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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
46/153

ダルシア帝国の継承者

276.

 妙な警報音を耳にして、ヘイダール要塞の司令室にいたリーリアン・ブレイス少佐は首を傾げた。

「あの、何か妙な音がしませんか?」

と、司令室の他の者に聞いてみた。

「いや、何も聞こえないが、何か音が聞こえるのか?」

と、生真面目なグリンが言った。

「それなら、空耳かもしれません」

「そうかな?どうもこの要塞は、妙なことが起き過ぎる」

と言ったのは、ノルド・ギャビだった。

 ヘイダール要塞は銀河帝国の作った要塞だと思ったら、本当はどうも違うらしいというのがしだいに分かって来たからである。


 一方、リドス連邦王国のリイル・フィアナ提督は要塞防御部隊の部屋で妙な警報音を耳にした。彼女はジル星団の元海賊たちがフェリスグレイブの指揮下に入ったので、心配して様子を見に来ていたのだ。

「あれは?」

と言って、リイル・フィアナは他の連中を見た。

 だが、誰も妙な音など聞こえていないようだった。ロル星団の兵士もジル星団の元海賊も何も聞こえていないようだった。

「どうしたんだ?」

と、フェリスグレイブが不審に思って訊ねた。

「ええとあのね、つまり警報音が聞こえるのよ。私にだけ聞こえるみたいだけれど。あれは、何だったかしら……」

と、リイル・フィアナは古い記憶を穿ろうと顔をしかめた。

 フェリスグレイブは困惑した表情を浮かべたが黙っていた。魔法使いの言うことや、やることがよく分からないのは仕方がないと思ったのだ。

 だが、フィアナの記憶に間違いがなければ、これは結界が破壊された時に発される警告音なのだ。しかし、どこの結界が破壊されたのか?このヘイダール要塞に張られた結界にしては、どうもかなり遠くから聞こえるような気がするのだ。


 レギオンの城で、ガンダルフの魔法使いのレギオンと銀の月は顔を見合わせた。そこでは、妙な警報音が耳を弄する勢いで鳴っていた。

「これは、まさか……」

と、銀の月――バルザス提督は言うと、

「パラッチオラノベルデ、ジェグドラント、ロノーイ!」

と、早口で呪文を唱えた。

 これは、アルフ語の古い呪文だった。短いが、解かれた結界の場所を明らかにするものである。それがおそらく『ジェグドラント伯爵』という名にちなんで張られたものであることを推測して、唱えたのだ。

 すると警報音がピタッと止まり、レギオンの城の書斎の天井に銀河帝国の帝都ロギノスの映像が浮かんだ。

「おお、これは帝都ロギノスではないか……」

と、元ヘイダール伯爵は懐かしそうに言った。

「まさか、ロギノスの結界が破れたのか?」

と、レギオンの城の書斎の客の一人が驚いて言った。彼は、銀河帝国の前王朝の皇帝故ヨツンガルドス八世だった。

 銀河帝国の帝都ロギノスは緑と海のある美しい惑星だった。しかしその書斎に浮かんだ惑星は、次第に黒々としたものに覆われるのが見えた。

「あれは、何だ?」

と、元ヘイダール伯爵は言った。

「あれは、闇の呪い、とうとう、ロギノスが彼らに乗っ取られたということだ」

と、レギオン――ダールマン提督は言った。

「何だと、それはどういうことだ。そのようなこと、私はこれまで一度だって聞いたことがないぞ」

「もう五百年も前に作られた古い結界だ。お前さんがこの銀河にきたのはほんの百五十年前ではないか?それに、お前さんたちの文明は魔法については素人同然だろう。だから理解できないと思って黙っていたのだ」

「まあまあ、それは後にしてくれませんか?今はこの結界をどうするかを考えるべきでしょう」

と、銀の月が言った。

「だが、もうこの結界は破れたのだぞ。どうするのだ?」

と、レギオンが言った。

「破れましたが、まずジェグドラント伯爵家がどうなったのかを調査すべきでしょう」

と、銀の月が言った。

「だが、今ロギノスは魔法使いにとっては非常に危険だ。ダルシア人なら大丈夫かもしれないが……」

 闇の魔法に覆われた惑星ロギノスに行くのは、例え強力な魔法使いであっても、いやそれだからこそ危険だった。魔法使いにその力に応じた闇の魔法の影響が及ぶからである。ダルシア人なら魔法使いでないから大丈夫かもしれないが、如何せん種族としてのかつてのダルシア人はもういない。生きているダルシア人なら安全かもしれないが、霊人となったダルシア人ではやはり危険である可能性が生じるのだ。

