ダルシア帝国の継承者
273.
レギオンの城の書斎では、唯一現実のヘイダール要塞と繋がっている内線用インターホンにダールマン提督――レギオンが出た。
「私はダールマンだが、何の用だろうか?」
「ダールマン提督、私はエルシン・ディゴヘイダール要塞の政治代表である。実は提督に話があるのだが……」
「政治代表が私に話があるというのか?どんな話だろうか?」
「それは、私の部屋まで来ていただきたい。そうすればわかる」
「わかった。それでは行くとしよう」
と、レギオンは言うと、インターホンを切った。
「政治代表というのは、何だ?」
と、元ヘイダール伯爵は聞いた。いつの間にそんな妙な役職が出来たのか、不思議に思ったのだ。
「最近できた役職で、このヘイダール要塞の政治を代表している。つまり政治をしているのだ」
「この要塞の政治を代表しているだと?何かの冗談なのか?」
軍事要塞で政治家などそもそも必要がないではないか、と元ヘイダール伯爵は思った。
「これは冗談ではない。まあ少なくとも、ここには元新世紀共和国の兵士や士官や民間人がおよそ百万人はいる。つまり一つの都市と言える。だから、その住民の代表が、エルシン・ディゴという元新世紀共和国から来た政治家なのだ。彼らが政治代表になるにあたっては、選挙をして決めたのだ」
「つまり、新世紀共和国の共和主義者のやりたかったことをやったわけだ」
「そういうことだ」
レギオン――ダールマン提督が書斎を出て行くと、元ヘイダール伯爵はその後をついて行った。どうもこの要塞は自分が留守をしている間に、以前とはだいぶ違ってしまっているようだ、と彼は思った。彼の知識に空白が生じているのだ。だからこそそれを埋める必要がある。
政治代表の執務室までほんの数歩で着いた。レギオンは魔法で移動できるのだった。
「おお、ダールマン提督、よく来てくれた」
と、エルシン・ディゴ政治代表は満面の笑みで迎えた。その到着の速さに疑問を抱いている様子はなかった。
「話と言うのは?」
「そのことだが、実はこの要塞の司令官のことだ。どうもあのカトル・ファグル司令官では、要塞司令官として心もとない。それで、この要塞の司令官をダールマン提督あなたになって貰いたいと思ったのだ」
と、単刀直入にエルシン・ディゴは言った。彼は、こういえばダールマン提督は必ずや喜んで要塞司令官になるだろうと考えていた。
「その前に聞きたいのだが、どのような点でファグル司令官が要塞司令官として相応しくないと判断したのか」
「それは、彼があまりにも独断専行し過ぎるからだ」
「どのような点で、そうなのだろうか。もっと具体的に話してもらわないと、こちらも判断しかねる」
と、レギオン――ダールマン提督は忍耐強く聞いた。
「そうだな。まず、今回どこのモノとも知れぬ艦隊にやられた銀河帝国の艦隊の救助を要請されたときに、それを即座に受けたことだ」
「なるほど、あなたにまず了解を取るべきだったというわけか」
その間の事情は、ダールマン提督も司令室にいたのでよく知っていた。
「そうだ。もちろん、それだけではない。他にも今回リドス連邦王国の支援を受けるのを同じく私の許可を得ずしてしたこと、他にもまだある……」
「つまり、要塞に関する判断については、必ず卿の判断を仰ぐべきだと言うのかな?」
「そうだ」
「それなら、もっといい提案がある。要塞司令官はエルシン・ディゴ政治代表あなたが、兼任したらどうか?」
「私が、要塞司令官に?しかし、私は軍人ではない」
と、ひどく驚いてエルシン・ディゴは言った。
「要塞に関する判断はすべて政治代表を通さねばならないのなら、他に方法はないだろう。なぜなら、私が要塞司令官になったとしても、今回の判断はファグル司令官と同じだと思うからだ」
と、ダールマン提督は言った。
「いや、それは、困る。第一、戦闘状態になったら私では判断できない」
「だが、この要塞に関することはすべて必ず、政治代表を通さなければならないのだろう。他の者が司令官になったとしても、大して変わるまい。同じことだ」
「では、ダールマン提督、あなたは要塞司令官の職には付かないと仰るのですね」
と、ギアス・リードが言った。彼にとってその点をはっきりさせて於きたいのだ。
「そうだ。とても私ではできないと思うのでね」
「ですが、私どももこのままでは困るのです。誰かにこのヘイダール要塞の司令官になって貰わねば……」
と、フランブ・リンジ副代表が言った。彼女も自分は政治家であって、軍人などではないと考えていた。彼女はこの要塞に何かあった時に責任を取るなど考えてもいない。
呆れた連中だ、とレギオン――ダールマン提督は思った。要するに要塞司令官としての責任を取ることが嫌なのだ。だから、他の者に成って欲しいのだ。自分が何を言っているのか気づいていないことが何とも言えなかった。
