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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
27/153

ダルシア帝国の継承者

217.

 惑星連盟のヘイダール要塞へ派遣されたゼノン帝国とナンヴァル連邦の艦隊が、宇宙都市ハガロンに凱旋した、と大仰に主張したのは、惑星連盟議長でナンヴァル連邦の大使であるマグ・ファルファドール・シャだった。

 凱旋した両艦隊は、確かに数がそれほど減ってはいないように見えた。ヘイダール要塞と宇宙都市ハガロンとの間には交易や外交はないので、例え嘘の凱旋を称してもすぐには誰にも気づかれないと思っているのだ。

 だが、ハガロンの商人たちはそれほど甘くはない。彼らの情報網はジル星団を超えてロル星団をも網羅しており、しかも迅速だった。

 惑星連盟の艦隊がヘイダール要塞に敗北したことは、時を経ずしてハガロンの商人たちの間では暗黙の了解事項となっていた。気づかないのは、惑星連盟の大使だと気取っているジル星団の諸国の大使たちだった。


 リドス連邦王国の大使の所にハガロンの商人、デクレアル・ウロンゴが訪問していた。彼は、元バンダガハル王国の人で、今はハガロンでも一二を争う商人だった。

「惑星連盟の艦隊が戻って来たようですな。それにしても早いお帰りで、何かあったのでしょうか?」

と、デクレアル・ウロンゴが言った。

「さあ、どうでしょうか。まだ我々には何も情報は入って来てはいないのです」

と、チャーミー・ユウキ大使は言った。

 まだ惑星連盟としては、連盟諸国に正式な報告はしていないのだった。

「このところ、竜族が随分勝手をしているようで、困ります」

と、デクレアル・ウロンゴはこぼした。

 宇宙都市ハガロンにおいて、ゼノン人だけでなく、ナンヴァル人の商人がかなり強引な商売をして、元々のハガロンの商人が困っているということは、チャーミー・ユウキも聞いていた。彼らは母国の勢いが強いと思って、人間族の商人には詐欺まがいの商売も平然とするというのだ。

「あの誠実で正義を重んじたナンヴァル人でさえも、最近ではゼノン人の商人と同じことをすると言う者が多いのです。このまま、ゼノン人とナンヴァル人に惑星連盟やこのハガロンを任せてよいのでしょうか。ダルシア帝国は、もう終わってしまったのでしょうか?」

と、デクレアル・ウロンゴはリドス連邦王国の大使に訴えた。

「我々には何の力もないのですよ。惑星連盟は、ダルシア人とナンヴァル人が盟主として結成されたものです。我々は新参者に過ぎないのです」

と、チャーミー・ユウキ大使は言った。

 だが、デクレアル・ウロンゴは別の考えがあるようだった。

「私どもは、噂を聞いています。ガンダルフの五大魔法使いが現代に蘇っていると、リドス連邦王国はそのことについて、なにかご存じではありませんか?」

「その噂は、我々も聞いています。ですが、まだそれを確かめるすべはありません」

 チャーミー・ユウキは表情も変えず、嘘をついた。まだ、それは秘密にしておかなければならないことなのだ。少なくとも、このハガロンを手中にするまでは。

 けれども、デクレアル・ウロンゴは何かに気づいたように、

「それは、残念ですな。このハガロンは伝説によれば、かつてガンダルフの五大魔法使いの一人『女賢者』と言われたフェリシア・グリネルダの城があったところと聞いています。彼女が戻れば、このハガロンで竜族が大きな顔をすることはできなくなるでしょう」

と言って、チャーミー・ユウキ大使のもとを辞した。


 リドス連邦王国のチャーミー・ユウキ大使は客の去った後、ため息をついていた。

「どうかされましたか?」

と、副官のエンドリン・スランス中佐が心配して言った。

 この宇宙都市ハガロンの空気の異常さは、惑星連盟大使たちの愚かさに起因しているように思えた。わずかに古い文明の諸国の大使たちは、事実を見据えているようだった。しかし、彼らだけでは惑星連盟の改革はできない、とチャーミー・ユウキ大使は思った。

