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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
41/153

ダルシア帝国の継承者

261.

 ヘイダール要塞の貴賓室のハイレン人たちは、要塞自体が震えるのを感じた。

「そろそろ、来たようですね」

と、ハイレン連邦のバルーンガ議長の側近の一人が言った。

「うまく行っているようだな」

と、満足したように議長は言った。

 だが、この二人以外の者達は不安そうに互いに身を潜めていた。この二人以外は何が起きているのかわかっていないのだ。


 二隻の敵の宇宙艇は、要塞の通路にちょうどうまく入り込める大きさだった。先頭の宇宙艇が隔壁を破壊し、進んで行く。隔壁を問答無用で破壊して移動する宇宙艇は、要塞のことなど何とも思っていないのだろうか?それは、要塞を占領するつもりはないという意思表示なのだろうか、それとも中から要塞を破壊すると言う脅しなのだろうかとファグル司令官は思った。

「宇宙艇はどこへ向かっているんだ?」

と、ファグル司令官が聞いた。

「二隻の宇宙艇は要塞の中央通路の隔壁を破壊しつつ、移動中です」

「何だって二隻だと、一隻ではないのか?」

「そうです。あ、二隻が別れました。一隻は貴賓室方面に向かっていると思われます。もう一隻は、医務室方面に向かっています」

 スクリーンには要塞の外の艦隊が映っていた。まだそちらには動きはなさそうだった。

「一隻はやはり貴賓室のハイレン連邦の連中を迎えに来たのだろう。そして、もう一隻はおそらく医務室にいるタリア・トンブンを捕えに行ったのだろう」

と、ダールマン提督は言った。

 宇宙艇の行動から、要塞を破壊することも辞さないことは明らかだった。

 考えてみれば、ハイレン連邦は人口が百万にも満たないはずだ。億単位の人口を持つゼノン帝国やナンヴァル連邦とは違う。このヘイダール要塞を占領するような人数は派遣することができない。だから、この要塞を温存する気は毛頭ないのだとダールマン提督は思った。


「宇宙艇がこちらに向かっているそうだ」

と、魔術師のウル・ガルが言った。ダールマン提督――レギオンが知らせて来たのだ。

「どこの宇宙艇なの?」

と、タリアが聞いた。

「レギオン殿の言うには、ハイレン連邦の宇宙艇だそうだ」

「何でハイレン連邦の連中が来るの?」

「さあ、それはわからない。ともかく、ここに居ては危険だ」

「でも、この石になった二人はどうするの?」

「私では元に戻せない。何しろこれは闇の魔法を使ったからだ」

 正確には、闇の魔法を使った魔術師の力が、ダルシア人のアプシンクスによって跳ね返されたからだった。だが、タリア・トンブンはそのことを全然覚えてはいなかった。それに元に戻すこともできない。

「そんなことはどうでもいいことだ。これを見て、この連中を助けようとするとは思えない。宇宙艇はあんたを狙ってきているんだからな……」

と、ナッシュガルが言った。

 こうしている間も宇宙艇は医務室に向かっていた。

「確か、あなたはゼノンの魔術師だと言っていたわね。宇宙艇が来たらあなたの魔法で何とかならない?」

と、タリアがウル・ガルに言った。

「冗談を言うな。私にはそんな魔法は使えない。だいたい、宇宙艇の武器と遣り合えるような魔術師はそういるものじゃない」

 ウル・ガルの知る限り、宇宙艇や宇宙船と直接遣り合うような魔法の呪文はないのだった。それはどこの国でも同じだ。だから宇宙で使われる魔法は、主砲の威力を増幅させるような呪文を使うのが主流だった。力のある魔法使いなら、それに加えて一隻の宇宙船のバリアを強化することもできる。だが、宇宙船の主砲そのものになるような呪文は、今まで使われたことはない。もっとも魔法の本場である、ガンダルフの五大魔法使いはどうなのかは彼にもわからない。