「彼らがいるではないですか。白金銀河から来た者たちが。元々彼らはリドス連邦王国との同盟締結のためにやって来ました。我々は彼らの銀河にパトロール艦隊を派遣して、かの銀河の支配種族に対して人間族を守ることができます。代わりに彼らは我々が立ち入れない惑星に入って、調査することができるでしょう。もちろん、これまでのいきさつは全て明らかにしなければなりませんが……」

と、銀の月が言った。

「他の者はどう思うだろうか?」

と、レギオンが他の者に尋ねた。

「他に方法はあるまい」

と、銀河帝国前王朝の皇帝故ヨツンガルドス八世が言った。

「我々も同意見だ」

と、ナンヴァルの元大調整官で故マグ・クガサワン・シャが言った。それにダルシア帝国の故コア大使も賛同するように頷いた。

「私にも聞かんか、レギオン」

と、元ヘイダール伯爵が不平を言った。

「わかった。あなたはどうするのだ?」

「よくわからないが、同意しよう。ともかく、何か非常に危険なことになっていることは私にもわかるからな」


 ファグル司令官は司令室に戻ると、ヘイダール要塞の政治代表に自分が司令官を解任されたことを告げた。

「そんな、突然ではないですか」

と、ダズ・アルグ提督が言った。

「仕方あるまい。どうも私のした決定が気に入らないようだった」

「しかし、あまりにも急なことです。それで、次の司令官は誰に決まったのでしょうか?」

と、グリンが聞いた。他に司令官になるのに相応しい人物がいるのだろうか、と彼は思っていた。まさかあの正体不明のダールマン提督などが成るのであるまいな、と不安に思った。

「それは、おそらくリドス連邦王国のナル・クルム少佐になるのではないかな?」

と、ファグル元司令官が言った。

「少佐が司令官になるのですか?」

と、驚いてブレイス少佐が言った。

「政治代表がダールマン提督に相談した結果だそうだ」

「何で、ヘイダール要塞の政治代表がダールマン提督に相談するのですか?」

と、不満そうにダズ・アルグが言った。筋が違うと言いたげだった。

「最初は、ダールマン提督をここの司令官にしたかったようだが、彼には体よく断られたようだ」

「本当は、ダールマン提督を司令官に付けたかったと言うことですね」

と、グリンが言った。

「そうだ。だが、ダールマン提督はそのようなことに関心はないようだった」

「ダールマン提督にお会いになったのですか?」

と、驚いてグリンは言った。

「政治代表の執務室の外で会ったのだ。おそらく彼は、魔法で姿を隠してそこにいたのだろう。おそらく私が来ることを見越して、待っていたのだと思う」

「魔法ですか。しかし、政治代表たちは魔法のことを分かっているのですか?」

「それは、おそらく前と同じく分かっていないだろうし、信じてもいないだろう」

 これは非常に困った事態だ、とグリンは思った。要塞の司令室と政治代表との意思疎通がうまく行っていない。単にうまく行っていないだけではなく、両者に秘密があり、お互いに信用できないことを知っているのだ。これでは敵の攻撃に会った時に、適切な処置がとれるわけがない。それをあの、ダールマン提督はどう思っているのだ、と彼は考え込んだ。

 その時、司令室に入って来る者がいた。


277.

 ナル・クルム少佐はダールマン提督に呼ばれて、話を聞いて来た。そして、ヘイダール要塞の政治代表の所へ行って、司令官になるかどうかを考えながら話を聞いたのだ。

「君はまだ若い。この仕事はおそらく、君の勉強になるだろう。それと、これは忠告だが、司令官に成ったからには、よく部下の話を聞くことだ。周囲の者達の話もよく聞くことだ。もちろん、上位者の意見もだ」