「別に、何でもないわ。それより、惑星連盟の艦隊が戻って来たそうね」

と、チャーミー・ユウキ大使は言った。

「噂ではヘイダール要塞の艦隊を蹴散らしたと、自慢げに話しているようですが……」

と、エンドリン・スランス中佐が言った。

「それにしては、戻って来るのが速すぎるわね。勝ったのなら、しばらくヘイダール要塞に駐留しているでしょうに」

「まったくです。すぐにそれと分かる嘘をつくなんて、困ったものです。あのナンヴァル人も一緒に嘘をつくようになったのですから、困ったものです」

 ハガロンの商人も話していたようにナンヴァル人の変化については、チャーミー・ユウキ大使も驚きを隠さなかった。ナンヴァル人はジル星団では誠実で正義感が強いという評判が高かったのだ。今回のこの事実にハガロンの商人たちも、驚きを隠すのに困るだろう。そして、変化したナンヴァル人にどう対処するべきか頭を悩ますのにちがいない。もう彼らは信用できないのだ。それがはっきりしたのだ。

「ナンヴァル連邦は、今の調整官がよくないわね。マグ・デレン・シャを追放する処断をしたのも、この調整官のようね」

「クラウ・トホス・トル調整官は、商人階級の出だと聞いています。ナンヴァル連邦は連邦トップの調整官の就任は、それぞれの階級の持ち回りでなる習慣があると聞いています。今回順番では、商人階級が調整官になるはずだったのですね」

「基本的には、そうだわ。でも、持ち回りの順番を崩すときもあった。それは前調整官の考えだけではなく、ナンヴァルの建国の指導者の意見、つまり霊言が影響している場合が多いの。それなのに、今回は前調整官のマグ・クガサワン・シャをまるでクーデターのようなやり方で追い出して、自死させた。これは、かなり異例のことだわ」

 このようなことはナンヴァル連邦の歴史上、稀有なことだった。悪逆な調整官が廃される場合を除いて、政権は、禅譲の形で平和裏に移譲されるのが常だったのだ。

「それは、マグ・クガサワン・シャ前調整官がナンヴァル連邦を司祭階級だけで支配しようとし、自分と同じ司祭階級出の調整官を続けて出そうとしたからではありませんか?」

と、エンドリン・スランス中佐が言った。

 ナンヴァル連邦では、前調整官についての不正について色々と取りざたされていた。その最大のものが、同じ司祭階級出の調整官を後継者とするつもりだった点である。すなわちマグ・クガサワン・シャは自分が調整官を止めてもナンヴァルを支配できるように、同じ司祭階級出の者に調整官を継がせようとした悪逆な指導者であったというのである。

「マグ・デレン・シャの調整官就任の話は、もっと別のことが関わっていると思う。司祭階級は霊的な能力を持った者がいるのよ。それも、高次元の霊、ナンヴァル連邦の建国の指導者の霊言を降ろしたりもできた。マグ・デレン・シャの調整官就任は、その建国の指導者の霊言により決定されたのだと思う」

と、チャーミー・ユウキ大使は言った。

 霊言による指導者の決定は、ナンヴァル連邦にとっては異常なことではない。ナンヴァル連邦の古代においては、それが普通だったと言われている。しかし近年においては、そのようなことは確かに減少していた。それは、霊言を降ろすような能力者が減少していることに原因があった。とは言えこうした古代からの慣習が崩されたということは、ナンヴァル連邦にとって果たしてどんな結果になるのだろうか。

 リドス連邦王国では、霊的な能力を持つ者も多い。その頂点にいるのが、アスカ女王である。従って、高次元の霊の言葉となると、リドスでは信用が高い。なぜなら霊能力者の多いリドスでは、高次元の霊の真偽を確かめることができるからである。

「では、建国の指導者の意志に逆らったと言うわけですか?」

と、エンドリン・スランス中佐が聞いた。

「そうなるわね。これからナンヴァル連邦がどうなっていくか、私にもわからないわ。こういう場合は、国自体が亡びる方向へ行く可能性が高いから……」

と、チャーミー・ユウキ大使は不安をほのめかすように言った。

 ダルシア帝国が滅びたこととは別の理由で、かの竜族と言われる者たちの国も滅んで行くのだろうか、とチャーミー・ユウキは思った。ダルシア人はそれを選んだのであるが、ゼノン人もナンヴァル人も自分たちがそれを選んでしまったとは気づいていない。それが、困った点であった。

「彼らがどうなるにせよ、タレス連邦のような人間族の国が新しく勃興してきているということは、いいことね」

と、チャーミー・ユウキは言った。

「しかし、タレス連邦はまだゼノン帝国との密約を大事にしているようですが……」

と、エンドリン・スランス中佐が言った。

「それも長くはないわ。ゼノン帝国から密約を破棄するようになるでしょう」

「どうしてですか?」

「ナンヴァル人と同盟を組んだからよ。ゼノン帝国にとっては人間族のタレス連邦よりもナンヴァル連邦の方が重要だと考えるわ。何しろ、ナンヴァルの調整官が自分たちの影響下にいるのだから」

