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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
69/153

ダルシア帝国の継承者

346.

「どうした?」

と、服についている通信機に叫んだのは、ハイレン連邦のバルーンガ議長だった。

 先ほど彼は要塞に攻撃するようにハイレン連邦の艦隊に命じたのである。それなのに、突然通信が途絶えたのだ。ハイレン連邦のあの艦隊はこの要塞の主砲であってさえ、簡単に破壊できることはできないはずだ、と彼は思った。では何があったのか。

「どうかして?」

と、リュイ・ジーンが言った。

 すでに彼女には要塞司令室にいるタリアから、TPで連絡が来ていた。ハイレン連邦のものと思われる艦隊が、突然現れたホランド・アルガイの船によって、正確に言うと、船に乗っているリドス連邦王国の第五王女によって破壊されたのだ。

「私の艦隊に何をした!」

と、バルーンが険しい顔をして言った。

「さあ、でも要塞の近くに味方でもない、どこのものとも知れない艦隊が現れたら、何をするかくらいわかるでしょう」

「それは……」

「あなたの艦隊は、ハイレン連邦の艦隊だと名乗ったのかしら?」

「……」

「名乗らなければ、攻撃されても仕方がないわ」

 あの艦隊はハイレン連邦の最後の艦隊で、あれが無くなったらもうバルーンガが自分の乗って来た艦しか残っていない。

「それに、あなたの艦隊はヘイダール要塞に来た民間船を攻撃したの。それでその民間船に逆にやられてしまったのよ」

「何?民間船だと?あの艦隊を攻撃できるような船があると言うのか?」

「あったのよ」

 もちろん、その船に誰が乗っていて、誰が攻撃したのかは話すわけにはいかなかった。

 もう手持ちの札は全て尽きた、とバルーンガ議長は思った。もうハイレン連邦にさえ帰れるかどうかわからない。たった一隻の艦では長い旅路を行くのは危険でもある。

「もし、母星に帰りたければ、リドス連邦王国の艦隊が送ってくれると思うわ。一隻では戻れないでしょうから……」

と、バルーンガ議長の心を読んだようにリュイ・ジーンが言った。

 ハイレン連邦の歴史はこれで終わりか、とバルーンガ議長は思った。

「お前は、タレス人のリュイ・ジーンと言ったが、本当は誰なのだ?元はダルシア人ではないのか?」

「そうよ。だから言うのだけれど、ハイレン人が滅びると言う事実を受け入れなさい。たとえ、ハイレンが滅びたとしても、あなたの居場所が無くなるわけではないわ。新たな居場所を見つけるのよ。もうそれを見つけた者達も多いはず。だから、生まれてくるハイレン人が減少したの。そして今は新たなハイレン人が生まれてくることは無くなってしまったけれど、心配はいらないわ。ちゃんと、他の種族として生まれて来ているから。あなたは自分の心配をしていいのよ」

 それはハイレン人の長老としてのバルーンガ議長の心に響くものがあった。これまでハイレン人を、その姿、肉体を残すために生きて来たからだ。だが、それも今はできなくなってしまった。

「私は、他の種族として生まれることは望まない」

「それなら、しばらく生まれて来なければいいわ」

「そんなことができるのか?」

「できるわ。でも、いずれそれに飽きてしまって、生まれてくることを望むようになるから。いつになるかわからないけれど。時間はいくらでもあるから、構わないと思うわ」

「お前は、どうだったのだ?」

「私も、前はあなたと同じように考えていた。ダルシア人以外に生まれてくるのは嫌だった。でも、人間として生まれて来るもの悪くない。新しい経験ができるから……」

「しかし、ダルシア人と人間では、ダルシア人の方が圧倒的に強いではないか。弱い人間になっても構わないと思ったのか?」

「ダルシア人が最強だというのは、このふたご銀河の伝説に過ぎない。本当の強さは、別のもの。私は人間が弱いとは思わない」

 バルーンガ議長は彼の母星ハイレンのことを思った。人工授精のシステムはすでにちょっとしたミスで冷凍保存の卵子を傷つけてしまい、使えなくなっていた。その卵子を魔法の呪文で再生しようとしていたのだ。だが、その呪文も得られる可能性がなくなった。目の前にその呪文がある『レギオンの城』の城門があると言うのに、彼には見えないのだ。他のハイレン人の魔術師にも見えないようだった。