と、人の意見を聞くようにと特に強調して、エルシン・ディゴ政治代表は思慮深げに言った。すでにクルム少佐が司令官に成ることを承諾したと、彼は思っているのだ。

「そうですわ。苦労の多い地位ですが、やる価値はあります。きっとあなたにとって良い経験になるでしょう」

と、フランブ・リンジ副政治代表が言った。

「ただし、この要塞はリドス連邦王国ではないことをよくよく注意してもらいたい」

と、ギアス・リードが言った。

 どの話も、どこにでもありそうな教訓を並べているように思えた。大して意味がないということだ。

「すると卿らは、私がヘイダール要塞の司令官になることを承諾しているというのだな?」

と、クルム少佐は念を押すように言った。結局彼が聞きたかったのは、それだけだった。

 その生意気な口の聞き方に今更のように怒りが湧きあがるのをできるだけ抑えて、

「そうだ。ダールマン提督がお前を推薦したのだ。ダールマン提督に感謝することだ」

と、エルシン・ディゴが言った。

「ふむ。いいだろう。では、これで失礼する。司令室に行かなければなるまいからな」

と、クルム少佐は言うと、出て言った。

 エルシン・ディゴ政治代表は、司令室の連中や他の元新制共和国の兵士たちに紹介しようとは少しも言わなかった。クルム少佐のために成る様なことは、何もしたくなかったのである。精々頑張るがいい、と冷ややかに送り出だした。そして、一秒でも早く失敗をしてほしいと考えていたのだ。


 要塞司令室に入るのは初めてではなかったが、今回クルム少佐は司令官に就くために来たのだった。

「やはり来たか」

と、ファグル元司令官は言った。

「カトル・ファグル司令官、あなたはこの要塞の司令官が私でいいと思うのか?」

と、クルム少佐は聞いた。

「さあ、それはやってみなければわからないだろう」

「なるほど、それで、他の者達の意見は?」

「私も同意見です。政治代表がなぜ、リドス連邦王国の人間にこの要塞司令官を任せるのかわかりませんが、……」

と、グリンが言った。

 グリンはクルム少佐に対して特に嫌うような感情は持っていない。ただ、若すぎるのではないかと思うだけだ。少なくともクルム少佐はリドス連邦王国とダールマン提督やバルザス提督の支援を知っているからだ。リドス連邦王国の士官が司令官になるなら、彼らは要塞の危急の際に支援を惜しまないだろう。この要塞には彼らの支援が必要だと彼は感じていた。

「確かに、この要塞は新世紀共和国ではありませんし、特に決まった国に属しているわけではありません。要塞の防衛に協力してくれるのであれば、そしてその力があるのなら、クルム少佐が司令官になっても構わないでしょう」

と、ダズ・アルグ提督は言った。

「ほう、すると、卿も私がこの要塞の司令官に就いても構わないということか?」

「そうですね」

「他には誰がいる。そうだ、卿はどうだ?」

と、クルム少佐はノルド・ギャビに聞いた。

「私は、特に文句はありませんが、要塞の損傷部分の修理については早くすべきだと言うことは言えます」

「その件については、ダールマン提督がタリア・トンブンに話をしてくれることになっている」

と、ファグル元司令官が言った。

「それは、朗報です」

「あと、ここに居ないのは誰だ?」

「フェリスグレイブ要塞防御指揮官です」

と、副官のブレイス少佐が言った。聞かれはしなかったが、彼女も特に断る理由はないと思っていた。

「では、彼には後で聞くことにする。他の者は、私のことは要塞司令官代理と呼んでほしい」

と、クルム少佐は言った。

「司令官代理ですか?政治代表は司令官だと認めたのでは?」

と、グリンが聞いた。

「政治代表とやらが認めても、卿らはきちんと私を認めたわけではあるまい。認めるまでは代理でかまわない」

 司令室の者達はそれを聞いて、クルム少佐はその年に似合わぬ、そしてこれまでの態度や口調からは思いもかけないような謙虚な人物かもしれないと思った。

「では、クルム司令官代理、要塞のことを頼む」

と、ファグル元司令官は言うと、司令室を去って行った。


 まだフェリスグレイブ要塞防御指揮官には会っていないが、ともかく要塞司令官の椅子に座って、クルム少佐――司令官代理は司令室全体を見渡した。以前にこの要塞に来たことがあるが、考えてみればこの椅子に座るのは初めてだった。

