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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
28/153

ダルシア帝国の継承者

220.

 ガンダルフの魔法使い『大賢者』と呼ばれるレギオンの城は、銀河帝国が建設した軍事要塞ヘイダール要塞と同じ場所にあった。もっともレギオンの城の方が古くからあったのだ。この城の場所は、ジル星団ではダルシア帝国を含む古い文明の種族は良く知っており、ゼノン帝国やナンヴァル連邦などは伝説として伝えられていた。

 レギオンの城があると言っても、ただ宇宙船でその場所へ行っても城があるとはわからなかった。なぜなら、レギオンの城は三次元宇宙にあるのではなく、三次元と四次元の間の空間に存在しているからだった。四次元空間とは違って、この空間は比較的安定しているが、三次元からでは見ることはできない場所だった。

 ジル星団では昔からワープ航法中は城が見えても、到着してワープアウトするとレギオンンの城が消えてしまうと言われていた。従って、古い文明の種族は、レギオンの城に行くためにはワープアウトする前に通信を送ると言う方法を取っていた。通信を送ると、ワープアウトした船にレギオンの城から迎えが来るのである。

 ただそれは城の主がいる場合で、もし留守にしていると通信を送っても迎えは来ないのだった。

 しかも、ここは死んだ者がまるで生きているように存在する空間でもあった。生きている者が死んだ者と会い、話の出来る場所でもあるのだ。

 レギオンの城の書斎でディポック司令官は、旧銀河帝国の皇帝だったという人物を興味深く見ていた。新王朝の皇帝ならば、即位する前から何度か映像で見たことがある。交渉や宣戦布告の時などに、自ら出てくるのを好むタイプなのだ。だが、旧銀河帝国の皇帝となると、宮殿の中にいて外に出ることはなかったのでどんな人物なのかわからない。

 ふと、その視線の先に自分がいるのに気付いて、ディポックはまともにヨツンガルドス八世の目を見てしまった。その目は不思議に慈愛に満ちているように思えた。

「皇帝陛下……」

と、メイヤール提督はレギオンの城の書斎にヨツンガルドス八世を見つけた時から、何とも言えない表情でいたが、感極まってついに声を出した。

「陛下、申し訳ありません。言い訳のしようもありません。オルボダルト王朝が滅亡したのには、小官にも多大な責任があります。あのリーダルフ・ゴドルーインの野心を見抜けなかったことが悔やまれます」

と、言ってメイヤール提督は膝をつき頭を垂れた。

「メイヤール提督、そなたがわしに謝るようなことは何もない。なぜなら、わしはあの若者を見た時に、わしの後を継ぐ者が誰であるかを知ったからだ」

と、ヨツンガルドス八世は静かに言った。

「それは、どういうことでしょうか?」

と、ディポック司令官は亡き皇帝の思いがけない言葉に、興味を持って聞いた。

「まあ、聞くがよい。メイヤール提督、そなたも落ち着いて聞くがよい。わしが生前、あの若者の野心を見抜けなかったと思うか?わしは、それを知っていたのだ。見抜いていた。だが、わしはあの者を退けることはしなかった。なぜなら、あの者は、わしの後を継ぐために生まれて来た者だからだ」

