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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
47/153

ダルシア帝国の継承者

280.

 白金銀河からはるばるふたご銀河にやって来たプロキシオン号は、ガンダルフの魔法使いでありリドス連邦王国のダールマン提督からの要請を受けて、銀河帝国の帝都ロギノスへ出港する準備に入っていた。

 要塞の司令室に、久しぶりにサムフェイズ・イージー少佐が現れた。彼女はプロキシオン号から直接ビーム転送されてきたのだ。

「サム。ちょっと待っていてほしい。あと一人来なければ準備ができないから……」

と、クルム司令官代理が言った。

「わかったわ」

と、サムフェイズ・イージー少佐は言った。

 サムフェイズ・イージー少佐は見た目は男性だったが、本来は女性なのだった。だから口の聞き方が女性なのである。

「あの、司令官代理、何をするおつもりですか?」

と、ブレイス少佐が遠慮がちに聞いた。彼女はイージー少佐が現れた理由を測りかねて、聞いてみたのだ。

「それはね、今に分かるわ……」

と、イージー少佐が声を低くして言った。

 次の瞬間、クルム司令官代理の隣にディポック提督が現れた。

「!」

と、驚いて目を大きく開けたが、ブレイス少佐は黙っていた。

 司令室の他の者達も、驚いたが黙っていた。その方がいいと思ったのだ。驚いて騒ぐと、要らぬ人物が司令室に現れるかもしれない。

「何だか、変な気分だ……」

と、ディポック提督が言った。

「多分、ビーム転送に慣れていない所為でしょう。大丈夫です」

と、イージー少佐が言った。

「ビーム転送?いや、私は魔法で送られて来たんだと思うけれど……」

「あら、魔法だったのですか?まあ、どちらでも同じことです」

「一体これは、どういうことですか?」

と、グリンが聞いた。

「私から話そう」

と、クルム司令官代理が言った。そして、

「これから、予想されることのなかに、銀河帝国からの攻撃もあるのだ。それにグーザ帝国の艦隊のことも有る。彼らがいつまでも我々を放っておくとは思えない。今ふたご銀河で彼らのことをよく知っているのは我々、つまりこのヘイダール要塞なのだ。したがって、要塞の持てる力を全て使えるように調整し、準備をしなければならない。それにはディポック提督が必要なのだ。ま、要するにレギオンと銀の月がそう私にアドバイスをしたわけだ」

と、彼は続けた。

「確かに以前、そうした話を銀の月、いえバルザス提督から聞いた覚えがあります」

と、ブレイス少佐が言った。

「ただ、私は何をすればいいのかわからないのだがね……」

と、頭を掻きながらディポック提督は言った。

「あら、レギオンはただ司令室に行って座っているだけで良いと言っていたと思いますけど……」

と、イージー少佐が言った。そして、

「具体的な装置の調整などについては、私がやるように言われています」

と、彼女は続けた。

 グリンやダズ・アルグ、そしてノルド・ギャビもいったい何をするつもりなのか、不安に思った。レギオンや銀の月は今はもう彼らの敵だとは思っていないが、魔法使い達は本当に味方なのだろうかということに少々疑問を感じていたのだ。なぜなら、彼らはあまりにも色々なことを知っている。知り過ぎていると言っていいくらいだ。だから、かれらが古くからいるガンダルフの魔法使いであることは信じてもいいかもしれない。だが、何をしようとしているのかがわからないのだ。

「彼らガンダルフの魔法使いの言うことには、今回のロギノスの件についてだけれど、このまま放っておくとふたご銀河全域に闇の魔法の影響が及ぶというのだ。そうすると、大変なことが起きるらしい」

と、クルム司令官代理が言った。

「その大変なこととは、何ですか?」

と、ダズ・アルグが聞いた。

「それは私にもわからない。ある程度は彼らに推測できるらしいが、まだ我々に話をするまでではないらしいのだ」

「そうだね。彼らはとても古い存在なので、ふたご銀河にこれまで起きた様々なことを知っているのだと思う。その中に今回の状況が非常に危険だと言う何か印のようなものを見ているのではないかな?」