「あら、だってバルザス提督は艦隊を移動させるような魔法を使っていたわ。だから、あなたも何か使えるんじゃないの?」

 攻撃できなくても、宇宙艇をどこかへ、できれば宇宙空間へ移動させることができればいいのだ。

「私はできない!」

と、はっきりとウル・ガルは明言した。彼の魔術の力は、ガンダルフの五大魔法使いとは比較にならないからだ。

「それは、困ったわ。どうしたらいいの?」

 その時、翼をたたむような音がした。それは、タリアだけが聞いたのだった。

「何の音?」

 だが、ウル・ガルもナッシュガルも何も聞こえなかった。

(間に合ったようね)

とTPを使って言ったのは、アプシンクスだった。

 タリアはアプシンクスを初めて見た。その大きさは見上げるほどで、金色に光っていてとても美しい。それに竜だと言う割には、あまり怖そうな感じはしなかった。

「竜だわ。ダルシア人なの?」

「ダルシア人?どこにいるんだ」

と、ウル・ガルやナッシュガルはあたりを見回して言った。彼らにはダルシア人であるアプシンクスは見えなかった。たとえ魔術師であっても、霊を見る能力を持っているわけではない。

(ハイレン人の宇宙艇がタリア、あなたを捕えに要塞の中にやって来ているの)

「どうすればいいの?私には宇宙艇と遣り合うような力はないわ、彼らだってそうよ」

と、口に出してタリアはウル・ガルとナッシュガルを指さした。彼女の出す言葉と心の中の思いは同じなので、アプシンクスにもわかった。

(そうね。大抵はそんな力はない。魔法使いだって、魔術師だって、特殊能力者だってそうだわ。でもね、武器はなくても、智慧を使えばいいのよ。私に考えがあるわ)

 アプシンクスは近づいてくる宇宙艇がどこにいるかわかっていた。彼女の透視能力はしっかりと宇宙艇の姿を捕えていた。隔壁を破壊しつつ移動しているので、スピードはそれほど速くはない。だから時間はまだある。

(タリア、目を閉じて、そして強く念じるのよ。すべての元、それを見るように。物質もガスも電気も光も、色々なものや力の元は、とても小さな粒子からできている。それは知っているでしょう。例えば素粒子とでも呼ばれるもの。私たちはそれよりももっと小さくて、すべての素粒子の元となる『霊子』と呼ぶものを知っている。あなたはそれを見ようと念じて……)

 タリアはアプシンクスのことを全部理解したわけではないが、素粒子というものがどんなものか、ある程度は知識があった。すべての元を見たいと念じてみた。

(何か見える?)

「ええと、何か小さな白く光るものが見えるわ」

(では、次に要塞の隔壁を思い出して、)

と、アプシンクスはタリアの思念を誘導して行った。

「要塞の隔壁、壁のことね」

(私が見せる粒子の集合体をその隔壁の中に存在すると念じて見て!)

「粒子の集合体?」

 何のことだろう、とタリアは思った。けれども、素直にアプシンクスの言う通りにした。それはとても美しい粒子の集合体だった。欠点のない集合体と言う思いが浮かんできた。


 すると、隔壁を破壊し粉砕して移動していた宇宙艇の動きがピタリと止まった。


「変です。司令官、要塞内を移動していた宇宙艇の動きが止まりました」

と、要塞内の宇宙艇の動きを監視していた通信員が言った。

「それは、どうしてだ?」

「さあ、わかりません。ですが、隔壁の破壊が止まっています。もしかして、破壊できなくなったのかもしれません。だから、動きが止まったのです」

 ダールマン提督は何が起きたのか理解した。隔壁の破壊が止まったのは、宇宙艇のエネルギーが消耗したせいではない。隔壁の素材の構造が変わったからだ。

「なるほど。それは、アプシンクスがやったのだと思う」

「アプシンクス?」

 ファグル司令官にはその名に記憶はなかった。

「そうだ。タリア・トンブンのことだ」

「つまり、それはどういうことですか?」

と、グリンが聞いた。

 グリンはアプシンクスがタリアのことであり、かつて存在したダルシア人であることは知っていた。

「ダルシア人は魔法使いではない。だが、大昔の最初のガンダルフの人々が使っていた力が使えるのだ。おそらくそれを使って、あの宇宙艇が破壊できない素材の隔壁に変えたのだ」

