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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
37/153

ダルシア帝国の継承者

249.

 リドス連邦王国のナル・クルム少佐は惑星カルガリウムの件について、全てを終了させてやっとヘイダール要塞に戻って来た。

 バルザス提督の宿舎に入ると、部屋の隅の方にディポック提督とナンヴァル人のマグ・デレン・シャがまるで話をしているような恰好で寝入っているのを見つけた。クルム少佐はディポック提督の護衛を兼ねていたので、何をしているのかと駆け寄った。

 すると、バルザス提督がどこからか魔法でジャンプしてきてクルム少佐の前に立ちふさがった。

「少佐、あの二人にあまり近寄らないでもらえますか?」

と、バルザス提督は言った。

「どうしたというのだ?あの二人は何をしているのだ、眠っているのか?」

と、クルム少佐は尋ねた。

「いえ、彼らはちょっと出かけたのです」

「出かけた?しかし、そこで眠っているのではないか?」

「体を置いていったのです。彼らは今、ダルシアに向かっているのですよ」

「何だって?」

 バルザス提督の言っている意味がクルム少佐にはわからなかった。

 ディポック提督とマグ・デレン・シャの周りを回って、バルザス提督はなにやら呪文のようなものを唱えた。

「できるだけ二人に触ったり、動かしたりしないようにしてもらえますか」

「触ったり、動かしたりするとどうなるというのだ?」

「二人が戻って来た時に、体の中にうまく入れなくなることがあるのです」

「随分、神経質なことだな」

「必要なことですから」

 二人の会話を聞いて、ナンヴァル人のタ・ドルーン・シャが近寄って来た。他の者達は、遠巻きにしてあまり近寄っては来なかった。

「今、話を聞いたのだが、マグ・デレン・シャ様はどちらに行かれたのだ?」

と、タ・ドルーン・シャは聞いた。

「ダルシアです」

と、バルザス提督は言った。

「しかし、いくらマグ・デレン・シャ様でもお一人では行かれまい」

「ええ。実はライアガルプスが二人を連れて行ったのです」

「ダルシアのライアガルプス陛下が来ていたのか?」

「彼女は銀河帝国の帝都ロギノスや惑星カルガリウムなどを見て回って来たのです」

「何だって?帝都まで行って来たのか?」

と、今度はクルム少佐が驚いて言った。

「ええ。ですが、彼女の報告によると、帝都はかなりまずいことになっているようです」

「どういうことだ?」

「帝都の空に黒い骸骨がいたということです。その骸骨と話をしてきたと言っていました」

「黒い骸骨というと、あのアルフ族の闇の魔法が蘇ったということですかな?」

と、タ・ドルーン・シャが聞いた。彼もアルフ族については、ナンヴァルに伝わる伝説で多少知っていた。

「そういうことです。銀河帝国の皇帝陛下があの黒い骸骨に操られて、このヘイダール要塞に帝国の艦隊を率いてやってくるのも、そう遠くないことでしょう」

と、バルザス提督は言った。

「それは、本当のことか?」

と、クルム少佐が聞いた。

「ええ。もっとも、陛下御本人はそんなこと少しも気づいていないでしょうが……」

「しかし、なぜだ。なぜ、そんな何百万年も前に封印された闇の魔法とやらが蘇ったのだ?」

「残念ながらここでは、そこまでわかりません。ロギノスに行くのも、ダルシア人であるライアガルプスだから行けたのです。今は我々ガンダルフの魔法使いでも、あそこまで行くことはできないのです」

 大昔のアルフ族が使用したと言われる闇の魔法は、今ではほとんど伝説でしか知られていない。だから、どれほど危険であるかは、ガンダルフの魔法使いとダルシア人しか知らないのだ。

 ダルシア人は昔から魔法と言うものがあると知っていても、彼らは使わなかった。その必要がなかったからだ。この点は非常に重要だった。そのためダルシア人はアルフ族の闇の魔法の影響を受けることが非常に少ないのだ。

 彼らの科学技術文明は非常に高度に発達しており、大抵のことは魔法を使わなくてもできた。それに魔法と似ているが、それとは違う力を使う方法をよく知っていた。その力とは、ガンダルフの最初の人々が使っていた力のことで、所謂霊能力というものだった。彼らはガンダルフの最初の人々からその力の活用方法を学んだのだ。

