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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
29/153

ダルシア帝国の継承者

223.

 ディポック司令官との話が終わると、マグ・デレン・シャは部屋を辞した。

 マグ・デレン・シャにとって、一人で出歩くのは珍しいことだった。いつもは、警護だと言ってタ・ドルーン・シャが付き従っていたからだ。それが気に入らないというわけではないが、たまには一人で出歩くのも悪くはない。彼女は幾分ウキウキした気分になっていた。

 その時、突然周囲が灰色に変わった。同時に今まで聞こえていた他の人の話し声や歩く音、要塞内に響く呼び出しが聞こえなくなった。

(おや?何か変だわ)

と、マグ・デレン・シャは思った。

 気が付くと目の前に、少女がいた。

 その少女は微笑んで、マグ・デレン・シャを見ていた。珍しいことだ。この要塞ではナンヴァル人は珍しいので、子供は驚くか怯えるかのどちらかの反応を示す。竜族であるナンヴァル人は、あまり彼らの好む容姿ではないのだ。

「あなたは?」

と、勇気を出してマグ・デレン・シャは聞いた。

 だが、すぐに少女は答えず、ゆっくりとマグ・デレン・シャに近付いて来て、首を傾げた。

「私を忘れてしまったの?」

と、少女ははにかんで、少し困ったように言った。

「あなたと、どこかで会ったことがあるかしら?」

と、マグ・デレン・シャは思い出そうとしながら言った。

 少女は自分よりも背の高い相手を見上げて、

「あなたは随分背が高くなったのね。前は私と同じくらいだったのに」

と、幾分寂しそうに言った。

「でも、それはだいぶ前のことだわ。それじゃ、あなたは少しも変わらないということ?」

 ナンヴァル人であるマグ・デレン・シャは、齢二百年になろうとしていた。ナンヴァル人の寿命は五百歳と言われているが、平均は四百歳で、五百歳まで生きる者はまれである。

「思い出せないわ。私も年を取ったということね……」

と、マグ・デレン・シャはため息とともに言った。

 ナンヴァルでは、二百歳といえば働き盛りの年である。まだまだ若いと言われる年齢だった。しかし、人間族は百歳まで生きる者はまれである。

 そうするとこの少女は今から百五十年以上前にマグ・デレン・シャに会って、そのまま外見が変わらないと言っているのだ。マグ・デレン・シャは、やっと思い出した。

「もしかして、あなたはリドス連邦王国の王女なのかしら?だとすると、第六王女だったから六の姫なの?」

と、マグ・デレン・シャは言った。昔、彼女が小さかった頃にリドス連邦王国の第六王女殿下に会ったことがある。今まで忘れていたが、そう言えばあの時のままの少女の姿だった。

