ダルシア帝国の継承者
213.
ダールマン提督とギアス・リードがいなくなった司令室では、エルシン・ディゴ議員が元気を盛り返していた。
「ディポック司令官に、まだ聞きたいことがある」
と、エルシン・ディゴ議員が聞いた。
「何でしょうか?」
と、ディポック司令官は言った。
「先ほどまでいたゼノン騎士団とか言う、異星人の重武装の兵士は突然消えたが、あれはどうしたのだ?」
「それでしたら、我々の援軍に駆けつけてくれたダルシア帝国の艦隊がゼノン帝国の艦隊へまとめてビーム転送してくれたのです」
「ビーム転送だと?何だそれは?単なる転送ではないのか」
「惑星カルガリウムで使った転送機とは違います。これは我々の技術ではなく、ビーム転送はダルシアの技術なのです。ビーム転送というのは、いわゆる物質転送機のことです。つまり、ダルシア帝国の艦隊から転送ビームをあのゼノン騎士団に向けて投射し、移動させたのです」
と、ディポック司令官は説明した。
「ほう、転送機よりも更に科学技術的には高度なものというわけか?」
「そうです」
「ダルシア帝国というのは、もしかしてジル星団にある国なのですか?」
と、フランブ・リンジ議員が聞いた。
「そうです。よくご存じですね。我々は今現在協力関係にあります。スクリーンに後から来た艦隊が、ゼノンとナンヴァルの艦隊を追撃して行ったのを見られましたでしょう?」
と、ディポック司令官は言った。
「あの、妙な色彩の気味の悪い艦隊がそうなのですか?」
と、フランブ・リンジ議員が聞いた。
確かに、普通の新世紀共和国の人の感覚で言うと、ダルシア帝国の艦隊の色彩はあまり好感を持てない。
「そうです」
と、ディポック司令官は言った。
「では、あの大きな機動兵器が突然現れたり、消えたりしたのも、その所為なのですか?」
「もちろん、そうです」
「随分、勝手なことをしているのだな」
と、エルシン・ディゴ議員が言った。
「勝手なこと?それは、どういうことですか?」
と、フェリスブレイブが言った。
「ここは、新世紀共和国ではありません。ですから、あなた方にそのようなことを言われる筋合いはありませんな」
と、さすがにグリンも言い返した。
「あまり悪く思わないでいただきたいですわ。私たちも驚いたのです。ヘイダール要塞がこのようなことになっているとは思わなかったので……」
と、フランブ・リンジ議員は言った。
「しかし、我々はここで新世紀共和国政府の協力や援助も受けずに、やって来たのです。ですから、あなた方に指図されるいわれはないと思っています」
と、フェリスグレイブは言った。
大体、ディポック司令官がこの要塞へ来ざるを得なかったのは、誰の所為なのだ、とフェリスグレイブは言いたかった。だが、それは我慢していた。あまり言うと、ディポック司令官が不利になると思ったのだ。
彼、リード・マンドは大あくびをして、人間たちの繰り広げる会話を聞いていた。
つまらなかった。自分の出る幕はなかったし、ここの連中はもっと気の利いた会話ができないものなのか、と思った。
悪戯を仕掛けたかったが、ここでそれをやるのは剣呑だということはわかっていた。何しろあのリドス連邦王国の六番目がいるのである。どこにいるのかは不明だが、確かにどこかにいるはずなのだ。
それにしても、ここの連中はこの邪魔な議員たちをさっさとどこかへ放逐しないのはなぜなのか、と思った。邪魔なだけではない。このヘイダール要塞を支配したくてうずうずしているのだ。これはなにも彼だけが気づいているのではない。あのディポック司令官という奴も、その部下も、リドスの連中も皆気づいているのだ。
一番悪いのは、あのディポックとか言う司令官だ、と彼は思った。分かっているくせに、黙って議員連中に好き放題やらせているようにも見える。これ以上、放置しているとこの要塞を好きなようにされるのは明らかだった。それなのに、適切な処置を取らない。まったくもって、歯がゆい奴なのだ。
また、それをやらせているリドスの連中、特にガンダルフの魔法使いは特に気に入らない。自分が何かをすれば、すぐにあの六の姫を呼んで止めさせるくせに、あの議員連中には何もしないのだ。あまりにも不公平ではないか。
一度、ダールマン提督――レギオンに、彼は文句を言ったことがある。その時に、
「我々は、要塞においてはよそ者なのだ。だから、内政干渉をしてはならない」
と、ダールマン提督は言ったのだ。
つまり、レギオンは自分たちが内政干渉はしないということで何もしないのだから、彼、リード・マンドも何もするなと言ったのである。
おかしい、と彼は思った。彼はリドスの人間ではない。それなのに、なぜダールマン提督――レギオンの言うことを聞かなければならないのだ?
