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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
59/153

ダルシア帝国の継承者

316.

 ヘイダール要塞の外では、ゼノン帝国艦隊が不気味に鳴りを潜めていた。彼らは宮廷魔術師マルカイダ・ルノイが現状打開のために要塞内部に入ったのを確認した後、その帰りを待っていた。何としてもジャンプ・ゲートを使って銀河帝国へ急行せねばならない事情があったのだ。

 一方ベルンハルト・バルザス提督――ガンダルフの五大魔法使いの一人『銀の月』は、要塞内部での暴動勃発の危機を察知していた。彼は要塞下層部に潜入し、暴動を止めるか、暴動の内部分裂を起こすことを試みようとしていた。


 要塞下層部は思ったよりも広かった。

 バルザス提督はかつて銀河帝国が要塞を所有していた時に何度か来たが、要塞の下層部まで足を延ばしたことはなかった。というのも、ここは軍の士官などが来るような場所ではなかったからだ。要塞にある繁華街で身を持ち崩した使用人や脱走した兵士、店を潰した店主やもう客の付かなくなった売春婦などが最後に行き着くところだったのだ。

 要塞が建設された当初はここには要塞で必要とされる様々な必需品を製造する工場を作る計画になっていたのだが、色々な理由でその工場が縮小され、使われなくなった建造物があちこちに散見していた。所謂都市のスラム街とまではいかないものの、ここに居ればともかく家のようなものがあったのだ。

 バルザスが暴動を起こす関係者がいると思われる建物に入って行くと、突然後ろから肩を掴まれた。振り返るとそこに、タリア・トンブンが立っていた。

「何をしに来たの?」

「君こそ、ここで何をしているんだ?」

「私は、ここで集会があると聞いて来たの」

「集会だって?何の集会なんだい」

「確か、元新世紀共和国から来た人が多いとは聞いたんだけれど、……」

 二人が入って行くと、そこは元工場らしく、かなりの広さだった。大きな使われ無くなった機械がそこかしこに置いて有り、その開いた場所に何人ものあまり服装の良くない人々が集まっていた。

 確かに元新世紀共和国の民間人らしき者達が多かった。他に元々この要塞下層部に住み着いていた銀河帝国の焙れ者達もいた。またその他に、タレス人らしき者達も交じっているのがわかった。

「タレス人も来ているようだな」

「そうよ。私達にも廻状が回って来たの」

「廻状?どこから回って来るんだ」

「さあ、どこからかはわからないけれど、たぶんここに住んでいる連中が回しているんだと思う」

 タリアは妙な組織から来た廻状を読んで、タレス人たちがそれを見て随分共鳴していることを心配してきてみたのだ。

「私たちの仲間が騙されているんじゃないかと心配で来てみたの」

「それはもっともなことだ」

「あなたはどこから聞いたの?」

 バルザス提督は、アリュセア・ジーンの末娘リュイ・ジーンから話を聞いたのだ。リュイ・ジーンはかつてはダルシア人であり、マルガルナスというダルシア帝国きっての宰相だった。そのマルガルナスがタレス人の中に不穏な動きが有ると言って来たのだ。

 エルシン・ディゴらの要塞政治代表による生活カードの数値の目減りは、タレス人の生活を圧迫していた。毎日の食事については何とかタリアから後で援助できると言って、バルザス提督が何とかしたのだが、他の生活用品までは付いていないのだ。

 集会に来ていたタレス人たちはタリアが来ると道を開けた。だが、バルザス提督のことは誰も知らないようだった。

「あんたは誰だ?」

と、元新世紀共和国の兵士らしき人物が聞いた。

「そう言うあんたは誰なの?」

と、タリアは聞き返した。

 ジロリと相手を見たタリアは、まず相手が武器を持っているか、そしてそれを使うことを選ぶ相手かを見極めた。その点については、これまでの経験からかなりの自信があった。その男は危険だった。タリアが見たところによると、武器を使うことをいとわない人物だ。つまりそれほどこの集会は危険だということだ。