「私のこと、思い出してくれたのね」

と、嬉しそうに少女は言った。

「こんなところで会えるとは思ってもみませんでした。いつこの要塞へ来られたのですか?」

と、マグ・デレン・シャは尋ねた。目の前の少女がリドス連邦王国の第六王女殿下だとしたら、二百歳の彼女よりもはるかに年上のはずだった。

「ずっと前から、ここにいたわ」

「ずっと前から?でも要塞であなたの姿を見たのは、私は初めてですけれど……」

「私はかくれんぼをしていたの。ここには友達もいるし……」

「あなたの友達?その人はなんていうお名前なのですか?」

「シターラ・ギャビと言うの」

「ギャビ?もしかして、要塞事務監という方でしょうか?」

と、マグ・デレン・シャはノルド・ギャビの顔を思い浮かべて言った。

「シターラのお父さんはそういう名前ね」

 なぜ今六の姫は自分の前に現れたのだろう、とマグ・デレン・シャは思った。すると、

「デレン、あなたにこの要塞の政治代表になって欲しいから……」

と、六の姫は言った。

 突然のことで少々驚いたが、

「でも、私は人間族ではないし、この要塞のこともよく知りません。私がこの選挙に立候補するというのは筋違いではありませんか?」

と、マグ・デレン・シャは言った。それが、彼女の今回の件での結論だった。

「今は、誰が成っても同じこと。でも、あの議員たちでは、いずれどうにもならなくなってくる」

と、六の姫は言った。

「これから、何が起きるというのでしょうか?」

「さあ、それは……」

 曖昧に言うと六の姫は、片手を自分と同じくらいの高さに挙げた。すると、そこにもう一人の少女が現れた。

「シターラ、こちらはナンヴァルのマグ・デレン・シャよ」

と、六の姫は言った。

 シターラというと、今話に出たギャビ事務官の娘である。

「初めまして、マグ・デレン。私はシターラ、でももう一つ名前があるの。ヒステリアスと言います」

と、シターラは言った。

「ええと、ヒステリアス?その名前は、ご両親に付けてもらったのかしら?」

と、マグ・デレン・シャは聞いた。

「いいえ。これは、シターラとして生まれてくる前に名乗っていた名前なの」

「生まれてくる前に?」

「そう。私は遠い銀河から仲間を連れてこのふたご銀河に移住してきました。私たちは、ここで新しくやり直すことを望んでいます。今、私の仲間は新世紀共和国に多く生まれてきているのです。この要塞にもいます」

「まあ、そんなこと初めて聞くことだわ。六の姫が知っているということは、リドス連邦王国は知っているということかしら?」

「そうです。ここに来るときに、私はリドスの女王陛下に相談しました。ダルシア帝国の方にも相談しました」

 ヒステリアスと名乗った、シターラ・ギャビは、ナンヴァル連邦と相談したとは言わなかった。

「そうなの。それで、私にどんな話があるのかしら」

「この要塞の政治代表になって下さい。私は、この要塞がこれから大変な時期を迎えることが分かっています。それだけではなく、あの議員たちでは、何かが起きた時に、適切な判断ができないことを案じています。特に、彼らは私達のことを理解できないでしょう」

と、シターラは懇願した。

「でも、あなた方はすでに新世紀共和国の人として、生まれてきているのでしょう」

と、マグ・デレン・シャは言った。それなら、何の問題もないと思った。

「私たちは、タレス人と同じなのです。私たちも特殊な能力の所為で、母国から逃れて来るしかなかったのです」

「あなた達もそうなの?」

「それに、私たちの母国の者達がいずれ、ここへやって来る時が来ます。私たちを追って、私たちを滅ぼすために。この銀河で彼らは、私たちの船の残骸を見つけるでしょう。そのとき、彼らはこの銀河で私たちが子孫を増やしていると思うでしょう」

「船があるのなら、そうではないのですか?」

「私たちの肉体は、あまり強くはないのです。ここに肉体を持って移住してきた者達は、ほとんど死に絶えました。もう一人しか残っていません。肉体の子孫は残っていないのです。だからこそ、新世紀共和国の人々の中に生まれてきているのです」

「あなたのご両親はあなたの母国から来た人なのかしら?」

と、マグ・デレン・シャは聞いた。

「いいえ、彼らは元々ふたご銀河のロル星団の人間族です。昔はアルフ族と言っていたそうです。ですから私達とは何の縁もありません。ですが、今回初めて彼らと縁を持つことになりました。言葉を変えれば、私が彼らの子供として生まれてくることを許可してくれた恩ある方々なのです」

と、シターラは言った。

 その言葉が終わると要塞のいつもの騒音が始まったことに、マグ・デレン・シャは気が付いた。周囲を見回すと灰色から色のついた情景に戻っていた。

 そして二人の少女は、まるで最初から存在しなかったように、消えていた。


224.

 ナル・クルム少佐は惑星カルガリウムからの転送について、サムフェイズ・イージー少佐とその開始時期や転送先に付いて話をしていた。あまり長く彼らを放って置くことは、よくないと考えていたのだ。それでなくともグーザ帝国の艦隊はまだカルガリウムに残っているのだ。ヘイダール要塞に彼らの艦隊が敗北したことはとっくに情報を得ているのに違いない。元新世紀共和国の一般の市民がどのような扱いを受けるが分かったものではない。

 ナル・クルム少佐とサムフェイズ・イージー少佐は、司令室の以前と同じ本来の転送装置のある場所にいた。今現在はその場所は、司令室のどこからも見えなかった。ただ、そこへ行く方法は、一部の者しか知らなかった。簡単な呪文を使って行くのである。