 魔法とはダルシア人にとって、霊能力の一つである念力を様々な種類の呪文でコントロールすることで、常識ではできないことを可能にすることだった。彼らにとっては他の惑星の種族にできないことであっても、魔法を使わなくても、高度な科学技術によって、多くの事が可能だった。宇宙に出ることも、物を運ぶことも、物質を変化させることも、魔法ではなく科学技術によって可能だったのだ。

 ガンダルフにおいては最初の人々が去った後、そうした霊能力を使う方法は廃れてしまった。けれどもガンダルフに残った人々は、科学技術よりも魔法を先に発達させていた。霊能力を発達させることよりも、その一部である念力を呪文により魔法として使うことを好んだのだ。宇宙に出ることも、物を運ぶことも、物質を変化させることも彼らは魔法によって可能としていた。だが、それは万人に可能なことではなかった。非常に個人的な才能や努力に左右されるものだった。魔法使いになるには少なくとも最低三年の修行はしなければならない。それを終えても、魔法の力は個人差が大きく、誰でも宇宙に出たりすることが可能なわけではない。物を運んだり物質を変化させることぐらいしか、大抵はできなかった。

 大抵の魔法使いは呪文を学ぶことしかしなかったが、ガンダルフの五大魔法使い達は魔法の呪文だけではなく、ダルシア人のような科学知識が魔法を使うことを非常に助けることを知るようになって行った。物質を変化させる呪文を使うにも、物質の成り立ちや構成を知っていると魔力が少なくてもやりやすくなるのだ。これは多くの魔法使いにとって朗報だった。

 そのため近年においては、ガンダルフにおいてもダルシアのような科学技術を目指した文明の発達が始まったのだった。ただ、その所為で今度は逆に魔法の方が衰退している。なかなか科学技術と魔法の両方を兼ね合わせた文明を築くのは、難しいのだった。

「その闇の魔法はどうやれば消えるのだ?」

と、クルム少佐が聞いた。

「昔は、それができませんでした。アルフ族はただ闇の魔法を大地に封印して、あの惑星から逃げたのです。つまり逃げることしかできなかったのです。彼らがふたご銀河にやって来た大昔の巨大な宇宙船に乗って。ただ今でも闇の魔法を消滅させることができるかどうかはわからないのです」

「しかし、銀河帝国の皇帝が闇の魔法を掛けられているのだろう?確か昔は闇の魔法を解く方法はなかったが、今なら方法があると言っていたと思うが?」

 ダールマン提督――レギオンがそう言っていたのを、クルム少佐は聞いていた。

「正確に言えば、『死の呪い』です。これは闇の魔法では最強のものです。昔は誰もそれを止めることも、解除することもできなかったものです。今でもそれが可能かどうかは、私にはわかりません。少なくとも、やってみないことには、それが可能かどうかはわからないのです」

 科学とは違って、実験などということはできないのが難点だった。

「では、なぜ私はここにいるのだ?」

と、クルム少佐は不思議なことを言った。

「それは、まだわかりません。ですが、皇帝陛下が要塞まで来るにはまだ多少の時間があるでしょう。それまでに何かが変わるのかもしれませんし、もっと確実な方法が見つかるのかもしれません」

と、バルザス提督――銀の月は言った。


 カトル・ファグル司令官は司令室にいた。

 どうも執務室にいると政治代表やその秘書であるギアス・リードが断りもなくやってくるので、考えがなかなかまとまらないのだ。だから、司令室にやって来たのである。

 カトル・ファグル司令官は、ダールマン提督の言うことを全て信じているわけではなかった。もちろん、政治代表やあのギアス・リードの話を信じるなど論外なのだが、それでもダールマン提督の方が信用できると考えていた。少なくとも、この要塞を守る情報に関しては。

「司令官!」

と、通信員が呼びかけた。いつもよりも緊張した声だった。

「どうしたのだ?」

「ヘイダール要塞に、銀河帝国の艦隊が近づいてきます」

「何!」

 これまで銀河帝国の艦隊はヘイダール要塞の近くに来ることはあったが、できるだけ距離を取っていた。聞くところによると、皇帝陛下や司令部から要塞にはあまり近寄らないようにと命じられているらしい。それは、元新世紀共和国一の知将と言われる、ディポック提督がこの要塞の司令官であったからだ。

 この変化は、彼らがすでに要塞司令官が替わったという情報を手にしたからではないかと思われた。こんなに早くわかるとは、やはり要塞内にスパイがいるのだろう、とカトル・ファグル司令官は思った。

 艦隊は二千隻に満たない小艦隊だという。これはどういうことなのだろうか?銀河帝国の辺境をパトロールするには十分すぎるくらいだが、二千隻ではヘイダール要塞を攻略することはできない。

 彼らはなぜ今、ヘイダール要塞に近付いてくるのだろうか。その理由をファグル司令官は測りかねていた。


250.