と、ヨツンガルドス八世はどこまでも静かに話をした。その言葉には、皇位を簒奪されたなどという恨みは皆目感じられなかった。

「しかし、あの者は、陛下の血縁の者ではありません」

と、メイヤール提督は言った。

「そうだ。だが、わしの後を継ぐのにわしの血縁である必要はない。いいや、そうであってはならなかった。銀河帝国は新しい王朝によって刷新される必要があったのだ」

「ええと、つまり、陛下は自分の王朝が滅びることを知っていて、若い家臣を重用していたのですか?」

と、ディポック司令官は一番興味のあることを聞いた。

「そうだ。わしは知っておったのだ。だから、メイヤール提督そなたがそのように責任を感じる必要はないのだ」

「ですが、どうしてそのようなことを知っておられたのですか?」

と、ディポック司令官は聞いた。

「わしも、このダールマン提督、いやレギオンと言った方がいいかな?彼と同じなのだ。ロル星団のアルフ族では彼のような魔法使いだったのだ」

「魔法使い?しかし、銀河帝国に魔法使いがいたなどということは、聞いたことがありません」

と、メイヤール提督は言った。

「帝国では、かつて特殊な能力を持つ者を排除した歴史がある。だから、そうした力を持つ者達は例えいたとしても、誰にもその力を持っているとは言わないものなのだ」

 それは事実だった。前王朝オルボダルトの草創期には、特殊な能力を持つ者があちこちに存在していた。それを忌嫌い排除して行った歴史がある。

「ですが、陛下は特殊な例ではありませんか?」

と、ディポック司令官は聞いた。

「わしだけが特殊なのではない。例えば、バルザス提督、そなたも帝国にいた時から霊が見えたであろう。まだ魔法は使えなかったが、霊が見えるという『銀の月』特有の能力はあったはずだ」

と、ヨツンガルドス八世は言った。彼の言葉によると、バルザス提督――銀の月のことをよく知っている口ぶりだった。

「そうですね。まだ魔法は使えませんでしたが、霊は見えました」

と、バルザス提督が言った。

「わしの方は、そうだな……。皇帝の子として生まれて、後継ぎ争いがあった。何しろ男の兄弟が三人もいたのでな。実はその時、一番最初に死んだのはわしだったのだ。だが、その時わしはガンダルフの秘法である魔法で蘇った。まだ子供の時のことだ。だからこそ、わしは一時期宮廷を離れていた。その後相次いで競争相手が亡くなったのだ。彼らは魔法使いではなかったから、生き返ることはなかった。そして唯一残ったわしが帝位を継いだのだ」

 まさか皇帝自身銀河帝国が忌み嫌う特殊な能力を持っていたとは、誰も気づかなかった。それは本人が注意深く行動していたからでもある。そして、帝位を継いでからも、そうしたことについては一切漏らさなかった。

「では、今の皇帝はどうなのですか?新王朝を創立した鮮やかな手並みなど、人間業とも思えません」

と、ダズ・アルグ提督は言った。

「それが、今の皇帝は普通の人間なのだよ。わしのような力はない。もちろん、わしが生きていた時はできるだけ助力はした。あまり露骨なことはできなかったが、出来る限りのことはした。それが、生まれる前からのあの者との約束だからだ」

「約束?生まれる前にしたというのですか?そんなことがあるのですか?」

と、ダズ・アルグ提督が信じられないと思いながら聞いた。

「それはわしが、魔法使いだったからだ。わしは魔法使いに戻るのは早かった。皇位継承者というのは競争が激しいのでな。それに一人だけいればいいのだから。数が多ければよいと言うわけではない。ともかく、すでに子供の頃にわしは、あのリーダルフ・ゴドルーインという若者が現れることを知っていたのだ」

 その時、急にダールマン提督――レギオンは、バルザス提督――銀の月に言った。

「ところで、ナル・クルム少佐はどうしている?」

「彼なら、サムフェイズ・イージー少佐と惑星カルガリウムからの転送を始めるための準備をしてもらっています。グーザ帝国の艦隊の多くは元の銀河に帰しましたが、惑星カルガリウムにはまだ少々残っています。それに、グーザ帝国から新しい艦隊を派遣するという情報も入ってきていますので……」

と、バルザス提督は言った。この件に関しては、あまり事態は良くなっていない。

「惑星カルガリウムのことか。それは急がせた方がよい。グーザ帝国も焦ってきている。向こうは、向こうで問題を抱えているのだ」

と、ヨツンガルドス八世は言った。

「エネルギー問題のことですか?」

と、ディポック司令官は聞いた。彼らはその所為で、ふたご銀河まで遠征してきたと聞いている。

「それだけではない。わしは、つてを頼って、向こうの銀河を見て来たのだ。グーザ帝国は他銀河からの侵略に遭遇しているのだ」

と、ヨツンガルドス八世は言った。

「グーザ帝国に行って来たのですか?」

と、驚いてダズ・アルグは言った。

「何を驚いている。わし一人くらいなら、向こうへ行くのは何とかなる。宇宙船で行く方が難しかろう」

「しかし、どうやって行くのです?」

と、ディポック司令官は聞いた。

「それは、言葉で話すのは難しい。特殊な魔法なのでな」

「しかし、どうしてそんなことを調べに行かれたのですか?」

と、メイヤール提督が聞いた。

「わしはもう死んだものとされているが、この銀河のことに関心がないわけではない。まして、今現在元新世紀共和国の一部があの者達に占領されているのだ。新世紀共和国の者達は、かつて銀河帝国に属していたのだ。関係ないと済ますわけには行くまい」