 そして、連れて来たハイレン連邦の艦隊も破壊されてしまったのである。これではどうにもならない。

「待ってくれ!」

と、ハイレンの魔術師は言った。

「俺たちはどうなるのだ?議長は母星に戻ったとしても、俺たちは戻っても意味はない」

と、通信員だった魔術師も言った。

 人間の姿のハイレン人は、母星に戻れば最下層の者としての人生しか待っていないのだ。それが嫌で母星を出ているのである。

「お前たちは、レギオンに弟子入りを乞うてはどうだ?お前たちは元々白魔法使いではない。だから誓いもしていない。もしかしたら、白魔法使いになれるかもしれない」

と、バルーンガ議長は言った。

 ハイレンではすでに白魔法使いの呪文は使われていない。長い歳月を経るうちに、多くの白魔法使いの呪文が失われてしまったのだ。

 考えてみれば、ハイレン連邦には再生の呪文があったのだ。かつての癒しの星として有名だったころ、その呪文で多くの者たちが癒されていた。それがいつからか、ハイレンで魔術師がもてはやされてから白魔法使いの扱う呪文が効かなくなって行った。効かなくなったので忘れられ、新たな呪文を求めるようになったのだ。だが、ガンダルフの魔法使い『大賢者』レギオンが再びハイレンに誕生することはなかった。


 要塞司令室では、以前対戦に苦労した三角錐の艦隊があっという間に全滅したのを見て、驚いていた。

「あの、グーザ帝国の機動兵器が見当たりません。先ほどの敵艦隊へ攻撃のとばっちりを受けたのでしょうか」

と、通信員が言った。

「そうだといいが、しばらく注意してくれ」

「了解」

 とすると、アルネ・ユウキの言うように、あの機動兵器は頑丈ではあるがエネルギー兵器でも破壊できるということだ、とクルム司令官代理は思った。ただし、要塞のエネルギー砲ではできるかどうかはわからないが、魔法使いが居れば、可能だと彼女は言ったのだ。

「ホランド・アルガイの船からの通信です。入港の許可を求めています」

「許可する」

「でも、確かダールマン提督への魔法の通信ではホランド・アルガイの船で来るのではなくて、五番目がチェルク・ノイ氏を連れて来ると言っていたのではありませんか?」

と、ダズ・アルグが言った。

「多分、チェルク・ノイ氏と言う人が宇宙船で行きたいと言ったのでしょう」

と、アルネ・ユウキが言った。

「それだけで?」

「ええ。普通の人間は宇宙では宇宙船に乗らなければ移動できないと思っていますから。それ以外のことができるとは思っていないのです」

「本人が可能だと思っていることしかできない、と言うことですか?」

と、珍しく興味を持ってグリンが言った。

「そうです」

「あの、それで同じ船からの通信なのですが、ディポック提督にそのチェルク・ノイ氏を迎えに来てほしいのだそうです」

「何だって?幽霊を迎えに来いだって。どういうことだ?」

と、ダズ・アルグが言った。

「まあ、いいじゃないか。何か困った事でも起きたのではないかな?私は別に構わないが……」

「あの、私も一緒に行っていいでしょうか?司令官代理」

と、ブレイス少佐が言った。

「それは、構わないが、二人も行く必要があるかな?」

「その方が、向こうは安心すると思います」

と、アルネ・ユウキが言った。

「なるほど、いいだろう。だが、出来るだけ早く戻ってきてほしい。まだグーザ帝国の艦隊が近くにいるはずだ」

「それなら、私が送って行きましょう」

と言うと、ディポック提督とブレイス少佐、そしてアルネ・ユウキの姿が消えた。


 グーザ帝国艦隊ファドロン艦隊のクウドルラ中尉は、機動兵器のコントロールが突然できなくなったことに気づいた。しかもその直前、機動兵器の視界に眩しい光が生じたのを見た。

「デルフドルラ少将、もしかしたら、いやおそらく我が方の機動兵器は破壊されたものと思われます」

と、クウドルラ中尉は報告した。

「何だと?あの機動兵器はヴァグーダ鋼を使った最新のものだ。簡単に破壊できるはずがない」

 ふたご銀河のロル星団の銀河帝国や元新世紀共和国の兵器や艦隊の戦力について、グーザ帝国側は長年慎重に調査をしてきていた。その結果、艦の速度や武器についてはグーザ帝国側の方が優れていることがわかった。特に艦を製造する素材については、グーザ帝国のモノに到底及ばないと言うことが分かっていた。破壊されたと思われる機動兵器の素材は特に最新のヴァグーダ鋼という、非常に硬くて熱に強く、エネルギー砲にも強い素材なのだった。

「確かに、ロル星団の艦隊ならば、不可能だと思われます。ですが、閣下にはお聞き及びかと存じますが、かのキンドルラ提督の艦隊が帰還したとき、ヘイダール要塞で未知の艦隊に強襲されたそうです。もしかしたら、その種族が現在ヘイダール要塞を牛耳っているのかもしれません」

