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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
55/153

ダルシア帝国の継承者

304.

 ジェグドラント元老伯爵は、寝室から居間に来て言った。

「子供たちはどうしたのだ?」

「子供たち?いないのですか」

と、ジェグドラント男爵夫人が驚いて言った。別の部屋で遊んでいるものと思っていたのだ。もちろん、静かすぎるとは思っていたのだが。

「今、あちこち見て来たのだけれど、どこにもいないのですよ」

と、元老伯爵夫人が不安そうに言った。

「どこかに隠れているのではないですか?」

と、フェーラリスが言った。子供というものは、うるさくてやかましいものだと彼は思っていたので、静かなのにホッとしていたのだ。

 その時、内線用のスクリーンが明るくなった。

「あの、わたしリゼラ・ジーンよ。男爵のおじさん、ログスたちは戻って来た?」

 その言葉に男爵夫妻は顔を見合わせた。もしかして、子供たちは外に出て行ったのかもしれないと、初めて気づいたのだ。

「ちょっと待ってくれ。いったい何が起きているのか教えてほしい」

 そこで、リゼラは要塞の中の繁華街でログス達に会って、その後起きたことを話した。

「すると、子供たちはその妙な女について行ってしまったのかい?」

「何だか様子がおかしな女の人だったけれど、ログスがこれはジェグドラント家の問題だって言って、付いて行ってしまったの。まだ、そちらに戻ってきていないのなら、誰かに言った方がいいかもしれないわ」

「その女の人は、名前は言ってなかったのだね?」

「ええ。言わなかったわ。ただ、リュイがその女の人の身体の中に変なものが見えたというの」

「変なもの?」

「そう、まるで蛇のようなもの」

 ジェグドラント男爵は、蛇のようなものに心当たりはなかった。それに身体の中に見えたとは、どういうことなのだろうか、と思った。

「誰かに言うとしても……。そうだ、ベルンハルトはどこにいるのだろうか?」

「あのね、今要塞に、ええとゼンダから貨物船が来ているそうよ。その貨物船を要塞に入れるかどうかで迷っているみたいなの。だから、もしかしたら司令室にいるかもしれないわ。少なくとも、おじさんは居ると思うし……」

「ゼンダから貨物船?」

 ゼンダというと、かつての新世紀共和国の首都であり、現在は銀河帝国の総督府がある惑星だ。

 ジェグドラント家の部屋には、そのようなことは知らせて来なかった。しかし、なぜ本国からの船を入れるかどうかで迷うのだろうと思って、ジェグドラント男爵は聞いた。

「なぜ、迷うのだね?」

「だって、前に来た船は、ディポック司令官を狙って、暗殺者を乗せて来たの。あの時は大騒ぎをしたわ。だから、本当は入れたくなんてないのよ」

「なるほど、今回もそうだと危険だと言う訳か」

「そうそう……」

「とすると、今回も危険な連中が乗っているということか?」

と、フェーラリスが聞いた。

「多分ね。だから、おじさんも司令室に詰めているのよ」

「そのおじさんというのは、誰のことだい?」

と、フェーラリスは聞いた。

「もちろん、ガンダルフの五大魔法使いの一人レギオンのことよ」

と、リゼラは誇らしげに言った。

「そうではなくて、ここでの名前だ」

と、イライラしてフェーラリスが言った。

「ここでの名前?ああ、ええとダールマン提督とか呼ばれているわ」

 ジェグドラント家の者たちはダールマン提督と聞くと、それぞれ目で合図をし合った。彼らにとってその名は帝国の大逆人を意味していたからだ。そもそもジェグドラント家の没落の始まりが、あの帝国での大逆事件にある。あの事件さえなければ、ベルンハルト・バルザスも勘当などせずに済み、ベルンハルト・オル・ジェグドラントのままであったはずなのだ。

 ダールマン提督を恨んでいるわけではないが、警戒心を湧き起こす名だった。

「で、どうするつもりなの?急がないと危ないかもしれないわ」

「それは、こちらで何とかする。ともかく、知らせてくれてありがとう」

と言うと、ジェグドラント男爵は内線を切った。


 リゼラはジェグドラント男爵家の子供達のことが心配だった。あの親たちはこの要塞で銀の月の他に、頼りになりそうな人物を知っているだろうか?初めて来た場所らしいし、それに元敵である新世紀共和国の人々がほとんどなのだ。それなのに自分たちで何とかするというのは、無理があり過ぎるのではないか。

