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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
42/153

ダルシア帝国の継承者

264.

 ガンダルフの五大魔法使いについては、その通り名はジル星団では知らない者が無いというほど有名な伝説だった。しかし、彼らが大昔から存在する強力な魔法使いであると言うこと以外は、いつの時代でもわからなかった。それが今回、彼らの内の数人がロル星団の銀河帝国に生まれていたと言うことが明らかになった。その名も、今どこにいるのかも、極めて珍しいことに公になったのである。

 これは、ジル星団の惑星連盟で行われたダルシア帝国の継承者の選定に出た各国大使による情報だった。当初は惑星連盟の審問での話や情報は公開せず、各国大使も口止めされるのが習わしなのだが、今回はどうしたことか漏れてしまったのである。しかもそれは漏れたというよりは、計画的に漏らされたと言った方が正しかった。それにその各国大使に付き添った魔法使いや魔術師たちが、密かに彼らの仲間に伝えた情報でもある。

 ガンダルフの五大魔法使がまだ生きているうちに、彼らの情報が分かるというのは非常に珍しいことだった。大抵はガンダルフの五大魔法使いが亡くなってから、あれがガンダルフの五大魔法使いの中の一人だったと伝えられるのである。従って、多くの魔法使いや魔術師たちはガンダルフの五大魔法使いに師事したいと思っても、それはかなわぬ夢でしかなかった。

 それが信じられないことにガンダルフの五大魔法使いが、ロル星団の銀河帝国が百年ほど前に建設したヘイダール要塞にいるというのだ。しかもかなり信頼できる情報筋からのものである。

 その魔法使いの名は、『銀の月』と『大賢者レギオン』であった。

 また、ジル星団で流布された噂では、他のガンダルフの五大魔法使いもこの時代に存在しているという可能性もかなりあるということだった。ただ彼らガンダルフの五大魔法使いの所属は、現在惑星ガンダルフを首都星とするリドス連邦王国であるということもかなり正確な情報として、各地の魔法使いや魔術師、あるいは魔導士と言った者達の情報網に入って来ていた。

 その情報が一番早く漏れ伝えられたのは、惑星連盟の御膝下である宇宙都市ハガロンだった。

 惑星連盟がヘイダール要塞から戻ってきた時には、まだその情報は隠されていた。それが明らかになり始めたのは、ゼノン帝国とナンヴァル連邦の艦隊を中心とする惑星連盟の艦隊がヘイダール要塞の攻略に失敗して、帰還してからであった。


「ねえ、ハガロン?」

と、リドス連邦王国の惑星連盟大使チャーミー・ユウキが、自分の部屋で独り言のように言った。彼女の周囲には誰もいなかった。

(何でしょうか、フェリシア・グリネルダ)

と、宇宙都市ハガロンの中枢であるハガロン自身の意識がTPで聞いた。彼女の姿はどこにも見えない。しいて言えば、ハガロンは宇宙都市自体のことである。そして、その中枢を掌握している頭脳というべきものに宿っている存在のことである。その元はダルシア人の魂だった。このことを知っているのは、このハガロンではチャーミー・ユウキだけである。

「何だかこの頃、ガンダルフの魔法使いの噂がこの都市中に伝わっているようだわ」

 チャーミー・ユウキには、どこもかしこもガンダルフの五大魔法使いの噂でいっぱいのように思える。それがなんともむず痒いのだ。

(そのようですね)

と、あまり興味なさそうにハガロンが答えた。

「一体、何事かしら?しかも、『銀の月』や『大賢者レギオン』の噂まであるわ」

(大丈夫です。『フェリシア・グリネルダ』というガンダルフの魔法使いの噂はまだのようですから)

 もっとも中には気づいている者がいるようだが、今の所ハガロンの巷の噂にはなっていないということだ。

「そんなことを聞いているのではないわ。一体これはどうしたことかと聞いているの?」

(どうも、各国の大使あたりからも漏れているようです。私の意見では、これはゼノン帝国やナンヴァル連邦に対する非難でもあるのではないでしょうか?)