と、ダールマン提督は言った。

「それは、魔法ではないのか?」

と、ファグル司令官が言った。

「似ているが、魔法ではない。呪文を使ってするものではないし、呪文でもなかなかできないことだ」

「まるで、錬金術のようですね」

と、グリンが言った。

 ファグル司令官は理解できない、と頭を掻いていた。

「司令官、宇宙艇がまた動き出しました。今度は反転して、来た道を引き返しています」

「フェリスグレイブに連絡を、敵が引き返してくると伝えろ!」

と、ファグル司令官は命じた。

 宇宙艇は進めなくなったので、戻ることを選んだのだ。


「どうやら、我々の計画は失敗したようだ」

と、ハイレン連邦の議長が静かに口にした。

 タリアを拉致することには失敗したと言っていい。だが、もう一つの企みはまだどうなるかわからない。それにまだハイレン連邦の企みだとばれたわけではない。このままうまくこの要塞からでることは可能だろう、とバルーンガ議長は踏んでいた。だが、不安がないわけではない。何しろ相手はあのガンダルフの五大魔法使いの『大賢者』レギオンなのである。

「議長、本当に大丈夫なのでしょうか?」

と、不安そうに固まって心配していた側近たちが聞いた。

「おそらく、大丈夫だろう。たとえ、この計画が失敗しても、いくらでも言い訳はできるのだ」

 それでなければ、始めからこんなところには来ない、とバルーンガ議長は思った。


 フェリスグレイブとリイル・フィアナは敵の宇宙艇をこれ以上要塞内に入れないように、グーザ帝国の機動兵器を使って攻撃をさせていた。アプシンクスが見つけた武器はかなり強力なので、要塞を破壊しかねないので出力を落として攻撃をさせていた。それでも宇宙艇を一隻ずつ落とすのには十分だった。また、フェリスブレイブの部下や元海賊達を散開させて、他に隠れている敵がいないか捜索と掃討を続けさせていた。

「中に入った宇宙艇が戻って来る」

と、フェリスグレイブが言った。

「タリアはどうしたのかしら、捕まったの?」

と、リイル・フィアナが聞いた。

「いや、隔壁を破壊できなくなったので、戻って来たらしい」

「へえ。アプシンクスが間に合ったのね」

「どういうことだ?」

「それは後で、来るわよ!」

 要塞内への通路から一隻の宇宙艇が飛び出て来た。

 だが、グーザ帝国の機動兵器の武器が命中し、宇宙艇は飛散した。

「変ね。もう一隻はどうしたのかしら?」

 宇宙艇が戻って来るというので、中へ入った二隻とも戻って来たと思ったのだ。


 司令室にフェリスグレイブから連絡が入った。

「宇宙艇が一隻行方不明だと?」

と、ファグル司令官は言った。あんな大きなものがわからなくなるはずがない。

 ダールマン提督は妙だと思っていた。あの二隻はタリアとハイレン連邦の議長を救出に来たのだとばかり思っていたが、どうやら議長は宇宙艇で救出されなくても大丈夫だと思っているらしい。では、要塞内に入ったもう一隻の宇宙艇はどこに行ったのか?

「探知できないのか?」

と、ファグル司令官は言った。

「わかりません」

「ダールマン提督、あなたはどうですか?」

と、グリンが聞いた。

「いや、今やっている所だ。ここの探知装置に引っかからないというのが妙だ」

 ダールマン提督――ガンダルフの『大賢者』レギオンは、その行方不明の宇宙艇のことが妙に気になっていた。


262.