と、デルフドルラ少将がベルドルラ提督に言った。

「すると、我々の計画は根本から立て直さなければならないということか?」

「最善を願うなら、そうするべきだと存じます」

「だが、艦隊司令部はどう考えるだろうか」

 デルフドルラ少将は多少政治向きの事情も知っていた。蛇使い銀河では切迫した事情があった。それはエネルギーとなる結晶鉱石が不足しただけではないのだ。まだ公になってはいないが、グーザ帝国よりも科学技術の高い別の銀河の者たちが侵略してきているというのだ。

 グーザ帝国はエネルギー結晶鉱石の不足が文明のエネルギー不足を招き、人口が極端に減少せざるを得ない事態となっていた。もちろん、宇宙艦隊を造るにもエネルギーは重要だった。そのため、まだ帝国中枢部にまで侵攻してきてはいないが、辺境においてはかなりの惑星が落とされていると聞いていた。

 だからこそ、ふたご銀河での彼らの活動は重要なのだ。この銀河でエネルギー結晶鉱石を得て、それでグーザ帝国の勢力を盛り返さなければならない。もう後がないのだ。

 それなのに、機動兵器が破壊されたとすると、グーザ帝国に対抗する準備が出来つつあるのではないかと考えられる。もし、エネルギー結晶鉱石をこの銀河で得られなくなったら、帝国は存亡の危機に陥るだろう。

「撤退する!」

と、ベルドルラ提督は決断した。

「し、しかし捕虜となった仲間のことは、どうするのですか?」

「今となっては、彼らのことよりも、このことを本国に知らせ、惑星カルガリウムの警備を厳重にするべきであろう」

 惑星カルガリウムの鉱山のエネルギー結晶鉱石は、グーザ帝国にとっては何よりも重要なのだ。


347.

 ホランド・アルガイの船に乗ってやって来た元新世紀共和国最高評議会議長チェルク・ノイの霊は、ヘイダール要塞に着いたと聞いて不安そうにしていた。

「今、ディポック提督があなたを迎えに来てくれるわ」

と、リドスの五番目が言った。

「そうか。しかし、何だかここは落ち着かない」

「初めて来たところだから仕方がないわ」

「それに、彼は私のことがわかるだろうか……」

「大丈夫よ」

 チェルク・ノイは自分が死んだと聞かされているのだが、いまいち実感がなかった。死んだと言うわりには自分が存在していると言うことが分かるからだ。だから、死んだと言われているのは間違いではないかと半分思ってしまうのだ。

 ヤム・ディポック提督はホランド・アルガイの船が駐機してある場所へブレイス少佐と一緒にアルネ・ユウキに送られてやって来た。

「来てくれたか、ディポック!」

と、ホランド・アルガイが駐機場に出て待っていた。

「チェルク・ノイ氏は?」

「船の中で待っている。五番目が一緒にいるからわかる。正直なところ、私には霊は見えないので、居るかどうかわからないのだ」

「それは私だって同じだ」

「そうかな。五番目が言うには、お前にはおそらくチェルク・ノイ氏は見えるのではないかと言っていたがね」

「私は幽霊などこれまで見たことはないんだが……」

「もしかしたら、わたしにも見えるかもしれません」

と、ブレイス少佐が言った。

「え?」

と、ホランド・アルガイとディポック提督が驚いて言った。

 船の中に入ると、ホランド・アルガイがチェルク・ノイ氏のいる部屋に案内した。一応、霊なのだが、客室に入ってもらったのだ。

「ほら、ディポック提督が来たわ」

と、五番目が言った。

 ホランド・アルガイには五番目しか目に入らなかった。だが、ディポック提督とブレイス少佐は五番目の傍に、いつものようにきちっと服を着こなしたチェルク・ノイ元最高評議会議長の姿が見えた。

「チェルク・ノイ元議長。ヘイダール要塞へようこそ」

と、ディポックは声を出して言った。その方が相手に見えていることを告げられると思ったのだ。

「ディポック提督、私が見えるのだね」

「ええ」

「議長。私にも見えます」

と、ブレイス少佐が言った。

「おお、君はブレイス大将のお嬢さんだったかな?」

「はい。父がお世話になりました」

「いや、そんなことはない。今も向こうで彼は頑張っているよ」

「え?今、何ておっしゃいました?」

「だから、ブレイス大将のことだ。彼は今首都星ゼンダで反帝国運動を指揮しているのだ」

「待ってください。父は、あの亡くなったはずです」

「私もそう思っていたのだが、彼は今もあの会議室にいるのだよ」

「そんな!」

 ディポック提督とブレイス少佐は顔を見合わせた。一体どういうことなのだろうか?