「何に対する非難なの?」

(それは、この惑星連盟を彼らゼノン人やナンヴァル人が支配することに対する非難です)

「そうかしら?」

 もしかしたら、どこぞの国の陰謀ではないかとも思われるのだ。チャーミー・ユウキの所にはすでにヘイダール要塞のダールマン提督――『大賢者レギオン』から連絡が来ていた。要塞が未知の艦隊に偽装した、ハイレン連邦の艦隊に攻撃されたのだ。それだけではない、ダルシア帝国の継承者であるタリア・トンブンの身が狙われたというのである。

 タリアが狙われるのはこれが初めてではない。少し前、惑星連盟のゼノン帝国とナンヴァル連邦の艦隊がヘイダール要塞を襲撃したときにも、同じく彼女が狙われたのだ。それに『銀の月』が要塞で使ったと言われる、一艦隊をも移動できるという新しい魔法の呪文を聞き出そうとしていた。

 今回のハイレン連邦の動きも同じものを狙っていたと思われるが、一つ違ったものがある。それはどうやらこれまで秘密にされて来た、ガンダルフの五大魔法使いの身内に関する情報を掴もうとする動きである。

「あのハイレン連邦の議長は、とんでもない食わせ物だわ」

(では、ハイレン連邦をハガロンからたたき出しますか?)

「まさか、そんなことはできないわ」

 リドス連邦王国の一大使に、そのようなことができるわけはない、とチャーミー・ユウキは思った。リドス連邦王国自体、惑星連盟では大した力は持っていないのだ。

(ただ、彼らのことも同情を感じられないとは言えませんね)

「同情ですって?何に同情するの」

(ハイレン連邦は、古い国々の中でもかなり衰退しています。彼らなりに真剣に生きるすべを考えているのです。その行動が他の国の非難を買うとしても、自分たちを何とかしようと努力しているのです)

「あれが努力ですって?単なる妨害ではないの。このふたご銀河で自分たちだけを守ろうとしているだけだわ。もしこれが、タレス人ならわからないでもない。でも、ハイレン人はタレス人よりも多くのことを知っているはずよ」

 チャーミー・ユウキは憤懣やるかたない気分だった。ハイレン人には裏切られた気がした。昔は、それほどでもなかったのに……と。彼女は、本当は不安だった。こうした問題に悩むのはいつもかなりの年齢を重ねてからのことなのだが、今回はフェリシア・グリネルダでもある彼女の歳はまだ十六である。彼女にはまだ今世の実の両親がガンダルフで生存しているのだ。彼らに危害が及んだら、彼女は冷静ではいられないだろう。

 ヘイダール要塞にいるダールマン提督――レギオンには、もう身内と呼べる者は銀河帝国にはいなかった。だが、バルザス提督――銀の月にはまだ身内がいるはずだ。それを知っているだけに、チャーミー・ユウキはハガロンでの惑星連盟の改革を急がなければならないと考えていた。

 その下準備は着々と進んでいた。元々宇宙都市ハガロンはガンダルフの五大魔法使いである『フェリシア・グリネルダ』の城のある宙域に作ったものである。あのヘイダール要塞にあるレギオンの城と似たようなものだ。もちろん、城の存在自体はレギオンの城の方がかなり古い。

 レギオンの城が作られたのは、あの宙域に多くのジャンプ・ゲートが集中していることに理由があった。かつてジャンプ・ゲートを使った宇宙航行が華やかなりし頃、ジャンプ・ゲートを管理し、外からの侵略を防ぐために作られたのだ。ふたご銀河を守る要でもあった。

 フェリシア・グリネルダの城は、レギオンの城が落とされた場合に次の防衛拠点としてまた後方支援の城として必要性があったのだ。有る時は軍事要塞、有る時は補給物資の集積と発送の拠点であり、開戦時には負傷者の治癒所として活躍したのである。


 チャーミー・ユウキは副官のエンドリン・スランス中佐を連れて、ハガロンの商人たちのいる区画へと出かけようとした。ところが、

「ん?何かしら……」

と言って、彼女は足を止めた。

「どうかしましたか?」

「ヘイダール要塞で困ったことが起きたようだわ。レギオンが私を呼んでいるのよ。ちょっと行って来るわね。中佐、待っていてくれるかしら……」

「それは構いませんが、何が起きたのです?」

「行ってみなければわからないわ」

と言うと、チャーミー・ユウキは口の中で呪文を唱えて、姿を消した。


 ヘイダール要塞の司令室に、チャーミー・ユウキ――『フェリシア・グリネルダ』は一瞬で着いた。これがガンダルフの五大魔法使いの力である。他の魔法使いや魔術師ではこれほどの距離を瞬時に移動する魔法を使うことはできない。