 選挙が始まって唯一良かったことは、議員たちから転送装置についてあれかれ聞かれることが無くなったことである。彼らはそれどころではないのだ。ただし、選挙が終わったらどうなるかわからない。だから実のところ、サムフェイズ・イージー少佐は議員以外で要塞の政治代表にリドス連邦王国の連中が推薦しているという、ナンヴァル人のマグ・デレン・シャが立候補してくれて、当選してくれたらいいのにと考えていた。

「問題は彼らをどこへ送るかだわ」

と、サムフェイズ・イージー少佐は言った。

「それなら、リドス連邦王国の一時滞在できる都市について、詳しく聴いた方がいいのではないか?」

と、ナル・クルム少佐が言った。

「そうね。今は選挙で忙しいし、ここに連れて来てもあまりよくないかも」

 転送装置で急に要塞にやって来た人々に、選挙権はない。彼らまでそれを許すと収拾がつかなくなるからだ。それは議員たちと司令官とで確認済みの事項だった。

「バルザス提督にその件については、調査を頼んでいるから、どうなっているか聞きに行ってみるわ」

と、サムフェイズ・イージー少佐が言った。

「そうだな、早い方がいいだろう。私も一緒に行ってもいいだろうか?」

「それは構わないけれど、どうかして?」

「ちょっと、気になることがある」

 司令室から転送装置のある場所は見えないが、二人のいるところから司令室は丸見えだった。もちろん、声も聞こえる。だから、司令室の雰囲気が伝わってくるのだ。ここのところ、どうも司令室の雰囲気が妙なのである。選挙の話で落ち着かないのかと思ったら、陰でつまり士官や将官のいない場所では幽霊の話が盛んだったりするのだ。

「もしかしたら、あの話なの?」

と、サムフェイズ・イージー少佐は言った。

 最近要塞に銀河帝国の皇帝の幽霊がいる、という噂が立っていた。誰それが見たと言う噂から、誰かと話しているという噂も聞いていた。一体誰が立てているのか、本当のことなのか、ナル・クルム少佐は気にしていた。だから、惑星カルガリウムの住民の転送の件を出しにして、バルザス提督に会いに行った時にその噂の真偽を聞きたいのだ。

「幽霊というのが、どうも変な気がするけれど……」

 要塞にいる者達はほとんどが元新世紀共和国の出身である。そこへ、どうして銀河帝国の皇帝の幽霊が現れるのか?銀河帝国が新世紀共和国に侵略されて滅びたというのならわかるが、事実は逆なのである。

「幽霊は居ないということか?」

と、ナル・クルム少佐は聞いた。

「そうじゃないわ。幽霊というより、霊は居ると言うのが、リドス連邦王国では当たり前の考えだわ。でもその皇帝の霊が何のためにこの要塞に来たのか、それが問題でしょう?幽霊というと、何だかあまりよくない理由を考えてしまうから」

と、サムフェイズ・イージー少佐が言った。

「すると、何か理由があって来たというのか?」

「そうよ。でもその理由がわからない」


 バルザス提督の宿舎は要塞の副司令室として使えるという部屋だった。

 サムフェイズ・イージー少佐とナル・クルム少佐は、そこで銀河帝国の二人の提督ウルブル・フェルラー提督とアルトラス・ヴィル提督が来ていることに気づいた。二人の提督は最初に会った時と違った顔をしていた。元新世紀共和国の議員たちが来たので、要塞内で知られてしまった魔法で変えた顔をまた別の顔に変えたのだ。