 エルシン・ディゴ政治代表の一行は司令室を出ると、自分たちの部屋に戻ろうとして立ち止った。

「どうかしましたか?」

と、ギアス・リードが聞いた。

「いや、部屋に戻っても危険は同じだ」

 本当は宇宙船に乗ってこの要塞から逃げ出したいのだが、要塞の周囲に敵の艦隊がいる以上、それもできない。

「では、どこへ行ったらよいのです?」

と、フランブ・リンジ・副代表が言った。

「何かいい考えはないか?」

と、珍しくエルシン・ディゴが聞いた。

「難しいですね。この要塞のことも我々にはあまりよくわかりませんし、ただ、安全なところと言えば、あそこはどうでしょう。前に司令室にまで敵が入ってきた時も、あそこは無事でしたし……」

と、ギアス・リードが言った。

「どこのことを言っているのだ?」

「バルザス提督の宿舎です」

「しかし、中の連中が我々を中へ入れるかどうか……」

 バルザス提督はどうもあのディポック提督と仲が良さそうなのだ。あの時もディポックはバルザス提督の宿舎にいた。それにそこにいるのは、ディポックだけではない。リドス連邦王国の者も、ナンヴァル人も妙な連中もいる。返って不安になりそうだと、エルシン・ディゴは思った。

「ですが、このまま通路にいても危険です。あそこなら、案外安全かもしれません」

と、ギアス・リードは勧めた。

「そうかもしれませんわ。確かに妙な連中がいることは確かですけれども、だからこそ、安全かもしれません」

と、フランブ・リンジも言った。

 とは言え、続いて起きた警報で通路の隔壁が降りて来たので、慌てて彼らはとりあえずバルザス提督の宿舎に向かった。そちらの方が近いと思ったのだ。


 バルザス提督の宿舎では現在バルザス本人は不在で、おまけにディポック提督やナンヴァル人のマグ・デレン・シャも身体をそこに残して出かけている所だった。

 扉を叩く音に、部屋を守っているナル・クルム少佐が誰何した。

「誰だ?」

 エルシン・ディゴは扉が閉まったままなので、インターホンを通じて言った。

「私は要塞の政治代表であるエルシン・ディゴだ。バルザス提督はいるだろうか?」

「いや、いま提督は不在だ」

「そうか、では中で待たせてもらいたい」

「それは困る」

「しかし、今は要塞の中だとしても、いつどこで敵に攻撃されるかわからないのだぞ。中へ入れてくれ!」

「お断りする!」

と、にべもなくクルム少佐が言った。

「私は要塞の政治代表だ。私に何か起きてもいいというのか?」

「政治代表なら、この緊急時にいる場所があるであろう。執務室にいなければ、何かあった時に他の者が困るのではないか?」

「それは、私がここに居ると言えば済むことだ」

「では、バルザス提督が戻ってきたら政治代表のところへ行くように話をする、それでいいだろう」

 今ここで、エルシン・ディゴに入って来られたらクルム少佐は困るのである。動かないディポック提督を見られたくないのだ。それにバルザス提督にも、ここを守るように言われているのだ。

「エルシン・ディゴ政治代表が中へ入っては困ることがあるのだろうか?」

と、今度はギアス・リードがエルシン・ディゴに替わって言った。

「この緊急時に、政治代表がバルザス提督の宿舎に来ることが妙なことだ。大人しく、自分たちの部屋に戻るがいい」

 極めて冷静なクルム少佐はギアス・リードの話には乗らなかった。

「なるほど、この警報が鳴り響いている時に、要塞の政治代表を入れぬということは、何かお前たちは良からぬことを考えているのではないか?」

と、重ねてギアス・リードは挑発した。

「そのような戯言は、この事態が収拾してから言いにくるがよい」

 クルム少佐の言葉は、まるで彼がここで一番立場が上であるようだった。いつものように、彼には地位や階級など何の効き目もないのだ。

「ということは、私の言ったことを認めるということではないか?」

と、必死になってギアス・リードは言った。

「隔壁が降りてきているこの緊急時に、そのようなことはどうでもよいことだ。言いたいことがあれば、そこで好きなだけ言うがいい……」

と、クルム少佐は何度も『この緊急時に』と言う言葉を使った。それは、バルザス提督の宿舎に逃げ込もうなどという、この不届きな連中を自省させるためでもある。しかし、残念ながらそれは一向に相手には伝わらなかった。外の連中は、クルム少佐の冷ややかな言葉に対して、何度も、入れてくれと懇願していた。