 金の竜であるライアガルプスの背中に乗ったディポック提督とマグ・デレン・シャは、ダルシア帝国へと飛んで行った。

 宇宙空間でこのままどうなるのかと心配していた二人は、ヘイダール要塞を出ても特に息が苦しくなったりしなかったので、変だなと思いながらもライアガルプスの大きな背中に乗っていた。

 ライアガルプスはヘイダール要塞を飛び立つと、真っ暗な宇宙空間に入った。そして要塞がだんだん小さくなって行くと、ほどなく行く手に一つの太陽が見えて来た。

「あれが、ダルシアの太陽です」

と、ライアガルプスは言った。

 竜は、その太陽の五番目の惑星に降り立った。その惑星は緑豊かな星で、広大な海もある美しい星だった。

 ダルシア人の街はどこにあるのかと、ディポックは目を皿のようにして見ていた。だが、地上には人工的な建造物は見えなかった。

「あの、都市はどこにあるのですか?」

と、ディポックはライアガルプスに聞いた。

「ここはダルシア人の母星ですが、都市はありません。都市は地上にはないのです」

「では、どこにあるのですか?」

「ほら、あそこに見えるのがダルシアの第一都市オルグアンです」

 ライアガルプスの指さす方向を見ると、空に大きな白い都市が浮かんでいた。近付いて行くと、かなり大きな都市であることが窺われた。何しろサイズが違うのだ。ダルシア人に合ったサイズでできているので、なにもかも普通の人間でいえば巨大といえる。

 都市の周囲にはおそらくシールドが張り巡らされているのだろう。そして、その門はダルシア人が集団で入って来られるような大きさなのだ。人間には見上げるように大きなものだった。

 ライアガルプスは門の下にディポック提督とマグ・デレン・シャを降ろした。

「何て大きな門だ!」

と、ディポックは門を仰いで驚いて言った。

 門から都市の中を見ると、道路というよりはレールのようなものが縦横に走っているのが見えた。

「あれは、都市の中を移動するために作られたポッドのレールです。ダルシア人はみな羽を持っていて空を飛べるので、他所から来た客人や重い荷物や大きな荷物を移動させるために使うのです」

と、ライアガルプスは言った。

 そして再びライアガルプスは都市の中を、ディポックとマグ・デレン・シャを乗せて飛んだ。

 都市の外観は大まかな円形をしていた。一番外側に塀と門が作られていた。中央から荷物運搬用のレールが放射状に延びている。そのレールの横の連絡も密に作られていた。その間に高層建造物が建てられている。都市の中央にある建造物が一番大きく高いのが特徴だった。

「空中に浮かんでいるということは、この都市は移動できるということですか?」

と、ディポックが聞いた。都市の遺跡が空中に浮かんでいるというのも妙な話だ。それも一つではないらしい。

「そうです。宇宙船並みの速度を持っていますよ」

と、ライアガルプスが答えた。

「どうしてですか?」

と、マグ・デレン・シャが聞いた。

 都市のような大きなものが宇宙空間を宇宙船のような速さで動くのは、想像しがたいことだ。

「もちろん、何か起きた時のために移動できるように作られているのです」

「何かというのは?」

「そうですね。惑星上なら地震や火山の噴火、そして自然災害もありますね。そうした時にそれを避けるために移動することができます。他には、例えば他の惑星との戦争があった場合に備えているということです」