 さて、この司令室の特徴は要塞の外を映し出す大きなスクリーンだったと思い、

「要塞の外は、現在の状況はどうなのだろうか?」

と、新しいクルム司令官代理は聞いた。

「現在、駐留艦隊は修理と点検のため駐機場に入っているので、外をパトロールしているのはダルシアの艦隊です」

と、ブレイス少佐は言った。

 先の戦闘で要塞の駐留艦隊は半数がやられて、しかも残った艦も損傷が激しかったので現在は修理中のモノが多かった。それに、一部は仲間を見捨てて本国へ去ったものの、緊急の要請で要塞に助けられた銀河帝国の辺境パトロールの小艦隊は要塞の駐機場に入って同じく修理中なので、現在はダルシアの艦隊しかそれができない状態なのだった。

「すると、メイヤール提督が指揮しているのか?」

と、クルム司令官代理が聞いた。

「そうです」

 クルム司令官代理は何かを思い出そうとしているかのように黙っていた。ブレイス少佐は、司令官代理を見つめていて、一瞬だがその顔が別の顔に見えた気がした。それも、どこかで見たことのある様な顔だ。

「どうかしたのか?」

と、ブレイス少佐がずっと司令官代理を見つめているので妙に思ってグリンが訊ねた。

「い、いいえ何でもありません。目の錯覚です」

と、ブレイス少佐は答えた。


 タリア・トンブンはレギオンの城に呼ばれていた。書斎に入り、そこにいる者達を見ると中の一人に

「もしかしてダルシアのコア大使。そうだわ。コア大使ではありませんか?」

と、タリア・トンブンは言った。

 当然タリアはコア大使の生前は本人の顔を見たことがなかったが、その人物から流れてくる印象と波動がコア大使そのものに思えたのだ。ただ、人間族の姿だということに、少々戸惑いを感じてはいた。

「そうだ。私を見つけるとはさすがだ」

と、コア大使はタリアに言った。

「ご無事だったのですね。心配していました」

「私は別に、病気だったわけでも、事故に遭ったわけでもない。ただ、潮時だと思ったのだ」

「潮時?それは、どういうことなのですか?」

「ダルシア帝国の継承を君にするのに、良い頃合いだったということだ」

「そんな、私はそんなことを望んではいませんでした。大使にはもっと長くいて欲しかったのです」

「ふむ。それなら、私の判断は正しかったということかな?」

 元ヘイダール伯爵はそんな二人を見て、

「で、この女性がタリア・トンブンというのかな?」

と、コア大使に聞いた。

「そうだ」

と、コア大使が言った。

「私に何かご用なのですか?」

「まあ、いずれレギオンが話をすると思うのだが、この要塞の大穴を直してくれると聞いているので……」

 今、レギオンは城の書斎にはいなかった。ちょうどその頃は、要塞の政治代表の部屋の外でファグル元司令官と話しをしていたのだ。

「要塞の損傷部分の穴のことですか?どうでしょうか。私にできるかどうか」

と、少し不安げにタリアは言った。

 まだ自分の新しい力に慣れていないのだ。タリアは自分の中のアプシンクスと言うダルシア人が教えてくれたこの力に戸惑っていた。まったく戸惑うことばかりだった。

「まあ、その件に関してはダルシアの連中の科学技術や知識はわがアンダイン種族よりも詳しいと言うことは認める。私がここを造った時にはダルシア人の文明については、あまり詳しくなかったのでね」

「あなたがこの要塞を造ったのですか?」

と、驚いてタリアは言った。

「そうだ。この要塞を造ったヘイダール伯爵というのが、私のことだ」

 ヘイダール伯爵と言う人物は白髪の老人に見えたので、それほど変だとは思わなかった。それでも確かこの要塞の建設は百年前のことだったとタリアは聞いていた。今老人に見えても、百年前にすでに老人だったはずなのだ。

「でも、それは百年ほど前のことでした。今ここに居るということは、あなたは銀河帝国の人ではないのですか?」

「私は、遠い銀河から来たのだよ。あちこち流れてこの銀河へやって来た。元は白金銀河のアンダイン種族の出なのだ」

「白金銀河?今、そこの銀河からこの要塞に船が来ていますけど、お仲間ではありませんか?」

「何だって、私の銀河から船が来ている?」

と、ヘイダール伯爵は驚いて言った。

 そこへ、レギオンが戻って来た。魔法で現れたのである。

「さて、あと何人か書斎にやって来るはずだ。もう少し待ってほしい」

と、レギオンは言った。


278.