「ごきげんよう。レギオン、私を呼んだのはどんな用かしら?」

と、チャーミー・ユウキは言った。

 司令室を一瞥して、様子が変わっていることに彼女は気づいた。ディポック司令官がいないのである。

「あら?司令官は?」

「この要塞の司令官はわたしだが……」

と、カトル・ファグル司令官は突然現れた少女に、戸惑いながら言った。

「え?ええと、つまり司令官が替わったのね。そうなの。じゃ、初めまして、私は宇宙都市ハガロンのリドス連邦王国大使チャーミー・ユウキです。お見知りおきを……」

と言って、優雅に軽く会釈をしつつ笑顔で挨拶をした。

「私はヘイダール要塞の司令官のカトル・ファグルというのだが、そのリドス連邦王国の宇宙都市ハガロンの大使は何の用で来られたのか?」

 ファグル司令官にしてみれば、突然現れた宇宙都市ハガロンの大使が、見たところかなり若い少女に見えるのだ。そのような人物が大使をしているとは、彼の母国である新世紀共和国の基準ではおよそ考えられないことだ。

「だから、そこにいるレギオンに呼ばれたのです。で、どんな用なのかしら?」

と、チャーミー・ユウキは聞いた。

「今、要塞にハイレン連邦のものと思われる宇宙艇が入っているのだが、行方不明なのだ。それを探してほしいのだ」

と、ダールマン提督――レギオンは言った。

「ハイレン連邦の宇宙艇?やだ、要塞に入られてしまったの?あの連中は気配を消すのが得意なのよ」

「あの、要塞の探知装置に掛からないのです」

と、リーリアン・ブレイス少佐が言った。

「そうでしょうね。厄介な連中だわ。だから私を呼んだというわけね」

「どうすればいいかわかりますか?」

と、グリンが聞いた。

「そうね、ちょっと待ってくれるかしら。集中しないと力を使えないので……」

と言うと、チャーミー・ユウキは黙って目を閉じた。

 ハイレン人は繊細で脆弱だが、だからこそ身を潜めるのが得意なのだ。小さな宇宙艇なら、その乗員が二人で力を合わせて集中して隠れる魔法を使うならば、それを見つけるのは至難の業だ。だが、ガンダルフの五大魔法使いの一人、治癒者の第一人者である『フェリシア・グリネルダ』の緻密な探索を免れるのは、もっと至難の業である。

 『フェリシア・グリネルダ』は、強力な治癒者だった。治癒を行うには体のどこに怪我や病んだ部分があるのかを正確に感知して施術する必要があるので、小さなものを探すということについてはこれほどの適任者はいない。もっとも、宇宙艇は小さなものではない。ただ、隠れるのが得意な連中だから彼女が必要になったのだ。

「なるほど、要塞の損傷部分から入られたのね。それで隔壁を破壊して移動していたというのね……」

と、独り言のように言いながらチャーミー・ユウキはその魔法で捜索を続けた。目に見えない繊細な触手で、要塞をくまなく捜索しているのだ。

「おや?あれは、何かしら?」

と、チャーミー・ユウキは言った。

 要塞の中央通路の天井部分に何かある様な気がした。その通路は隔壁が悉く破壊されて無くなっている。

「隔壁はまだ降りたままにしてあるのでしょうね」

と、チャーミー・ユウキは聞いた。

「はい。第三次戦闘態勢に入ったままです。解除はしていません」

と、ブレイス少佐が言った。

「そう、解除しない方がいいでしょうね。宇宙艇の場所はわかったとして、どう対処するつもりなの?」

「できれば、入ったところまで追い出すことはできないか。あの宇宙艇を破壊する兵器を要塞内で使うわけにはいかないだろう」

と、ダールマン提督が言った。そんなことをすれば、要塞自体が危険になる。

「確かに、要塞内で強力な兵器の使用は許可できない」

と、ファグル司令官も言った。

「大体位置はわかったけれど、あれを移動させるのは難しいわね。第一、あの宇宙艇の目的は?ハイレン人を救出に来たのかしら?それともタリアを拉致するために来たのかしら?」