 荷物運搬用のレール上には大きさが違うが、楕円形のポッドが浮かんで移動していた。

「あれは、荷物を運ぶためのポッドです。たまにその中に我々が乗ることも有りますが、大抵は荷物を運びます」

と、ライアガルプスは言った。

 見ているとそのポッドはかなりの数が浮かんで移動していた。

 ディポックはこの都市にダルシア人が住んでいるのだろうかと思った。確か、ダルシア人は滅びたのでタレス人のタリア・トンブンがダルシアを継承したはずなのだ。

「この都市に、ダルシア人が住んでいるのですか?」

と、ディポックは聞いてみた。

「いいえ、肉体を持ったダルシア人は滅びました。ですが、この都市にはダルシア人の作った機械がまだ存在し、動いているのです。その機械はダルシアの中央脳である『ダルシアン』が動かしています。『ダルシアン』というのは昔ダルシア人だった者達の魂です。もちろん、ダルシア人の魂は一つではありません。肉体が滅びてから多くの魂は次元の違う世界のダルシア人の住む都市に住んでいます。その都市とこの都市が『ダルシアン』を通じて繋がっているのです」

「ということは、『ダルシアン』というのは一つではないということですか?」

「次元の違う空間にある都市とこの現実の都市をつなげるものであり、各都市にダルシア人の魂の数だけあるのです。その『ダルシアン』を束ねるものが中央脳の『ダルシアン』なのです」

「つまり『ダルシアン』というのは、ダルシア人の幽霊とも言えるものですか?」

「いいえ、幽霊ではありません。『ダルシアン』というのはダルシア人の心そのものを形作ったもので、光の玉のような形状をしています。例えていえば、水晶の球のような形です」

「では、この都市に肉体を持ったダルシア人は住んではいないが、この都市を動かしている者はダルシア人の魂だというのですね?」

「そうです。肉体を持たないダルシア人の住む都市は、また別にあるのです。ただ、用が有る時は『ダルシアン』を通じてこの惑星の都市の機能を動かすのです」

「とすると、この都市がこんなに動いているのはなぜなのでしょう?」

と、マグ・デレン・シャは聞いた。すでにダルシア人の住んでいない都市が活動しているのは気味が悪い。

 都市の中を移動しているポッドの数は非常に多かった。都市全体が活発に活動しているような気がするのだ。

「実は、これはグーザ帝国の機動兵器、つまり人間型ロボットを研究しているためなのです」

「どうしてですか?」

「我々はロボットというと、普通の人間型種族の大きさのものをイメージして、作っていました。ところが、グーザ帝国のロボットは我々のように大きなサイズです。しかも兵器を搭載している。それがとても斬新で、また非常に有用に感じたのです。それで我々ダルシア人の研究意欲を刺激されたのです」

「ダルシア人のロボットは人間型なのですか?」

 普通なら自分たちと同じ形のロボットを作るものだと、ディポックは思った。

「人間型の方が細かい作業をしやすいのです。我々はそうした作業が苦手なので、それを補助するために作られたのがそうしたロボットの始まりなのです」

「すると、この都市で動いているのはそうしたロボットが中心なのですか?」

「そうです」

 ライアガルプスは次に都市の上の方を目指して高く、さらに高く飛び始めた。すると、都市がだんだん小さくなって見えなくなってきた頃、前方に再び都市が見えて来た。

「あれが、現在ダルシア人の住んでいる都市です」

と、ライアガルプスは言った。

「つまり、肉体を持たないダルシア人の魂が住んでいるという都市ですか?」

と、ディポック提督が聞いた。

 そこはもう次元の違う空間だった。上を見ると、太陽が見えた。かなり地上から高く飛んできたのでもう宇宙空間に出てもいいような頃だった。だが、周囲はどこを見ても暗くはなかった。

 その都市は今見て来た都市に似ていた。だが、その都市はレールの上を浮かんでいるポッドも多数あったが、羽を広げて飛んでいるダルシア人も多かった。

「まあ、ダルシア人がたくさんいますね」

と、マグ・デレン・シャが驚いて言った。

 そのダルシア人は白い者も黄色い者も青い者も、様々な色の者たちがいた。

「あの、本来ダルシア人は、焦げ茶色の皮膚をしていたと思いましたが……」

と、訝し気にマグ・デレン・シャは言った。

「確かに、肉体を持ったダルシア人の皮膚の色は焦げ茶色でしたよ。ですがここは次元の違う空間で、肉体を持たないダルシア人が住んでいるのです。彼らはその心性に応じた色をしているのです」