「すると、クラウ・トホス・トル調整官は、ゼノン帝国からなんらかの支援を受けているのですか?」

「おそらくね。調整官になるに当たって、かなりゼノン帝国に近付いているようだわ」

 前調整官の退任による自死にあたって、ナンヴァル連邦に駐在していたゼノン帝国大使が暗躍したという報告がリドス連邦王国の駐在大使から来ていた。

「惑星連盟での彼らの同調ぶりを見ると、それも納得できます。で、我々はどうするのでしょうか?」

と、エンドリン・スランス中佐が聞いた。

「もちろん、このハガロンを、惑星連盟をダルシアと我がリドスに奪還しなければならないわ。そのために私が来たのですもの」

と、チャーミー・ユウキ大使は言った。

 ユウキ公爵家の後継者であるチャーミー・ユウキがハガロンに来たのは、そのためだった。

 この宇宙都市ハガロンは、惑星連盟が結成された五百年前に建設された都市だった。ただこの宙域は、元々ガンダルフの女賢者と言われるフェリシア・グリネルダの城があった場所である。つまり、チャーミー・ユウキの城であったのだ。

 ヘイダール要塞が元々ガンダルフの『大賢者』レギオンの城があった場所なら、この宇宙都市ハガロンは『女賢者』フェリシア・グリネルダの城があった場所なのである。

 宇宙都市ハガロンを建設した当初、そのことはダルシア人もナンヴァル人も知っていた。だからこそ、ここに建設したのである。だが、今のナンヴァル人はそれを忘れてしまっていた。ナンヴァル人の寿命はおよそ五百年あまりであるのに、その政治の中枢ではそれを知る者はいなくなっていた。わずかに、数人の高齢の司祭階級の者たちが覚えている程度だった。

 折しも、ナンヴァル連邦では新しい調整官クラウ・トホス・トルが大改革を実施しようとしていた。それは、ナンヴァル連邦特有の階級を無くし、竜族として繁栄しているゼノン帝国のような貴族制度を取ることを目的としていた。そのため、司祭階級の者達はナンヴァル連邦から追放されるか、自死を迫られるかの瀬戸際にあると、リドス連邦王国のナンヴァル駐在大使が知らせて来ていた。

 ナンヴァル連邦に改革が必要なのは確かだった。しかしそれは、クラウ・トホス・トル調整官の考えているような、ナンヴァル特有の階級の差を無くし、ゼノン帝国のような貴族と帝政の国にすることが正しいのだろうか。

 ゼノン帝国の見せかけの繁栄はすでにその頂点を過ぎ、衰退の兆しを見せていたのだ。残念ながらそのことにゼノン人自身も気づいていなかった。彼らは今がその文明の絶頂期に向かっていると錯覚しているのだ。


 元新世紀共和国のエルシン・ディゴ議員は、不満そうに黙っていた。

 ヘイダール要塞側が要塞における政治代表を選ぶ選挙について、元議員であるエルシン・ディゴ議員とフランブ・リンジ議員に加えてギアス・リードを呼んで、詳細の協議をした。

 すでに自分たちが勝手に選挙をやる時期を決めて公表してしまったものの、惑星連盟の艦隊の襲来によって、それが延期されることになった。従って、エルシン・ディゴ議員は文句を言うことはできなかった。しかも、肝心のギアス・リードがどうも要塞側についていると感じられるのだ。

 元々、要塞に来たのは元新世紀共和国最高評議会議長チェルク・ノイ氏の考えに従ったのである。それは、要塞司令官であるヤム・ディポック司令官が、どのような考えで要塞にいるのかを確かめるだけと言うことだった。

 けれども長期にわたる宇宙船での移動中に、ギアス・リードが囁いたのだ。元新世紀共和国の数千隻もの残存艦隊が、極秘裏にホランド・アルガイの船と同時にヘイダール要塞に到着するようになっていること。それを使えば、ヘイダール要塞でかなり大きな勢力として認められるはずだということ。そして、ヘイダール要塞の戦力が高まれば、そこに新政府を作ることも可能になるのではないか。そうすれば、彼、エルシン・ディゴ議員がその政府の長に着くことも夢ではない。チャンスだと。

 エルシン・ディゴ議員はそれに乗らない手はないと思った。新世紀共和国では、最高評議会議員で頭打ちだった。それが、新政府の長になる可能性があるのだ。一緒に来たフランブ・リンジ議員と図って、要塞で選挙を行うことをディポック司令官たちに強引に認めさせるということにしたのだ。

