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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
35/153

ダルシア帝国の継承者

243.

 アリュセア・ジーンはいつものように一般兵士の食堂で夕食を取っていた。

 何だかこの頃、この食堂に来る人数が増えて来たような気がするのだった。周りを見てみると、士官のような肩章を付けた男女が増えて来たような気がする。それに、全体的に見て見なイライラとしていて、気短になっているのだ。肩がぶつかったり、お盆がぶつかったりした時に見せる表情が前よりも険しく感じられた。喧嘩にならないのが不思議なくらいだ。

 この要塞全体が以前と違って、どこか落ち着きを無くしているのだ。

 今も、アリュセアの末の娘であるリュイがお盆を要塞の士官の肩章を付けた女性にぶつけてしまって、ものすごい目で睨まれたばかりである。

(あんたたちは、何もしないくせに何で無料でここを利用できるの?私たちがここで働いているからなのに。こんなこと不公平だわ!)

と、その女性士官は心の中で叫んでいた。

 その声がアリュセアやリュイにも聞こえるようになっていた。彼女たちも要塞に来てから前とは違う変化が起きていたのだ。それにしても、いったい要塞で何が起きているのだろうか?

 あのお祭り騒ぎのよう要塞の政治代表を選ぶ選挙が終わったというのに、今度は別の意味で要塞全体がイラついているのだ。


 カトル・ファグル司令官は、ダールマン提督を執務室に招いて話をしていた。

 ディポック提督がジル星団については、ダールマン提督の話を聞くべきだと助言したからだ。

「惑星連盟というのは、いったいどういう組織なのだ?」

と、ファグル司令官は聞いた。

「惑星連盟は、今から五百年前にダルシア帝国とナンヴァル連邦が、ゼノン帝国に圧迫されているジル星団の諸国を保護するために作った組織だ」

と、ダールマン提督はかいつまんで話をした。

 惑星連盟は比較的最近にできた組織だった。ところが今はゼノン帝国とナンヴァル連邦に主導権を握られてしまっているので、作られた初期の目的を果たせなくなっている。

 ファグル司令官はこれまでまるで聞いたことのない国の話を、興味深く聴いていた。これはおそらく、あの政治代表たちは聞いたことがない話だろう。彼らは、選挙で選ばれてから、三人で一室に籠って何かをやっているようなのだ。それについては、彼も何をしているのか窺いしれなかった。

 ファグルがもう少し他の市民たちの話を聞いたらどうかと助言すると、エルシン・ディゴ政治代表は軍人が余計な口出しをするなと居丈高になる始末である。だから、心配しながらも見守るしかなかったのだ。

 ダールマン提督はそんなファグルに惑星連盟だけではなく、できるだけ簡単にジル星団の大まかな歴史や諸国について、話を続けた。

「ジル星団の竜族と言われる連中の中には、昔からかつてのダルシア人のように人間を食料と考えている者がいる。特にゼノン帝国の貴族などは、それを特権のように思っている。ナンヴァル人はヴェジタリアンなので、あまりそうしたことはしない。もちろん、人間を格下に見ているが。それはこれまで宇宙文明に達した所謂人間族は少なかったから、どうしてもそれは否定できなかったのだ。文明だけではない。ナンヴァルやゼノンなどの竜族は人間族よりも、肉体的に強靭であるのは確かなことだ。ただそれでは人間族があまりにも被害に遭うことが多くなる。それは竜族以外の種族についても同じなのだ。古い国の種族は昆虫型の種族もいるが、彼らも竜族には困っている。本来竜族であるゼノン帝国があまりにも人間族だけではなく、他の種族をも圧迫するので作られたのが惑星連盟なのだ」

「それが今は変質したということか?」

「そうだ。ダルシア帝国が滅んでしまったので、彼らの横暴を止める者がいなくなったのだ。今回はナンヴァル連邦もゼノン帝国の側に付いている。だから、他の国もそれを止めようがないのだ」

「リドス連邦王国は惑星連盟に加盟しているのだろうか?」

「もちろん、加盟している。だが、我々はあまり自分たちの力を誇示することはしないので、惑星連盟の中では、新参者扱いされて、重要な地位にはついては居ないのだ」

「リドスでは、それでいいと思っているのだろうか?」

「これまでは、ダルシア帝国がにらみを利かせていたので必要が無かったのだ。だが、これからはそうもいくまい」

 ファグル司令官は惑星連盟について、どう扱ったものか迷っていた。要塞の政治代表に、早くこの問題について何とか意見をまとめて欲しいものだと考えていた。それには、この話を聞いてもらわなければならない。それは果たして可能なのかと言うと、彼らにはとてもその余裕があるとは思えなかった。