「お姉ちゃん。どうするの?あのままではきっと危ないよ」

と、リュイが言った。

「わかっているわ。でも、要塞の司令室も他のことで忙しいのよ」

「でも、これはもしかしたら、同じ人が何かを企んでいるのかもしれないよ」

「同じ人?」

「そう。あの女の人の身体の中にいた妙な、蛇のようなもの。あれは、何か覚えていない?」

「わからないわ」

 リゼラには、身体の中を透視するような能力はなかった。それに人間の身体の中にいるものとは、寄生虫の他には聞いたことがない。

「でも、きっとガンダルフの魔法使いなら知っていると思う」

 リゼラは大人たちが、自分の話をちゃんと聞いてくれるかどうか自信がないのだった。

「おじさんに、レギオンに話した方がいいと思う。これは、きっと大変なことになるよ」

と、リュイは一生懸命に言った。

 リュイは姉妹の中で一番歳下だった。だが、彼女は姉達とは違って霊的な目覚めをしていたのだ。生まれる前のダルシア人の時の記憶が戻っていたのだ。彼女はかつてダルシア帝国のライアガルプス陛下の時代の宰相マルガルナスだった、と言う記憶である。その力はダルシア帝国の皇帝ほどではなかったが、かなりの力を持っていた。すわなち、TPや透視や念力などの特殊能力だけではなく、予知にも長けていたのだ。

 身体の中の蛇のようなもの、それが何であるか、マルガルナスは知っていた。およそ一万年前にこのふたご銀河にやって来たバウワフルという異星人である。彼らは非常に権力欲のある、傲慢で残忍な種族なのだ。それでいて妙に科学知識も持っていた。また非常に長命な連中で、一万年前に来た者たちはいまだに健在なのだった。

 あのギアス・リードとかいう新世紀共和国から来た男も、身体の中にその蛇を飼っていた。飼っているというよりも、それに支配されていると言った方が正確だ。ただ、人間の中にも彼らと同じような性格のものもいて、非常にまれだが共生関係にあるような場合もある。

 しかし大抵は一方的にバウワフルに支配されることが多かった。ダルシア人はふたご銀河の人間族の遺伝子に手を加えて、彼らが寄生すると数日以内に拒絶反応を起こして、寄生したものを排除、すなわち殺してしまう遺伝子を作った。それにより、かなり侵入してきたバウワフルは減少していた。

 ただ、遺伝子なので人間の中にはその遺伝子が受け継がれない場合もあり、そうした人間を探してバウワフルはこれまで生き延びて来たのだ。

 またそれに付け加えるとするならば、ダルシア人は彼らバウワフルが子孫を残す能力があるかどうか、疑問に思っていた。もし、それがあればバウワフルと言う種族はこのふたご銀河で爆発的に増えていたはずだからだ。だが、彼らの数は一万年前に侵入してきた頃より、増えたような事実はない。数は減少を続けているのだ。


「これは、我が家の問題なのだ」

 リゼラが再びスクリーンに出ると、ジェグドラント男爵は言った。あのログスと同じ言葉を言ったのだ。それはもちろん、アリュセアの子供達を自分たちのことに巻き込んではいけないと考えてのことだった。

「違うわ」

と、リュイは珍しく強硬に言った。

「いいや、君たちにも危険が及ぶ、だからこそ言っているのだ」

「いいえ、おじさんだけで行ったら、あの連中に手もなくやられてしまうわ。だって、おじさんは武器を持っているの、戦闘の経験があるの?」

「そ、それは……」

 確かにジェグドラント男爵はこの要塞に来るときには、何か持って来るような余裕はなかった。武器など何ももってはいない。男爵は軍に入ったことはないので、戦闘などは経験がない。それにこれまでの人生で、喧嘩もほとんどしたことがない。