「要塞に皇帝の幽霊がいると聞いたが!」

と、ウルブル・フェルラー提督が勢い込んで聞いていた。その声は元のままだった。

「誰からそんなことを聞いたのですか?」

と、バルザス提督は言った。

「噂になっているのです。本当なのですか?」

と、ウルブル・フェルラー提督よりは冷静なアルトラス・ヴィル提督が聞いた。二人ともどこかで皇帝の幽霊がいるという噂を聞いたのだ。

「それは、ですね……」

と言って、バルザス提督はサムフェイズ・イージー少佐とナル・クルム少佐に気づいた。

「おや、どうしたんですか?二人とも」

と、バルザス提督が言った。

「私たちも、そのお二人の話と同じことを聞きたくて来たんです」

と、サムフェイズ・イージー少佐が言った。

「あなた方もですか……」

と、呆れたようにバルザス提督は言った。

「その話はもしかして、機密事項なのかな?」

と、ナル・クルム少佐は皮肉を言った。彼も銀河帝国の二人の提督が来ているとは思わなかったのだ。だが、聞きたいことは同じだった。

「仕方がありませんね。向こうの部屋に行きましょう」

と、バルザス提督は言った。


 ナンヴァル人のケル・ハトラス・ナン大佐は、慌ただしい人間たちの動きを見ていた。

「あの皇帝というのは、どこの皇帝なんだ?」

と、ケル・ハトラス・ナンは傍にいるタ・ドルーン・シャに聞いた。彼も噂を聞いていたのだ。

「銀河帝国の前王朝の皇帝だ。今の皇帝は前王朝を簒奪して新王朝を立てたという人物だと聞いている」

「すると、恨みを晴らしたくてやって来たのか?」

「さあ、私には詳しいことはわからない。だが、恨みを晴らしたいなどと考えるような者が、本国から遠いこの要塞まで来られるとは思えない。そうした者は、自国や今いる場所から動けないはずだ。それに、この要塞で誰に対して恨みを晴らすというのか理解できない」

 ナンヴァルでは、司祭階級の者が、古くからの知識や言い伝えで霊に関することを教えていた。それによると、恨みなど、悪想念を持つ霊というのは自分のいる場所から離れることはできない。生きている時のことはともかく、自らのことをしっかりと反省し、感謝の気持ちを持っている霊は高い霊域に昇り、自由に移動することが出来ると言われていた。

 タ・ドルーン・シャは、マグ・デレン・シャがなかなか戻ってこないことを心配していた。だが、ケル・ハトラス・ナンを一人にしておくことはできなかった。何をするかわからないと思っていたからだ。

 実際、ケル・ハトラス・ナンは迷っていた。ここに残ったのは、マグ・デレン・シャと要塞の動静をナンヴァルに知らせるためである。上辺は、銀の月に従うような恰好を見せていたが、心の中はいまだナンヴァルの現在の調整官であるクラウ・トホス・トルに忠誠心を持っていた。

 ナンヴァルでは、長年の司祭階級の支配を打破することが正義だと信じる勢力が勝利したのだ。ケル・ハトラス・ナンの属する軍人階級は司祭階級に次ぐ階級であったが、司祭階級の調整官のすることが公平ではないと不満を抱く者が多かった。

 司祭階級はその価値観をこの世ではなく、あの世に置いていた。だから、目で見え、肌で感じる公平さが他の階級とは少々異なっていた。同じ種族であるにも関わらずその価値観の相違は建国時からしだいに、他の階級とはあまりにもかけ離れたものになっていたのだ。

 それに拍車をかけたのが、同じ竜族であるゼノン帝国の隆盛であった。ナンヴァル連邦はゼノン帝国と異なり、次第に衰退していくのが、多くの国民には分かっていた。だからこそ、ナンヴァルの伝統を捨てて、ゼノン帝国のような体制を取ろうという勢力が大きくなったのだ。

 だが、肝心の司祭階級もその霊能力に陰りが出て、数も少なくなっていた。古くからの知識や経験を伝えることも、硬直した階級制が邪魔をして他の階級に伝えることが出来なくなっていた。そうした様々な要因が重なって、ナンヴァル連邦は衰退を招いていたのだ。

 それを打破しようとして、商人階級のクラウ・トホス・トルがクーデターを起こして調整官となった。彼はすべての階級の希望だったのだ。だからこそ、前調整官が次代の指導者としようとしていたマグ・デレン・シャを無視することはできなかった。再びナンヴァル連邦に司祭階級の支配を打ち立てようとされては困るのだ。

 しかしケル・ハトラス・ナンは、マグ・デレン・シャと一緒にいて、その人となりについて勘違いをしていたのではないかと思うようになっていた。彼女は彼にこの仕事を命じた者達の言うことと違って、飽くなき権力への希求などもってはいない。常に、他の人々の役に立つことを考えるような人物だった。