と、チャーミー・ユウキは聞いた。

「おそらくどちらかだと思うのだが、たぶんタリアを拉致するのに失敗した時の保険だろう。もともと宇宙艇は二隻侵入したのだ。だが、一隻は破壊した。残った方は我々が戦闘態勢を解いて油断した時にタリアを狙って動くのではないか……」

と、ダールマン提督が言った。

「宇宙艇を破壊した武器は?それを移動できないのかしら」

「あれを破壊したのは、グーザ帝国の機動兵器だ。それに搭載されている武器でやったのだ。ただ、要塞内のしかも中央部分でそれを使うのは危険だと思う」

「他に何かないのかしら?」

「我々の兵器では難しいと思う」

と、ファグル司令官が言った。

「そうね。そうだわ、アプシンクスは?彼女なら宇宙艇を破壊する代わりに、宇宙艇の素材を別のものに変えることができるでしょう」

「そうか、錬金術を使って材質を変えれば……」

と、グリンが言った。

「錬金術ではないけれど、似たようなものね」

と、チャーミー・ユウキは言った。そして続けて、

「さて、用が済んだのなら、それじゃ、私はハガロンに戻るわね!」

と言うと、指をパチンと鳴らした音を残して、姿を消した。


265.

 一方、ダールマン提督――レギオンの呼びかけに、アプシンクスは羽を広げてすぐに飛んで来た。

(私に用というのは?)

と、ダールマン提督の心にアプシンクスの心の声が響いた。アプシンクス自身は、司令室の天井付近に浮かんでいた。彼女の姿は、ダールマン提督とブレイス少佐以外には見えなかった。

(ハイレン連邦のあの宇宙艇の外皮を何か別の素材に変えて欲しいのだ)

(お安い御用だわ。何がいいかしら、できるだけ双方が傷つかないようなものがいいわね)

 すると、中央通路を監視していたカメラが、何か大きな物体が通路に落ちるのを映し出した。

「ドン!」

と言う、大きな音がした。

(木材に変えてみたのだけれど、どうかしら。中の連中はけがをしたかしら)

と、アプシンクスが言った。

「フェリスグレイブに、中央通路に至急行くように伝えるんだ」

と、ファグル司令官がすぐに反応して言った。


 銀河帝国辺境パトロール艦隊セルグ・ドブール提督は、彼らの知らないハイレン連邦の艦隊の攻撃を受けていた。

「一体どこの艦隊なんだ?」

と、デルセン・アンムザンド中佐は言った。

「最近ヘイダール要塞には、見知らぬ艦隊が良くいるようですね」

と、ワフレン・レンド大尉が言った。

 彼らはその所属を知らないが、これまでグーザ帝国の艦隊がヘイダール要塞を攻撃するのを見たし、妙な三角錐の艦隊も見た。今攻撃してきている艦は、よく見られる普通の流線型の艦で艦体に太陽をイメージするような図柄が二つ付いていた。その艦隊が突然現れ、銀河帝国の辺境パトロール艦隊を攻撃してきたのだ。こちらからの誰何を受け付けないその艦隊の攻撃で、あっという間におよそ四分の一の艦がやられてしまった。

 そこへまた見たことのない妙な色彩の艦隊がやって来た。こちらは銀河帝国のパトロール艦隊を攻撃するのではなく、流線型の妙な図柄の艦隊を攻撃しているようだった。

 もはや銀河帝国のパトロール艦隊はどちらが敵か味方かわからなかった。いやどちらも敵であると考えた方がいいと、セルグ・ドブール提督は思った。

 妙な色彩の艦隊が流線型の艦隊と銀河帝国のパトロール艦隊の間に割り込んでくるのを見て、

「攻撃は止め、出来るだけ速度を上げてヘイダール要塞から離れるのだ」

と、セルグ・ドブール提督は命じた。

 彼の艦隊はヘイダール要塞の近くにいたので、要塞の艦隊と間違えて攻撃してきたのではないかと思ったのだ。

 すでに艦隊の四分の一ほどがやられていた。これ以上の艦の減少を食い止める必要もあった。この戦闘はいつものように撮影しているので、艦隊司令部に言い訳はできるはずだとセルグ・ドブール提督は考えていた。もう十分迎撃はしたのだ。

 ところが、銀河帝国のパトロール艦隊が反転したところに、あの三角錐の艦隊が現れたのだ。前に調査したときにいた艦隊だ。その時はただ宇宙空間に浮かんでいるだけで、通信に応じることもなく、それに攻撃もすることもなかった。だから、