「では、陛下は新世紀共和国の者達のことも考えておられるのですか?」

と、驚いてメイヤール提督は言った。

「当然のことであろう。そちらの要塞司令官はそう思わぬか?ディポック司令官は、新世紀共和国の軍人だが、銀河帝国の者たちがどんな目にあっても無関心でいられるのかな?」

「それは、確かに。少なくとも銀河帝国と新世紀共和国の人々は、かつては同じ国に属していたのですから。ただ、そうした考えはあまり一般的ではないかもしれません。特に我々は戦争をしていたのですから。ですが、私はどちらの国の人々についても無関心でいることはできません」

と、ディポック司令官は言った。

「実は、陛下はリイル・フィアナ提督と縁があるのだ」

と、突然ダールマン提督が言った。

「縁がある?どんな縁ですか?」

と、ダズ・アルグが聞いた。

「今から二千年前になるが、当時アルフ族は惑星ガンダルフに住んでいた。昔、ロル星団から移住してきた者達の末裔だ。もうアルフ族は数も少なくなっていたが、寿命がガンダルフの人々と違って長かったので、少数はまだ残っていた。彼は、そのアルフ族の国の王だったのだ。リイル・フィアナ提督はアルフ族としては最後の一人になるが、当時は彼の娘だった」

と、ダールマン提督は言った。

「で、でもリイル・フィアナ提督は現在生きているのですよね」

と、ダズ・アルグ提督は言った。

「だから、アルフ族は長命な種族なのだ」

「つまり少なくとも彼女は二千歳になるのですか?」

「年のことなど、彼女の前では言わぬほうがいいぞ。どんな事が起きても私は責任を持てないからな」

と、ダールマン提督は警告した。

 リイル・フィアナ提督は、人を猫に変えるのが得意なのである。


221.

 司令室を見渡して、いつもの日常に戻ったと感じてディポック司令官は安堵のため息を漏らした。不安がないとは言えないが、今はとにかく要塞の政治代表を決める選挙を粛々とこなすしかない。

 元新世紀共和国から来たエルシン・ディゴ議員やフランブ・リンジ議員のどちらかがこの要塞の政治代表になるにせよ、急に何かが起きるわけではない。この要塞の艦隊の数からして、突然銀河帝国に攻め入るような無茶なことは言わないだろう、とディポック司令官は思った。

 ただ、リドス連邦王国の魔法使い達が、ナンヴァル人であり、惑星連盟の元議長マグ・デレン・シャを当選するとは思えないのに候補者にしたいと言ってきたことが理解できなかった。


「私が、この要塞の政治代表の選挙に立候補するのですか?」

と、マグ・デレン・シャは驚いて言った。

 俗にいう、共和制、共和国では政治的な代表を選挙という制度で一般の人々が決めるということは、マグ・デレン・シャもある程度聞いていた。ジル星団では、王政の国もあるが、共和制の国もあるからである。

「そうです。我々としては、そうして欲しいと思っています」

と、バルザス提督が言った。

「私は、ナンヴァル人です。人間族ではなく竜族です。この要塞は人間族が建設し、住んでいる場所です。そうしたところに私が政治代表となるというのは、ちょっと想像できません。できないだけではなく、相応しいとは思えません。それに、今回の選挙のことを聞きましたが、どう考えてもこの要塞の一般の人々が私のことを知っているとは思えません。ですから、立候補ですか、それをしたとしても当選するとは、とても思えないのです」

「今回は、当選しないでしょう。ですが、あなたのことをこの要塞の人々が知るようになります。我々はそれを望んでいるのです」

「私のことをこの要塞にいる人たちに広く知られるようにと考えて、立候補せよというのですか?何のために?」

 当選する可能性もないのに、立候補するというのは無駄なことだとしかマグ・デレン・シャには思えなかった。

「もちろん、次の選挙を考えてのことです」

と、バルザス提督は言った。

「また、選挙をするというのですか?」

と、呆れてマグ・デレン・シャは言った。

「そうです。今回当選するのは、あの議員、エルシン・ディゴ氏かフランブ・リンジ氏のどちらかとなるでしょう。それは仕方がありません。ですが、彼らがこの要塞の政治代表となったとしても、重要な判断はできないと思うのです」

