ダルシア帝国の継承者
252.
銀河帝国辺境パトロール艦隊セルグ・ドブール提督は、ヘイダール要塞が映っているスクリーンをじっと見つめていた。彼らがどんな答えを出すか、まだわからなかった。
「閣下、このようなことをして大丈夫でしょうか?」
と、副官のデルセン・アンムザンド中佐が言った。
帝国の艦隊司令部や皇帝陛下からは、ヘイダール要塞にはできるだけ近づくな、という命令を受けている。それなのにドブール提督は何を思ったのか、近づくどころか要塞と通信をしているのだ。これは明らかな命令違反である。これが司令部にばれたら大変なことになる、とアンムザンド中佐は思った。それを止められなかった副長である自分もただでは済まない。
本来セルグ・ドブール提督と言う人は、小心者で石橋を叩いても渡らないというタイプだった。ところがこの頃その性格がすっかり変わってしまったのだ。
あれは、今回のパトロールで最初のトラブルに遭遇した時だった。慎重に慎重を重ねて数隻の艦が破壊された場所を捜索し調査した。その結果を聞いてから、ドブール提督の性格が変わったようにデルセン・アンムサンド中佐は思えた。その時、アンムサンド中佐は副官であるのにドブール提督によってその場から排除され、提督だけがその報告を聞いていた。だから、なぜその後急にドブール提督が変ったのかわからない。
後で提督から聞いたその報告は、確かに妙だった。味方の艦が破壊されたのは事実だが、どうして破壊されたのかわからないのだ。もし、ヘイダール要塞側の艦隊が潜んでいて、こちらを攻撃したのなら、その姿が探知装置に残らないわけがない。だが、そうしたことはなかったのだ。だとすると、どこかに帝国にとって未知の艦隊がいたとしか思えない。これは、大変なことではないだろうか?
この後で起きた未知の艦隊がヘイダール要塞を襲撃したという、あのビーダー・ホルドレン少佐の報告も、アンムサンド中佐は直接聞くことはなかった。
この二つの事件の報告をドブール提督が一人で聞いたと言うこと自体が、異常であった。副官をなぜ排除したのか?だがそれをドブール提督に諫言するには、まだ早いと言う気がした。ここは帝国本土から遠い辺境なのである。何かあったとしても、すぐに本国に訴えるわけには行かない。提督は艦隊にとっては独裁者と同等の権限を持っている。それを打破するには、副長一人ではできない。それにドブール提督の頭がおかしくなったとか、帝国を裏切ったと言う訳でもないのだ。まだはっきりとした証拠はない。その疑念があると言うだけに過ぎないのだ。
その内にとうとうドブール提督は、ヘイダール要塞に通信を始めてしまった。一体何を思ってそんなことをしたのか、アンムサンド中佐にはわからなかった。自分一人でヘイダール要塞を攻略できるとでも考えているのだろうか。あのビーダー・ホルドレン少佐の艦が遭遇したというよりは、遠くからヘイダール要塞を攻撃した艦隊を映した映像で、味方の艦が未知の艦隊にやられたように見せて使ったのである。それは、大胆であるとともに実に巧妙な気がした。まさかドブール提督がこのようなことに使うとは、アンムザンド中佐は思わなかったのだ。
ベルンハルト・バルザス提督――ガンダルフの五大魔法使いの一人『銀の月』は、帝国の辺境パトロール艦隊の旗艦ガルドルの司令室に現れた。もちろん、姿は見えないようにしていた。今回元帝国軍人出身の彼にとっては、帝国の艦の構造をよく知っているので、直接旗艦の司令室に入ったのである。
バルザス提督はセルグ・ドブール提督と思われる人物を、じっくりと観察した。ドブール提督は白髪交じりの太った人物で、これまで順調に武勲を挙げて軍人として昇進して来たというよりは、コネによってここまで来たという感じがした。帝国ではよくあることだ。
「ふん、返答に時間が掛かっているようだな……」