「困ったものだ」

と、つい愚痴が出てしまって、ファグルはしまったと言う顔をした。

「まあ、秘書のギアス・リードは別にして、他の二人は惑星連盟のことなど考えてもいまい」

 失言の後ファグル司令官はしばらく黙っていたが、

「実は、まだ魔法と言うことが信じられない。提督は魔法使いだということだが、ここで何か見せてもらえないものだろうか?」

と、言った。

「魔法と言うのは、見世物ではない。だが、司令官の言うことももっともだ。まだ魔法と言うものを見たことがないのだからな」

 その時、司令官の卓上のインターホンが鳴った。

「あの、要塞の政治代表一行がお出でなのですが……」

 外の衛兵からの連絡だった。一行というのは政治代表のエルシン・ディゴと副代表のフランブ・リンジと秘書のギアス・リードの事である。

 突然の訪問であるが、

「わかった。政治代表、どうぞおはいり下さい」

と、ファグル司令官は言った。ダールマン提督がこの部屋にいるのは、彼らと惑星連盟について話すのにちょうどいい機会だと彼は思った。

 入って来たエルシン・ディゴ政治代表は部屋の中をざっと見て言った。

「おや?ダールマン提督はどうしたのか?」

「は?」

「外の衛兵が、ダールマン提督が来ていると言っていたのだが……」

「……」

 ファグル司令官はダールマン提督を見ていた。ここに居るではないかと言いそうになって、慌てて口を閉ざした。先ほど、ダールマン提督が魔法を見せると言っていたのを思い出したのだ。そして咄嗟に、

「あの、何のことを仰っているのですか?」

と、ファグル司令官は言った。

 秘書のギアス・リードが、じろじろと部屋の中を見回した。どこかにダールマン提督が隠れているとでもいうようだった。

「外の衛兵が、何か勘違いをしたのでしょう」

「そうか。だがこれだけは言っておく、要塞司令官。君は私の許可なくして、あの大逆人どもと会ってはならん」

と、エルシン・ディゴ政治代表は大声で言った。

「ですが、要塞司令としてはこの要塞の状況や戦力などについて、彼らに聞くことが必要です」

「それなら、私を同席させるべきだ。一人で会ってはならんというのだ」

「わかりました。政治代表がそうおっしゃるなら、これからそうしましょう。それで、お話しというのはなんでしょうか?」

と、できるだけ遜ってファグル司令官は言った。

「私、つまりヘイダール要塞の政治代表に会うには、必ず秘書のギアス・リードを通すように、そして突然私の所へやって来ることはしないように、司令官からこの要塞の士官や兵士、それから一般市民に命じてくれ」

「ええと、それは、どういうことなのでしょうか?」

「最近、政治代表に突然会いたいとやって来る者がいるのです。前触れもなく、少しは礼儀と言う者をここの者達に教えていただきたいのです」

と、フランブ・リンジ副代表が言った。

「政治代表と副代表に、なぜ前触れもなく会いに来るのでしょうか?この要塞の士官や兵士はそれほど暇ではないと思いますが……」

 この三人には見えないダールマン提督が、

「たぶん、連中が士官や兵士や市民の給料をピンハネしているのに文句を言いに来たのだろう。ピンハネした分はこの連中が使う分に入れているからだ」

と、言った。

 ダールマン提督の声は、エルシン・ディゴ達には聞こえないようだった。そこで、ファグル司令官はその声を聞こえないふりをして、

「私は何も聞いてはいませんが、もしかして、何か新しいことを始められたのでしょうか?」

と、聞いた。

「我々がすることに、一々君に許可を取る必要があるのだろうか?」

と、エルシン・ディゴが気短に言った。

「いえ、そう言うことではありません。何か起きると困るので、その前に何をするのか言っていただけると、こちらも対応できると思います。何も知らなければ、何もできますまい」

と、穏便にファグルは言った。

「そうか、それもそうだな。我々もこの要塞で食事をしたりするので、ここの市民たちが貰っている共和国のクレジットを使うことにしたのだ。そのクレジットの金額について、この要塞では税金と言うものがないので、新たに作ることにした。そこから我々の給料を出すことにしたのだ。そのために兵士や士官や一般市民の使うクレジットが減ったので、それについて苦情を言う者が出てきているのだ」