 その時、クルム少佐の肩を軽く叩くものがあった。振り返ると、そこにディポック提督が立っていた。

「あっ!」

と、珍しくクルム少佐は驚きの声を上げた。いつ、身体に戻って来たのだろうか?要塞に危険が迫ったので急いで戻って来たのかもしれない。

「気の毒だから、彼らをここへ入れてあげてくれないか?」

と、ディポック提督は静かに言った。

「提督がそう言うのなら……」

と、気を取り直してクルム少佐は外の連中に、

「そこまで言うのなら、仕方がないだろう。ただし、この部屋はバルザス提督の部屋だと言うことを忘れないように」

と、勝手な振る舞いをするなと釘を刺した。

 扉が開くと、エルシン・ディゴやフランブ・リンジ、そしてギアス・リードが慌てて入って来た。

「まったく、何たることだ!」

と、エルシン・ディゴ政治代表が憤懣やるかたない表情で言った。この状況に不満を持っていることをアピールしたのだ。

「で、何の用で来られたのか?」

と、クルム少佐が冷ややかに聞いた。

「我々は、危険を感じて知らせに来たのだ」

「そのようなことは、要塞内の通信で済むことだ。わざわざ要塞の政治代表が自分で足を運んで知らせに来るほどのことはあるまい」

「そ、それは、そうディポック提督に話があったのだ」

と、ディポック提督の姿を認めて、取って付けたようにエルシン・ディゴは言った。

「私に話ですか?どんなことでしょうか?」

 ディポック提督がバルザス提督の部屋にいるということは、エルシン・ディゴ達は知らないはずだった。

「この要塞の危機に、君は何をやっているんだ?なぜ、司令室に来ないのだ?」

「もう私は、要塞の司令官ではありませんし、何の役職にもない者がのこのこと司令室に出向いて行ったら、ファグル司令官の邪魔になると考えたのです」

「それは、実に適切な判断だ」

と、返事を乞われてもいないのにクルム少佐は言った。

「クルム少佐だったな、君は黙っていたまえ」

と、エルシン・ディゴが不機嫌に言った。たかが少佐如きが、要塞の政治代表の話に口を差し挟むのが気に入らないのだ。元新世紀共和国では軍人よりも政治家の地位が高い国だった。