と、ドブール提督が面白そうに言った。
バルザス提督はそれを聞いて、この提督は見かけとどうやら違うらしいと思い直した。
提督から離れると、バルザス提督は旗艦の操縦席に近付いた。パイロットがいるが、彼は特に邪魔にはならないだろう。バルザスは操縦装置の近くに片手を置いて、旗艦ガルドルの制御装置の中枢にある電子脳を探った。
魔法使いである銀の月は銀河帝国の科学技術もよく知っていたので、操縦盤に手を置いてそこから魔力で電気系統を辿り、これまでの状況を直接電子脳から探ることが可能だった。
艦隊が未知の敵にやられたというのは、本当のことだった。ただし、その数は大したことはない。ヘイダール要塞に言った数百隻ではなくて、ほんの数隻のことだ。その場の映像も実は要塞に送ってはいない。何かの事故だと最初は思ったのだった。それが未知の種族の艦隊であったことがわかったのは、救助した他の艦の綿密な調査による。その報告を受けたのは、数日前のことで、ドブール提督がただ一人その艦長と会って、報告を受けたのだ。
要塞に送った映像は別のものだ。あれは、たまたまヘイダール要塞を攻撃していた未知の艦隊が他の未知の艦隊にやられた時に、通りかかった艦が撮ったものである。それについてセルグ・ドブール提督は、他の士官たちに何も話してはいない。それを持ってきたのは、ビーダー・ホルドレン少佐だった。例の元新世紀共和国の船が要塞に近付くのを邪魔していた船である。
バルザス提督の見解では、この二つの事件について前者はともかく後者については急報で帝国へ送らなければならないところである。それがどうしたわけか、どちらの事件もドブール提督は自分だけが聞き取り、本当のことは誰にも話していなかった。だから、誰も事実を知らない。ただ何を思ったか、ビーダー・ホルドレン少佐の艦の副長ワフレン・レンド大尉を旗艦付けにして、ドブール提督の側近として取り立てたのが意外だと、他の者達に思われていた。
バルザス提督は司令室を一通り歩き回ると、ワフレン・レンド大尉を見た。彼は普通の帝国軍人に見えるのだが、どこか違和感がある。
「閣下、要塞から通信です」
と、通信員が言った。
「よし、スクリーンに出せ!」
と、ドブール提督は命じた。
「私はヘイダール要塞司令官である。貴官の要請を検討した結果、それを受け入れることにした。ただし、貴官の艦隊の中の損傷した艦だけ、修理をするために入港を許可する」
と、ヘイダール要塞のカトル・ファグル司令官は言った。
「了解した」
と、ドブール提督は言うと、口元に微かな笑みを浮かべた。その笑みは僅かなものだったので、スクリーンでは判別できなかったし、周囲の誰も気づかなかった。
しかしドブール提督の笑みを近くで目撃したバルザス提督は、初めて提督に違和感があることに気づいた。あのワフレン・トレンド大尉と同じだった。
すぐにバルザスは帝国の艦隊が数隻を破壊されたと言う、宇宙空間に魔法でジャンプした。
暗い宇宙空間に、破壊された艦の大小の残骸が漂っている。そこに現れたバルザスは、目を皿のようにして周囲を見回した。彼には探知装置がなかったので、そうするしかない。
宇宙船がステルス機能を使っている場合は探知装置に引っかからないが、近くにいる魔法使いなら見ることはできなくても、僅かな気配からその存在を感じることはできるのだ。ガンダルフの魔法使いはそうやって、昔から敵の宇宙船の発見をしてきた。バルザス提督は慎重にその気配を感じるように注意した。
すると、残骸が漂っているその中央になにか大きなものが存在する気配が感じられた。質量が大きいためか、空間が少し歪んで見える。その歪みはおおよそ小惑星程の大きさで、形も三角錐のようだった。それに、その歪みはひとつところにあるだけではない。かなり広範囲にある。とすると、数もかなり多いはずだ。もしかすると、数百隻、いや数千隻か?