「しかし、わが国では議会が税金などを決める規定になっていたのではありませんか?」

と、ファグルが言った。

「司令官。この要塞には市民の議会はありません。ですから、我々が決めるしかなかったのです」

と、フランブ・リンジが言った。

「しかし、それでは他の者が納得しないのでは?」

「だから、納得しない者たちが政治代表に苦情を言いにくるのです。それについて、苦情を言いに来ないように司令官から命令を出してほしいのです」

と、ギアス・リードが言った。

「呆れたものだ。この連中は独裁をやっていると言う訳か……」

と、また彼らには見えないダールマン提督が言った。

 その声を聞こえない振りをして、

「しかし、それでは民事に私が口を出すことになりませんか?兵士たちの給料のことは私が口を出すことではありますまい」

と、ファグル司令官は言った。

 ファグルはどこまでも謹厳実直な共和国の軍人なのだった。自分の役割をわきまえているのだ。

「それは、私が許可する。彼らに訓示でもいいからするようにしてくれ」

と、エルシン・ディゴ政治代表が言った。

「許可すると言われましても、私はそのようなことに口を出すことはできません。よくない例を残すことだと思いますので」

と、ファグルは断った。

「何だと!私の言うことに逆らうと言うことか?」

と、エルシン・ディゴは逆上して言った。

「そういうことではありません。筋が違うと言っているのです。そのようなことは、政治代表が兵士や市民たちを集めて、話をすべきではないでしょうか?」

と、出来るだけ冷静にファグルは言った。

「う……。と、ともかくそれを考えておいてくれ!」

と言うと、政治代表一行はファグル司令官の執務室を出て行った。


 ため息をついて、

「ダールマン提督、あなたの魔法を見せてもらいました。これは姿を消す魔法なのですか?」

と、ファグルは言った。彼にとって不思議に思ったのは、ダールマン提督が呪文を唱えたようには見えなかったことだ。

「そういうことだ。あの連中にだけ見えなかったのだ。もちろん、声も聞こえなかったが……」

「しかし、何か呪文を唱えたようには見えませんでしたが……」

「これは呪文を唱えなければできないというほど、難しい魔法ではない」

と、平然とダールマン提督は言った。

 ガンダルフでは、古い魔法使いほど呪文を唱えずに魔法を使うことが多い。もちろん、難しい魔法ではなく、彼らにとって簡単な魔法、つまり姿を消すとかそうした類のものだ。

「確か、バルザス提督、つまり銀の月が惑星連盟の艦隊を要塞からその母国へ帰したと言う魔法は、宇宙空間に大きな魔法陣が浮かんだそうですが、今の魔法は種類が別だとでも?」

「銀の月が使ったのは、この間ハイレン連邦の魔法使いに言ったように、最近作られた新しいものだ。だからこれまで使われて来た魔法の呪文とは違う。それに規模も大きいので、きちんと呪文を唱えなければできない魔法なのだ」

と、ダールマン提督は言った。


244.

 タリア・トンブンはタレス人の仲間から、要塞の人々に配られたという用紙を見せられていた。

「何と書いてあるのかわからないが、ここで我々が使っているカードの利用上限がだいぶ削られたと言うのを聞いた。どうしたものだろうか?」

と、イオ・アクナスが聞いて来た。

「これは新世紀共和国の文字なのね。彼らは私たちがこれを読めないとは知らないんだわ」

と、タリアは言った。

「ともかく、急に変わったので皆困っている。どうにかならないだろうか」

 最近、イオ・アクナスはタレス連邦とはあまり連絡を取れていないようだった。彼を監視している仲間から聞いた話である。

「わかったわ。ともかく何が書いてあるのか、聞いてみましょう」

と、タリアは言って、イオ・アクナスと別れた。

 タリアが向かったのはバルザス提督の宿舎である。彼女は当然のように他の者も知っている入り口から入った。中にはいつもの連中がいたが、バルザス提督やダールマン提督はいなかった。