要するに、この宇宙というのは力が正義なのだ。暗黒星雲の種族とは言え、リドスの特に六の姫に力で勝てない彼は、リドスの提督の言うことに、逆らうことはできないのだ、と暗黒星雲の種族にしては珍しく自虐的に思った。
「で、あのダルシア帝国とは、どんな国なのか?銀河帝国のようなものか?」
と、エルシン・ディゴ議員が聞いた。不穏な空気にさすがに気づいて、話の向きを変えたのだ。
「ジル星団では非常に古い文明だと聞いています」
と、ディポック司令官が短く言った。
「その国と、どんな協力関係にあるのだ?」
「特に、条約を結んだとか、そのような関係ではありません。ダルシア帝国の代表が、今要塞にいるのです。ジル星団の惑星連盟がどうも我々の領域に入ってこようとしているようなので、それを排除するのに協力してくれているのです」
と、ディポック司令官はこれまでのいきさつを事細かに話しても無駄だと分かっているので、適当にわかりやすく省略して話をした。
「惑星連盟とか言う連中が、ロル星団の方にやって来ようとしているのか?」
と、エルシン・ディゴ議員が聞いた。
「そうです。惑星連盟の中には銀河帝国に外交使節を送ったりしている国もあるようですが、その中にあまり油断のできない国があるのです」
と、ディポック司令官は言った。
「それが、ゼノン帝国というのか?」
「ゼノン帝国もそうです。我々の掴んだ情報ではゼノン帝国はジル星団でもかなり強力な艦隊を持つ勢力です」
「すると、あの銀河帝国と比べると、どちらが強いだろうか?」
「それは、簡単には申せません。ですが、もし戦争にでもなったら、かなり危険だと言うことは言えます」
「ディポック司令官、タレス連邦というのは、どんな国でしょうか?」
と、フランブ・リンジ議員が聞いた。
「タレス連邦というのは、人間族の国で、一応新世紀共和国のような政治制度を持つ国です。実はそこで住めない人々が、この要塞に難民としてやって来ているのです。私は、彼らがここに住みたいと言うのであればそれを許可するつもりです」
と、ディポック司令官は言った。
「人間族と言いますと、ゼノン人というのは、このスクリーンで見ましたけれど、人間ではないということですか?」
と、フランブ・リンジ議員が聞いた。
司令室に来たゼノン騎士団の連中は重武装で被り物をしていたので、正確なゼノン人の風貌はわからなかったのだ。
「彼らはジル星団では、竜族という部類になります。ジル星団では人間とは違う種類の知的生物の国や文明が、多く存在するのです」
「本当ですか?人間とは似てもつかない種族もいるのですか?」
「ジル星団では、いるようです。これからは、我々はそのような種族とも付き合っていかなければならないでしょう」
と、ディポック司令官は言った。
ナル・クルム少佐はディポック司令官と議員たちの話を、目立たない後ろの方でじっと聞いていた。
転送装置のことやダルシア帝国の艦隊のことをこの議員たちに聞かれた時、ディポック司令官がどんな風にごまかすか、彼は興味があったので来ていたのだ。
このやりとりで、本当にこの議員たちが納得したのかわからなかった。だが、もし自分がここの司令官であったとしても、これ以上うまくごまかすことはできないと思えた。
だが、今はそれよりもダールマン提督がギアス・リードとともに別の部屋に行ったことが気になっていた。ギアス・リードとか言う議員秘書と言う肩書の男は、どうもダールマン提督――レギオンの古くからの知り合いのようだったのだ。
ダールマン提督がどんな人物か、クルム少佐はわかったようでわからなかった。彼の知っているダールマン提督は、現在の元銀河帝国の元帥であった人物に他ならない。だが本当のダールマン提督は、ガンダルフの五大魔法使い『大賢者』レギオンだという。年で言ったら見た目は三十代であっても、何万年、いや何百、何千万年、もしかしたら億年もの時を記憶しているとんでもない老人かもしれないのだ。そういう人物がどんな考え方をし、どんな行動をするのか、彼には想像できないことだった。