と、ライアガルプスは言った。

「心性に応じた色というのは、どういうことですか?」

と、ディポックは聞いた。

「色によって、一人一人の職業や考え方や性格の違いが表されているということです」

「それではあなたのような金色はどんな意味がありますか?こうしてみると、金色というのはあなた以外にはいないと思うのですけど……」

と、マグ・デレン・シャが聞いた。

「金色は指導者の色です。間違った考えをしていない、正しい指導者の色なのです」

「それは、他の種族でも同じなのでしょうか?」

「さあ、それはわかりません。我々はあなた方のように衣服を身に付けるということはなかったのです。我々の皮膚は非常に頑丈でしたので。だから、他の種族のことはわかりません」

「そうでした。ダルシア人の皮膚は鉄の剣でも切れないと言われていましたから……」

と、マグ・デレン・シャがナンヴァル人の言い伝えを思い出して言った。ダルシア人に対しては、どんな鋭い剣も矢も役には立たないと言われていたのだ。

「あの、この都市のダルシア人は肉体を持ったダルシア人ではないのですね。つまり、死んでいる者達ですね」

と、ディポックは聞いた。都市の上を飛んでいるダルシア人を見ると、まるで生きているように思えるのだ。

「そうです。ダルシア人はもう肉体を持った者はいないのですから」

「しかし、先ほどの都市からこの都市に来るまでに、どこか別の所へ来たような感じはしませんでした。例えば、体から抜け出すような感じです」

「それは、ヘイダール要塞を出た時に、あなた方はすでに肉体を抜け出して来ているからです」

「ということは、私は死んだということですか?」

 その割には、ディポックは妙に冷静だった。

「いえ、所謂幽体離脱という状態です。死んだわけではありません」

「それにしては、抜け出したという意識はありませんでした」

「それは、スムーズに抜け出せたからです。自然に抜け出せたからです」

「死ぬということは、そんなにスムーズに行くものなのですか?」

と、ディポックは聞いた。

「それは、その人にもよります。その時の状況や個人差が大きいのです」

 マグ・デレン・シャは都市で活動しているダルシア人に興味を持った。

「あのダルシア人は生きているのではなくて、もうずっと前に死んでしまった者達なのですね。だとすると、彼らのあの活動的な様子は不思議な気がします」

 ナンヴァルの伝説では死んだ者は、花畑のような場所で静かに瞑想していると言われている。この情景では花畑も見えない。機械的な都市しか見えないのだ。

「死んだからと言って、この都市に来て横になって寝ているようなものはいません。彼らは生前一番興味を持っていたことを、ここでも続けているのです。仕事や研究など、様々なことです。この都市では研究をすることが好きな者達が集まっているのです」

「まるで、本当に生きているような感じがしますね」

「死んだということで静の状態を想像するのは、あまりこちらの世界の様子を知らない人々です。こちらも皆忙しく色々なことをしているのです」

「そう言えばあなたも忙しくしているのですね」

と、ディポックは思い出して言った。ライアガルプスはヘイダール要塞から銀河帝国まで行き、今度はダルシアまで来たのだ。

「最近は特に忙しくなりました。ジル星団がどうやらきな臭くなってきましたし、ロル星団もあの闇の魔法が蘇って来て、このふたご銀河はこれから大変な時期を迎えることになりそうです」

と、ライアガルプスは予言するように言った。

「そういえば他銀河からの侵攻がありました。これまで、そんなことはなかったのに」

と、ディポックは言った。

「それは違います。同じことは、かつて億年の昔にあったことなのですよ」

「そんな昔にあったのですか?」

「危うくそのために、我々ダルシア人が滅びそうになったものです」

「そんなことがあったのですか……」

 ジル星団最強の種族と言われたダルシア人が、そのような経験を持っていたとはナンヴァル人のマグ・デレン・シャも初耳だった。

「あの時は、ガンダルフの最初の人々がいて、彼らが我々ダルシア人を助けてくれました。ですが、もう彼らはいません。我々が、あなた方と共に対処しなければならないのです」