 中でディポック提督を見つけると、

「ディポック提督、ちょっとお話があるのですけれど」

と、タリアは言った。ここで、元新世紀共和国の文字が読めそうな人物は、ディポックしかいないと思ったのだ。

「何かな?」

と、読んでいる本から顔を上げて、ディポックは聞いた。

「これに書いてあることなんですけれど、私達タレス人には読めないので……」

「そうか、あの言語フィールド発生装置は、文字は翻訳できないんだね。どれどれ、…」

と、ディポックは言って、タリアの持ってきた紙を読んだ。

「なるほど、これは……」

と言うと、ディポックはタリアに説明した。

「これには、君たちだけでなく、この要塞に住んでいる人たちの使うカードのクレジットの上限を減らすと書いてあるんだ。減らして、それを溜めて、例えば要塞に必要なものを購入するそうだ」

「え?この要塞のクレジットを溜めたら、そんなことができるんですか?」

「おそらく、難しいだろうね。あのカードのクレジットは、この要塞でしか使えないと思うよ」

 要塞の政治代表はおそらく何か勘違いをしているのだろう。惑星連盟と交易か何かしようとでも考えているのかもしれない。だが、この要塞にしか通用しないクレジットでは役にたたないはずだった。

「しかし、これでは生活に困る人もでるだろうね」

 その紙にはカードの使用上限を、従来の70%までにすると書いてあるのだった。

「確かこの要塞は、自給自足できるのですよね」

「そうだよ。食料や衣服、それに武器弾薬の中でも銃やミサイルなどについてはそうだが、大きな兵器や要塞の装甲については自給自足できない。外から入れなければね。だが、それをする金が要塞にはないのさ」

 それが現在のこの要塞の悩みなのだ。かつて銀河帝国の要塞だったころは本国からこの要塞で作れないものは輸送してきたのだ。現在は銀河帝国にも新世紀共和国にも属していないので、自力で何とかしなければならないのである。

 要塞の新しい政治代表たちは、どうも経済的な感覚がないような気がした。元新世紀共和国やこの要塞でしか通用しないクレジットカードで、どうやってよそからの交易を決済するつもりなのだろうか、とディポックは思った。


 それは、食堂で起きた。

 いつものように一般兵士の食堂では、以前より多くの兵士や士官や市民たちでごった返していた。小競り合いが起きるのも最近は度々あり、そのたびに要塞防御指揮官の部下たちが憲兵の代わりに呼ばれてきては仲裁に当たっていた。

 その日は並んでいる列の途中で、食堂の側のスタッフに、

「もうこのカードには使えるクレジットはありませんよ」

と、タレス人の何人かが言われていた。そのうちの一人が、

「そんな、まだ今月は半ばにも達していないんだぞ。これからどうやって暮らしていくんだ。食べるものもないなんて、そんなひどいことがあるか!第一、この要塞に我々を受け入れてくれたディポック司令官の時は、ちゃんと最後まで使えたじゃないか!」

と、言った。彼はタレス人だと思われた。彼らはカードのクレジットが減額されたということは知らされていなかったのである。

「あんたたちにも、ちゃんと知らせが行っただろう」

「あの紙のことか?あそこに書いてある文字は我々では読めないんだ」

「そんなことを言われても、我々は言われたことをしているだけなので……」

 そこへ、イオ・アクナスが慌ててやって来て、

「こんなところで騒ぐな。このことについては、タリアが何とか考えてくれている」

と、騒いでいる仲間に言った。

「本当か?」

「本当だ」

 まだ確約を取ったわけではないが、きっとタリアが何とかするとイオ・アクナスは考えていた。そうでなかったとしても、何も起きないよりは面白いことになると考えていた。暴動を起こして、この要塞から脱出するとなったら、母国であるタレス連邦へ戻りたいと考える可能性もある。彼、イオ・アクナスがタレスへ帰れるという道を示せばそうなるはずだと、考えていた。

 しかし、食事をとれないタレス人たちの鬱憤は晴れなかった。何しろカードが使えなくなった人数が元新世紀共和国の者達よりもかなり多かったのである。その数を頼んで、食堂で一触即発の事態に発展しそうだった。