 ケル・ハトラス・ナンは、自分のしていることに疑問を感じ始めていた。

 バルザス提督は、そうしたケル・ハトラスの心の中の動きを敏感に感じ取っていた。


「さて、噂のことですが、銀河帝国の元皇帝ヨツンガルドス八世陛下が来ているのは本当のことです」

と、バルザス提督は隠すことなくはっきりと言った。

「何だと!ヨツンガルドス八世だと!」

と、ウルブル・フェルラー提督は唸った。彼にとっては、敵の名だったのだ。だが、その人物は死んだはずだったと思い出して、彼は眉を潜めてアルトラス・ヴィルと顔を見合わせた。

「待ってください、ヨツンガルドス八世陛下はすでに亡くなった方です。その方がどうしてこの要塞へやって来たのですか?」

と、アルトラス・ヴィル提督は冷静に聞いた。当然の疑問である。

「私から言わせて貰えば、すでに亡くなっているからこそ、この要塞に来ることが出来たのです。生きている人間なら宇宙船でなければ、来られませんからね」

と、バルザス提督は言った。

「じゃ、その皇帝陛下とやらと話をしたのね?」

と、サムフェイズ・イージー少佐が興味津々に言った。そのキラキラとした目は霊が本当に要塞にやってきて、しかも話ができるということが信じられないような事実だと語っていた。

「で、そのヨツンガルドス八世とやらは、いったい何をしにやってきたのだ?ただ世間話をするために来たわけではあるまい」

と、ナル・クルム少佐が辛辣に言った。

「もちろんです。ヨツンガルドス八世陛下は、現皇帝リーダルフ・ゴドルーイン陛下のことを大変心配されていました」

と、バルザス提督は正直に言った。

「何と、自分の仇ともいえるリーダルフ陛下のことを心配してきたと言うのですか?」

と、驚いてアルトラス・ヴィルは言った。

 正確に言えば、前王朝のヨツンガルドス八世は病没したのだった。現皇帝のリーダルフが弑したわけではない。だがその後、政治の実権は臣下だったリーダルフ・ゴドルーインに握られることになった。そして数年の後に、オルボダルト王朝は廃され、ゴドルーイン王朝が創設されたのだ。だから見ようによっては、前王朝の皇帝が新王朝の皇帝を恨んでいてもおかしくない。

「何か、勘違いをされていませんか?ヨツンガルドス八世は別にリーダルフ陛下を恨んではおられません」

と、バルザス提督は言った。

「そうだろうか?そのリーダルフ陛下にオルボダルト王朝は滅ぼされたのではないか?」

と、ナル・クルム少佐は言った。

「そのようなことは、もう過ぎたことです。ヨツンガルドス八世陛下は少しも気にしておられません」

と、バルザス提督は言った。

「それで、その心配というのはどういうものなの?」

と、サムフェイズ・イージー少佐が聞いた。

「それは、例の『死の呪い』の件です。リーダルフ陛下がその『死の呪い』を掛けられているのを心配して来られたのです」

と、バルザス提督は言った。

「そのようなことは、とても信じれらない。本人がそう言ったのか?」

と、ナル・クルム少佐は言った。

「そうです」

「他に何か企んでいるのではないか?」

「何をですか?」

「つまり、オルボダルト王朝の再興を企んでいるのではないか?」

と、ナル・クルム少佐は執拗に聞いた。

 アルトラス・ヴィル提督は、ナル・クルム少佐を不思議そうに見た。なぜこれほど、ヨツンガルドス八世に拘るのだろうか。クルム少佐はリドス連邦王国の士官だとばかり思っていたが、銀河帝国と関わりのある人物なのだろうか、と彼は思った。