「ホランド、ゼンダでブレイス大将の噂を聞いた事があるかい?」

と、チェルク・ノイを見ることが出来ないので、話も聞こえないはずだと思って、ディポック提督が聞いた。

「そう言えば、そんな噂を向こうで聞いたな」

「どんな噂だ?」

「だから、亡くなったブレイス大将が実は生きていて、反帝国運動を指揮していると言う噂だ。クーデターで彼が死んだと言うのは、単に身を隠すための嘘なのだと言われている」

「いいえ、そんなはずは有りません。私はちゃんと遺体を確認しました。そして墓地に埋葬したのです。父が生きているはずはありません」

「そうかな?彼が私に会いに来たという記憶があるのだが……」

「昔のことと、記憶が錯綜してしまっていませんか?」

「いや、そんなことはない」

「まあ、ちょっと待って!その話は後にしましょう。今は、チェルク・ノイ氏をヘイダール要塞の中へ案内して。そうそう、ヘイダール要塞には『レギオンの城』があるから、彼はそこへ行ってもらった方がいいと思うわ。そこなら、彼のような人たちも他にいるから……」

と、アルネ・ユウキが言った。

「そ、そうですね」


「なんだか、惑星ゼンダでまずいことが起きているようだわ」

と、タリア・トンブンが言った。

「まずいことって、何だ?」

と、ダズ・アルグが聞いた。

「ブレイス少佐のお父さんは、軍人だったの?」

「そうだ。確か大将までなった。ただ、そう一年ほど前、クーデターを起こして失敗し、自殺したはずだ」

「本当に?」

「本当だ」

「ゼンダでは、そのブレイス大将が実は生きていて、反帝国運動を指揮しているという噂があるのだそうよ。それをあのチェルク・ノイ氏が言ってるって。しかも、ブレイス大将に遭ったのですって、彼が」

「それは、どういうことだ?ブレイス大将が死んだのは本当だ。誰かが彼の名を騙って、指揮しているのではないか?」

「重要なのは、死んだチェルク・ノイ氏が会っているということなの。つまり、ブレイス大将が死んだのは本当の事だわ。そして反帝国運動を指揮しているのも本当だと言うこと!」

「馬鹿な!」

 いや、考えてみればどちらも死んだのだから、会ったとしてもおかしくないとダズ・アルグは思い直した。しかし、反帝国運動を指揮しているとはどういうことなのだろうか。それをするには生きている人間と会わなければならないはずだ。

「何か矛盾しないか?死んだ者同士が会うのはおかしくないが、反帝国運動を指揮するには生きている者と会う必要があるだろうに」

「そうよ。だからこそ、それが問題なの。そのブレイス大将というのは死んでいるのに、生きている人間が彼を見ることが出来るということなの」

「だから、そんなことできるはずがないだろう」

「それが、できるのよ。特殊な状況においては……」

「特殊な状況というのは、どう言うことなのだ?」

と、クルム司令官代理も興味を持って聞いた。

「それは、死んで霊になった人間がおそらく、自分が死んだことを忘れてしまっている可能性がある。それと帝国に対する憎しみがそれだけ強くなっていること。それはね、死んで霊になった人間がただこの世で迷っているのではなく、悪霊になる過程にあるということなの。これは非常に危険なことだわ」

「しかし、死んだ者にそれほどの力はないだろう」

「普通はね。でも、悪霊とか悪魔とか呼ばれる存在があることも事実なのよ。それに場所が悪いわ。惑星ゼンダはかつてアルフ族がロル星団を支配していた時、ロギノスと並ぶ政治の中心だったのよ」

「それはいつのことだい?」

「うーん、今から何百万年も前の事らしいけれど……」

「そんな昔のことなのか。それが現代に何の関係が出てくるというんだ?」

「昔のことでも、そのアルフ族の国が滅んだ原因に問題があるのよ」

「例の『死の呪い』というものか?」

と、クルム司令官代理が言った。

「そう。最初は単なる王位継承の争いだったそうだけれど、敗北した側が『死の呪い』という呪法を編み出してしまった。その所為でアルフ族の国が滅んだのだけれど、それだけでは済まなかったの。生き残った人々がジル星団へ逃げて来たのよ。その所為で、ジル星団の古い国々もいくつか滅んだと言われているわ。そして、あまりにも危険だということで、ロル星団とジル星団の間に魔法の結界が張られた。それが両者の行き来を阻んでいたモノなの。結界が張られると同時に、ロギノスには『死の呪い』の呪法の封印が行われたそうよ。今それは宇宙文明になって、ロル星団の長年の戦争が終結したということで結界がなくなったわ。けれども、帝都ロギノスではその『死の呪い』が復活し、封印としておかれていたジェグドラント伯爵家が追い出されてしまったというわけ」