その時、

「何をしているんだ?」

と、声がした。

 声のする方を見ると、リドス連邦王国のバルザス提督が立っていた。

「バルザス提督……」

と、食堂のスタッフが安堵して言った。

 タレスから来た人々がバルザス提督の周りに集まって口々に苦情を言うと、

「わかった。つまり、カードのクレジットがないというのだろう?」

と、バルザスは言った。

「そうなんです。我々は知らなかったので、いつものように使っていたのです」

と、タレス人の一人が他の者を代表して言った。

「それなら、これを使えばいい」

と言って、バルザス提督は金色のカードを出した。

「これは、あなたのカードですよね」

「そうだ。君たちがもうカードのクレジットがないというのなら、私のカードを使ってくれ」

「しかし、……」

「大丈夫だ。君たちが使う分はいくらでもある。もちろん、大量にはないが、いつも通りなら大丈夫だ。タレス人のことについては、我々も責任があると思っている。君たちはタリアの仲間だ。タリアは今ダルシア帝国の代表でもある。そしてリドス連邦王国はダルシア帝国の同盟国だ。だから、我々も君たちについては我々にも責任があると思っているのだ」

 だが、バルザス提督の話にすぐ乗るのは躊躇われた。タレス人たちは、迷いながらも列に並んでいる者達の中には、要塞の食堂のスタッフを睨み付けたままの者もいる。

 アリュセア・ジーンとその娘たちもその列に加わっていた。せっかくのリドスのバルザス提督の申し出に、誰も返事をしないことの理由も彼女は分かっていた。クレジットは金のことだ。この要塞のクレジットはここで何か仕事をすれば代償になる。ただリドスとなるとそれをどう返せばいいのかわからないのだ。だからこそ簡単に返事はできないのだ。このままでは要塞の人達とタレス人たちとの間が悪化するのは目に見えていた。

 思い切って列から一歩出ると、

「ダルシア帝国とリドス連邦王国は同盟国だというのは知っているわ。でも、私たちはダルシア人じゃない」

と、アリュセアが言った。

「だが、ダルシア帝国はたくさんの領土がある。それに他の国にはない、技術や知識もある。だから、ダルシア帝国の代表であるタリア・トンブンはかなりの資産を持っているのと同じなのだ」

と、バルザス提督は言った。

「つまり、ダルシアの技術や知識をお金に変えることができるということ?」

「そうだ。例えば、この要塞にだって売れるのではないかな?それとも、タリアはそれに反対するというのかな?」

「タリアは、おそらく反対しないわ」

と、アリュセアは言った。タリアにとっては、タレスの仲間は大切なのだ。

「そうよ、そうよ!」

と、他の者達も同意した。

「そ、それなら、いいでしょう」

と、始めに文句を言った人物が言った。

「では、そうしてくれ」

と、バルザス提督はカードを食堂のスタッフに渡して言った。

「提督ご本人がいいと言うのなら、いいでしょう」

と、そのスタッフは言って、カードを受け取った。

 それで、タレス人についてはその場の騒動は収束したのだった。

 だが、要塞の兵士や一般市民はタレス人ではない。彼らについては、要塞の政治代表の言う通りカードの上限の70%しか使えないことになる。タレス人についての騒動がバルザス提督のカードで収束したことで、返って不満が溜まるような雰囲気であった。


 カトル・ファグル要塞司令官とダールマン提督との話はまだ続いていた。

 ファグル司令官は、ハイレン連邦が要塞に来た理由についてダールマン提督に訊ねた。

「ハイレン連邦の言っていた魔法同盟というのは、どういうものなのだろうか?」

「ジル星団において、昔あった同盟のことだ」

と、ダールマン提督は説明を始めた。それはジル星団においてかなり昔にあった同盟で、今はない。

 魔法同盟と言っても、ダールマン提督の知っている魔法同盟は三つほどあった。そのどれもが現在まで続いていないことは、その同盟の難しさを物語っている。古い方から第一次魔法同盟、第二次魔法同盟、第三次魔法同盟と呼ばれ、三回作られていた。それぞれの同盟の年代はかなり離れており、どれもジル星団の古い国の者たちが中心に参加したもので、ダルシア帝国は参加していない。

 魔法同盟とは、原則として魔法使い達の同盟である。魔法使いと言っても種族からしてそれぞれの惑星ごとに違うし、魔法の呪文や使い方も少しずつ違っていた。それと言うのも、ガンダルフの『大賢者』と呼ばれるレギオンがそれぞれの惑星に生まれてその星の言葉で呪文を綴り、その地に相応しい魔法にしたからである。