「何だ、あの艦隊は大丈夫だ。無視して行け!」

と、セルグ・ドブール提督は命じた。

 三角錐の艦隊は前に発見したときは攻撃をしかけなかったので、今度もまた攻撃しないだろうと考えたのだ。

 だが、彼らは知らなかった。ヘイダール要塞のすぐ近くに現れた同型の艦隊は要塞の駐留艦隊を攻撃してその半分がやられたのを。

 三角錐の艦隊の撃った主砲は真横に光る刃だった。あっという間に銀河帝国の残った艦の半分がやられていた。旗艦も無傷ではなかった。

「どうしたことだ……」

 茫然としてセルグ・ドブールは唸った。同時に身の危険を感じて逃げようとしたが、近くにいたワフレン・レンド大尉が倒れているのを見た。何が起きたが分かるのに数秒かかった。

「レンド大尉、どうしたのだ……」

 旗艦の司令室はすでに火が回っていた。デルセン・アンムザンド中佐は火を消すために走り回っていた。ほどなく司令室の火は消えたが、すでに旗艦が航行不能に陥っているのがわかった。

「提督、大丈夫ですか?」

と、アンムザンド中佐の声が聞こえた。

「これは、かなりの傷だ。レンド大尉も。すぐに軍医を呼べ!」

と、命じるアンムザンド中佐の声がドブール提督には遠く聞こえていた。


 銀河帝国の辺境パトロール艦隊が三角錐の艦隊にやられるのを見て、

「しまった。向こうにもいたのか……」

と、メイヤール提督は舌打ちした。すぐにも救援に行きたいのだが、ハイレン連邦の艦隊を何とかしなければならない。

 その時、

「要塞から通信です」

と、通信員が言った。

「わかった」

 ダルシア艦の司令室前方の大スクリーンにファグル司令官の顔が映った。

「銀河帝国のパトロール艦隊がやられたようだが、行けるか?」

「行きたいのですが、すぐにはいけません。ハイレン連邦の艦隊がいるので……」

「わかった。ダールマン提督が他の連中をあの銀河帝国のパトロール艦隊へ救援にやると言ってくれた。メイヤール提督はハイレン連邦の艦隊をそこに釘付けにしておいてほしい」

「了解しました」

 釘付けにすると言うのも、案外難しいものだった。だが、ダールマン提督が銀河帝国のパトロール艦隊を救援に誰をやるつもりなのか、わからなかった。要塞の艦隊は要塞近くにいるはずだし、ダルシアの艦隊は自分が指揮している。他に何処の艦があるというのだろうか?もしやリドス連邦王国の艦隊を使うつもりなのだろうか、とメイヤール提督は思った。

 それは艦隊ではなかった。例の白金銀河から来たプロキシオン号である。


 ヘイダール要塞のファグル司令官から要請を受けたプロキシオン号は銀河帝国の辺境パトロール艦隊を救援に駆けつけた。

「あの一隻の艦だけで大丈夫なのか?」

と、ファグル司令官は心配そうに言った。

 相手は少なくとも百隻は超える艦隊なのだ。一隻だけで対応できるとは思えなかった。

「あの艦の攻撃兵器なら対応できるはずだ。心配ない」

と、ダールマン提督は請け合った。


 プロキシオン号はステルスを解除すると、速度を上げて三角錐の艦隊に後ろから近づいた。そして、一定の距離を取ると、例の兵器を射出した。

 それは一つ一つが黄色く光って見える兵器だった。その数は非常に多いので光の大群が移動しているように見える。それが対象物に接触すると爆発的な反応を起こして破壊するのだ。その爆発力は核爆発に近い威力だった。

 プロキシオン号から出た光の大群は三角錐の艦隊に急速に近付き、次々にその艦体に衝突するように接触した。すると、艦に接触した光から爆発が伝わるように次々に爆発した。

 だが、妙なことにどれだけ銀河帝国のパトロール艦に近付いてもその光は接触しようとはせず、逆に避けるように移動した。その動きはまるで意志を持っているような気がした。ただ誘導ミサイルとは違うのは、敵の三角錐の艦隊が光の大群の攻撃にあって一時散開したとき、まるで何か考えるかのように光の大群は集合したことだ。その後、まず近くの三角錐の艦を目指して移動し始めたのである。