「私はタレス人、タリア、タリア・トンブンよ」

「ほう、とするとタレス人の仲間か。それにあの惑星連盟とか言う連中の言っていたダルシア帝国の継承者か?」

「随分色々と知っているじゃないの」

「それは、俺たちにはあちこちに情報網があるからだ。だが、そんな重要人物がこんなところに来て大丈夫なのか?見れば、護衛達を引き連れているわけでもなさそうだ」

「何でそんな者がいるの?この要塞は無法者の住処だとでもいうの?」

「まあ、ここはあの新世紀共和国軍の最高の軍人だったヤム・ディポック提督が占拠したところだ。もちろん、だから無法者なんて連中はいない。だが、危険な連中はいる」

「どこに?」

「司令室の中さ。あそこには銀河帝国の大逆人であるダールマン提督やバルザス提督がいる」

「銀河帝国の大逆人ですって?」

「そうだ。連中がいる限り、ここへ銀河帝国軍がやって来る。だから、奴らをこの要塞から追い出したいんだ」

「呆れた、そんなことを考えているの?この要塞を欲しがっているのは銀河帝国だけじゃないでしょう」

「そんなことはわかっている。ジル星団とかの連中だろう。要塞に攻撃を仕掛けて来たからな。だが、連中はこの要塞を欲しがっているのであって、この要塞の中の誰かを欲しがっているわけではない」

「それなら、銀河帝国の方がよいのじゃなくて?だって、あなたの言うその大逆人を渡してしまえば、それで終わりにしてくれるでしょう?」

「あの連中がそれで済ませるとは思わない」

「それなら、ジル星団の連中だって同じことだわ。もし彼らに渡したら、あなた方はここから追い出されるだけ。その後どこへ行くというの?」

「ふん、そんなことはさせないさ」

「そううまく行くわけがないわ。あなた達はジル星団のことについて、どれだけ知っているの?ゼノン人やナンヴァル人だけじゃないのよ。ジル星団には多くの種族がいる」

「知っているさ。竜族と言われているゼノン人やナンヴァル人のことだろう。奴らは我々人間族よりも力が強いし、頑丈にできている。その他に昆虫のような種族もいる。前に惑星連盟の連中が来た時に見た。それぞれ、人間より強い種族も弱い種族もいる。だが、弱点を持っていない者はない。そうだろう」

「それはそうだわ。でも、そんなに簡単にできるものかしら?」

と、タリア・トンブンが言うと、どこからか女の声がした。

「あなたは、何でも知っているというの?」

 見ると、それはジェグドランド男爵家の子供達を攫った女だった。だが、タリアにはそんなことはわからない。

「あなたは、誰?」

「私は、ゼンダから来たファーダ・アルホ。元議員の秘書をしていたの」

「そう。で、あなたがこの集会の主催者なのかしら?」

「いいえ、違うわ。私はこの集会の主催者の秘書をしているのよ」

「では、この集会の主催者は誰なの?」

 その時タリアの後ろに隠れるようにしていたバルザス提督――銀の月は、同じ魔法使いの匂いを嗅いだ気がした。

 その男は確かに元新世紀共和国の軍服を身に付けていた。若く、筋骨隆々としており、肩と胸には大尉の記章を付けていた。これまで司令室でも、他の場所でもバルザス提督が見たことのない人物である。

「私は、ディース・アルム大尉だ」

「大尉ですって?なるほど、元新世紀共和国の軍人だというわけね」

「お前は、タレス人で、かつダルシア帝国の代表と名乗っているそうだな」

「そうよ。それがどうしたの?」

「お前たちは我々とは違う。だが、いつまでも違いを見ているだけでは何もなるまい」

「そうかしら?私だけじゃない、みんな知っているわ。あなた達は私たちのことを、化け物と陰で言っているでしょう。それで私たちと何を協力しようと言うのかしら?」

「我々の文明には特殊能力とか、魔法などと言うモノはないのだ。だから、そうしたことに慣れていないだけだ」

「そうかしら?」

「もちろん、慣れるには時間が掛かる。それは仕方あるまい」

 バルザス提督はディース・アルム大尉と名乗る人物をじっと見つめていた。彼の脳裏にはアルム大尉の身体の中が透けて見えた。呪文などを唱えなくても、そのようなことが普通にできるのが銀の月の特徴である。そこがかのダルシア人と似ているのだ。

 アルム大尉の身体の中には、あのバウワフルと呼ばれる寄生種族は居なかった。バルザスの能力を誤魔化せる力がない場合は大丈夫なのだが、まだアルム大尉と言う人物については何もわかってはいない。