「おじさんだけでは、危険よ。相手はとても長命な異星人なの。彼らはもうこの銀河に一万年もいるの。来た時からずっとそのまま生き続けているのよ」

「何でそんなことがわかるんだね?」

「それは、私がママと同じ、ダルシア人だったからよ」

「君が、竜だったというのか?」

 リュイはまだ十歳にもならない、幼い女の子だ。それが竜だとは、想像もできないことだ。だが、リュイは本気だった。

「ちょっと待って、リュイ。あなたがダルシア人?本当なの。ママがそう言ったの?」

と、リゼラが聞いた。彼女は、そのことを誰からも聞いた覚えがない。

「いいえ、誰も私にそんなこと言ったりしていないわ。私が自分で思い出したの」

「何ですって!」

 リゼラはリュイの言葉に驚いていた。それだけではなく、自分の持ってはいない特殊な能力があることに更に驚いていた。

「おねえちゃん、黙っていてごめんなさい。でも、言っても分からなかったでしょう。この能力は歳とは関係ないの。返って、若いというか、幼い方が目覚めるのが早いことがある。歳を重ねてしまうと、色々な思いがたくさん出てきて邪魔をしてしまうから、目覚めにくくなることもあるの」

「で、でもリュイ、あなたができるのは、どんなことなの?あの女の人と対決するには、ダルシア人だった時の記憶があるだけでは役に立たないのではないの?」

「ダルシア人と言う種族を、今は知る者はいないのね。ダルシア人は竜だった。ほら、絵本や伝説に出てくる羽のある大きな竜のこと。その皮膚は鋼よりも固く、口からは火を噴き、尻尾を動かすと大木も倒れると言われている。それは、本当のことだわ。でも、ダルシア人の力はそれだけじゃない。ほら、見て!」

と、リュイが言うと、その部屋にあった家具が全て宙に浮いた。

「な、何これ。何が起きているの?」

と、アリンが驚いて言った。

「つまり、テレキネシス、念力も使えるというのね」

と、リゼラが言った。念力ならタレス人の特殊能力者にもある。もちろん、これほどの力ではないが。

「そんなもの、ダルシア人の能力のほんの一部にすぎないわ。私の身体は人間だけれど、ダルシア人の力に目覚めている今は昔と同じ力を使うことができる」

「じゃ、他にも出来ると言うの?」

「そう。だから、私はおじさんと一緒にログスたちを探しに行って来るわ」

 リゼラはそれでも、なかなかリュイが言うことを信じることはできなかった。突然、一番下の妹がダルシア人と同じ力を持っていると言っても、簡単には信じられないのが当然のことだ。

「それじゃ、私が行ったら、司令室のレギオンに連絡をして。それならいいでしょう?」

「わかったわ」

と、リゼラは根負けして言った。あまり時間が経ってもログスたちがどうなるかわからない。

 リュイはその瞬間、リゼラのいる部屋からジェグドラント男爵の部屋へ移動した。瞬間移動もダルシア人の能力の一つだ。

「き、君は!」

と、ジェグドラント男爵は驚いて言った。

「さあ、おじさん行きましょう。場所はだいたいわかるから」

「本当に、大丈夫なのか?」

「ええ、大丈夫」

と、リュイは言った。


305.

 バルザス提督の部屋では、マグ・デレン・シャとカトル・ファグル元元帥が話をしていた。

「では、ダルシア人というのはそれほど強い種族だったのですな」

と、ファルグ元元帥は言った。

「ふたご銀河最強の種族です。もっとも、ガンダルフも別格ですけれども」

「あなたのお話は、まるでファンタジーのようだ。羽のある竜、ドラゴンなどこの世に本当にいたとはとても思えない」

「そうでしょうか?あなたの星にも、竜という言葉がありますでしょう。それが、かつてダルシア人があなた方の星へ行ったことがあるという証拠です」

「しかし、その強い種族であったダルシア人も今は絶滅してしまったということですが……」

「ダルシア人は子孫を残す能力が減退して行ったのです。正確に言うと、ゼノン帝国との戦争でダルシア人の精子を貯蔵していた施設が爆撃を受けて大破したためと言われています」