「リドス連邦王国の人々がいるのではありませんか?」

「だとしても、彼らだけでは足らないのです。それは彼らもよく知っています」

「しかし、そのようなことが起きてくるとして、私に何ができるのでしょうか?」

と、ディポックは言った。

「あなたこそ、そのために必要な方なのです。だからこそ、あの事故で死なせるわけには行かなかったのです」

「え?あなたはあの事故のことを知っているのですか?」

 ディポックは驚いて言った。まさかこのようなところで、自分の事故の話が出るとは思わなかったのだ。

「ええ、知っています。地上車のエンジンを撃ち抜かれて、車自体は崖から谷底へ炎とともに落ちて行きました。その時あなたを助けた者がいたのです。そのことは分かっていますよね」

「やはり、あれは本当にあったことなのですね」

「あれは、ダガン・ルグワンという者があなたの車のエンジンを撃ち抜いて、車を崖から落としたのです」

「ダガン・ルグワン?その名は聞いたことがあります。確か最高評議会議員を暗殺した犯人として指名手配になっているはずです。彼が私を狙ったのですか?」

「そうです。あの時あなたは死にました。でも、あなたは必要とされていたので、事故から助け出されて再び生き返ることになったのです」

「誰がそれをやったのですか?そんなことできる者がいるのですか?」

 死んだ者を蘇らせるというのは、ディポックにとっては神の如き力に思えた。

「いますよ。神様ではなくても、できる者はいます。我々ダルシア人でも出来ますが、あなたを助けたのは別の者です。あなたにとても近しいものです」

と、ライアガルプスは、死んだ者を蘇らすことは特に難しいことではないとでもいうように言った。

「誰ですか?あなたはそれを知っているのですね?」

「いずれわかります。ですから私は黙っていることにしましょう。ただ、あなたは必要とされているのだと知っていてください」

 ライアガルプスにそう言われてしまうと、ディポックもそれ以上その人物ことを聞くことはできなかった。


251.

「こちらは銀河帝国辺境パトルール艦隊提督、セルグ・ドブール准将である。ヘイダール要塞に告ぐ、我々は未知の敵から攻撃され、重大な被害を受けた。可能であるなら、我々を救助されたし」

と、通信が入った。

「なんだ?どういうことだ?」

 未知の敵とは何のことだ、とファグル司令官は思った。

「何か罠の匂いがしますな」

と、フェリスグレイブが疑り深く言った。

「しかし、だからと言って救助の要請を断ることはできまい」

と、ファルグ司令官は言った。

「確かに、我々は現在、正式に銀河帝国と交戦しているわけではありません」

と、グリンが言った。

 銀河帝国とヘイダール要塞はお互いに敵だと認識しているが、正式に宣戦布告をして戦っているわけではない。だからと言って、相手に救援要請をするなどという厚顔なことはそう簡単にできるものではない。

 すでに要塞幹部の面々は司令室に招集されていた。だが、そこにはディポック提督の姿はなかった。司令官を解任された彼は、もう要塞幹部ではなかったのである。

「この救助を断ると、後々面倒なことになるかもしれませんね」

と、ダズ・アルグ提督が言った。

「司令官、どうしますか?」

と、リーリアン・ブレイス少佐が返事を催促して言った。返事をするのに、それほど時間があるようには思えなかったのだ。

「通信員、通信回線を開いてくれ、セルグ・ドブール准将と話をしたい」

と、ファグル司令官は言った。

「了解」

 やがてスクリーンに銀河帝国のセルグ・ドブール准将の姿が映じた。白髪交じりの太った人物である。

「ヘイダール要塞の司令官と話をしたい」

と、セルグ・ドブール准将は言った。

「私がこのヘイダール要塞のカトル・ファグル司令官だ」

と、ファルグ司令官は言った。すると、

「確か、要塞司令官はヤム・ディポック提督だと聞いていたのだが、変わったということか?」

と、セルグ・ドブール准将はまるで司令官の交替を確認するように言った。

「そうだ。ところで、そちらは救助を要請してきたが、何があったのだ?」

と、ファグル司令官は聞いた。

「そのことだが、我々は辺境パトロールの任務中に、未知の異星人らしき艦隊と出会った。こちらは突然のことで最初は抵抗できずに数百隻もの艦がやられてしまった。何とか準備できたと思ったら、その未知の艦隊が消えていたのだ」