と、ディポック提督は言った。

「印、ですか?いったいどのようなものなのでしょうか?」

「それはわからない。ただ、もし何もしなかったら、元新世紀共和国にも何かが起きるのだと思う。それはいずれ同じふたご銀河のジル星団まで及ぶ、何か大きな災厄だろう。何しろ、ガンダルフの五大魔法使いが一度に揃うというのは、やはりそうした何か大きなとてつもない災厄の起きる前触れだと言うのを聞いたのでね……」

「あの、誰にお聞きになったのでしょうか?」

と、ブレイス少佐が聞いた。

「ダルシア人のライアガルプスに聞いたのさ」

「ライアガルプス?それは、以前に現れた昔に死んだダルシア人のことでしょうか?」

「そうだ。彼女が私に色々な話をしてくれた。あのバルザス提督の宿舎には、アプシンクスも来たし、他にもいろいろな人、いや霊に遭った……」

 それは決して怖い経験ではなく、どこか懐かしいものだったことがディポックには不思議に思われるのだった。亡くなった者達と話をするのは稀有な経験であるが、一人一人を見るとどこかで会ったことがある様な気がするのだ。かのバルザス提督――銀の月によると、そうした感覚はディポックとして生まれる前に、そうした人たちと実際に遭って話をしたことがあるという記憶がどこかにあるからだ、と言うことだった。

「それで何だけれど、もういいかな?」

と、ディポック提督は言った。

「ええ、どうぞ。お願いします」

と、イージー少佐が言った。

「アルンフェレス、トリルノルト、アバナンスト」

と、呪文のようなものをディポック提督は唱えた。

 すると、司令室の中が以前のように広くなり、別の部屋やあの転送装置のある部屋が現れた。

「これは、どうしたことです?」

と、驚いてグリンは言った。

「ええと、レギオンから呪文を教えてもらったんだ。何でもアルフ族の使っていた言葉でできた魔法の呪文だそうだけれど、転送装置とそれをコントロールする装置を出す呪文らしい」

「あの、バルザス提督はあの時そんな呪文を唱えているようには見えませんでしたが……」

と、ブレイス少佐が言った。

「彼らガンダルフの魔法使い達には、今の呪文など、唱える必要もないのだと思う」

と、ディポック提督は言った。

「じゃ、始めます」

と、イージー少佐は言って、装置を動かし始めた。

「司令官代理、これから何をするのですか?」

と、ダズ・アルグ提督が聞いた。

「これから、転送装置を作動可能な状態にする。この転送装置は、白金銀河から来た艦の脱出用の出口になるということだ」

「プロキシオン号でしたね。彼らの艦の名は。それで、どこへ行くのですか、司令官代理」

「銀河帝国の帝都ロギノスだ」

「帝都ロギノスですって?何をしに行くんです」

「ジェグドラント伯爵家の調査とリドス連邦王国の大使の救出に行くと聞いている」

「ジェグドラント伯爵家は確か、バルザス提督の実家だと聞いていますが……」

と、グリンは聞いた。

 もしかして、バルザス提督が自分の実家の救出とその亡命をリドス連邦王国に諮ったのかもしれないと思ったのだ。例え貴族と言えど、大逆人の部下であったバルザス提督が無事で生きていて、しかもリドス連邦王国に提督として所属していると知られたら、どうなるかわからない。帝国とはそうしたところなのだ。

「そうだ。銀の月の言うことには、その伯爵家は闇の魔法の封印とかかわりのある家だそうだ。今回封印の結界が破れたのは、おそらく伯爵家に何か起きた可能性がある。例えば、当主が突然死んだとか、あるいは伯爵家の家名を失ったかのどちらかだと思う」

「で、リドス連邦王国の大使の救出というのはどういうことですか?もし、銀河帝国との間にいざこざが有って、大使を召還しなければならなくなったのなら、なぜ、リドスの艦隊が行かないのでしょうか?」

と、ダズ・アルグは聞いた。当然の疑問だ。

 ヘイダール要塞の周囲には、リドス連邦王国の艦隊が少なくとも二つは存在しているはずだった。バルザス提督の艦隊とリイル・フィアナ提督の艦隊だ。だからそのどれか一つを派遣することは可能なはずだ。それなのに、彼らはその艦隊を帝都へ派遣することを考えていない。それはおかしいではないか、とダズ・アルグは思っていたのだ。