 だが、それも惑星連盟の艦隊の襲来時にあっという間に蹴散らされてしまった。それがなくなっては、新世紀共和国の政府側としての威信を保つことはできないのだ。その上、それを囁いたギアス・リード自身が、どうも要塞の連中の側に付いたように思えるのだ。

「では、選挙はまず、立候補の準備期間として四週間を取り、それから要塞の政治代表の立候補者を募ります。立候補が決まれば、投票は二週間後に行います。選挙についての詳細は新世紀共和国の法律に準じることにします。もちろん、タレス人たちは、こちらのことはよく知らないでしょうから、ある程度それを勘案して、あまり厳格には適用しないようにします」

と、ディポック司令官は言った。

「エルシン・ディゴ議員、それでどうでしょうか?」

と、何も言わないので、グリンが催促した。

「まあ、それでいいだろう。こんな場所で、あまり細かいことを言っても始まるまい」

と、憮然とした表情を崩さずに、仕方なさそうにエルシン・ディゴ議員は言った。

「そうですわね。本国のことばかり言っても仕方ありませんね」

と、不承不承の体でフランブ・リンジ議員も言った。

「私も、それで結構です」

と、ギアス・リードが言った。


218.

 元新世紀共和国から来た議員たちは自分たちの部屋に戻ると、

「リード、君はあの艦隊がどうなったか調査したかね」

と、エルシン・ディゴ議員は不機嫌そうに聞いた。

「残存艦隊は、現在要塞の駐機場に入っています」

と、ギアス・リードが言った。

「何だって!君は今までそれを黙っていたのか?」

 とっくにギアス・リードは調査済みだったのだと分かって、エルシン・ディゴ議員は更に不機嫌になった。もっとも味方の要塞を前にしていつまでも宇宙空間に漂っているというのも、現実的ではない。

「残存艦隊の数は、わずか数百隻に過ぎません。それだけでは、大した力にはならないでしょう」

と、シラッとしてギアス・リードは言った。

「それはそうかもしれないが、あのデヤンゴ提督はどうした?」

と、エルシン・ディゴ議員は思い出したように聞いた。

「旗艦ベルデルは、惑星連盟の艦隊の最初の攻撃で大破しました。デヤンゴ提督は戦死です」

と、ギアス・リードは言った。

「そうか、残念なことをした」

「では、我々の艦隊はもうないのと同じですのね。でも、彼らはこの要塞にいるのですから、今回の選挙に参加できるのでは?」

と、フランブ・リンジが言った。

「だとしても、大した数ではない」

と、エルシン・ディゴ議員は不快そうに言った。

「ですが、我々に有利なはずですわ。この要塞にいる者たちはほとんど元新世紀共和国の出身なのですから」

「そうですとも、あの艦隊が少数になったとしても、大して不利にはならないでしょう」

 だが、エルシン・ディゴ議員はどこか不安だった。どうもこの要塞の現状、位置が首都星ゼンダで考えていたようなものではないようだからだ。惑星連盟などという、妙な連中の艦隊が襲撃してきたこともある。それに、他の連中にそれとなく聞いてみると、グーザ帝国の艦隊が攻撃してきたこともあるというのだ。それをどうやって撃退したのかわからないが、今はグーザ帝国の艦隊は要塞付近に影も形もない。

 いったいここでは何が起きているのだろうか、とエルシン・ディゴ議員は心もとなく思った。


「あれが、タリア・トンブンか?」

と、エルシン・ディゴ議員がギアス・リードに聞いた。

「そのようです。タレス人たちは、一般兵士の食堂を使うそうですから」

「だが、指導者なのだろう?せめて、士官用の食堂を使わせたらいいだろうに」

「では、そのようにディポック司令官に話されては如何でしょう」

「ともかく、その前にどんな人物か話をしてみたいのだ」

 タリア・トンブンという女性は、一人で食事に来ているようだった。ダルシア帝国の代表というのに、どこかの作業員のような地味な身なりをしている。それに、特にリーダーとして際立つような雰囲気は、少し離れた議員のいる所では感じられなかった。この女のどこが、ダルシア帝国の代表としてふさわしいのだろうか、とエルシン・ディゴ議員は思った。いざ、彼がその隣に座ろうとすると、見たことのある人物が足早にやってきて声を掛けた。