「それとこのブレイス大将とどんな関係があるのだ?」

「どうも『死の呪い』の復活の悪影響の可能性があるというの。だから、このまま行ったら惑星ゼンダの混乱は一層激しくなって、大変なことになるかもしれない。ブレイス大将が反帝国運動を指揮して、それが上手く行ってしまったら、新世紀共和国が復活すると考えているかもしれないけれど、悪霊が指揮している場合、できるのは悪の国だわ。それこそ、今反帝国運動に浮かれている連中が虐殺される運命も考えられる。ブレイス大将そのものが悪霊なのよ」

「それで質問なのだが、その『死の呪い』の封印の復活は可能なのだろうか?」

「さあ、どうかしら。今は昔ほど魔法使いはいないし、リドスの王族だけでそれができるかどうかは、私にはわからないわ」


「司令官代理、通信です。ええと、リドス連邦王国の高速艦です。本国からの連絡でしょうか?」

「ほう。何かあったのか」

 いつもなら魔法陣の通信で済ませるのに、連絡するために高速艦を送ると言うのは何か重大なことがあったとしか思えなかった。

「私はリドス連邦王国第三王女である。少し前ヘイダール要塞に来たことがあるが、覚えているだろうか?」

と、スクリーンに映じた女性が言った。

「覚えている。何かあったのだろうか?」

「緊急事態だ。そちらにいる、リーリアン・ブレイス少佐に話がある」

「ブレイス少佐に?何の話だろうか……」

 そこでクルム司令官代理は、惑星ゼンダのブレイス大将のことを思い出した。まさか、もうリドス連邦王国ではあの話が知れ渡っているのだろうか。だが、そうだとしても、慌ててリドスの第三王女殿下が飛んでくる理由になるだろうか。

 要塞に入港を許可すると、すぐに第三王女だけ司令室へジャンプして現れた。

「突然で失礼した。ブレイス少佐は?」

「そんなに急いでおられるのですか?ブレイス少佐は今、本国から来たチェルク・ノイ氏をディポック提督と一緒に迎えに行っていますが……」

と、ダズ・アルグ提督が言った。

「本国から船が来たのか?それなら、噂は聞いたな?」

「噂ですか?」

「そうだ。ブレイス少佐の父君に当たるブレイス大将のことだ」

 ダズ・アルグ提督とタリア・トンブンがちょうど今その話をしていたところだった。

「その話は今聞いたところです」

「それはよかった。それでブレイス少佐に惑星ゼンダまで行ってもらいたいのだ」

「何ですって?何のためにですか?」

「もちろん、その彼女に父君に当たるブレイス大将を迎えに行くのだ」

「迎えに行くと言っても、ブレイス大将は死んでいるのですが……」

「そうだ。だが、彼はすでに普通の人間にも見えるほど既視化している。彼は反帝国運動を生きて指揮していると思い込んでいるのだ。それだけではない、本人は忘れているようだが、彼は死んでいるので生きている人間に憑依することが可能なのだ。それで惑星ゼンダの銀河帝国の総督は憑依されつつあるのだ」

「しかし、それだけで何か大変なことが起きるのですか?」

 少し前にタリア・トンブンが語っていたことと何か関係があるのだろうか、とダズ・アルグ提督は思った。このままでは惑星ゼンダにおいて市民の虐殺が起きる可能性があるということだった。しかしあれは最悪のシナリオであって、必ずそうなるわけではあるまい。

「その総督についてだが、我が方の工作員の報告によると、ブレイス大将が総督に憑依しつつあるそうなのだ」

「ちょっと待ってほしい。リドスの第三王女殿下、あなたは元新世紀共和国の軍人であったブレイス大将が新領土の総督に憑依するというのか?なぜだ?」

と、クルム司令官代理が聞いた。

「憑依とは、心の中が同じである者同士によく起きることなのだ。つまりブレイス大将の帝国に対する憎しみとかの総督の元新世紀共和国の市民に対する憎しみとが同じぐらいであるということだ」

「しかし、憎んでいる対象はそれぞれ違うのではありませんか?」

「憎む対象の違いはどうでもよいのだ。憎しみの大きさだ、その質や量のことだ」

「しかし、総督が元新世紀共和国の市民を憎んでいるというのは、なぜですか?」

「わが方の情報によると、総督の身内が新世紀共和国との戦闘に巻き込まれて死んでいる。今から二十年前のことだ。総督の妻子が帝国でも有数の病気治療の療養惑星から戻る途中で帝国と新世紀共和国の艦隊の会戦に巻き込まれて無くなっている」