 惑星カルガリウムでは、エネルギー結晶の鉱石の掘削が順調だった。

 グーザ帝国の惑星カルガリウムに駐在する残存艦隊のヒュードルラ提督は、本国から要求された量の掘削が完了して、一安心していた。あとは本国からの輸送艦隊が来るのを待つのみである。

 輸送艦隊が来たら、同時に本国から新たな指令が来るはずだった。その指令にあのヘイダール要塞に置き去りにされた味方の将兵を救出する作戦が含まれているかもしれないことに、彼は一縷の望みを抱いていた。彼らをこの銀河に置き去りにするのは、あまりにも残酷だと思えた。これが同じ銀河なら、これほど気になるようなことはなかったはずだ。

「閣下、輸送艦隊がゲートを抜けたと連絡が来ました」

と、副官が言った。

 ゲートとは、ふたご銀河と蛇使い銀河の間をつなぐワームホールの出入り口のことだ。

「そうか、ではあと数時間で着くだろう。輸送艦隊の着陸場所は確保してあるだろうな」

「もちろんです。ただ、こちらの元新世紀共和国の警備艦隊や銀河帝国とやらのパトロール艦隊に会わずに済むかどうかが心配です」

「惑星カルガリウムについては、連中に妙な懸念は抱いてないはずだと思うが、警戒は緩めるな。何が起きるかわからんからな」

と、ヒュードルラ提督は言った。

 あれから惑星カルガリウムの住民についての調査は続行されていた。その結果、この惑星の住民が全員いなくなっていることが判明した。もちろん、グーザ帝国が密かに潜入させていた工作員も消えていたのだ。彼らがどこへ行ったのかは連絡がないので、皆目見当がつかない。少なくとも惑星カルガリウム上ではないことはわかっていた。だからこそ、警戒を緩めるわけには行かなかった。

 ヒュードルラ提督はグーザ帝国から来る輸送艦隊を迎えるために、準備をさせていた。

 旗艦や他の艦に乗っている多くの将兵は母国から来る輸送艦隊を、首を長くして待っているのだ。輸送艦隊はエネルギー結晶の鉱石を輸送するのが任務であるが、母国から食料や補充人員や情報を持って来るからだ。


「ヒュードルラ提督、ご無事でなによりでした」

と、挨拶したのはグーザ帝国からやって来た輸送艦隊を指揮するファルドルラ提督である。提督としてはかなり若く、目つきの鋭い人物だった。

「ようこそ、カルガリウムへ。それで、新しい指令はどうなのか?」

と、ヒュードルラ提督は聞いた。

「いえ、新しい指令は出ておりません。ただ司令部におきましては、エネルギー結晶鉱石の採掘を非常に重視しておりますので、閣下にはその点について、まず滞りなく任務に励んでいただきたいと言うことです」

「そうか。だが、私はヘイダール要塞に置き去りにして来た仲間の救出について、何とかしたいと考えているのだ」

「それは、分かっております。ですが、我が帝国においては、エネルギー結晶鉱石の不足が大問題であるのは依然として変わらないのです。このカルガリウムの一鉱山の採掘量ではまだまだ足りません」

「では、他の惑星の鉱山を探すのか?」

「それも検討している状態です。このふたご銀河においては、まだカルガリウムのような鉱山が多数発見される可能性が高いということですので……」

「すると、再び帝国から大艦隊を送って来るということも有りうるということか?」

「あり得ます。ですが、今はその準備もなかなか難しいほどにエネルギー結晶鉱石が不足しているのです」

「と言うことは、今の時点ではカルガリウムからどれだけの採掘が出来るかと言うことが重要ということだな?」

「そうです」

「了解した。できるだけ、採掘を急がせよう」

「了解していただけて、助かります。それで、鉱山の警備につきましては、どうなっているのでしょうか?キンドルラ提督の艦隊が我が銀河に戻ってきてしまったことで、かなり手薄になったのではないかと心配しております」