「重要な判断とは、何のことですか?この要塞がどんなことに巻き込まれるというのでしょうか?」

「マグ・デレン・シャ、あなたがこの要塞に来てから、何度敵の襲来が有ったと思いますか?それは惑星連盟だけではありません。海賊やグーザ帝国だけではなく、暗黒星雲の種族もありました。これからこの要塞は、どのような勢力から攻撃されるかわからないのです。その時に、しっかりとした指導者が判断をしなければ、ここに移住しようとしているタレス人などは非常に危険です。いいえ、それはここの人々だけではなく、この銀河にとっても非常に危険なことになりかねないのです」

「それは、大きく出ましたね。そんなことが起きるでしょうか?」

「これからは、そうした事が起きるようになってくるのです。いずれ、銀河帝国の侵攻も予想されます。ディポック司令官は軍人としては優秀ですし、銀河帝国との戦は慣れています。ですが、これからはそれだけでは済まないのです。軍人としての判断だけではなく、政治的な判断が必要とされるのです」

「ですが、ディポック司令官なら、政治家としてもやっていけるのではありませんか?」

 マグ・デレン・シャはあのおっとりした風貌にも関わらず、ディポック司令官は軍事だけではなく政治に関してもかなりの判断力をもった人物であると見ていた。

「ただ、負担が大きくなります。軍事と政治両方をやるのでは、かなり負担が大きくなるでしょう。それを軽減したいのです」

と、バルザス提督は言った。

「つまり、ディポック司令官がゆとりをもってこの要塞を守れるように、私が政治代表としての判断をして欲しいというのですね?」

「まあ、そういうことになります。少なくとも、竜族と人間の違いはあっても、基本的な部分としてはあなたとディポック司令官は同じ価値観を持っていると思うからです」

「そうなのですか?私はそれほど、ディポック司令官のことはわかりません。ですが、この件に関しては、少し考える時間をいただけませんか?」

「それは、構いません。ですが、あまり時間はないので、できるだけ早い決断を願いたいものです」

と、バルザス提督は珍しく少々強引に言った。それは、すでに選挙するための立候補の期間が決まってしまったからである。


 ディポック司令官は、ナンヴァル人のマグ・デレン・シャから面会を打診されたことを聞いて、選挙のことかと思った。実は、彼もマグ・デレン・シャと別の理由で話をしたいと思っていたからだ。

 司令官の執務室にやって来たマグ・デレン・シャは、一人だった。いつもなら、タ・ドルーン・シャが一緒なのだが、今回は違っていた。

「お忙しい時に、このような時間をとって頂いたことを感謝しています」

と、マグ・デレン・シャは言った。

「いいえ、いつでも来てくださって構わないのですよ。で、今日はどういうご用件でしょうか?」

と、ディポック司令官は言って、執務室にある応接セットのソファを勧めた。

 マグ・デレン・シャは、ソファに座って一息つくと言った。

「実は少々困っているのです」

「あの選挙のことですか?」

「そうです。ガンダルフの魔法使いたちが、この選挙に出て欲しいというのです。私の国では選挙などということはしませんし、こちらの政治家と言う議員方のことを見聞きするにつけても、ナンヴァルとの違いがかなりあるのを考えてしまうのです。もちろん、最近はナンヴァルも変わってきているのですが……」

「マグ・デレン、あなたがこの選挙に立候補したくないのであれば、しなければいいのです。べつに魔法使い達を気にする必要はないのではありませんか?第一、この要塞の政治代表なんて、特に重要なものではないでしょうから」

と、ディポック司令官は率直に言った。

「本当に、そうお思いですか?確かに、今はそうではありません。ただ、魔法使いたちはまだ全部真実を話していないような気がするのです」

と、マグ・デレン・シャも心の内を率直に言った。

「彼らが嘘をついていると言うのですか?」

「そうではありません。まだ事実になっていない、真実を。つまり未来に何が起きるかということを何か知っているような気がするのです。かれらガンダルフの魔法使いたちは、白魔法の使い手です。ナンヴァルの古い言い伝えでは、白い魔法使いは嘘をつかないと言われています。嘘と言っても、人を陥れるような悪しき嘘のことですが……」