「それで、タレス人に何をしろと言うのかしら?」

「タリア・トンブン、お前は要塞司令室の連中とも顔見知りらしいな」

「それが、どうしたというの?」

「今日、ここに来ることを司令室の連中に話したのではないか?」

「そんなことしていないわ。私を疑うというの?」

「まだ我々は信頼できるほどの関係ではない。それは、お前も同じだろう」

「そう。それでは話は終わりと言う訳ね」

「いや、せっかくタレス人の代表であり、ダルシア帝国の継承者であるタリア・トンブンが来られたのだ。ただ、顔を見せ合うだけではもったいないではないか」

と言うと、ディース・アルム大尉は指をパチンと鳴らした。

 あっという間にタリア・トンブンは十数人の者たちに囲まれた。

「何をするつもりなの?」

「お前が信用できるかどうか、試すのだ。司令室の連中にここに来たと話していないのなら、彼らが慌てることもないだろう」

「私を捕まえるつもりなの?」

「つもりではなく、そうするのだ」

「信用というのは、相互に築くものだわ。これで、少なくともあなたに対する私の信頼は無くなったと考えて良くてよ」

「ふん、そのようなことはどうにでもなる」

 タリア・トンブンは少々抗いながらも、最終的にはディース・アルム大尉と名乗る人物の手下に連れて行かれることになった。

「お前たちは、このことを誰にもいうなよ!言ったら、あの女の命がないと思え!」

と、ディース・アルム大尉は残ったタリアのタレス人の仲間に言うと、彼の手下と共にその場を去った。

 残されたタリア・トンブンの仲間は、近寄って銀の月に言った。

「銀の月、どうにかできなかったのですか?」

「しっ、ここにはまだ連中の仲間がいる。ここを出るんだ」

 バルザス提督――銀の月はタリア・トンブンの仲間をその場から連れ出すと、自分たちが監視されていることを感じていた。どこかに確かに魔法使いの目があるのだ。あのディース・アルム大尉の仲間には魔法使いがいる、あるいは魔術師かもしれないが、と彼は確信した。


317.

 ヘイダール要塞は広いのでタリアが知っている要塞の中は、タレス人のいる区域と司令室を中心とする区域や駐機場辺りだった。ディース・アルム大尉とその仲間は、タリアの知らない要塞下層部の暗い領域を急いでいた。ただ、タリアはすでにダルシア人としての自分に目覚めていたので、要塞の中であってもどこにいようと、その位置を知るのは容易だった。

「この辺りまで来れば大丈夫だろう」

と、ディース・アルム大尉は言った。

 彼らは先ほどと似たような機械の置いてある、広い空間のある場所へ入り込んでいた。タリアには位置はわかっても、そこがどういう名がついている場所なのかわからなかった。

「ここは、どこなの?」

「お前が知らなくともいい場所だ。ここはあの司令室の連中だって知らない。もちろん、お前の仲間のタレス人でも知らない場所だ」

と、得意そうに大尉は言った。

 タリアは特に不安そうな表情は見せなかった。彼女は、演技は得意ではない。にしても、この連中は何者なのだろうか。

「こんなことをして、ただで済むと思うの」

「ふん、司令室の連中はこんなところまでは来ないし、存在すら知らないだろうよ」

「あなた達は、元新世紀共和国の軍人なのでしょう?ディポック提督に付いて来たのじゃないの」

「奴は見損なった。あんな首都星ゼンダから来たと言う連中に要塞を牛耳られて、俺たちを言いようにされても、何もしないじゃないか」

「だって、あなた達のことを知らないのでしょう」

「知らないで済むと言うのか?」

「私が言いたいのは、人の所為にしても仕方がないと言うことよ」

「何だと!」

 ディース・アルム大尉はタリアを興味深げに見て、

「では、どうすればいいというのだ?」

と、聞いた。

「さあね。私にはわからないわ。でも、まずあなた方が困っていることについて司令室の人達に話を聞いてもらったらどうなの?」

 それが一番穏当な方法だった。タリアは、この連中がなぜそれをしないのだろうと疑問に思ったのだ。

「奴らが俺たちの話を聞くものか!」

「そんなこと、やってみなければわからないわ。だって、あなた達はディポック提督に付いて来たのでしょう。彼だって話をしてくれなくちゃ、何が起きているかわからないと思うわ。それをしないで、何もしないだの、何もわかってくれないだのと愚痴を溢すのは馬鹿げているわ」

 すると、タリアをここまで連れて来た連中は喧々囂々とそれぞれ主張を始めた。ある程度、彼らが言いたいことが終わると、

「お前がそう言うのなら、話をしてみてもいいだろう」

と、ディース・アルム大尉がぽつりと言った。

「大尉、本当にやるのか?」

「やってみなければわからない。それはこの女の言う通りだ」

「しかし、……」

「それで、駄目だと分かったなら、俺たちはここを出るか、他の勢力を引き込むかを考えよう」

 その後アルム大尉は黙り込んだ。必死で何かを考えているように見えた。

 タリアはじっとそうしたアルム大尉を見ていた。すると、その姿が高い天井に届くほどの背丈の有る巨人に膨れ上がって見えた。現実のアルム大尉と二重写しになっている。その巨人はまるで原始人のような毛皮を着こんでいて、手にはこん棒のようなものを持っていた。

 その巨人が言った。

(お前は、あのダルシア人、竜なのか?)