 第一次魔法同盟は、実はまだ魔法使いがいなかった時代のものである。つまり最初のガンダルフ人がいた時代の同盟で、主に古い国々の特殊能力者が参加していた。当時はダルシア人がジル星団で暴虐を極めていた時代なので、対ダルシア帝国同盟でもあった。これは、ダルシア人が変化したことにより解消した。その特殊能力者の中から呪文を綴る者が出て魔法が作られたのはガンダルフの『大賢者』レギオンから始まる。そのため第二次魔法同盟から魔法使いが参加するようになった。当時は特殊能力者と魔法使いの同盟だった。第三次魔法同盟は魔法使いだけが参加した同盟で、当時暴虐な振る舞いをしていたのはゼノン人なので、対ゼノン帝国同盟と言われたものである。これは惑星連盟がダルシア帝国とナンヴァル連邦によって作られた時に自然解消した。

 基本的に魔法というのは人間の元々持っている念という力でなりたっている。だから、魔法を使えないという者はいないと言える。だが、実際に魔法を使いたいと思ったならば、魔法使いとして念の使い方や様々な呪文を覚えなければ一人前にはなれない。そのための修行は最低でも十年はかかると言われていた。

 ハイレン連邦の魔法使いが突然やって来たのは、魔法同盟よりも、それによって新しく作られた宇宙空間でも使えるという呪文を手にしたいと思ったのではないかと、ダールマン提督――レギオンは考えていた。

 ジル星団において魔法は、ガンダルフのレギオンがそれぞれの星で始めたものだ。ただレギオンが去って後、魔法自体は少しも変化や進化はなく、返って記録されている呪文の数が歳月と共に減り、衰退しつつあると言うのが現状だったのだ。もちろん、何とか現状を維持している惑星もあるが、少数だった。

 だが全体的に魔法そのものが衰退しているという危機感が、彼の訪問の前提にあるというのは確かなことだった。

 ここまで話して来て、

「さて、これからどうするか、今考えているところだ」

と、ダールマン提督が言った。

「これから考えるのか?」

と、ファグル司令官は驚いて言った。

「何しろ、ここのところ、ジル星団を留守にしていたものだからな」

「それは、銀河帝国に生まれていたと言うことか?」

「その通り。銀河帝国に生まれて、オルフ・オン・ダールマン提督になったわけだ。帝国には魔法使いなどとう職業はなかったのでな」

 それはダールマン提督が話しているというよりも、ガンダルフの魔法使いレギオンが話しているようにファグルには思えた。


245.

 惑星カルガリウムでは、住民全員の転送が終了していた。

 カルガリウムの軌道上で警備に当たっていたグーザ帝国の残存艦隊は、地上の様子に気が付いた様子はなかった。というのも、最初は少数で転送していた住民を、今回はリドス連邦王国の都市を丸ごと借りることになったので、リドス本国の遠隔地まで転送できる大型の転送装置で多くの住民を一度に移動させることになったからだった。

 ある日の夜、グーザ帝国の艦隊のシュドルラ中尉が地上を見ていた時、どの都市にも明かりが付いていないことを発見した。夜になった時に、普段なら明るく輝く都市が、暗いままになっていることに気が付いたのである。

(電気エネルギーの供給を止めたのだろうか?)

と最初彼は思ったが、自分たちはそこまではしていないと思い、カルガリウムの住民担当のガンデルラ中尉に聞いてみることにした。すると、電気エネルギーの供給を切ってはいないが、最近使われていないことを発見した。

 これは妙だった。都市の住民が電気エネルギーなしに生活できるわけがないのだ。ともかくシュドルラ中尉は直属の上司に報告した。


 グーザ帝国から来た者たちにとって惑星カルガリウムの地上に降りて住民に会うということは、これまでできるだけ避けてきたことだった。それは、少々肉体的特徴がふたご銀河のロル星団に住む種族と違いがあったからである。ここの住民とは違って、耳が丸く大きいのがグーザ人の特徴だった。そのため、特徴の違いを隠すためにも、必要なときのみカルガリウムの支配層の少数の者達だけに会っていた。

 身体的特徴を隠すのは、自分たちの出自を隠すことが必要だと考えたからだ。ふたご銀河のロル星団の種族には、耳が丸く大きな種族はいない。自分たちがどこからきたかわからないとカルガリウムの連中に思わせることが重要だった。

 しかし、今回すべての住民が消えたという事態に、調査のために地上にシャトルで降りるほかなかったのである。

 惑星カルガリウムの都市は住民がいないと言う以外は、特に変わった点はなかった。発電所に異常があったわけではなく、ただ、明かりをつける人間がいなくなっただけのようだった。