 マグ・デレン・シャの言う通り、嘘をつくというよりは、ダールマン提督やバルザス提督は全てのことを話していないということを、ディポック司令官はいつも感じているのだった。

「魔法に白いものとかが、あるのですか?」

と、ディポック司令官は興味を持って聞いた。魔法については、何も知らない彼よりもマグ・デレン・シャの知識が確かなようだ。

「良い魔法使いは白魔法の使い手と言われます。ガンダルフの魔法使いは、白魔法を使うのです。逆に悪い魔法使いは黒魔法、あるいは魔術師、魔導士などと呼ばれます」

「すると、ゼノン帝国の魔術師というのは、よくない魔法を使うと言う意味ですか?」

「そうです。ゼノン人の魔術師は、黒魔法、例えば人を呪うなどという術を使うので、一般にそのように呼ばれます。ガンダルフの魔法使いは人を呪う魔法は使いません」

 ジル星団では、魔法は科学技術に比べてその発達は遅々としていた。古代に魔法が生まれてからあまり変わらなかったのだ。いや、衰退しつつあると言った方がいいかもしれない。

 ゼノン帝国は唯一魔法使いの数が増えているので、自国を魔法が発展していると考えているようだった。しかし、実際は簡単な魔法、物を動かしたり変化させたりする魔法を使う者が増えただけで、難しい呪文や力のいる魔法などを使う者は増えなかった。更に言うと、新しい呪文を作る者などは出なかったのだ。

 その上新しく惑星連盟に加盟した国々は、魔法を使わない文明が多かった。だから、ジル星団全体としては、魔法が発達したとは決して言えるような状況ではない。

 だが、聞くところによると惑星ガンダルフでは魔法は変わりつつあるらしい。かなりスケールの大きな魔法が生まれているのだ。それはかつての『大賢者』レギオンが現代に生まれ変わってきているせいなのだろうか。この宇宙時代に彼は新しい魔法の呪文を作り出そうとしているのだろうか?

「脱線してしまいました。選挙のことを話していましたのに」

と、マグ・デレン・シャは言った。

「そんなことはありません。魔法については、私も興味があります。かなり、強力な呪文もあるようですし」

と、ディポック司令官も興味を持っているとことを示した。

「でも、ここで使われたような、例えば艦隊を丸ごと移動させるような魔法の呪文は、これまではありませんでした。今回それが可能だったのは、ガンダルフの五大魔法使いが新しい呪文を使ったからです。普通の魔法使いはそのような魔法は使えません。呪文も知らないでしょうし、想像もできないのではないかしら……」

 脱線したと言いつつも、どうしてもそこへ話が戻ってしまうのだった。それは、二人とも魔法というものにそれだけ興味を持っているからである。

「ガンダルフというのは、魔法使いの発祥の地なのですね」

と、ディポック司令官は言った。

「そうです。魔法は遥かな昔に、惑星ガンダルフで生まれたのです。ただ、最初のガンダルフの人々は呪文を使わなかったと言われていますが……」

と、マグ・デレン・シャは言った。

「呪文を使わない魔法というのは、どんなものでしょうか?」

「おそらく、ダルシア人が使ったような特殊能力のことでしょう。ダルシア人は呪文を使いませんでしたから。魔法の呪文はいわば、特殊能力の内、『念力』というものを千変万化させるために編み出されたものと言えます」

 ふと、ディポック司令官は聞いてみた。

「予知というのは、どんな魔法ですか?」

「予知は魔法ではありません。それは霊能力という、高度で特殊な能力です。特殊能力には、TP、透視能力、予知、瞬間移動、念力、など色々あります。そのうち魔法に関しては念力が主なものです。呪文を使うことによって、透視や瞬間移動などができることもあるようですが、予知となると、別の、高度な霊能力の範疇になるのです」

「霊能力とは、どんな力ですか?」

「それは霊の持つ能力と言い換えてもいいでしょう。ただし、その霊によって、力の差はかなりあると言われています」

「霊というと、死んだ人のことですね」

「霊というのは、厳密に言えば、死んだ人だけのことではないのです。例えば、あのレギオンの城では、生きている人間であっても、霊として存在しているのです」

「というと、私でもあのレギオンの城では、霊として存在しているということですか?」

「そうです。あまりに自然なので、自分が霊となっているとは、気づかないだけなのです。私たちが霊の状態になるのは、レギオンの城だけではありません。宇宙船でワープ航法を行った時に、すでに私たちの存在は霊となっているのです」