「彼らはできるだけ、闇の魔法とかかわりがあると思われる者をロギノスに近付けたくないのだ。なぜなら、普通のガンダルフの者は大抵、これまでどこかでガンダルフやアルフ族の魔法というものに関わったことがあると思われるからだ。遠い白金銀河から来た者達は、そうした魔法ともアルフ族とも何のかかわりもないはずだ。だから、リドスの連中が行くよりも闇の魔法に対しては安全だと考えているのだ」

と、クルム司令官代理は言った。

「その魔法とかかわりのない方が安全というのは、どういうことでしょうか?」

と、グリンが聞いた。

 これは妙な考え方だった。敵からの攻撃を受けるということに、かかわりのあるなしが関係するとは聞いたことがない。

「レギオンによれば、それが魔法と言うものだと言うことだった。残念ながら、魔法については私も詳しくは知らない。私の生まれた国では魔法というのはお伽話だったからだ。現実にあるとは今でも、目の前にそれを見ても、今ひとつ信じられない思いが消えないのだ」

と、クルム司令官代理は言った。


281.

 ヘイダール要塞の司令室が再び転送装置を使えるようになった時、突然その転送装置が警告音を発し始めた。

「これは!」

と、サムフェイズ・イージー少佐は言うと、装置の上で目もくれない速さで手を動かしていた。

「どこからか、こちらの転送装置にアクセスするものがあります」

と、イージー少佐は言った。

「特定できるか?」

と、クルム司令官代理が言った。

「ええと、これは別の転送装置からのアクセスです。この転送機は現在他の場所にある転送装置からのアクセスも可能になっています」

 転送装置に、まるで何か大きなものがぶつかる様なドンッという音がすると、転送装置から何かが出ていた。

「あれは、何だ?」

と、ダズ・アルグが言った。

「フェリスグレイブ要塞防御指揮官に連絡してくれ、部下を連れてすぐにこちらに来るように」

と、ディポック提督が言った。

 どんなに急いでも、すぐに間に合うとは思えなかった。もし、転送装置から突き出ているモノから敵兵が現れたら非常に危険だった。

「了解!」

 通信員が内線で連絡すると、数秒して転送装置の前にフェリスグレイブとその部下が十数人とリイル・フィアナ提督が現れた。

「ご無事ですか?」

と、フェリスグレイブが司令室の有る上の階を見上げて言った。

「大丈夫だ。相手が何者かわからない。十分注意してほしい」

と、ディポック提督はその素早い動きに驚きを抑えて言った。そして、

「ああ、すまない。司令官代理に事前に言うべきだった」

と、彼はクルム司令官代理に誤った。

「いや、構わない。よく指示してくれた、ディポック提督」

と、クルム司令官代理は怒らずに言った。

「しかし、フェリスグレイブたちがこんな風に現れるなんて、予想もしなかった」

と、ダズ・アルグ提督が言った。

「あそこにリイル・フィアナがいる。彼女が魔法で連れて来たのだろう」

と、司令官代理が言った。

 転送装置から突き出ているモノは、何だかわからなかった。乗り物のように見えるのだが、中途半端に突き出ているのだ。

「あれはもしかして、飛行艇ではないかしら?」

と、イージー少佐が言った。彼女が見ているのは、彼女が操作している装置の傍にある小さなスクリーンだった。それに下の転送装置の付近の様子が映っている。

「そう言えば、そんな感じがするが……」

「飛行艇?どこの飛行艇ですか?」

と、グリンが言った。あのような形の飛行艇など、こちらでは見たことはない。例の要塞に侵入してきた飛行艇と、似ているような気がしないでもない。だが、突き出ている所しか見えないので、その判別は難しい。