「ダルシア人は人工授精で子孫を残していたというのですね」

「そうです。卵子はまだあったのですが、精子がもう手に入らなくなっていたと聞いています」

「とすると、ダルシア人というのはほとんど雌、いや失礼、女性だったということですか」

「そうです。ダルシア人の男性は非常にひ弱で、あまりにも女性が強かったのでずっと昔に絶滅してしまったと言われています」

 そこへタ・ドルーン・シャがやって来た。

「マグ・デレン、要塞司令室から内線が入っていますが、こちらのカトル・ファグル氏に出て欲しいそうです」

「まあ、どうしたのでしょう。何かあったのでしょうか」

「大丈夫ですよ。確かにクルム司令官代理は若いが、傍にディポック提督が相談役として付いているのですから」

 カトル・ファグル元元帥がスクリーンに出ると、ディポック提督が言った。

「元帥、大変申し訳ありませんが、司令室まで来ていただけないでしょうか?」

「何かあったのか?」

「ゼンダから貨物船が来ているのです。その中に現在政治犯で追われている者たちも乗っているとのこと。それについてあなたの意見をお聞きしたいのです」

「ふむ。ディポック提督、君の記憶ではわからないのかね」

「私がゼンダを出てからかなり経ちます。私の記憶は当てになりません。それに総督府の締め付けがきつくなったのは私が出て行った後からではないですか?」

「それもそうだ。わかった。そちらへ行こう。で、政治犯の連中の名は分かっているのか?」

「貨物船からリストを送ってもらいました」

 カトル・ファグル元元帥はマグ・デレン・シャの元へ戻ると、

「お聞きになりましたか、ちょっと司令室へ行かなければならないことになりましたので。あなたとの話はとても興味深かったので残念です」

と、言った。

 ナンヴァル人のマグ・デレン・シャに対して、竜族であるその容貌や体格からカトル・ファグルはあまり話し掛けたりしなかった。けれども同じ部屋に長くいるのでだんだんお互いに慣れてきて、話をするようになってくると共に、話が合うと言うことを発見したのだ。

「また戻られたら、お話を続けることが出来ますわ」

「そうですね。では、また後で……」

 部屋の外に出ると、カトル・ファグル元元帥はバルザス提督と出くわした。

「司令室の方では、急いでいますので、私と一緒に来ていただけますか?」

「それは構わないが、……」

 最後まで言う前に、カトル・ファグル元元帥を連れてバルザス提督は司令室へ移動した。

 司令室の中へ突然来たので、カトル・ファグル元元帥は目をぱちくりした。魔法を見たことがあるが、自分が魔法で司令室へ連れて来られるとは思わなかったのだ。

 司令室のスクリーンには惑星ゼンダから来た貨物船が映っていた。だがその端に、小さなスクリーンが開いていて、リゼラ・ジーンの顔があった。

「おじさん、それでリュイがジェグドラント男爵と一緒に行ってしまったの。大丈夫かしら……」

「大丈夫だとは思うが、そうだ。銀の月が戻って来たから、そちらへ行ってもらおう」

「銀の月が来るの?でもおじさんは来られないの?」

「私はこれから色々と忙しくてな。銀の月なら大丈夫だ」

 ダールマン提督――レギオンは司令室に現れた銀の月に目で合図すると、銀の月は姿を消した。


 ジェグドラント男爵とリュイ・ジーンは、要塞の繁華街から離れた、下層の建物の間を歩いていた。

「ここは、どこだろうか?」

「昔、帝国軍がいた頃、ここははぐれ者たちの住処だったそうよ。その頃の者たちが住み着いているけれど、以前よりかなり数が減っていると聞いているわ」

 この辺りは、ダガン・ルグワンとその仲間ダルジャンが隠れていた場所に近かった。

 建物があると言っても、要塞中央にある公園や繁華街とは違って、天井に疑似空が作られているわけではない。ただ、上の方に何となく淡い光があるだけだ。ただ要塞の内装でも通路と建物との区画が、かなり独立しているような風に作られていた。

 この下層区域は、本来なら軍の必需品を作るために設けられたものだった。工場として使われる予定だったのだ。残念ながらそれを活用するだけの需要がなかった。そのためこの区画は最初の二十年以来、放棄され、帝国に戻ることを望まなかった退役軍人や民間人が住み着くようになったのだ。彼らは要塞の繁華街にある店に雇われることもあったが、相次ぐ要塞の所有者の交替により、繁華街の店が閉店するようになり、まるで乞食のような生活に転落して行った者が多い。