「やあ、隣は空いているかい?」

と言ったのは、ダズ・アルグ提督だった。

「あら、また来たの?あなたのいるところは、ここじゃないでしょう?」

と、タリア・トンブンが迷惑そうに言った。

「どこで食べようが、構わないさ」

「他の人が迷惑じゃないの」

「それよりも、いよいよ要塞の政治代表を選ぶということになるようだな」

「そのことなら、ディポック司令官から話を聞いたわ。タレス人もそれに参加することができることになったって」

「よかったじゃないか」

「まあね」

 エルシン・ディゴ議員は、どうしたものかと悩んで、二人の会話を聞いていた。

「どうしますか?」

と、ギアス・リードは聞いた。

「今、考えているところだ。あのダズ・アルグ提督は、タリア・トンブンとどんな関係にあるのか?」

「さあ、それは……」

 ダズ・アルグ提督は、そんなエルシン・ディゴ議員を目ざとく見つけて、

「やあ、これはおめずらしい、こんなところにおいでとは知りませんでした、ディゴ議員」

と、大きな声で言った。

 驚いてタリア・トンブンは振り返った。

「議員ですって?」

と言って、エルシン・ディゴ議員とギアス・リードを見た。

「いや、一般兵士の食堂を視察にきたのだが……」

と、エルシン・ディゴ議員が言い訳をした。

「紹介するよ、タリア。こちらは、元新世紀共和国最高評議会議員、エルシン・ディゴ氏だ。そして、その隣が確か最高評議会議長の秘書をしているギアス・リード氏でしょうか?」

と、ダズ・アルグ提督は言った。

「よく私をご存じですね」

と、ギアス・リードが言った。

「私は政治に疎いもんで、親父が色々知恵を付けてくれたんですよ」

「親父?あなたはもしかして、あの有名なジャーナリスト、シング・アルグ氏のご子息ですか?」

と、驚いてギアス・リードが言った。

「昔は随分有名だった。だから、同じ道を歩むのがいやでね、私は軍人になったのです」

と、ダズ・アルグ提督ははにかんで言った。

「今でも有名ですよ。あなたが、そうですか……」

 そう言うギアス・リードをよく見ると、その横に妙な蛇ともトカゲともつかぬ妙な形の生物がダズ・アルグには見えた。これは、何だろうか?不思議に思ったが、口には出さないで置いた。

「ほう、こんなところにシング・アルグの息子がいるとは思わなかった」

と、エルシン・ディゴ議員が悠然と言った。

「あなたも父をご存じなのですね」

と、ダズ・アルグ提督は言った。

「もちろんだ。何しろ最高評議会議長チェルク・ノイ閣下の昔からの友人だ。議会でもよく取材に来ていたのに出くわしたものだ」

「そうですか」

「今度、私と一緒に食事をしないかね。ずっと親父さんには会ってはいないのだろう?」

「私は、もう子供ではありませんよ。父は父、私は私です。政治信条も違いますしね」

「親子とはそう言うものだ。うちも同じようなものだな」

「ご子息は何をされているのですか?」

「息子は、官僚だよ。今はゼンダにいる。政治家を嫌っているのでね。私とはそりが合わないのだ」

 エルシン・ディゴ議員は遠い目をして、言った。官僚である彼の息子は、総督府の行政機関で働いているのだ。これまで共和制政府の下で働いていたと言うのに、何の疑問も持たないのかと口論したことが思い出された。

 ダズ・アルグは、後ろめたく思った。そんなエルシン・ディゴ議員の心の内が、映像で見えるのだからしかたがない。

 そんな時、ダズ・アルグ提督の胸で呼び出し音がした。

「ちょっと、失礼!」

と言ってダズ・アルグ提督は離れると、小声で話をして戻って来た。そして、

「どうも、途中ですが、呼び出しがありましたので失礼します」

と、言った。

「誰からかね?」

と、エルシン・ディゴ議員が聞いた。

「司令官からです」

「それでは、仕方がない。行きたまえ!」

 ダズ・アルグ提督はエルシン・ディゴ議員に、すばやく敬礼をすると、一般兵士の食堂を去った。


「少し話をしたいのだが?」

と、エルシン・ディゴ議員はタリア・トンブンに言った。

「何でしょうか?」

「君は、タレス人だが、ダルシア帝国の代表だというのは、どういうことかな?」

「そのことですか。それは、そのままですよ。ダルシア帝国の代表で、タレス人ですわ」

と、タリアは素っ気無く言った。

「いや、そうではなくて、タレス人の君が、どうしてダルシア帝国の代表になれたのかということだ。噂によると、銀河帝国の提督が絡んでいるということだが……」

 ギアス・リードが拾って来た噂によると、タリア・トンブンはタレス人であるにもかかわらず、ダルシア帝国を受け継ぎ、代表者となったというのだ。その件に関しては、銀河帝国の元軍人であるバルザス提督やダールマン提督が関与しているのだという。つまり噂の一つに、バルザス提督やダールマン提督の陰謀でダルシア帝国を受け継いだのだと言われているのだ。