「それならば、他に何人か私が推薦しよう。もっとも、本人に聞いてみなければどうなるかわからないが……」
「ダールマン提督が推薦するのならば、大丈夫でしょう。しかし、いったい誰を推薦されるのですか?」
と、フランブ・リンジが言った。
「そうだな、……」
と、ダールマン提督は考えているように言った。
バルザス提督はおそらく忙しいし、このようなことは嫌がるだろう。返って、この銀河帝国と関係があると知られている軍人は止めた方がいいかもしれない。そう考えて、
「そうだ、ナル・クルム少佐がいいだろう。彼は若いが、非常に優秀な人材だ。少佐であっても、この要塞の司令官に十分なれる力がある」
と、ダールマン提督は言った。
「ナル・クルム少佐?」
その名を覚えていたので、エルシン・ディゴは聞き返した。あのバルザス提督の宿舎で自分に生意気な口を聞いた士官だった。非常に印象の悪い人物だったのを覚えている。
「他にはいないのか?」
「私が推薦できる者は、彼だけだ」
「しかし、あのような者は、その私には非常にはっきりとものを言い過ぎる気がするのだが……」
「それは、決して短所ではない。長所だろう。司令官たるもの、はっきりとモノが言えないのでは、非常に困るのではないか?」
「だが、その上の者には少なくとも礼儀を尽くすと言うことを知らない者では……」
「クルム少佐は、実に礼儀正しいと思うが……」
「しかし、……」
と、なおもエルシン・ディゴが反対しようとすると、
「まあ、彼は若い士官ですし、一度はやらせてみてはどうでしょうか?」
と、秘書のギアス・リードが言った。彼は、ダールマン提督――レギオンが司令官にならないのであれば、誰であろうと構わないのだ。
「何を言うか、あのような者は……」
と、エルシン・ディゴが言おうとすると、
「ええ、若い士官ですし、私もいいのではいかと思います」
と、フランブ・リンジが賛同した。若い方が、頭が柔らかい。きっとここでの態度についても学習が早いのではないかと思ったのだ。
「し、しかし、……」
秘書のギアス・リードと副代表のフランブ・リンジに賛同されると、それ以上反対することがエルシン・ディゴにはできなかった。
「それでは、彼を司令室に行かせることにしよう。カトル・ファグル司令官にはもちろん、あなたからきちんと解任することを話して頂けるのですな」
と、ダールマン提督はダメ押しをした。
「も、もちろんだ」
と、エルシン・ディゴ政治代表が言った。
カトル・ファグル司令官はエルシン・ディゴ政治代表に呼ばれてその執務室に行った。彼が着いた時には、ダールマン提督はいなかった。
「よく来てくれた、ファグル司令官」
と、近頃にしては珍しく機嫌よくエルシン・ディゴ政治代表は言った。
「私の方も政治代表に話がありましたので、ちょうどよかったです。それで、話と言うのは何でしょうか?」
「そうだ。話があるのだ。このヘイダール要塞はどうも色々と問題が多い。外壁の修理もいるし、今回は隔壁の修理もしなければならない。それなのに、金がないという、実に難題を抱えている。そこでだ、このように難題の多い要塞の司令官を務めるのは、君には少々大変なのではないかと考えている」
「それで、私は今回その件について、提案を持ってきたのです」
と、ファグル司令官はエルシン・ディゴ政治代表の思惑に気づかずに言った。
「そうか、それは君も大変だったことだろう。だが、私としては君にこれ以上の負担を強いる気はないのだ」
「は?それは、どういうことでしょうか」
嫌な予感がした。考えてみれば政治代表がこれほど機嫌の良い風を見せているのが妙だったのだ、とファグル司令官は思った。
「つまりだね、実はこの要塞の司令官にはもっと若い者が相応しいのではないかと我々は考えているのだ」
「この要塞の司令官を、もっと若い人物に任せたいと仰るのですか?」
ファグル司令官は突然のことで驚き怒りが湧いて来たが、その怒りを抑えて、
「わかりました。それで、誰に要塞司令官を任命なさるおつもりですか?」
と、聞いた。すでに後任は決まっているのだ。今更何を言っても無駄なのは、彼らの日頃の行いから分かっている。
「これは、ダールマン提督とも話したのだが、彼の部下にいるナル・クルム少佐に任せたいと思っている」
「ダールマン提督と話をされたのですか?それに彼の部下にここの司令官をさせるのですか。それも少佐にですか?大丈夫なのでしょうか」
と、ファグル司令官は立て続けに疑問をぶつけた。彼はこの要塞の司令官職を守りたいのではなく、この要塞の今後を案じているのだ。