それは『銀の月』と呼ばれるベルンハルト・バルザス提督や、クルム少佐がまだここでは会ったことはないが、『塔の長』と呼ばれるヨナン・スリューグ提督も同じである。現在は元銀河帝国の軍人でありながら、彼らはガンダルフの魔法使いなのである。
バルザス提督以外は、二人とももう銀河帝国には親族はいない。ダールマン提督が大逆人として帝国から追われた時、その親族は帝国で行き場を失い、それがたとえ病死であったとしても非業の死を遂げたと言える。大逆人の身内として、社会で冷たく扱われたからだ。そして、彼ら三人は戦場で命を失った。実際、銀河帝国は皇帝暗殺未遂という大逆事件を起こした大逆人を追う征討軍を派遣し、その艦隊に敗北したのだ。その中で命を落としたと聞いている。だが、ガンダルフの秘めた魔法で生き返った彼らは、ガンダルフに帰り、リドス連邦王国の軍人となった。
銀河帝国では、その事実をようやく知った頃だろう。かの大逆人がリドス連邦王国にいるということを。少なくともゼノン帝国は、この情報を積極的に流すはずだ。リドス連邦王国にとって銀河帝国との外交関係を築くにはマイナスになるこの情報は、ゼノン帝国の友邦となったナンヴァル連邦からももたらされるに違いない。
銀河帝国では、このガンダルフの魔法使いたちは、元銀河帝国の軍人である大逆人とその部下でしかない。彼らが、ジル星団の魔法使いの惑星であるガンダルフの五大魔法使いだとどこからか聞いたとしても、誰も信じないだろう。それはそれでもいい。すぐに彼らと銀河帝国が遭遇する羽目になるとは思えないからだ。
それは、単に銀河帝国とリドス連邦王国との外交関係が悪化するということになるだけのことだ。もちろん、条件が整えば、銀河帝国が大逆人とその部下の返還を要請するか要求することはありうるだろう。
だが、いずれその時は来る。その時、何が起きるだろうか?
クルム少佐は、そのことを考えざるを得ないのだ。
214.
ヘイダール要塞の幹部の定例会議に、ダールマン提督やバルザス提督、それにタリア・トンブンの姿があった。
「実は、ヘイダール要塞の政治代表を決める必要があるのではないか、という提案があった」
と、ディポック司令官が切り出した。
「ゼンダから来た議員連中が要求したのですか?」
と、フェリスグレイブが聞いた。
「いや、彼らだけではない。リドス連邦王国からも言って来たのだ」
と、ディポック司令官が言った。
「しかし、その政治代表に誰が立候補するというのですか?どうせ、あの議員の一人なのでしょう?」
と、ダズ・アルグ提督が反対するように言った。
「もちろん、彼らも立候補する。だが、一人だけでは不戦勝になってしまう」
「すると、我々の中から誰かを出すというのですか?」
と、グリンが言った。
「いや、我々は軍人だ。軍人を止めて出るというのならべつだが、そうしたい者がいるだろうか?」
と、ディポック司令官は言って、テーブルを見回した。実を言うなら、このテーブルの中から、立候補者が出て欲しいと思わないでもない。
「私は御免ですね」
と、フェリスグレイブが言った。
「一番やりたそうな君が、それでは困る。一体誰が出てくれるのか?」
と、ディポック司令官は苦言を呈した。
「タリア・トンブン、君はどうだい?タレス連邦の亡命者の代表として……」
と、ダズ・アルグが言った。
「冗談でしょう。私は、もうダルシア帝国の代表なのよ。その上、ヘイダール要塞の政治代表なんて、出来るわけないわ」
と、タリア・トンブンが言った。
「あの議員連中は、要塞の兵士の間では、宣伝次第ではかなり票が取れると思われる。その彼らと対抗するには、かなりここで顔の知られている人物でないと……」
と、ディポック司令官は言った。
「一つ提案がある」
と、ダールマン提督が言った。
「もしかして、あなたが出るとか?」
と、ダズ・アルグ提督が言った。
「私は、リドス連邦王国の軍人だ。この要塞の政治代表にはなれないし、なるつもりもない」
「では、誰か推薦する人物がいるのですか?」
と、グリンが聞いた。
「そうだ。我々は、ナンヴァル人のマグ・デレン・シャを推薦したい……」
と、ダールマン提督は言った。