「まさかとは思うが、あの飛行艇へ通信で呼びかけることはできないか?」

と、クルム司令官代理が言った。

「あれが飛行艇だとすると、可能だと思います」

と、イージー少佐が言った。

 いずれにしろ、このままでは転送装置が使えなかった。飛行艇を何とか取り出すか、元来たところへ戻すかのどちらかをしなければならない。

 フェリスグレイブとその部下たちは、転送装置と突き出ている飛行艇を武器を構えて遠巻きにしている。

 その時、リイル・フィアナ提督の姿が一瞬見えなくなった。

 次にリイル・フィアナが現れた時、一人の女性を抱えていた。

「誰かを飛行艇から出して来たのよ」

と、イージー少佐が言った。

「あれは、人間型の種族だ……」

と、クルム司令官代理が言った。

「どなたかお知り合いですか?」

と、ノルド・ギャビが言った。

「そうではなくて、姿形は我々と似ているということでしょう」

と、イージー少佐が言った。

 飛行艇自体がどこの種族が作ったものかわからないのだ。だが、乗っていたのが人間型の種族とすると、どこの種族が限られるのではないだろうか、とイージー少佐は思った。

 リイル・フィアナが下から叫んだ。

「中にいたのはこの女性だけよ。あとは誰もいない」

「あの物体はどうしますか?」

と、ブレイス少佐が言った。

 このままでは、転送装置は使えない。

「そうだわ。その飛行艇のようなものを向こう側へ押したらそうかしら?そうすれば、向こうへ戻るかもしれない」

と、イージー少佐が言った。

 いったん開いた転送装置の最大持続時間は30分程だった。それ以上経つと自動的に閉じられる。もしその時転送装置の中に物体があると、転送装置のワームホールが消えるので、切断されてしまうのだ。

 フェリスグレイブとその部下が数人その飛行艇のようなものの前に立つと、力を込めて押し始めた。だが、中々動かなかった。かと言って、前に移動するわけでもなかった。


 レギオンの城の書斎ではヘイダール要塞の司令室で起きた、転送装置から突然出て来た飛行艇について、彼らも驚いていた。その司令室の様子が書斎の天井に映し出されていた。

「あれは、あの三角錐の宇宙船から出て来た飛行艇に似ている」

と、銀の月が言った。

「つまり、ハイレン連邦がこの件に関わっているということか?」

と、故コア大使が言った。

「確かまだ、ハイレン連邦の魔法評議会の議長が要塞にいるはずだ。奴を呼んで、聞いてみたらどうか?」

と、元ヘイダール伯爵は言った。

「正直に話をするならな。だが、連中のことだ、本当の事は話すまい」

と、レギオンが言った。

「では、どうする?」

「あの飛行艇から出て来た女を尋問する方が早いだろう」

「おそらくあの女は、姿は人間型種族だが、中身はハイレン人ではないのか?」

「そうだな、あのダガン・ルグワンと同じだろう」

と、元ヘイダール伯爵は言った。

 ダガン・ルグワンは新世紀共和国で指名手配の犯罪者なのだが、実はハイレン連邦から来た魔術師だった。彼は自分自身を姿かたちはハイレン人ではないが、その中身、魂はハイレン人であると信じているのだった。