「そのようなことはありません。ヨツンガルドス八世陛下は、リーダルフ陛下を支持しておられます」

と、バルザス提督ははっきりと言った。

「そのようなことはあり得ない。そのリーダルフという人物はオルボダルト王朝を滅ぼした者ではないか?」

と、クルム少佐は言った。

 ウルブル・フェルラー提督は自分が言うべきことをクルム少佐に言われてしまい、黙っていた。一体、このクルム少佐は何者なのだ、と疑問が湧いた。

「それで、ヨツンガルドス八世陛下はまだ要塞にいるのかしら?」

と、サムフェイズ・イージー少佐は聞いた。クルム少佐があまりにもこだわるのを見て、話題を変えようとしたのだ。

「たぶん、まだ居られると思います」

と、バルザス提督は言った。

「どこに?」

と、サムフェイズ・イージー少佐が聞いた。

「さあ、それはわかりません。しばらく前はレギオンの城で話をしていましたが、今は要塞のどこかを見て回っているのではないでしょうか。彼は霊として来ているので、どこに行くのも自由なのです」

と、バルザス提督は言った。


 ギアス・リードはエルシン・ディゴ議員とフランブ・リンジ議員に付き合って、要塞の様々な場所にいる兵士や市民たちと会っていた。

 エルシン・ディゴ議員にとっては、このような活動が選挙にとっては非常に重要であることを経験で知っていた。一般人は一度も会ったことのないような人物よりも、自分に会いに来てくれて握手までしてくれるような人物を好み、投票するのである。

 フランブ・リンジ議員にとってエルシン・ディゴ議員の活動は、それほど重要とは思えなかった。彼女の選挙区は父親から譲られたものあったから、苦労したことはなかった。ただ、要塞は彼女の父親の選挙区ではないということは、十分わかっているつもりだった。だから、彼女の一番の強みである、笑顔を絶やさず、多くの人に会っていた。

 ギアス・リードがこの二人の選挙運動に付いて回っているのは、単に時間潰しのためだった。

 この要塞に入り込んでいる自分と同じ種族であるバウワフルが、別の勢力のものであるとダールマン提督――レギオンに指摘されたが、彼の計画がその所為でとん挫するとは考えていない。彼のこの計画はその時にも、レギオンに漏らしたりはしなかった。それだけ練りに練って来たものであるのだ。

 もっともレギオンの話に興味がないというわけではない。自分とは別の勢力がいるということは、危険もあるからだ。その連中が何をしようとしているか正確にはわからないが、要塞を手中にし、新世紀共和国を併合した銀河帝国を我が物にしようとしていることはわかる。

 つまり最終目的は彼と同じなのだ。それがバウワフルの性だった。ただ、どちらが上手くやるかだけの違いだ。

 ギアス・リードがこのふたご銀河にやって来て以来、長い年月が経っていた。その間にこの銀河を支配するというチャンスを、何度逃したことだろうか。今度こそ、彼の望む最終目的が果たされる時がきたのだ。


225.

 ヘイダール要塞の司令室に通信が入った。

「司令官、通信です」

と、通信員が言った。

「どこからだ?」

と、ディポック司令官は聞いた。

「新世紀共和国の民間船だと言っています」

「元新世紀共和国だろう?」

と、ディポック司令官は間違いを指摘した。

「そうですが、向こうはそう言っています。それに、帝国軍が追ってきていると……」

「何だって?こんなところまで追って来るのは、いったい誰だ?」

 ヘイダール要塞は、ロル星団にある航路から大きく外れている。現在は銀河帝国の宇宙艦隊のパトロールもここまでは来ない。この要塞をディポック司令官が占拠してから、パトロール宙域から外しているのである。銀河帝国の宇宙艦隊は注意深く、要塞には近寄らないでいた。

 彼ら帝国軍にしてみれば、新世紀共和国の常勝提督であり、知将として知られているディポック司令官のいるヘイダール要塞に不用意に近づくことは、非常に危険だと考えているのだろう。

 それなのに向こうから近づいてくるとは、その民間船に何か特別な人物でも乗っているのだろうか、とディポック司令官は思った。

 現在要塞は惑星連盟の艦隊が来襲して要塞自体に大穴を開けて去った後、修復を急いでいるが未だ完全とは程遠い。それに、未だナッシュガルの要塞は衝突したままだ。特に要塞に空いている大穴を銀河帝国の艦隊に見られるのは、大いにまずい事だ。