「何を言っているのかわかりません。このことには、銀河帝国だの、提督だのは何の関係もありません」

と、タリアははっきりと言った。

 ダルシア帝国の継承に関しては、コア大使が生前すでに本国で『ダルシアン』にその決定を伝えていたのだ。それについては、『ダルシアン』も同意していた。だから、その決定には、他の何者も関係がないのだ。

「しかし、変じゃないかね。ダルシア帝国の大使ともあろうものが、自国の者ではなく、他国の者を代表にするというのは?」

と、エルシン・ディゴ議員は彼としては率直に聞いた。

「それは、あなたの認識が間違っているのです。私はダルシア国籍を持っていました。ですから、出身はタレス連邦ですが、国籍はダルシアなのです」

と、タリアは言った。

「しかし、他の者は反対しなかったのかね?」

「ダルシア帝国については、ありませんでした。よその国の人々が反対したとしても、ダルシアに何の関係もありません」

「しかし、先日襲来した惑星連盟とかの艦隊は君を狙って来たのだろう?」

と、責めるような口調でエルシン・ディゴ議員は言った。何か疑惑がある証拠ではないかと、彼は考えているのだ。それでなければ、あのような大艦隊を動かすということは考えられない。

 エルシン・ディゴ議員は、戦争は銀河帝国とのことしか考えていないのだ。それなのに、惑星連盟の艦隊などというものが現れては、非常に困るのだった。

「ですから、それは本国の艦隊が来て、撃退しました」

と、タリアは言った。彼女は、一体何が言いたいのだと、聞き返したかった。彼は何も知らないのだ。ただ、要塞内の噂話だけで、話をしているのだ。それが腹ただしい。

「もし、次の艦隊が来たら、君はどうするつもりなのだ?」

と、エルシン・ディゴ議員が聞いた。

「もちろん、我が国の、ダルシアの艦隊が来て撃退します」

と、タリアは明言した。

「君は、勝てると思っているのか?」

「ダルシアの艦隊が、惑星連盟諸国の艦隊に敗れることはありません。それに、同盟国もありますし……」

「同盟国?それは初耳だ」

「そうですか。それではもっとよく調べてから、この話を続けた方がいいのではありませんか?」

 タリアは彼女のことを『君』などという横柄な人物と、これ以上話はしたくなかった。少なくとも見ず知らずの人間と話をする際に、もっと礼儀をわきまえるべきだ。

「君、何か誤解があるのではないか?」

と、エルシン・ディゴ議員は何も気づかずに言った。

「誤解はないと思います」

と、タリアは言った。


219.

 ディポック司令官は、執務室でメイヤール提督と待っていた。

 ダズ・アルグ提督が入っていくと、

「ちょっと聞きたいことがある」

と、ディポック司令官は言った。

「何です?何かありましたか?」

と、ダズ・アルグは興味を持って聞いた。まるで何か面白いことを見つけた子供のようだった。

「君には、ここ最近妙な事が起きてはいないか?」

と、ディポック司令官は聞いた。

「妙な事とは、どんなことですか?」

「霊、つまり幽霊が見えるとか?」

「そうですね。残念ながら幽霊はまだ見ませんが、他のものは見えます」

「他のものとは、どんなものだ?」

 ディポック司令官が聞いたので、先ほどの事や最近起きていることを話した。

「あのギアス・リードを見ると、その横に妙な生物が見えるだって?」

と、ディポック司令官は半ば呆れたように言った。

「それに、魔法を使って変えている銀河帝国の提督の顔が、本物とニセモノ両方の顔が見えるんです。おかしいでしょう。それに、先ほど、エルシン・ディゴ議員の心の中の映像が見えたのです」

と、ダズ・アルグは最近経験したことを続けて言った。

「どうして、そんなことがわかるんだ?」

と、ディポック司令官は言った。

「タリア・トンブンに聞いたところでは、ダルシア帝国の艦隊を指揮するためにもらった水晶のペンダントが、ダルシア人の持っていた能力を引き出している、というか補強しているというか、そんなものだそうです」