「今のところは、我々の存在はふたご銀河の勢力には気づかれていないと思う。あのヘイダール要塞にいる連中は別としてだが……」

「とすると、問題はあのヘイダール要塞にあるということですか?」

 ふたご銀河に於いてグーザ帝国と一戦交えたのは、ヘイダール要塞だけなのだ、と彼らは思っていた。その戦闘にリドス連邦王国やダルシア帝国などが関わっていたことは、まだ知らないのだ。また元新世紀共和国においては、グーザ帝国の存在は少数の者だけに知られているにすぎない。その少数者は艦隊などの軍事力は持っていなかった。

「そうだ。もちろんあそこには置き去りにされた同朋がいると言うことも忘れてはならない」

と、ヒュードルラ提督は言った。

「わかっております。私がこちらに来たのは、エネルギー結晶鉱石の輸送もありますが、鉱山の警備のための機動兵器を持ってきたのです」

と、ファルドルラ提督は言った。

「機動兵器?ここでは、機動兵器同士の戦闘はないと思うのだが、それに我々の機動兵器では大きすぎて小回りが利かないのでここでの運用はあまり適してはいないと思うのだが」

「それについては、司令部も考慮して、新しく小型の機動兵器を量産したのです」

「まあ、不要と言う訳ではないが、ともかく鉱山の警備に使わせてもらおう」

「使っていただければ、我々も試験用のデータが手に入るので助かります」

「わかった」

「では、あと母国から輸送してきた食料や武器や医薬品について必要なものをそれぞれの艦に移送したいと思いますので」

「それはすでにそれぞれの艦の艦長に通達してある。いずれ、調達にやって来るだろう」

「それと、私は地上の鉱山を見ておきたいと思うのですが、よろしいでしょうか」

「それは構わない。危険はないと思うが、案内させよう」

「ありがとうございます」

と、ファルドルラ提督は言った。


 地上では鉱山の採掘を急いでいるため、あまり周りの環境を気にせず掘削を進めており、あたりは砂漠化していた。大きな穴を掘ってそこから機動兵器を使ってさらに奥に掘削機械を投入し、地下にある水脈を無防備に切断したりするので、植物は枯れて行った。

 ファルドルラ提督はシャトルで地上に降りると、機動兵器を使った掘削に感心しているように言った。

「ここには、中々達者なパイロットがいるようですね」

「戦闘ではないのが、残念です。敵と戦うのであればもっと戦果を挙げて見せることが出来ますのに」

と、機動兵器から降りて来たパイロットが言った。

「いや、今はこの鉱山でエネルギー鉱石を掘って、我らの母なる銀河へ輸送するのが重要なのだ。頼むぞ、この鉱石がどれだけ多く我が国へ届くかで、我が国の人々は助かるのだ」

「は、それは分かっております」

「しかし、ここには我が国の兵士だけなのか?」

 他に労働者はいないのか、とファルドルラ提督は不思議に思ったのだ。

「はい。カルガリウムの住民は誠に不思議なことに、消えてしまったのです」

「消えた?どのくらいの数なのだ?」

「ここの住民全員ですので、およそ五千万人になりますか……」

「五千万もの住民が消えた?どうやってだ?」

「それがわからないのであります。いつの間にかいなくなっておりましたので」

「だが、住民の間に潜入していた者があろう。その者たちはどうしたのだ?」

「それが、その者達も一緒に消えてしまったのです」

「何だと?」

 ファルドルラ提督は、これは容易ならざる事態ではないかと思った。ヒュードルラ提督はそのことについて何も言わなかったが、彼にもう一度確認しなければなるまい。

「他に、変わったことはないか?」

「それ以外には別に、変わったことはありません」

「そうか。ではエネルギー結晶鉱石の採掘を頑張ってほしい」

「了解しました」

と、パイロットは本国の司令部から来た提督に緊張して答えた。


 本国から輸送してきた必需品のカルガリウム駐留艦隊への移送を終えて、エネルギー結晶鉱石を積載すると、ファルドルラ提督は本国へ出発するために、ヒュードルラ提督の旗艦に挨拶に来た。