「ダズ・アルグ提督の艦隊を出す」

と、ディポック司令官は言った。

 ダズ・アルグ提督の元々の艦隊は、ヘイダール要塞の元新世紀共和国の駐留艦隊である。その数は二万あるが、今回ディポック司令官はそのうち一万を動かすつもりだった。

 ダルシア帝国からやって来た艦隊は現在ヘイダール要塞の周囲の哨戒任務に就いている。そちらの方は、ダルシア艦隊の中枢脳がやってくれるので、要塞のダズ・アルグ提督やメイヤール提督が常時乗艦している必要はなかった。

 それにダルシア帝国の艦隊は銀河帝国との戦いにはできるだけ使わないという約束を、リドス連邦王国の魔法使いとダルシアのコア大使やライアガルプス、本国のダルシアンとしていた。ダルシア帝国の艦隊は主に惑星連盟や他の銀河からの侵攻があったときに使うということだ。

 従って今回動かすのは、元新世紀共和国の艦隊だけである。

「了解。ですが、どのあたりまで出張りますか?」

と、ダズ・アルグ提督は通信用の小さなスクリーンから言った。

「帝国の艦隊を要塞近くまで来させたくない。だから、第五警戒宙域まで急行してほしい。そこで、連中を追い払うようにしてくれ」

「了解」

 ダズ・アルグ提督は要塞の駐留艦隊の内およそ一万を連れて出た。最大戦速で、民間船のいる宙域へ急行した。


「司令官」

と、傍でバルザス提督の声がした。

「バルザス提督、何か?」

と、ディポック司令官は言った。

 突然、魔法を使ってバルザス提督が現れるのには、もう慣れていた。

「今出て行ったのは、ダズ・アルグ提督ですね」

「そうです。元新世紀共和国の民間船が要塞へ来ようとしているのです。その後から帝国軍が追ってきています」

「なるほど。ですが、要塞の大穴は多分連中には見えないでしょう。魔法で隠してありますから」

と、バルザス提督はディポック司令官が一番心配していることを見越して言った。

「魔法で隠しているのですか?あんな大きな穴を」

と、ディポック司令官は驚いて言った。

「目くらましです。大したことではありません。ただ、今どうして帝国軍がこの要塞の近くへやって来たのか理由がわかりません。そちらの方が気になります」

「単に民間船を追って来たのではないと思うのですか?」

「そうです。それに、その民間船というのも妙です。そうは思いませんか?」

「確かに、今現れるというのは、タイミングが妙な気がします」

「それで、ちょっと偵察に行って来ようと思います。あとはリイル・フィアナ提督に任せますので……」

と言うと、バルザス提督はディポック司令官の目の前で姿を消した。


 その後、司令室にサムフェイズ・イージー少佐とナル・クルム少佐、それに銀河帝国の二人の提督があたふたとやって来た。

 彼らはバルザス提督が司令室に行くと言って急に消えたので、やって来たのだ。

「これは、いったいどういうことです?」

と、グリンが言った。サムフェイズ・イージー少佐とクルム少佐はともかく、銀河帝国の二人の提督まで司令室に来たことを非難したのだ。

「まあまあ、いいじゃない。彼らは何もできないわ」

と、これまた突然魔法で現れたリイル・フィアナ提督が言った。

「バルザス提督はどこへ?」

と、バルザス提督がいないのを見て取ると、クルム少佐はせき込むように聞いた。

「彼は、偵察に行きましたよ」

と、ディポック司令官は言った。

「偵察だと?」

「今、元新世紀共和国の民間船が要塞へ来ようとしているのです。それを追って、銀河帝国軍が来ているのです」

「何だって!」

と、クルム少佐は驚いて言った。

「バルザス提督は、慣れているから大丈夫よ」

と、リイル・フィアナ提督は言った。

「そうじゃない。何で帝国軍がヘイダール要塞へ近づいてくるのかということだ」

「確かにおかしなことです。リーダルフ陛下は要塞にはヤム・ディポック司令官がいるから、下手に近付いてはならないと仰っていました」

と、アルトラス・ヴィル提督が言った。

「そうだろう。民間船が近づいていると言ってもどうせ一隻程度、いても数隻だろう。そんなものを追ってくるとは、どういうつもりなんだ?」