「まあ、あの議長と話をするよりはましだろう」

と、レギオンは言った。


 司令室では半分転送装置から突き出ている飛行艇の対処に苦慮していた。

 レギオンが魔法で現れると、

「何か用か?」

と、クルム司令官代理がすぐに気づいて言った。だが、突然魔法で司令室に入ってきたことについては、何も言わなかった。

「あの飛行艇を何とかできるのか?」

と、レギオンンが聞いた。

「今やっている所だ。フェリスグレイブとその部下が押し戻そうとしているが、うまくいかない」

「なるほど。あのままではこちらが困る。私があの飛行艇を押し戻そう」

「魔法でそれができるのか?」

「できるとも」

「イージー少佐、フェリスグレイブたちに転送装置から離れるように言ってくれ」

と、クルム司令官代理が言った。

「了解」

 イージー少佐は、下の方と繋がっている通信装置に、司令官代理の指示を伝えた。それを聞いてフェリスグレイブとその部下が転送装置から離れた。

「よし、……」

 レギオンは呪文を唱える代りに、大きく腕を外へ振った。

 すると、突き出ていた飛行艇が転送装置の中へ引っ込んだ。

「すぐにシールドを張ってくれ!」

と、レギオンは言った。

 イージー少佐が手を動かしてシールドを張ると、転送装置の中で何かがぶつかって大破するような音が聞こえて来た。

「何が起きたんです?」

と、ダズ・アルグ提督が聞いた。

「おそらく、ワームホールの中であの飛行艇がまたこちらの出口から出ようとして、シールドにぶつかって大破したのだろう」

と、レギオンが言った。

「大破ですか?で、あれは、どこから来たものかわかりますか?」

と、グリンが聞いた。彼もレギオンが許可をも得ずに司令室に入ってきたことについては、黙っていた。

「先日、要塞に侵入した飛行艇に形が似ていた。おそらく、ハイレン連邦のものではないかな?」

「何をしに来たのでしょうか?」

「それは、乗っていた者に聞いた方が早いだろう」

と、レギオンが言った。


 リイル・フィアナ提督が飛行艇から出した女性を見ていた。怪我はないようなので、おそらく飛行艇が転送装置の出口から出られなかった衝撃が伝わって気絶したのだろうと思われた。

「はい!」

と、リイル・フィアナは女性の顔の前で両手をパンと叩いた。

 すると、その女性は目を開けて、

「こ、ここはどこですか?」

と言って、警戒するように周囲を見回した。

「ここは、ヘイダール要塞よ」

「ヘイダール要塞?で、では、ここにバルーンガ議長がお出でになっているのでは?」

「そうね。いると思うわ」

「だったら、会わせて下さい。緊急の要件があるのです」

「緊急の要件?どんなことかしら?」

「そ、それは言えません」

「でも、あなたの所為で、この転送装置が壊れるところだったのよ。理由ぐらい言っても罰は当たらないと思うけれど……」

 そこへ、

「フィアナ!その女性をこちらへ連れて来てくれるかな?」

と、声がした。それは、レギオンの声だった。

「それはいいけれど、大丈夫かしら……」

 リイル・フィアナは指を鳴らすと、その女性と一緒に上の階にある司令室に移動した。

 フェリスグレイブは部下を数名連れて、急いで階段を上ってやってきた。


 要塞の貴賓室にいるハイレン連邦のバルーンガ議長は、

「どうやら、困ったことになったようだ」

と、言った。

 これまでそのようなことは言わなかったので、付き従ってきた者達は何があったのかと不安そうに顔を見合わせた。

「何が起きたのでしょうか?」

と、一人の従者が聞いた。

「ドルイヤ・ファカンが要塞の転送装置に入ってしまったらしいのだ」

「間違えたのでしょうか?」

「いや、この要塞の連中がここのシステムを弄っているようだ。何台も同じ装置があると、どうしても装置が認識を混乱してしまうのだ」

「ですが、あのことをガンダルフの魔法使いに知られるのは……」

「まだ、どうなるかわからないが、仕方があるまい。だが、一つだけこちらにもカードはある」

「カード?」

「そうだ」

と、バルーンガ議長は言った。


282.

 飛行艇に乗っていた女性は、普通の人間型種族に見えた。

「私は、この要塞のクルム司令官代理だ。まず、あなたの名を聞こう」

と、司令官代理は言った。

「私は、ドルイヤ・ファカンと言います。二級ハイレン人です。こちらにバルーンガ議長がいると聞いて来ました。議長に会わせてもらえないでしょうか?」

と、女性は物おじせずに言った。彼女は周囲にいる要塞の将官たちを、それとなく見ていた。

「二級ハイレン人?普通のハイレン人ではないのか?」

「純粋のハイレン人が一級のハイレン人市民なのです。我々はこの人間族の姿で生まれることを承諾して生まれたのです。人間の姿のハイレン人は二級ハイレン人と区別されるのです」

「なぜだ?」

「純粋のハイレン人になるためには、それだけ貴重な魂でなければなりません。例えば、名門の出であるということです。私は一般のハイレン人なので、宇宙船で他の惑星に行くのに、この人間の姿の方が強靭で傷つきにくいので承諾したのです」

 これは、ガンダルフの魔法使いにとっても新しい情報のようだった。レギオンがじっと二級ハイレン人だという女性を見ている。何かがジル星団の古い文明の諸国に起き始めているのではないかと、考え始めていた。