 巨人は驚いていた。こんな小さな人間がかつてのダルシア人とはどういうことなのだろうか、と思っているのだ。タリア・トンブンの心の中にその想いが突き刺さるように入って来た。

(あなたは、タゴン族なの?)

 タリアの脳裏に、昔むかしの映像が浮かんだ。それは、どのくらい昔のことだっただろうか。かつてロル星団にいた巨人族である。彼らは昔から惑星ゼンダにいた種族だった。ジル星団の人間族に似ていて、その上大きさがその三倍から五倍ほどもあったのだ。

 当時のダルシア人は彼らを見つけた時、これはよい食料だと考えて、すぐに彼らを全滅させるようなことはしなかった。文明がまだ石器時代程度だったので、彼らをロル星団の他の惑星に運んで繁殖させた。その上で、彼らをダルシア人の食料として狩ったのである。

 現在人間として生まれて来たタリア・トンブンは、かつてのダルシア人は酷いことをしたものだと思ったが、ダルシア人の当時の食料事情では已むを得ないことでもあった。

(お前たちはまた、我々を狩にきたのか?)

(違うわ。私は人間として生まれて来た。だから、あなた方を狩ったりはしない)

(それなら、何のためにここに来た)

(私は、このディース・アルム大尉達に無理やり連れて来られたのよ。それを言うなら、アルム大尉に聞いて頂戴!)

(ディース・アルム大尉だと?それは、私のことだ)

 タリア・トンブンは目を大きく開けて、巨人を見た。すると、彼らタゴンの巨人は現在人間として生まれて来ているのだ。それも元新世紀共和国に。と言うことは、同じロル星団の銀河帝国にも彼らタゴンの巨人は生まれてきている可能性が高い。

(大尉は何をしたいのかしら?)

(それを聞いてどうするのだ?)

(もし、私に出来ることがあれば、協力しようと思っているから)

(そんなことが信じられるか。お前はあの竜なのだろう。それがなぜ、我々を食べずに協力しようとするのだ?)

(人間の私があなた方を食べることはないぐらいわかるでしょう?そりゃ、昔はダルシア人だったけれど、今は違うの。それにあなただって、何の罪もない巨人だったとでもいうの?)

 タリアの言葉に巨人もうならざるを得なかった。昔のような竜であったなら、例え巨人であったとしても敵わなかったのだ。小山のような竜であったダルシア人は、一度に数人の巨人を口に銜えて飲み込んだのだ。あの圧倒的な強さ、食べられる恐怖は巨人の脳裏に未だに鮮明に残っているのだった。

 それに比べてタゴンの巨人は、どれだけ罪がなかったのかと彼は思った。ロル星団の惑星にダルシア人によって移植されたが、他の惑星には別の人間族、タゴン族よりも小さな人間がいたりしたのだ。その小さな人間を滅ぼして彼らタゴン族はその地を支配したのではなかったのか。

(私は、あの政治代表の搾取が許せないのだ。あいつらはヘイダール要塞の奪取については何もしていないではないか。それなのに後から来て、自分たちの権利を主張している。一体何様のつもりなのだ。我々がどれだけの犠牲と苦労でこの要塞を奪取したのか、少しも理解していない。これでは、前と同じだ。銀河帝国との戦は、実に愚かなものだった。それと同じではないか)

(アルム大尉は自分でこの人たちを巻き込んでいるの?他に誰か、例えばタレス人とか、ハイレン人とかは関わっていないのかしら)

(少なくともタレス人はいない。そのハイレン人というのは何だ?)

(それじゃ、元新世紀共和国の人達だけのこと?)

(当たり前だ)

 タリアは、アルム大尉とその仲間をもう一度見た。彼らは元新世紀共和国だけなのだろうか?いや、以前からこの要塞にいた銀河帝国の焙れ者たちも入っているはずだ。ただ、彼らは銀河帝国の軍からはみ出したもの達で、直接帝国政府に繋がっているわけではないはずだった。

(銀河帝国だと?あいつらはただの焙れ者だ。どこにも属してはいない)

(それと、前にダガン・ルグワンとか言う元新世紀共和国の犯罪者がいたでしょう。彼らとのつながりは?)