「でも、二十年前のことではないですか……」

「時の経過は人によって異なるものだ。総督にとっては忘れられぬことであったろうし、現場に立ち会えなかったと言う負い目もあるだろう。それに、その憎しみを思い出させ、増幅させた者もいるようだ」

「それは『死の呪い』ですか?」

「いや、違う。奴らはそのことを知ってはいるが、まだ利用してはいない」

「奴ら?奴らとはどこの誰の事ですか。銀河帝国やグーザ帝国の連中とは違うのですか」

「今ははっきりとは言えないが、どうもグーザ帝国とは違う別の勢力が干渉してきているようなのだ。だからこそ、ブレイス少佐にブレイス大将を迎えに行ってほしいのだ。このような場合では、身内の言葉が一番効くのだ」

「しかし、帝国にとって我々は敵以外の何者もないでしょう。ブレイス少佐一人では危険です」

「もちろん、行く場合にはこちらでもそれなりに力のある警護のモノを付ける」

「それは魔法使いですか?」

「いや、今回は魔法使いを付けることは危険だ。それに、あなた達も本人も知らないだろうが、ブレイス少佐はそれなりに力を持っているのだ」

と言って、リドスの第三王女は笑みを浮かべた。


348.

「それから、グーザ帝国の艦隊についてだが、彼らは惑星カルガリウム方面へ撤退したそうだ」

と、リドス連邦王国の第三王女は言った。

「撤退しただと?」

「おそらく、かの機動兵器が破壊されたからだろう」

「機動兵器を破壊したのは誰ですか?」

と、グリンが聞いた。

「あれは、五番目が知らずに巻き込んでしまったのだ」

 まるで機動兵器を破壊するのは簡単だとでも言うように第三王女は言った。どれだけ要塞側が機動兵器を破壊するのに困っていたのか知らないようだった。

「なかなか破壊できないものだと聞きましたが……」

「それは要塞の既存の兵器では難しいということだ。我々には関係あるまい」

「だが、これからもしグーザ帝国の艦隊が現れた場合非常に不利になることは自明だ。かと言ってすぐに武器を強力に変えることもできないだろう」

 それはかなり、頭の痛いことだった。要塞の既存の武器をそう簡単に変えることなどできないからだ。

「その件についても、今回武器を強力にする案を持ってきた。このままでは要塞は危険だし、同じ場所にある『レギオンの城』にも影響するだろうからだ」

「それはありがたいことだが、……」

 リドス連邦王国がそこまですると言うことは、要塞側に何か要求することがあるのではないか、とクルム司令官代理を始めとする司令室の者達は思った。ただでそこまでしてくれるとは思えないし、あり得ないことだ。


 グーザ帝国艦隊の撤退によって要塞に対する危険が一応去ったので、リドス連邦王国第三王女は要塞側に対して正式に交渉の席を設けるように要請した。それは要塞に政治代表が出来たことに対する気遣いでもあった。少なくとも要塞の政治代表を無視することは避けたいと言う考えらしかった。

 交渉は大会議室で行われた。出席者は、要塞側は司令室の者達と政治代表達だった。リドス連邦王国の側はダールマン提督、バルザス提督、第三王女、それから要塞の住人代表としてタリア・トンブンも呼ばれたのだった。

「私はヘイダール要塞政治代表エルシン・ディゴだ。今回ジル星団のリドス連邦王国の要請により、これからの要塞の防御力の強化と惑星ゼンダの情勢について、また要塞に残っているハイレン人について話をすることになった」

と、会議の開始をエルシン・ディゴが宣言した。

「では、最初に惑星ゼンダの話から始めたいと思います」

と、リドス連邦王国の第三王女が言った。彼女は惑星ゼンダが現在、総督府に対する反帝国勢力の政治的なデモが暴動に発展しそうな雰囲気にあることを報告した。

「要するに王女はそのデモを抑制するために、要塞から誰かを派遣して欲しいと言うのでしょうか?」

と、ギアス・リードが聞いた。

「デモの抑制は簡単には行かぬ。それよりもその首謀者を懐柔すべきであると考えている」

「そのご意見はもっともですが、そもそも首謀者は誰なのですか?」

「先年、クーデターを企て失敗して亡くなった、ルザンドル・ブレイス大将だ」

「すると、ルザンドル・ブレイス大将は生きていたということでしょうか?」

「それは違う。ルザンドル・ブレイス大将は確かに死んだのだ。それが何を思ったか迷って、この世に出てきてしまったのだ。おそらく惑星ゼンダでのデモが激しい所為だろう。従って、惑星ゼンダを鎮静化させるためにもブレイス大将を迎えに、ブレイス少佐にゼンダへ行って欲しいのだ」