「つまり、古くからのハイレン人というのが一級市民で、人間の姿の者を二級ハイレン人だというのか?」

と、レギオンが聞いた。

「簡単に言えばそうです」

「で、生まれてくるときに、自由に選ぶことはできないのだな」

「ある程度は選ぶことができます。以前は少なかったのですが、今は大抵は人間族の姿を望みます。こちらの方が肉体的に純粋のハイレン人よりも強靭なので、宇宙に出るのには都合がいいからです」

 確かにこれまで知られているハイレン人は、ひょろりと背の高い、まるで一押しで壊れてしまいそうな危うさがある。それは見た目だけではなく、肉体的に弱いと言うことは事実なのだ。

「人間の姿のハイレン人がいるということは、もしかしたらダガン・ルグワンというハイレン人を知っているだろうか?」

と、レギオンが聞いた。

「ダガン・ルグワン?彼の名はホルムーンガだと思います。彼なら知っています」

「ホルムーンガというのが本当の名か?」

「つまり、ホルムーンガと言う名はハイレン人としての名ということです。彼は普通のハイレン人ではありません。魔術師です。魔術師は術を学ぶためにも強靭な肉体を持つ人間族の姿を選ぶことが多いのです」

 ハイレン連邦に魔術師がいると言うことは、レギオンですら初耳だった。ハイレン連邦は正当な魔法を使う種族だったはずだ。それが闇の魔法を使う魔術を入れるなど、驚きだった。

「もちろん、魔法議会では魔術と言うのは違法なのです。魔術師は魔法議会に入ることはできません。ですが、近頃は魔術師が増えつつあります。なぜなら、魔術師の仕事の方が魔法使いよりも多くなったからです」