「おや?私はいつあなたの部下になったのか?私の上司はバルザス提督なのだが、彼が言うのならともかく、何の縁もゆかりもない人物の命に従う必要はない」

「あまり私たちに意見を言うと、バルザス提督が困ることになるのではありませんか?」

と、やんわりとフランブ・リンジが言った。

「別に困ることはない。バルザス提督はリドス連邦王国の宇宙艦隊に属している。お前たちとは関係がない」

「そうでしょうか?我々がバルザス提督にここを出て行っていただいてもよいのですけれど?」

「そんなことをしたら、本当に困るのはお前たちだ。その前に、バルザス提督にその話をするのだな」

 クルム少佐の口を止めようとしても、無理なことを悟ってフランブ・リンジは黙った。

「随分あなたは偉いような口の聞き方をするのですね。そう言えばバルザス提督に対しても、同じような口調でしたな」

と、今度はギアス・リードが言った。

「リドス連邦王国の宇宙艦隊はそのような些細なことで騒ぐような愚か者はいないのだ」

「クルム少佐はバルザス提督がいない間、この部屋の者達を守る義務があるのです。だから、多少のことは我慢してください。彼らは新世紀共和国の軍人とは違うのですから」

と、ディポック提督がとりなすように言った。


 司令室に外の艦隊から通信があった。

 ダズ・アルグ提督の率いる要塞艦隊の目の前にいる三角錐の艦隊が動いた、というのだ。

「まだ、少しずつ艦隊の隊形を変化させているようです。これから攻撃をしてくる可能性もあります」

と、ダズ・アルグ提督が言った。

「どこの艦隊なのかもわからないのだ。十分注意するように」

と、ファグル司令官は言った。

 ダールマン提督は先ほどから黙って、スクリーンを見ていた。

「どうやら、ライアガルプスが危急を感じてダルシアから戻ってきたようだ。あの艦隊を偵察に行ってくれるそうだ」

「ライアガルプス?ダルシア人なのか?」

と、ファグル司令官が聞いた。

「そうだ。彼女は竜でもある。もっとも、この世の者ではないのだが、バルザス提督とは縁が深いので、気になるので行ってくれるということだ」

「バルザス提督からの連絡は未だにないのですか?」

と、グリンが聞いた。

「そうだ。何か邪魔をしているものがある。おそらくこれは、機械ではなく魔法の方だろう」

「魔法だと?」

 ファグル司令官はダールマン提督の話には付いていけないと思った。確かに魔法はあるのだろうが、それが宇宙での戦闘などで、どれだけの効果があるのかわからないのだ。

 ライアガルプスの姿は霊体なので、司令室の者には見ることはできなかった。見えたのは、ダールマン提督だけである。もっとも竜であるダルシア人がもし見えたとしたら、司令室では大混乱に至るかもしれないので、その方が都合がいいと言えた。

「バルザス提督と連絡が付かないというのなら、私が探しに行こう」

と、ライアガルプスはダールマン提督に言ったのである。

 ただ一人だけ、ライアガルプスの姿を目にした者があった。司令官の副官をしているリーリアン・ブレイス少佐である。彼女はダールマン提督の上に浮かんでいるライアガルプスを見たのだ。金色の美しい大きな翼のある竜だった。だが、そのことを口にすることはなかった。ライアガルプスはすぐに姿を消してしまったので、目の錯覚か幻覚かと思ったのである。


 要塞の外では俄かに動きが激しくなってきた。

 三角錐の艦隊はまだ攻撃はしてこないが、少しずつ位置を変えつつあった。

 ダズ・アルグ提督の指揮する要塞の艦隊は、三角錐の艦隊とは距離を取っていた。彼の艦隊の攻撃力では三角錐の艦にダメージを与えることはできないだろうと思っていたからだ。だが、もし要塞を攻撃するようであれば、力及ばずとも反撃をしなければならない。それを考慮して、攻撃を集中させる隊形に艦隊を変化させていた。

 一方、銀河帝国の小艦隊を救援に行ったメイヤール提督指揮下のダルシア帝国の艦隊は、ハイレン連邦の艦隊を排除しつつあった。できるだけ銀河帝国の小艦隊から離れさせ、要塞からも遠ざけようとしていた。本来なら駆逐した方がよいのだが、要塞にまだハイレン連邦の議長がいるので、完全に駆逐するわけにもいかなかった。

 それに今、ハイレン連邦の艦隊がどうして銀河帝国の小艦隊を攻撃するのか理由が分からなかったからでもある。彼らは、メイヤール提督の数度にわたる通信にも返答を寄越さないのだ。

 できれば、銀河帝国の艦隊に通信をして、要塞から離れるように言いたかったが、メイヤール提督の立場上そうもいかない。メイヤール提督は銀河帝国の現政権が成立した際に、ヘイダール要塞へ亡命してきたからである。要塞にメイヤール提督がいると言うことを知られることは好ましいことではない。

 ただ、あまり手間取ると三角錐の正体不明の艦隊と対峙しているダズ・アルグ提督に何か起きた場合、救援に駆けつけることに遅れてしまう。それが彼には気がかりだった。


 ライアガルプスは三角錐の艦の一つにバルザス提督の姿を見つけた。彼女の透視能力ではのことである。

 妙なことにその部屋は牢ではなかった。操縦室の一つのような部屋で、バルザス提督が一人でいた。何かしゃべっているようなのだが、まだ遠くてはっきりとはわからない。

「お前たちが何者であるのか、見当が付いた。なるほど、姿を現さぬわけだな。お前たちらしいことだ」

と、バルザス提督は言った。

「………」

「ふむ。別に返答などは期待してはいない。だが、このツケは高くつくぞ」

 すると、急にあたりが暗くなった。まるで何かを怖れて隠れるようだった。

 真っ暗になった部屋でバルザス提督は、

「明かりを、テッサニクルロウ……」

と、消え入りそうな低い声で呪文を唱えた。

 部屋は再び明るくなった。ただ前とは違って天井の方に明るい球がいくつか浮かんで部屋を照らしていた。これはバルザス提督――銀の月の魔法の呪文で生じたものだった。

 今度はガクンと部屋自体が大きく揺れた。

(この艦が動いているのか?)