「ダールマン提督の部下なのだから、彼が色々と助けてくれるだろうと考えている」
と、平然とエルシン・ディゴは言った。
「そうですか、わかりました。では、すぐにでも私を解任なさって結構です」
と言うと、ファグル司令官は政治代表の執務室を出た。
部屋を出たところで、ファグル元司令官はダールマン提督が立っているのに気づいた。先ほど部屋に入る時にはいなかったような気がするのだが。おそらく得意の魔法で隠れていたのだろう。
「あなたが、私の解任を目論んだのか?」
と、ファグルは聞いた。
「いや、それは違う。私が後任を推薦しなくても、どうせ司令官を変えることしか考えないだろう。せっかく、いい話を持ってきたと言うのに、残念だったのだが……。あの連中は自分たちには司令官を解任したり任命したりする権限があると勘違いしているのだからな。ところで、司令官を解任されて、これからどうするのだ?」
「どうするも何も、私は軍人しかすることはない。ここから首都星ゼンダに戻ることもできまい」
今の所、ファグルはこれからのことは何も考えてはいなかった。何しろこんなに早く司令官を解任されることなど、思ってもいなかったのだ。
「それなら、何をするか決めるまで、バルザス提督の宿舎にいてはどうだ?どうせこの連中は、以前ディポック提督にしたのと同じことを卿にもするだろうからな……」
「それは、どういうことだ?」
「すぐにわかる」
「だが、この要塞の修理について、何もできないのが残念だ」
突然の司令官の解任に遭って、要塞の修理についての妙案を話すことができなかったのがファグルには心残りなのだ。いつまでも修理ができなければ、この要塞は危険な状態が続くのだ。そちらの方がよっぽど心配なのである。
「それは大丈夫だ。その件は私がタリア・トンブンに頼んでみよう」
と、ダールマン提督は言った。
「それは助かる」
と、ファグル元司令官は言った。
274.
銀河帝国の帝都ロギノスの上空には、黒々とした大きな骸骨が鎮座していた。
以前ライアガルプスが帝都の宮殿の上空で見た骸骨よりも、更に大きくなっていた。それは闇の力がこの帝都で以前よりも強大になっていると言うことを暗示していた。
このことは、困ったことに、帝国の人間の内誰一人として気づいていなかった。
いや、一人だけ気づいている者がいた。ジェグドラント伯爵が知っていたのだ。ただ、知っていたとしても彼はこのことに関してはどうすることもできなかった。彼は魔法使いではなかったし、特殊能力者でもなかった。銀河帝国ではどちらも、その存在は明確にされていない。それに過去にわずかにいたかもしれないその存在を消そうとした経歴があった。
この闇の魔法がいつ、このロギノスの地で蘇ったのか、それはまだ誰も知らないことだった。
「どうも近頃は、あまり気分が良くないんだ」
と、リドス連邦王国大使リルケ・ユウキは従者のファレル・バレンに言った。彼らは地上車に乗って、宮殿に向かう途中である。
最初にユウキ大使がロギノスの宮殿に来た時には確か馬車に乗ったのだが、近頃宮殿に行く者は地上車に乗っていると聞いていたので、地上車にしたのだ。
「大丈夫ですか?これから帝国の国務卿との会見が控えておりますのに。キャンセルした方が良いのではありませんか?」
と、心配そうにファレル・バレンは言った。
「そうもいかない。どうも帝国は彼らの言う大逆人が我が国にいると言うことを、非常に不快に思っているらしい」
もし、リドスの大使がこの会見を突然キャンセルした場合、どんな憶測をされるかわからないのだ。それほど帝国はリドスについて疑心暗鬼に駆られている、と彼は思っていた。それは単に大逆人の存在に原因があるわけではないようだ。わざと誰かが煽っているようにも思えるのだ。若く見えるが彼はそうした外交については非常に経験が豊かだった。
「それは、内政干渉ではありませんか。実に我が国に対して無礼です」
「だが、帝国ではそうは思わないらしい」
そう言ってから、リルケ・ユウキ大使は地上車から帝都の空を見た。
「私の気分が悪い原因はあれだな……」
と、ユウキ大使は言った。それに、帝国のリドスに対する不信感を煽っている原因もあれにあるのかもしれない。
帝都の空をもっとよく見るために地上車の窓に寄って、例の指の形を作って見上げた。ユウキ大使自身は魔法使いではなかったので、これはガンダルフの魔法使いから教えてもらった方法である。すると、その指の形の中に、これまで以上に大きくなった黒い骸骨が見えた。
「何が見えるのですか?」
と、ファレル・バレンが聞いた。彼も魔法使いではなかった。リドス連邦王国では銀河帝国に派遣する者に魔法使いは相応しくないと考えているのだった。