「準備が整いましたので、本国へ向けて出発します」

「早かったな」

と、ヒュードルラ提督は言った。

「本国でも急いでおりますので、急がせたのです。ですが、一つ提督にお聞きしたいことがあります」

「何だろうか?」

「この惑星の住民の消失の件です」

「そのことか……」

と、ヒュードルラ提督は不快そうに眉毛を潜めて言った。

「五千万人の住民が消えたというのは、由々しきことです。原因がわからないと聞きましたが、本当でしょうか?」

「そうだ。住民が消えたと言うのは本当のことだ。だが、理由はわからない。一度、住民がヘイダール要塞にいるという情報もあったのだが、今はその情報の元が消えている」

「住民が消えたというのは、宇宙船に乗ってどこかへ行ったということでしょうか?」

「いや、私が得た情報では、物質転送装置のようなものを使ったと聞いている。ただし、その装置がどこにあるか、このカルガリウムにあるのかどうかもわからないのだ」

「これは、大変なことだと思われます。もし、そのような我々の知らない科学技術があるとしたら、我々の計画が元から狂ってしまいます」

「だが、事実はわからないのだ。物質転送装置があるとしても、その割には我々に気が付かない銀河帝国は、そうしたものを持っているとは思えない」

 まして、元新世紀共和国の連中がグーザ帝国ももっていないような科学技術を隠しているとは思えない。

「だとすると、第三の勢力がいるということでしょうか?」

「そうかもしれない。できれば、本国の司令部にこのことを話して、対応できるようにしてもらいたいものだ。ヘイダール要塞との戦闘で敗北せざるをえなかったのも、我々の知らないそうした勢力が彼らの味方にいるのではないかと思われるのだ」

「わかりました。この件は重要だと思われます。それで、居なくなったのは住民だけなのですか?」

「住民だけだ。それも、着の身着のまま出て行ったと思われるのだ」

「それも妙ですね」

「幸い、エネルギー結晶の鉱山は住民のいた場所からはかなり離れている。近くには家もない。だから、例えまだこの惑星上に住民がいるとしても、我々の存在と行動は知られていないと考えている」

「そうですか。ですが、警戒は緩めない方が良いと思われます」

「わかっている。それで、本国に戻った艦隊はどうなのだ?」

「精神的に異常をきたしている者がかなりの数生じていました。従ってヘイダール要塞占拠で何があったのか、詳しいことはわかりません」

「新しい艦隊の編成はどうなっている?あまり長くかかると、他の連中に目を付けられる可能性がある」

「ここのエネルギー結晶鉱石を持って帰れば、新しい艦隊の編成も順調に進むはずです」

「そう願いたいものだ」

「我々としては、提督に第三の勢力について、出来るだけ情報を得るように努力していただきたいのですが…」

「それはわかっている。だが、将兵も不足している。この惑星カルガリウムを守備するのに十分な数もないのだ。これまで不足分を長時間の勤務で補って来た。提督が連れて来た補充人員ではとても足りないのだ。できるだけ早く、将兵の補充を頼みたい」

「わかりました。全て司令部に伝えます」

 ファルドルラ提督と彼の輸送艦隊は急ぎ本国へ向けて去って行った。


279.

 ヘイダール要塞の司令室で司令官の椅子に座ることになったリドス連邦王国のナル・クルム少佐は、しばらく司令室の様子を窺っていたが、

「ヒルゲンティオ、ナスィアス」

と、小さな声でつぶやくように唱えた。

 近くにいたブ副官のレイス少佐は、何だろうとクルム司令官を見た。

「しっ……」

と、ブレイス少佐に黙っているようにサインを送ると、再びあたりを窺った。そして、小さな声で、

「ちょっとした魔法の呪文だ。危険はない」

と、言い訳した。

「あの、それよりもお聞きしたいことがあるのですが…」

と、ブレイス少佐はクルム司令官の傍に寄って、声を潜めて言った。

「どうかしたのか?」

「あの、先ほどですが、妙な警告音のようなものが聞こえたのですが、何かご存じではないでしょうか?」

「ああ、あの音か……」

 クルム司令官は言いながら、やはりあたりを窺っていた。そして、今度は普通の声の大きさに戻って、

「あれはガンダルフの魔法使いによると、結界が破壊された警告音だそうだ」

と、言った。

「結界が破壊された?」

「そうだ。銀河帝国の帝都ロギノスに五百年前に造られた強力な魔法の結界だ」

「五百年前?とすると、銀河帝国が始まった頃のことでしょうか」

と、話を聞きつけてグリンが言った。

「そうだ。何でもその頃、銀の月がロギノスに人間が住むと言うことを聞きつけて、闇の魔法を封印する結界を強化したのだそうだ」

「強化したというのは、すでにその結界は張られていたということでしょうか?」

「そうだ。かつて何百万年も昔のこと、そのロギノスはアルフ族と言う種族が住んでいたそうだ。当時もロギノスは首都扱いだったそうだが、そこでは恐ろしい闇の魔法がはびこっていたということだ。その闇の魔法からアルフ族が逃げた時に、あまりにも危険なので、闇の魔法を封印する結界を張ったのだそうだ。ところが、そこをまた帝都にするということになったので、その封印の結界を強化するために更なる結界を張ったと聞いた」