この宇宙船の形態はバルザス提督の記憶にあるものに似ていた。これは白金銀河にもあるし、他の銀河でも見かけたものである。まだ断定はできないが、それを造ったものは、『バウワフル』と呼ばれている種族だと考えられた。彼らはなぜかその形を好むのである。
しかし、いつからこの姿を消した艦隊がここにいたのだろうか。そして、どこから来たのだろうか。バルザスはふたご銀河やその近くで、このような形の艦を見たことはこれまでなかった。
白金銀河の『バウワフル』種族は、アンダイン種族の転送装置を使って、どこまで広がったのかわからない。それぞれ出て行った者達は、母銀河の者達と連絡を取ることはしない。彼らの特徴として、行った先々の銀河での支配種族となることを夢見て行ったのだ。ある場所ではうまく行ったかもしれないし、滅んだ場所もあるかもしれない。あるいは、その性質を激変させる変化があった者達もいるかもしれないと、考えられた。
宇宙空間に浮かぶバルザス提督の耳の近くに、魔法陣が浮かんだ。
「こちらは、プロキシオン号艦長リガル。バルザス、君はどこにいるんだ?」
と、魔法陣からオルフス・リガル准将の声がした。
白金銀河から来たオルフス・リガル准将は、これまでヘイダール要塞で人知れず活動していた。彼らの銀河にいた『バウワフル』という寄生種族が、こちらにどれだけ入り込んでいるか調査していたのだ。これは前の要塞司令官も現在の司令官も知らないことだ。知っているのは、リドス連邦王国から来た連中だけである。彼らがその調査を依頼したのだ。
「私は、銀河帝国の艦の残骸の中にいる。だが、ここへは近づくな」
と、バルザスは相手に警告した。
「どうしたのだ?」
と、リガル准将が聞いた。
「私のいる近くに、姿の見えない艦隊がいる気配がする」
「『バウワフル』の艦隊か?」
「かもしれない、いやおそらくそうだろう。ともかく私がそちらへ行く」
と言うと、バルザス提督はプロキシオン号の司令室に魔法でジャンプした。
「あの新しい要塞司令官があの帝国の艦隊の提督に、損傷した艦のみ要塞へ入港を許可すると言っていた」
と、目の前に現れたバルザス提督にリガル准将は言った。
「まずいな。あそこには、おそらくバウワフルの艦隊が隠れている。やつらは姿を隠したまま要塞に近付いてくるつもりだ」
あの艦隊はおそらく要塞の探知機には反応しないだろう、とバルザスは思った。何しろ、あれほど近くにいる帝国の艦隊の探知機が無反応なのだから。
「帝国の艦隊にバウワフルが入り込んでいるのか?」
と、驚いてリガル艦長は言った。
「これは私の勘だが、少なくとも二人いる。指揮官クラスに……」
「しかし、それだけならまだ何もできないだろう」
「数は問題じゃない。銀河帝国はこの要塞とは現在交戦中ではなくとも、敵対勢力に違いない。下手をすれば、帝国艦隊をこの要塞でわざと全滅させ、帝国と要塞との戦端を開かせることを企んでいるのかもしれない」
バルザス提督の推測通りバウワフルが帝国の艦隊に入り込んでいるとすれば、有りうる話だ。彼らは自分たちの仲間さえ簡単に見殺しにするのだ。まして、他の種族のことなど何とも思わないだろう。
「あの二千もの艦隊を全滅させるのか?」
「それとも、帝国艦隊と要塞が武器を向けて睨み合っている最中に、こっそりとバウワフルの艦隊が要塞に入り込み、司令室を占拠する計画かもしれない」
「なるほど。で、どうするのだ?」
と、プロキシオン号の艦長オルフス・リガル艦長は言った。
253.