「巨大な黒い骸骨だ。ガンダルフの魔法使いによると、あれはロギノスにかつていたアルフ族によって生じた闇の魔法の象徴なのだそうだ」
「闇の魔法?」
ファレル・バレンはガンダルフでも若い世代に属しているので、古い時代の魔法ということには疎いのだった。彼の育った国ではほとんど魔法と言うものが伝わっていない。惑星ガンダルフにおいてもそのような国があるというのが、魔法使いの星であった、ガンダルフの衰えを物語っている。
「ジル星団の方にも少しは伝わっていると聞いている。ゼノン帝国の魔術師などは闇の魔法の呪文を使うからね」
魔法使いではなかったが、魔法についてはリルケ・ユウキの方が多少詳しかった。
「魔法使いと魔術師とはどう違うのですか」
「ガンダルフの魔法使いは所謂白魔法を使う。魔術師は白魔法と黒魔法、つまり闇の魔法の両方を使うと言われている」
「闇の魔法が黒魔法なのですね。私が聞いているのは、黒魔法は人を呪って殺したりするものだということでした」
「そうだね。ガンダルフの白魔法は自然の力を利用したり、増幅したりすることが多いようだね」
この帝都ロギノスにおいては、魔法の力は危険だった。黒い骸骨が強大化している今では、それこそ危険が増している。ちょっとした魔法でも、それが白魔法であっても、あの黒い骸骨を刺激して、その動きをもっと激しくするだろうと考えられるのだ。だからこそ、リドス連邦王国は魔法使いではない者を派遣しているのだ。
あの闇の魔法の主は今、リドス連邦王国に対する嫌悪感を強める作用をしているようだった。だがなぜそのようなことが起きているのかまだわからない。闇の魔法の主がリドス連邦王国を知っているとは思えないからだ。
「その昔、このロギノスにいたアルフ族がガンダルフに逃げて来たと言うことが原因かもしれないな……」
「でも、アルフ族は随分前に、この星を去ったと聞いていますが……」
アルフ族がこのロギノスを去ったのは、今から数百万年も前のことなのだ。そして惑星ガンダルフにやって来た。そのアルフ族ももう滅びている。それなのに、このロギノスは未だ闇の魔法が浄化されてはいないと言うことがかなりの驚きを持って、ジル星団の魔法使い達に伝わっていた。例のガンダルフの五大魔法使いもその中にいた。
帝国がこの惑星ロギノスの地に帝都を定めたのは、初代皇帝の時である。それまで何百万年もの間、このロギノスには人間はいなかった。魔法使いもいなかった。ロル星団の他の惑星には細々と人間族が存続していたが、彼らはすでにアルフ族の魔法や文化文明を継ぐものではなかった。アルフ族の中枢にいた人々がジル星団の惑星ガンダルフに去った後、急速にその文明は衰え、忘れられていったのだ。
従って、現在の銀河帝国を造った文明はアルフ族の文明とは何の繋がりもない、まったく別の文明なのだ。
「この宇宙時代に銀河帝国では魔法と言っても、信じる者はあまりいないだろうね。いや待てよ、まさかとは思うが、信じる者がいるから蘇ったのかもしれない」
と、ユウキ大使は言った。
「ですが、この帝国で魔法使いなどいるのでしょうか?」
「確か、前王朝の初期のことだ。あれは魔法だったのか、それとも特殊能力者だったのか、そうした特異な力を持つ者を弾圧し、虐殺した歴史があるはずだ」
そのような事件が起きたということが、その頃魔法が存在したかもしれないと言うことができる証だ。だが、どうしてそのようなことが起きたのか。それまでこの文明は宇宙文明に達するまで、魔法や特殊能力についてはほとんどその存在を知らず、研究などもされていなかったとダルシア帝国の記録にある。
「それなら、尚更魔法使いなどいないのではありませんか?」
「どうだろうか。本当にいないのだろうか。それなら、あの闇の魔法が蘇るはずがない」
少なくとも、魔法は信じなければ存在しないと同じなのだ。信じるからこそ作用することができる。数は問題ではない。たった一人でも信じる者があれば、存在できるのだ。
地上車が止まった。
リドス連邦王国大使リルケ・ユウキは宮殿の国務卿の間に案内された。従者ファレル・バレンは控えの間で一人待たされた。
元は前王朝の宮殿だった建物を現王朝もそのまま使っているのだが、ここは古く、あまり良い場所ではなかった。前王朝治世の五百年の間、多くの血生臭い権力闘争が起きた場所でもあるからだ。
国務卿の執務室は初めてではなかった。前に来た時と少しも変らぬ部屋だった。綺麗に掃除されてはいるが、どこかしら暗い感じがする。それは、あの巨大化した黒い骸骨の所為なのかもしれなかった。
「これは、リドス連邦王国大使、よく来られました」
と、機嫌のよさそうな笑みを見せて国務卿は言った。
「何か話があると言うことでしたが、どのようなことでしょう」
「その前に、大使はヘイダール要塞についてご存じでしょうか?」