「しかし、我々は霊となったという意識は全然ありませんが……」

 これまでディポックは、何度もワープ航法で宇宙を移動したことがある。だが、自分が別の状態、霊の状態になったという認識はなかった。それは、ディポック以外の人間でも同じように思うだろう。

「生物が霊と言う存在とならなければ、ワープ航法はできないのです。ただ、あなた方の文明はそこまでの解明が出来ていないということでしょう」

と、マグ・デレン・シャは言った。

「機械的になってしまうということですか?」

と、ディポック司令官は聞いた。彼は自分が科学者ではないので、学問的には理解できていないということはわかっていた。

「そうですね。自然にそういう状態に入ってしまうので、気が付かないということでしょう」

「しかし、ワープ航法がそのようなことを生物にするということは聞いたことがありません」

「それは、まだ科学技術がそこまで達していないということなのでしょう。ワープ航法を本当に理解していないということではないでしょうか?」


222.

 マグ・デレン・シャは、話の脱線に気づいていた。

「ついつい、魔法や霊の話になってしまって、肝心の選挙や政治の話になりませんわね」

と、マグ・デレン・シャは言った。

「そうでした。私も、興味が尽きないもので……」

と、ディポック司令官は言った。

「いいえ、それでは率直にお聞きします。元新世紀共和国の政治制度に、私は興味を持っています。ジル星団にも同じような政治制度を取る国もありますから。ただ、私が分からないのは、銀河帝国と新世紀共和国との戦争が、およそ百五十年の間続いていたと聞きました。その間、あなた方はその戦争を止めようとか、戦争を止める方策を講じなかったのはなぜなのかということです。戦争に反対する勢力はなかったのでしょうか?」

 長い間の戦争は、どう考えてもその国にとっては経済的にも国力においてもマイナスになるとしか思えなかった。マグ・デレン・シャはなぜそうしたことになったのか、興味を持っていたのだ。

「それは、簡単に答えられることではありませんが……。まず、公式にはあの戦争は、新世紀共和国にとって正義の戦争であったということです。そのため、戦争に反対する勢力はあったのですが、戦争を止めさせるほどの勢力はなかったのです」

と、ディポック司令官は言った。

「しかし、何度か戦争を止める潮時のようなものがあったのではないでしょうか?」

と、マグ・デレン・シャは聞いた。

「長い年月でしたから、それはありました。ただ、戦争によって利益を得る勢力もあったのです。そうした者達のよって、戦争に反対する勢力は退けられたというのが実情です」

「その勢力というのは、武器を売る商人などを指すのでしょうか?」

「武器商人だけではありません。正直に言えば、政治家にも選挙に勝つために戦争を継続するということもあったのです。そして、言論などにおいても、戦争に反対することは極力退けられ、そうした事実があることさえ、多くの者達は知ることはなかったのです」

「つまり、一般の国民は戦争に誘導され、扇動されたということですか?」

「それだけではなく、国の中に反対意見を述べる勇気を持つ者がいなくなったということです」

「それが、新世紀共和国の滅亡の原因なのですか?」

「その理由の一つだと思っています」

と、ディポック司令官は自分の意見を含めて言った。

「ナンヴァル連邦では、そのような長い戦争はありませんでした。ゼノン帝国との紛争はたくさんありましたが、どれも短い期間で一応の収拾を付けたのです」

「本来なら、我々もそうすべきだったのです」

「あなた方の国では、言論の自由とか人権を守るということを大事にしていたと聞きましたが、実際はあまりそれを重要視してはいなかったことになりますね」

と、マグ・デレン・シャは少々きついことを言った。

「結果から見れば、その通りです。これからわかったことは、立派なことを言ってもそれを守るということがいかに大変であるかということです」

「私は、リドス連邦王国の話を聞いたことがあります。かの国では内政においては、あなた方のやるような選挙をして、代表を決めることになっているのです。リドスのアスカ女王陛下によると、放っておくと政治に嘘が蔓延してしまうのが悩みだとおっしゃっていました」