会議の席上では、皆驚いていた。
「確かに、マグ・デレン・シャは軍人ではありません。それに惑星連盟の大使でもありましたね……」
と、ブレイス少佐が言った。
「しかし、彼女は要塞内では顔を知られていませんし、異星人です。当選するのは、かなり難しいと思うのですが……」
と、ダズ・アルグ提督は言った。
「その点は、選挙運動とか言うものの、期間を長く取ればいいと思うのだが」
と、ダールマン提督は言った。
「まあ、まだ選挙期間や選挙運動のやり方などの細かなことは決めてはいませんから、それはある程度可能だとは思います」
と、ディポック司令官は言った。
しかし、例え選挙期間を延ばしたとしても、異星人のマグ・デレン・シャを選ぶ人がそれほど増えるとは思えなかった。
まだ要塞の人々のなかには、異星人というものを奇異の目でみる傾向がある。ロル星団には人間しかいなかったので、どうしても慣れないのだ。
「まさか、魔法を使ったりはしないでしょうね」
と、ディポック司令官は用心深く言った。
「リドス連邦王国でも、内政に関しては、選挙による政治制度を採用している。従って、選挙について魔法を使うことは禁じているのだ」
と、ダールマン提督は言った。
「ほう、それは初耳ですね」
と、フェリスグレイブが言った。
「リドスでは、外交と国防が王家の専権事項になっている」
「すると、艦隊は王家直属ということですか?」
と、グリンが聞いた。
「もちろん、行政側からも意見を言うことはできる。国防大臣がいるのでね。ただ、外交と国防の最終決定は王家の意見が優先されるのだ」
と、ダールマン提督が言った。
「しかし、それでは王家の側の利益が優先されるのでは?それに、王位が替わった時とか、王家の婚姻関係などで影響されるでしょう」
と、ダズ・アルグ提督が聞いた。
「確かにそうだが、これまで二百年の間、王位は変わっていない。それに、他の王家との姻戚関係は、ジル星団においてはない」
「ちょっと待ってくれ、二百年の間王位は変わっていないというのは、どういうことだ?」
と、ダズ・アルグ提督が驚いて聞いた。
「言った通りだ。リドスの王族の寿命はガンダルフの人間とは違って、長いということだ」
「つまり、リドスの王族と普通のガンダルフの人々とは、種族も違うので寿命も違うということですか?」
と、ブレイス少佐が聞いた。
要塞幹部の者達は皆、ありえないという表情で聞いていた。
「そうだ」
「リドス連邦王国の王族は、他の銀河から移住してきた人々だってこと、聞いてないの?」
と、タリア・トンブンが言った。
「将来は、いつか替わることもあるでしょう」
と、バルザス提督が言った。
「もし、変わらなかったら?」
と、ダズ・アルグが聞いた。
「リドスの多くの国民は、今の女王陛下の治世がこれからも続くことを望んでいます。実はそれが、女王陛下の悩みの一つなのですがね……」
と、バルザス提督が言った。
「今のままがいいっていうことか?」
と、ダズ・アルグが聞いた。
「もちろん、世継ぎとして決まった方はおられます」
と、バルザス提督が言った。
「その王子様が困った人だとか?」
と、ダズ・アルグ。
「いえ、世継ぎは王女殿下です。第三王女殿下がお世継ぎなのです。リドス連邦王国は王女でなければ、後継ぎにはなれません」
「それは、もしかして……」
と、ディポック司令官はそこで言葉を切った。
以前、暗黒星雲の種族であるあのリード・マンドとかいう男が言っていた。リドスの王族は力が強いと。彼ら暗黒星雲の種族よりもはるかに力があるのだと。それは、それだけの力がある者にしかリドスの王にはなれないと言うことかもしれない。
ディポック司令官から見たら、あの暗黒星雲の種族は神と見まがうほどの力があるように思えた。その彼にして、及ばない力をリドスの王族は持っているのだ。
「どうかしましたか、司令官?」
と、ブレイス少佐が聞いた。
「いや、何でもない。ともかく、エルシン・ディゴ議員やフランブ・リンジ議員と要塞の政治代表を決める選挙について急いで期日やルールを決めることにしよう」
と、ディポック司令官は言った。
215.