と、クルム少佐は言った。まるで帝国軍の側であるような言い方に、他の者は驚いた。しかも、怒っているような言い方である。

「まあまあ、たまに手柄を立てたいと思う者もいるのではありませんか?」

と、リイル・フィアナ提督はとりなすように言った。それは、ディポック司令官にではなくて、クルム少佐に対して言っているのだ。

「要塞に不用意に近づいて攻撃を受ければ、全滅することもありうるではないか!」

と、クルム少佐はそれでも怒りを抑えながら言った。

「ま、ともかくバルザス提督が戻って来るのを待ちましょう。ここで言い争っていても仕方がないでしょう?」

と、リイル・フィアナ提督は言った。

 ディポック司令官はクルム少佐の態度に驚いたが、バルザス提督の動きにも驚いていた。こんなに簡単に偵察に行くと言って、行ってしまうとは。あまりに身軽すぎる。軽率な感じもした。それに要塞から民間船や帝国軍の艦のいるところまでは、かなりあるはずだった。それをこともなげにちょっと行ってきますというのには、信じられない思いだった。これがリドス連邦王国の宇宙艦隊のやり方なのだろうか?


 バルザス提督が最初に現れたのは帝国軍の艦の司令室だった。

 姿を消す魔法を掛けていたので、誰もバルザス提督に気づかなかった。

「反乱軍の船は、そろそろ視認できる距離に来ています」

と、探知装置についた士官が言った。

「艦長、あまりヘイダール要塞に近付くのは、危険ではありませんか?」

と、艦の副長が言った。

「かまわん。あの反乱軍の船を捕えるのだ。そうすれば、手柄になるではないか」

と、艦長が言った。

「しかし、皇帝陛下の御指示で、ヘイダール要塞に近付かぬようにと厳しく命じられているのではありませんか?」

と、副長が更に言った。

「いいから、速度を上げてあの船を補足しろ!そうすれば、ヘイダール要塞にこれ以上近づかなくて済む」

と、艦長が言った。

 今追いかけている反乱軍の船には、元新世紀共和国宇宙艦隊司令長官であったファグル元帥が乗っていると言う情報を得たのだ。その船が、密かに通信をどこかに送っているのを傍受したのだ。

 ロル星団内の戦争は新世紀共和国が敗北し、銀河帝国が勝利を得た。だが、その所為で銀河帝国の軍人たちは昇進の機会がめっきり減ったと感じていた。だからこそ、このような機会を逃してはならないのだ、とビーダー・ホルドレン艦長は考えていた。

 ホルドレン艦長が属している辺境パトロールの艦隊は、ドブール准将の小艦隊だった。セルグ・ドブール准将は白髪の老人だった。年齢から言って、もうあまり手柄を立てるという考えは持ってはいなかった。准将までになったのだから、もうそれでいいと思っているのだ。

 だが、彼の部下はそうではなかった。特にビーダー・ホルドレン少佐は、何とかしたいと強く思っていた。このままただの艦長だ。少佐で終わりたくはない。

 そんな時に、辺境航路を急ぐ元新世紀共和国の民間船を発見したのだ。それもヘイダール要塞に向かっているという。その船からの通信にファグル元帥がいるということがわかった。民間船は一度、元新世紀共和国の首都であった惑星ゼンダへ超高速通信を送ったのだ。

 ファグルと言えば新世紀共和国の元帥で、かつてヘイダール要塞が銀河帝国のものだった時に、大艦隊を率いて何度かやって来ている。もちろん、その攻撃はいずれも成功はしなかったが、かなり要塞側が危なくなった時もあるのだ。

 今は、退役して一般市民の生活をしていると聞いていたが、その彼がヘイダール要塞に来るというのは、何かあるの違いない、とビーダー・ホルドレン少佐は考えた。だからこそ、何としても民間船を拿捕しようと焦っているのである。

 艦のスクリーンを見るビーダー・ホルドレン艦長を、副長のワフレン・レンド大尉が見ていた。困ったような顔をしているが、一瞬笑みを浮かべたのをバルザス提督は見逃さなかった。

(なるほど。副長がそうなのか……)

と、バルザス提督は思った。そして、その場から消えた。


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