(ダガン・ルグワンだと?連中はどこかへ行ってしまって、連絡が付かない。この要塞の中にいるはずなのだが……)

 ダガン・ルグワンについてはタリアの方に心当たりがあった。おそらく今でも、石になったまま、その相棒と一緒に要塞の牢の一つに置いてある。彼らを元に戻すには、あの相棒の掛けようとした魔術の呪文を解読しなければならないと、銀の月が言っていたのだ。

(もしかして、お前は連中のことを知っているのか?)

(知っていると言っても、彼らは今どうにもならないの。自分たちで掛けた呪いを返されて、石になってしまったから。それを治すことは、すぐにはできないそうだわ)

(石になった?この要塞には魔法使いがいるというのか?)

(いるわ。でも彼らは魔法使いに魔法を掛けられたわけではないの。自分たちの掛けた呪いを返されたのよ)

(と言うことは、奴は魔法を使えたというわけか?)

(ダガン・ルグワンの相棒の方だわ。そいつが魔術師だったのよ)

 タリアがタゴン族の巨人と話していても、アルム大尉はそのようなことが起きているとはわからなかった。普通の魔法使いや魔術師でもタリアのようなことはできない。これは霊能力というもので、魔法とは一線を画す別の能力だとジル星団で言われていた。もちろん、その力を使える代表はダルシア人や大昔のいなくなったガンダルフ人である。魔法使いの中でこの力を使える者は僅かしかいなかった。そのうちの一人が銀の月である。

 特殊能力を持っているタリアがかつてダルシア人だったように、タレス人や他の惑星国家で同じような能力を持っている者の中にはかつてダルシア人だった者が人間に生まれ変わって来ていることが多いのだった。この特殊能力は本来どんな種族にも有るモノで、ダルシア人だけが持つ力ではない。ただ魔法とは違って、どのようにすればこの特殊能力を開発し、強めることができるかはあまりわかってはいない。

 もちろん、ダルシア人は知っていた。だが、この三次元の宇宙空間での竜の姿のダルシア人はいなくなってしまったのだ。ダルシア人はあの世、つまり四次元世界においてはまだ竜の姿を持って暮らしている者が多かった。その彼らと話のできるのは、特殊能力を持つ者、特にその中のTP――テレパシー能力を持つ者しかいないのだった。

 まして、タリアのダルシア人としての記憶ではタゴンの巨人は特殊能力を持つ者はほとんどいなかった。たまにそうした能力を持つ者は未来を知る者と言う予知者が多かった。彼らは族長とはならなかったが、賢者としてその名を広めたものだ。

「タリア・トンブン。お前は司令室の連中をよく知っているのだな」

と、ディース・アルム大尉が聞いた。

「もちろん知っているわ」

「それならば、私を司令官に合わせてほしい」

「会ってどうするの?」

「話をするつもりだ。我々の窮状を訴えたいのだ」

「決心したのね」

「そうだ」

 それならタリア自身としては歓迎だった。だが、大尉の仲間の中にはそれに不満な連中がいた。その中の一人、美人の部類に入る女が、横から慌てて出てきて言った。

「待ってちょうだい、大尉」

「何だ?」

「私は反対だわ。どうしてあんな司令室の連中を信用するの?」

「これまで何の話もしようとはしなかったことは、やはり良くないと思う。民主主義を大切にするならば、まず彼らと話をするべきだ」

「軍人は、上の命令しか聞かないのでしょう?」

「それなら、私も軍人だ。士官だ。だが、元新世紀共和国の市民でもある。だから、話をしたいと言えば、乗って来ると思うのだ」

「そうかしら?」

と、先ほどから反対をしている女が言った。

「あなたは、誰なの?ひょっとして、帝国の人かしら?」

「私を誹謗中傷するつもりなの。私はファーダ・アルホよ。もちろん、元新世紀共和国の人間よ」

「で、反対の理由は?」

「司令室の連中、軍の上層部が信用できないからよ」

「なぜ?」

「それは、これまで私たちがやって来た戦争に負けたからだわ」

「でも、それは軍人だけの所為なのかしら?それに、そんなに信用できないのなら、このヘイダール要塞から出て行けばいいでしょう?」

「何ですって!」

と、激昂する女を見て、

「待った!」

と、アルム大尉が二人の女の中に割って入った。

「大尉、この女を、いえ司令室の連中を信用するのですか?」

「元々我々は、ヤム・ディポック提督に付いて来たのだ。私は彼を信じる」

と、ディース・アルム大尉は言った。


318.