リイル・フィアナ提督は自室に戻って、イライラしている銀河帝国の二人の提督に言った。
「さてと、ゼノン帝国とナンヴァル連邦の艦隊は追い返したし、あなた達もこの部屋に閉じ込められて大変だったわね。もう大丈夫だから、外に出てもいいわ。ただし、その顔を変えさせてもらうわ」
「なぜだ?」
と、ウルブル・フェルラー提督は言った。
「まだ元新世紀共和国から来た議員たちがいるから。あなた方の素性がバレては困るの」
と、リイル・フィアナは言った。
「しかし、いつになったら我々を元に戻すのです?」
と、アルトラス・ヴィル提督が言った。
「そうね。あと少しよ」
「あまり長く留守にすると困るのだが……」
と、ウルブル・フェルラー提督が言った。
銀河帝国の艦隊司令部と長く連絡を取り合わないと、彼らの艦隊がどこへ消えたのかと大騒ぎになるだろう。それだけならまだいい。何の罪もないのに、反逆や逃亡を疑われることもありうるのだ。
「大丈夫よ。あなた達は、帰るときはここに来ることになった事件の時点に戻すから」
と、リイル・フィアナ提督は言った。
「それは、どういうことですか?まさか、時間を遡って戻すということですか?」
と、アルトラス・ヴィルは聞いた。
「まあ、そのようなものね」
アルトラス・ヴィルとウルブル・フェルラーは二人とも顔を見合わせると、
「つまり、リドス連邦王国は、時間をコントロールすることが出来るということですか?」
と、アルトラス・ヴィルが聞いた。
「そうかもね……」
と、リイル・フィアナは曖昧に言った。
要塞内では、要塞の政治代表を決める選挙が行われるという噂で持ち切りだった。
リイル・フィアナが顔を変えたのでまた外に出たアルトラス・ヴィルとウルブル・フェルラーは、もっと詳しい噂を聞くために、一般兵士の食堂に行ってみた。
テーブルに座って、無料のお茶を飲んでいると、
「やっと外へ出られたのね」
と、声がした。
見ると、タリア・トンブンが立っていた。
「あなたは、我々のことがわかるんですか?」
と、アルトラス・ヴィルが驚いて言った。
「顔を変えたのね。リイル・フィアナが言っていたわ。でも、私には利かないの。たぶんこれは透視のような能力なのかもね」
タリアには、変化した顔から少しずれて、二人の本当の顔が薄く見えるのだ。
「ええと、あなたはタレス人でしたね」
と、アルトラス・ヴィルが言った。
「そうよ」
「タレス人は皆、あなたのような力を持っているのですか?」
「いいえ。タレス人でも、誰でも皆特殊能力を持っているわけではないの。こうした能力を表すのは、元ダルシア人だった魂が多いのよ」
「ダルシア人?確か、ダルシア人というのは、ドラゴンのことでしたよね」
と、アルトラス・ヴィルは言った。
誰に聞いたのか忘れたが、ダルシア帝国と言う話が出た時、ダルシア人というのは竜、つまりドラゴンなのだと言うことを聞いたのだ。
「そうよ。ダールマン提督の言うことには、ダルシア人というのはジル星団だけではなくこのふたご銀河の最強の種族だったのですって」
と、タリア・トンブンは言った。
「その最強の種族がどうして、滅びたんだ?」
と、ウルブル・フェルラーが言った。
「滅びたというよりは、最強の種族として長くふたご銀河に君臨していたので、ダルシア人は色々な経験や知識がそれ以上増えないことを知って、別の種族に生まれてくることを望んだのだと、ダールマン提督が言っていたわ」
と、タリア・トンブンが言った。
「食糧が減って、飢えて人口が減ったのではないのか?」
と、ウルブル・フェルラーが言った。
「私が聞いたのは、文明が進んで繁殖力が減ったのは確かだけれど、またそれに加えてダルシア人の繁殖に必要な精子や卵子が失われてしまう事件もあったけれど、その根本は別の種族として生まれ経験を積みたいという願望があったということだわ」
「そうすると、あなたもかつてはドラゴンだったのですよね」
と、アルトラス・ヴィルは聞いた。
「そうなるわね」
「そのドラゴンだった時の記憶はあるんですか?」
「まさか、ダールマン提督に聞くまでは全然しらなかったわ。もっとも、何かのきっかけで前世の記憶を取り戻すということもあるようだけれど、私は今回のことが起きるまで何もなかったわ」
「そうすると、私もそのダルシア人だったということもあるのかな?」
と、ウルブル・フェルラーが興味を持って言った。
「ロル星団にはあまりいないと聞いたけれど。そうね、もしかしたら、そうかもしれないわ」
と、タリア・トンブンが笑って言った。
要塞の駐機場の一画に、その機動兵器は置かれていた。
司令室でゼノン騎士団と遣り合った後、ビーム転送でまた元の場所に戻って来たのである。
「提督、あります。戻ってきています」
と、グーザ帝国のマルボルラ中尉は言った。
キンドルラ提督は、彼らの機動兵器を見上げた。中にパイロットはいない。それなのに、動いたのである。これはいったいどういうことなのか?