「未知の艦隊というが、我々はそのような艦隊は見かけなかった。具体的にどのような艦隊だったか、そちらの映像で残っているはずだから、それを見せてほしい」

「わかった。だが、これは銀河帝国の重要な情報だ。これを見せたら必ず我々を救助するという確約が欲しい」

「そのようなことは、我々としては当然のことだ。約束する」

「それなら、見せよう」


 帝国側から提供された映像は、グーザ帝国艦隊が攻撃を仕掛けているように見えた。攻撃は非常に有効だったようで、見る間に帝国側の艦が減って行くのがわかった。

「我々はいつものパトロール中だった。攻撃を受けたのはこの未知の艦隊だ。突然のことで、数百隻もの艦がやられてしまった。艦の運動性能や攻撃兵器については、悔しいが彼らの方が上だと思う。現在、損傷した艦が多いので、できるだけ減速して航行している。このままでは帝国領に着くまでに動けなくなる艦が大部分だと思われる。私が思うに、この未知の敵はもしかしたら我々だけではなく、卿らにとっても非常に危険だ。もし、敵が我々本国や卿らの元本国への攻撃をした場合、それを撃退するのは難しい。だからこそ、我々を救援するなら、ヘイダール要塞に対する帝国の印象もよくなり、この敵に対して共同して向かうことも可能となろう。そう考えて救援要請をしたのだ」

と、セルグ・ドブール提督は言った。彼の話は、分からないでもなかった。

 ただ、この映像が果たして本物かどうか。そして、ドブール提督の言うように帝国側が考えるかどうかは、また別の問題だった。

「グーザ帝国艦隊は、確か元の銀河に戻ったはずですね」

と、ダズ・アルグ提督が言った。

 ヘイダール要塞を襲ったグーザ帝国の艦隊は、暗黒星雲の種族であるリード・マンドが銀河間のジャンプ・ゲートを開けて、直接向こうの銀河へ戻したのだ。

「だとすると、この艦隊はどこから来たものだろうか?」

と、声がした。

 カトル・ファグル司令官は振り向いて、そこにダールマン提督がいるのを見て驚いた。

「この映像が本物だとしたら、この艦隊がどこから来たのか調査するべきだろう」

「調査?だが、この未知の艦隊はもうすでに移動したのではないか?」

と、ファグル司令官は言った。どこから断りもなく現れたのかと聞く間もなかった。今は、それどころではない。

「それはどうかな?ともかく、至急調査をした方がいいだろう」

「誰がするのだ?」

「もちろん、我々がする」

と、ダールマン提督は言った。

 映像を見ている者達は、特に発言はなかった。司令室の他の連中はダールマン提督に気が付いているのか、ファルグ司令官にはまだわからなかった。

 そこへ、司令室へ入れるように命じる声が聞こえて来た。ヘイダール要塞の政治代表の一行がやって来たのだ。

 ファグル司令官はつい舌打ちをしてしまった。

「司令官、これは何事だ!」

と、大声を上げたのはエルシン・ディゴ政治代表だった。

「静かにしてください。今はまだ、帝国側と通信中です」

と、ファグル司令官が注意を促した。

「なぜ、私にすぐ連絡をせんのか?」

「急なことでしたので、その暇がありませんでした」

「本当か?」

と、疑わし気にエルシン・ディゴ政治代表は言った。

「それよりも、帝国の艦隊は未知の敵からの攻撃を受けて、かなり大きなダメージを負ったとのことです。それで、我々に救助を要請してきたのです」

と、ファグル司令官は説明した。

「返事はしたのか?」

「それは、まだです」

「では、要請を却下するように」

「しかし、それでは彼らを見殺しにするようなものでは?」

「何を言っている。帝国は我らの敵だ。そんなこと、君も分かっているだろう」

「ですが、今回については、向こうが攻撃しに来たわけではありませんし、我々が攻撃したわけでもありません」

「何が言いたいのだ?」

「未知の敵に関しては、それが本当なら、我々にとっても脅威だということです」

「なるほど、それで情報を連中から取ろうと言う訳か?」

「それもあります。ですが、それだけではありません。もし、私の見方が違うのなら、彼らがなぜ、今、この時期に要塞に接触してきたのか、そこに興味があります」

と、ファグル司令官は言った。

「それは、要塞の情報が洩れているのではないかと言う意味ですか?」

と、ギアス・リードが言った。

「その可能性は否定できないだろう」

と、要塞防御指揮官の任にあるフェリスグレイブが言った。



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