「つまり、死んだ幽霊を迎えに行けというのですか?それはあまりにも無理な注文ではないでしょうか?」

と、ギアス・リードは言った。

 実際、第三王女の話を聞いて、ギアス・リードと同じ考えの者が多いのだった。第一、惑星ゼンダの情勢が悪いからと言って、なぜ死んだブレイス大将の話になるのか理解できなかったのだ。

「そうだろうか。ブレイス少佐に聞きたい、あなたはどう考えているのだ?」

「あの、私は、もしそれが本当ならゼンダに父を迎えに行きたいと思います」

「そうであろう。死んだとは言え、父親なのだから。これ以上放置すると、何をしでかすかわからぬ。早く行った方がよい」

「では、その根拠を示して頂きたい」

と、ギアス・リードは言った。

「根拠とな?どのような根拠がほしいのか」

「もちろん、ルザンドル・ブレイス大将がゼンダの騒動の首謀者であるとの根拠です」

「なるほど。私の言うことが信用できないということか?」

「そのようなことはありませんが、現状惑星ゼンダは銀河帝国の支配下にあります。そこへブレイス少佐が行くと言うのは非常に危険なことです。そうしたことをするには、やはりきちんと証拠を上げてもらえませんと……」

 ギアス・リードが証拠をと言ったのは、そう言えば反論できないし、この話を拒否することも可能だからだ。彼にはリドスの第三王女の話は理解できるが、理解できるという態度を示すことはできなかった。彼がそのようなことをすれば、その理由まで説明しなければならなくなる。つまり彼が何者であるかを明かさなければならなくなるのだ。それは絶対に避けなければならない、と彼は考えていた。

 だが、

「ぜひ、私に行かせてください」

と、ブレイス少佐は言った。

「何だって?何を言っているのですか。こんな危険なことをあなたにさせるわけには行きません」

「そうかな?私は政治代表の秘書が、この要塞の者を大事にする言葉を初めて聞いた気がする」

と、クルム司令官代理が言った。

「確かに、そうですね」

と、ダズ・アルグ提督が言った。

「それはどういうことです!」

「まあまあ、本人が行きたいと言うことであれば、構わないのではないかな?危険についてはそれなりに、強力な警護のモノを付ければよいではないか」

と、第三王女は言った。

「あのような危険な場所に行くに当たって、誰を護衛に付けると言うのです」

と、まだ怒りが収まらないギアス・リードが言った。例え誰が護衛に付いたとしても、惑星ゼンダでは何もできはしないと思っているのだ。彼はそのゼンダから来たからこの要塞にいる者達よりも現地について知っていると言う自負があった。

「そうだな、私は元ダルシア人を付けようと思う。すでに人選も済んでいる。サラマンダーの一族のヴォルガスだ」

 ギアス・リードは一瞬、これはと思ったがすぐにしらばっくれて、

「元ダルシア人?何ですかそれは」

と、言った。

「だから、普通の護衛では難しかろう。だから、元ダルシア人でサラマンダーの一族、眷属とも言うが、その一人ヴォルガスについてもらうことにしたのだ」

「では、その者を見てから返事をしましょう」

「何を言っているのだ。ここへきているぞ。お前には見えぬのか?」

「私には見えます。この部屋の前、リドスの第三王女殿下の後ろにいます」

と、ブレイス少佐が言った。

「私には見えないぞ」

「当たり前だ。元ダルシア人と言ったではないか。何しろ、死んだ者を迎えに行くのだから、こちらも同じものを行かせる方がいいだろう」

「そうですね。確かダルシア人はもう生きている者はいなくなったと聞いています」

と、ダズ・アルグが言った。

「何をバカな!ディポック提督、あなたの部下ではないのか?こんなことを容認するのか?」

「そうですね。でも、困ったことに私にも、その元ダルシア人とやらが見えるのです」

 ギアス・リードはエルシン・ディゴの方を向いて、

「政治代表、あなたはどう思われますか?皆、嘘をついているのですぞ」

と、告発した。

 司令室者の中にも元ダルシア人を見ることのできないものもいた。だが、そうした者もそのことは黙っていた。ここはその方がいいだろうと思ったのである。

「ふむ。ギアス・リードお前には見えないのか?困ったものだ。私には見えるのだが……」

「え?え?何ですって?」

 クルム司令官代理は口には出さなかったが、エルシン・ディゴ政治代表が見えると言ったので驚いていた。だが、彼は、

「本当に見えるのか?」

と、つい聞いてしまうのは抑えられなかった。

「見える。不思議だ」

 エルシン・ディゴ政治代表の言葉には、真実が籠っているように思えた。

「ここで、リドスの王女殿下の話の根拠を示せと言っても仕方あるまい。確かに惑星ゼンダの情勢は悪化している。それを少しでも良くすることが出来るならば、ブレイス少佐には行ってもらった方がいいだろう」