「提督、操縦席を見てきましょうか?」
と、ケルラ大尉が言った。
「いや、いい。おそらく、誰も乗ってはいまい」
と、キンドルラ提督は言った。
この機動兵器のパイロットとして登録していなければ、操縦席を開けることもできないのだ。
「ですが、どうしてあの時動いたのでしょう」
と、ケルラ大尉は言った。
「わからぬ。あのダールマン提督は、ダルシア人の魂がこの機動兵器を動かしていると言っていたが、どういうことなのか?第一、魂とは?死んだ者の魂が動かしたとでもいうのだろうか?」
と、キンドルラは言った。そんなことは到底信じられない。
「ここの連中は変です。頭がおかしいのではありませんか?特殊能力者というのならわかりますが、魔法使いと言うのでは、理解できません」
と、マルボルラ中尉は言った。
「確か、ダールマン提督は銀河帝国の元元帥だったはず。それが、なぜリドス連邦王国の惑星ガンダルフの魔法使いと呼ばれるのか……」
と、キンドルラ提督は考えながら言った。
「ですが、ここの連中全員頭がおかしいのなら、このような要塞は建設できないのではありませんか?」
と、ケルラ大尉が言った。
「この銀河には、我々の銀河では理解できないものがあるということだろうか……」
と、キンドルラ提督は言った。
食堂では、タリア・トンブンと銀河帝国の提督の二人が話をしていた。
そこへ、ダズ・アルグ提督がやってきた。
「やあ、タリア。誰と話をしているんだい?」
と、話しかけたダズ・アルグは、一瞬黙った。
ダズ・アルグの目に、タリアと話している二人が、銀河帝国のアルトラス・ヴィルとウルブル・フェルラー両提督だと気づいたのだ。二人の本当の姿が今の姿と両映しに見えたのだ。
「誰だか、わかった?」
と、タリアは秘密めかして聞いた。
「これは、どうしたことだ。私は、こんな力はないはずだ」
と、ダズ・アルグは心底驚いて言った。
「当たり前よ。それはね、ほら、あなたが付けている水晶のペンダントの力よ」
「何だって?しかし、これは艦隊を指揮するのに使うのでは?」
「もちろん、それが主な使い方よ。でも他に、TPや透視や、つまりダルシア人の持っていた能力を使うのを補助してくれるのよ」
「なんだか、魔法の杖のようなものだな」
「あら、違うわよ。それは、魔法は使えないもの。魔法の杖とは全く別のものだわ」
「まるで、魔法の杖を知っているようなことを言うね」
「昔はあったのよ。もちろん、ガンダルフにだけれど」
アルトラス・ヴィル提督は、
「ところで、要塞で政治代表を決める選挙が行われるという噂を聞きましたが、本当なのですか?」
と、タリアに聞いた。
「そうみたいね」
「興味があるようですね」
と、ダズ・アルグ提督が言った。
「我々の国には選挙と言う制度はないが、この要塞でそれが行われるということは、この要塞に元新世紀共和国の新政府でも作ろうと言うのですか?」
と、アルトラス・ヴィルは気になっていることを聞いた。
この要塞が一政治勢力となるということは、これまでただの軍事要塞だったというヘイダール要塞の地位が替わることになる。
「そうなのよ。ホントは、ディポック司令官はあまり乗り気ではないようだけれど、ヤムを得ないと考えているのでしょうね」
と、タリアが言った。
「どちらにせよ、新世紀共和国新政府などというものは、あまりいい気はしないな」
と、ダズ・アルグが言った。
「ほう、あなたはそれを喜ぶと思っていましたが……」
と、アルトラス・ヴィルが不審そうに聞いた。
「私は、議員という政治家は嫌いなのでね。司令官もたぶん嫌いだと思う。だが、長くここにいるとなると、それも仕方がないと考えているのだと思う」
と、ダズ・アルグが言った。
これからこの要塞を守ると言うことを考えると、政治代表も必要だと言うことなのだ。
ヘイダール要塞の敵は、銀河帝国とは限らない。惑星連盟もそうだし、グーザ帝国もいる。それに、元新世紀共和国の勢力も敵に成る可能性があるのだ。そのすべてに対処するためには、やはり政治代表が必要なのだ。
「で、あなたは、誰が代表に成ると良いと思うの?」
と、タリアがダズ・アルグに聞いた。
「難しいね。あの議員たちには投票したくないし、かと言って、別の候補は……」
「別の候補は?」
「ナンヴァル人のマグ・デレン・シャは、よくわからない」
「ナンヴァル人?この要塞の代表に、ナンヴァル人というのは、どういうことです?」
と、アルトラス・ヴィルが驚いて言った。
アルトラス・ヴィルは、会議でナンヴァル人と言うのを見た記憶がある。人間とは思えない、緑色の皮膚の異星人のことだ。
「あら、彼女はこの要塞に亡命してきたのよ。ここに住んでいるのだから、十分政治代表になる資格があるわ。確か今度の政治代表の選挙の立候補や選挙権の資格はここに居住するものという条件が付けられるのよね」
と、タリアが言った。
「そうだ。だから、ナンヴァル人のマグ・デレン・シャもその資格を持っている」
と、ダズ・アルグが言った。
だが、まだ決まったわけではない。
リドス連邦王国の連中が言って来たナンヴァル人のマグ・デレン・シャが本当に立候補するとは決まっていないのだ。
216.