 中にいるバルザス提督は外のことはわからなかったが、確かにこの艦は動いていた。

 ライアガルプスは注意深く、バルザス提督と艦の動きを見ていた。もし、危険だと感じたらすぐにバルザスを連れて逃げられるよう準備をしていた。


 ダールマン提督は持てる限りの魔法を使った探知能力で要塞の周囲を見張っていた。これは機械の探知装置とは違って、かなり広い範囲を網羅できた。どんな動きも非常に微細なものも逃さないものだ。

 要塞の艦隊がいる位置とは反対側に、突然別の三角錐の艦隊が姿を現した。それもかなりの数だ。

「司令官、別の三角錐の艦隊が現れたぞ!」

と、ダールマン提督が注意した。

「何!どこにだ?」

 ファグル司令官はスクリーンにそれを出すように命じた。

 すでに半分の砲塔が突然現れた三角錐の艦隊の方へ移動を始めた。しかし、これでは反撃する力が落ちる。要塞の艦隊にいる方は、それだけで足りるのだろうか、とファグル司令官は考えを巡らした。まだこの三角錐の艦隊の正体も分かっていないのだ。ただ、要塞の主砲も彼らに対してはそれほど打撃を与えることはできないことが分かっている。

「司令官、主砲はどちらを狙うつもりだ?」

と、ダールマン提督が聞いた。

「新たに現れた方を狙う。そちらにはこちらの艦隊がいない」

「そうか。では、私が要塞主砲を援助しよう。もちろん、司令官が許可するのならだが……」

「援助?何をするつもりだ」

「もしかして、以前バルザス提督がやったことを、あなたもするつもりですか?」

と、グリンが聞いた。

「そうだ」

「司令官、バルザス提督が要塞の主砲の威力を増大させたことがあります。ダールマン提督はそれをやると言っているのだと思います」

「主砲の威力を増大させるだと?そんなことが出来るとは……。いや、この際それはどうでもよい。威力の増大はどれだけできるのだ?」

と、ファグル司令官は聞いた。

「まず、主砲の威力を倍にしてみよう」

「わかった」

 できるかどうかは聞くまでもない。やればわかるのだ、とファグル司令官は思った。

「主砲用意、新しく現れた艦隊の方を狙う。エネルギーの充填を……」

と、ファグル司令官が命じている間、ダールマン提督は何かに集中するように目を閉じていた。

 三角錐の艦隊は、以前放たれた主砲の射程範囲外ギリギリの所で留まっていた。そこにいれば、例え主砲が撃たれても安全だと思っているのだろう。

「撃て!」

と、ファグル司令官が命じると、要塞主砲が発射された。

 要塞の主砲はファグル司令官の知っている射程を大きく伸ばし、その主砲の目で見る強さもかなりのモノに成っていた。ダールマン提督の言うように威力が倍になったかはわからないが、確かにこれまで知っていた要塞主砲とは威力が違っていた。三角錐の艦隊の半数が消滅していたのだ。


263.

 ライアガルプスは、こちらとは反対側の三角錐の艦隊がやられたのを見ていた。彼女のいるところからは、バルザス提督のいるところも、三角錐の艦隊の外や、要塞の中も外もよく見えるのだ。彼女にはダールマン提督――レギオンが要塞主砲の威力を増すように魔法を使ったのが分かった。

(さて、次はこちらになるかもしれない。急がなければ危ない……)

と、ライアガルプスは思った。

 バルザス提督は、おや、というように天井の方を向いた。そしてそこにライアガルプスの姿を見つけた。翼をはためかせた金色の竜が浮かんでいたのである。

(ライアか。戻って来たのかい?)

と、バルザス提督は心の中で言った。

(それどころではない。もうあまり、時間がない。レギオンが要塞の主砲に協力している)

 ダールマン提督――レギオンが主砲の威力を増大させることで協力するならば、三角錐の艦隊を全滅させることが可能だとライアガルプスは思っていた。だから、いつまでもバルザス提督がこの艦にいると危険なのだ。

(わかった)

と、バルザス提督が心の中で言った。

(連中の目的はわかったのか?)