「都市自体の機能が悪化したのではなく、インフラも正常に機能していましたし、人がいないだけのようです」

と、調査に出たシュドルラ中尉が報告した。そして、

「ただ、個人宅に入ると、テーブルに食事がまるで今すぐに食べられるように置いてあったりしましたので、住民がいなくなったのは突然に起きたことではないかと思われます」

と、続けた。

 それは都市の交通システムでも同じだった。道路上で車が置き去りになっていたのである。中を見ると、車を使うために入れるカード入れには、カードが入れたままになっていた。車は衝突する前に自然に止まったようだった。

「妙だな。確か、これと似たようなことが、ヘイダール要塞を占領した時にも起きたと聞いている」

と、惑星カルガリウムの残存艦隊のヒュードルラ提督が言った。今回の事件は重大事だと思われたので、直接提督が報告を聞くことにしたのだ。

 ヘイダール要塞へ向かったキンドルラ提督の艦隊が要塞を占領するのに成功したものの、要塞にいた敵の兵士たちがまるで煙のように消えたと言う報告があるのだ。その後何があったのか詳細はわからないが、味方の艦隊が何かに追われるように要塞から出て、ある地点からグーザ帝国の存在する銀河に戻ったという連絡があった。後から詳細が追って来たが、それによると、要塞にいた者たちが消えた後、多くの異常現象が起きて、士官や兵士達の精神がおかしくなり要塞から出ざるを得なかったというのだ。しかも、その時に司令官を始め何人もの士官を置いて来たというのだ。

 これは大変なことだった。その後、ヘイダール要塞からは何の連絡もない。置き去りにされた者たちがどうなったのか皆目わからないのだ。

 この惑星カルガリウムの住民が消えた現象が、ヘイダール要塞の時と同じものかどうかはわからなかった。地上に降りる機会がほとんどなかったからである。あの都市に入ると異常な現象が起きるのかもしれないが、今それを確かめるような危険は避けるべきだと、提督は考えた。

 なぜなら、遠く離れた本国からの支援は今のところすぐにはないだろうからだ。

「ともかく、住民が消えたことは確かなようだ」

と、ヒュードルラ提督が言った。

 その時、

「提督、本国からの暗号通信が来ました」

と、通信担当の士官が報告に来た。そして、通信文を提督に渡し、戻って行った。

 暗号文を翻訳した通信文を一読して、

「困ったことになった」

と、ヒュードルラ提督は呟いた。

「失礼ですが、聞いてよろしいでしょうか?何が困った事なのでしょうか?」

と、シュドルラ中尉が聞いた。

「いいだろう。このカルガリウムの結晶鉱山から、エネルギー結晶石を至急掘れと言って来たのだ」

「本国では、それほどエネルギー結晶が不足しているのでしょうか?」

「一般にはできるだけ伏せているのだが、このままではあとに三年分しか持たない状態なのだ。それに、今回のような大艦隊を動かすと、その分減る率が高くなる」

「では、急いだ方がよいのではないでしょうか」

「そうだな。幸いなことにその鉱山はカルガリウムの都市から離れたところにある。これまでここの住民が住み着いていない地域にあるのだ」

 ヒュードルラ提督は地上に鉱山技師や機動兵器を降ろして、鉱山からエネルギー結晶の鉱石を掘る準備を進めることにした。

 それにしても、ヘイダール要塞に置いて来てしまったキンドルラ提督とその部下たちはどうしているのだろうか。提督は彼らの心配をしてはいるのだが、彼の立場としては救出に動くことは今の所不可能なのだった。


 金の竜は、ヒュードルラ提督の傍らに佇んでいた。

 金の竜は銀河帝国の首都星ロギノスでジェグドラント伯爵と会い、あの骸骨の存在を確かめたのち、惑星カルガリウムに寄り道をしていたのだ。そして、提督とシュドルラ中尉の会話を聞いていたのだった。もちろん、グーザ帝国の者達には竜の姿は見えてはいない。

(やれやれ、まだこの連中とは色々とあるだろう。今は追い返すことはできないか……。)

と、金の竜はため息をついた。そして、背中の金色の羽を伸ばすと、竜は軽々と旗艦の壁や天井を何の障害もなく突き抜けてカルガリウムの軌道上に出て、異次元の宇宙空間に羽ばたいた。その後一路、ヘイダール要塞を目指して飛んで行った。