 三角錐の艦隊は光の大群に押されて散開した後再び集合すると、突然ワープに移行して姿を消した。

 光の大群は敵を失うと、今度は発射されたプロキシオン号の射出孔へと戻って行った。


 ダズ・アルグ提督指揮下の要塞の艦隊は三角錐の艦隊に半数が航行不能にされていた。

 だが、バルザス提督を救援に来たダルシア人のライアガルプスによって三角錐の艦隊は急にその動きを止められた。

「どうしたんだ?」

と、ダズ・アルグ提督は言った。もうだめかと一時は思ったのだ。

「わかりません」

と、副官のビイグル・セス少佐が言った。

「要塞から通信です」

と、通信員が言った。

「わかった、スクリーンに出してくれ」

 司令室のスクリーンにファグル司令官の顔が映った。

「大丈夫か?今、ダールマン提督と替わる」

「敵の艦隊にはライアガルプスとバルザス提督がいる。ライアガルプスが攻撃できないように制御しているから、その場所を動かさないようにしてほしい」

「あの、ライアガルプスというのは?」

「昔いたダルシア人だ。その話は後だ。ともかく、損傷した艦を極力救助してくれ。敵の艦隊は心配しなくていい」

 ダズ・アルグ提督はライアガルプスとタレス人のアリュセアのことを、タリアから聞いて知っていた。ということは、昔のダルシア人の幽霊か何かが助けてくれたということなのか、と彼は思った。


 三角錐の艦にいるバルザス提督は操縦盤の前に立っていた。

(この艦と他の艦とのコンタクトを切断した。だから、たぶんその操縦装置で動かせると思う)

と、ライアガルプスが伝えて来た。

 三角錐の艦についてはバルザス提督はあまり知らないが、この操縦装置は見たことがある気がした。

「これはハイレン連邦の艦の操縦装置に似ているな」

(どういう経緯かわからないが、艦の形はおそらくハイレン人が以前接触したふたご銀河外の文明に起因しているのではないか)

と、ライアガルプスは自分の印象を伝えた。

「だが、艦の中は自分たちの艦と同じつくりになっているわけか……」

(他の文明の技術を理解するのはそう簡単なことではない)

「だが、この艦の攻撃兵器はまだみたことのないものだ。ということは、この形状の艦を造った文明の武器なのではないか?」

(そうかもしれない)

 バルザス提督は慎重に操縦装置が使えるかどうか試してみた。ハイレン人の扱えるものなら銀の月にも使えるのだ。

「操縦装置がロックされている」

(なるほど、おそらくこの三角錐の艦隊をコントロールする旗艦があるのだろう)

「それなら、操縦装置のロックを解除するだけだ」

と言って、バルザス提督は目を閉じて操縦装置の上に片手を置いた。微弱な電流がその手から操縦装置の中へ入り、最終的には装置をロックするプログラムまでたどり着いた。そして、そのプログラムを無効にするために細い強力な電磁気を送り込んだ。

 ヘイダール要塞の近くにいた三角錐の艦隊は、バルザス提督の乗った艦を一つ残してワープ航法に移行して姿を消した。それは、銀河帝国の辺境パトロール艦隊を攻撃していた艦隊が姿を消したのと同時だった。

 要塞の艦隊の前に、バルザス提督の乗った三角錐の艦だけが残っていた。


266.

 ヘイダール要塞は、三角錐の艦隊がいなくなったと、ダズ・アルグ提督の艦隊から報告を受けた。

「通信です。あの残された三角錐の艦からのようです」

「誰からだ?」

と、ファグル司令官は聞いた。

「バルザス提督からです」

「何だと?」

 なぜそんなところにいるんだ、とファグルは思った。

「無事か?」

と、ダールマン提督が一言言った。

「ええ。それで、この捕獲した艦のことですが要塞の流体金属の中に入れたいと思うのですが、どうでしょう」

と、バルザス提督は言った。三角錐の艦を後で研究や調査に回すためだ。

「確かにあの艦の大きさでは、駐機場には入らないと思います。ですが、流体金属の中に入れては砲塔の邪魔になるのではありませんか」

と、グリンが言った。

「それは邪魔にならないように気をつけます。この艦が要塞の外にあると目に付き過ぎると思うので、どうでしょうか?そんなに長い間ではありません。いずれこの艦は別の場所に置くようにするつもりです」