 ジェグドラント男爵とリュイ・ジーンが歩いて行くと、どこかの建物からこちらを見る視線が感じられた。

「誰かが、見ている」

と、リュイが言った。ダルシア人は強力なTPの能力も持っていた。視線から相手の考えを辿ることも可能なのだ。

「例の犯人だろうか?」

「おそらくこれは、ここの住人でしょう。珍しく人が歩いているので興味を持っただけ……」

と言うとリュイは妙な気配を感じて、話を止めると、

「ふふん。銀の月が来たようだわ」

と、言った。

「銀の月だって?ベルンハルトのことか?」

 ジェグドラント男爵は、あたりを見回すような素振りは示さなかった。誰かに見られていると困るからだ。これまでと同じくゆっくりと歩いて行く。

「兄上、私です。話は聞きました。子供たちがいなくなったそうですね」

と、後ろからベルンハルト・バルザス提督――銀の月の声がした。

「あれはおそらく、ギアス・リードの仲間だわ」

「そうだろうね」

「ギアス・リード?それは誰のことだ?」

 ジェグドラント男爵にとって、その名に聞き覚えはなかった。

「ギアス・リードというのは、ちょっと前に惑星ゼンダから来た元新世紀共和国の議員の秘書をしている男です。彼は非常に危険な人物ですよ。おそらく、子供たちが私の甥や姪だと知って、攫ったのでしょう」

「攫った?どうしてだ?」

「つまり、これまで銀の月の身内と言う者は、やつは知らなかったからです。だが、ここに居た。だから狙ったのです」

「それは、お前を脅すためか?」

「それもあるでしょうね。ただ、それだけとは思えません。奴が何を考えているのか、まだわからないことが多いのです」

 確かにギアス・リードは、一緒に来た元新世紀共和国の議員たちとは別の企みを持っていると考えられるのだ。それでも、今回ギアス・リードの仲間らしきものが出て来たのは、こちらにとっては好都合だ。連中の姿は分かっていても、この要塞中の人間を調べ尽すのにはかなり時間がかかる。どこに奴の仲間がいるのかわからないのだ。

 突然、行く手に十人ほどの集団が現れた。同じような格好をしていて、手には棒のようなものを持っている。棒は電磁銃とも思えた。それに触れただけで気絶するような代物だ。

「お前は、ここの住人ではないな。何をしにここへ来た」

と、リーダーらしき男が言った。

「私はここへ人を探しに来たのだ」

と、ジェグドラント男爵が言った。

「それがどうした?気に入らないな。よそ者がここへ来るのは。さっさと出て行ってもらおうか」

と言うと、彼らはジェグドラント男爵とリュイの近くへ走って寄って来た。

 ジェグドラント男爵はリュイをかばうように前へ出た。

 その時、何か目に見えない大きなものが傍に降りて来たように感じた。ジェグドラント男爵はリュイを庇って立っていると、その大きな何かが動き、つむじ風が吹いたように感じた。気が付くと、近寄って来たチンピラの集団が倒れていた。