ヘイダール要塞の司令室では、カトル・ファグル司令官の頭の痛くなる事態が進んでいた。
「困ったことになったな……」
と、ダールマン提督が言った。
バルザス提督が帝国艦隊の様子を見に行っていたので、ダールマン提督――レギオンの所にはその状況報告が来たのである。
そのダールマン提督の耳の周りに魔法陣が浮かぶのを見たのは、ファグル司令官だけではなかった。その魔法陣を見た者は、自然とそちらへ視線を向けたので彼を見える者がどれだけいるのかわかった。
ファグル司令官の話に一度は帝国艦隊の要請を受諾することを承認したエルシン・ディゴ政治代表は、ファグル司令官が通信を終えた後に、急に態度を変えて、
「いや、やはりここは要請を却下するべきだ」
と、言った。
「今、受け入れると言ったばかりなのですが……」
と、困ってファグル司令官は言った。
ダールマン提督は自分が見えていないのをいいことに、エルシン・ディゴ政治代表をジロジロと観察していた。
「ふん、小心者め。その上、自分で決断するのを避けるタイプだな。要するに結果が怖くて決断できないということかな……」
と、他の者が聞こえるような声で勝手な感想を述べていた。
そんなこととはつゆ知らず、
「何をしているのだ司令官、入港許可を取り消すのだ。帝国の連中を要塞の中へ入れるな!」
と、エルシン・ディゴ政治代表は吠えた。
その様子を見て、司令室の幹部である参謀のグリンや事務監のノルド・ギャビ、要塞防御指揮官のフェリスグレイブ、それに副官のブレイス少佐は妙だと思った。ここには、ダールマン提督がいる。それなのに、あのような怒鳴り声を上げるなど、何を考えているのだ。どう思われるのか考えないのだろうか。それはダールマン提督の方も同じである。あのようにあけすけに人の批評を目の前でするなど、例え事実だとしても控えるべきではないか?
しかし、まるで政治代表の怒鳴り声が聞こえないかのように、
「よし、では司令官も聞いてくれ、今からバルザスが調査してきたことを皆に聞いてもらう」
と、ダールマン提督が言うと、大きな魔法陣が司令室の幹部たちの上に浮かび、バルザス提督の声が聞こえて来た。
<帝国艦隊のセルグ・ドブール准将とその副官ワフレン・トレンド大尉にバウワフル寄生の疑惑あり。その艦隊は帝国艦隊の傍に位置し、ステルス状態で存在している。当初、帝国艦隊の数隻がその艦隊に破壊されるも、帝国側は調査不充分で敵の艦隊は発見されていない。このまま帝国艦隊を入港させると、バウワフルの艦隊が要塞に危険水域まで接近する危険有り……>
それを聞くとすぐにファグル司令官は、
「わかりました、政治代表。ですが、声を少し小さくしてもらえませんか?ここで大声はいりませんし、帝国側に聞こえてしまいます」
と、言った。
「わかればそれでいい。いいか、ここには元帝国軍人の連中がいる。できるだけ彼らを近寄らせないことだ。何をするか信用できんからな……」
それは、エルシン・ディゴの本音に近いことだった。彼にとっては元帝国軍人だとしても、敵なのだ。
「あの、ダールマン提督を信用できないと考えておられるのですか?」
と、ブレイス少佐がダールマン提督を見ながら遠慮しつつ聞いた。
「当たり前です。政治代表は、この要塞に責任があるのです。確かに大逆人として帝国から追放された連中です。だからこそ、帝国に戻るためにこの要塞を土産にすることも考えられるでしょう」
と、フランブ・リンジ副代表が賢しげに言った。
ダールマン提督の目の前でそのようなことを言っているとは、本人は少しも気づいていないようだった。エルシン・ディゴ政治代表と違って、彼女はダールマン提督がいるとしたら、絶対そんなことは言わないだろう。何かおかしい。そこで、もう一度確かめるつもりで、