「わかった、いいだろう」

と、ファグル司令官が許可を出した。

 その時だった、銀河帝国の辺境パトロール艦隊の提督代理と名乗るデルセン・アンムザンド中佐から通信が来た。

「救援を乞う。所属不明の三角錐の艦隊に攻撃され、多数の艦が損壊した。セルグ・ドブール提督は重傷を負った。従って現在私が艦隊を指揮している」

「了解した。すぐに救援の艦を送る」

と、ファグル司令官は言った。

「まて!要塞の政治代表に断らなくていいのか?それにどの艦を送るのだ?」

と、ダールマン提督が聞いた。

「ブレイス少佐、政治代表の部屋に連絡を入れてくれ!」

と、ファグル司令官は言って、しばらく考えると、

「そうだな、ダズ・アルグ提督に至急無傷の艦を出すように言ってくれ」

と、付け加えた。

「それは、ちょっと待ってほしい」

と、ダールマン提督が言った。

「どうしたのだ?帝国の艦隊を助けるのは反対なのか?」

と、驚いたようにファグル司令官は言った。

「そうではない。あの艦には危険な異星人がいる可能性がある」

「だが、大した数ではあるまい。それに提督が言っていたその異星人が入っている可能性があるというセルグ・ドブール提督が重傷を負ったというではないか。それなら危険は少ないのでは?」

「いや、だからこそ危険なのだ。連中はそう簡単には死なない。ましてセルグ・ドブールに寄生したバウワフルがいた場合、彼が重傷を負ったために、別の宿主に移った可能性がある」

「つまり、セルグ・ドブール提督から出て、別の人間に寄生したというのですか?」

と、グリンが言った。

「そうだ。それがもし通信してきたデルセン・アンムザンド中佐と名乗る者だったら、救援に入ったこちらの者に移る可能性もある」

「では、どうすればいいのだ?」

「あの帝国艦隊の近くに、白金銀河から来たプロキシオン号がいる。その乗員をこちらの艦に乗せて、救援に向かわせるというのはどうだ?」

「そのプロキシオン号の者達はバウワフルという異星人の扱いに慣れているということか?」

と、ファグル司令官は聞いた。

「元々、バウワフルは白金銀河から来たのだ。今でも彼らの銀河では支配種族として君臨しているのだ」

と、ダールマン提督は言った。

 まだ完全にダールマン提督の話を信じているわけではないが、できるだけ危険を避けたいというのがファグル司令官の基本の考えだった。

「わかった。そうしよう」

「そうと決まったら、プロキシオン号にも連絡をさせてくれ」

 プロキシオン号のオルフス・リガル准将は要塞からの連絡に、快諾した。

「わかった。その艦が来たら我々の中から人数を出そう」

と、ダールマン提督に言った。


 銀河帝国の辺境パトロール艦隊を救出に向かう、要塞艦隊から来た巡航艦デラの司令室にプロキシオン号から数人の人々が転送されて来た。

 ダズ・アルグから話は聞いていたものの巡航艦デラの艦長ユーベル・スンザー少佐は、突然現れた者達を警戒していた。姿は自分たちとあまり変わりないので多少は安心したのだが、異星人と言うことでは変わりない。

「私はプロキシオン号から来たファン・アルラン少佐です。医者でもあります」

と、指揮官らしき女性が言った。

「私はこの艦の艦長ユーベル・スンザー少佐です」

「あの帝国の艦にはどのくらいで着くのですか?」

「あと十分程です」

「では、我々はあなた方のシャトルにそれぞれ一人ずつ乗ることになります」

「一人ずつですね」

「何隻で行くのですか?」

「この巡航艦は一隻で、シャトルは二隻です」

「それだけですか?」

と、ファン・アルラン少佐は失望したように言った。もっと救援に来ると思っていたのだ。

「わが艦隊も、向こうで三角錐の艦隊に攻撃されて、無傷の艦が少ないのです。ただし、巡航艦なので収容人数はおそらく足りるでしょう」

「わかりました。仕方がありません。それに、その方が安全かもしれません」

「ではシャトルに二人ずつ乗れますね」

 プロキシオン号から来たファン・アルラン少佐も含めて四人の異星人は、シャトルに乗り合わせてまず帝国の旗艦ガルドルへ行った。もう一隻のシャトルは他の救助可能な艦へ行った。負傷者の収容に掛かったのは数時間程だった。三角錐の艦隊の攻撃で、ほとんどの艦は生存者が見込めない程破壊されていたのだ。セルグ・ドブール提督やワフレン・レンド大尉などはすでに死亡していたし、他の艦にも負傷者が多数いるので、そちらを優先して巡航艦デラに運んだ。まだ生きている負傷者が要る見込みのない艦は、最初から除外した。ところが最後にセルグ・ドブール提督などの遺体を運ぼうとした時、突然帝国艦隊旗艦ガルドルが動き始めた。