「ヘイダール要塞ですか?そうですね、確か銀河帝国が建設した軍事要塞で、今はヤム・ディポック提督という元新世紀共和国の軍人によって占拠されていると言うことは聞きました。それがどうかしたのでしょうか?」
「実は、ヘイダール要塞にリドス連邦王国の軍人がいるということなのです」
「ヘイダール要塞にですか?」
と、驚いたようにリドスの大使は言った。
「先日お話ししましたが、かの帝国の大逆人であるダールマン提督がいるというのです。しかも、そやつの部下もいるというのです。大使は何かご存じでしょうか」
「ああ、そのことですか。ダールマン提督が今どこにいるかは、我が国の艦隊司令部に問い合わせなければなりません。ですので、すぐにはわかりません。それと、確かヘイダール要塞にはダルシア帝国の代表がいると聞いています」
「ダルシア帝国の代表?ジル星団のダルシア帝国ですか?」
「そうです。確か、ジル星団の惑星連盟が審判を開いて認めたということでした。その代表の名は、タリア・トンブンでした。国務卿のあなたならご存じかと思いますが、我が国とダルシア帝国は同盟関係にあります。ですからダルシア帝国の代表がヘイダール要塞にいるなら、我が国の宇宙艦隊に所属するものがいたとしても不思議ではありません。それが誰であるか知りたいと仰るなら、こちらで調べましょう」
「なるほど、ですがことはそれだけでは済みますまい」
と、大げさに国務卿は言った。
「どのようなことでしょうか?」
「先日、ヘイダール要塞周辺では小規模ながら、艦隊同士の戦闘があった模様です。ヘイダール要塞付近をパトロールしていた帝国の艦隊と、要塞の駐留艦隊が戦闘をした模様です」
「ヘイダール要塞で何があったと仰るのですか?」
「つまり、その戦闘があった時に、リドス連邦王国の艦隊もヘイダール要塞にいたということが重要なのです」
「我が国の艦隊がヘイダール要塞の艦隊とともに帝国艦隊と交戦したということでしょうか?」
そのようなことは多分ないだろうと思いながら、ユウキ大使は言った。ヘイダール要塞にはダールマン提督を始めとして、バルザス提督やリイル・フィアナ提督がいる。彼らの指揮する艦隊もいるが、艦隊自体はステルス状態で帝国の探知機にはかからないはずだし、その艦隊が帝国艦隊と戦闘することは更にあり得ないことだった。
「わがパトロール艦隊はかなりやられていて、いずれは帝都に帰還することになるでしょうが、その時に戦闘の詳細は分かるでしょう」
「要するに、今現在帝国はその詳細については分からないと言うことですね」
「そうです。ですから、もうそうなった時には遅いと言うことをお伝えしたかったのです」
「ですが、我が国の艦隊がヘイダール要塞にいて帝国艦隊と交戦するということはないと思いますが……」
「ないと、言いきれますか?」
「もちろんです」
「だが、要塞にはリドス連邦王国の提督がいるというではありませんか」
パトロール艦隊からの報告では、ダールマン提督とバルザス提督がいるというのだ。だが、国務卿は敢えてその名は出さなかった。
「だからと言って、帝国艦隊と交戦するということはないと私は思っております」
その時、隣室からノックする音がした。
「これは、失礼しました。実は先客がありまして、隣室で待って貰っているのです」
と、国務卿は言った。
これはいったいどういうことかと、ユウキ大使は思った。最初から誰かを呼んでいて、隣室でこの話を聞かせていたということだ。これはあまりにも礼を失したやり方だった。だが、怒りを抑えて彼は黙っていた。何が起きるのかと言うことの方に興味がある。
隣室から現れたのは、初めて見る人物だった。
「失礼、あまり長くいてはご迷惑かと思い、話の途中で出てきてしまいました。私は帝国軍務卿バレンドン・オルフ・ヴェリウス。初めてお目にかかる」
「こちらは、リドス連邦王国ユウキ大使です」
と、国務卿が紹介した。
「これは、大使と言うにはあまりにもお若い方だ。帝国ではいかがですかな?何か困ったことがありましたら、何でも国務卿にお話しいただけるとよいでしょう」
と、真面目な顔をして言った。
「それはどうも、軍務卿閣下。今の所特に困ったことはありません」
「それは、重畳。国務卿、私はこれで失礼します。何か込み入ったお話しがあるでしょうから」
軍務卿は、軽く会釈をすると部屋を出て行った。
その時、ユウキ大使はなぜかその後ろ姿を見て、気分が悪くなった。
「おや?どうかしましたか?」
「いえ、……」
ユウキ大使は、嫌な予感がした。あの軍務卿の周りにもしかしたら、あの黒い骸骨のミニチュア版がくっついているのではないだろうか。かの骸骨についての説明を聞いた時に、レギオンが言っていたのだ。巨大化した黒い骸骨は小さな骸骨を無数に配下として作り、災いを為す、と。