「ですが、そのようなことで大逆人となった彼らが帝国に戻れるでしょうか?」
と、ダズ・アルグが言った。
「さあ、それはわかりません。ですが、そのようなことも考えに入れる必要があるということです」
と、フランブ・リンジ副代表は言った。
それは一瞬のことだった。要塞司令室の幹部たちは、視線を交わし合って、政治代表たちがダールマン提督の存在を認識していないことを確認た。
ファルグ司令官はともかく、帝国側と通信を再開し、入港許可を取り消すと告げた。
「それはどういうことだ?先ほどは許可すると言ったではないか?」
と、スクリーンに出たドブール准将は怒って言った。
「こちらの調査では、そちらの損害は軽微だとわかった。我々があなた方を救援する必要はないということだ」
「我々が嘘をついているというのか?」
「違うのか?」
「これがどういうことかわかっているのか?つまりお前たちは、我々に対する救援を拒んだ。これは敵対するのと同じことだ!」
「そちらがそうとっても構わない。だが、お前たちが嘘をついていることも分かっている」
「何だと!」
「お前たちの傍には、未知の艦隊がいるではないか?」
と、ファグル司令官は言った。
実は、ダールマン提督がそう言うように促したのだ。ドブール准将が『バウワフル』に乗っ取られているとしても、他の多くの将兵は帝国の人間だ。何とか助けられないものかと思っているのだ。
「何を言っている。そんなものはいるはずがない」
と、先ほどよりも少し勢いを削がれてドブール准将は言った。
不安そうにファグル司令官がダールマン提督を見ると、
「いや、居る。分からなければ、分かるようにしてやろう」
と、ダールマン提督は言った。
その瞬間だった。突然、何もないと思われていた宇宙空間に巨大な三角錐の宇宙船が数百隻も現れた。帝国艦隊よりは、かなり要塞に近い空間である。そこまでその未知の艦隊は移動してきていたのだ。数は少ないが、一隻当たりの大きさが帝国の艦よりも何倍も大きい。
「あれは、何だ!」
と、スクリーンを見てエルシン・ディゴ政治代表が言った。
フランブ・リンジ副代表も驚いてスクリーンを見ていた。だが、ギアス・リードはじっとスクリーンを見ているのだが、驚いている様子はなかった。
要塞の司令室はその未知の艦隊の威容に、言葉を失っていた。いつの間にこのような艦隊が来たのだろうか。ふたご銀河の内部から来たのか、それとも他の銀河から来たのだろうか。それにしてもこれほど近くに来るまで探知装置にもかからないとは、彼らの科学技術はこちらよりも高いのだろうかと、不安を感じていた。
「要塞主砲用意!」
と、間髪を付けずにファグル司令官が命じた。
すでに未知の艦隊は要塞主砲の射程内に入って来ていた。このまま何もしないで近づけることはできない。
「ま、待て、司令官。あの艦隊は、どこの艦隊だ?」
と、エルシン・ディゴ政治代表が目を白黒させて聞いた。あまりに突然のことなので、判断が付かないのだ。
「わかりません。見たところ、帝国の艦ではないようです。それに、これまで要塞にやってきたジル星団の艦隊とも違います。ですが、このままではこちらが危険です。あの艦隊がどのような兵器を搭載しているか不明ですが、いずれにしても、こちらに姿を見せずにここまで近づいて来たのです。敵対心があると考えてよいと思います」
「だ、だが、せめて誰何くらいしなくては、後々何か面倒なことにならないだろうか?」
「わかりました。やってみましょう」
通信員に回線を開かせると、
「未知の艦隊に告ぐ。お前たちはどこの者だ?所属を明らかにせよ!」
と、ファグル司令官は言った。それを二度ほど繰り返して、最後に言った。
「返答がない場合は、攻撃を開始する。もう一度聞く、お前たちは何者だ?」
だが、返事はなかった。
「政治代表、返事はありません。攻撃してもよろしいでしょうか?」