 まるでこれまでの政治代表とは思えぬ言葉だった。一体彼に何があったのだろうか、とクルム司令官代理を始め、司令室の者達は思った。

「そ、そこまで政治代表が仰るなら、もう私の言うことは何もありません」

と、ギアス・リードは憮然として言った。

「では、次に要塞の防御についての話に移る。リドスの王女殿下は強化案を持ってきたと聞くが、どのような案なのでしょうか?」

と、政治代表は言った。

 エルシン・ディゴ政治代表は確かに変わった、と司令室の者達は思った。以前のような不信感を抱かせる雰囲気が払拭されているのだ。

「ここは銀河帝国が設計し、建設した軍事要塞と聞いている。だから、防御兵器の強化と言っても、簡単には行かないことはわかっている。特に我々とあなた方の文明の科学技術が異質な部分があるからだ。だが、今できるだけ時間のかからない方法でこの要塞の防御力を強化することは可能だ。それは、この要塞と同時に存在している『レギオンの城』の防御兵器を使うことができれば可能になる」

「『レギオンの城』というのは、大昔にあったという城のことですね」

 政治代表もその秘書もその噂は聞いていた。だが、その城は大昔に存在して、今はあるかどうかわからないと言われていた。

「そうだ。その城はこの三次元宇宙にあるのではなく、次元の違う宇宙に存在している。未だ破壊されたことはない要塞だ。その城の防御兵器とこの要塞の防御兵器を繋げば、時間を掛けずに防御を強化できるはずだ」

「それは、簡単にできるのですか?」

「できる。ここにはその城の主がいるではないか」

「城の主?伝説ではガンダルフの五大魔法使い『大賢者』レギオンというのが城の主人だと聞いています。今その魔法使いがいるというのですか?」

「いる。そこにいる元銀河帝国の軍人だったオルフ・オン・ダールマン提督のことだ」

「ダールマン提督がガンダルフの魔法使いだというのですか?」

と、ギアス・リードが聞いた。彼はそうだと知っていたが、政治代表やフランブ・リンジはそこまで知っているとは思えないので聞いたのだった。

「そのことは、私も聞いた。構わないから続けたまえ……」

「わかりました。政治代表がそうおっしゃるのなら、いいでしょう。で、その見返りに何を要求するのでしょうか?」

「特に要求するものはないが、一つ必要なものがある。ヘイダール要塞と我がリドス連邦王国の首都星ガンダルフに専用の転送装置繋ぐことだ」

「転送装置ですと?それは確か銀河帝国が開発していたと言う、あの壊れた装置のことですか?」

 ディポック提督やダールマン提督は要塞にある転送装置を銀河帝国が開発したものだと話していたのだ。そうした方が理解しやすいと思ったのである。ギアス・リードも本当の事を知りながら、政治代表の手前、知らない振りをしていた。

「そうだ。我々ならそれを治すことが出来る。それに、我が国とこの要塞とを繋げば、いざと言う時にあなた方にも役に立つだろう」

「それは、どうでしょうか?あなた方がこの要塞を占拠しやすくなるだけのことではありませんか?」

「我々はそのようなことは断じてしない。なぜなら、我々には『レギオンの城』を使うことができるからだ」

「政治代表、この件についてはすぐに答えをだすのはどうでしょうか」

「だが、この要塞の防御力の強化は緊急を要することではないのか?」

「そうですが、……」

「クルム司令官代理、君はどう思うのだ?」

「私は、それで構わないと思う。リドス連邦王国がこの要塞を占拠するメリットはあまりないと思うからだ」

 正直クルム司令官代理も、リドス側の要求に驚いていた。彼が驚いたのはその要求があまりにも少ないことだった。例えば要塞に駐留するリドスの艦隊を認めるようにとか、その数も多くすることもあり得たのだ。だが、転送装置でヘイダール要塞とリドス連邦王国の惑星ガンダルフを繋ぐだけなのだ。

 もっとも、要塞内に駐留していなくとも、リドス連邦王国の艦隊は要塞近辺の宇宙空間にステルス状態で存在しているのだが。

 会議はこの後、ハイレン連邦の議長をリドス連邦王国の艦隊が送って行くという話をして終了した。要塞の防御兵器の強化についてはまた後日話し合うことにした。それだけブレイス少佐を早く惑星ゼンダへ行かせたいと考えていたからだ。



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