(まあ、大体は分かったと思う)

(では、もう退散してもいいだろう)

(ただ、ここでは私の魔法は、外に出るものについては使えない)

(どういうことだ?)

(部屋の中でなら魔法の呪文は使える。ただ、外に出たり、外と通信したりする魔法の呪文は使えないのだ。効き目がないということだ)

(なるほど、だからレギオンが銀の月と連絡が取れないと言っていたのか)

(その理由がわからない。私はそれを知りたいのだ)

(だが、もう時間がない。そうだな、三角錐の艦を一つ残して置けばいいのではないか?)

(そうだが、うまく行くだろうか?)

(何、もうここの連中は逃げてしまった。だから、大丈夫だ)

 ライアガルプスはこの艦の乗組員がもう誰もいないことを確認していた。

 バルザス提督を外へ連れ出せないとしたら、この艦だけ移動させて残せばいいとライアガルプスは考えた。それは彼女にとってそれほど難しいことではない。それからゆっくりと、掛けられている魔法を解く方法を考えるのだ。


 要塞の主砲が一方の三角錐の艦隊を消滅させた。

「これは、すごい威力だ」

と、ファグル司令官は言った。これほど威力が増すとは思っていなかったのである。

「反対側の敵の艦隊はどうなっている?」

と、ダールマン提督が目を開けて聞いた。

「まだ、要塞の艦隊と睨みあっています。どうしますか?」

と、グリンが言った。

「あの艦隊の中にバルザス提督がいるはずだ」

「待ってください。動きがあります。先ほどよりも速い」

と、探知機に付いている通信員が言った。

 要塞の艦隊が少しずつ後退しつつ隊形を変えようとしている時、三角錐の艦隊はスピードを速めて要塞の艦隊を追撃する態勢に入ったように思えた。

 次の瞬間、三角錐の艦隊の主砲が要塞の艦隊に撃たれた。その主砲は、彼らの知っているものとは違っていた。直線的に撃たれるのではなく、真横に一条の光となって要塞の艦隊を襲った。その攻撃でかなりの数の要塞の艦が損傷した。

「しまった。こちらの損傷は?」

と、ダズ・アルグ提督が聞いた。突然のこれまでにない攻撃に、手もなくやられてしまったのだ。

「今の攻撃でおよそ半数以上が損傷しました。動ける艦はありますが、次の攻撃があったら、その半数も持つかどうかわかりません」

「一体なぜ、突然攻撃してきたんだ?これまでほとんど動きたなかったというのに……」


(今、この艦隊から要塞の艦隊へ攻撃があった。かなり、やられたようだ)

と、ライアガルプスが心の中で言った。

(この艦隊には乗組員がもう乗っていないと言わなかったか?)

と、バルザス提督が心の中で聞いた。

(おそらく、無人での操縦になっているのではないか)

(しかし、最初は張りぼてだと思わせておいて、何が目的なんだろうか?)

(おそらく油断させるためだ。そのうち、次の動きがあるだろう。そうすれば何かわかるのではないか?)

(だが、それでは要塞の艦隊がやられてしまうのではないか?)

(もう残っているのは半数ほどだ。旗艦はまだ健在のようだが……)

と、ライアガルプスはめずらしく旗艦に注意を向けていた。

 その時、バルザス提督は敵が何を目的にしているのかわかった。

(まさか、旗艦を狙っているというのか?あそこには、我々に縁の有る者が乗っているのだ)

 あえて、バルザスはその名を浮かべないように気をつけた。ライアガルプスと自分とのTPでの会話を誰かが聞いているかもしれないからだ。それが狙いかもしれない。

(そうだ。敵は我々のことを知っているのかもしれない。いや、知ろうとしているのかもしれない)

と、ライアガルプスは警戒して言った。

(まさかとは思うが、これまで気づかれたことはなかったが、そう考えることが必要なのかもしれない)

 バルザス提督は、敵がこれまでよりも深くガンダルフの五大魔法使いの秘密に近づきつつあると感じていた。



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