「仕事?魔術師の仕事とはどんなものなのだ?」

と、レギオンが興味を持って聞いた。

「殺人とか、政治で人を貶めるとか、あとは密輸関係のスケールの大きな仕事です」

「それは、違法なことではないのか?」

「でも、我々の国ではそのような仕事が増えているのです。もう昔のようなまともな仕事は無くなって来つつあるのです」

「それで、この要塞に来たのはどんな要件なのだ?」

と、クルム司令官代理は聞いた。

「それは、その、私は魔法議会のバルーンガ議長に会いに来たのです。ですから、バルーンガ議長に会わなければ言えません」

「そんなことを言える立場なのか?」

と、それまで黙って聞いていたフェリスグレイブは言った。


 その時、司令室に入って来るものがいた。

「これは、何事だ!何をしているんだ!」

と、怒鳴り声が聞こえた。

 要塞の政治代表のエルシン・ディゴとその一行だった。

 どこから聞きつけたのか、司令室で何かが起きていると知らせる者があって、やって来たのだ。

「ここで何をしているんだ?ディポック提督、君は司令官を解任されたはずだ。何故ここに居る」

と、エルシン・ディゴが言った。

「それは、私が彼をここへ呼んだからだ」

と、クルム司令官代理は言った。

「何だと!どういうつもりだ!」

「私は、ディポック提督が必要だと思ったので、ここへ呼んだのだ。それがいけないことか?」

「そういうことは、政治代表である私の許可を取ってからするべきだ」

「なるほど、では司令室にディポック提督を相談役としていてもらうのが私には必要だ。構わないだろうか?」

と、クルム司令官代理は聞いた。

「だめだ。その許可はできん」

と、エルシン・ディゴ政治代表はきっぱりと言った。

「なぜなのだろうか?」

「それは、もうすでにディポック提督は司令官ではないからだ」

「もちろん、分かっている。だが、この要塞のことは私よりも知り尽くしていると思う。その代りのできる者は他にはいない」

「それでも、駄目だ。許可できん」

「すると、政治代表は、要塞に何かあった時、対応が遅れても構わないと仰るのだろうか?」

「そ、それは、だが、君と言う司令官がいるではないか……」

「だが、私はまだこの要塞に来たばかりで詳しくは知らない。だから、その知識を補うために、ディポック提督が必要なのだ」

「だが、ディ、ディポック提督はもう司令官ではない」

「だからこそ、必要なのだ。ディポック提督が司令官なら、ここに他の者は必要ないではないか」

「だが、カトル・ファグル提督はそのようなことは言わなかった」

「ファグル司令官は長く母国で軍人をしておられたと聞く、だから敵の要塞の事もよく知っているのだろう。だが、私は違う。ここに来たばかりなのだ」

「……だが、それならそこにダールマン提督がいるのではないか?」

と、エルシン・ディゴはダールマン提督を見ながら言った。

「ダールマン提督は他の事で忙しいのだ」

「……、し、しかし……」

と、エルシン・ディゴ政治代表は不服そうに言った。


「あら?」

と、その時フランブ・リンジ副代表が驚いて言った。そして、

「この司令室、何だか変だわ。あんな場所がありました?」

と、続けた。

 司令室に入ってから、これまで気が付かなかったのだ。エルシン・ディゴが長く文句を言っているうちに、暇になったフランブ・リンジはあたりを見回すうちに、いつもと違うことに気が付いた。

「あんなところに、妙な機械が置いてありますわ」

と、転送装置のある場所を指さしてフランブ・リンジは言った。

「あれは、何だ?」

と、ギアス・リードが言った。彼はそれが何であるかを知っていた。だが、他の二人はわからなかった。

「そうだ。確かにあんなものはなかった。それに司令室はこんなに奥があったか?」

と、エルシン・ディゴも不思議そうに言った。

「単に、気が付かなかっただけだろう」

と、ダールマン提督は知らん顔して言った。

「いいや、そんなはずはない。この前ここに来た時もなかった。それなのに、何で今ここにあるのだ?」

 政治代表の一行にはこの転送装置や司令室の奥の部分について、司令室の連中は皆黙っていた。特に彼らに対して隠していたわけではなく、グーザ帝国の艦隊の襲撃に会った時にすでに隠されていたからである。もっともディポック提督が司令官を解任され司令室から出て行った時に、そうした部分については現れる条件が無くなった所為もある。ただカトル・ファグル前司令官は、ディポック提督からこのことについては話として聞いてはいた。

「お前たち、何か重要なことを我々に隠していないか?もっと、隠していることがあるのではないか?」

と、エルシン・ディゴは疑り深く言った。

「そうですわ。隠していることがあるなら、私たちに話してください。これは、私たちに対する裏切り行為です」

と、フランブ・リンジ副代表も言った。

 すると、

「後から来て、勝手なことをしている連中が何を言っているんだ!」

と、突然怒鳴り声がした。

 見ると、白いひげを蓄えた威厳のある老人がいつの間にか司令室の中に入っていた。

「お前は、誰だ!」

と、エルシン・ディゴ政治代表は言った。

「少しは、黙っているがいい。お前たちはこの要塞を自分のものだと思っているのか?第一、この要塞を攻略したのはお前たちではあるまい。その命令を出したわけでもない。ただ、あとから来て、要塞の主人面をしているだけではないか!」

と、老人は歯に衣を着せぬ口調で言った。

「お、お前は誰だと聞いているんだ。答えろ!」

「人に名を聞くときは、まず自ら名乗るものだ!」

「何だと!」

「あなたは、私たちのことを知らないのですか?」

と、フランブ・リンジが驚いて言った。

「知らんな。人のモノを盗むような連中に知り合いなどいない」

「私たちを泥棒だというのですか?」

「違うかな?やっていることは同じではないか。そもそも、この要塞は銀河帝国が作ったものだ。だから元々この要塞は銀河帝国のものだった。それをそこのディポック提督が奪取したと聞いた。その時はお前たちの仲間が命令したのだろう。だが、今回の奪取については、関係ないのではないか?いや、彼にそうせざるをさせなくした張本人ではないのか?」

「何だと!」

「では、あなたはもしや銀河帝国の軍人ですか?」

と、フランブ・リンジは言った。その口の聞き方や言い方からすると、銀河帝国の貴族か軍人としか考えられない。それに、彼ら政治代表一行に対して微塵も敬意はなく、どこか敵意を持っているような感じがするのだ。