「では、その結界が破壊されたということですか……」

「そうだ。だから、レギオンの城の連中は大慌てしている。大変なことになったと言っていた。だから、レギオンも要塞の司令官を受けるどころではないのだろう」

「それで、その影響はどうなるのです?結界が破壊されたということは、闇の魔法というものが帝都に蔓延しているということでしょうか?」

と、ノルド・ギャビが聞いた。

 魔法自体を信じているとは言わないものの、暗黙の裡に要塞司令部の将官たちは、魔法の存在を信じざるをえなかった。

「私には、その闇の魔法と言うものがよくわからない。ただ、私がイメージするなら、伝染性の強いウィルスが帝都に蔓延したようなものではないのかな?ガンダルフの魔法使い達が漏らした情報は非常に少ない。ただ、闇の魔法自体が別の惑星に移動するということは難しいようだ。つまり、ウィルスが自ら惑星を移動することができないようなものだろう」

「病原菌のウィルスと闇の魔法を比べるのはどうかと思いますが、それなら、あまり心配することはないのですね」

「そうとは言ってないぞ。銀河帝国というのは、卿らの敵なのだろう?だとすると、その影響は銀河帝国の主だったものが、この要塞を攻撃することになるのではないかな?」

 銀河帝国の主と言えば皇帝陛下のことだ。だとすると、皇帝自らが軍を率いてヘイダール要塞を攻撃するというのだろうか。

「まさか、そんなことがあろうはずは……」

「いや、有りうるかもしれない」

と、グリンが言った。そして、

「この要塞をディポック提督が占拠しているという情報は伝わっているはずだ。だとすれば、帝国軍の襲来は可能性としては十分あるだろう」

と、付け加えた。

「だが、先だっての戦闘で、銀河帝国のパトロール艦隊の提督が通信を送ってきた時、出たのはファグル司令官でした。司令官が交代しているとわかったはずです」

と、ダズ・アルグ提督が言った。

「その情報が正しく伝われば来ないだろう。もし正しく伝わっていないとすれば、帝国軍の襲来はあると考えた方がいいだろう」

「その場合には、我々が帝国のパトロール艦隊を救助したことも伝わっていないということになりますね」

「多分そうだろう。救助の要請をしてきたのは艦隊提督の副官だったはず。提督自体はすでに無事だった艦を率いて去っていたのだからな」

 グリンはその点については気づかなかったと自省した。だとすると、銀河帝国の皇帝自らが艦隊を率いてやってくるというのは、かなり現実味がある。

「ですが、パトロール艦隊がやられたくらいで、皇帝自身が動くというのは少々考えにくいのでは?」

「だから、すぐにやって来るわけではあるまい。これから何かあるかもしれないではないか」

「何か、とは?」

「それは私にもわからない。だが、ヘイダール要塞に大逆人がいて、しかもパトロール艦隊がやられたとあっては、かなり心象が悪くなる。リドス連邦王国の帝都駐在大使も言い訳に困っているのではないだろうか」

「なるほど、リドス連邦王国の艦隊に彼らは属しているのでした。とすると、いずれその帝都駐在大使から何か情報があるということでしょうか?」

と、グリンが聞いた。

「おそらく、何か言って来るだろうとレギオンが言っていた」

 司令部の連中の話に時折目をやる者も、要塞の各種の統合装置についている者の中にいた。この中におそらく情報を漏らしている者がいるに違いない、とレギオンが言っていたのだ。だからこそ、クルム司令官は話を始める前に魔法の呪文を唱えたのだ。

 その呪文は、ディポック提督の敵側に就く人物に話が聞こえないようにすると言う効果があるとのことだった。それが本当に効くというのなら、魔法は誠に便利なものだ、とクルム司令官代理は思った。



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