 だいたい元新世紀共和国の状況と同じようなことではないかと思ったが、

「政治に嘘が蔓延するというのは、具体的にどういうことですか?」

と、一応ディポック司令官は聞いてみた。

「選挙に立候補する時にした約束を、反故にしたりすることです。初めからできない約束をして、それがあまりに人々に迎合するようなことであると、騙される人もありますし、政治家に不信を抱く者が多くなります。どちらにとっても良いことはないのですが、中々それが無くならないと嘆いておられました。ですから、選挙の時に一つだけ魔法を許可したそうです」

と、マグ・デレン・シャは言った。

 やはり魔法と来たか、とディポックは思って、

「どんな魔法ですか?」

と、聞いてみた。

「嘘の言えない魔法です。公共の場においては、嘘を言うことが出来ないということです。もちろん、言いたくないことや不利なことは黙っていることはできます。ですが、口から言葉を出すときには、嘘が言えないのです」

「それは、恐ろしい魔法ですね」

と、ディポック司令官は本気で言った。

「選挙期間中だけ、国全体に魔法を掛けるのだと聞きました。本来は裁判で使われるものだそうですが……」

「裁判で使われるのですか?」

と、ディポック司令官は聞きとがめた。

「そうです。リドスでは裁判に関わる者には、嘘が言えない魔法を掛けられるのです。犯罪者や証人だけではないのです。検察も判事も弁護士も同じだと聞きました」

「それはまた、厳しいですね」

 厳しいがとても公平なことではないかと、ディポック司令官は思った。普通なら犯罪者だけに嘘の付けない魔法を掛けて、司法関係者には掛けないのではないだろうか。

「ですから、それを知っている者達、ジル星団の古い文明の者達はリドス連邦王国の裁判は信用しています」

「しかし、もしそこに力の強い魔法使いがいたら、逆の魔法を使うことができるのではないですか?」

と、ディポックは疑問を抱いた。そうした魔法使いがいないとは言えない。何でもそうだが、100パーセント、絶対と言うことはないのだ。もし、そのような魔法使いがいたら、どうなるのだろうか?

「確かにそうです。ですが、これまでガンダルフの五大魔法使いを上回ると言われている、リドスの王族の力を超えた者は現れていないと言われています」

と、マグ・デレン・シャは今の所そう言うしかなかった。

「なるほど、リドス連邦王国で魔法がどのように使われているか、興味深い例ですね」

 ディポック司令官は今回の要塞の選挙で、もしリドス連邦王国で使われているような魔法を使ったとしたら、どうなるだろう、と考えてみた。

 クスッ、と珍しく笑いを見せて、

「司令官。もしかして、私と同じことを考えませんでした?」

と、マグ・デレン・シャは言った。

「いえ、何となく。ただ、そんな魔法を使ったらこの要塞は大混乱になるかもしれませんね」

「それに、そのような魔法を使ったとしても、私が選挙に出て当選するとは思えませんわ」

「そうでしょうか?」

「選挙で重要なのは、嘘をつかないことだけではありません。この要塞に住んでいる人たちのことをよく知り、何をするべきかを知っている者でなければなりません。私では、まだまだ不十分です。この要塞でここに居る人たちに何をするべきが、何をすることが良いことなのか、わかっているとは言えません」

と、マグ・デレン・シャは慎重に言った。例え、ヘイダール要塞のような小さな勢力であっても、政治判断というものは非常に難しいものなのだと彼女は考えているのだった。


 要塞の中の浮ついたこの雰囲気は何なのだろう、とキンドルラ提督は思った。

 選挙だと騒いでいるが、まるでお祭りのような気分でいる者が多いのだ。要塞の政治代表を選ぶという神聖な制度は、もっと厳粛に行われるべきだと、キンドルラ提督は思った。

 と言っても彼らグーザ帝国の置きざりにされた連中には関係のないことなのだ、と口の悪い者達は陰で言っていた。

 グーザ帝国とこの要塞の連中は言うのだが、実際のグーザという国のことについて彼らは何も知らないのだ。帝国と付いているが、実権のある皇帝がいるわけではなかった。どちらかと言うと長老たちが議会で実権を握っているのだ。