「し、しかし、……」
「いつまでも迷っていますと、こちらが攻撃を受ける可能性があります。その場合は手遅れになるかと……」
と、グリンが冷静に言った。
その時、
「主砲のエネルギー充填までにあと少しかかるだろうが、それを待っていては遅くなる。撃つだけでも警告になるのではないか?」
と、ダールマン提督が言った。
「それもそうだな。よし、撃て!」
と、ファグル司令官が命じた。
要塞主砲が撃たれると、それは三角錐の艦の一つに当たった。近くまで来ていたので、一つの艦に主砲が命中した形だ。当たった艦には大穴が開いたが、他の艦はまだ無傷で、攻撃をされても引く気配はなかった。
「これは……」
と、エルシン・ディゴ政治代表は、要塞主砲の威力に失望したようだった。
元新世紀共和国の艦隊などは、この要塞主砲でどれだけ多数の艦がやられたかわからない。それなのに、この敵は艦に大穴が開いただけなのだ。もちろん、サイズが大きいせいもあるかもしれないが、それだけではない。おそらく、艦自体の金属が特殊なのだと、考えられた。
「接近する艦隊に告ぐ。接近を停止せよ。しなければ、もう一度主砲を撃つ!」
と、ファグル司令官は言葉で警告した。
すでに、帝国艦隊はその脳裏にはない。三角錐の未知の艦隊は無言で近づいてきていた。
「もう一度、主砲を撃つ間に、要塞の艦隊を出した方がいいのではないか?」
と、ダールマン提督は提案した。
「しかし、数が少ないとはいえ、向こうの攻撃力がわからんのでは……」
と、ファグル司令官が言った。要塞の艦隊がやられてしまうと、あとで帝国艦隊と遣り合う時に困る。
「確かにあそこに帝国艦隊がいたのでは、リドス連邦王国やダルシアの艦隊を表に出すわけにはいかない。ただし、こちらの艦隊が攻撃しているように偽装することはできるだろう」
帝国艦隊がいる時は、リドス連邦王国とダルシア帝国の艦隊は姿を現して戦闘に参加しないという約束だった。帝国艦隊と未知の艦隊の両方がいたのでは、運用が難しい。ただ要は、帝国艦隊にリドスやダルシアの艦隊の存在がわからなければいいのだ。要塞がやられたのでは元も子もない。
「つまり、こちらの艦隊の背後に別の艦隊を置くというのか?」
と、ついファグル司令官は言ってしまった。
だが、エルシン・ディゴ政治代表たちは何か気が付いた様子は見せなかった。彼らもそれどころではないのだろう。
「まあ、そんなところだ」
「わかった。それで行こう」
と、ファグル司令官は決断した。
ダズ・アルグ提督は司令室を出ると、リフトに向かった。そこで例の転送装置を使って艦隊の駐機場へ急いだ。いつもの時間の半分以下で到着すると、そこでメイヤール提督と鉢合わせした。
「メイヤール提督、どうしたんですか?」
「いや、ダールマン提督に言われて来たのだ」
メイヤール提督は司令室の幹部の招集には加わってはいなかった。エルシン・ディゴ政治代表たちが、元帝国軍人だとして嫌がるので、ディポック提督か司令官を解任されてからは、加わるのを遠慮しているのだ。
「では、ダルシアの艦隊はあなたに動かしてもらってもいいのですね」
「もちろんだ」
ダズ・アルグ提督は今回要塞の艦隊を指揮するので、ダルシアの艦隊と両方を指揮するのはどう考えても無理だと思っていた。だから、メイヤール提督がダルシアの艦隊の方を指揮してくれるなら、助かるのだ。
二人は要塞の艦隊の旗艦に乗り込むと、司令室に連絡した。
「こちらはダズ・アルグです。要塞の艦隊を出します。司令官の許可を願います」
「了解した。許可する」
と、司令室のファグル司令官は言った。
要塞の艦隊が出て行く前に、ファグル司令官は要塞主砲を三角錐の艦隊に向かって続けて撃った。敵を怯ませ、要塞の艦隊を出しやすくするためである。
254.