「それで、お話しというのは何なのでしょうか?」
と、ユウキ大使は単刀直入に聞いた。
「そのことですが、皇帝陛下は今回の事件について非常に不愉快に思っておいでです」
「その不確かな情報で、ですか?」
「そうでしょうか?パトロール艦隊が帰還すれば、分かることですが……」
「帝国の情報で欠けていることがまだあるのではありませんか?先ほども申し上げましたように、かの要塞にはダルシア帝国の代表がいます。我々とは古くからの同盟国です。この同盟は軍事同盟でもあり、我々の艦隊はかの国とともに行動もします。もちろん我が国の艦隊司令部に問い合わせなければ詳細は分かりませんが、少なくとも、ダルシア帝国の代表がいるというのであれば、我が国の艦隊がいてもおかしくはありません」
「ダルシア帝国の代表がいるということですか?」
「そうです」
「その代表の名がお分かりなら、もう一度教えていただけますか?」
「先ほども申し上げましたが、ダルシア帝国の代表は、タリア・トンブンという人物です」
と、ユウキ大使は忍耐強く言った。
国務卿は銀河帝国の皇帝陛下が今回の事件について不愉快に思っていると言って、リドス連邦王国に警告したのだ、とユウキ大使は思った。こうしたことが続けば、パトロール艦隊だけではなく銀河帝国の艦隊が直接動くだろうと暗にほのめかしたと言ってもいい。しかし、まだ今回の事件だけでは動かないだろうと、彼は思った。まだ帝国艦隊そのものを動かすには足りないはずだ。だが、あと一つ大きな事件が起きれば、それはわからない。
実はヘイダール要塞のガンダルフの魔法使いたちは、それを待っているのだ。
国務卿の執務室を辞して宮殿の廊下を案内とともに歩いていると、ユウキ大使は帝国貴族らしき人物とすれ違った。彼は貴族らしい服装を身に付けていたが、その表情は心なしか冴えなかった。
275.
ジェグドラント伯爵は国務卿に呼ばれて宮殿へやって来た。
思えばこの宮殿に来たのは、先年新王朝の皇帝の戴冠式の時だった。実はその前は、貴族でありながらジェグドラント伯爵は宮殿に呼ばれたことはなかった。それだけジェグドラント伯爵家は貴族とはいえ、権力から遠い家柄だったのだ。だが、それが今回は幸いして、王朝の交代時に生き延びることができた。
それに対して、これまで権力の中枢にいた貴族たちはほとんど没落していった。公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵など爵位の上下にかかわらず、大貴族に連なる者達は新しい王朝に従属するのを嫌って反乱を起こしたのだ。裕福な彼らはそれぞれ独自に艦隊を持っていたので、結束すれば権力を握れると思ったのだろう。だが、結果は敗北だった。
ジェグドラント伯爵家は艦隊など持っていないので声もかけられなかった。それに権力にはほとんど縁のない貴族なので、そうした動きには巻き込まれずに済んだのだ。
案内と廊下を歩いていると、従者を連れた若いまだ少年かと見まがうような人物とすれ違った。
宮殿の案内をしている召使に聞くと、彼はリドス連邦王国のユウキ大使だと言った。それを聞いて、ジェグドラント伯爵は振り返った。残念ながらリドスの大使はすでに廊下の曲がり角を回ってしまったので、もう姿が見えなかった。
リドス連邦王国というと、噂に聞く大逆人とその部下が属している国だ。その大使が何用で宮殿に来たのだろうか、とジェグドラント伯爵は興味を持った。最初からそれを聞いていれば、弟のベルンハルト・バルザスの話をしたかったと思ったのだ。彼は、やむを得ないこととは言え、ベルンハルトを伯爵家から勘当したことを本当は後悔していたのだ。
国務卿ガラシア・オル・ドレイシアは、難しそうな顔をしてジェグドラント伯爵を待っていた。
「お待たせしたようだ。先客があったもので、失礼した」
と、国務卿は言った。
「そのようなことはありません。大して待つことはありませんでした。それで、話と言うのはどのようなことでしょうか」
と、ジェグドラント伯爵は下でに出て言った。どうせ、良い話などではないと思われるのだが、出来るだけ印象をよくしたかった。
国務卿は机から書類を取り上げると、
「伯爵は、確か金山をお持ちとか……」
と、話し始めた。
その話を持ち出されただけで、ジェグドラント伯爵は非常に嫌な予感がした。
「前王朝の初代皇帝陛下から下賜された金山のことでしょうか?」
「確か、前王朝では金山を貴族が持つことを禁じてはいませんでしたかな?」
「そうですが、我が伯爵家の金山は初代皇帝陛下から特別に下賜されたということで、許されていました」