レギオンの城の一番高い塔の中に、大きな竜の巣があった。そこで寝ていた金色の竜が、ゆっくりと目を覚ました。
このところ、忙しくなってきたので、束の間休んでいたのだ。また、何かあったらしい。ライアガルプスは背中の金色の翼を伸ばし、これまで横たわっていた巣から出て宙に浮かんだ。ここから下界のヘイダール要塞までは、ほんの一瞬である。
下を見ると、まるでスクリーンがあるようにヘイダール要塞のアリュセア・ジーンのいる場所が映っていた。そして、その映像の上に人間の姿があった。
それは、映像の中にいる人間ではなく、映像を見ている人間の霊なのだった。
ライアガルプスはひと声鳴いて、その邪魔な人間の霊をはじき出そうとしたが、よく見ると彼が誰であるか思い出した。その男の名は、ロルフ・ジーンだった。アリュセアの夫である。従って、ライアガルプスと縁のある人間霊なのだ。
ロルフ・ジーンはイライラしていた。
グーザ帝国艦隊がいる間は、このレギオンの城でアリュセアと子供たちといつでも話が出来たのだ。それなのに、
グーザ帝国艦隊が去って以来、ロルフはアリュセアと話ができなくなった。一体何が起きているのかと危ぶんでいると、彼はダルフレイド・ブグマンの姿を要塞で見かけた。それも、彼の妻、アリュセアと一緒にいる姿を見たのだ。
ダルフレイド・ブグマンはロルフにとって、憎んでも憎みきれないほどの男だった。彼の死に至る原因を作った者だ。まだその恐怖と憎しみが無くなってはいない。そのにっくきダルフレイド・ブグマンを見かけたのだ。それもアリュセアと一緒の姿を。ロルフにとっては、とんでもない災厄が起きたのと同じことだった。
ダルフレイド・ブグマンはどんな企みを持ってやってきたのか?ロルフは彼に執拗にまとわりついて、その理由を突き止めた。アリュセアとその子供たちを騙して、タレス連邦に連れ戻そうとしているのだ。
タレス連邦はほとんどの特殊能力者が逃げ出して、困っているのだった。政府の工作員としての手駒になる者たちが、いなくなったからである。それで今度は、少しでも本国に連れ戻そうと躍起になっているのだ。その中心にダルフレイド・ブグマンがいた。
要塞にこれまで潜入していたタレス連邦の手先にはイオ・アクナスがいたが、タレス連邦の亡命者を乗せた宇宙船が来るたびに増え、今ではダルフレイド・ブグマンを含めて三人となっていた。その中で、ブグマンの能力が一番強く、そのため彼が中心になっていた。
「あら、ダルフレイド、来ていたの?」
と、アリュセア・ジーンは言った。
「この間の返事を聞きたいと思って来たんだ。早かったかな?」
と、ダルフレイド・ブグマンは言った。
「そうね。まだ結論は出ていないわ」
と、素っ気なくアリュセアは言った。
「あまり長くかかると、私もできることが限られてくる」
ダルフレイド・ブグマンは、亡くなったロルフ・ジーンの幼馴染だった。彼は、亡くなったロルフの仕事をよく知っていて、ロルフの高額の研究費用の借金について、何とかしようとアリュセアに言ってくれたのだ。彼は、政府筋に知り合いがいるという触れ込みだった。
これまで気が付かなかったが、ダルフレイド・ブグマンは自ら告白した。彼は特殊能力者なのだということを。それも強力なTPだ。だから、これまで政府筋の連中に知られることはなかったのだ。今回タレス連邦からの亡命船に乗って来たのは、友人で会ったロルフの死を知って、彼の頼みでアリュセアと子供たちを助けるために、やって来たのだと言う。
「それはわかっているわ。でもね、これからのことをよく考えなければならないと思っているから……」
と、アリュセアは言った。本当は、ロルフとこのことについて話をしたいと思っているのだが、なぜかロルフの姿が見えない。
「それは、タレスに戻ってもできるだろう?」
と、急にイライラしてダルフレイド・ブグマンは言った。
「そうかしら。あなたは信じているけれど、他のことはちょっとね。子供たちのこともあるし、……。そう簡単に決めることはできないの」
「わかった。それなら、もう少し待とう」
「ありがとう」
と、アリュセアは言った。
ダルフレイド・ブグマンが帰ると、アリュセアはどうも嫌な気分になった。
ダルフレイド・ブグマンによると、ロルフにはある政府系の会社から高額の研究費用の借金があるのは確かだという。これは、ロルフ自身も話していたことなので、嘘ではない。ただタレス連邦に戻るとすると、それを何とかしなければならない。だが、それも彼の政府筋の知り合いに頼めば、何とか帳消しにしてもらえるというのだ。
これはあまりにも、都合よくないだろうか?
