた。それはかつてのアルフ族が滅んだ時に張られたもので、その所為で新世紀共和国は銀河帝国には悟られずに国として独立し、ある程度の繁栄を得られたのだった。ただ、その結界はロル星団とジル星団に有るモノよりも強固ではなく、一度宇宙船がその結界を突破すれば、その結界はしだいに脆くなって行くものだった。

 その結界が崩壊したのは、新世紀共和国と銀河帝国との紛争が勃発した時だった。

 だが、そのような結界があったと言うことは両者にとってはあずかり知らぬことで、この度惑星ゼンダが銀河帝国の新領土として併合されたことは、その崩壊が決定的になったということになる。


 最初の三角錐の艦隊が到着したのは、宇宙港に市民たちが集まってから小一時間が経ったときだった。三角錐の艦隊の内、速度の速い何隻かの艦が姿を見せたのだ。そして、宇宙港の空いている場所へ次々と着陸して行った。その代りに、銀河帝国の宇宙港に留まっていた艦隊が次々に離陸して行った。ハルバロイ・バルム少将指揮下の艦隊は咄嗟の判断で離陸することにしたのだ。正体不明の艦隊が宇宙港に着陸してきたので、そのままでは危険だと言う判断である。

 これで、銀河帝国の艦隊は全て惑星ゼンダからいなくなったことになる。

「閣下、如何いたせばよろしいでしょうか?」

と、宇宙港の管制塔の職員が聞いた。

 管制室には銀河帝国軍の士官たちが任務に付いていたのだが、三角錐の艦隊が無断で着陸してくるのを止めることはできなかった。まだここには地上の武器が設置されていなかったからである。

 通信回線を開いてその所属を誰何しても、三角錐の艦隊は何の返信もしてこなかった。

「私にもどうすればいいのかわからん。ともかく、総督と連絡を取るしかない」

 だが、肝心の通信ができないのだった。おそらく、宇宙港に無断で着陸した艦隊が通信の妨害をしているのだと思われた。


 リューゲル・ブブロフ総督やブレイス少佐はまだ政庁のビルの中にいた。

 政庁ビルの屋上にある飛行艇に乗って宇宙港に行こうとしたのだが、気絶したアルマイト・フォル中将を連れて行くかどうかでもめている間に、三角錐の艦隊が宇宙港に無断着陸を敢行したと連絡が入った。

「しまった!遅かったか……」

 ブレイス少佐は誰かと話している風だった。ダルシア人のヴォルガスと話をしているのだ。

(連中の艦隊が先に宇宙港に着いたのは仕方がない。それなら、ここでやるしかない。私が、向こうの風景をこの部屋の窓に中継しよう)

と、ヴォルガスが言った。

 すると、総督の部屋の大きな窓に宇宙港が映し出された。

「そ、総督見て下さい」

と、フォルガ・ドル少将が早速見つけて言った。

「これは?宇宙港か?」

「そうです。でも、もうあんなに三角錐の艦隊が着陸しています」

「宇宙港はどうした?こちらの通信が繋がらないのか?」

と、リューゲル・ブブロフ総督は苛立っていた。

 だが、よく見ると宇宙港に留まっていたはずの帝国の小艦隊が居なくなっていた。

「艦隊は離陸したのだろうか?」

「おそらく、そうだと思います」

 ブレイス少佐は不思議なことに、この政庁のビルの総督の部屋の中で風の音を聞いた。その風は怒りを表すように、しだいに大きく渦を巻いているように感じられた。

「何かが起きようとしているわ。何かしら、この感じは?」

(あの艦隊をどうにかしなければ、市民たちは皆連中に拉致されてしまう。どうするのだ?)

と、ヴォルガスは誰かに問いかけていた。


 生温かい風が吹いて来た。

 すると、宇宙港の上空に黒い雲が集まって来た。その集まり方は急激で、いつの間にか辺りが真っ暗になった。

「何だ?何が起きたのだ?」

と、銃を構えているクローブ・ガイン少佐が言った。

 他の連中も外を見たが、何が起きているのかわからなかった。

 宇宙港を見下ろす客室にいた銀河帝国の将官や士官たちは、不安な思いでいた。ただこれから何が起きてもこれ以上悪くはならないだろう、と感じていた。それに、宇宙港に駐留していた銀河帝国の艦隊は全て惑星ゼンダの大気圏外に離陸している。艦隊だけでも無傷で戻すことができればと考えていたのだ。

 今その宇宙港に着陸しているのは三角錐の艦隊だった。およそ数百隻と言うところだろうか。

 その時、真っ暗な空に稲光が走った。それも一つではない。いくつもの光が走り、その稲妻の轟音が響き渡った。

 嫌な予感がした。クローブ・ガイン少佐はそれでも、自分の任務を忘れなかった。

「早く、市民たちをあの艦に乗るように命令しろ!」

 市民たちは、銀河帝国軍から逃れられると思って、数多く宇宙港に詰め掛けていた。彼らは何も知らなかった。三角錐の艦隊はヘイダール要塞から彼らを迎えに来たのだと勘違いしているのだ。だから、もろ手を挙げて歓迎していた。



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