「ほう、そうでしたか。ですが、新王朝でも金山に関しては、前王朝と同じ対応をするつもりです。公平を期しているのです。貴族はかなり少なくなりましたが、その中に金山を持つ者はない。どうでしょうか。ジェグドラント伯爵家も、その公平さに随分助けられたのですから、……」
国務卿は、ジェグドラント伯爵の弟、大逆人の部下であったベルンハルト・バルザスのことを指摘しようとしているのだ。
前王朝では身内に犯罪者が出た場合、少なくとも親兄弟は連座する場合が多かった。もちろん、貴族にあっては本人の勘当などが認められるので、それが大幅に緩和されて適用されたものの、賄賂の金額によっては連座する場合もあった。
新王朝では、現皇帝自身がそのような習慣を嫌っていた。そのため連座するということはこれまでなかったのだが、弟ベルンハルト・バルザスが大逆人の部下と言うことは事実なのである。それを伯爵家は勘当することによって逃れたつもりなのだが、その罪そのものが皇帝暗殺未遂という大逆罪なのだ。だから、どれだけ有効かは不明だった。
前王朝においては皇帝弑逆などの大罪になると、当の本人を勘当したとしても、貴族であっても親兄弟にまでその罪は及んだのである。それを考えると、前王朝ならばいつ何が起きてもおかしくはなかった。新王朝もそれに倣うというのかもしれない。
「つまり、伯爵家に罪は及ぼさないが、それを金山で補うというのでしょうか?」
新王朝になってそれは止めたのではないかと考えていたが、どうもそれは甘い考えのようだった。罪の大きさを考えれば、当然なのかもしれないと伯爵は思った。それに伯爵家を潰すのではなく、その資産を奪おうというのだ。
「それはあまりにも、直接的すぎますな。なにも私自身があなたに要求しているのではありません。それに、伯爵もご存じのように皇帝陛下は大変公正明大な方で、その金山の代わりに、別の鉱山をやるがよいと仰るのです」
「あの、それはどこの鉱山でしょうか?」
「もしかしてご存じではないでしょうか?惑星ドゥールカの鉛鉱山です」
「鉛の鉱山ですか……」
金山の変わりがまさか銀山ではないだろうと思っていたが、それでも銅山かそれとも錫かと思ったのだが、鉛の鉱山とはかなり需要のない鉱山だ。
「いかがですかな?」
「……」
ジェグドラント伯爵はすぐに答えることができないでいた。金山と鉛鉱山ではあまりにも違い過ぎる。鉱山から生じる鉛をどれだけ売れば、これまでジェグドラント伯爵家が得ていた収入になるだろうか、と思ったのだ。少なくとも、金なら即座にどこでも帝国クレジットに変えることが出来るが、鉛ではまずその販売人を探さなければならないだろうし、購買人もどこにいるかわからない。要するに現在の鉱山でどれだけの収入になるか皆目見当もつかないのだ。
だが、ここで答えを渋るわけには行かないことを伯爵は感じていた。もし、家に持って帰って考えるなどと答えたなら、家に着いた途端、反逆者として軍に襲撃されるかもしれないのだ。そのような事例は、前王朝では山ほどあったものだ。そうなったら、五百年続いて来たジェグドラント伯爵家は終わりだった。せっかく王朝の交替にも何とか生き残ったと言うのに、金山を出し惜しみしたために一族郎党流刑にでもなればいい方で、伯爵自身などは処刑されても文句は言えないだろう。
じっとりと服の下に冷や汗が溜まっていた。いつまでも黙っているわけにはいかない。
「わかりました。わがジェグドラント伯爵家の金山を、皇帝陛下に献上いたします」
と、伯爵はやっと口にした。
「それはそれは、何と忠誠心にあふれたお言葉か。きっと皇帝陛下もお喜びになるでしょう」
国務卿はそれだけしか言わなかった。ジェグドランド伯爵が献上すると言ったので、代わりの鉱山など要らないと判断したのだ。それとも、最初から代わりの鉱山などなかったのかもしれない。
「わが伯爵家が皇帝陛下にできることは、これだけしかありませんので……」
と、うなだれて伯爵は言った。
翌日早朝から、ジェグドラント伯爵家に宮殿から軍服を着た使者が来た。
何事かと思って、ジェグドラント伯爵家は使者を入れ、客間に通した。そして、慌ただしく着替えた伯爵が客間に入った。
伯爵家の客間に通された使者は、
「皇帝陛下の御言葉をお伝えします」
と、前置きして続けた。
「皇帝陛下に置かせられては、『今回の金山献上の件、誠に忠誠心溢れる行いである。ついては、公平を期して、ジェグドラント伯爵に惑星ガルバルディの鉛鉱山を与える』とのお言葉でございます」
と、述べた。
これを持ってジェグドラント伯爵家とその一族の生命存続の危機は去ったと言ってよい。おそらく、皇帝陛下は金山をすぐに献上した伯爵の決断にこれまであった反逆の疑念を吹っ切られたのだろう、と言うのがいずれ貴族社会で噂されるだろうと思われた。