 要塞司令室では、スクリーンに映っているゼノン帝国の艦隊に掛かりきりだった。あれから何も言ってこないのだ。

「なるほど、……」

と、ダールマン提督――レギオンの声が聞こえた。

 ゼノン帝国の艦隊がスクリーンに映じて緊張している司令室に、その声は間延びしてひどく大きく響いた。

「誰と話しているのだ?」

と、クルム司令官代理が聞いた。

「今、リドス連邦王国から通信があった」

「通信?そんなものがあったのか?」

と、司令官代理は通信員を見た。

「いいえ、こちらには何も来ていません」

「言い方が悪かった。超高速通信ではない。魔法の通信で来たのだ」

 特に魔法陣は浮かんでいなかったが、ガンダルフの魔法使いは様々な魔法の呪文を使って、通信ができる。ダールマン提督の受けた通信は魔法陣を使うものではないが、提督本人に送られた外交上の極秘事項にあたるものだった。

「魔法の通信で来たということは、本国の司令部からなのか?」

「まあ、そう言うことだ。あのゼノンの艦隊の急いでいる理由についてだ」

「ほう、理由がわかったのか。で、どういうことなのだ?」

「ゼノン帝国で、皇帝陛下が亡くなったそうだ。あの艦隊は銀河帝国の帝都駐在大使にそれを知らせるために帝都へ急行する必要があるということだ」

「帝都のゼノンの大使にか。しかし、それなら、新皇帝が即位した時に、それを知らせればよかろう」

「帝都のゼノン大使は、崩御した皇帝陛下の一族だそうだ。そのため、次の皇帝を決めるために一族を招集する必要が生じ、帝都へ艦隊を送ったのだそうだ」

「なるほど、関係者ということか。それならわかる」

「では、その帝都のゼノン大使が本国に戻らなければ、次の皇帝陛下が決まらないというわけですか?」

と、ブレイス少佐が聞いた。

「まあ、そう言う位置にその大使がいるのだろう」

 だからと言って、あの艦隊に特別にジャンプ・ゲートを使わせる気は到底レギオン――ダールマン提督にはなかった。帝都のゼノンの大使が戻るとなると、帝都のあの闇の魔法の影響が宇宙船に乗ってきて、ゼノン帝国にまで広がるからだ。そしてその影響はさらに宇宙船によってジル星団全域に広がって行くだろう。

「しかし、いつまでもあの魔術師をレギオンに会わせないままにすることは、いかがなものか」

と、クルム司令官代理は言った。

 ゼノン帝国の艦隊をいつまでも要塞の外で待機させるわけには行かない。何を仕掛けてくるかわからないからだ。彼らは敵であることについて、司令室の者たちは同意見だった。

「帝都の大使がゼノンに入るのが少々遅れても、大勢は変わるまい」

「ゼノン帝国に恨まれることになるのでは?」

「それは、帝位を望んでいるのが、誰かによる。大使が遅れるのを喜ぶ連中もいるのだ。それに我々にとって大事なことは、ゼノン帝国の皇帝が誰になったとしても、我々には大して影響はないということだ」

「ダールマン提督は魔術師には冷たいのですね」

と、ダズ・アル提督グが聞いた。

 以前来たナンヴァル連邦の魔法使いには、かなり親密な関係を窺わせる態度だった。それが、今回の魔術師には歯牙にもかけないという姿勢がある。魔法使いのいないロル星団の者達には、魔法使いも魔術師も単に国が違うのでその名が違うのだろうと言う程度の認識だった。