「何が起きたんだ?」

「ふん。人間などがこの私に手を触れられるわけがない」

と、リュイが別人のように言った。

「くそっ、何をした!」

と、リーダー格の男が起き上がると、手に光るものを出した。

「危ない!何をするんだ。私たちは、ただ人を探しに来たんだ」

「それが、気に入らないって言うんだ!」

 だが、言葉とは裏腹に、男は何か目に見えない者によって吹き飛ばされた。リュイが、ちょっと自分の小さな手を振り上げたのと同時だった。

「やりすぎじゃないか、マルガルナス」

と、銀の月――バルザス提督が言った。

「まだ少しコツがわからないのだ。だが、彼らは生きているはずだ」

「そうでなければ困る。彼らに子供たちの居場所を聞かなければならないのだから」

 ジェグドラント男爵は弟の声のする方を振り返った。だが、そこには誰もいなかった。

「どこにいるのだ、ベルンハルト」

「すみません、姿を消しているのです。傍にいますよ」

「ガンダルフの魔法使いは、姿を消すのが得意だからな」

「それよりも、早く彼らに聞いた方がいい」

「ふん。そんなことしなくても、あの先ほどの男の脳裏にあの女の姿があった」

「ほう、場所は?」

「この近くだ。おそらく、どこからかこの場所を見ているはずだ。ただし、窓のない部屋だった」

「すると、管理室かな?」

 要塞の各層には監視のための隠しカメラがあちこちに設置してある。それを管理している部屋が各層にある。

「では、先に行っている。君たちは後から来てくれ」

「わかった」

 銀の月の声がしなくなった。

「おじさん、行きましょう」

と、元のリュイに戻って言った。

「場所は分かっているのかね?」

「ええ。銀の月がこの層の管理室だと言っていたわ」

「それで、ベルンハルトは先に行ったのかね?」

「そうよ。魔法使いは瞬間移動が使えるから」

「つまり、魔法の呪文を使ったということか?」

「そう。当然でしょう。でも私たちは、歩いて行った方がいいわ。だって、そんな力が使えると知られるのはいいことではないから」

と用心深くリュイは言うと、ジェグドラント男爵と急いで歩き出した。


 銀の月が現れたのは、下層区画の管理室だった。目の前には多くの画像を映し出されている。怪しい女は、その部屋の椅子に座っていた。子供たちの姿はない。どこか別の所に閉じ込められているのだろう。

「急に、急ぎ始めましたぜ」

と、画像装置の前に座っている、手下と思われる男が言った。

「何で、あんな子供を連れて来たのかしら?」

「さあてね。あんな子供がいたら、俺らが手を拱くと思ったのでしょうかね」

「変だわ」

「で、どうしますか?」

 女はしばらく考えていた。どうも状況がおかしくなってきた。予想していたことと違うことが起きているのだ。彼女は、ジェグドラント男爵と銀の月がやって来ると考えていたのだ。

 管理室の扉を叩く音がした。

「開けますか?」

 目の前の画像にはジェグドラント男爵と小さな女の子が来ているのが見えた。

「開けて!」

 手下が扉を開けると、

「よく、こんなところへお出でになりましたね。男爵」

と、女が言った。

「私の子供たちはどこだ?」

「さあ、どこでしょうか?」

 リュイは、その女が一瞬だけ、その脳裏にログスたちを思い浮かべたのを見逃さなかった。彼女にはその場所が要塞のどの点であるか、位置の数値座標で分かるのだ。そこが単なるタレス人の特殊能力とダルシア人の能力との差である。

「いたわ!そこは、上の層の民間人の部屋だわ」

「お嬢ちゃん、TPかい?」

と、眉根を寄せて女は聞いた。

 いやな予感が当たったのだ。TPはロル星団にはほとんどいないが、ジル星団にはいる。特に要塞に亡命してきたタレス人は皆特殊能力者だ。その女の子はタレス人なのだろう。だが、なぜジェグドラント男爵がタレス人の子供を連れているのかわからなかった。

「さあ、どうかしら?」

と、今度はリュイがしらばっくれた。

「居所がわかってもね、こちらは向こうにも仲間がいるんだよ。お前たちが行く前に、居場所を変えることができる」

「そうかしら?ここに来たのは私達だけだと思うの?」

 すでに、銀の月はリュイに提示された部屋へ、魔法で連れ去られた子供たちの所へ移動していた。ガンダルフの魔法使いは他の魔法使いと違って、ダルシア人の数値座標を感で理解することが出来るのだ。


306.