 その皇帝も遺伝子が繋がるようにできている他の市民と同じように、人工授精で生まれてくる存在だった。グーザ帝国ではその国民は上から下まで、人工授精による人口調整で誕生する国だった。だから、未だに自然出産を大事にするここの連中は何と遅れていることか、とキンドルラ提督は思っていた。まあ、科学技術的にはグーザの方が少し上だな、と彼は考えていた。

「提督、開きました」

と、頭上から押し殺したような声がした。

 そこは、グーザ帝国の機動兵器が置かれている場所だった。

「では、中に入って、機動できるかどうか、やってみてくれ」

と、キンドルラ提督は言った。

 機動兵器がこの要塞の連中に動かされて、またこの場所に戻された後、グーザ帝国の三人は何とか機動兵器の中に入り、パイロットの登録を変更して、自分たちが動かせないかと試行錯誤していた。それが、やっとうまく行ったのだ。

 キンドルラ提督はマルボルラ中尉が機動兵器を機動させるのを、忍耐強く待っていた。

 この辺りは、要塞の兵士があまり立ち入らない区域で、人気はなかった。音を出したりしなければ、おそらくパトロールの兵士も気づくまいとキンドルラ提督は思っていた。それでも明るい通路の先の方で、ケルラ大尉が近づくものに目を光らせていた。

 その時、キンドルラ提督の近くに人が降りてくる気配がした。

「マルボルラか?」

と、暗い中でキンドルラ提督は声を掛けた。

「そうです」

と、マルボルラ中尉は答えた。

「どうした?やはり、機動するのは無理か?」

「何か別の機材が必要です。この通信機を改造したものでは、ロックを解除するだけで精一杯です。機動させるには、何か別のものを考えなければ…」

「作れるか?」

「やってみます」

 マルボルラ中尉は士官にしては珍しく、機械技術に長けていた。ちょっとした改造は彼の趣味でもあるというのだ。

 グーザ帝国においても、科学技術の方は技術士官と言う形で専門家がいた。機動兵器などの整備や修復をするのが主な任務である。従って、一般の士官では兵器の操縦はできても簡単な整備や修復も出来ないものが多かった。その中で珍しく、このマルボルラ中尉は趣味でちょっとした通信機を作ることができるほどの腕を持っていた。

「よし、今日はこれまでにしよう。あまり長居をすると、怪しまれる」

「そうですね」

 キンドルラ提督は、機動兵器を何とか自分たちで動かせるようにしようと考えていた。

 もちろん、この二体の機動兵器ではこの要塞を奪取したり、逆に脱出したりするようなことはできない。しかし、何かチャンスが来た時に、何も武器がないのでは何もできない。この二体の機動兵器が動かせるようになれば、何かあった時に役に立つだろうと考えていた。

 要塞の中がどことなく落ち着かない今が、彼らが機動兵器に近付く絶好のチャンスなのだった。


 グーザ帝国の三人が去った後に、闇の中に目が光っていた。

 ニャァ、と小さな声がした。小さな白い子猫だった。そして、グーザ帝国の三人が去った後をつけて行った。彼らはその白い子猫が、後をつけているとは気づきもしなかった。

 子猫はグーザ帝国の三人がそれぞれの部屋に戻ると、踵を返して素早く走って、自分の部屋の主の下へ行った。

「あれ?どうしたんだい?」

と、ブルーク・ジャナ少佐が言った。そして、白い子猫に手を差し延べると、子猫はその手に乗って、

「ニャァ!」

と、鳴いた。

「どこに行っていたんだい?急にいなくなるから探したんだぞ」

と、ブルーク・ジャナ少佐は言った。

「ニャァ!」

と、また子猫は鳴いた。

「ちゃんと話してくれないかな?いつかみたいに。ちゃんと言葉が話せるんだろう?」

と、ブルーク・ジャナ少佐は言った。

 この子猫は、以前要塞の幹部たちが集まった会議の席で、突然しゃべり出したことがある。それも、要塞幹部たちに批判的なことだ。ちゃんと、自分の意見と言うものを持っている子猫なのだった。

 けれども、それからは一度もしゃべってはくれなかった。

 リドス連邦王国のリイル・フィアナ提督によると、この子猫は以前リドスに属していた者だったそうだ。その正体が暗黒星雲の種族であることは、残念ながらディポック司令官にしか彼女は話していなかった。だから、ブルーク・ジャナ少佐はそれを知らない。


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