「要するに、水晶のペンダントのせいなのか?」

と、ディポック司令官は言った。

「そうです。で、メイヤール提督は何が見えたのですか?」

と、ダズ・アルグ提督は聞いた。

 ディポック司令官とメイヤール提督は顔を見合わせると、

「メイヤール提督が仰るには、要塞で旧銀河帝国の皇帝が見えたのだそうだ」

と、言葉を選びながらディポックは言った。正確に言えば、メイヤール提督がかつて仕えていた旧銀河帝国の皇帝が要塞にいるのを見たというのだ。

「前の皇帝の幽霊が見えたというのですか?」

と、ダズ・アルグ提督が聞いた。

「まあ、その皇帝は病死された方らしいが、何か引っかかる様な気がするんでね。君も見たかどうか、聞きたかったんだ」

「私は見たかどうかは、わかりません。何しろ、そのメイヤール提督の言う皇帝陛下には会ったことはありませんし、見てもわからないと思います」

「そうだな」

「それなら、魔法使い達に聞いた方がいいのではありませんか?」

「連中にか?」

「彼らは笑ったりしないと思いますよ。それに、そうしたことには、我々よりも詳しいのではないでしょうか?」

「なるほど、それがいいかもしれないな」

と、ディポック司令官は言った。


 ダールマン提督――レギオンは、城の書斎で珍しい客を迎えていた。

「新王朝の皇帝が『死の呪い』を掛けられていることは、知っています。リドス連邦王国の帝国駐在大使が報告してきましたので……」

と、ダールマン提督は言った。

 その客は、銀河帝国のものと思われる衣服を身に付けていた。しかしどこか古めかしく、それでいて豪華で重苦しいような衣装である。

「一体なぜ、このような事が起きたのか、わしにはまるでわからないのだ」

と、客は言った。

「しかたがありますまい。あなたは、まだ死んだばかりでしたし、我々もまだその『死の呪い』の兆候については、気が付きませんでした」

と、ダールマン提督は言った。

「だが、かつてのあの星のアルフ族の遺跡などが発見されたという話は、聞いたことがない。いつの間にこのような事が起きたのであろう」

 ロル星団にあったアルフ族の文明は、数百万年も前に滅びたはずだった。それも『死の呪い』という尋常ならざる闇の呪法によってだ。その呪いから逃れるために、アルフ族の生き残りは、ほとんどジル星団の惑星ガンダルフに逃れて来たのである。

 この闇の歴史はアルフ族が語り継いできたが、そのアルフ族も今ではただ一人しか残ってはいない。その闇の呪法も彼らはロル星団に残して来て、ジル星団に来てからは一度も使ったことはない。彼らは忌むべきものとして封印したのだ。

 当時の文明の痕跡はアルフ族が去った後、惑星全体を襲った地殻変動によって、地上から姿を消していた。その後、何度か地殻変動はあったが、アルフ族の文明が地表に出て来たことはなかった。

 ただ現在では、かつて惑星ガンダルフに移住したアルフ族の魂たちもロル星団の銀河帝国や新世紀共和国に生まれ変わって来ていた。だが、歴史は断絶しており、生まれ変わった者たちは何も覚えてはいない。

 それなのに、いつの間にか『死の呪い』が復活していたのだ。

「それについては、我々も気が付いたことがあります。まだお話しできる段階ではないのですが、調査しております」

と、ダールマン提督は言った。

「ともかく、早くこのことを解決しなければ、予期された例の凶事が起きる前に、銀河帝国は大混乱の末に滅ぶであろう」

と、客人は暗い未来を予言した。

「ですが、希望はあります」

「希望があると?どのような希望か……」

「あやふやな希望ではありません。確かな希望です」

 その時、部屋に入って来るものがあった。

「銀の月か?」

と、ダールマン提督は言った。

「ディポック司令官が、ダルシアから持ってきた水晶の機能について気づいたようです。それで、メイヤール提督が客人のことを偶然見かけてしまったようです」

と、バルザス提督が言った。

「そうか、それでは仕方があるまい」

「こちらに案内しましょうか?」

「そうしてくれ……」

と、ダールマン提督は言った。


 ディポック司令官とメイヤール提督、それにダズ・アルグ提督は久しぶりにレギオンの城へやってきた。バルザス提督が連れて来たのである。

 書斎には先客がいて、ダールマン提督――レギオンと話をしていた。その客は老齢であるが、どこか威厳のある風情をしていた。

 メイヤール提督は書斎にいる客人を見て、絶句した。

「陛下……」

 ディポック司令官とダズ・アルグ提督はそれを聞いて、さすがに驚いた。

「これは、どういうことなのですか、ダールマン提督。そちらの方はどなたですか?」

と、ディポック司令官は聞いた。

「どういうこととは、どういうことかな?こちらは、確かに旧銀河帝国の二代前の皇帝陛下ヨツンガルドス八世ではあるが、すでに亡くなったのだ。それに、彼がわが城の客になるのは初めてではない。昔からよく城に来ていた御仁だ」