 その部屋は思ったよりも大きかったし、贅沢な部屋だった。

 ジェグドラント男爵の子供達は、怯えた表情を見せて贅沢な家具の椅子に座っていた。見張りが一人、扉の傍に立っていた。

「大人しくしていれば、じきにお前たちの親が来るだろう」

と、その見張りは言った。

「お前は誰だ。どうして僕たちをこんなところへ、嘘を付いて連れて来たんだ?」

と、ログスが聞いた。

「そんなことは、俺は知らないな。理由なんて、どうでもいいのさ。お前たちは帝国から来たのだろう。つまり俺たちの敵だ」

「帝国と新世紀共和国との戦争はもう終わったはずだ。それも、我が帝国の勝利だった」

「そうだ、向こうではな。だが、ここはヘイダール要塞だ。ここでは別なんだ。ここは俺たちが占領している」

「でも、ここの司令官はちゃんと僕たちを受け入れてくれた。それなのに、何で、こんなことをするんだ」

「上の方の人間のすることなど、俺たちの知った事じゃない。確かに首都星ゼンダは帝国に占領され、今は帝国が総督府を置いている。だが、俺たちはそんなことは認めない」

「でも、僕たちはその帝国政府からここへ逃げて来たんだ」

「嘘を付くな!お前たちは、ここを俺たちから横取りしようとしているんだ」

「誰がそんなことを言っているんだ?ここには、新世紀共和国の人達ばかりじゃないと聞いているよ。ジル星団からもタレス人が来ているって……」

「あの連中は、化け物なんだ。俺たちとは違う、一緒にするな!」

「化け物?誰のことを言っているんだ?みんなちゃんとした人たちじゃないか」

と、ログスは憤慨して言った。

 なぜなら、彼の家族はタレス人の特殊能力者に助けられてここへやって来たからである。

 銀の月は興味を感じて、話を聞いていた。元新世紀共和国から来た人々の中には、タレス人のことを化け物呼ばわりするものがいることは知っていた。人間は、自分と違う者を排斥する傾向がある。まして、これまで何かの迫害を受けて来た者は、逆に自分たちが優勢に立ったと思うと、弱い立場にいる者を迫害することがある。このヘイダール要塞の中でもそうしたことが起きているということを、もっと早く気づくべきだったと銀の月は反省した。

 もっともギアス・リードなどはそれを積極的に利用しているのだろう。要塞の内部を分裂させ、内紛を起せばそれを利用して要塞を自分の支配下に置けるからだ。だが、それはギアス・リードとその仲間だけがやっているのだろうか?この要塞にいる他の勢力とも繋がっているのではないか、と銀の月は思った。とすると、まさかとは思うが、あのハイレン連邦の連中と繋がっているのかもしれない。

 ハイレン連邦の議長はまだ要塞の貴賓室にいるのだ。彼については監視を続けているが、その監視の目を潜り抜けることができないわけはない。これまで遠慮していたが、もっと仲間を要塞の中にいれるべきではないかと銀の月は思った。

 ログスは見張りが突然動かなくなったのを見た。まるで石にでもなったように思えた。だが、本当に石になったわけではない。所謂自縄自縛になったのだ。その後すぐに、叔父のバルザス提督――銀の月の姿が現れた。

「叔父さん!」

と、スルーラが嬉しそうに言った。

「叔父さんが魔法使いというのは、本当のことなのね」

「まあね。でも、このことはあまり人に言わないでくれるかな?」

「どうして?でも、叔父さんが魔法使いということはこの要塞では知られているのでしょう?あのリゼラっていう子が言っていたわ」

「そうだけれども、どんなことが出来るかは知られない方がいいのさ」

「そうなんだ」

「叔父さん、この人は大丈夫なの?」

と、ログスが言った。

 石のように動かなくなった見張りのことを心配して言ったのだ。

「大丈夫さ。ある程度時間が経てば、また動けるようになるから……」

「ねえねえ、他にどんなことができるの?」

と、デルセラが聞いた。

「それは、あとで。今はここから早く逃げることが必要だろう?」

 子供たちは一斉に頷くと、魔法で扉の鍵を開けたバルザス提督の後を小走りについて行った。後でその扉はパタンと閉まり、しっかりと鍵が掛かった。


 ジェグドラント男爵とリュイはまだ下層の管理室にいた。

「おじさん、もう大丈夫みたい。ログスたちは銀の月が助け出したから」

「本当か?」

「何だって!」

と、女が叫んだ。

「銀の月?誰のことだ」

と、手下の男が言った。

「あら、あなた知らないの?あのギアス・リードとか言うあなた達のボスはそんなことも教えてくれないのかしら?」

「なぜ、それを知っている……」

「それだけじゃないわ。あなた達のボスが何を考えているのか、知っているわ」

「そんなことはありえない。クダラグ様のことを知っているというのか?」

と、女が言った。

「そう、クダラグと言う名だった。あの新世紀共和国の首都星ゼンダは、昔ラウリヤと呼ばれていた惑星だった。そこのゴルダナ国の王だったのがクダラグだ。もう、一万年も昔の話だ」