バルザス提督――銀の月がやってきたのは、未知の艦隊の内部だった。
もちろんその姿は目に見えないだけでなく、機械での探知もできないようにしている。だが、この三角錐の艦に入るのは初めてだった。白金銀河にもその支配種族の持つ艦は同じ形だが、内部が同じだとは限らない。それに、どこから来たのかも、どんな種族が中にいるのかもわからないのだ。
そこは周り廊下のように思われた。そして、艦の中央部は何もなく、周囲に手すりの付いた柵がどの階にもついている。上から下まで円形の空間が穴のように抜けているのだ。廊下に出ている兵士はいないようだった。
すると、突然壁の一部が開いて兵士の一団が出て来た。
二本足で腕も二本、だが頭はヤギのように見えた。頭に角が見える。その一団は、走るようにしてリフトに入って下の階に行った。バルザスもその後を追いかけた。
三角錐の艦なので、下に行くほど階が広くなる。かなり下の方に降りて、大きな部屋に入ると、そこは楕円形の宇宙艇がたくさん並んでいた。戦闘機でもあるのだろうか?数はかなりある。別の入り口からも次々に兵士たちがやって来て、それに乗り込んだ。宇宙艇は兵士を二人ずつ乗せると、離陸し外へ出て行った。
バルザスはそれを魔法陣の通信でダールマン提督に知らせると、部屋の外に出て上の階に移動した。おそらく、上の階に司令室があると思ったのだ。
ドーム状の穴から上の方へ飛んで行き、最上階に出た。
「未知の艦隊から宇宙艇がたくさん出たそうだ」
と、ダールマン提督は言った。
「何ですと?」
と、またついファグル司令官は言ってしまった。
「戦闘機かもしれんが、探知装置に掛かったか?」
「あの未知の艦隊から何か出て来たか?」
と、ファグル司令官は聞いた。
「ちょっと待ってください。今、スクリーンに出します」
すると、スクリーンに楕円形の数多くの宇宙艇が要塞に向かって飛んでくるのが映った。
「あれは、何だ?」
と、エルシン・ディゴ政治代表が言った。
「わかりません」
と、ファグル司令官が言った。
「何をするつもりでしょうか?」
と、グリンが言った。
「あの未知の艦隊は我々も初めて見る。だから、何をするつもりかはわからない。要塞の艦隊に連絡して戦闘機を出して交戦させてはどうか?」
と、ダールマン提督が言った。
未知の艦隊は要塞からまだ少し距離があり、要塞から戦闘機を出すよりは、艦隊から出した方が近いように思えた。
「ダズ・アルグ提督を出してくれ」
と、ファグル司令官は言った。
ダズ・アルグ提督が出ると、宇宙艇の件を離し、戦闘機を出すように命じた。ところが、実際に要塞の艦隊から発進した戦闘機は宇宙艇と交戦することはできなかった。宇宙艇の方がスピードが速かったので、追いつけなかったのである。スクリーンを見ると、宇宙艇の数がどんどん増えてくる。
「あれは、要塞に来ようとしているのではないでしょうか?」
と、グリンが言った。
「そうかもしれんな。あの宇宙艇なら要塞の流体金属を抜けて入って来ることが可能だろう」
と、ダールマン提督は言った。
「ともかく、主砲だけでなく、使える砲台のすべてであの宇宙艇を破壊せよ。戦闘機もあるだけ出すのだ。要塞にこれ以上近づけるな」
と、ファグル司令官は命じた。
だが、主砲と砲台で交戦しても、要塞の戦闘機を出しても、敵の宇宙艇はどんどん数が多くなり、数が多少減ったとしてもその光線や砲弾や戦闘機の間を縫って、要塞に近付きつつあった。
「急いで、要塞のドックをロックしなければ、……」
と、グリンが言った。
「いや、それでは足りない。要塞の損傷部分から入って来るかもしれない」
と、ダールマン提督が言った。
「そうか、あの小さな宇宙艇で兵士を送り込み、要塞を占拠するつもりだということか?」
と、ファグル司令官は言った。
「な、何だと?だから、早く修理をするように言ったではないか……」
と、エルシン・ディゴ政治代表が愚痴った。
「フェリスグレイブ要塞防御指揮官、すぐに部下をあの大穴の空いた場所へ急行させるのだ」