「どうしたんだ!」

と、デラの艦長スンザー少佐が叫んだ。

「わかりません。でも確かに動きつつあります。一隻だけではありません。多少損傷していますが、まだ動ける艦があと十隻ほど、歩調を合わせて動いています」

と、通信と探知の両方を受け持つ士官が言った。


「何が起きたのだ?」

と、ファグル司令官が言った。

 要塞のスクリーンにも、小さくなるが、銀河帝国の辺境パトロール艦隊の残存艦が動いているのが映ったのだ。

「こちらは巡航艦デラの艦長スンザー少佐です。何が起きているのかわかりません。あの動いている艦には生きている者がいないと思われます」

「ならなぜ、動いているのだ?」

「司令官、セルグ・ドブール提督はどうなったのか聞いてみて欲しい」

と、ダールマン提督が言った。

「スンザー少佐、あの艦隊の旗艦にいたはずのセルグ・ドブール提督はどうしたのかわかるか?」

「ドブール提督ですか?彼は死んでいたと報告にあります」

「死んでいただと?そうか、それで動いたのか……」

と、ダールマン提督が呟いた。

「一体何が起きているのかわかるのかね、ダールマン提督」

「おそらく、ドブール提督は死んではいなかったのだろう」

「それは、報告が間違っていたということか?」

「いや、報告が間違っているのではなく、ドブール提督が死んでいるように偽装していたということだ」

「そんなことをして……、その何が目的なのだ?」

「我々から逃げること、そして帝国に戻って、ヘイダール要塞の連中が攻撃したために艦隊が全滅したと報告するためだ。しかも、異星人まで使ってと……」

「そんなことをして、どうするのだ?自分たちが任務に失敗したことを報告するために戻るというのか?死んでいると偽装までして……」

「そうすれば、皇帝をこのヘイダール要塞に来させる理由を一つ増やすことができる」

「皇帝をこの要塞まで引き出すのが目的だというのか?」

「この要塞を落とすことができる者は、他にはおるまい」

 おそらく彼らは、この要塞へ皇帝をおびき寄せるために、帝国の大逆人が要塞に協力していることを知らせ、ジル星団の中の国がこの要塞を自分のものにして、いずれ帝国へ侵攻する手立てとしていると思わせたいのだ。

 ファグル司令官は、何か大きな企みが進んでいるのだと感じた。これは銀河帝国と元新世紀共和国との戦争ではない。ダールマン提督言うことが本当ならば、その時この要塞で戦われるのは銀河帝国とどこの勢力なのだろうか?

「だが、ここで戦うのは、その皇帝と戦うのは誰なのだ?」

と、ファグル司令官は聞いた。

「それはおそらくリドス連邦王国になるだろう。連中はそうなるように目論んでいるのだ」

「何のために、……」

「それは、このふたご銀河全域を手中にするためだ」

「それは、ジル星団の国々による銀河帝国への侵略なのか?」

「簡単に言えばそうなる。だが、そこまで露骨に知られることは連中の本意ではない。最初は、リドス連邦王国を悪者にして、それを皇帝に討たせようとするだろう」

「では、それを企んでいる連中とはどこの誰なのだ?」

「それは、簡単には答えられない。ナンヴァル連邦やゼノン帝国がそうだろうし、ハイレン連邦もそれに一枚かんでいるかもしれない。そこにはあの未知の三角錐の艦隊を造った連中も入るだろう」

「まだそれは、はっきりとはわからないということか」

「そういうことだ。だが、確実なのは、いずれ、銀河帝国の皇帝陛下はこのヘイダール要塞を落とすために自ら艦隊を引き連れてやって来るということだ」

と、ダールマン提督は言った。

 それは、ダールマン提督、すなわちガンダルフの五大魔法使いの一人である『大賢者』レギオンが望んでいることだった。



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