「そうだ。魔術師に対して、私は責任を持つことはない」

「魔法使いには責任をもつのですか?」

「そうだ」

「つまり、魔法使いと魔術師というのは、名前が違うだけではないということでしょうか?」

「当たり前だ。違うから名が異なっているのだ」

 その時、司令室に入って来たブルーク・ジャナ少佐が、

「済みません、フェデラル・グリン中将閣下、閣下に会いたいと言う人物があのオルレイア号から来ているのですが……」

と、言った。

 彼は、コレル・ブルゾン元大将や船長達が司令室を出て行ったのを見計らって、入って来たのだ。ジェルス・ホプスキンが彼らに会いたくないと言ったからである。

「誰だね」

「ジェルス・ホプスキンと言う人です。以前、閣下と会ったことがあるそうですが……」

「ジェルス・ホプスキン?聞いたことがあるような、……。思い出した、首都星ゼンダにいた刑事のことだ」

「刑事?警察の関係者ですか」

「そうだ。私は憲兵関係の仕事もしたことがあるので、何かの事件で犯罪者を捜すときに遭ったことがある」

「そうですか、覚えておられて助かりました。あの、こちらへ連れて来てもよろしいでしょうか?」

と、ジャナ少佐が聞くと、

「司令官代理、ちょっと出て来てもよろしいでしょうか?」

と、グリンが言った。

「どうしたのだ?」

「私に会いに来た者がいるそうなので」

「すぐに戻って来られるならいいだろう。許可する」

 司令室は今ゼノン帝国の艦隊が来ている件で、グリンは余裕がないと考えていた。それに、コレル・ブルゾンたちの事もある。


「それでは、こちらへ」

と、ジャナ少佐は言った。

 司令室の外でジェルス・ホプスキンは待っていた。その彼の肩にはジャナ少佐の子猫が乗っていた。

「私が、フェデラル・グリンだ」

「忙しいところを、呼び出して申し訳ない」

「いや、それは構わないが、用件を聞こう。通路で話をするのはどうだろうか。私の部屋まで来てもらえば……」

 部屋が司令室から離れていることを、グリンは思い出した。まだいつゼノン帝国の艦隊が動き出すかわからないのだ。あまり時間がない。

「それなら、私が連れて行ってあげる。忙しいのでしょう?」

「ジャナ少佐、君の猫だったね」

「そうです」

「お客人を驚かせるかもしれないが、司令室も今は忙しい。良ければ頼みたい」

「じゃ、行くわね」

と、子猫が言った。


 フェデラル・グリンの部屋は司令室からおよそ歩いてリフトを使って、いつも二十分はかかる距離だった。だが、子猫はほんの一瞬で司令室の通路からグリンの部屋のキッチンの中へ、一同を連れて来た。

「ほう、これが瞬間移動というものなのか?」

「そうよ。簡単でしょう。それから、居間にお茶を出して置いたわ。私と少佐はここで待っているわ」

 将官用の宿舎でもあるので、玄関に居間、客間、寝室が二つ、それにキッチンが付いている。少佐と子猫はキッチンにいるつもりだった。

 ジェルス・ホプスキンは、始めは驚いていたが、案外早く馴染んでいた。それに驚いたのはグリンの方である。

 居間にあるソファに、二人は向き合って座った。テーブルには確かにお茶が置いてあった。そのお茶を一口飲んで、グリンは言った。

「君と会うのは、十年ぶりではないかな?」

「そうですね。お久しぶりです。ヘイダール要塞がこのような場所とは思いませんでした」

「私もそうだ。慣れるまでしばらくかかったものだ。で、私に用と言うのは何だね」

「実は、私の追っている人物がこの要塞にいると分かったのです」

「君が追っているというと、刑事事件の犯罪者ということか?」

「そうです。もう、何十年も追って来た奴なのです」

「すると、まさかあの時の……」

「そうです。あなたの御想像通りです」

 今から十年ほど前、フェデラル・グリン大佐は首都星ゼンダで大掛かりな麻薬密輸捜査に関わったことがある。その時一緒に仕事をしたのが、このジェルス・ホプスキン刑事だった。当時は麻薬密輸業者の大半を逮捕したのだが、その網をすり抜けた人物が居た。それがジェルス・ホプスキン刑事の追っている人物だと、グリンは思った。

「その人物の名は分かるのか?」

「ファーダ・レイムという名の人物です。実は数年前には最高評議会の議員の秘書になっていました。そして、現在はこの要塞にいるということが、オルレイア号が出発する前日に分かったのです」

 正確に言えば、それがわかったのでジェルス・ホプスキンはオルレイア号に乗ったのだ。ヘイダール要塞に行く船は今はめったにない。総督府が禁じていて、目を光らせているのだ。だから、これを逃したら、いつになるかわからなかったのだ。