「残念だが、違うな」

「では、どこの国の方ですか?もしかして、リドス連邦王国とか言う国でしょうか?」

「いや、それも違う」

「ではジル星団の他の国ですの?」

「ま、わしは本来は、この銀河の出身ではないからな……」

「え?」

 ギアス・リードはこの老人の出身について、いったいどこの出身なのか興味を覚えた。

「他の連中もわしのことは知らんだろう。だから、自己紹介をしてもよかろう。わしは、この要塞を設計したヘイダール伯爵と呼ばれていた者だ」

 老人がそう言うと、司令室の者は皆、それぞれ違った反応をした。有る者は、ぎょっとした。キョトンとして、その名が何であるか気づかない者もいた。ただ司令室の者達は、お互いに顔を見合わせた。

「ヘイダール伯爵?で、ではやはり、銀河帝国の貴族ということか……」

と、エルシン・ディゴ政治代表は言った。

 フランブ・リンジ副代表は信じられないと言う表情で、老人を見た。

「ヘイダール伯爵?この要塞の設計者のことでしょうか?でも、ヘイダール伯爵家は、今はもうないはずでは……」

「ほう、なかなか敵である銀河帝国のことを知っている者もいるようだな。わしがそのヘイダール伯爵だ。もっとも帝国ではヘイダール伯爵家というのは絶えてしまっているが。わしはその最初で最後のヘイダール伯爵だ。この要塞を設計した功績で伯爵位をもらったのだ。ただ、わしの血筋を伝える者はいなかったので、伯爵家は絶えたのだ」

「ヘイダール伯爵が生きているはずはありませんわ。だって、この要塞を設計したときにはすでに齢六十を超える高齢であったはずですもの」

「そうだ。わしはやはり白いひげを愛しているでな。若い恰好は似合わんのだ。レギオンとは違ってな」

「ばかな。お、お前はヘイダール伯爵の名を騙っているだけだろう」

と、エルシン・ディゴはやっと気づいて言った。

「ほう、そう思うか?だが、お前は今、この司令室を変だと言ったが、わしが設計した本当の司令室の姿が、この今の状態なのだ」

「そんなはずはない。すでにヘイダール伯爵は死んだはずだ。ここにいるはずがない」

と、エルシン・ディゴは繰り返した。

「ですが、今頃なぜここへ戻って来られたのですか?」

と、グリンが丁重に言った。彼はどうやら、ヘイダール伯爵の言うことを信じたようだった。

「しばらく離れていたので、懐かしくなって帰って来たのだ。そうしたら、要塞がこんなことになっていて、あんな大穴が空いているのを見て、驚いているところだ」

「すみません。私が司令官の時に、大穴を開けてしまったのです」

と、ディポック提督が申し訳なさそうに言った。

「別に、おまえさんに文句を言いに来たわけではない。軍事要塞なのだから、いつそうなっても仕方あるまい。ただ、一日も早く、あの損傷を直す必要があるだろうと言いたかっただけだ」

「そのことなら、アプシンクスが直してくれるそうだ」

と、レギオンが言った。

「アプシンクス?ああ、ダルシア人のことか」

「ちょっと待て!私はそんなこと、まだ聞いてないぞ」

と、エルシン・ディゴは言った。

「政治代表、卿もあの損傷個所については、問題にしていたではないか。アプシンクスが直すということなら、文句はないだろう」

と、レギオン――ダールマン提督が言った。

「だから、アプシンクスとは誰のことだ?」

「そんなことも知らんのか?困った事だのう。そんな者にこの要塞の代表を名乗られては迷惑するわ」

と、ヘイダール伯爵は嘆いた。


「あの、プロキシオン号から通信が入っていますが……」

と、通信員が遠慮がちに司令室の連中に言った。もめごとの最中だが、通信は重要なのだ。

「わかった。出してくれ」

と、クルム司令官代理が何もなかったように言った。

 スクリーンにプロキシオン号のオルフス・リガル艦長が出た。

「こちらはプロキシオン号だ。準備が出来たので出港する」

「了解した。良い航海を、無事を祈っている」

「そちらも、イージー少佐をよろしく頼む」

「わかっている」

と、クルム司令官代理は立ち上がって敬礼をすると言った。

 白金銀河から来たプロキシオン号は、銀河帝国の帝都ロギノスに向かって出航したのだった。



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