と、ダールマン提督は当たり前のように言った。

「昔からよく来ていたということは、どういうことなのですか?」

と、ディポック司令官は聞いた。

「つまり、ヨツンガルドス八世は銀河帝国だけではなく、ロル星団ではかなりの力を持つ魔法使いであったということだ。正確に言えば、ロル星団に生まれ変わる連中の中では、破格の力の持ち主なのだ。だから、生前から私がこの城にいた頃は、よくこの城に来ていたのだ。一人でこの城にロル星団から来ることが出来るのは、おそらく新王朝の皇帝の姉である大公妃とヨツンガルドス八世の二人だけだった」

「い、今何て言ったのですか?」

と、ダズ・アルグ提督が驚いて言った。

 これは、とんでもない事実だった。こんなことがあるのだろうか?ロル星団では、魔法などあり得ないと思っていたのに。本当は魔法使いがいたのだ。

「ロル星団には昔、アルフ族という魔法を使う種族がいたのだ。彼らは、闇の魔法を生んだためロル星団から出ざるを得なくなったのだが、それは数百万年も昔のこと。そして闇の魔法は封印された。だから彼らアルフ族は再び、ロル星団に生まれてきているのだ。その中で最も強力な力を持つ者が、ヨツンガルドス八世と大公妃だというわけだ」

と、ダールマン提督は言った。

「ええと、私が聞きたいのは、その皇帝陛下が生前から魔法を使う力があったのかということです」

と、ディポック司令官は気を取り直して言った。

「もちろん、有った。アルフ族の中にもガンダルフの五大魔法使いのような強力な魔法使いと同じ力を持つ者がいたのだ。そうした者は、ガンダルフの五大魔法使いの持つ秘法も知っている」

 ガンダルフの五大魔法使いの持つ秘法とは、何度も生まれ変わって来たと言う知識や経験の記憶を魔法の呪文を使って思い出すということだ。その秘法がアルフ族にも伝わっていたのだ。

「つまり、昔のこと、過去世のことを思い出すことができたのですね」

と、ディポック司令官は念を押した。

「そうだ。だからこそ、この城までやってくることができた」

と、ダールマン提督は言った。

「その、今の皇帝の姉である大公妃もですか?」

と、ダズ・アルグ提督が聞いた。

「そうだ。彼女もその一人だった。この二人は、いつも同じ時代に生まれ、夫婦になることが多かった。今回は年が多少違うのだが、それでも夫婦に近い関係にあっただろう。大公妃の方は最初気づかなかったが、ヨツンガルドス八世が死んだ時に、思い出していた」

と、ダールマン提督は言った。

「それでは、……」

と、ダズ・アルグは言った。

「当時は愛人とか言われていたが、ヨツンガルドス八世の本当の相手は、皇后となるべき女性は大公妃だったということだ。もちろん、今回はそうなるわけには行かなかったのだが」

「どうしてですか?」

と、ディポック司令官は聞いた。

「そうなったら、今の皇帝が新王朝を築くのにもっと時間が掛かるし、遠回りをすることになったからだ。姉が皇后ではそう簡単に旧王朝を排除するわけには行くまい。悪くすると旧王朝のまま変わらないということになった可能性もある」

「ということは、今の皇帝が新王朝を築くことが決まっていたということですか?」

「要するに、生まれる前に、本人がそう決めて出てきているのだ」

 こんな話が信じられるだろうか、とダズ・アルグ提督は思った。だが、目の前にいる旧銀河帝国のヨツンガルドス八世皇帝がニセモノとも思えなかった。

「わしが、本物かどうかと悩んでいるのか?」

と、面白そうな口調でヨツンガルドス八世は言った。

「いえ、そのようなことは……」

と、ダズ・アルグ提督は慌てて言った。

「好きなだけ悩んでいて構わぬが、そなたはわしと会うのは初めてではないのだぞ」

と、ヨツンガルドス八世は言った。

「え?」

と、ダズ・アルグ提督は驚いて言った。彼は銀河帝国に行ったことはないのだ。

「もちろん、銀河帝国で会ったのではない。もっと昔だ。銀の月がガンダルフでサンシゼラ姫と会った後のことだ」

と、ヨツンガルドス八世は笑って言った。


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