とは言え、これからジェグドラント伯爵家の収入は格段に落ちることになる。これからどうやって伯爵家を維持すればよいのか、難題は山積みだった。
その日、ジェグドラント伯爵は書斎に家族を集めた。
「どうしたのです、兄上。今日、宮殿から使者が来たそうですが、何かあったのですか?」
と、弟のフェーラリス・オル・ジェグドラントが言った。
「そのことだ。昨日私は国務卿に呼ばれて宮殿へ行って来た。そこで、わがジェグドラント伯爵家の財産である金山を皇帝陛下に献上することにしたのだ」
「何ですって!」
と、フェーラリスが驚いて言った。
「伯爵家の資産は、その金山しかないではないですか……」
「そうだ。だが、そうしなければ我が伯爵家は取り潰されていただろう。それだけではない、私やお前も宮殿の牢の中にいる羽目になっていたかもしれん……」
「そんな……」
「これは、皇帝陛下の意向なのだ。抗うことはできない」
「それもこれも、あのベルンハルトの所為ですね……」
「それをいうな。やつは巻き込まれただけなのだ。大逆事件に……」
伯爵自身は弟の無実を信じているのだ。たとえ、他の連中が何と言おうと、伯爵家としてベルンハルトを勘当しなければならなかったとしても。
「でも、私たちは、これからどうすればいいのですか?」
と、伯爵の妻、アマンダンが言った。彼女はボルトレッド伯爵家の出である。かの家も今回の王朝交代に何とか生き残ることが出来た貴族の一つだった。
「皇帝陛下は、金山の代わりに、鉛の鉱山を下賜してくださった」
「鉛の鉱山ですか?」
と、アマンダンは金山とのあまりの格差に驚いて言った。
「仕方がないのだ。我々としては、これを甘受するしかない」
と、伯爵は言った。
だが、それだけではすまなかった。
ジェグドラント伯爵が家族に、これまで伯爵家の主要な資産であった金山の喪失を告げた翌日のことだ。その日突然宮殿から、再び皇帝陛下の使者が遣わされた。
今度は何事かと思って客間に招じ入れた伯爵に、皇帝陛下の使者は言った。
「皇帝陛下に置かせられては、こちらの伯爵位を返上するようにとのお言葉でございます」
「返上?それはいかなる理由で、なさねばならぬのでしょうか?」
「私は皇帝陛下の御言葉を伝えるためにやって来たのです。イエスかノーか、伯爵にはすぐにお答えいただきたい」
と、無慈悲に軍服を身にまとった使者は言った。
「そ、それは……」
いかに伯爵でも先日の金山と鉛鉱山との交換の上に、まさか爵位まで返上するようなことになるとは考えていなかったので、すぐに答えは口から出てこなかった。
「これは、ここだけの話で聞いていただきたいのですが、皇帝陛下に置かせられては、先日の件だけでは納得されてはおられないように見受けられるのです。ここは、お気持ちを抑えて、出来るだけ早く答えられた方が身のためだと思いますが……」
と、使者は伯爵に同情を禁じ得ないというように言った。
「わかりました。皇帝陛下がそうおっしゃるのであれば、お受けいたします」
「では、皇帝陛下には伯爵がすぐに受領した旨、奏上しに戻ります」
「そ、それでお使者は、我が家は爵位を返上した暁には、どのような見返りがあるとお聞きでしょうか」
と、伯爵は聞いた。
「確か、これは内々のことですが、男爵位を新たに授けるということになると思われます」
「男爵ですか……」
ジェグドラント伯爵は気落ちして男爵と言う言葉を発した時、ジェグドラント伯爵家がまるで音を立てて崩れるような既視感に捕えられた。よろよろとふらついて椅子の背に手を置いた時、現実に耳を弄するような不気味な警報音を聞いたような気がした。
「大丈夫ですか?」
と、使者は伯爵を気遣って言った。彼には何も聞こえなかったのだ。
「いえ、お気遣い無く、男爵なら我が家だけは保てるでしょう」
と、力なく伯爵は言った。
けれども、宮殿からの使者がジェグドラント伯爵邸を去ると、大きな地震が伯爵邸を揺るがした。
「地震か?」
と、隠居した元ジェグドラント伯爵が言った。
揺れだけではなく、元ジェグドラント伯爵は次第に大きくなる不気味な警報音を耳にした。
「いつまで揺れているのでしょう」
と、不思議そうに元ジェグドラント伯爵夫人は言った。
「これは、まさか……」
かつてあの金の竜が言っていたことを思い出したのだ。大きな地震と不気味な警報がするときは、ロギノスの地に災いが降りかかる前兆なのだ、と。これまで地震と不気味な警報音が両方起きたことはない。ジェグドラント伯爵家始まって以来のことだった。
けれどもそれだけでは終わらなかった。その警報音は、遠くヘイダール要塞の魔法使い達の所まで達したのだ。