「前日というと、ここに来る直前ということか?」

「そうです。二週間程前でしたか……」

「何か密告でもあったのか?」

「いえ、ちょっとした情報漏えいです」

「話を変えて済まないが、君は元最高評議会議長だった、チェルク・ノイのことを知っているか?」

「私はお目にかかったことはありませんが、何かありましたか?」

「彼については何も君は知らないのだね?」

「何かあったのですか?」

「いや、知らないのならいい。悪いが、この件は忘れてくれ。それで、元の話に戻るが、そのファーダ・レイムと言う人物が要塞にいると言うのは、確かかね」

「確かです。もちろん、私は来たばかりでまだ確認はしておりませんが……」

「そうか。では、その件についてはジャナ少佐とあの猫に協力してもらうことにしよう」

「いいのですか?」

「オルレイア号の連中はすでに拘束したので、他にすることはないだろう」

 客間から通信機でキッチンを出して、ジャナ少佐を呼んだ。

「何か、ご用でしょうか?」

「フェリスグレイブには私から話して置くから、君と君の子猫はこのジェルス・ホプスキン刑事に協力して彼の探している人物を見つけてほしい」

「了解しました」

「ニャァ」


 グリンを司令室へと送ると、

「さて、どこから始めたらいいのかしら?」

と、子猫が言った。

「私はここへ初めて来たので、私の探している人物がどこにいるのかわからない」

「それは、困ったわ」

「あなたの探している人は、どんな人なのですか?」

 そこでジェルス・ホプスキン刑事は大まかなことを話した。

「つまり、かつて麻薬取り締まりの捜索で逃げ延びた人物ということですか……」

「犯罪捜査?私、そんなこと初めてだわ」

「この要塞に、街はあるかな?そこに犯罪者のような連中がたむろしているような場所の心当たりはあるかな?」

「ウーン……」

 ジャナ少佐も犯罪捜査は初めてである。それに、この要塞に犯罪者がいるような場所があるのだろうか、と考えてしまった。憲兵のような任務もこなしたが、そんな場所に心当たりはない。

「ちょっと待って。誰かに聞いてみるわ」

 子猫はしばらくすると、再び言った。

「この要塞の下層部にどうやら何かあるみたいよ」

「下層部?」

「行ってみましょう!」

 と子猫が言うと、二人と一匹の姿はグリンの部屋から消えた。


 彼らが現れたのは、下層部の一画、薄暗い場所だった。そこは建物と建物の間の空間だった。

「こんな場所が要塞にあったとは……」

と、ジャナ少佐は言った。

 そこへ見慣れない一団がやってきた。その中にジャナ少佐はタリア・トンブンの姿を認めた。

「タリア、タリア・トンブンじゃないですか?こんなところで何をしているんです?」

「あら、ジャナ少佐。あなたこそ、こんなところで何をしているの?」

「自分は人を探しているんです。あなたは?」

「私はこれから司令室へ行こうと思って……」

 ジャナ少佐はタリア・トンブンと一緒にいる士官と兵士の一団を見た。見たことのない連中である。そのジャナ少佐の肩へ、ピョンと子猫が乗った。

「うっ、その猫」

「私の猫が何か?」

「な、何でもないわ。何だか蕁麻疹が出てきそうだから」

 タリアは小さな子猫をまるで野獣でも見るような目で見ていた。

「猫が嫌いなんですか?」

「いいえ、猫は好きだわ。本物ならね」

 そこへディース・アルム大尉が、後ろの一団から一人前に出て来て言った。

「ジャナ少佐でしたね」

「そうだが、君は?」

「私はディース・アルム大尉です」

「私に何か用だろうか?」

「ここで何をしているのです?」

 ジェルス・ホプスキン刑事はタリアやその後ろにいる連中を見ていた。その中に、どうやら自分の探している人物がいることに気づいた。

「ジャナ少佐、そこに、私が探している人物がいる」

「何だって、どこに?」

 素早く動く者がいた。ジェルス・ホプスキンは懐から熱線銃を出した。

「動くな!ファーダ・レイムだな?」

 タリアやディース・アルム大尉の後方に、ファーダ・アルホと名乗った女がいた。その女にジェルス・ホプスキンの銃はピタリと向けられていた。

「ちょっと待って、要塞の中なのよここは!撃つのは止めて」

と、ファーダ・アルホが叫んだ。

「都合のいいことだ。だが、私にそんな話は通用しない」

 ジャナ少佐は困ったことになったと思った。要塞の下層部であっても、こんなところで熱線銃を使うことは禁止せざるを得ないのだ。熱線銃の向けた先に要塞の重要な部門があるかもしれないのだ。ジェルス・ホプスキンはまだ来たばかりなので、そのことを知らないのだった。

「待て、いったい私の仲間に銃を向けるのはなぜだ!」

と、ディース・アルム大尉は驚いて言った。

「この女は私が長年追い続けて来た犯罪者だ。名はファーダ・レイムという。麻薬密輸や販売のシンジケートのボスだった」

「違うぞ。この女性はファーダ・アルホ。議員の秘書をしていたのだ」

「議員の秘書?そんなことを言ったのか。確かに、ここに来る前は議員秘書になっていたようだ」

 熱線銃を向けられても少しもひるまずに、ファーダ・アルホは立っていた。

「何か言ってみるがいい。この連中を騙しているのだろう」

「……」

 タリアはファーダ・アルホが黙っていることに、どこか不安を感じた。何かを起そうとしているような気がしたのだ。

 この辺りの下層部には、昔使われていたが今は使われなくなった機械や装置がたくさん置いてある。その中にはちょっとした技術があれば武器に転用できるような機械があった。

 ジャナ少佐の子猫は、その肩で毛を逆立てて、

「フーッ」

と唸り、警戒心を露わにしていた。



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