と、ファグル司令官は命じた。と同時に民間人のいる区画や司令室に通じる通路を閉鎖することを命じた。要塞の兵士たちは、戦闘用に空いた通路を使うことになる。特に要塞の損傷部分の区画の隔壁はすべて閉鎖した。
「了解しました」
と、フェリスグレイブは敬礼して、すぐに出て行った。
フェリスグレイブは部下の集合場所へ行くと、
「例のグーザ帝国の機動兵器はどうなった?」
と、聞いた。
「だいぶうまく扱えるようになりました」
と、ブルーク・ジャナ少佐が言った。
フェリスグレイブはタレス人のタリア・トンブンにダルシア人の霊人とコンタクトを取ってもらい、機動兵器をうまく動かせるように頼んだのだ。グーザ帝国の機動兵器は登録されたパイロットでなければ操縦席が開かないので、自分たちが動かすよりもダルシア人に頼んだ方が早いと思ったのだ。
これまでこの機動兵器と部下たちとの連携をうまく取れるように訓練してきた。それが、今回初仕事になるのだ。
「ただ、あの場所まではどうやって行くつもりですか?」
と、不安そうにジャナ少佐は聞いた。要塞の通路はその機動兵器が移動できるほど大きくはない。
「それは、君の子猫に頼んである。彼女はあの機動兵器くらい簡単に別の場所に転送できるそうだ」
と、フェリスグレイブは言った。
「あの、私の子猫ですか?」
と、ジャナ少佐が言うと、彼の服の下からモコモコ動きが有り、
「ミャア!」
と、子猫が出て来て鳴いた。
「いいか、頼んだぞ」
と、フェリスグレイブが言うと、
「ミャア!」
と、元気よく子猫が返事をした。
グーザ帝国の機動兵器が二機、そしてフェリスグレイブとその部下は一瞬で要塞の大穴の隔壁の閉じた場所へ移動した。
グーザ帝国のキンドルラ提督は、マルボルラ大尉とケルラ中尉が機動兵器のパイロット席に入ったところまでは確認していた。それが、突然目の前からかき消すように機動兵器が消えてしまったのだ。
「な、何が起きたのだ?」
要塞の倉庫の中にも、警報が鳴り響いていた。その警報が何であるか、キンドルラ提督は知っていた。要塞が攻撃を受けているということだ。だから、機動兵器から降りて、他の者たちがいる部屋へ戻ろうとしている時だったのだ。だが、機動兵器はなぜ消えたのか、彼にはわからなかった。それに中に乗っていたマルボルラ大尉とケルラ中尉はどうなったのだろうか?
フェリスグレイブ要塞防御指揮官は、閉鎖された隔壁を凝視していた。おそらく、この隔壁を破壊してあの未知の敵は入って来ようとするだろう。彼の部下たちはすでに宇宙船用の戦闘服に身を固めていた。人数はそう多くはない。
「指揮官」
と、ジャナ少佐が無線で呼びかけてきた。
「何だ?」
「あの、子猫が言うには、あの機動兵器には誰かが乗っているそうです」
「何?まさか、グーザ帝国の連中が乗っているというのか?」
他には考えられないと、フェリスグレイブは思って言った。
「そうかもしれません」
「だが、連中を降ろしている暇はない。子猫に、大丈夫かどうか聞いてみろ」
「はい」
ジャナ少佐は宇宙服の中にまで入っている子猫に聞いてみた。すると、
「まあ、大丈夫でしょう。連中は機動兵器を動かすことはできないから。あれを動かすには登録されたパイロットでないとできないのよ。ただ、中に入るところまでできたのでしょうね」
と、子猫は言った。
前方を見ると、隔壁が所々凸凹が出来ていた。外から隔壁を破壊しようとしているのだ。
「よし、気をつけろ。敵が来るぞ!」
と、フェリスグレイブが部下に警告した。
機動兵器は、フェリスグレイブとその部下の前に出ており、敵の侵入と同時に攻撃をする準備を整えていた。
金属がはじける音がすると、隔壁の中央が破れ、宇宙艇が一隻入って来た。
機動兵器は太い腕を上げて、その宇宙艇を狙って撃った。その兵器は光線銃のようにも見えた。
すると、宇宙艇は隔壁を出る前に動かなくなり、そのまま穴を塞いだ形になった。
「いいぞ、また来たら頼むぞ!」
と、フェリスグレイブは言った。
だが、今度は隔壁の四隅が同時に敗れ、隔壁が倒れて来た。
「あぶない!」
と、声がした。