アリュセアは自分では気が付かなかったが、いつのまにかダルフレイド・ブグマンの術中に陥っていた。グーザ帝国艦隊の襲来が終わった頃、彼は彼女に接近して来たのである。
悪いことに、ここのところヘイダール要塞では、新世紀共和国の議員たちの来訪や惑星連盟の艦隊の襲来があったため、ガンダルフの魔法使いたちもアリュセアから目を放していたのだ。
タレス連邦から亡命してきて、これまでアリュセアは戻るつもりは毛頭なかったのだ。だが、今はタレス連邦に帰った方が、子供たちのために成ると思い込んでいた。それがダルフレイド・ブグマンの強力なTPの作用によるものであることに、アリュセア自身気が付いていなかった。
アリュセアがダルフレイド・ブグマンの強力なTPの影響下にあると、自身の能力が低下して、これまで見えていたロルフのことが見えなくなってしまったのだ。そのため、ロルフが何度もダルフレイド・ブグマンの彼への裏切りによって死に至ったことをアリュセアに話そうとしても、話せなくなっていた。
ライアガルプスはゆっくりと音を立てないように、ロルフの傍らに降りた。
「ロルフ・ジーン、少し落ち着くがよい」
と、厳かにライアガルプスは話しかけた。
だが、ロルフはぎょっとして、ライアガルプスを見上げた。
「り、竜……」
「私は、ライアガルプス、つまりアリュセアだ」
「し、しかし、アリュセアは人間です」
「そうだ。だが、かつてはダルシア人だった。忘れてしまったようだが、お前もかつてはダルシア人だったのだぞ」
「私が、ですか?」
「そうだ」
「お前は、かなり前から人間として生まれ変わっていた。ガンダルフにいたこともある。その時にアリュセア、その時代はサンシゼラと言っていたかな?その時に、お前は実に忠実な家来であった。その縁で、今回は夫婦になったのである」
と、ライアガルプスは説明した。
「私が?アリュセアの家来だった?」
と、驚いてロルフは言った。
「当時はガンダルフの小国の女王だったのだ。その国の家来だったということだ」
「そうですか」
「お前は、それからも何度も人間として生まれて来た。かなり人間としての経験を積んでいるのだ。だから、本来のダルシア人の能力は隠れてしまい、ほとんど出ないようになった。だが、アリュセアは人間として生まれるのは、これで二度目なのだ。だから彼女は人間としての経験が少ないし、その力も隠れてはいない。元々ダルシア人としてもかなり強力な力を持っているのだ。ダルシアの指導者だったのだから」
「特殊能力のことですか?」
「そうだ。ダルシア人としては当たり前の力だ。だから、タレス人の能力者の誰よりも能力は大きく強いのだ。ただ、今はその力が完全に目覚めていないだけだ」
「しかし、……」
「お前は、あのタレス人の男のことを心配しているのだろう?」
「そうです。あの男はダルフレイド・ブグマンという、私の幼馴染でした。ですが、彼は私を裏切ったのです。そのために私は死んだのです。それが、今度はアリュセアや子供たちまで騙そうとしている」
「なるほど、危険な男らしいな」
と、ライアガルプスも認めた。
「私は娘たちのことも心配なのです」
と、ロルフは訴えた。
「なるほど、その心配はもっともと言いたいところだが、もう少し待つがよい。お前の娘たちは、やはり元ダルシア人なのだ。それも今回初めて人間として生まれてきている。その力が近々目覚めるであろう。その時に、あのような者など何もできはしないのだ」
「ですが、あのような強力なTPを持っているとしたら、ブグマンはもしかして元ダルシア人だったのでは?」
と、ロルフは気が付いて言った。
「そうだ。ただ、あの男は、ダルシア人としてもよくない傾向のある者だった。お前たちの社会で言えば、犯罪者だったのだ」
と、ライアガルプスは言った。
「では、それを何とかアリュセアに伝えなければ……」
「まあ、そのように急くなと言っているであろう。本当は、お前の娘たちはダルシア人の能力を目覚めさせるのは計画にないのだが、こうなってはそうも言ってはおられまい」
と言うと、ライアガルプスはひょいとロルフを指でつまみあげ、背中の翼を広げ、その場を飛び立って行った。