と、リュイが懐かしそうに言った。

「なぜ、そんなことを知っているの?お前は誰だ!」

「さあ、誰かしら。でも一万年なんて、それほど古い昔ではないわ。このふたご銀河にはもっと昔から多くの種族がいたのだから」

 女はまるで石になったように動かなくなっていた。

「どうかしたのだろうか?」

と、ジェグドラント男爵が心配して言った。

「ちょっと、動けなくしただけだから、大丈夫。逃げられたら困るでしょう。このままにしておいて、あとは要塞の警察の替わりをしている人たちに彼らを拘束してもらうといいわ」

 二人は、管理室の外へ出た。


 ジェグドラント男爵の部屋に歩いて戻ると、すでに子供たちは戻って来ていた。

「父上、大丈夫だったのですね」

と、ログスが心配して言った。

「ああ、このお嬢さんに助けてもらったからね」

「ええと、君は何と言うの?」

「私はリュイ。リュイ・ジーンよ」

「今回のこと、ありがとう」

と、素直にログスは言った。

「じゃ、私はこれで帰るわね」

「お母さんにもお世話になって、子供の君にまで世話になってしまった」

「いいの。銀の月の身内なら仕方がないわ。これからも気をつけないと、この要塞でも何があるかわからないわ」

と言うと、リュイは一瞬で姿を消した。

 ダルシア人は魔法を使わなくても瞬間移動ができるのだ。今回ジェグドラント男爵と一緒に歩いたのは、あまり自分の能力を見せたくなかったからである。だから、ジェグドラント家の部屋と自分の部屋の間の行き来にだけに使ったのだ。

「父上、ごめんなさい」

と、ログスは言った。他の二人も申し訳なさそうな顔をしていた。

「今回は助かったが、次はどうなるかわからないぞ」

「わかっています」

「でも、父上、あの子。リュイというのは魔法使い何ですか?」

「いいや、違うそうだ。彼女はダルシア人だそうだよ。我が家に関係の深い『金の竜』であるライアガルプスの宰相だと言っていた」

「宰相ですって?」

と、フェーラリスが言った。

「ジル星団にはかつてダルシア帝国という国があった。その国は伝説の竜の国だそうだ。つまりライアガルプスの国だ。今はその国にはもう竜はいないそうだが、かつてはいたのだ。そのライアガルプスが皇帝だった時に、彼女はマルガルナスと言って、宰相をしていたと言っていた」

と、ジェグドラント男爵は帰りにリュイが話していたことを言った。

「それは、いつ頃の話ですか?」

「そうだな、かなり昔の話のようだ。一万年かそれ以上だろう」

「そのマルガルナスが銀の月を知っているのですね?」

「そうだ。銀の月はライアガルプス陛下の盟友だったそうだ」

「あのベルンハルトが竜の盟友だったというのですか?」

「俄かには信じがたいだろう。私だってそうだ。だが、確かに『金の竜』はいるし、ベルンハルトが魔法使いというのも事実のようだ」

「そうです。僕たちを助けてくれたのはベルンハルト叔父さんだった。魔法を使いましたよ」

と、ログスが言った。

「後で、ベルンハルトに聞いてみようと思います。父上」

 老元伯爵は、困惑していた。自分の息子だと思っていたのだが、どうも得体の知れない者に思えて来たのだ。

「あの、父上、僕、叔父さんに、銀の月に魔法を教えてもらいたいと思うのですけれど」

と、デルセラが言った。

「何だと、デルセラお前は何を考えているんだ」

「だって、叔父さんの魔法はすごいんですよ。姿を見えなくしたり、瞬間移動をしたり、敵を動けなくしたり、何でもできるんです。僕もそうなりたい」

「デルセラ、帝国には魔法使いはいない」

と、老元伯爵は言った。魔法使いにあこがれている孫を窘めたのだ。放っておくと孫が皆同じことを言いだすかもしれないような雰囲気だったのだ。ログスもスルーラもデルセラの言葉に目を輝かせて頷いているのだ。

「でも、魔法使いは本当にいるんですよ」

と、デルセラは負けずに言った。

 子供たちが初めて見た魔法にあこがれるのは仕方がないが、ジェグドラント家としては子孫が魔法使いと呼ばれることは避けたいと思っていた。何と言っても銀河帝国には魔法使いはいないのだから。



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