 金の竜は人の目には見えなかったし、カルガリウムの軌道上に待機しているグーザ帝国の艦隊の探知機にも反応しなかった。金の竜はこの世の存在ではないのである。金の竜は元ダルシア人だった。その名をライアガルプスという。ダルシア帝国の皇帝、いやライアガルプスは女性であるので、女帝というべきかもしれない。

 もっとも、ダルシア帝国と言っても名前が帝国というだけで、銀河帝国のような帝国ではない。女帝と言っても、それはダルシア人の指導者と言う意味に近い。なぜなら人間族のように家族や血族という社会慣習のないダルシアでは、代々続く家柄もないからだ。ただ、寿命が非常に長かったので、他の惑星の人々には同じ名前の血族の家が続いているように思えたのだ。

 言語フィールド発生装置は他言語同士を翻訳するのだが、同じ帝国という翻訳になっても銀河帝国とダルシア帝国とではかなり社会組織や政治制度は違うのだった。ただ、指導者に強権があるということだけは似ている。

 グーザ帝国にしても同様である。帝国というとどうしても頂点にいるのが皇帝でその下に家臣や貴族がいると考えてしまうが、グーザ帝国では状況が違っていた。確かに頂点にいるのは一人の独裁者で強権をもっていた。だが、その下に家臣や貴族がいるわけではない。その形態は不思議なことにダルシア帝国に似ていた。

 このように言語フィールド発生装置の翻訳はかなり大雑把なところがあり、正確を期す場合にはTPの存在が必要だった。

 ダルシア帝国とグーザ帝国のどちらの帝国も出生に関しては、人工的な人口調節が行われていた。グーザ帝国では血筋と言っても、同系統の卵子と精子で受精させたと言うことに過ぎない。今は亡きダルシア帝国は億年の昔から人工授精が行われていて、肉体寿命もはるかに長かった。

 ダルシア帝国のダルシア人は特殊能力について、ガンダルフの最初の人々に学んでいた。億年の昔ではあるが、当時のダルシアはすでに宇宙文明を築いていた。それはまた、ガンダルフに魔法の呪文が生まれる前の話である。

 かつてガンダルフに魔法使いはいなかったのだ。それに、科学や機械文明もそれほど発達してはいなかった。ガンダルフの最初の人々が使っていたのは特殊能力だった。誰でも持っていると言われる念力を始めとして、彼らは透視能力やTP,瞬間移動、それに予知や過去知などの様々な特殊能力を持っていた。

 その特殊能力がどのようなものであるかを、ガンダルフの最初の人々は熟知していた。そうした力の元がどんなものであるか、その本当の源が何であるかを知っていたのだ。

 そうした力は、この世のものではなく、あの世、つまり異次元にその源はあった。そして、そこは魂のよりどころ、死んだ後の魂が戻る世界でもある。『誕生』と『死』について、彼らは宇宙文明に達したダルシア人も知らない知識を持っていたのだ。

 『誕生』と言うことに関しては、必ず個人の魂がこの世に生まれる時、その人生についてどうするか一応計画して生まれてくるということを彼らは知っていた。国の頂点にあるべき者はそれを選んで生まれてきており、その下、つまり家臣や部下になる者達もそれを選んで生まれてくるということが事実であることを知っていたのだった。そして一番重要なのは、生まれて来てからの個人の努力だと考えられていた。そうなるべく生まれて来たとしても、この世の努力によって生まれる前の計画が上手くいったり、あるいは失敗したりすることも十分有り得るのだった。もちろん、その個人の努力によっては計画以上の成果を修めることもある。この世は、実に予測のできない世界でもあるのだ。

 そして『死』とは、生まれて来た世界に帰ることである。

 この考え方は、ダルシア人を劇的に変えて行った。科学技術が高度に発達しても、その社会は競争の激しいものだった。性格も凶暴なダルシア人は共倒れしかねない種族だった。事実共食いも習慣としてあった。それがしだいに温和になって行ったのだ。

 ガンダルフの最初の人々がふたご銀河を去ってから、そうした知識を持つ種族はダルシア人とわずかの国しかなくなってしまった。ジル星団の古い国々にしても、ガンダルフの最初の人々に学んだのだ。それほど、ガンダルフは億年の昔から特異な惑星文明を築いていたのだ。



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